Interbrand 30th year initiative 09

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09 NOV.2014

「日本ブランド」のリーダーシップは誰が担うか?

CBO - Chief Brand Officer の必然性



BRANDS HAVE THE POWER TO CHANGE JAPAN これからの日本ブランドの 30 年に向けて

09 「日本ブランド」のリーダーシップは誰が担うか?

CBO - Chief Brand Officer の必然性

NOV. 2014


持てる実力をブランド価値へと転換できない 「日本ブランド」のジレンマ 2014 年 10 月、インターブランドは「ブランド価値」によるグローバル・ブランドランキン グ Best Global Brands2014 を発表した。 昨年に引き続き Apple と Google がそれぞれ第1位と第 2 位を堅守し、両社ともに

1,000 億ドルを 超えるブランド価値を記録したことに加え、Huawei が中国ブランドとし て初めてランキングに顔を出し、ベストグローバルブランドの歴史を作ったことを報道等 で目にされた方も多いだろう。

Best Global Brands 2014 - LINK>> http://www.bestglobalbrands.com/ 翻って日本ブランドを俯瞰すると、Toyota 、

上比率が 30 %未満の日本企業を対象)とい

Honda 、Nissan ら自動車勢を中心にブラ

う 2 種類のランキングも発表している。この

ンド価値を着実に伸ばした企業は存在する

ランキングによると、Best Global Brands

ものの、未だ、日本ブランド全体での存在感

全体のブランド価値成長率(過去 2 年間の

は大きいとは言い難い。

平均)が 8.4 %であるのに対し、Japan ’ s

s Best Best Global Brands 及び Japan ’

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インターブランドは Best Global Brands

Domestic Brands を合わせた日本企業全

と併せ、日本企業のブランド価値を図る

体のブランド価値成長率は 2.7 %に過ぎない。

( 海外 Japan ’ s Best Global Brands 」

言い換えれば、グローバルのトップブランド

売上比率が 30 %以上の日本企業を対象)、

は、日本ブランドの 3 年分のブランド価値成

Japan ’ s Best Domestic Brands( 海外売

長を、僅か 1 年未満で達成してしまう。

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私たちインターブランドジャパンは、日本ブランドの新たな飛躍を願い、これまでの 8 回 の本連載を通じて、年々高度化するブランディング技術を概観し、それらを活用すること で企業価値を向上させる戦略について提言してきた。その根底にあるのは、最新のブラン ディング技術を生かすことが至極当たり前な経営活動となっているグローバルブランド に対して、日本ブランドの多くは、未だにその意識が希薄なケースが多いという 認識である。 強力に成長するグローバルブランドと日本ブランドを比較すると、従来のあらゆる枠組 みを超えた発想から、自らの事業コンセプトや事業目的をシンプルに再定義し、組織の 自律的イノベーションや継続的変革をもたらす力、顧客体験や提供価値を客観的な視 点から修正し続ける力は、見劣りすることがある。その差は、 「 ブランドを中心に した経営」を実行できているか否か、から生まれるケースが多いというのが、 我々の分析である。

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変化速度が高まり続ける現代、経営のアンカーは「戦略」から 「ブランドビジョン」へ グローバルブランド、日本ブランドを問わず、これまでのマネジメントの「王道」は、一連の 施策の集合体である「戦略」を策定・決定し、それを単年度および中期計画に落とし込んでいく ことにあった。アルフレッド・チャンドラーが、名著「組織は戦略に従う」を上梓した時期が、 その戦略計画優先時代の始まりと合致しているのではないであろうか。 しかしながら、特にこの 10 年、企業を取り巻く環境変動要因や競争関係の変化があまりにも 激しく、戦略の前提がすぐに崩れてしまうことが継続的に発生している。これまでも、その環 境変化に対応するための戦略立案の枠組みやプランニング手法が開発されてきたが、抜本的な 経営の枠組みの変更ではないことが多い。 従って、最近では、リタ・マグレイスが「競争優位の終焉」で看破したとおり、 「 一時的競争優位 の獲得」の積み重ねが、強い企業を作っている。そして、そのような経営に移行する際に、 「戦 略」に代わって経営のアンカーになっているのは、いかなる領域でどのような価値を提供して いく企業なのかを明確にする、 「 ブランドビジョン」となっている。

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本連載でも繰り返し述べてきたとおり、ブランディ ングとは、いわゆる CI やタグラインのメッセージ ングを中心としたマーケティングや広告、デジタル マーケティング、販促のことではない。ブランディ ングとは、戦略と対をなす経営の軸であり、強力な グローバルブランドは、ブランドビジョン中心の経 営に移行している。そして、 「 ブランドビジョン」を 企業活動の隅々まで落とし込んだ上で、着実に、 かつ高速に事業の方向性とトータルオペレーショ ンの変化を推進することで、ブランド価値を向上さ せ、結果として将来に渡る高収益と、企業価値の向 上に直結させているのだ。

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長年にわたってブランドビジョンを主軸にした経営で高ブランド価値を実現し、 高収益を達成してきた代表的な企業のひとつが、BMW だ。 「 駆け抜ける歓び」というブランドビジョンのもと、R&D 、新モデル開発、ディー BMW では、 ラーシップ・デザイン、顧客対応、広告・宣伝、デジタルマーケティング、リクルーティング、 購買活動におよぶ全ての企業活動が整合を取って運営されている。ブランドビジョンがはっ きりしているからこそ、イノベーションや企業変革がぶれることなく、成果を出すのである。 ブランドビジョン主軸経営への移行に伴い日本ブランドが直面する課題と阻害要因は何か。 それは、ブランディング技術の壁であるはずが無く、結局は、経営者のマインドセットと、 それを反映したインターナルなガバナンスの考え方である。 日本ブランドの多くは、ボトムアップの合議制でブランディング活動を実施しているが、 ブランディングの肝は、投下資本効率や費用対効果を最大化させるための、選択と集中にある。 コンセンサス重視で、最大公約数的な施策策定プロセスを重視する日本企業型ボト ムアップアプローチと、選択と集中を要するブランディング活動を、 いかに整合させていくか。

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その課題解決を担うのが、ブランドに関連する意思決定の統括・管掌する「 Chief Brand

Officer( 以下 CBO )」という存在だ。一般的な CMO( Chief Marketing Officer )としなかった のは、ブランディングを活用しながら組織とオペレーションの変化を推進する、 「 戦略とは 異なる視点を持つべき、ブランディングの最高責任者」という意味を明確に読み取っていただ きたいからである。 日本ブランドでも、CBO が CEO(最高経営責任者)や CSO(最高戦略責任者)と協働しながら、 ブランディングにおける選択と集中に関わる意思決定を、従来のボトムアップ アプローチと整合させながら行っていけば、ブランド価値は 成長していくに違いない。

ブランド経営に息を吹き込む CBO の役割 ブランディングの「選択と集中」を実現するために CBO が担う役割をご紹介したい。 単純なボトムアップ

CBO が担うべき役割

アプローチのみによる弊害 総花的なブランドビジョンを 作成しがち

純血主義でチームを作る

顧客体験やブランド力を測定する 指標を持たず、成果を曖昧にしている

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研ぎ澄まされ、ストーリー化された ブランドビジョンを策定する 考え得るベストを目指して ドリームチームを組成する 顧客ブランド体験の改善度やブランド価値増大を、 経営全体の最重要 KPI の一つとする

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CBO が担うべき役割

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研ぎ澄まされ、ストーリー化されたブランドビジョンを策定する 「 いかに正しいブランドビジョンを持つか」、が起点で CBO の役割が有効に機能するためには、 ある。CBO が果たすべき役割の第一歩は、 「 自分たちがどこに行きたいのか、どんなブランド になりたいのか」を、総花的リストアップにせず、絞り込み、研ぎ澄ませながら、具体的に示し、 「どのような顧客」に対して「どのような価値、喜び」を提供していくかというブランドビジョ ンを、一つのストーリー的に策定することである。自分たちの持っているリソースを多面的に 捉え、社会の課題を踏まえ、変化に対する感度を高く持つためにボトムアップアプローチの良 さを活かしながら、大きな方向性を示すことで、ブランドビジョンがリアリティを増していく。

P&G のブランディングに、新しいブランド体験を創造した好例を見ることができる。 過去、P&G は各商品ブランドを中心にした

展開された。誰もが P&G が提示した「母親の

プロダクトマーケティングを展開してきた

役割と重要性」を理解し、P&G ブランドに

が、その手法では P&G と顧客の絆が深めら

共感できる仕組みとなっている。そこには、

れないという課題に直面していた。

短期的な売上拡大の意図は一切存在しな

そこで、P&G はロンドンオリンピックを契

い。ひたすら母親の重要性と、そこに対して

機に『 Thank you, Mom 』グローバルキャ

P&G が応援していく姿勢を伝えるのみで

ンペーンを導入した。キャンペーンの趣旨

ある。

は「母親の役割と重要性」を世の中に広め、

このキャンペーンで注目すべきなのは、

「 母親を応援 P&G は主要ブランドを通じて、

アリエール、ボールド、レノア、パンパース、

している」企業であることを理解してもらう

パンテーン、ジレット、ファブリーズなど、

ことにあり、P&G の 174 年の歴史(当時)の

P&G が保有する主要ブランドを串刺しにし

中で最も大規模なキャンペーンとなった。

た展開であり、社員、メディア、小売業と連携

その内容は、オリンピック代表に選ばれた

した一体型のプログラムとなっている点だ。

選手は、必ず誰かの子供であり、その母親た

さらに、この活動は、2014 年 2 月のソチ冬季

ちがどのように自分の子の成長を支えてい

オリンピックでも継続展開され、世界中の

るかを、感動的なショートムービーに描いた

200 万店舗の小売業も参画し、世界的な

ものだ。 「 Thank You Mom アプリケーショ

インパクトのあるキャンペーンとなった。

ン」も立ち上げ、自分の母親へ「ありがとう メッセージ」を送る消費者キャンペーンも

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P&G Thank You, Mom - VIDEO>>


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CBO が担うべき役割

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考え得るベストを目指してドリームチームを組成する

CBO はブランディングのいわば総監督の役割を担うが、戦略を具現化していくため には専門性の高いチームの存在が不可欠となる。 プロスポーツの世界、例えばサッカーの世界最高峰、UEFA チャンピオンズ リーグで活躍するプレイヤーは国籍も人種も多様である。誰もがそれを 不思議とも考えないだろうし、そこに「純血主義」のような甘えが 入り込む余地はない。

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ブランディングも同じである。世界選りすぐ

さらには、外部パートナー(アドバイザー、

りのオールスターチームで、ずば抜けた顧客

広告代理店、PR 会社、コンサルタント等)と

体験を次々と繰り出す米国や欧州ブランド

より緊密な関係を築き上げることも CBO の

に対して、純血主義に拘り、素人集団で立ち

課題である。例えば、日産自動車はオムニコ

向かっても勝負になるはずがない。日本ブラ

ムグループと共同して「 Nissan United 」と

ンドも、外部人材の登用や、他企業とのアラ

いう組織を構築し、日産のブランディング活

イアンスは避けて通れない。

動をフルサポートする体制を築いた。オムニ

社内でブランディングに対する専門性を蓄

コムグループからは、インターブランド(ブ

積し、その領域で最先端の知識や経験を持つ

ランディングアドバイザー)、TBWA(広告代

スタッフを育成することは不可能とは言え

理店)、OMD(メディア)、クリティカルマス

ない。だが、革新的な意識を持ったブランド

(デジタル)等の専門スタッフが、同社への派

担当者を一定の数揃えるためには、膨大な

遣も含めて支援・参画し、あらゆるメディア

コストと時間がかかる。CBO が自らの配下

を横断するサポート体制を築き上げている。

にベストチームを組成しようとした場合、 ブランディング専門家を外部から招いて、

Nissan United VIDEO>>

チームのコアに据えることは理にかなう。

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CBO が担うべき役割

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顧客ブランド体験の改善度やブランド価値増大を、経営全体の最重要 KPI の一つとする ブランディングの方向性が定まっても、目指す場所に向かっているのか、目標が達成できてい るのかは、なかなか見えてこない。そのために、ブランディング活動を始めたものの、中途半端 に放りだしてしまう企業も少なくない。それは、なぜか。多くの日本ブランドにおいては、ブラ ンドが測定できないものとされており、成果の把握がされていないケースが多い。せいぜいが、 ブランド認知度やイメージを図る程度である。このような状況に対し、顧客のブランド体験改 善度やブランド価値、ブランド力を経営全体の KPI として組み入れ、ブランディングの成果を 定量的に計測し、ドライビングフォースとすることは、CBO が果たすべき重要な役割である。 インターブランドは、ブランドを「常に

1998 年に主要事業別のブランド価値評価を

変化する事業資産」として捉え、財務的な観

実施して以降、現在まで毎年、ブランド価値

点からブランド価値の算出するための指標

評価を実施し、その結果を事業戦略全体に

Brand Strength Scores (BSS) 定めてい

反映させている。現在も VISION 2020 と

る。ブランド力を 10 指標に分解し、その変化

いう長期戦略のゴールとして、ブラン

を定量的に測っていくフレームワークで

ド価値で世界トップ 5 に入ること

ある。

を宣言し、その実現のために

ブランド力が 10 指標に分解されるとなにが

あらゆる事業活動の強化

起こるか。多様な課題に対して、どのような

が進められている。

手を打てばよいのかという解決策の方向性

SAMSUNG LINK>>

が明らかになる。結果的に、ブランドビジョ ンが R&D 、生産、物流、マーケティング、 営業・販売、顧客対応などの各オペレーショ ン別の具体的活動項目に落ちていくので、 確実に組織の変化が実現していく。

Samsung が、グローバルブランドとして の頭角を現すようになったきっかけは、

1997 年に韓国を襲ったアジア金融 危機だった。この大混乱の中、当 時の CEO であるユン・ジョン ヨン氏は、ブランド価値 の拡大を経営の最重 要 KPI に位置づけ、

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CBO を最大限に活かすことが、 グローバルブランドへの成長の鍵となる 「 そんな人材は、うちの会社にはいない」と CBO の重要性について解説してきたが、 お考えになる方もいるかもしれない。 これまでの私たちの経験からは、多くの日本ブランドの組織でも、CBO になりえる人材は 存在する。ゼネラリストとして幅広い部門を経験してきた結果、その企業、ブランドが生まれ、 歩んできた歴史のエッセンスを理解している人材の中で、海外での勤務経験や留学経験など、 グローバルな環境に身を置いたことがある人たちは、数は多くないが、多くの日本企業に存在 している。いわゆる、海外畑のエリート人材であり、日本ブランドがこれまで辛抱強く実施し てきた人材育成の思想の器の大きさは、今こそ花開く、と言えよう。 日本型ボトムアップアプローチの良さと堅牢性と、経営効率を最大化させるためのブラン ディング活動の選択・集中を整合させる戦略策定・組織変革アプローチを、我々は Kaizen

Branding(カイゼンブランディング)という方法論として統合し、手法・プロセス・ツール を開発している。その有効性は、多くの日本ブランドで実証されてきた。日本ブランド は、ブランディングを軸とした経営に移行できるポテンシャルに、もっと自信を 持つべきだ。 インターブランドは、これから多くの日本ブランドがグローバルに 羽ばたけるよう、CBO の輩出に最大限の支援をしていきたい。CBO というポジションが、日本ブランドを飛躍させる大きな鍵にな る。一つでも多くの日本ブランドに、グローバルブランドへ の道を追求する決意を新たにしていただきたい。

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インターブランドジャパン 和田千弘

Chief Executive Officer, Japan

古谷公

Executive Director - Head of Strategy

畠山寛光

Strategy Director

田中 功

Senior Consultant - Strategy

藤村紘一

Senior Designer, Photographer

インターブランドについて インターブランドは、1974 年、ロンドンで設立された世 界最大のブランドコンサルティング会社である。世界 27 カ国、約 40 のオフィスを拠点に、グローバルでブランド の価値を創り、高め続ける支援を行う。インターブラン ドの「ブランド価値評価」は、ISO により世界で最初に ブランドの金銭的価値測定における世界標準として認 められ、グローバルのブランドランキングである“Best

Global Brands”などのレポートを広く公表している。 インターブランドジャパンは、ロンドン、ニューヨーク に次ぐ、インターブランド第 3 の拠点として、 1983 年、 東京に設立された。ブランド戦略構築をリードするコン サルタント、ブランドのネーミング、スローガン、メッセー ジング、ロゴ・パッケージ・空間・デジタルのデザイン を開発するクリエイターが在籍し、さまざまな企業・団 体に対して、トータルにブランディングサービスを提供し ている。著書「ブランディング7つの原則」(日本経済新 聞出版社刊) http://interbrand.com/ja/


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