日本大学理工学部建築学科学内誌「駿建」2016年10月号

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Special Feature

熊本地震活動報告 2016

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はじめに 熊本地震の概要

が、損傷した建物が再度、大規模な地震被害を受けることま では想定されていません。このため、今回の熊本の地震では、 最 初(4 月 14 日)の 震 度 7 の 地 震 で 倒 壊 を 免 れ た 建 物 が、 そ の 後 の 本 震(4 月 16 日)や 余 震 で 倒 壊 し た と い う 報 告 も

text= 秦一平 准教授、廣石秀造 短大助教

あります。今後、他の地域でも同様に大規模な地震が連続し て起こることも想定され、一度損傷した建物がどれほどの耐

2016 年4月 14 日に、熊本県熊本地方を震源とするマグニ

震性能を有しているのか、どのように耐震性を確保すべきか

チュード(M)7以上の地震が発生しました。みなさんもテ

など、建物の耐震性に関する多くの課題が浮き彫りになりま

レビや新聞などを通じて、被害の状況を目にしたことと思い

した。

ます。今回の地震の大きな特徴として、震度7の地震が4月

建 物 の 耐 震 性 能 に 関 す る 規 定(例 え ば、建 築 基 準 法)は、

14 日 21 時 26 分 と 4 月 16 日 1 時 25 分 の 2 回 発 生 し た こ と、

地震が起きるたびに、その被害を鑑みて改正されてきました。

また、余震活動も活発で震度5弱以上の地震が 20 回以上発生

例えば、1978 年の宮城県沖地震の被害を踏まえ、1981 年に

していることが挙げられます。一連の地震活動において震度

新耐震設計法(建築基準法施行令の大改正)が定められまし

7が2回観測されたのは、今回の熊本地震がはじめてのこと

た。既に 30 年以上が経過していますが、この年以降に設計・

です。

建設された建物を「新耐震基準」による建物と呼んでいます。

既に授業で学んだ人もいると思いますが、現在の建築物の

1995 年 の 兵 庫 県 南 部 地 震(阪 神 淡 路 大 震 災)で は、新 耐 震

耐震設計は、数十年に一度発生すると考えられる大規模な地

基準以前の建物の被害が大きかったことから「耐震改修に関

震に対して、建物の損傷を許容し、人々が避難する時間を確

す る 法 律」が 整 備 さ れ ま し た。ま た、2011 年 の 東 北 地 方 太

保すること、という考え方のもとに定められています。つま

平洋沖地震(東日本大震災)を受けて、「天井材の落下防止

り、M7程度の大きな地震が発生した際は、建物にひび割れ

に関する規準」や「津波等衝撃荷重に対する評価」などが定

などを生じても倒壊しないことが設計の条件となっています

められています。このように、地震による同様の被害を繰り

SHUNKEN 2016 Oct. vol.44 no.3 熊本県から大分県にかけて発生した地震の活動状況(気象庁の資料を基に作成)

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