日本大学理工学部建築学科学内誌「駿建」2016年10月号

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Special Feature

熊本地震活動報告 2016

災害救助 災害派遣のための訓練施設 t e x t = 宮里直也 准 教 授

地震や土砂崩れなどの災害時には、古い建物が倒壊して内 部に閉じ込められてしまったり、土砂に埋もれてしまったり と、第三者による救助や捜索を必要とする人が出ます。それ ことが原因となり、建物が倒壊するリスクも考えられます。

助技術に関する訓練を受けたスペシャリストが必要な場合、

このため、レスキュアーは救助技術のみならず、建物の構造

さらにマンパワーではどうにもならず、重機が必要な場合な

や材料、力学についてもある程度の知識が必要となります。

ど、個々の状況により異なります。スペシャリスト(レスキ

加えて、要救助者の怪我の具合を適切に判断するための医療

ュアー)としては、警察・消防・自衛隊、さらに彼らを医療

的な知識も必要となるなど、非常に高度な知識と技能、身体

的 な 側 面 か ら サ ポ ー ト す る 災 害 時 派 遣 医 療 チ ー ム(DMAT)

能力が求められます。

などがいます。さらに、倒壊した建物や土砂崩れが発生した

大災害時に派遣される警察の部隊に「広域緊急援助隊」があ

斜面などが、余震などに伴う2次災害を発生させる危険性が

ります。彼らは、通常は交番などで勤務している警察官ですが、

あるかどうかを判断するエンジニアも必要となります。また、

災害発生時には招集され、災害現場へ派遣されます。このため、

救助や捜索の世界では、発生から 72 時間を境に生存率が急激

彼らは通常業務を行いながら、限られた時間の中で災害救助に

に低下することが知られており、初期の活動が非常に重要と

関する訓練を行っています。左下の写真は、数年がかりで構想

なってきます。熊本地震でも、本震直後に木造の倒壊家屋の

から設計・工事監修まで筆者が携わった、近畿管区警察局に

内部に取り残された要救助者や、大規模な土砂災害に伴う行

2016 年1月にオープンした、日本初の災害訓練のための専門

方不明者の捜索のために、前述の関係機関の多くの隊員が活

施設です。施設の詳細については省略しますが、日本型の災害

動を行いました。

を分析し、さまざまな災害現場を想定した訓練が、効率的に、

ここで倒壊した建物について改めて考えてみてください。

かつ安全に実施できる施設となっています。

倒壊した建物は、当然ですが非常に危険な状況にあり、救助

災害救助の現場と、それに備えて日々訓練を行っているス

活動中に余震などがあればさらに倒壊が進む可能性もありま

ペシャリストがいること、さらに建築学科でみなさんが学ぶ

す。また、レスキュアーが救助活動中に障害となるものを、

知識が、発災後の災害現場でも必要とされることも、是非こ

強制的に移動させたり、工具などで切断して排除したりする

の機会に覚えておいてください。

関文夫土木工学科教授らとともに筆者が設計監

SHUNKEN 2016

らの救助は、家族や近隣の方々で解決する場合もあれば、救

修した「日本初の災害訓練施設」 (大阪府堺市: 近畿管区警察局)。上の写真は、同計画の模型。

Oct. vol.44 no.3 011


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