馬の感染症【第4版】

7 鼻 疽 はじめに

１）病原体

鼻疽は、馬科の動物に固有に発生する細菌性伝染病

鼻疽の原因菌である鼻疽菌は、グラム陰性の好気性

で、その存在は古くから知られていました。鼻疽菌

桿菌で、酸素のないところでは発育できません。また、

（Burkholderia mallei）は、馬から馬へと伝染する力が

主に動物の体内に生息する細胞内寄生菌で、馬から離

強く、また人にも感染することから、十分な警戒が必

れた環境中では長く生存できません。

要です。鼻疽に感染した馬は、発熱、膿様鼻汁、鼻

２）感染様式

腔粘膜の結節・潰瘍、肺炎、皮下リンパ管の念珠状結 節・膿瘍・潰瘍などがみられます。一方、感染しても このような典型的な症状を認めず、微熱を繰り返して

感染は、主に馬どうしが接触することによって起こ

徐々に痩削する慢性型の臨床例もあり、診断に際して

ります。鼻汁や膿汁の中に含まれる菌が、接触した馬

は注意が必要です。本症はわが国での発生報告はあり

の鼻や口あるいは傷口から体内へと侵入します。また、

ません。

鼻汁や膿汁が付着した餌や水あるいは環境中の様々な 物を介しての間接的な感染も起ります。鼻疽菌は馬科 の動物に強い感染力を示しますが、感染した馬の肉を 食べた肉食動物や、感染馬や培養菌を扱った人の感染 例も報告されています。

３）疫 学 東ヨーロッパ、中東、アジア、アフリカ、および南 米の国に今なお存在すると考えられます。日本では、 戦前に中国などから持ち帰った馬での発生が記録され ていますが、近年は全くありません。

図１. 罹患馬の臨床症状：膿様鼻汁の排出 （国際獣疫事務局 小澤義博氏提供）

図２. 罹患馬の臨床症状：皮下リンパ管の念珠状結節（国際獣疫事務局 小澤義博氏提供）

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