空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究 はじめに 1 序論 2 基礎調査 3 歩行速度による行動目的の推定 4 歩行動作による心理状態の推定 5 歩行動作による空間の印象評価の推定 6 総括
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
はじめに 歩行は人が日常的に行う動作の中でも最も基本的な動作である。 人間の歩行の動作には、身体的あるいは心理的な要因が多く現われ るといわれている。特に歩行動作には無意識的に心身状態の変化が 現われるという特徴があるため、歩いている動作から人の状態を推 定できる可能性があると考えられる。このような、人の状態をリア ルタイムで把握することができたとしたら、新たな空間計画の可能 性を示せるのではないかと思い、研究を始めた。
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第1章
第 1 章 序論
序論 1 背景 1-1 アンビエント情報化社会の到来 1-2 アンビエント・ヒューマン・インターフェース 1-3 建築空間の情報化 1-4 情報化する都市空間 1-5 「個」に近づく需要 2 研究目的 3 研究の流れ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論 1. 研究背景
1-1 研究背景 1-1-1 アンビエント情報化社会の到来 「アンビエント」とは「周辺の、取り巻く」という、環境を意識 した言葉であるが、ユビキタス社会の次の段階に位置する情報社会 を表す言葉として注目されている。ユビキタス社会では、 「いつでも、 だれでも、どこでも」情報にアクセスできることが目標とされてき たが、一方でそれは、人間の側から能動的に情報を取りにいくこと が必要とされる世界でもあった。これに対して、アンビエント社会 とは、人々を「取り巻く(= ambient)」情報環境が見えないかた ちで溶け込まれ、人間の状況を賢くセンシングし、環境の側から必 要な情報を必要な時に提供したり、快適な環境、安全安心な環境を 保持したりするという世界である。 アンビエントとユビキタスは,さまざまな場面で情報が得られる 点では同じである。違いは,情報の出力方法である。アンビエント は利用者が探さなくても必要な情報を見つけ,直感的に理解できる 情報表示を目指す。このような環境が構築された社会では、人間の 状態を把握することの必要性が高まると考えられる。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
早稲田大学グローバル COE プログラム アンビ エント SoC 教育・研究の 国際拠点 http://www.cs.waseda.ac .jp/gcoe/
5
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
AmbientDevices 社
プロダクトデザインの世界ではすでに様々なタイプのアンビエン
ces.com/cat/products.ht
トな情報機器が開発され、市販されている。 例えば、web に接続されていて、様々な情報を取り出す機能があ る冷蔵庫(図 1-1-1)や天気の動向を察知し、雨が降りそうな場合 に光ってユーザーに知らせる傘(図 1-1-2)などがある。あるいは、 株価指数の状況やゴルフ場の天気、ひいきの野球チームの試合状況 など利用者が指定した情報の変化に連動して、内蔵した LED ラン プの色が変わる情報機器(図 1-1-3)などもある。ユーザーは株価 指数を示すチャートや数字を注視しなくても、知りたい情報の動き は直感的に把握できる。
図 1-1-2.Ambient Umbrella
図 1-1-1.Weather & Information Center Refrigerator
図 1-1-3.Ambient Weather Beacon
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
http://www.ambientdevi ml
1. 研究背景
1-1-2 アンビエントなヒューマンインターフェースの事例
6
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
IT技術が進化する今日、無線LANや高速ネットワーク、実空 間インターフェースなど、私たちの生活空間にユビキタスをはじめ とする情報環境が確実に埋め込まれてきている。 1990 年 代 後 半 か ら 情 報 化 が 一 番 早 く に 進 ん だ の は、 オ フ ィ スや大学などの学習環境であった。とりわけ学校施設の場合は、 e-Japan 構想の後押しなどもあり、情報インフラが整備された学習 環境の構築に向けた助成が早期に多く出された。こうした国家レ ベルのサポート体制が後押しし、比較的早い段階に情報化が進めら れた。その結果、遠隔講義や会議、インタラクティブなコンファレ ンスなどが行えるこれまでにないハイスペックの学習・研究施設が 次々に登場した。以下に建築空間の情報化の事例を示す。
・慶應義塾大学 G-SEC Lab G-SEC Lab は、一度に 50 人もの人がパソコンを持って入っても 双方向にそれぞれのコンテンツを見せ合って、インタラクティブに 情報を共有したり、交信したりすることができる設備を持つ研究施 設である。この施設を利用して、実際に離れた国内外のキャンパス と遠隔でつないで、授業を行っている。パーソナルなITメディア を持った個が集まる仕事場、体験性を膨らます場、人間の行動に合 わせて環境がセットされる、皮膚感覚のような生活・仕事空間とし て実現されている次世代的研究環境である。
図 1-1-4. G-SEC Lab
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文)橋本秀紀+渡邊朗子 『空間知能化のデザイン∼ 建 築・ ロ ボ テ ィ ク ス・ I T の 融 合 』 N T T 出 版、 2004
1. 研究背景
1-1-3 建築空間の情報化
7
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
Ubila と Platea は ラ テ ン 語 で「 雲 」 と「 広 場 」 を 意 味 す る。 Ubila プロジェクトは、コンピュータがまるで雲のように私達の世 界に自然と存在し、我々の社会生活をサーポートしてくれるユビキ タスネットワーク社会の実現をめざしている。u-Platea では、アク セスオープンプラットフォームが様々な生活シーンにおいて利用者 の動作を支援する。例えば、ミーティングスペースでは参加者の議 論に対応して動的に情報の検索や提示を行うなど議事の進行を支援 するサービスなどを提供する。また、リビングスペースでは、利用 者の日常生活の記憶を補助するサービスや様々な情報機器を連携さ せるサービスなどを提供する。
・三鷹ネットワーク大学「学習する会議室」 このプロジェクトは会議室が、会議の内容を自動的に記録してく れたり、会議環境を学習してくれたり、沈滞化した会議をチアアッ プしてくれたらどうであろう?という問題意識から実現した。実際 にその会議室でおこった事象を音声・映像によりすべて記録できる 設備を持っている。また、壁面には LED ライトを取り付け、天井 から床までの一軸を 30 分に設定し、時間の経過を LED ライトの 変化で表現することができるようになっている。これにより、時計 をみなくても空間が時間の流れをゆるやかに教えてくれることにな る。
図 1-1-5 学習する会議室
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
http://www.ht.sfc.keio.a c.jp/uPlatea
1. 研究背景
・uPlatea
8
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
多くのコンピュータが協調し、住まいと人のさまざまな状況を自 動で認識、判断するユビキタスネットワークにより、空調や照明、 エネルギーなど、住ファクターの組み合わせを自動最適制御する。 そのため、人の操作負担はほとんどなく、特別なオーダーがあると きに限り、ユビキタスコミュニケーターを使って各設備を操作する。 ユビキタスネットワークは、目覚めてから眠るまで、家族の時間 感覚を学習する。また、家の中のどこからでも遠隔操作が行えるた め、空間概念もダイナミックなものになる。ユビキタスコミュニケ ーターを用いることで、時間+空間=「時空間」を手のひらの上で 一度に管理できる仕組みとなっている。 例えば、ホームシアターでは人の気配を感じると BGM が流れ、 心地よく主人を迎える。映像が始まると、一番鑑賞しやすい環境に 音響と照明を自動調整してくれる。 テーブルと一体となったキッチンでは、家族が集まり、会話を楽し みながら快適に調理できる。冷蔵庫内にある食材の情報から留守中 の来客情報、収納荷物の情報まで家中の情報がキッチンに集約され、 モニターでチェックすることができる。また、寝室では光・室温・ 湿度・空気の質など、寝室の環境を最適にコントロールする。穏や かな眠りを誘う BGM、寝返りしやすく快適な姿勢で眠れるマット レス、快適な目覚めを促す照明と採光など、就眠時から睡眠、そし て目覚めの時までを心地よく演出し、健康的な生活をサポートする 仕掛けとなっている。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
http://www.toyotahome. co.jp/papi/atr/index.htm l
1. 研究背景
・トヨタホーム PAPI
9
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
時空間ポエマーは,GPS カメラ付きケータイを用いて、位置 報付きの写真を電子的に共有するデータベースを構築していく ことを通じて、人々が時間と空間に潜む価値を発見し表現し共 有する行為を支援し、その可能性を拡張しようというシステム。 「 時 空 間 ポ エ マ ー」 は、 地 域 ご と の ユ ー ザ ー が GPS ケ ー タ イ で 撮 影 し た 位 置 情 報 付 き 画 像 を メ ー ル に 添 付 し て、 そ の 地 域 に 対 応 し た 地 図 デ ー タ に 投 稿 す る イ ベ ン ト。 会 場 で は、 壁 面 や 床 に 六 本 木 地 域 の 地 図 が 10 × 6 に 区 画 さ れ て 投 影 さ れ て お り、 各 区 画 に は 区 画 ご と の 画 像 が 表 示 さ れ て い る。 区 画 ご と に 表 示 さ れ る 画 像 は、 同 イ ベ ン ト に 参 加 す る ユ ー ザ ー が GPS ケ ー タ イ で 撮 影 し、 イ ベ ン ト 用 メ ー ル ア ド レ ス 宛 て に 投 稿 し た も の。 ユ ー ザ ー か ら 新 規 画 像 が 投 稿 さ れ 次 第 更 新 さ れ る。 このように空間の情報化は人と空間をつなぐインターフェースの 働きがある。
図 1-1-6 時空間ポエマ!
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 研究背景
・時空間ポエマー
10
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
空間を情報化する試みは建築空間のみならず、その対象領域を都 市空間にまで拡張してきている。建築分野、情報分野、機械分野等、 その先進的な試みは分野横断的にさまざまな専門家を巻き込んで行 われている。現在、実際の都市空間を利用した実証実験が各地で進 められており、その成果を垣間見ることが出来る。日本においては、 平成14年度の経済産業省による「e! プロジェクト」事業として今 後の都市開発においての多面的な実証実験が繰り広げられている。
・機能都市におけるマルチデバイス・プラットホームの事例 森ビ ル六本木ヒルズ 経済産業省の「多機能都市街区におけるマルチデバイス環境を活 用した、高度な情報提供サービスの基盤構築と事業性に関する調査 研究」では、認証デバイスとしてのICカードや RFID タグ、表示 デバイスとしてのパーソナルコンピューター、飼いたい情報端末、 大型モニター等複合的に活用するプラットホームと、プラットホー ムを活用した多機能都市街区において実施する場合の、市場価値の あるサービス内容や事業性について調査研究が行われた。 たとえば、センサー技術を利用したワイヤレス・タウン情報サー ビスがある。発信機型 RFID タグに反応して、利用者の現在位置、 時間、属性などに基づいて、あらかじめセレクトされたタウン情報 等を提供するサービスがある。RFID タグのセンサーは、無線 LAN に接続可能なスポット、または大型表示モニターの設置場所にあり、 利用者は各自の携帯電話や PDA などの情報端末や、街頭に設置さ れた表示モニターから情報を得を得られるというものである。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 研究背景
1-1-4 情報化される都市空間
11
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
「東京ユビキタス計画」では新宿と銀座を対象とした実験により、 最先端のユビキタス ID 技術を活用して、まちの魅力や活力を高め るとともに、誰でも安心して待ち歩きを楽しむことができる情報提 供サービスを提供している。新宿エリアでは、都庁展望室でのパノ ラマ画像を用いた情報提供、周辺施設の案内、地下鉄丸ノ内線西新 宿駅を経由した銀座までの道案内等を行っている。一方の銀座エリ アでは、店舗・観光情報、銀座の歴史など、アミューズメント性の ある様々な情報を提供している。また、自律移動支援プロジェクト として、全ての人が快適かつ安全に安心して移動することができる 社会の実現をめざし、バリアフリールートの探索・提供なども行っ ている。
図 1-1-7 実証実験用情報端末
図 1-1-8 実証実験システムイメージ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 研究背景
・「東京ユビキタス計画」
12
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
国土交通省近畿地方整備局と神戸市保険福祉局が実施する「神戸 自律移動支援プロジェクト」は、ユニバーサル社会の実現を目指し、 2004 年に発足した。身体的状況、年齢、言語などを問わず、”いつ でも、どこでも、だれでも”移動に関する情報を入手できる環境の 構築を目指し、自律移動支援システムの実証実験などを検討してい る。 このプロジェクトに参加しているナビタイムジャパン、KDDI、 KDDI 研究所の 3 社は「健常者」「車椅子」「ベビーカー」のニーズ にあわせ、段差 / 坂道 / 道幅を考慮したルート検索と GPS 衛星波の 届かない地下や屋内でも利用できる音声ナビゲーションを開発し、 提供している。ルート検索では、実験エリア内に健常者 / 車椅子 / ベビーカー向けの歩行者用ルートネットワークを構築。それぞれ の条件に適したルート検索が可能となる。条件は、健常者は歩行可 能な全てのルート。車椅子は道幅 1.5m 未満・2cm 以上の段差・勾 配を避けるルート、道幅 1.5m 未満・5cm 以上の段差を避けるルー トの 2 つ。ベビーカーは、道幅 1m 未満、段数 5 段以上の階段を避 けるルートとなる。 屋内での現在位置特定には、GPS 信号と類似した特徴を持った IMES 信号を利用する。同実験用に GPS 衛星波と IMES 信号の両方 を受信可能な携帯電話を用意し、それらに対応したトータルナビア プリケーションを開発。これらを利用することで、GPS 衛星波の届 かない地下や屋内でも現在位置の特定が可能となる。地上では衛星 から得た GPS 情報を基に、地下・屋内では IMES 信号を基にシー ムレスな音声ナビゲーションを提供することを計画している。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
http://journal.mycom .co.jp/news/2008/12/18/ 002/index.html
1. 研究背景
・人間の状態を考慮した歩行者ナビゲーションサービス
13
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
・ポータブル情報端末の発達と普及 総理府の情報通信統計データベースによると、2003 年 3 月時点 における日本の携帯電話は 8111 万 8000 契約(PHS含む)にの ぼる。日本の総人口を 1 億 2000 万人として、実に生産人口に匹敵 する数が既に普及していることになる。まさに、一人 1 台以上を保 有する完全に新しい社会インフラになっているといえる。この中で、 音声通信だけではなくインターネットを介して、メールの受信 web での情報収集、コンテンツのダウンロード、静止画、動画などのコ ミュニケーション可能な携帯電話は全体の 75%に達している。 さらに、我々を取り巻く環境の様々なものが情報技術によってつ ながることで、今後一層のコミュニケーションの多様化が進むと予 想されている。これは、従来のコミュニケーションが、 「ヒトとヒト」 で交わされていたのに対し、「モノとモノ」がコミュニケーション を始めていくことを意味する。この中で「モノとヒト」のコミュニ ケーションが進めば、生活者を起点とするオンデマンド流通が成立 する可能性も出てきている。 ・パーソナルなマーケティングへの転換 IT 技術の進歩は、マーケティングの在り方も変えようとしている。 従来のように消費者の欲しいものがはっきりしているときは、マス メディアによるマス広告は、極めて有効に働いた。アメリカで生ま れたマーケティング論は、売れるものをさらに売るために生まれた 理論といわれた。しかし、需要そのものが「個」に近づくことによ って、マスメディアによるマス広告は限定された分野や性格の商品 の告知、企業のイメージ広告などに主として力を発揮し、ライフス タイルに関わる商品については、「個」に近いメディアの方が効果 的であるという現象が見られるようになった。把握すべき情報も、 主として POS による「いつ」、「何個」売れたかという情報把握だ けでなく、「誰が」、「どういう状況」で、という人に関わるところ に移らざるを得ない。社会的インフラといっていい状況にある携帯 電話は限りなく「個」であり、情報の究極のパーソナル化を実現する。 今後、様々な分野において「個」に向かって働きかけるというパー ソナルなマーケティングに転換する必要があると考えられる。 hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文)科学する店舗 ∼ 専門店から百貨店、ス ー パ ー、 コ ン ビ ニ、 フ ュ ーチャーストアまで、残 るべくして残った ∼、店 舗 シ ス テ ム 協 会 監、 2005 年
1. 研究背景
1-1-5「個」に近づく需要
14
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論
これまで、空間内の人間の行動は平均値的に扱われてきたが、多 様化するライフスタイルや価値観を背景に、現代においては様々 なニーズやウォンツを持った利用者の特性を考慮する必要が出てき た。空間内を通行する利用者の状態を考慮した空間計画の事例を次 に示す。 2007 年にリニューアルされた伊勢丹新宿店の地下 1 階食品フロ アでは、客の買い物スタイルの違いを考慮した動線計画を行ったこ とで、大きな成果をあげている。 デパートの地下食品売り場の客には 2 つのスピードがあり、1 つ は、全体を見渡すため一回りしたり、目的の店へ行くために移動す るときの巡行速度。もう一つがケース内の商品を物色するときの停 滞に近い速度である。 従来の地下食品売り場のレイアウトでは、通路の幅がそれほどゆ ったりと取られていなかったため、一つの通路にこれら 2 つのスピ ードの属性が混在していた。これが混雑の原因の一つになっていた。 通路を広く取り、移動する場と商品を吟味する場を明確に分けたこ とで、買い物客の通行を整理した。 また、顧客に通行を意識的に行わせるように通路と売り場の床の 色や素材を使い分け、境界線を明確にすることで、空間の役割の違 いを一目で認識できるようにしてある。 改装された地下一階の食品フロアには幅 3.6 mの通路を設け通路 に生活シーンやスタイルごとの売り場をゾーニングしている。 広い通路を設けることで混雑を緩和し、地下からの入り口やエス カレーターの降り口に、ゆったりとした空間を設けている。 目的の場所にすぐにたどり着きたい客と、ゆっくりと商品を見て 歩きたい客とが互いに干渉しないための工夫が施されている。 今後、情報化がさらに発展した社会においては、リアルタイムに 人間の要望を把握し、即応する空間サービスも考えられる。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
日経デザイン日経デザイ ン 2007 年 8 月号 特集 2 デパ地下の新スタ イ ル 解 剖! 伊 勢 丹 新 宿 店地下 1 階食品フロア
1. 研究背景
・人間の行動状態を考慮した空間デザイン
15
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 1 章 序論 2. 研究目的
2. 研究目的 空間移動時の心理状態変化と歩行動作の関係を明らかにすること で、歩行動作からの心理状態の推定を行うことを本研究の目的とす る。
図 2-1. 研究概念図
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
16
第 1 章 序論
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
本研究では、人間の心理状態を変化させる要因を、人間の内的な 要因によるもの、環境からの外的な要因によるもの、これら二つの 要因双方からなるものと捉え、以上三つの方向から心理状態と歩行 動作との関係を明らかにしていく。研究の流れを以下に示す。
!"#$%& '()*+,-./012
'(340567809:
!;<=>& ?@0AB0127809:
!=>G& '(JKL'(MN)O,-=>
'(56CD0EF$%
!=>H&
!=>I&
PQABL'(R0SMNTU)O,-=>
V@0WXL'(R0SMNTU)O,-=>
!YZ[\]& ?@0ABL'(340O^0\]
!_`aU& '(34bc0?@0ABde_`a0fg
図 3-1. 研究の流れ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 研究の流れ
3. 研究の流れ
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第2 章
第 2 章 基礎調査
基礎調査 1 身体動作と心理 1-1 身体動作からの心理状態の推定に関する関連研究 1-2 社会心理学による人のしぐさや姿勢の解釈 1-3 ラバン身体動作表現理論 2 歩行速度 2-1 歩行速度に関する関連研究 2-2 個々の歩行者の条件と平均歩行速度 2-3 歩行者をとりまく周囲の環境条件 3 実験方法の検討 4 加速度解析手法の検討 5 研究の意義と位置づけ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
第 2 章 基礎調査
2-1-1 身体動作からの心理状態の推定に関する関連研究 身体の物理的変化と心理の関係にまで言及するものは、ほとんど ないのが現状である。本研究では、人間の身体動作の中でも特に歩 行に着目し、歩行からの人間の心理状態、行動状態の推定を試みた。 歩行は人が日常的に行う動作の中でも最も基本的な動作である。人 間の歩行の動作には、身体的あるいは心理的な要因が多く現われる といわれている。特に歩行動作には無意識的に心身状態の変化が現
文 1)田中学、中村誠、 渡 辺 剛、 金 本 益 男: 歩 行 動作についての分析、東 京 都 立 大 学 体 育 学 研 究、 Vol.1.2、No.7、pp.111 ∼ 118、1979 文 2) 池 田 克 紀: ウ ォ ーキングの本、岩波書店、 pp34 ∼ 45、1996
われるという特徴があるため、歩いている動作から人の状態を推定
文 3) 小林裕一、大谷淳
できる可能性があると考えられる。
: 身体動作からの感情抽出
小林ら
文 3.4)
は身体動作に現われる感情の差異を分析・抽出するた
めに、演劇経験者に人間の基本感情である「幸福」・「驚き」・「悲し み」・「恐怖」・「怒り」・「嫌悪」の 6 種類の感情を歩行動作中で演じ 分けさせて、それらの動作をモーションキャプチャーにより記録す る実験を行っている。得られた時系列データに対し、速度・加速度 等の時間情報の解析と上体を中心として上肢・下肢が時間的に占め
手法に関する考察、( 株 ) 国際電気通信基礎技術研 究所 (ATR) 知識科学研究 所、 電 子 情 報 通 信 学 会、 信学技報、2005 文 4) 小 林 裕 一、 大 谷 淳 : 身体動作解析による感情 要素の抽出に関する考察、
る空間表現の時間変化として姿勢を記述し、その状態変化の解析か
凸版印刷株式会社 総合研
ら、身体動作の解析を行っている。その結果、加速度の時間周波数
究所 情報技術研究所、早
解析と、姿勢変化の解析とを組み合わせることにより、感情を抽出 している。 また、多田ら
稲田大学大学院国際情報 通信研究科、電子情報通 信学会、信学技報、2006
文 5)
は人の歩行動作に焦点を絞り、無線加速度セン
サで取得した歩行動作データから感性情報の抽出を試みている。被 験者に「気だるい」、「普通」、「高揚している」それぞれの気分のと きの歩行動作を演技させ、その時の身体の加速度変化を計測してい る。 歩行動作の感性情報は動作中の小さなしぐさに含まれていて、それ らの小さな仕草が基本的な歩行動作に付与されることで、「気だる い」といった歩行動作が形成されると推測している。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文 5) 多 田 昌 裕、 納 谷 太、 野 間 春 生、 鳥 山 朋 二、 小 暮潔 : 日常動作からの感性 情報抽出の試み、( 株 ) 国 際電気通信基礎技術研究 所 (ATR) 知識科学研究所
1. 身体動作と心理
2-1 身体動作と心理
18
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
ら
文 6)
が空間を評価する指標として歩行速度に注目している。街路
空間を対象にその場の魅力を点数化し、そこを通過する歩行者の 平均歩行速度と魅力との相関性を求め考察している。その結果、視 覚的要素よりも歩行速度の方が街の魅力に関係していることが示さ れ、従来の様々な物理的要素を用いて街路空間を評価する方法に対 し、より簡潔に街路空間の魅力を評価できるとしている。 しかし、文献1,2、3の研究では被験者に感情表現を意識した動 作の演技をさせており、実際の人間の心理状態の変化が現われた身 体動作を評価するには至っていない。また、文献4の研究では、街 空間の魅力(感性情報)と歩行との対応付けが必ずしも十分とは言 えない。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文 6) 伊藤美穂、松本直 司 : 都市における街路空間 の魅力と歩行速度の関係、 日本建築学会大会学術講 演 梗 概 集、2008 年 ,E-1 分冊 ,p.589
1. 身体動作と心理
歩行と感性情報との関係を論じている建築分野の研究では、松本
19
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
人の行動が非言語のコミュニケーションとしてどのように解釈で きるか、これまで社会心理学の分野を中心に多くの専門家によって 研究されてきている。 人 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に は、 動 作、 ジ ェ ス チ ャ ー、 目、
文 7)Peter E., "Posture and Gesture," Pergamon Pree,1987 文 8)Arbert Meherabien., « Nonverbal communication,»C hicago :Aldine-Atherton,1972. 文 9)Marjorie F. Vargas, LOUDER THAN WORDS - An
対 人 的 空 間 な ど が 伴 い、「 こ と ば な ら ざ る こ と ば(Nonverbal
Introduction to Nonverbal
Language)」とも呼ばれている。「ことばならざることば」には、
語コミュニケーション(石丸正
話ことばの持つ音声上の性状と特徴(声の大きさ、テンポ、声の高低、
Comunication -(1987)( 非 言 訳)、新潮選書(1987))
声の抑揚)、ジェスチャー、人と人との距離、凝視の方向、身体接触、
文 10)Miles L. Patterson,
身体の傾きや向き、頭によるうなずき、足および脚の動き、手の動
Functional Perspective,
き等が含まれる。
非言語コミュニケーションの基
人のしぐさや姿勢の解釈に関する研究としては、話し相手との姿 勢一致、前傾、後傾、横傾、体の向き、両手腰当、体の開放性など様々 な動作の持つ意味に関する報告がされている。
Nonverbal Behavior, A Springer-Verlag, NY (1983) ( 礎理論(工藤力 監訳)、誠信書 房(1995)) 文 11)Albert Mehrabian, Silent messages: Implicit
は、姿勢を用いた聞き手の態度の伝達に
communication of emotions
ついてまとめている。興味と退屈についての実験結果から、「体を
Wadsworth, CA (1981)( 非 言
前に傾ける」「両脚を後ろに引く」という動作が話題についての興
他共訳)、聖文社(1986))
たとえば、Peter Bull
文 7)
味と深く関係しており、 「頭を下げる」「一方の手で頭を支える」「体 を後ろに傾ける」という動作が退屈な心理状態と関連していること を指摘している。さらに「(人に向けて傾けた)頭を真っ直ぐにする」
and attitudes (2nd ed.), 語コミュニケーション(西田司
文 12)Edward T. Hall, The Hidden Dimension, Doubleday and Co., NY (1966)
「一方の手で頭を支える」「腕組み」は不同意と優位に関連し、「体
文 13)Ray L. Birdwhistell,
を横に傾ける」と「一方の足をあげる」は同意と優位に関連するこ
Essays on Body Motion
とを示している。そして、不同意のときは、警戒的で自分の身体へ
Pennsylvania Press (1970)
の接近を阻止する姿勢を表していて、同意のときは、大きく弛緩し た姿勢を表していると解釈している。 Albert Mehrabian 文 11)は、人のゆったりとした姿勢について、 立っている場合でも座っている場合でも、胴体と四肢の位置の不均 衡の度合いを基に計測されると解釈している。座っている場合は、 後傾、体をゆったり揺らす、肩を垂らす、横に傾くなどの動作がリ ラックスしている状態と関連するとしている。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
Kinesics and Context: Communication, University of
1. 身体動作と心理
2-1-2 社会心理学による人のしぐさや姿勢の解釈
20
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
ラバン身体動作表現理論 (Laban Movement Analysis, LMA) と は、Rudolf von Laban (1879-1958) を中心とするドイツ表現主義 舞踊の創作者らが 1920 ∼ 40 年代に構築した、心理状態と身体運 動の相関関係を規定する理論である。用いる概念が数理的で具体的 であるため、理工学的に利用しやすい。 Charles Darwin が 1872 年に提唱した動物の身体表現の構造に関 する理論を受け継ぎ、それを詳細化したものになっている。Darwin によれば、動物の身体表現の基本機能は威嚇か服従の意志を伝達す ることにある。威嚇を表現する場合は、筋肉を力ませたり突発的に 動くなど、実際の戦闘時によく見受けられる物理的特徴を見せるこ とで、自分の闘争心を相手に連想させる(連想表現の原理)。逆に、 力抜き緩やかにふにゃふにゃと動くと、服従の意志が伝わる。物理 的特徴の反転が表現内容の反転を引き起こす(反対表現の原理)。 Laban らは、舞踊における身体動作の特徴を、戦闘形態と陶酔形 態の二極構造とし、詳細化して心理状態との関連付けを行った。戦 闘形態は、力強く(能動的心理)、直線的で収斂的な軌道を描き(対 象へ集中した心理)、突発的である(警戒心)という特徴を有する。 陶酔形態は、弱々しく(受動的心理)、曲線的で発散した動作方向 であり(対象失認)、継続的である(安穏)という特徴である。こ れらの特徴をエフォート (Effort) と名付けた。エフォートを適切に 組み合わせることによって、強力に心理状態を表現するダンスが創 作できるとした。また、身体動作の高低・広狭・進退に関する特徴 をシェイプ (Shape) と名付け、心理状態と結びつけている。 また、振り付けの用途を逆転して、身体動作の観察から動作者の心 理状態を推定するという使い方もされている。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文 14)Bartenieff & Dori Lewis, Body movement coping with the environment, Gordon and Breach Publisher, 1980.
1. 身体動作と心理
2-1-3 心理状態と身体運動の相関関係:ラバン身体動作表現理論
21
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
を導入する。(参照:Bartenieff, Levis, "Body movement coping with environment") !""#$%&'(')'*%& +,-.&
1'234% & 56789
JKLM'& 5NOAPQR &
q2)'& & 5rOAPQR
†(#‡ 5ˆ‰Š^‹R
/0-.&
:;<=;<&
G;<H;<&
>?@ABCDEF&
>I@ABCDEF&
STUVWXYZ[A<\]A^_ @`a<\]A^bcde<&
hihijklmg_@` a<bceDnk<&
>fBDZ[XgBCDEF&
>op^BCDEF&
stA<u7=duvw<&
z{A<|m}~•€•‚ƒ< &
>xyBCDEF&
>„…^BCDEF&
ˆ‰Š^;<gŒ•;lŽƒ<&
’“<”•DŽƒ@–<&
>••‘jŽƒ‰•DEF&
>—˜DEF&
舞踊を作る際には、Weight/Space/Time という3つのエフォー ト要素を、それぞれ適宜制御すればよい。2の3乗で8種類の表現 の基本パターンができるわけである。これを Basic Effort Action Drive(「基本的なエフォート実行による舞踊進行」という意味)と いう。 ™š&
1'234%& JKLM'& q2)'& EF›œ&
†(#L%& •;&
G;&
k&
z{& žŸl ¡V/0XY;ƒ&
¢(2£'& ¤¥&
G;&
\&
z{& ¦§W¨VfBlŽƒld„…jŽƒ<&
1$2*3& ©~&
:;&
k&
z{&
†(2M¬& ªg–& G;&
k&
st& žŸ-®jŽƒld•„lŽƒ<&
J(L¯4& °± Š&
:;&
k&
st&
·L¸& gg–& G;&
\&
st& ¹bD«ž²º–g;<&
»$'¯¯& ¼X& :;&
\&
z{& ½¾V¿mYd¹b²ÀÁ<&
»Â*M4& Ã~& :;&
\&
st& ÄÅÆ²Çmgd:;¶~<&
žŸª:;ldPV«žDW¨ª^}d„…jŽ ƒ<&
W¨²P³j–^;d´ªX^;µµd¶mY; ƒ<&
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 身体動作と心理
" エフォート "(Effort) という概念と " シェイプ "(Shape) という概念
22
第 2 章 基礎調査
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
(前額面)、「車輪の面」(矢状面)を仮想的に考え、そこへ投影され る人間のシルエットに注目する。
それぞれの特徴に対して、それが表現する心理状態が対応付けられ ている。テーブルの面でのシルエットの収縮は、何か対象物に集中 した心理の表れ。逆に拡大は、何かを探しているような、対象物の 消失の表れ。ドアの面での上昇は能動的心理の表れ。下降は、しょ んぼりとして、落胆の表れ。車輪の面での前進は、自信の表れ。後 退は、驚きや不安の表れである。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
http://staff.aist.go.jp/toru -nakata/shintairon.html
1. 身体動作と心理
表にあるように、3つの面、 「テーブルの面」(水平面)、 「ドアの面」
23
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
2.歩行速度に関する関連研究
2-2 歩行速度に関する関連研究 歩行速度に関する研究において、人の性別や年齢など個々の歩行 者の条件によるもの、通勤時・帰宅時など歩行者の状態によるもの、 歩行者を取り巻く空間的要因など周囲の環境条件によるものなどが 一般的だが、どれも歩行速度を平均値的に捉えられ、様々な研究の 分析指標や評価指標として用いられてきた。 しかし、行動の目的や人のニーズが多様化してきている現代にお いて、平均値的に歩行を扱うことから、個人個人の状態を考慮した よりパーソナルな値として歩行速度を捉えることが求められてきて いる。 2-2-1 歩行速度に影響を与える要因 歩行に影響を与える要因は様々なものがある。それらを大別する と、以下のように、「個々の歩行者の条件」と、「歩行者をとりまく 周囲の環境条件」の 2 つがある。
!"#$ %&'()
*+,-./0123145167819:;1<=1>?1@ABCD EFGHI.JK1LM1FN1OP1FQR&'QS1FTRUV,-S !!!!!!1OFWXBCD YZ1[\.YZ1]^1_^1`a[\BbCD &'cG.de1df1gh1ij1k^1lm1n&1'oBCD
文15)日本建築学会編: 建築設計資料集成 3, 単位
pq.rs1tu1p$vRwep1xepBCDS yz.{|}~1•€?1•‚J1ƒ„JBCD &'….†‡1Pˆ1‰,1Š‹Œ}•1Ž••‘’}1…“,-
!!!1‰-1a”1•–—˜™1š›CD
·¸
&'œ•žŸ \1¡^1¢ R£1¤1¥¦CDS.a”1§¨©}ª!!! 1Š‹Œ}•BCD «^1WX^.•¬‹}¬§¨-‘Œ®1•¬‹}¬®•¯©‹}!!!! !!!!!!!!1°±(1²³´1´ µ¶·¸.©{¹1º»¼½1¾d¿1À…ÁÂ1Ã}•Ĺ•BCD! ÅÆ.Ç1È1É!!!!Ê?.ËÌÍRÎÏÍS1?Ð1ÑÍ1?Ò Ó.ÔÓ1ÕÖ×!!!!œØÙ.ÚÛ1ÜÝ ÞRßÍS.²àÞ1#áÞ âã.äåæÍjÙBa”BçÍ
図 2-2-1 歩行に影響するファクター
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
24
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
空間 1, 丸善
表 2-2-1 歩行者の違いによる平均歩行速度一覧 ÈS
ÉÊ
ËÌ=Í 5)Î
文 16)建築計画における
ÏR
行動シミュレーションに
ÐcDËÌ=Í ”ÚËÌ=ÍDÛÜ =;ËÌ=Í Éàju;j;ƒá èéDËÌ=Í í ç ×× îïð óôõåöô÷øíùDËÌ=Í Éàr%&DËÌ=Í ý(r)(*DËÌ=Í í ç Ö× 0 ÞØ î123DËÌ=Í í ç ×× î4Û H‘5^}=}5^;=Í óôõåöô÷ø6ùDËÌ=Í 7cDËÌ=Í 6ù ç ×× îïð ÉàrDËÌ=Í íùËÌ=Í
ÑÒÓÔZÕ ËÌÝDNO ÑÒÓÔZÕ âãäåæ ç Éàr ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ úûüýþôÿ!"# ËÌD'( +§•,-ô./ ËÌD'( ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ âãäåæ ç Éàr úûüýþôÿ!"# ÑÒÓÔZÕ ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ 89:;<=a h/>å?ä@Aa+ ç BCåDå
Ö×ØÙØ& ÖÞØÙØ& ÖßØÙØ& ÖÖØÙØ& ÖØëÙì& ñòÙë& ñ$ÙØ& ñßÙØ& ñÖÙò& ñÖÙØ& ñØÙë& ñØÙØ& ò×Ùò& òÞÙØ& òßÙë& òßÙ$& òÖÙØ&
íù23ËÌ=Í |mg~•Xg=Í HIýà J ý(rDËÌ=Í ¡KDËÌ=Í
E ËÌÝNODFG âãäåæ ç Éàr ËÌD'( h/>å?ä@Aa+ ç BCåDå
òÖÙØ& òØÙØ& òØÙØ& ëñÙ×&
í J 6d 23DËÌ=Í LMNOjP;ƒËÌ=Í 6ù ç ×× î4ÛDËÌ=Í 6ùDËÌ=Í 6ùDËÌ=Í
E ËÌÝNODFG ÖÙì Q $Ø ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ &&&&& h/>å?ä@Aa+ ç BCåDå
ëñÙ×& ëòÙØ& ëëÙì& ë$ÙØ& ë$ÙØ&
RSËÌ
E TUVVWƒ”ÚËÌ=Í X YZ
ë×Ù$&
HIDíùDËÌ=Í ×Ø î^_D”`ËÌ=Í abr%&DËÌ=Í cdËÌ
[ \•Ë=Df] 9 ËÌD'( ËÌD'( ËÌD'( TUVVWƒ”ÚËÌ=Í X YZ
ë×ÙØ& ëìÙØ& ëÖÙØ& $ëÙò&
[ \•Ë=Df] 9 ùe ç $ 0 ÖØ îDËÌ=Í ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ fgüýh ߨX á Î Ï 9 rDËÌ ijklmPÝDËÌPnop
$ëÙÖ& $$Ùë&
=Í
@V f‚ƒFG íùD $Ø î^_DËÌ=Í ËÌD'( qr,ôsrDËÌ=Í ËÌD'( t;U§u²vmgwxDËÌ= ËÌD'(
$ÞÙØ& $ØÙØ& $ØÙØ&
Í H;ËÌ=Í ëØ î^_DËÌ=Í yzå{å²¼X^l•DËÌ=
$ØÙØ& ××ÙØ& ××ÙØ&
ÑÒÓÔZÕ ËÌD'( ËÌD'(
Í fgüýh ߨX á Î Ï 9 rDij ijklmPÝDËÌPnop
רÙì&
kl @V mPÝDËÌ=Í f‚ƒFG ”ÚËÌ=ÍD=Ü ËÌÝDNO |}²~‘g•á ê'¯'L$M4&#*&ê#L£&qÙ €•‚.jDƒ5’@hD„;’ úûüýþôÿ!"#
Þ×ÙØ& ÞßÙñ& ÞØÙØ&
‘ D=Í
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
関する研究/渡辺仁史
2.歩行速度に関する関連研究
2-2-2 個々の歩行者の条件と平均歩行速度
25
第 2 章 基礎調査
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
文 17) 清 田 真 矢、 松 本
表 2-2-2 歩行速度一覧(環境の違い) ÈS …†‡ˆd h/‰Š
ÉÊ
直 司、 渡 辺 悠 司: 街 路 ËÌ=Í 5)Î
空間特性と歩行速度の関
ÏR
係 : 街路空間特性と歩行
aU‹•DËÌÌ@VŒ•‚Ž• •D Ö ‘ RSËÌÝDËÌ=Í•ËÌ’
ò$ÙÞ&
2)( 歩 行・ 群 集 , 建 築 計
U “”•–
aU‹•DËÌÌ@VŒ•‚Ž• •D Ö ‘ RSËÌÝDËÌ=Í•ËÌ’
ò×Ùß&
aU‹•DËÌÌ@VŒ•‚Ž• •D Ö ‘ RSËÌÝDËÌ=Í•ËÌ’
pp. 949-950 、 社 団 法 人 òÞÙØ&
U <ÛTU
YZ[\V™šƒÌ@€•Vf‚ƒFG ‘ TU•<=TVVWƒË= J ›œÆD
ËÌD'(
òìÙØ&
aU‹•DËÌÌ@VŒ•‚Ž• •D Ö ‘ RSËÌÝDËÌ=Í•ËÌ’
òÖÙØ&
<=TU
TUVVWƒ”ÚËÌ=Í 5YZ[\• Ë= Df]R YZ[\V™šƒÌ@€•Vf‚ƒFG ‘ TU•<=TVVWƒË= J ›œÆD
素・構成要素と歩行速度 の関係 街路空間特性と歩 行速度に関する研究 ( その 1)( 歩行・群集 , 建築計画 I)、 学 術 講 演 梗 概 集 . E-1、
òØÙÞ&
2007、pp.947-948、社団 法人日本建築学会
ëòÙ$&
文 19)積雪と歩行速度建
•ž ‘ ¦ôE§å¨DÛDËÌ=Í 56ù
清田真矢:街路の空間形 態・ 断 面 形 状・ 視 覚 的 要
U –¤<¥
日本建築学会 文 18) 渡辺悠司、 松本直司、
òìÙÞ&
•ž ‘ Ÿ ¡Œ•‘g¢DÛDËÌ=Í 56ù(*R £”•–
画 I)、 学 術 講 演 梗 概 集 . E-1Vol.2007(20070731)
U —‰˜
速度に関する研究 ( その
築物およびその周辺にお
ËÌD'(
ëëÙØ&
…©<¥ 5Eý~R
TUVVWƒ”ÚËÌ=Í 5YZ[\•
ëìÙß&
…©<¥ 5ªý~R
Ë= Df]R TUVVWƒ”ÚËÌ=Í 5YZ[\•
$ÞÙß&
(*R
ける雪氷防災に関する研 究:その 2 建築物の周辺 環境が避難行動に及ぼす 影響 / 細川和彦
Ë= Df]R
文 20)砂塵と歩行速度歩 行姿勢からみた園路路材 としての砂塵の歩き易さ
文献 17 では積雪による歩行速度への著しい影響を確認している。 また、文献 18 では砂塵の粒が小さいものは沈下が、大きなものは 凹凸が歩きにくさの原因になっており歩行速度にも影響を与えてい ることを明らかにしている。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
について / 雨宮悠
2.歩行速度に関する関連研究
2-2-3 歩行者をとりまく周囲の環境条件
26
第 2 章 基礎調査
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
勾配 4°までは水平路歩行とあまり変わらない。健常者にとって
も上り下りしやすいのは 5°ぐらいまでである。5° ,6°で上り下 りともに変化が現れその差は大きくなる。更に勾配が急になると、 下り速度は逆に増加する傾向が見られる。
文 21)日本建築学会編: 建築設計資料集成 3, 単位 空間 1/ 丸善
図 2-2-2 斜路勾配と歩行速度・歩幅・歩数
2-2-5 階段勾配と自由歩行速度 自由昇降時の老人の速度は成人より約 3 割程度遅い。混雑時はい わゆる . 群速度 . の形成によって、成人は遅くなり老人は速められ てその差は 2 割程度に縮まる。
図 2-2-3 階段勾配と自由歩行速度
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
2.歩行速度に関する関連研究
2-2-4 斜路勾配と歩行速度・歩幅・歩数
27
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
!移動速度の違いによって人が認識している空間は異なる。速度が
速くなる程、見えているものの密度は疎になりインパクトのあるも ののみ目に入ってくる。速度が遅くなる程、見えているものの密度 は密になり、細かなものも目に入ってくる。また見ている範囲(視野) も速度によって広くなったり狭くなったりする。 また、歩行速度の違いによって認知距離や知覚時間も異なり、空 間にいる人々の歩行速度の違いによって、空間の印象も変わる。 歩行速度と認知距離 ・距離を長く感じられる空間→歩行速度が遅い ・距離を短く感じられる空間→歩行速度が速い 歩行速度と知覚時間 ・移動速度が大きい→知覚する時間は長くなる ・移動速度の変化になんらかの規則性がある程、知覚する時間が長 くなる。特に、加速度的変化が知覚する時間が長い。 歩行速度と空間の印象 ・人の歩行速度が均一な空間→賑やか、閉鎖的、せかせか、うっと うしい、よそよそしい ・人の歩行速度が多様な空間→寂しい、開放感、のんびり、 さわやかな、親しみのある
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文 21)「 日 本 建 築 学 会 編 建築設計資料集成 3 単 位空間 1 /丸善 文 22)歩行時間における 空間の距離認知に関する 研究/丹羽俊介 西出和 彦/ 1999 年度日 本建築学会大会学術講 演梗概集 文 23)空間体験における 時間知覚の研究/千秋幸 司/ 1999 年度早稲田大学 渡辺仁史研究室 卒論
2.歩行速度に関する関連研究
2-2-6 歩行速度と空間認識
第 2 章 基礎調査
28
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
3. 実験方法の検討
2-3 実験方法の検討 2-3-1 歩行動作の抽出手法の検討 人の動作をコンピュータを用いて推定しようとする場合、ビデオ カメラやモーションキャプチャー装置などを環境側に用意すること によって推定する方法と、加速度センサを人間側に装着する方法に 大別できる。
・画像処理 建部ら
文 24)
は撮影したビデオ画像を画像処理することで、白黒の
2 値化した画像の輝度の違いで頭髪部を認識している。歩行者の頭 部の軌跡を自動的に一定の精度で計測する方法を構築し、二種類の 歩行実験・調査を対象に歩行の軌跡、速度、加速度を解析している。 また、内山
文 25)
らはビデオ画像から抽出した静止画像に座標軸を
文 24)辻本誠、志田弘二、 建部謙治:歩行解析への 画像処理技術の応用に関 する研究、日本建築学会 計 画 系 論 文 報 告 集 pp.41 ∼ 47、1992 年 6 月
設定し、歩行者の頭部を代表点とし、位置座標として取得している。
文 25) 鈴木雄高、日比野
そして、映像上の歩行者の位置座標を追跡し、軌跡図を作成して進
直彦、毛利裕一、内山久雄:
行方向に対してのブレ、及び歩行速度を求めている。
ビデオ映像を用いた歩行 者挙動分析、東京理科大 学大学院
・モーションキャプチャー モーションキャプチャーを利用した動作の研究は、人間工学やロ ボット工学、建築など様々な分野に及ぶ。歩行動作の計測では、人 体の関節部に装着するマーカーとこれを検出するトラッカーを組み 合わせてキャプチャする。歩行姿勢など細かな体の動かしまでわか り、動作をデジタルデータに変換して3Dで複製できるという特徴 がある。 しかし、複数のカメラなどをトラッカーとして用い、周囲に張り 巡らさなくてはならず、専用のスタジオで使用することが多い。そ のため比較的狭い範囲でしか使用できず、システムの使用できる範 囲が限定される。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
29
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
単一の加速度センサを用いた関連研究
文 26)Daniel Siewiorek,
単一の加速度センサを用いた研究は、携帯電話型の端末と腕時計
Asim Smailagic, Junichi
型の端末の、大きく2つに分けられる。携帯電話型の研究は携帯電
Kathryn Reiger, and
話サービスを意識したものが多く、加速度センサ以外のセンサも搭 載しているものが多い。Carnegie Mellon 大学の SenSay
文 26)
は、
携帯電話に複数のセンサ情報を加えることで、「取り込み中」「活動 中」「暇」「ノーマル」の 4 つの状態に分類して、着信音の音量を サイレントモードにするアプリケーションなどを実装している
文 3)
。
Furukawa,Neema Moraveji, Jeremy Shaffer,"SenSay: A Context-Aware Mobile Phone," Poster of 7thIEEE International Symposium on Wearable Computers (ISWC'03), October 2003. 文 27)Toshiki Iso, Norihiro Kawasaki, and Shoji Kurakake,"Personal Context
は、携帯電話に複数のセンサを搭載し
Extractor with Multiple Sensor
たスマートフォンの研究をしている。3 軸加速度センサと 3 軸ジャ
IFIP International Conference
イロセンサを用いて、「歩く」「走る」「座る」を推定している。
Communications Networks, D.
NTT DoCoMo の磯ら
文 27)
on a CellPhone," The 7th on Mobileand Wireless 2 C200525, Morocco, September 2005.
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験方法の検討
・加速度センサ
30
第 2 章 基礎調査
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
文 28) 林 智 天 , 川 原 圭
青山らの研究では、無線 2 軸加速度センサを両手首、両足と腰 の合計5箇所にとりつけ、 「歩いている」 「立っている」 「座っている」 " #$%
「走っている」の 4 つを推定している
個の 3 軸加速度センサを装着し、Bayesian 推定を用いて「座って いる」 「立っている」 「歩いている」 「階段を上る」 「階段を下る」 「握 手」「黒板への書き込み」「キーボードへのタイピング」を推定して いる
。また、このシステムを利用した、煩わしさの推定に取り
組んでいる
" '(%
。 " ')%
。およそ 6.7 秒分
のデータから平均、エネルギー、周波数領域エントロピー、そして 相関を求め、C4.5 の分類法で推定している。推定する動作は 20 種 類あり、関連研究の中では最も多い。また、個々のユーザで閾値を 設定せずに推定できる汎用性を目指している。 マイクロストーン社の市川らは、腕時計型運動センサを研究して いる
スト適応型コンテンツ配 ," 電子情報通信学会ソサ イ エ テ ィ 大 会 ,B-20-11, September 2004. 文 29)Nicky Kern, Stavros Antifakos, Bernt Schiele, and Adrian Schwaninger, „A Model for Human Interruptab ility:Experimental Evaluation
MIT の Stephen らは両手首、両足首、腿の合計 5 箇所に 2 軸加 速度センサを装着し、動作推定を試みている
, 青 山 友 紀,« コ ン テ キ 信 サ ー ビ ス CoCo の 実 装
。
ETH Zurich の Kern らは肩、肘、手首、腰、膝、足首に合計 12
" #&%
博, 田村 大, 森川 博之
" '#%
。一軸加速度センサと一軸ジャイロセンサの値の大小、周
期性のあるなしから「散歩」 「平常歩」 「速歩」 「急歩」 「ジョギング」 「ラ ンニング」 「座位作業」 「立位作業」 「軽いスポーツ」 「激しいスポーツ」 の 10 種類に運動パターンを識別する。それぞれの動作に応じた係 数を用いて消費カロリーを算出している。
and Automatic Estimation from Wearable Sensors,“ Proceeding of 8th IEEE International Symposium on Wearable Computers(ISWC ‘04), pp.158-165, Arlington, USA, October 2004.
文 30) Nicky Kern, Bernt Schiele, and Albrecht Schmidt, „Recognizing Context for Annotating a Live Life Recording,“ Personal and Ubiquitous Computing, 2005.
文 31) Stephen S.Intille, Ling Bao, Emmanuel Munguia Tapia, and John Rondoni, "Acquiring In Situ Training Data for Context-Aware Ubiquitous Computing Applications," in Proceedings of CHI 2004. Connect: Conference on Human Factors in Computing Systems. New York, NY: ACM Press, pp. 1-9, New York, USA, 2004.
文 32) 市 川 和 豊 , 井 澤 裕司 , 北澤 俊二 , 芳川 美 代 子 , 浜 淳," 426 人 体 の行動識別が可能な腕時 計 型 装 置 の 開 発 ," バ イ オエンジニアリング講演 会 講 演 論 文 集 ,2003(15), pp325-326, 2003.
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験方法の検討
複数の加速度センサを用いた関連研究
31
第 2 章 基礎調査
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
*+,+-.+/0123456567891:;<=>:?1 ,+-@ABCD4EF@3GHI:J8K*L4:?1,+-M +214NOPQRSTU@VWXAYDZ[\] ^_`a3bcdXef^48:*ghM+i14jk^l;m 12no1pqTr48:*ghM+i1st01ucvwx\y 6@*+,+-z;8/1h{|18}~•€~/I•~*I‚ƒ; „…8:*gh (cm) ;^_†‡ˆ]‰Š.+cm12s‹Œ@•4 m12sƒŽ‰Š.+c••@•\]56564‘’“1”1•– c—˜CD™š›@œr4vw†•žTŸ01
+g+21G¡1
86T¢Z£r4•¤c¥¦@•\§¨†œ\]
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験方法の検討
・歩行速度の計測(ランニングコンピュータ)
32
第 2 章 基礎調査
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
った。画像解析やモーションキャプチャーによる歩行動作の推定は、 人間側が無拘束の状態でいられるという点がメリットとして挙げら れる。しかし、デメリットしては環境側に特殊な装置を用意する必 要があり、都市空間内の広い範囲を移動する本研究の実験には向か ないと判断された。また、ビデオの画像処理では、大量の個々の同 一歩行者挙動の位置情報を精度高く自動的に捉えることが難しい点 が上げられる。 一方の身体に加速度センサを装着し計測する手法に関して、複数 の加速度センサを用いるのは、センサの数を増やすことでそれぞれ の計算処理手順を簡略化することができたり、より多様な身体動作 を推定できるメリットがある。しかし、状態を推定するために身体 に装着する機材が多くシステムが煩雑になりがちであることからモ バイル環境では実用的とは言えない面があるため、単一のセンサで 推定するものは簡素なシステム構成であると考えられる。 そこで、本研究では、リアルタイムに変化する歩行動作の推定を 行うにあたって、単一の加速度センサーとランニングコンピュータ を人間の身体に装着し、歩行動作を計測する手法を採用した。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験方法の検討
以上のように歩行動作の計測に関する基礎調査を行い、検討を行
33
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
・既往研究での分析・評価方法例 加速度センサを用いた動作の評価として以下のような手法が用い られている。文献 33 では、椅子から立ち上がる際の動作加速度波 形を計測し、動作加速度波形の測定と波形のパワースペクトル分析 を行っている。得られた平均値のデータに対し、0.5 ∼ 20Hz の周 波数帯域のスペクトルの傾きを求めている。平均合成加速度に含ま れる平均の3軸成分を総体比で動作を評価している。 文献 34 では、計測した時系列加速度データから高速フーリエ変 換を用いて 1 秒毎のパワースペクトルを導いている。歩行・走行・ 階段昇降において、どれも2Hz付近にパワースペクトルのピーク が現われており、この卓越周波数が人間動作の基本周期であるとし、 それぞれのスペクトルのピーク値の大きさで行動モードを判定して
文 33)萩原礼紀、吉田行 弘、神野英毅、勝田基嗣、 柴田泰河:変形性膝関節 症患者とリウマチ患者に おける椅子から立ち上が る動作波形の比較、日本 大学医学部 文 34)金杉洋、小西勇介、 柴 崎 亮 介:「 ウ ェ ア ラ ブ ルセンサによる人体動作 の計測と行動モードの識 別」、東京大学 空間情報 科学研究センター
いる。 文献 35 では、取得した加速度センサのデータから、最新の 12 個 の分散値、最新の 4 つの平均値、最新の 64 個のFFTのパワース ペクトルの最大値を求め、被験者の運動状況を推定している。 加速度センサのデータの分散値の大小から、動作のあるなしを推定 しており、FFTのパワースペクトルの最大値と周波数の値から歩 いているか、走っているかを推定し、さらに走っているリズムを推 定している。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文35)倉沢央、川原圭博、 森 川 博 之、 青 山 友 紀: セ ンサ装着場所を考慮した 3 軸加速度センサを用いた 姿勢推定手法、 東京大学大学院
4. 加速度解析手法の検討
2-4 加速度解析手法の検討
34
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
る。文献 36 では、動作中の加速度変化における周波数解析結果を 確立曲線に見立て、これを正規化しエントロピーを算出することに より、動作を微調整するための高周波成分が乗れば乗るほど大き な値となり、その動作の性質を表現することで、動作の円滑さを客 観的に示すことができることを提案している。併せて加速度の変化
文 36) 小 島 基 永: 加 速 度計を用いた高齢者歩行 の安定性評価(動作の円 滑 さ と い う 視 点 か ら ): バイオメカニズム学会誌 vol.30、pp.138 ∼ 141、 2006
量を捉える躍度の二乗の総和を用いる方法と周波数分析の結果に対 し、境周波/低周波成分比による評価手法を用いている。 さらに、文献 37 では身体動作からの感性情報の抽出を試みてい る。歩行動作データを Wavelet 解析(Mother Wavelet と呼ばれる 関数を用いて、時間と周波数の両面から信号を分解して分析する手 法)によって多重解像度解析し、特定の周波数帯域を持つ単純な動 作コンポーネントに対し、動作相関解析(四肢に加速度センサを装 着のため)を行っている。(多重解像度解析)歩行動作の感性情報 は Wavelet 解析で抽出した高周波動作生文(小さい仕草)に含まれ ているおり、小さな仕草が基本的な歩行動作に付与されることで、 感性情報ごとの歩行動作が形成されているとしている。
以上の関連研究における加速度評価手法を踏まえ、本研究では加 速度データに FFT(Fast Fourier Transform) 解析を行い、歩行を周 波数成分に分解して評価することにした。具体的には、歩行の基本 周期の周波数に対して現われるパワースペクトルのピークの最大値 を求め、歩行の基本周期の大きさを定量的に把握する。さらに、歩 行動作に含まれる、ゆったりとした動きと速い動きの割合で評価を 行うことを試みた。加速度データの FFT(Fast Fourier Transform) 解析の結果を高周波成分と低周波成分に分け、高周波/低周波成分 の比で評価する。 また、本研究では最もシンプルな歩行動作の評価手法として、加 速度データの分散値の大小から歩行動作の有無を判定し、立ち止ま り動作を判定することを考えた。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
文 37)多田昌裕、納谷太、 野 間 春 生、 鳥 山 朋 二、 小 暮潔:「日常動作からの感 性情報抽出の試み」、㈱国 際電気通信基礎技術研究 所(ATR)知識科学研 究所
4. 加速度解析手法の検討
また、加速度データから動作の円滑さを捉える試みもなされてい
35
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 2 章 基礎調査
! 近い将来、アンビエント情報化社会の到来を迎えるにあたって、
人々の快適で安心、安全な生活環境の実現のため建築空間、都市空 間に求められる機能として、人の物理的な状況に応じて適切な情報 やサービスを提供することが挙げられる、そのためには、人間のし ぐさや、運動状態、感情、取り巻く状況などを把握する必要がある。 人間の心理と密接に関係するしぐさや行動を特定し、心理との関係 を明らかにすることで心理を外観から推定する有効な手だてとなる と考えられる。 人間の位置や行動などの状態をセンサなどでモニタリングするこ とで推定する試みは、建築や情報分野で数多く行われているが、行 動と人間の心理にまで言及したものは、ほとんどないのが現状であ る。 また、人間の心理と身体表現の関係を明らかにする研究が、社会 心理学の分野で進んでいるが、主として人と人とのコミュニケー ションに関するものが多く、空間での人間の振る舞いと心理に関す る研究はされていない。 本研究では、人間の心理状態が良く現われる行動として、歩行動 作に着目し、心理状況との関係を明らかにする。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 加速度解析手法の検討
5 研究の意義と位置づけ
36
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第3 章
第 3 章 行動目的と歩行動作
歩行動作による行動目的の推定 行動目的と歩行動作に関する実験 1 実験方法 1-1 実験概要 1-2 実験内容 1-3 速度の計測方法 1-4 行動目的の状態 2 実験結果 3 分析 3-1 歩行目的ごとの平均歩行速度 3-2 状況別の歩行速度 3-3 個人ごとの歩行目的と歩行速度の関係 3-4 滞在時間ごとの平均歩行速度
4 まとめ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
3 行動目的と歩行速度に関する実験 3-1 実験方法 3-1-1 実験概要 ・日時:2008 年 3 月 12 日 ( 水 ),14 日 ( 金 ),17 日 ( 月 ) 13:00 ∼ 17:00 までの時間帯 ・場所:都内 S ビル商業施設ゾーン(図 1) ・被験者:20 代男子学生 6 名、女子学生 5 名 3-1-2 実験内容 被験者に実際の商業施設で買い物をしてもらい、各行動目的の状 態における歩行速度を測定した。具体的には、被験者に対して発話 すべき行動目的の状態 ( 表 1) を記憶させ、行動目的の状態と各状態 の開始時と終了時を IC レコーダーに発話させることで、実験中の 行動目的の状態を時系列で記録し、また時系列で歩行速度を計測し た。その際、より現実の状況に近づけるため、被験者にはあらかじ め買うものを決めておいてもらい、それを買い求めるという設定で 実験を進めた。 なお実験者 1 名が被験者を追跡しながら、被験者の商業施設内で の場所と時間を記録した。
図 3-1-1 実験空間の基準階平面図
第 3 章 行動目的と歩行動作
38
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
図 3-1-2 実験風景
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
3-1-3 速度の計測方法 被験者にランニングコンピュータ ( 心拍計・速度計機能付 )
注 1)
を
装着 ( 図 3-1-3) し、時系列の歩行速度を計測した。足に装着した速 度センサ ( 図 3-1-4) によって計測された歩行速度は、秒単位で被験 者の腕に装着したデータロガーに記録される。なお、履物の種類に よって歩行速度に影響を与えないため、被験者には運動靴を着用し てもらった。
IC recorder
図 3-1-4 ランニングコンピューター
heart rate monitor data logger
speed sensor 図 3-1-3 被験者装備
図 3-1-5 速度センサ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
39
第 3 章 行動目的と歩行動作
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
注 1)Polar 社製 RS800sd
本実験前に、2 名の被験者により同じ商業施設において買い物行動 を行わせ自由発話させた結果、以下のように 5 つの行動目的の状態 が抽出され、それぞれを購買意欲、目的地、目的物により整理した ( 表 3-1-1)。
表 3-1-1 目的の状態
'()*+, -./0 -.3)456!" 7 8 -.9:456!# 7 8 <=456!$ 7 8 *+3)456!% 7 ; >*+456!& 7 ;
*+1 8 ; ; 8 ;
*+2 8 8 ; 8 ;
購買直行状態 !":購買意欲があり買うものが決まっていて、それが どこにあるのか知っている状態。 購買探索状態 !#:購買意欲があり買うものが決まっているが、それ がどこにあるのか知らず探索している状態。 選択状態 !$:買うものは決まっていないが、購買意欲はある状態。 目的直行状態 !%:休憩所やフロアガイドなどを利用したいと思い、 探索する状態。 無目的状態 !&:購買意欲が無く、ただ見歩いている状態。 3-1-5 行動目的の抽出方法 被験者に対し、発話すべき行動目的ごとの状態 ( 表1) を事前に教示 し、それらの状態を記憶した上で実験に参加してもらった。買い物 中の自らの行動目的の遂行開始時と終了時を、IC レコーダーに発話 させ、速度を計測した。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
3-1-4 行動目的の状態
40
第 3 章 行動目的と歩行動作
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
歩行目的と歩行速度の関係を考察するため、歩行目的別の被験者 の歩行速度、および属性別の平均歩行速度の結果を以下に示す。ま た、施設入退場じと買い物時の歩行速度の結果も示す。 表 3-2-1 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 属性別 )
?@ABCDE -.3) QR "J#NMN"K FG "JMNLN&& PG "J#KN%K"
-.9: <= *+3) >*+ "JM&%KO" "JM$&N#& "J#%$O$O "JM&#NNO "JM%$K$L MJOO""MK "JM"N"KO "JM"%ONL "J""N&L "J"$O#"& "JM#M$L" MJOLKKMK
表 3-2-2 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 被験者別 )
?@ABCDE FG HIJ" FG HIJ# FG HIJ$ FG HIJ% FG HIJ& FG HIJN PG HIJ" PG HIJ# PG HIJ$ PG HIJ%
-.3) "J$"KL$K MJO%#K" MJ&N&OL# MJK"L#&" "J&$MN#" "J#$M&$O "J$$OM&# "JM&%"" "J"$NON "JN"&KM"
-.9: <= "JMKKNK% MJOO"%$& "JM"#$#" MJ&NNNNL MJN#ON$ MJKON%&" "JM##K% "J%%&O&% "J$$#$LO "J##"%#O MJO&KM%% "J$#OML" MJO%L#KK MJKLM#%# "JML$$&" "J""KO&# "J%#K%&"
*+3) "J"LN&%$ MJKKKKKO MJ%MK$$$ MJLLN$"N "J&#K%L# "J$"K&K# "J"$"O%% MJLK&$&% MJOKM$#% "J"K$KN#
表 3-2-3 状況別の平均歩行速度 ( 属性別 )
?@ABCDE STU .V2U WTU QR "JM$M"$& "JMNM%&% "JML$N%" FG MJO#MO&N "JM#NOO" "J"LOKKL PG "J#%K%O& "J""$&OO MJO"%#L" 表 3-2-4 状況別の平均歩行速度 ( 被験者別 )
?@ABCDE STU .V2U WTU FG HIJ" MJOML%ML "J"#&"K" "J"$$"L FG HIJ# "J"#KMKN "JMMN%&$ MJOK&M%$ FG HIJ$ MJ$LLLLK MJ&%#N& "J"$O%#$ FG HIJ% "JMLL"N MJK#O&&N "JMK"%$O FG HIJ& MJK&N%K" "J%MNM"N "J$K#### FG HIJN "J"LKK"O "J"K#"%K "J$&KM#& PG HIJ" "J%%L"$$ "J"L#&%" MJKMN$%O PG HIJ# MJNNM#&N MJO"%#%K MJO$"$%# PG HIJ$ "JN$KMO& "JM&O%MK MJL#%$&O PG HIJ% "J$#"L%L "J"O&M$& hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
>*+ "JM&M&M& "J"K"LO MJN$%O#" "J"O#N&# MJKOMMOL MJOKL%&& "JM&KKL#
6. 実験結果
3-2 実験結果
41
第 3 章 行動目的と歩行動作
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
42
第 3 章 行動目的と歩行動作
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
3. 分析
3-3 分析 3-3-1 歩行目的ごとの平均歩行速度 全被験者から得られた各行動目的ごとに歩行速度を集計し、それ ぞれの状態の平均歩行速度を求めた。全体的に見ると購買意欲があ る歩行目的の状態においては、平均歩行速度が速いことがわかった。 特に、購入対象、目的地がより明確な「購買直行状態」が最も速い 平均歩行速度をとり、次に目的の対象が明確な「目的直行状態」の 平均歩行速度が速いことがわかった。有意差 5%で検定を行ったと ころ、この二つの状態間には差が見られなかった。 続いて、購入対象が決まっており、場所を探索している「購買探 索状態」、購買意欲のある「選択状態」の順であった。「無目的状態」 が最も遅い速度であった。以上それぞれの状態間において、有意差 5%で差が見られた。
表 3-7-1 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 総合 )
?@ABCDE -.3) -.9: <= *+3) >*+ XY()Z[ "J#NMN"K "JM&%KO" "JM$&N#& "J#%$O$O "JM&#NNO
*
*
* *
*
* * 有意差5%で t 検定を行っ
*
*
*
図 3-7-1 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 総合 )
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
た際に差があった。
第 3 章 行動目的と歩行動作
3. 分析
3-3-2 属性別にみた歩行目的ごとの平均歩行速度 男女に歩行目的ごとの平均歩行速度を見る。男性は目的の対象が 明確な購買直行と目的直行において、最も速い歩行速度になった。 また、選択と無目的の歩行速度のがその次に速く、購買探索の速度 が最も遅くなっていることから、男性では購買意欲が歩行速度に影 響しない傾向が見らるといえる。 表 3-7-2 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 男性 ) ?@ABCDE -.3) -.9: <= *+3) >*+ XY()Z[ ? FG E "JMNLN&& "JM%$K$L MJOO""MK "JM"N"KO "JM"%ONL
* * *
*
*
*
*
* 有意差5%で t 検定を行っ た際に差があった。
図 3-7-2 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 男性 )
一方、女性は購買意欲があり、目的の対象が明確な二つの状態に おいて最も早い歩行速度になる傾向がある。その他の目的対象が定 まっていなかったり、購買意欲がない購買選択、選択、無目的では、 遅い歩行速度になっている。そのため、女性の買い物時の歩行目的 において、購買意欲の有無が歩行速度に影響しているといえる。 表 3-7-3 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 女性 ) ?@ABCDE -.3) -.9: <= *+3) >*+ XY()Z[ ? PG E "J#KN%K" "J""N&L "J"$O#"& "JM#M$L" MJOLKKMK
*
*
*
*
*
*
*
* 有意差5%で t 検定を行っ た際に差があった。
図 3-7-3 歩行目的ごとの平均歩行速度 ( 女性 )
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
43
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 3 章 行動目的と歩行動作
44
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
3. 分析
3-3-3 状況別の歩行速度 全被験者の施設入・退場時、及び施設内での買い物行動時の平均 歩行速度を求め比較した。男女ともに買い物行動時の平均歩行速度 には、大きな差は見られなかった。しかし、男性は入場時から退場 時にかけて、平均歩行速度が増加する傾向があり、逆に女性は、入 場時の速度が最も高く、退場時にかけて減少していく傾向があるこ とがわかった。購買意欲が高い状態にあるほど速い歩行速度になる という女性の傾向がここからも読み取れる。
*
* 有意差5%で t 検定を行っ た際に差があった。
* *
図 3-7-4 行動状態ごとの平均歩行速度 ( 男性 )
* * * * 有意差5%で t 検定を行っ た際に差があった。
図 3-7-5 行動状態ごとの平均歩行速度 ( 女性 )
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
第 3 章 行動目的と歩行動作
3. 分析
3-3-4 個人ごとの歩行目的と歩行速度の関係(総合) 個人ごとに状態を比較した。その際、歩行速度そのものではなく、 購買直行状態で他の状態の速度を除した値で比較した。また実験の 都合上、すべての状態で実験を行わなかった被験者もいた。 購買直行を基準に図を見ると、ほぼ全員が目的直行や無目的な場 合は購買直行よりも速度が落ち、購買探索も二人をのぞいて速度が 落ちていた。選択の場合は三人が、購買直行よりも速度が上がって いた。 ・行動目的の歩行速度による順序 ( 図 3-7-7) 順位で見てみると、購買直行が一番早いのは女性で、男性はおお むね 3 番目の歩行速度であった。ほぼ全体的に、購買探索が 2 番目 の歩行速度であった。また無目的は、ほぼ全員が一番遅い歩行速度 であった。順位相関を求めたところ、相関係数 r = 0.5431440 と やや強い相関があることがわかった。 \]^_`abcMJ&%$"%%M defgh 7c%J"O##%&$ ij[ 7c%# k/lm 7cMJMMM"$O# deno 7cpcqcMJM"
図 3-7-6 個人ごとの状態比較 ( 総合 )
FG HIJ" FG HIJ# FG HIJ$ FG HIJ% FG HIJ& FG HIJN PG HIJ" PG HIJ# PG HIJ$ PG HIJ%
-.3) -.9: <= *+3) >*+ " $ & # % $ # % " $ # " % $ # " % & " $ % # & # $ % " " # $ % " # $ % " $ # & % " # $ % 図 3-7-7 行動目的の歩行速度による順序
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
45
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 3 章 行動目的と歩行動作
3. 分析
3-3-5 個人ごとの歩行目的と歩行速度の関係(男性) 次に属性別に個人ごとの状態を比較した。購買直行を基準に図を 見ると、男性では無目的状態や購買探索状態において速度が落ちて いることがわかる。しかし、選択状態においては速度が上がるもの と下がるものに別れている。また、順位相関を求めたところ、相関 係数r= 0.6771941 とかなり強い相関があった。 \]^_`acr b MJNLL"O%" defgh 7c&J&##ML"N ij[ 7c$N k/lm 7cMJMMMMM$M deno 7cpcqcMJM"
図 3-7-8 個人ごとの状態比較 ( 男性 )
3-3-6 個人ごとの歩行目的と歩行速度の関係(女性) 購買直行を基準に図を見ると、女性は購買直行状態が最も早い速 度になっており、無目的状態が最も遅い速度になっている。また、 全体として目的や購買意欲が低下するほど、歩行速度が低下して いっている様子がわかる。順位相関を求めたところ、相関係数r= 0.9044991 と非常に強い相関があった。 \]^_`abcMJOM%%OO" defgh 7cKJ#"%MO#$ ij[ 7c"& k/lm 7cMJMMMMMMN deno 7cpcqcMJM"
図 3-7-9 個人ごとの状態比較 ( 女性 )
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
46
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
注 2)滞在時間:実験開始 注2)
各行動目的ごとの平均歩行速度を、被験者の滞在時間
30 分
以内、31 ∼ 60 分、61 分∼ 、それぞれに対して求めた。滞在時間 が 30 分以内の場合、全体的に歩行速度が遅いことがわかった。滞 在時間 31 ∼ 60 分がほとんどの歩行目的において最も速くなってい た。そして、滞在時間が 60 分を超えると目的や購買意欲のない状 態において、歩行速度が下がっていくことがわかった。
図 3-7-10 滞在時間別にみた歩行目的と歩行速度の関係
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
から実験終了までに要す る時間。
3. 分析
3-3-7 滞在時間ごとの平均歩行速度
47
第 3 章 行動目的と歩行動作
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 3 章 行動目的と歩行動作
以上より、商業施設における買い物行動時の歩行目的の違いが、 歩行速度の違いに現われることが明らかになった。特に目的の対象 が明確な状態、購買意欲がある状態において歩行速度が速くなり、 目的意識や購買意欲が薄れるほど、歩行速度が遅くなることがわか った。また、男女別に見ると買い物行動時の歩行速度の現れ方に異 なった傾向があることがわかった。 この結果から、歩行速度からの人の歩行目的を推定できることを示 せた。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
8. まとめ
3-8 まとめ
48
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第4 章
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
歩行動作による心理状態の推定 心理状態と歩行時の加速度変化に関する実験 1 実験方法 2 分析方法 3 実験 4 実験結果 5 分析 6 まとめ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
4-1 実験方法 4-1-1 実験概要 実験日時: 2008 年 12 月3日から 12 月 22 日までの内 12 日間。 歩行に影響の少ない天候の日を選び、午前 10:00 ∼午後 16:00 まで の昼光のある時間帯に実験を行った。 被験者: 20 代の学生、男性 11 名、女性 11 名 実験場所: 八重洲地下街(地下商店街)、八重洲(繁華街)、丸の内(ビジネス街) という空間特性が異なりともに整形街区である 3 箇所の都市空間を 対象に実験を行った。
図 4-1-1 実験風景丸の内
図 4-1-2 実験風景八重洲
図 4-1-3 実験風景八重洲地下街 hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
4. 心理状態と歩行時の加速度変化に関する実験
49
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
異なる空間特性を持つ 3 つの都市空間において、被験者にルート を提示して経路探索をさせ、その時の不安感と歩行動作の関係を調 査した。歩行動作は 3 軸加速度センサの加速度変化で計測した。そ して、加速度計と同期させた IC レコーダーへの被験者の発話より 不安感のレベルを特定し、その時の加速度変化を分析した。 なお実験者 1 名が被験者を追跡しながら、被験者の信号待ちでの 立ち止まりや経路探索中の確認動作(見回し・振り返り、立ち止まり・ 後戻り)などの行動履歴と時間を記録した。 ・加速度センサ装着位置 図のように動作の起点となり、動作や姿勢の変化に対して最も変 化の見られる腰部に装着した。取り付けは、装置を固定したベルト を腰に装着する方法とした。
IC recorder heart rate monitor data logger
note PC accelerometer
speed sensor
図 4-1-4 実験装置の装着
図 4-1-6 ランニングコンピューター
図 4-1-5 実験装置の実装
図 4-1-7 速度センサ
なお、本実験では併せて速度センサも被験者に装着した。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
4-1-2 実験内容
50
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
文1)品川佳満、谷川智宏、
サンプリングレートを 20msec に設定して
文 1)
加速度を記録し、
データを Bluetooth でリアルタイムにPCへ転送した。
太田茂:加速度センサを 用いた人間の歩行・転倒 防止の検出、川崎医療福 祉学会誌 vol.7 no.2 1999
図 4-1-8 無線化速度センサ
表 4-1-1 無線化速度センサ仕様 !"#$
%&'()*+,-.$ /0$1231405/6$
'78$ 9:$
302;<<=>?$@$3A2;<<=/?$@$B;2;<<=C?$ DE$ B1F$ DB$
GHIJ$
OP Q2R IJS4;;/6 'TUVTWI?$
KLMN$
XYZ[\]]\^$D4$ _[`2B24$!Yabb4$ =cTdefOg 1;;hijbk$KLlmfO P B;<n$
opqT'$ wxyqT'$z3{k$4;;/6$=|}~•.€?$ rs tuv$ •uC$‚$Bƒ^$ D3$ ">5$]Z\jZ\$‚$Bƒ^$ "tv$4ƒ^$
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
・加速度の計測方法
51
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
不安感は主観的な心理作用であるため、数値化するにあたって、 被験者に自己申告させた。なお、実験前に被験者に対し探索中に発 生する不安感を 0 ∼ 3 のレベルで評価し、探索中に不安を感じた瞬 間に随時発話するよう教示を行った。また、迷いを感じた時も同様 に発話させた。実験中の不安レベルの発話は、図のように首からぶ ら下げた IC レコーダーに発話させ、発話する動作の歩行動作への 影響をなくした。 <不安レベルの基準> 不安レベル0:不安でない 不安レベル1:やや不安 不安レベル2:不安 不安レベル3:とても不安 なお、本実験では不安レベルの発話が合った時を被験者が不安感 を感じた瞬間とした。また、発話が合ったときから次の発話がある ときまで、同じ不安レベルが継続しているものとした。
図 4-1-9 IC レコーダーの実装
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
・不安感の抽出方法
52
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
1. 実験方法
・経路探索ルート設定 丸の内、八重洲、八重洲地下街、各ルートとも健常な成人であれば、 スタート地点から目的地まで 10 分前後で到着できる距離に設定し た。また、図に示した基本ルートのように目印の数、方向転換回数 ともに同じ条件とした。 経路探索時の不安感を誘発するため、文献2をもとに経路探索中
文 2.)三ッ木美恵子、宇
に人が不安感を感じる空間要素を加味したルート設定にした。
野 宏 司、 宗 方 淳、 平 手 小
(„…†‡ˆ
太 郎、 安 岡 正 人: 心 理 変 化に注目した経路探索プ
‰ŠE
ロセスに関する研究、日 ‰ŠŒ
‰Š‹ ‰Š•
本建築学会環境系論文集 ‰Ž‡
図 4-1-10 基本ルートモデル
・経路探索ルートの教示 実験時に被験者には以下のようなルート教示文が書かれたメモを 渡して、ルートを覚えてもらった。実験中にわからなくなった場合 のみ立ち止まってこのメモを参照しても良いこととした。その他、 地図情報などは提示しなかった。 丸の内ルート: 「ブランドC」を右折。 「MMビル」を左折。 「MSビル」 を左折。「MPビル」を左折。「Pカフェ」まで行っ てください。」 八重洲地下街ルート:「郵便局」を右折。「ショップL」を右折。 「ショップM」を左折して、「ケータイショッ プ」 まで行ってください。 八重洲ルート:「ホテルH」を右折。「カフェD」の角を左折。 「カラオケ B」を左折。「飲食店Y」を左折して、 「カフェP」まで行ってください。 ※実際の教示では、「カフェD」→「カフェ・ドトール」など実際 の名称となっている。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
53
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 583 号、pp.49 ∼ 56、 2004
実験で使用した、丸の内エリア、八重洲エリア、八重洲地下街エ リアにおける経路探索ルートを以下に示す。
図 4-1-11 丸の内ルート
図 4-1-12 八重洲地下街ルート
図 4-1-13 八重洲ルート
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
経路探索ルート
54
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
本研究では、歩行時の加速度変化を評価するに当たり、以下の二 つの指標を用いた。 ・合成加速度の分散値 歩行時の加速度の変位の激しさを特定するため、得られた歩行時 の 3 軸合成加速度データの分散値を求めた。 ・FFT 解析 FFT 解析 (Fast Fourier Transform) とは、信号の中にどの周波数 成分がどれだけ含まれているかを抽出する処理をフーリエ変換とい う。入力波形をいくつかのグループに分けて計算し、計算順序を工 夫することにより計算量を大幅に減少させたアルゴリズムが FFT で ある。グループの数を N とした時の演算の回数は、通常の変換では N の 2 乗に比例するが、FFT では NlogN に比例する。 フーリエ解析の結果を評価する際に本研究では、パワースペクト ルのピークの値と、動作中の加速度変化の周波数解析結果における 周波数成分の分布に注目し、周波数の高周波成分と低周波成分の比 を求めることで評価を行った。高周波成分が多いほど歩行動作その ものから生じる基本周波数に不安感からくる見回しなどの確認動作 が含まれると考えた。 なお、高周波成分と低周波成分の境界を 3Hz とした。これは、fft 解析の結果、いずれの被験者も2Hz付近にパワースペクトルのピ ークが現われており、この卓越周波数が人間の歩行動作の周期的変 動の周波数、すなわち歩行の周波数であると考えられ、この2Hz 付近の周波数域を境界とするため、本研究では境界値として 3Hz を 設定した。
図 4-2-1 パワースペクトルのピーク hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
2. 分析方法
4-2 分析方法
55
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
4-3-1 心理状態の変化と歩行加速度 経路探索時の不安レベルごとの歩行動作の加速度の時系列変化、 および FFT 解析後の周波数成分の分布を図∼図に示す。
図 4-3-1 不安レベル 0 の加速度と、そのパワースペクトル(被験者 A)
図 4-3-2 不安レベル 1 の加速度と、そのパワースペクトル(被験者 A)
図 4-3-3 不安レベル 2 の加速度と、そのパワースペクトル(被験者 A)
図 4-3-4 不安レベル 3 の加速度と、そのパワースペクトル(被験者 A)
時系列の加速度波形を見ると、不安感レベルが高くなるほど基本 周期が乱れ、振幅の幅も一定でなくなっていく様子がわかる。また、 FFT 解析をして周波数成分ごとに分解した結果においても不安感 が増すほど、歩行の周波数におけるパワースペクトルの値が小さく なっていることがわかる。 hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験結果
4-3 実験結果
56
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索中に発生した迷いとその時の歩行加速度の時系列変化、 及び加速度データを FFT 解析した周波数分布の結果を図23に示 す。
図 4-3-5 迷いの状態の加速度と、そのパワースペクトル(被験者 B)
時系列加速度変化を見ると歩行周期にやや乱れが見られ、振幅も 一定でなくなっている様子がわかる。周波数分解した歩行の基本周 期のパワースペクトルの値も平常時に比べ小さくなっていることが わかる。また、5Hz 付近に第二の周波数成分があることが確認でき る。 4-3-3 立ち止まり直前の歩行加速度 経路探索中の立ち止まりの直前 5 秒間の歩行加速度の時系列変 化、及び加速度データを FFT 解析した周波数分布の結果を図23に 示す。
図 4-3-6 立ち止まり直前の加速度と、そのパワースペクトル(被験者 B)
時系列変化する加速度データからは激しい動きの後に動きが小さ くなっていることがわかる。また、パワースペクトルの方は、歩行 の基本周波数以外の 3Hz、5Hz、7Hz のところにも波形が見られる。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験結果
4-3-2 迷いの時の歩行加速度
57
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
4-4-1 分析方法 ・加速度のサンプリング方法 実験前に不安感を感じた瞬間にそのレベルを発話するよう被験者 に教示したため、不安感のレベル発話があった時点を被験者が不安 感を感じた瞬間とし、その時点から 0.02 秒ごとに 512 サンプル約 10 秒間を対象にデータのサンプリングを行った。(fft 解析を行う際 に 2 のベキ乗のデータ数が必要のため 512 を採用)また、移動中に 信号待ちなどで停止する場合や方向転換時のデータは算入しなかっ た。 また、被験者が「迷い」を感じたときにも不安感の時と同様に発 話してもらい、同様の加速度サンプリングを行った。さらに、本研 究では「迷い」や「不安感」の高まった状態に現われる確認動作と して「立ち止まり」に注目し、 「立ち止まり」の現われる 5 秒前(0.02 秒ごとに 256 サンプル)から「立ち止まり」までの加速度変化を分 析し、「立ち止まり」の予測を行った。 ・被験者ごとの歩行目的のモードの出現数 実験の都合上、すべての被験者にすべての歩行目的モードが現われ たわけではなかった。なお、一人の被験者に複数回同じ不安レベル が現われた際は、それらすべての値を平均し、そのレベルの平均値 とした。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4 分析
58
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
・加速度の分散値での比較 経路探索時の不安感レベルの違いによる加速度変化を分散値で評 価した際の全体平均を以下に示す。合成加速度の分散値を求めるこ とで、加速度変位のばらつきの尺度を求め、歩行動作のストライド の大きさを評価する。 不安レベルが0、すなわち不安を感じていないときの歩行動作で は分散値が 8.6 と最も高い値をとっている。また、不安レベルが上 がるほど分散値が小さくなってきている。不安感がないときは、し っかりと大きな歩行動作をするため、加速度の変位が大きくなり、 逆に不安感が増すと歩行動作が小さくなるため、加速度の変位の幅 が小さくなるためであると考えられる。 有意差 5% での両側検定を行った結果、各レベルの間に差が見ら れた。しかし、検定の結果、不安レベル2と3には違いが見られな かった。不安レベル2と3ではともに不安感を強く感じている状態 であり、被験者間の評価のばらつきがあったことが推測される。 このように、不安レベルを加速度の分散値から推定することがで きた。
*
*
*
* *
図 4-4-2 不安レベル 3 ごとの歩行加速度分散値
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-2-1 歩行加速度の分散値からの不安レベルの推定(総合)
59
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
被験者一人一人のデータに対し、不安レベルとその時の歩行加速 度の分散値の順序を求めた。また、その時の各不安レベルと歩行加 速度の分散値の順序との順位相関を求めた。その結果、各被験者に おける不安レベルの順位と加速度の分散値の順位に高い相関があっ た。 スピアマンの順位相関の結果 相関係数 :r = 0.5695710 検定統計量: 6.3510611 自由度: 84
検定結果: P < 0.01
表 4-4-2 不安レベルの歩行加速度分散値による順序の割合(総合)
!"#$% * + , . / 0 1 2 *) ** *+ *, **. */ *0 *1 *2 +) +* ++
&'('&) + , * * * , * * + + * + * * + + + * * *
&'('&* , * + + + + + + * * + * , + , + * * + +
&'('&+ * + * , , , , , + , * , , , + ,
&'('&, , + , , * , , * , , -
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-2-2 分析:不安レベルの歩行加速度の分散値による順序(個人別)
60
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
各エリアで不安感のレベルが増すほど加速度の分散値が小さくな っている傾向が見られる。しかし、地下街では不安感を感じていな いレベル 0 に比べ、感じているレベル 1 ∼3の値が小さくなってい るが、不安を感じている時のレベル間には差が見られず、逆に不安 レベル 3 の時に高い分散値となっている。地下街では、空間スケー ルが地上のエリアと比べ小さいため、不安感を感じた時に状況や位 置を確認する探索行動が出やすくなったため、大きな分散値になっ たと推測される。 三つのエリアをそれぞれ比較すると、各不安レベルともに丸の内 における加速度の分散値が高い値になっており、八重洲、地下街の 順に分散値が小さくなっている。ここから空間特性と歩行動作との 間に何らかの関係があると予測される。 各不安レベルにおいて丸の内と八重洲、八重洲地下街に関して有 意差 5% で差が見られたが、八重洲と地下街の間には差が見られな かった。
丸の内 八重洲 地下街
図 4-4-3 不安レベルごとの歩行加速度分散値(空間別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-3 分析:歩行加速度の分散値からの不安レベルの推定(空間別)
61
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
各レベルともに不安感のレベルが上がるほど、歩行時の加速度の 分散値が小さくなっており、歩行動作が小さくなっていることがわ かる。また、男女別に比較してみると、有意差 5%で検定を行った が差は見られなかった。
女性 男性
図 4-4-4 不安レベルごとの歩行加速度分散値(男女別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-4 分析:歩行加速度の分散値からの不安レベルの推定(属性別)
62
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
・加速度の FFT 解析による Hf/Lf 比での比較 経路探索時の不安感レベルの違いによる加速度変化を分析するに 当たって、歩行動作に含まれる大きな動作と小さなしぐさの割合を みることで評価する。加速度データを FFT 解析した周波数分布にお いて高周波成分の割合が高いほど、歩行動作に含まれる小さなしぐ さが多くなり、Hf/Lf 比値が大きくなることを意味する。 不安感レベルごとの Hf/Lf 比の被験者全体での平均を以下に示す。 不安感レベルが高くなるほど、Hf/Lf 比の値が大きくなっているこ とがわかる。これは、歩行動作に含まれる高周波成分の割合が多く なっており、不安感を感じながらの歩行動作に小さなしぐさの表れ が見られることを意味する。有意差5%で検定を行ったところ、各 不安レベル間に差が見られなかった。歩行の周波数における Hf/Lf 比からは歩行時の不安感の推定にはいたらなかった。
図 4-4-5 不安レベルごとの Hf/Lf 比(総合)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-5 歩行動作の周波数成分からの不安レベルの推定(総合)
63
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
不安感レベルごとの Hf/Lf 比の空間ごとの平均を以下に示す。 全体として、不安感が増すほど Hf/Lf 比の大きさが増し、歩行動作 のなかに小さなしぐさの含まれる割合が高まっていることがわか る。しかし、丸の内においては、各不安レベル間に大きな差が見ら れなかった。空間スケールが最も大きいため、歩行動作として大き な動作が現れやすくなるためだと考えられる。 また、地下街においては、不安レベル 1 と 2 における Hf/Lf 比が レベル1の方が大きくなっている。有意差5%で検定を行ったとこ ろ、空間別においても、各不安レベル間においても差がなかった。 歩行の周波数における Hf/Lf 比からは歩行時の不安感の推定にはい たらなかった。
丸の内 八重洲 地下街
図 4-4-6 不安レベルごとの Hf/Lf 比(空間別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-6 歩行動作の周波数成分からの不安レベルの推定(空間別)
64
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
不安感レベルごとの Hf/Lf 比の男女別の平均を以下に示す。 全体として、不安感が増すほど Hf/Lf 比の大きさが増し、歩行動作 のなかに小さなしぐさの含まれる割合が高まっていることがわか る。若干ではあるが、男性の方が全体を通じて歩行動作に小さいし ぐさが含まれる割合が高くなっていることがわかる。 有意差5%で検定を行ったところ、男女別においても、各不安レ ベル間においても差がなかった。歩行の周波数における Hf/Lf 比か らは歩行時の不安感の推定にはいたらなかった。
4-4-7 不安レベルごとの Hf/Lf 比(男女別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-7 歩行動作の周波数成分からの不安レベルの推定(属性別)
65
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の迷いを感じた時の歩行動作と不安感を感じていない 時、不安感を最も感じている時の歩行動作を加速度変化の分散値で 評価した際の全体平均を以下に示す。 迷いを感じた時の歩行動作は不安を感じなかった時と比べ、加速 度の分散値が約半分程度の大きさになっている。迷いを感じた時は、 歩行動作が小さくなっていることがわかる。さらに不安感を最も感 じている不安レベル3と比較してみても、小さな値を捕っているこ とがわかる。しかし、有意差 5%で検定を行った結果、迷いを感じ た時と、不安を感じていない時には差が見られたものの不安レベル 3との差は見られなかった。これは、不安レベル 3 の状態のなかで 被験者が迷いを感じていたためだと考えられるが、不安レベル 3 の の中での迷いの状態の推定には至らなかった。しかし、平常時との 比較において迷いの状態を推定できる可能性は示せた。
*
図 4-4-8 迷いの状態の加速度分散値(総合)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-8 歩行加速度の分散値からの迷いの推定(総合)
66
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の迷いを感じた時の歩行動作と不安感を感じていない 時、不安感を最も感じている時の歩行動作を加速度変化の分散値で 評価した際の空間別平均を以下に示す。 どの空間においても迷いを感じた状態が最も低い分散値をとってい る。迷いの状態だけを見ると空間による分散値の差が見られず、ほ ぼ同じ値をとっている。このことから、空間の違いによらず、一定 の値をとっており、歩行加速度の分散値が 4 付近にあるときに迷い の状態を推定できるといえる。しかし、有意差5%で検定を行った 結果、不安レベル 3 と迷い状態との差は見られなかった。
図 4-4-9 迷いの状態の加速度分散値(空間別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-9 歩行加速度の分散値からの迷いの推定(空間別)
67
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の迷いを感じた時の歩行動作と不安感を感じていない 時、不安感を最も感じている時の歩行動作を加速度変化の分散値で 評価した際の男女別平均を以下に示す。 迷いを感じた時の歩行動作は不安を感じなかった時と比べ、加速 度の分散値が男女ともに約半分程度の大きさになっている。迷いを 感じた時は、歩行動作が小さくなっていることがわかる。さらに不 安感を最も感じている不安レベル3と比較してみても、小さな値を とっていることがわかる。 また、男性と女性では分散値の大きさに違いが見られるも有意差 5%で検定を行った結果、男女差は見られなかった。ここでも、迷 いの状態と不安レベル3に差がなかった。しかしながら、平常時歩 行との比較において迷い状態を推定できる可能性は示せた。
図 4-4-10 迷いの状態の加速度分散値(属性別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-10 歩行加速度の分散値からの迷いの推定(属性別)
68
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の迷いを感じた時の歩行動作と不安感を感じていない 時、不安感を最も感じている時の歩行周波数の Hf/Lf 比の全体での 平均を以下に示す。 迷いを感じている状態において、Hf/Lf 比の大きさ最も高い値に なっており、歩行動作のなかに小さなしぐさの含まれる割合が高い ことがわかる。 有意差5%で検定を行ったところ、迷いの状態と不安レベル 0 に は差が見られたものの、レベル3とは差が見られなかった。歩行の 周波数における Hf/Lf 比から歩行時の迷い状態の推定ができる可能 性を示した。
*
図 4-4-11 迷いの状態の Hf/Lf 比(総合)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-11 歩行動作の周波数成分からの迷いの推定(総合)
69
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の迷いを感じた時の歩行動作と不安感を感じていない 時、不安感を最も感じている時の歩行周波数の Hf/Lf 比の空間別で の平均を以下に示す。 丸の内と地下街において迷いを感じている状態での Hf/Lf 比の大 きさ最も高い値になっており、歩行動作のなかに小さなしぐさの含 まれる割合が高いことがわかる。しかし、八重洲においては不安レ ベル3の方が高い値になっている。これは、手掛かりとなる看板な どの視覚情報が多い八重洲エリアにおける探索行動の結果、歩行動 作中の小さなしぐさが多くなったためだと推測される。 有意差5%で検定を行ったところ、迷いの状態と不安レベル 0 に は差が見られたものの、レベル3とは差が見られなかった。歩行の 周波数における Hf/Lf 比から歩行時の迷い状態の推定ができる可能 性を示した。
図 4-4-12 迷いの状態の Hf/Lf 比(空間別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-12 歩行動作の周波数成分からの迷いの推定(空間別)
70
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の迷いを感じた時の歩行動作と不安感を感じていない 時、不安感を最も感じている時の歩行周波数の Hf/Lf 比の空間別で の平均を以下に示す。 男女ともに迷いを感じている状態において、Hf/Lf 比の大きさ最 も高い値になっており、歩行動作のなかに小さなしぐさの含まれる 割合が高いことがわかった。また、迷いの状態においてだけ女性の Hf/Lf 比の値が男性よりも高くなっていた。女性の方が男性よりも 迷いを感じた時に、小さなしぐさが歩行動作のなかに多く含まれる と推察される。 有意差5%で検定を行ったところ、迷いの状態と不安レベル 0 に は差が見られたものの、レベル3とは差が見られなかった。歩行の 周波数における Hf/Lf 比から歩行時の迷い状態の推定できる可能性 を示した。
図 4-4-13 迷いの状態の Hf/Lf 比(属性別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-13 歩行動作の周波数成分からの迷いの推定(属性別)
71
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の立ち止まりをした瞬間から直前の 5 秒前の歩行動作 と不安感を感じていない時、不安感を最も感じている時の歩行動作 を加速度変化の分散値で評価した際の全体平均を以下に示す。 立ち止まり直前の歩行動作の加速度分散値は、不安レベル 3 の時 の値よりもわずかながらも高い値をとっていることがわかった。 有意差 5%で検定を行った結果、立ち止まり直前の動作と、不安 をレベル0の歩行動作との間に差が見られた。歩行動作の加速度分 散値より、立ち止まりの直前の状態を推定できることを示せた。
*
図 4-4-14 立ち止まり直前の加速度分散値(総合)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-14 歩行加速度の分散値からの立ち止まりの推定(総合)
72
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の立ち止まりをした瞬間から直前の 5 秒前の歩行動作 と不安感を感じていない時、不安感を最も感じている時の歩行動作 を加速度変化の分散値で評価した際の空間別平均を以下に示す。 空間ごとに見ると、丸の内、八重洲、地下街の順に分散値が小さ くなっていることがわかる。立ち止まり直前動作と不安レベル0に は差が見られたが、不安レベル3との違いはあまり見られなかった。 有意差 5%で検定を行った結果、立ち止まり直前の動作と、不安 をレベル0の歩行動作との間に差が見られた。 地下街においては、不安レベル 3 よりも立ち止まり直前動作の方 が小さい値をとっていることから、空間特性によって立ち止まり直 前の歩行動作に違いがあることがわかった。 丸の内、八重洲エリアでは、歩行動作の加速度分散値より、立ち 止まりの直前の状態を推定できることを示せた。
図 4-4-15 立ち止まり直前の加速度分散値(空間別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-15 歩行加速度の分散値からの立ち止まりの推定(空間別)
73
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の立ち止まりをした瞬間から直前の 5 秒前の歩行動作 と不安感を感じていない時、不安感を最も感じている時の歩行動作 を加速度変化の分散値で評価した際の男女別平均を以下に示す。 立ち止まり直前の歩行動作の加速度分散値は、男性の場合不安レ ベル 3 の時の値よりも高い値をとっていることがわかった。一方の 女性は、逆に不安レベル3よりも低い値となっている。 有意差 5%で検定を行った結果、立ち止まり直前の動作と、不安 をレベル0の歩行動作との間に差が見られた。 男女によって立ち止まり直前の動作と不安を感じているときの歩 行の大きさに違いがあったといえる。 男女の歩行特性を考慮することで、歩行動作の加速度分散値より、 立ち止まりの直前の状態を推定できることを示せた。
図 4-4-16 立ち止まり直前の加速度分散値(属性別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-16 歩行加速度の分散値からの立ち止まりの推定(属性別)
74
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の立ち止まりをした瞬間から直前の 5 秒前の歩行動作 と不安感を感じていない時、不安感を最も感じている時の歩行周波 数の Hf/Lf 比の全体での平均を以下に示す。 立ち止まりの直前の状態では、Hf/Lf 比の値が最も大きくなって おり、歩行動作に小さなしぐさが他の状態と比較して多く含まれて いることがわかる。 有意差5%で検定を行ったところ、立ち止まり直前の状態と不 安レベル 0、レベル3ともに差が見られた。歩行の周波数における Hf/Lf 比から歩行時の立ち止まり直前の状態の推定ができることを 示した。 * *
図 4-4-17 立ち止まり直前の Hf/Lf(総合)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-17 歩行動作の周波数成分からの立ち止まりの推定(総合)
75
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の立ち止まりをした瞬間から直前の 5 秒前の歩行動作 と不安感を感じていない時、不安感を最も感じている時の歩行周波 数の Hf/Lf 比の空間別平均を以下に示す。 いずれの空間に関しても立ち止まりの直前の状態では、Hf/Lf 比 の値が最も大きくなっており、歩行動作に小さなしぐさが他の状態 と比較して多く含まれていることがわかる。 有意差5%で検定を行ったところ、立ち止まり直前の状態と不 安レベル 0、レベル3ともに差が見られた。歩行の周波数における Hf/Lf 比から歩行時の立ち止まり直前の状態の推定ができることを 示した。
図 4-4-18 立ち止まり直前の Hf/Lf( 空間別 )
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-18 歩行動作の周波数成分からの立ち止まりの推定(空間別)
76
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
経路探索時の立ち止まりをした瞬間から直前の 5 秒前の歩行動作 と不安感を感じていない時、不安感を最も感じている時の歩行周波 数の Hf/Lf 比の属性別平均を以下に示す。 男女ともに立ち止まりの直前の状態では、Hf/Lf 比の値が最も大 きくなっており、歩行動作に小さなしぐさが他の状態と比較して多 く含まれていることがわかる。 有意差5%で検定を行ったところ、立ち止まり直前の状態と不 安レベル 0、レベル3ともに差が見られた。歩行の周波数における Hf/Lf 比から歩行時の立ち止まり直前の状態の推定ができることを 示した。
図 4-4-19 立ち止まり直前の Hf/Lf(属性別)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 分析
4-4-19 歩行動作の周波数成分からの立ち止まりの推定(属性別)
77
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
第 4 章 歩行動作による心理状態の推定
不安レベルの推定に関しては、歩行時の身体の加速度変化の分散 値による推定が有効であることが示された。また、立ち止まり直前 動作の推定に関しては、時系列加速度データにおける周波数成分の 割合 HF/LF の比を用いることが有効であることが示された。しかし、 迷いの状態に関しては、高い不安レベルにある状態との差が見られ ず、推定には至らなかった。 以上の結果から、歩行時の身体の加速度変化より人間の心理状態 の変化を推定できることが明らかになった」。 本研究において不安感という非常に主観的な心理作用を抽出する にあたって被験者の自己申告による方法を採用したが、さらなる推 定精度の向上には生理計測などのアプローチも求められると考えら れる。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
5. まとめ
4-5 まとめ
78
空間移動時の歩行動作による状態の推定に関する研究
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第5 章
第 5 章 歩行動作による空間の印象評価の推定
歩行動作による空間の印象評価の推定 空間の印象評価と歩行動作に関する実験 1 実験方法 1-1 実験概要 1-2 実験内容 1-3 空間の印象評価の抽出方法 2 分析方法 2-1 空間の印象の評価の集計方法 2-2 歩行動作の評価方法 3 歩行動作の評価方法 4 実験結果 5 分析 5-1 空間の総合的な印象 5-2 空間に対するポジティブ印象とネガティブ印象 5-3 空間の物理的特性に対する印象 5-4 空間の雰囲気に関する印象 5-5 空間に対して抱く感情 6 まとめ
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
5-1 実験方法 5-1-1 実験概要 実験日時: 2008 年 12 月3日から 12 月 22 日までの内 12 日間 歩行に影響の少ない天候の日を選び、午前 10:00 ∼午後 16:00 まで の昼光のある時間帯に実験を行った。 被験者: 20 代の学生、男性 13 名、女性 11 名 実験場所: 八重洲地下街(地下商店街)、八重洲(繁華街)、丸の内(ビジネス街) という空間特性が異なり共に整形街区である 3 箇所の都市空間を対 象とし、それぞれのエリアを代表する通りを対象に実験を行った。
図 5-1-1 丸の内仲通
図 5-1-2 八重洲仲通
図 5-1-3 八重洲地下街
5-1-2 実験内容 異なる空間特性を持つ 3 つの都市空間において、被験者に自由に 街歩きをしていることを想定してもらい、その時の歩行動作の加速 度変化を 3 軸加速度計で計測した。そして、歩行実験後に、空間移 動時に感じた空間の印象評価をアンケートで回答してもらった。 空間の雰囲気写真、断面形状の図 ・加速度・歩行速度の計測方法 実験1と同様な方法でおこなった
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
1. 実験方法
5. 空間の印象と歩行時の加速度変化に関する実験
80
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
文 37) 井 上 正 明: 日 本
被験者の空間に対する印象評価を抽出するにあたって、被験者に よる自由発話では感性情報を数値化することが困難なため、空間を 評価する18の感性ワードを定め、アンケートによる回答で行った。 アンケートの項目は、過去の印象評価で使用頻度の高い形容詞対 68 組の中から抽出し、街路空間を評価するのにふさわしいワード を建築学科学生 8 名で選定した。また、街路空間全体の総合的な評 価を行うため、「印象が良い―印象が悪い」という項目を加え、そ れぞれ 6 段階で評価して点数化した。
名前: 対象エリア: 1)あなたがこのエリアを実際に歩いて感じた空間の印象についてお答えください。 空間の印象を評価するにあたり、以下の感性ワード一つ一つに対してあなたが最も適当だと思う 度合いに○をつけてください。また、あなたが最も強く感じた感性ワードを○で囲ってください。 「圧迫感のある」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「開放的な」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「単調な」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「清潔な」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「感じの良い」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「陽気な」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「親しみやすい」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「高級な」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「落ち着いている」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「にぎやかな」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「派手な」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「穏やかな」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「整然とした」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「活気のある」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「まとまりのある」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「生き生きとしている」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「楽しい」
"#$ (
!
'
)
*
"%& +
「つまらない」
"#$ (
2)総合的な印象評価。あてはまる方に○をつけてください。 "#$ ( 良い
!
'
)
*
"%& +
!
'
)
*
"%& +
3)続いて、あなたのこのエリアに対しての経験を教えてください。 あてはまるものに○をつけてください。 (初めて・ほとんど来ない・たまに来る・しばしば来る・よく来る)
HITOSHI WATANABE LAB. WASEDA UNIV.
図 5-1-4 空間評価アンケート用紙
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
におけるSD法による 研究分野とその形容詞 対 尺 度 構 成 の 概 観、 教 育 心 理 学 研 究 Vol.1.33 pp.253-260,1985
1. 実験方法
5-1-3 空間の印象評価の抽出方法
81
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
5-2-1 空間の印象の評価の集計方法 空間の印象評価をする際に被験者に回答してもらったアンケート の項目を、「ポジティブ印象・ネガティブ印象」、「空間の物理的特 性に対する印象」、「空間の雰囲気」、「空間に対して抱く感情」、「空 間の総合評価」のカテゴリーに分けて分析を行った。空間評価ワー ドの各カテゴリーへの分類を以下に示す。 ・「ポジティブ印象」/「ネガティブ印象」 →「開放感・清潔な・まとまりのある・陽気な・にぎやかな・活気 のある・生き生きとしている・親しみやすい・感じのよい・楽しい」 / 「圧迫感・単調な・つまらない・派手な」 ・空間の物理的特性に対する印象に関するもの →「圧迫感・開放感・単調な・清潔な・整然とした・まとまりのある」 ・空間の雰囲気に関するもの →「陽気な・高級な・にぎやかな・活気のある・生き生きとしている・ 落ち着いている」 ・空間に対して抱く感情に関するもの →「親しみやすい・感じのよい・楽しい・つまらない」 ・空間の総合評価 →「良い印象・悪い印象」
なお、今回空間評価の点数に偏りが合ったため、6 段階評価の 1 と 2 を評価レベル低、3 と 4 を評価レベル中、5 と 6 を評価レベル 高という 3 段階での評価を行うことにした。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
2. 分析方法
5-2 分析方法
82
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
・加速度のサンプリング方法 街路空間直進時の歩行を対象に 0.02 秒ごとに 1024 サンプル約 20 秒間、データのサンプリングを行った。(FFT 解析を行う際に 2 のベキ乗のデータ数が必要のため 1024 を採用)心理状態変化を調 査した時よりも時間分解能を高め、歩行の周期性を調査した。 ・加速度の評価方法 合成加速度の分散値 歩行時の加速度の変位の激しさを特定するため、得られた歩行時 の 3 軸合成加速度データの分散値を求め、評価した。 FFT 解析 実験2と同様に、歩行時の加速度データに対し、フーリエ解析を 行い、パワースペクトルのピークの値と、周波数の高周波成分と低 周波成分の比を求めることで評価を行った。なお、高周波成分と低 周波成分の境界値も 3Hz とした。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
2. 分析方法
5-2-2 歩行動作の評価方法
83
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
3つの街路空間移動時の歩行動作の加速度の時系列変化、およ び FFT 解析後の周波数成分の分布を図 5-3-1 ∼図 5-3-3 に示す。そ れぞれの空間で特徴な加速度波形、パワースペクトルの値が現れて いる。
図 5-3-1 丸の内仲通 における歩行加速度と、そのパワースペクトル(被験者 B) 丸の内仲通での歩行において加速度の振幅が大きく出ている。また FFT 結 果では2Hz 付近のパワースペクトルが顕著に多きくなっている。5Hz 付近に 大きくなっている。その他は 3 ∼ 10Hz にかけて小さな山が出ている。
図 5-3-2 八重洲仲通 における歩行加速度と、そのパワースペクトル(被験者 B) 八重洲仲通での歩行において丸の内での歩行に比べ、加速度波形の振幅が小 さいことがわかる。そのため、FFT 結果をみても 2Hz 付近のパワースペクト ルの値が小さくなっていることがわかる。
図 5-3-3 八重洲地下街における歩行加速度と、そのパワースペクトル(被験者 B) 八重洲地下街では、歩行加速度の振幅が小さくなっており、一定の振幅の中 に納まっている。また、パワースペクトルでは 2、3、5Hz 付近にスペクトル の値が高くなっている。 hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
3. 実験結果
5-3 結果
84
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間を評価する感性ワードの評価レベルと感性ワードごとの歩行 加速度の平均値を以下に示す。
表 5-4-1 ポジティブな印象評価と歩行加 ,-./0 +=* )=' !=( CDEF +=* )=' !=( GHF +=* )=' !=( IJKL< +=* )=' !=( MNF +=* )=' !=( O;PQR< +=* )=' !=( STSTU;V<W +=* )=' !=( XYQZF +=* )=' !=( [NK\W +=* )=' !=( ]U]^K\W +=* )=' :;<
123 >?'@A!'( (?@*A*@B @?+(A+!@ >?+@+A@B >?))@++! >?>(@') >?))+)@> >?+))A() >?!B'!+( (?)A@*>( >?B+@'!@ >?)+)')> >?AA)((' >?)+!*+' >?B'@(>+ >?+AB(B >?(+A*@' >?)!AB*( (?(+>>*' >?@>*'* >?**@BBB >?!A**B> >?**(!B >?(+@'!' >?!@(*B >?)*)!)' >?*(B+A) (?'A)>)+ @?)(*BB>
453 *(?@@'() *)?+')A+ *(?)'BA' *!?+A*)) *'?(A*>> *'?@@'+B *)?)AA' *(?*)(@+ *!?'>'!* **?>A!>' *(?)>(!> *'?*'A)( *!?>'*>) *)?@>A+( *>?!**+B *'?(B!@( *'?!*()> *(?)BAA> *'?)*(* *'?@>@@> *!?B+!(B *(?(*!A> *'?')A(' *'?@@))) *!?B*'(B *'?>*>( *'?!(@+' *+?>(B@B *>?A(*>B
67897 A?A+A!B( A?A++(*+ A?A+A@!! A?A+AA+> A?A+!'+' A?AAB>'* A?A++'B' A?AAB@'' A?A++B'* A?A+A>@B A?A+AB() A?A++B@( A?A++()' A?A++'@@ A?AAB!'( A?A+A@(B A?A++@+' A?A+A*B> A?A+A@* A?A++*) A?A++'@@ A?A+*!(' A?A+A>! A?A+++++ A?A++>+( A?A+AB(@ A?A++*)* A?A++''' A?A++(+B
表 5-4-2 ネガティブな印象評価と歩行加速度 _]`F<
abIK\W
cdF
efF
,-./0 +=* )=' !=( +=* )=' !=( +=* )=' !=( +=* )=' !=(
123 >?BA!>!) (?!+@@!! +A?+A*>' >?A((')B >?AA)!A@ @?*BB'!! >?'*A'*) (?@)(@(' @?A+*@* >?()(''B (?(*)B'* B?+A@'*>
453 *'?@!B*) *)?(BA!+ )(?+*@!* *'?(!)B) *)?>AB@> *>?''+*' *!?))@') **?B@!A* *>?A@+' *(?'BB(* *)?A!*!+ *>?)(!*(
67897 A?A++!** A?A+A>A( A?A+*AB A?A+A'*! A?A+*!() A?AAB*'( A?A+*A*> A?A++>!( A?AAB)*@ A?A+A+') A?A+*!A) A?AAB***
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 集計結果
5-4-1 集計結果
85
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
abIK\W
CDEF
GHF
lmU;n
]U]^K\W
cdF
,-./0 +=* )=' !=( +=* )=' !=( +=* )=' !=( +=* )=' !=( +=* )=' !=( +=* )=' !=(
123 >?A((')B >?AA)!A@ @?*BB'!! >?+@+A@B >?))@++! >?>(@') >?))+)@> >?+))A() >?!B'!+( >?!@B*)B >?A!A*)' >?'**>+( (?'A)>)+ @?)(*BB> >?*'*(!@ >?'*A'*) (?@)(@(' @?A+*@*
453 *'?(!)B) *)?>AB@> *>?''+*' *!?+A*)) *'?(A*>> *'?@@'+B *)?)AA' *(?*)(@+ *!?'>'!* *'?!>)>* *'?''+)* *!?B)@)' *+?>(B@B *>?A(*>B *!?>@!(+ *!?))@') **?B@!A* *>?A@+'
67897 A?A+A'*! A?A+*!() A?AAB*'( A?A+AA+> A?A+!'+' A?AAB>'* A?A++'B' A?AAB@'' A?A++B'* A?AAB>+' A?A+)()+ A?A+A)*' A?A++''' A?A++(+B A?A+A)@> A?A+*A*> A?A++>!( A?AAB)*@
表 5-4-4 空間の雰囲気の印象評価と歩行加速度 ,-./0 +=* )=' !=( ghF +=* )=' !=( ijk<V<W +=* )=' !=( XYQZF +=* )=' !=( [NK\W +=* )=' !=( STSTU;V<W +=* )=' !=( MNF
123 >?AA)((' >?)+!*+' >?B'@(>+ >?(A!BA' (?@>!(BB >?)(A>*+ >?'+(+!) >?AB)>() >?(B)B'+ >?!A**B> >?**(!B >?(+@'!' >?!@(*B >?)*)!)' >?*(B+A) (?(+>>*' >?@>*'* >?**@BBB
453 *!?>'*>) *)?@>A+( *>?!**+B *!?)!+B@ **?B+>(* *!?>>'B! *)?B@)A! *)?B)*(* *(?B@>B( *(?(*!A> *'?')A(' *'?@@))) *!?B*'(B *'?>*>( *'?!(@+' *'?)*(* *'?@>@@> *!?B+!(B
67897 A?A++()' A?A++'@@ A?AAB!'( A?A+AB(! A?A+A*A! A?A+*+!@ A?A++AB+ A?A+A@(+ A?A++(*! A?A+*!(' A?A+A>! A?A+++++ A?A++>+( A?A+AB(@ A?A++*)* A?A+A@* A?A++*) A?A++'@@
表 5-4-5 空間に対して抱く感情と歩行加速度 ,-./0 +=* )=' !=( _]`F +=* :;<
123 >?'@A!'( (?@*A*@B @?+(A+!@ >?BA!>!)
453 *(?@@'() *)?+')A+ *(?)'BA' *'?@!B*)
67897 A?A+A!B( A?A++(*+ A?A+A@!! A?A++!**
<
O;PQ
)=' !=( +=*
(?!+@@!! *)?(BA!+ A?A+A>A( +A?+A*>' )(?+*@!* A?A+*AB >?+AB(B *'?(B!@( A?A+A@(B
)=' !=( +=*
>?(+A*@' *'?!*()> A?A++@+' >?)!AB*( *(?)BAA> A?A+A*B> (?)A@*>( **?>A!>' A?A+A>@B
)=' !=(
>?B+@'!@ *(?)>(!> A?A+AB() >?)+)')> *'?*'A)( A?A++B@(
R<
IJKL <
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
4. 集計結果
表 5-4-3 空間の物理的特性に対する印象と歩行加速度
86
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
5-5-1 空間の総合的な印象 空間の総合的な印象を「良い印象―どちらでもない―悪い印象」 で評価したの時の歩行動作の計測結果を以下に示す。有意差 5%で 検定を行ったが、各評価レベル間の差が見られなかった。加速度の 分散値をみると、「良い」か「悪い」かどちらかの感情をを持って いる時に大きな値をとっていて、どちらでもない時に低い値になっ ていることがわかる。一方、周波数成分の比からを見ると良い印象 を持っているほど、大きな値になっていることがわかる。これは歩 行動作の中に小さいしぐさの含まれる割合が多くことを示す。
図 5-5-1 加速度の分散値(空間の総合評価)
図 5-5-2 加速度の HF/LF 比(空間の総合評価)
表 5-5-1 加速度の HF/LF 比(空間の総合評価)
,-./0 123 453 67897 +=* @?+)BB@+ +)!+?*B( A?A+**>) op,)=' >?A>*'+! +**!?>++ A?A+++)( !=( >?>+>(>* +*!+?)! A?A+A>!B
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
5. 分析
5-5 分析:空間の印象と歩行動作の関係
87
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間の印象に関してポジティブな評価・ネガティブな評価した時の歩行動 作の計測結果を以下に示す。有意差 5%で検定を行ったが、各評価レベル間に 差が見られなかった。ポジティブな印象評価の場合、評価レベルが高
くなるほど加速度の分散値が大きくなってる。一方のネガティブな 印象評価の時は、加速度の分散値が高くなり、評価レベルが低い、 すなわちポジティブ要素が多い時が中間の値となり、評価レベル中 の印象のときに最も低い値になっている。 また、ポジティブな印象のときに、「陽気な」、「にぎやかな」な どの空間の雰囲気に関するものが加速度分散値、周波数成分で高い 値をとっている。
図 5-5-3 加速度の分散値(ポジティブ印象)
図 5-5-5 加速度の分散値(ネガティブ印象)
図 5-5-4 加速度の HF/LF 比(ポジティブ印象)
図 5-5-6 加速度の HF/LF 比(ネガティブ印象)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
5. 分析
5-5-2 空間に対するポジティブ印象とネガティブ印象
88
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間の物理的特性に対する印象と歩行動作の計測結果を以下に示 す。有意差 5%で検定を行ったが、評価レベル間の差が見られなか った。 周波数成分の比 HF/LF と印象評価の関係を見ると、「清潔な」に 関する印象評価において、強い印象を持つと、HF/LF が高い値を とっていることがわかる。逆に開放感、圧迫感を感じている時は HF/LF が小さな値になる。同様に、「整然とした」、「まとまりのあ る」という空間の構成に関する印象においても強い印象を持つ時に HF/LF が小さな値をとる傾向が見られた。また、加速度の分散値に 関しては、圧迫感を感じる時に高い値をとることがわかった。
図 5-5-7 加速度の分散値(空間の物理的印象)
図 5-5-8 加速度の HF/LF 比(空間の物理的印象)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
5. 分析
5-5-3 空間の物理的特性に対する印象
89
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
有意差 5%で検定を行ったが、各評価レベル間の差が見られなかっ た。 「陽気な」、「にぎやかな」印象を持った時は、HF/LF の値が低く なることがわかった。逆に「高級な」印象を持つときは HF/LF が 高い値をとっている。その他の印象では各レベルに目立った特徴が 見られなかった。また、加速度の分散値では「陽気な」印象のとき に高い値をとることが見られた。
図 5-5-9 加速度の分散値(空間の雰囲気の印象)
図 5-5-10 加速度の HF/LF 比(空間の雰囲気の印象)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
5. 分析
5-5-4 空間の雰囲気に関する印象
90
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間に対して抱く感情と歩行動作の計測結果を以下に示す。有意 差5%で検定を行ったが、評価レベル間に差が見られなかった。 「感じの良い」、「親しみやすい」印象を持つ時において周波数成分 の比 HF/LF が高くなっていることがわかった。 また、つまらないと感じたときの加速度の分散値が高くなってお り、楽しいと感じている時も同様に高くなっていた。しかし、その 他の感情では強い感情を感じた時に分散値が下がっていた。
図 5-5-11 加速度の分散値(空間に対する感情)
図 5-5-12 加速度の HF/LF 比(空間に対する感情)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
5. 分析
5-5-5 空間に対して抱く感情
91
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間のスケールと歩行動作の計測結果の関係を以下に示す。有意 差5%で検定を行ったが、評価レベル間に差が見られなかった。 しかし、空間に対して「開放感」、「圧迫感」を感じる時、それぞ れにおいて、Hf/Lf 比が小さくなっていることから、歩行動作中に 大きな動きが含まれる割合が多いことがわかる。また、どちらも感 じていない場合は、Hf/Lf 比が大きくなっており歩行動作中に小さ な動作が含まれる割合が多いといえる。これより、「開放感」、「圧 迫感」といった空間スケールに対しての心理的作用があった場合に 歩行動作に一定の傾向があった。
図 5-5-13 加速度の HF/LF 比(開放感のある)
図 5-5-14 加速度の HF/LF 比(圧迫感のある)
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
6. まとめ
5-5-6 空間のスケールに関する印象
92
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 5 章 歩行動作による空間の印象の推定
空間に対して抱く印象を歩行動作から推定することはできなかっ たが、良い印象だけでなく、悪い印象を感じた時にも歩行動作に影 響が現れる傾向がみられた。このことから、良い悪いにかかわらず、 どちらかに強い印象を持った場合、歩行動作が影響をうける可能性 があることを示せた。また、印象の違いによって強イ印象を持った 時に歩行動作が大きくなるもの、逆に小さくなるものが確認できた。 今後、歩行動作における新たな計測手法や分析手法を試す必要が ある。また、 生理計測を行うなど、より詳細な心理状態の測定を行うことが求め られると思われえる。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
6. まとめ
5-6 まとめ
93
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第6 章
総括 1 研究のまとめ 謝辞 参考文献
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
第 6 章 総括
第 6 章 総括
6 総括 本研究の結果より、空間移動時の歩行動作による人間の心理状態 の推定に関する基礎的な知見を得られた。 人間の内的な要因である行動目的の推定に関しては、歩行速度に より推定することができた。また、行動目的の明確さや意欲の強さ に応じて歩行速度が変化することが示された。 場所との対応付け を行うことで、行動目的を絞り込み、様々な行動目的の歩行速度に よる推定が今後期待される。 次に、人間の内的な要因と環境からの外的な要因によって形成さ れる不安感については、歩行時の身体の加速度変化からの推定の有 効性が確認できた。また、立ち止まりの直前動作の推定ができたこ とから、直前動作の推定から行動予測を行える可能性を示すことが できた。 空間の印象と歩行動作に関しては、明確な結果を示すことができ なかったが、「良い―悪い」など強い印象を抱いている時ほど、歩 行動作に影響を与えているということがわかった。
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
95
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
謝辞 渡辺仁史研究室の門をたたいてからはや 3 年の月日が経過しまし た。渡辺先生からは様々な刺激やご指導をいただき、とても多くの ことを学びました。先生のあらゆることへ尽きない興味、物事の捉 え方のシャープさなど、大変多くのことを学びました。 また、研究室の他の先生方からの多大なるサポートに感謝申し上 げたいと思います。行動モデルゼミの林田先生には、研究でいきず まったときなど、日頃より方向性を示す的確なアドバイスをいただ きました。長澤さんには時にやさしく、時に厳しく励ましとご指導 をいただきました。そして遠田さんには、いろいろな面でお世話に なりっぱなしでした。 行動モデルゼミの同期の増田君、平居君、松本さん、M1の阿部君、 卒論生の松井君、森谷くん、水口さん、西君、皆さんとは、様々な 活動を通じて楽しい時を過させてもらいました。特にM1の阿部君 には修論の苦しいときに様々な形でサポートしてもらいました。み んな、ありがとう!そしてお疲れ様でした。 最後に、これまで 24 年間、自分を育ててくれた両親に感謝の意を 表したいと思います。 2009 年 2 月 5 日 五代智哉
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
第 6 章 総括
96
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 6 章 総括
参考文献 <身体動作と感性情報> 文 1)多田昌裕、納谷太、野間春生、鳥山朋二、小暮潔 : 日常動作からの感性 情報抽出の試み、( 株 ) 国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 知識科学研究所 文 2)小林裕一、大谷淳 : 身体動作解析による感情要素の抽出に関する考察、 凸版印刷株式会社 総合研究所 情報技術研究所、早稲田大学大学院国際情報 通信研究科 文3)伊藤美穂、松本直司 : 都市における街路空間の魅力と歩行速度の関係、 日本建築学会大会学術講演梗概集、2008 年 ,E-1 分冊 ,p.589 文4)田中学、中村誠、渡辺剛、金本益男:歩行動作についての分析、東京都 立大学体育学研究、Vol.1.2、No.7、pp.111 ∼ 118、1979 文5)池田克紀:ウォーキングの本、岩波書店、pp34 ∼ 45、1996 文6)Peter E.,“Posture and Gesture,”Pergamon Pree,1987 文 7)Arbert Meherabien., “Nonverbal communication,”Chicago :Aldine-Atherton,1972. 文 8)Marjorie F. Vargas, LOUDER THAN WORDS - An Introduction to Nonverbal Comunication -(1987)(非言語コミュニケーション(石 丸正 訳)、新潮選書(1987)) 文 9)Miles L. Patterson, Nonverbal Behavior, A Functional Perspective, Springer-Verlag, NY (1983) ( 非言語コミュニケーションの基礎理論(工藤力 監訳)、誠信書房(1995)) 文 10)Albert Mehrabian, Silent messages: Implicit communication of emotions and attitudes (2nd ed.), Wadsworth, CA (1981)(非言語コミュニ ケーション(西田司他共訳)、聖文社(1986))
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
97
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 6 章 総括
<歩行速度> 文 11)日本建築学会編:建築設計資料集成 3 単位空間 1、丸善 文 12)清田真矢、松本直司、渡辺悠司:街路空間特性と歩行速度の関係 : 街 路空間特性と歩行速度に関する研究 ( その 2)( 歩行・群集 , 建築計画 I)、学術 講演梗概集 . E-1Vol.2007(20070731) pp. 949-950 、社団法人日本建築学会 文 13)渡辺悠司、松本直司、清田真矢:街路の空間形態・断面形状・視覚的要素・ 構成要素と歩行速度の関係 街路空間特性と歩行速度に関する研究 ( その 1)( 歩 行・群集 , 建築計画 I)、 学術講演梗概集 . E-1、2007、pp.947-948、社団法人日本建築学会 文 14)木村俊哉 樋口忠彦 黒田祐孝:街路空間と来街者特性の関係につい ての研究、1992 年度日本建築学会北陸支部研究報告集第 35 号 文 15)入船百弘 加原康通 舟橋国男 紙野桂人:環境条件に応じる行動変 化に関する研究 - 街路と地下街における歩速・距離感の比較 -、1985 年度日本 建築学会近畿支部研究報告集 文 16)田中真 鈴木弘之 田村明弘:道路緑化の歩行行動に及ぼす影響 その 1- 単独歩行者の歩行速度と歩行経路について - 1988 年度日本建築学会学術講 演梗概集 文 17)紙野桂人 加納誠恵:街路における自由歩行 ( 環境条件と歩速の変化 )、 1977 年度日本建築学会近畿支部研究報告集計画系 文 18)渡辺仁史:建築計画における行動シミュレーションに関する研究 文 19)千秋幸司:空間体験における時間知覚の研究、1999 年度早稲田大学渡 辺仁史研究室卒論 文 20)丹羽俊介 西出和彦:歩行時間における空間の距離認知に関する研究、 1999 年度日本建築学会大会学術講演梗概集
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
98
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 6 章 総括
<加速度センサ 動作推定> 文 21)林 智天 , 川原 圭博 , 田村 大 , 森川 博之 , 青山 友紀, " コンテキスト適応型コンテンツ配信サービス CoCo の実装 ," 電子情報通信学 会ソサイエティ大会 ,B-20-11, September 2004. 文 22) Y. Kawahara, T. Hayashi, H. Tamura, H. Morikawa, and T.Aoyama, "A Context-Aware Content Delivery Service Using Off-the-shelf Sensors," In Proceedings of TheSecond International Confernce on Mobile Systems,Applications, and Services (Mobisys 2004), (Poster Presentation), Boston, U.S.A., June 2004. 文 23)Toshiki Iso, Norihiro Kawasaki, and Shoji Kurakake, "Personal Context Extractor with Multiple Sensor on a Cell Phone," The 7th IFIP International Conference on Mobile and Wireless Communications Networks, D. 2 C200525, Morocco, September 2005. 文 24)市川 和豊 , 井澤 裕司 , 北澤 俊二 , 芳川 美代子 , 浜淳," 426 人体の 行動識別が可能な腕時計型装置の開発 ," バイオエンジニアリング講演会講演 論文集 ,2003(15), pp325-326, 2003
<状態把握・推定> 文 25) 大内一成、鈴木琢治、土井 美和子 :LifeMinderR: ウェアラブル健康管 理システムにおける腕時計型生体センサの高機能化 / 低消費電力化、株式会社 東芝 研究開発センター マルチメディアラボラトリー 文 26) 倉沢央、川原圭博、森川博之、青山友紀 : センサ装着場所を考慮した 3 軸加速度センサを用いた姿勢推定手法、東京大学大学院 文 27) 鵜沼宗利、宇佐美芳明、野中士郎 : 加速度センサを用いた人間の歩行動 作の認識手法、電気学会論文誌 . A, 基礎・材料・共通部門誌 Vol.118, No.3 (19980300) pp. 218-226 文 28) 金杉洋、小西勇介、柴崎亮介 : ウェアラブルセンサによる人体動作の計 測と行動モードの識別、東京大学空間情報科学研究センター
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
99
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究
第 6 章 総括
<加速度データ 動作の評価方法> 文 29)萩原礼紀、吉田行弘、神野英毅、勝田基嗣、柴田泰河:変形性膝関節 症患者とリウマチ患者における椅子から立ち上がる動作波形の比較、日本大学 医学部 文 30)小島基永:加速度計を用いた高齢者歩行の安定性評価(動作の円滑さ という視点から):バイオメカニズム学会誌 vol.30、pp.138 ∼ 141、2006
hitoshi watanabe lab. waseda univ. master's thesis 2008
100
空間移動時の歩行動作による心理状態の推定に関する研究