U9910 早稲田大学理工学部建築学科卒業論文 指導教授:渡辺仁史
空間体験における時間知覚の研究 - A study of time perception in spatial experience -
G96D112-4 千秋 幸司
Department of Architecture, School of Science and Engineering, Waseda University
はじめに
時間の速さとは何か? 小学生の頃、あれほど長かった1年が、今はあっという間に過ぎ去る。夏休みの最初 の1日は、とてものんびりと時間が流れるのに、半分を過ぎると残りはあっという間に 終わってしまう。 私達は、こういった感覚を確かに実感している。 しかし、当たり前のことであるが時間自体には速さがない。あえて時間に速さを与え ようとすれば、時間はいつでも秒速1秒の速さであると言うほかはないだろう。 ではなぜ、私達は時間に異なった速さを感じるのであろうか? それは、 「物理的な時間、つまり時計がはかる時間」と「私達が体感する時間」とは 『同じ呼び方で呼ばれるまったく別の存在』であることに由来する。 下の図(図1-1)は、時間の速さが生じるメカニズムを示したものである(文献1)。 縦軸に「客観的な時間」 、横軸に「体感した時間」をとって時間体験をグラフにして いる。私達は、時間を1次元的なもの(線)としてではなく、2次元的なもの(面)と して認識しているため、その速さを感じるのである。
図1-1 [時間の速さのメカニズム]
本研究の最終的な目標は、空間計画による時間体験のデザインである。 関連文献を調査するうちに、人間の認識する時間が平面的であることを知った。本研 究では、時計がはかる時間(横軸)とは別の時間である「体感時間(縦軸)」に着目し、 その特性を解明していくことで、時間体験のデザインという最終目的に、アプローチし ていきたい。
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目次
はじめに 1 目次 2 1章 序論
3
1_1 研究背景
4
1_2 研究目的
5
1_3 研究概要
6
2章 文献調査
7
2_1 調査の概要
8
2_2
空間計画における知覚特性
9
2_3 様々な時間と知覚時間
11
2_4 文献調査のまとめ
19
3章 実験による検証
20
3_1 実験の概要
21
3_2 知覚時間因子1に関する実験
24
3_3 知覚時間因子2に関する実験
37
4章 まとめ
43
4_1 全体考察
44
4_2 建築計画への提案
50
4_3 今後の展望
51
参考文献 終わりに
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52 53
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1章 序論
1 章 序論
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1章 序論
1 _ 1 研究背景
視覚や聴覚による空間の認知研究はさかんに行われ、建築計画へも応用され ている。しかし、人間の体験において本来空間と一体であるはずの時間の知覚 研究は建築の分野では行われておらず、また、知覚心理学の分野においてもモ デル設定やシステム全体の理解、制御が困難であるため体系的な研究は進んで はいない。特に、本研究のような空間体験における時間知覚の研究は、未だ見 受けられない。 人間の空間体験における時間知覚を考えるところに新しい計画理論の契機が あると感じた。
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1章 序論
1 _2 研究目的
研究背景で説明したように、人間の知覚時間のモデル形成やシステム全体の 理解、制御は極めて困難であり、その意味で知覚時間研究には明確な解がない。 このような問題を扱う場合、 「知覚時間とは何か」といったような問題の立て方 はよりいっそう多義的で混沌とした状況に陥ることになる。 そこで本研究では、問題の解を絞り込むために、関連文献を調査し、空間体 験において知覚時間との相関性が予想される因子を類推する。 そして、様々な実験によってその効果、特性を明らかにし「時間体験のデザ イン」という新しい切り口に立った、計画理論への有効な指針を示すことを目 的とする。
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1章 序論
1 _ 3 研究概要
文献調査
実験による検証
まとめ
図1-2 本研究の流れ
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2章 文献調査
2 章 文献調査
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2章 文献調査
2 _ 1 調査の概要
2 _ 1 _ 1 調査の目的 本章では、 「空間計画による時間体験のデザイン」という本研究の最終的な目 的のために、関連分野の文献調査によって空間体験における知覚時間因子を設 定する。
2 _ 1 _ 2 調査の概要 「2_2 空間計画における知覚特性」では、知覚心理学の分野において人間 の空間知覚というものについてどのようなことが研究され、それが空間計画に おいてどのような意義があるのかを理解する。 「2_3 様々な時間と知覚時間」では、時間の概念について様々な視点から 調査した後、知覚心理学の分野で、過去に知覚時間に関するどのようなモデル が提唱されているのかを調査する。 「2_4 文献調査のまとめ」では、以上の調査結果をもとに3章で実験の対 象となる空間体験における知覚時間因子を設定する。
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2章 文献調査
2 _ 2 空間計画における知覚特性 まず、人間の知覚における特徴的な現象である「知覚的順応」に着目し、こ れを検証することで空間計画における知覚研究の意味を明らかにしたい。 2 _ 2 _ 1 主体の知覚特性と環境 下のグラフ(図 2-1)は人間の色の知覚に関する、色順応モデルである(文献 2)。横軸に光の波長(刺激) 、縦軸に主体が知覚した色(判断)をとっている。 実線で示されているのが、日常的な環境のなかで生活している人の判断結果、 破線で示されているのが壁、天井、床がすべて赤く塗られた部屋に長時間滞在 した人の判断結果である。
図2-1 「視覚の色順応」 上:赤への色順応を示す心理物理関数(実線:順応前、破線:順応後) 下:環境の色分布(実線:自然の状態、破線:赤く塗られた部屋)
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2章 文献調査
実線のグラフに比べて、破線のグラフは右にずれている。つまり、前者が赤 と知覚した波長の光を、後者は白と判断したり、前者が白と判断した光を後者 は緑と判断している。この実験結果が示すことは、 『色とは「モノに帰属される 性質」ではなく、知覚される側としてのモノ(あるいは環境)の特性と知覚す る側の人間の視覚特性との「相互作用から形成される性質」である』というこ とである。このことは光に限らず、人間にとっての環境を形成する他の刺激に ついても同様である。 つまり、主体の知覚特性が明らかにならなければ、空間の性質を特定するこ とはできない。ここに、空間計画における知覚研究の重要性があると考えられ る。
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2章 文献調査
2 _ 3 様々な時間と知覚時間
2 _ 3 _ 1 知覚と認知
心理学の分野における知覚と認知の区別として、一般に 知覚・・・特定の器官が物理的(視覚、聴覚、触覚) ・化学的(嗅覚、味覚) 刺激の入力パターンによって、神経系がほぼ自動的に環境を解釈 する。 認知・・・そのときどきの知覚に加え、知識や予見などの情報から総合的に 状況を判断する。 と定義されている(文献 3)。 この意味では、本研究であつかう「感じた時間の長さ」とは人間が特定の器 官で知覚されたものではなく、様々な刺激や記憶の複合的な処理の結果である ことから、確かに認知的な要素も含んでいると思われる。 しかし、認知時間としてしまうと、その要因として、快適、不快などのよう な精神的な側面も考慮に入れることになり因子の絞り込みが難しい状況となる。 そこで、本研究では「感じた時間の長さ」を「知覚時間」と統一して取り扱 うこととする。
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2章 文献調査
2 _ 3 _ 2 建築空間論における時間概念
建築空間論における時間概念の導入を論じたものとして、上松佑二氏が「建 築空間論:その美学的考察(文献 4)」のなかでヨアヒム・ペッチの「ブロック とリズム」を紹介している部分を引用する。
ヨアヒム・ペッチの『ブロックとリズム』 (1970)は19世紀から 20世紀への 転換期の建築を扱っている。 「ブロック」とは、完結した閉鎖的で静的な存在で あり、 「リズム」とは、これに対して運動を持つ、流れるような時間的存在を指 している。1910 年までは、 「ブロック」の理念が、19 世紀を規定するが、フラ ンク・ロイド・ライトのマルティン邸(1904) 、グロピウスのアルフェルトの工 場建築(1911) 、アドルフ・ローフのショイ博士邸(1912)の出現とともに、19 世紀の「量塊建築」は終焉し、行動的、ダイナミックな「空間建築」がはじま るという。機能と運動が新しい造型の出発点となり、美的カテゴリーもまた「空 間=時間」的なものとなる。 「ブロック」としての建築における「空間」は、 「等 質的・絶対的・静的・硬化的・幾何学的・ユーグリット的な空間」であるのに 対し、「リズム」としての建築における「空間」は、「相対的・動的・律動的・ 開放的な空間」なのである。後者においては、空間の質が時間的となり、 「建築 は空間化された時間になる」という。 上松佑二「建築空間論・第4章建築空間の系譜より」
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2章 文献調査
同じく、建築空間論における時間概念の導入を論じたものとして、上松佑二 氏が「建築空間論:その美学的考察(文献4) 」のなかでウェルナー・ハーガー の「建築と表現芸術における空間形成について」を紹介している部分を引用す る。
ウェルナー・ハーガーは、その著書のなかで、空間そのものは表現され得な いが、体験はされること、またあらゆるフォルムは空間的であることによって、 その周囲に「意味の局面」を生み出していることを指摘した。 「空間」とは事物 が存在する以前に与えられ、その存在を可能にするような、カント的、抽象的 な形式ではなく、過程や行為、運動や出来事がその中で行われる「場」として とらえている。 「あらゆる建築作品は、現実空間の中にたっており、外部に歩き 回る空間と内部に歩み入る空間をもっている。美的空間と現実空間との事実的 な同一性の中に、建築的造型の課題がある。ウェルナー・ハーガーの「空間」と は、 「統一的で全てを意味するレアリテート」である。 「空間体験は時間の中で」 行われ「時間体験は空間の中で」行われることによって、観者はいわゆる「時 間と空間」、つまり「前芸術的な現実条件」を忘れてしまい、より高次な空間= 時間空間が「美的現実」を構成することになる。 上松佑二「建築空間論・第4章建築空間の系譜より」
このように 19 世紀から 20 世紀にかけて、建築意匠計画の分野で、流れ、変 化、動き、リズムなど、主体の空間体験という概念のなかで、時間軸の導入が 見られるようになる(動的な建築意匠の出現)。 しかしながら、本来、周期的、連続的、断続的、心理的、物理的など細かく 整理されて用いられるべき時間の概念は、依然として多義的な意味で使われて おり、建築空間における時間をめぐる状況は渾沌とした状況を脱していないよ うに見受けられる。 そこで次項では、空間体験における時間概念の分類・整理をおこなう。
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2章 文献調査
2 _ 3 _ 3 空間体験における時間の分類
通常、建築計画などの分野で空間軸に対する時間軸を扱う場合は、時間の流 れを現象的なものととらえ、物理的な時間、つまり時計が計る時間が絶対的も のとして1次的に表記される。 例えば、下の図2-2はフィリップ・シールによる体験の記述、図2-3は位置を xy平面で時間をz軸で表現した体験の記述である。 (当然ではあるが)時系列は 1次元的なものである。
図2-2 体験の記述
図2-3 体験の記述
しかしながら空間体験を、 「主体を取り巻く環境」と「環境を認知する主体」 の相互作用によって成立するものと考える場合、物理的な時間を唯一の時間と 考えることはできない。それは、人間が時間を正確に計れない、つまり認知で きないことに由来する。
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2章 文献調査
2 _ 3 _ 4 知覚時間軸による体験の記述
知覚という観点から、空間体験を考える場合以下に示す3種類の時間の存在 について考慮しなくてはならない。 1、現象としての時間・・・時計が計る時間 2、 客観的時間 ・・・個人が了解しているある単位時間の長さ(個人に固有) 3、知覚(体感)時間 ・・・実際に感じている時間の長さ 本論文「はじめに」の欄で紹介した、時間速度の図は、この2と3の時間の ずれを用いたものである。(図 2-4 参照)
図2-4 [時間の速さのメカニズム]
通常1次的に表記される時間であるが、通常ある一人の人間が時間を理解す る場合、客観的な時間(縦軸)と知覚時間(横軸)の2つの時間を平面的に理 解していると言える。つまらない会議の時間が長く感じたりするように、物理 的にはあり得ない時間の速さを感じるのは、 「知覚時間」と「客観的な時間」に 『ずれ』があるためである(文献 1)。 従来の建築空間研究における体験の記述は、主体についての出来事を記述し ているにも関わらず、 「複数の時間が存在する」という視点が欠如していると考 えられる。そこで次に、複数の時系列による体験の記述を試みたい。
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2章 文献調査
例えば、下の図2-5のような分速100mの等速移動で300m歩いた主体の体験 を記述する。友人と一緒にいる時は時間を短く、一人で歩いている時は時間を 普通に、ストーカーに追われている時は時間を長く感じているものとする。
図2-5 記述される体験
図2-9が人間の空間体験において、複数の時 系列が存在していることを考慮した、2本 の時系列による空間体験の表記である。 また、 図 2-6[x 軸:客観的時間]-[y 軸:知覚時間] 図 2-7[x 軸:客観的時間]-[z 軸:移動距離] 図2-6 [客観的時間]-[知覚時間]
図 2-8[y 軸:知覚時間]-[z 軸:移動距離]は それぞれ、図 2-9 の x-y 平面、x-z 平面、y-z 平面への投射図となっている。
図2-7 [客観的時間]-[移動距離]
図2-9 2つの時系列による体験の記述
図2-8 [知覚時間]-[移動距離]
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2章 文献調査
2 _ 3 _ 5 知覚時間モデル 時間は、たとえ短い時間であっても、そのことが意識されたときには、もう すでに過去のものとなっている。したがって、知覚時間は必ずなんらかの記憶 の働きに依存していると考えざるを得ない。どのような記憶内容が知覚時間の 「因子」として作用しているのかが、知覚時間研究においては常に中心的な問題 となっている。 睡眠時などに極めて正確に作動するような体内時計を仮定するモデルを除く と、現在提唱されている知覚時間モデルは大きく2つに大別できる。 一つは、オルスタインに代表される「記憶- 蓄積モデル」 (1969/1975) 、もう 1つはフレスに代表される「記憶 - 変化モデル」(1963)である。 ◆「記憶 - 蓄積モデル」 このモデルを代表するのは、オルンスタインの蓄積容量説である。これは入 力された情報(I)の処理結果が記憶に保存されている量を知覚時間の因子と した説である。しかしこの説は、蓄積容量を量的に定義できないという欠点が ある。つまり、この蓄積容量は単に概念的に仮定されたものにすぎない。 一方、トーマスとウィーバーはこの説の欠点を補う形で図2-10のようなモデ ルを提出している。これは、入力情報(I)のかわりにそのIの処理に要した 時間g( I )を知覚時間因子としたモデルであり、また「記憶 - 蓄積モデル」「記 憶-変化モデル」の統合モデル的な側面がある。しかしながら、このモデルには 注意の量(推定することが困難)などの問題がある(文献 9)。
図2-10 トーマスとウィバーのモデル
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2章 文献調査
◆「記憶 - 変化モデル」 このモデルは、フレスに代表されるように、同じ持続時間であっても、その 時間内に提示される光の数や音の数によって知覚時間が異なる、つまり主観的 な変化の数によって知覚時間がことなるというモデルで、 「変化の数」を知覚時 間の因子として設定している。 その後、ブロックなどによって、提示された情報の単なる変化だけではなく、 物理的、生理的な環境の変化、心理的な環境の変化なども考慮すべきであると 指摘されている(文献 8,9)。
これらの理論を空間体験における知覚時間に置き換える方法を模索してみる と「記憶-蓄積モデル」の適応は考えにくい。例えば、入力情報を視覚に絞った 場合でも、蓄積容量の定義と注意の量の推定が困難なためである。 したがって「記憶-変化モデル」の適応が妥当と考えられる。しかし、このよ うな変化の数の効果を確かめた実験は、ディスプレイ上の光点などの離散的、 断続的な刺激によるものであった。空間体験における視界のように、刺激が連 続的で空間的なものである場合は、 「変化の数」よりも明解で、限定された因子 の設定が必要であると考えられる。 以上のことを考慮し、次項では空間体験における知覚時間因子を設定する。
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2章 文献調査
2 _ 4 文献調査のまとめ / 知覚時間因子の設定
前項で考察した通り、フレスの「記憶-変化モデル」をもとにして空間体験に おける知覚時間因子を設定する。 この「変化の数」の効果を確かめた実験は、ディスプレイ上の光点などの離 散的、断続的な刺激によるものであった。しかし、主体の空間移動における視 界のように、刺激が連続的で空間的なものである場合、 「変化の数」よりも明解 で、限定された因子の設定が必要であると考えられる。 そこで本研究では、このフレスの「変化の数」の仮説に加えて、<時間とは 無関係な情報そのものの処理結果に注目するのではなく、時間の経過の中でそ の情報に含まれている変化をどの程度意識したかという処理結果に注目した> というブラウンの研究成果(1995)を考慮し、空間体験における知覚時間因子 を設定した。また、当然ではあるが最終的に建築計画に反映させることも考慮 した。 本研究で設定した空間体験における知覚時間因子と従来の知覚時間因子の位 置付けは下の図 2-11 に示す通りである。
図2-11 本研究における知覚時間因子の設定
次章では、本項で設定した空間体験における知覚時間因子の効果と特性を 様々な実験により検証する。
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3章 実験による検証
3 章 実験による検証
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3章 実験による検証
3 _ 1 実験の概要
3 _ 1 _ 1 実験の目的 文献調査によって設定した2つの空間体験における知覚時間因子、 「1:視界を通過したオブジェクトの数」 「2:視点の移動速度の変化」 の効果や特性を明らかにする。
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3章 実験による検証
3 _ 1 _ 2 語句の定義 知覚時間因子:空間体験において、人間の知覚時間を構成する要因の1つと考 えられる事柄。前項の文献調査によって、 「1:視界を通過したオブジェクトの数」 「2:視点の移動速度の変化」 の2つを設定した。 オブジェクト:人間が1つの固まり、単位として認知できる空間的、立体的物 体のこと。例えば建築空間においては、柱や目地、照明、サイ ンなどがそれにあたる。 精神測定関数:知覚の測定方法として、横軸に刺激の強度(s) 、縦軸に知覚判 断(P(s))をとり、sとP(s)の関係のグラフがS字型の関数 になった場合、その関係は精神測定関数と呼ばれ、知覚実験と して論理的な妥当性を有する。(文献 10)(図 3-1 参照) ウェバー・フェチナーの法則 :精神測定関数に附随して「知覚の大小は、刺激の強さの対数に 比例する」という法則。つまり、横軸に刺激強度の対数(log (s)) 、縦軸に知覚判断P(s)とり、log(s)とP(s)のグラ フが直線的な単調増加となった場合、知覚判断の実験として、 より一層、論理的な妥当性があると言える。(文献 10)(図 3-2 参照)
図3-1 精神測定関数のグラフ型
図3-2 ウェバー・フェチナーの法則
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3章 実験による検証
3 _ 1 _ 3 実験の方法 本研究における実験は、被験者に仮想空間のWalk-through-movie を見てもら い、その感性情報を分析した。 実験の概要は以下の通りである。 ■被験者 建築学科の学生30人(1 _ 1、2 _ 1) 建築学科の学生25人(1 _ 2、1 _ 3、2 _ 2) ■実験内容 下の図3-3は、 実験1において被験者に見せたムービーの1つを図解したもの である。視点は空間モデルの中を等速で移動している。 ムービーは全部で8秒であり、ちょうど真中の4秒の地点で視界から目印 (黒い柱)が消える様に設定されている。 0秒から4秒までに視界を通過する柱の数は2本で、これを基準の刺激とし て固定する。そして、4秒から8秒までに視界を通過する柱の数を実験のパラ メータとして変化させる。 被験者には、AB間の時間の長さとBC間の時間の長さの比率を判断しても らった。
モニター
空間モデル と カメラ位置
設定条件
時間
図3-3 実験1_1で使用したムービー 早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁史研究室 1999年度卒業論文
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3章 実験による検証
■調査用紙への記入 被験者には図 3-4 のような記入用紙に知覚した時間を記入してもらった。 ムービーの再生時間をあらわす[帯AC]にBの瞬間を記入してもらった。 例えば、図 3-5 のように記入した場合、 [知覚時間AB]:[知覚時間BC]= 8.5:11.5 ということになる。
図3-4 記入用紙
図3-5 記入例
■ムービーの基本的な設定 空間モデルにおける視点の高さ :150cm 柱の高さ :300cm 柱のスパン :300cm 道幅 :300cm 歩行速度 :300cm/ 秒 (実験の種類により各項目を変更する場合がある)
すべての実験は、ほぼ同様な方法でおこなったが、各実験はその目的に合わ せて、多少条件を変えているので、それぞれの項において実験の補足説明をお こなう。
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3章 実験による検証
3 _ 2 知覚時間因子1に関する実験
3 _ 2 _ 1 「視野を通過したオブジェクトの数」-「知覚時間」の相関 本実験では、前章で設定した知覚時間因子の1つである「視界を通過したオ ブジェクトの数」と「知覚時間」の相関について検証した。
実験1 「視野を通過したオブジェクトの数」と「知覚時間」の相関 1)実験 1 _ 1 基準の刺激速度:0.5 [本 / 秒] ■方法 図 3-6 は実験 1 _ 1 で被験者に見せたムービーの1つである。 0秒から4秒地点までに視界を通過する柱の数を2本に固定し、4秒から8 秒地点までに視界を通過する柱の本数を、パラメーターとして変化させて、被 験者の知覚時間を測定した。
(実験のパラメーターとして変化させる) 時間
図3-6 実験1に使用したムービー
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3章 実験による検証
■結果 縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数BC]/[視界を通過した柱の数AB] をとって、 [視界を通過した柱の数]と[知覚時間]の相関を評価したものが図3-7の グラフである。
1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
通過したオブジェクト数 [BC/AB]
図3-7 視界を通過した柱の数-知覚時間 (基準刺激:0.5本/秒)
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3章 実験による検証
刺激量が指数的に増加する場合の知覚特性を検証するために、 縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数 BC] / [視界を通過した柱の数AB]の常用対数 をとり、[視界を通過した柱の数]と[知覚時間]の相関を評価したもの示したもの が図 3-8 のグラフである。
1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 -0.4
-0.2
0 0.2 0.4 視界を通過した柱の数 [log10(BC/AB)]
0.6
0.8
図3-8 視界を通過した柱の数-知覚時間 (基準刺激:0.5 本/秒)
図3-7、図3-8より視界を通過したオブジェクトの数によって知覚時間が影響 をうけることが確認できた。相対的に、単位時間当たりに視界を通過したオブ ジェクトの数が多いほど知覚する時間は長くなる。 またグラフ型は、図3-7では精神測定関数的なS字型のグラフであり、図3-8 においては単調増加の直線である。これは実験結果が知覚実験として妥当であ ることを示している。
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3章 実験による検証
2)実験 1 _ 2 基準の刺激速度:1[本 / 秒]
■方法 実験 1_2では、0秒から4秒地点までに視界を通過する柱の数を4本に固 定し、4秒から8秒地点までに視界を通過する柱の本数を、パラメーターとし て変化させて、被験者の知覚時間を測定した。 ■結果 縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数BC]/[視界を通過した柱の数AB] をとり、[視界を通過した柱の数]と[知覚時間]の相関を評価したものが図 3-9 の グラフである。 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0
0.5
1
1.5 2 2.5 視界を通過した柱の数 [BC/AB]
3
3.5
図3-9 視界を通過した柱の数-知覚時間(基準刺激:1本/ 秒)
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3章 実験による検証
刺激量が指数的に増加する場合の知覚特性を検証するために、 縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数BC] / [視界を通過した柱の数AB]の常用対数 をとり、[視界を通過した柱の数]と[知覚時間]の相関を評価したものが図3-10の グラフである。
1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 -0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
視界を通過した柱の数 [log10(BC/AB)]
図3-10 視界を通過した柱の数-知覚時間(基準刺激:1 本/秒)
図3-9、図3-10より本実験でも視界を通過したオブジェクトの数によって知覚 時間は影響をうけることが確認できた。相対的に、単位時間当たりに視界を通 過したオブジェクトの数が多いほど知覚する時間は長くなる。 またグラフ型は、図3-9では対数関数的なグラフ型(S字の1部と見なせる) であり、図3-10においては単調増加の直線である。これは実験結果が知覚実験 として妥当であることを示している。
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3章 実験による検証
3)実験 1 _3 刺激速度:2 [本 / 秒]
■方法 実験 1 _ 3 では、0秒から4秒地点までに視界を通過する柱の数を4本に固 定し、4秒から8秒地点までに視界を通過する柱の本数を、パラメーターとし て変化させて、被験者の知覚時間を測定した。
縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数BC]/[視界を通過した柱の数AB] をとり、[視界を通過した柱の数]と[知覚時間]の相関を評価したものが図3-11の グラフである。 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
通過した通過した柱の数 [BC/AB]
図3-11 視界を通過した柱の数-知覚時間(基準刺激:2 本/秒)
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3章 実験による検証
刺激量が指数的に増加する場合の知覚特性を検証するために、 縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数 BC] / [視界を通過した柱の数AB]の常用対数 をとり、[視界を通過した柱の数]と[知覚時間]の相関を評価したもの示したもの が図 3-12 のグラフである。
1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2
-0.8
-0.6
0 -0.4 -0.2 0 0.2 視界を通過した柱の数 [log(BC/AB)]
0.4
0.6
図3-12 視界を通過した柱の数-知覚時間(基準刺激:2 本/秒)
図3-11、図3-12より本実験でも視界を通過したオブジェクトの数によって知 覚時間は影響をうけることが確認できた。相対的に、単位時間当たりに視界を 通過したオブジェクトの数が多いほど知覚する時間は長くなる。 また、グラフ型は、図3-11では対数関数的なグラフ型(S字の1部と見なせ る)であり、図 3-12 においては単調増加の直線である。 これは実験結果が知覚実験として妥当であることを示している。
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3章 実験による検証
各実験の比較 下の図3-13は、基準となる柱の通過速度をかえておこなった各実験1_1、1 _ 2、1 _ 3 で得られたグラフを、同一座標上に並べて比較したものである。
0.5回/1秒 多項式 (0.5回/1秒)
1回/1秒 多項式 (1回/1秒)
2回/1秒 多項式 (2回/1秒)
1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0
1
2
3
4
視界を通過した柱の数 [BC/AB] 図3-13 視界を通過した柱の数-知覚時間
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3章 実験による検証
刺激量が指数的に増加する場合の知覚特性を検証するために、 縦軸に[知覚時間 BC] / [知覚時間 AB] 横軸に[視界を通過した柱の数 BC] / [視界を通過した柱の数 AB]の常用対数 をとり相関を評価した各実験のグラフを、同一座標上に並べて比較したものが 図 3-14 である。 0.5回/1秒 線形 (0.5回/1秒)
1回/1秒 線形 1.8 (1回/1秒)
2回/1秒 線形 (2回/1秒)
1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 -0.8
-0.6
-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 視界を通過した柱の数 [log10(BC/AB)]
0.6
図3-14 視界を通過した柱の数-知覚時間
図3-14において刺激速度が0.5[本/秒]の場合は、3.5倍くらいまで相関が見ら れるのに対して、刺激速度が 2[本 / 秒]の場合は 2.5 倍くらいでグラフが頭打ち になる。このことから、刺激速度が 2 × 2.5 =5[本 / 秒]以上になると、 [視野を 通過したオブジェクトの数]と[知覚時間]の相関が薄れてしまうことが分かる。
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3章 実験による検証
3 _ 2 _ 2 「オブジェクトの視野占有率」による知覚時間の影響 前節において、 「視界を通過したオブジェクトの数」が「知覚時間」へ影響を およぼすことが確認できたことを受けて、本実験ではそのオブジェクトの視界 占有率が知覚時間におよぼす影響について検証した。 実験 視界を通過するオブジェクトの視野占有率による知覚時間への影響 ■方法 3 _ 2 _ 1 と同様の実験を以下の2つの条件でおこなう。 1つは図 3-15 のように道幅が3mのモデル空間のムービーを用いる。 この場合、柱1本の視野占有率が最大 10%になる。 もう1つは図 3-16 のように道幅が6mのモデル空間のムービーを用いる。 この場合、柱1本の視野占有率は最大 2.5%になる。
道幅3m 柱の視野占有率 :最大約10%
図3-15 道幅3m
道幅6m 柱の視野占有率 :最大約2.5%
図3-16 道幅6m
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3章 実験による検証
■結果 縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数BC]/[視界を通過した柱の数AB] をとり、[視界を通過したオブジェクトの数]と[知覚時間]の相関を評価したのが 図 3-17 のグラフである。
幅3m(視覚占有率:最大約10%)
幅6m(視覚占有率:最大約2.5%)
1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8 0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
視界を通過した柱の数 [BC/AB]
図3-17 柱の「視野占有率」の影響
縦軸に[知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[視界を通過した柱の数 BC] /[視界を通過した柱の数AB]の常用対数 をとり相関を評価したのが図 3-18 のグラフである。 幅3m(視覚占有率:最大約10%) 線形 (幅3m(視覚占有率:最大約10%))
幅6m(視覚占有率:最大約2.5%) 線形 (幅6m(視覚占有率:最大約2.5%))
1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
視界を通過した柱の数 [log10(BC/AB)]
図3-18 柱の「視野占有率」の影響
図3-17、図3-18より視界を通過するオブジェクトの視野占有率が大きいほど、 その本数の知覚時間にあたえる影響が大きいことが確認できた。 早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁史研究室 1999年度卒業論文
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3章 実験による検証
3 _ 2 _ 3 「オブジェクトの配置パターン」の知覚時間への影響 前項に引き続き、本実験ではオブジェクトの配置パターンが知覚時間におよ ぼす影響について検証した。なお、空間を移動する主体にとってオブジェクト の配置パターンは、 オブジェクトの視界通過リズムと置き換えることができる。 実験2 「オブジェクトの配置パターン」による知覚時間への影響 ■実験方法 3 _ 2 _ 1 と同様の実験を以下の3つの条件でおこなう。 1つ目は図 3-19 のように柱を等間隔に配置するパターン 2つ目は図 3-20 のように柱の間隔が徐々に狭まるパターン (視界を通過するリズムが加速度的) 3つ目は図 3-21 のように柱をランダムに配置するパターン
等間隔
図3-19 等間隔パターン
加速度的
図3-20 等加幅パターン
ランダム
図3-21 ランダムパターン 早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁史研究室 1999年度卒業論文
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3章 実験による検証
■結果 下の図 3-22 が実験結果のグラフである。 それぞれの条件における[知覚時間 BC]/[知覚時間 AB]を比較した。
1.45 1.4 1.35 1.3 1.25 1.2 1.15
等幅
等加幅
ランダム
配置パターン 1.422426387 1.383045154 1.272319708 配置パターン 図3-22 柱の配置パターンによる知覚時間への影響
図 3-22より最も知覚時間[BC/AB]が大きいのが等幅の配置、次いで等加幅の 配置、最も小さいのがランダムな配置であった。このことから、オブジェクト の配置パターンになんらかの規則性があるほうが、 「視界を通過したオブジェク トの個数」が知覚時間に与える影響が大きくなることが確認できた。
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3章 実験による検証
3 _ 3 知覚時間因子2に関する実験
3 _ 3 _ 1 「主体の移動速度の変化」-「知覚時間」の相関 本実験では、前章で設定した知覚時間因子の1つである「視点の移動速度」と 「知覚時間」の相関について検証した。なお、空間を移動する主体にとって移動 速度の変化は、視界全体の変化速度と言い換えることができる。 実験 1 「主体の移動速度の変化」-「知覚時間」の相関 ■方法 図 3-23 は実験1に使用したムービーの1つである。 0秒から4秒地点までの視点の移動速度は3[m/秒]で固定し、4秒から8秒地 点までの視点の移動速度をパラメータとして様々な速度に変化させて被験者の 知覚時間を測定した。
図3-23 実験1で使用したムービー
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3章 実験による検証
■結果 縦軸に [知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に [視点の移動速度BC]/[視点の移動速度AB] をとり、[視点の移動速度]と[知覚時間]の相関を評価したのが図3-24のグラフで ある。
1.7 1.5 1.3 1.1 0.9 0.7 0.5 0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
視点の移動速度 [BC/AB] 図3-24 視点の移動速度-知覚時間
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3章 実験による検証
刺激の強度が指数関数的に増加する場合の知覚特性を検証するために 縦軸に [知覚時間BC]/[知覚時間AB] 横軸に[移動速度 BC] / [移動速度AB]の常用対数 をとり[視点の移動速度]と[知覚時間]の相関を評価したのが図3-25のグラフであ る。 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 -0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
視点の移動速度 [log10(BC/AB)]
図3-25 視点の移動速度-知覚時間
図3-24、図3-25より視点の移動速度が知覚時間に影響を与えることが確認で きた。相対的に移動速度が大きいほど、知覚する時間は長くなる。また、グラ フ型は図3-24では1次元的な単調増加であり、図3-25においては指数関数的で あった この結果より知覚時間因子は、グラフ型が精神測定関数的であった知覚時間 因子1よりも、知覚時間に与える影響が大きいと言える。
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3章 実験による検証
3 _ 3 _ 2 「移動速度の変化パターン」による知覚時間への影響 前項において「視点の移動速度の変化」と「知覚時間」の相関性が確認でき たことを受けて、本実験では視点の移動速度の変化パターンが知覚時間におよ ぼす影響について検証した。 実験2 「移動速度の変化パターン」による知覚時間への影響 ■方法 3 _ 3 _ 1 と同様の実験を以下の2つの条件でおこなう。 1つは次ページ図 3-26 のように等速移動をする場合 2つ目は次ページ図 3-27 ように等加速度で移動する場合 3つ目は次ページ図 3-28 のようにランダムな速度で移動する場合
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3章 実験による検証
等速
図3-26 等速で移動
等加速度
図3-27 等加速度で移動
ランダム
図3-28 ランダムな速度で移動
なお、すべてのムービーにおいて [距離 BC ] = [距離 AB]× 2 の条件は固定。
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3章 実験による検証
■結果 下の図 3-29 が実験結果のグラフである。 それぞれの条件における[知覚時間 BC]/[知覚時間 AB]を比較した。
2 1.9 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1
視界の変化
等速 1.576761863
等加速 1.934210953
ランダム 1.299253307
図3-29 視点の移動パターンによる知覚時間への影響
図 3-29より最も知覚時間[BC/AB]が大きいのが等加速度の移動、次いで等速 移動、最も小さいのがランダムな速度の移動であった。このことから、視点の 移動パターンになんらかの規則性があるほうが、移動速度が知覚時間に与える 影響が大きくなることが確認できた。
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4章 まとめ
4章 まとめ
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4章 まとめ
4 _ 1 全体考察
4 _ 1 _ 1 実験結果のまとめ/知覚時間因子の特性
下の表1は実験によって得られた、 「空間体験における知覚時間因子」の知覚 特性をまとめたものである。
表4-1 [実験結果のまとめ]/[知覚時間因子の知覚特性]
*精神測定関数・・・「本論文:3_1_2 語句の定義」参照 なお、表に掲載した因子強度と知覚の関係性については、横軸の因子強度が単調増加 の場合である。各実験の結果で示したように、横軸に因子強度の対数をとると、その 関係性はそれぞれ、1:単調増加、2:指数関数的となる。
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4章 まとめ
4 _ 1 _ 2 結果に対する考察
1 - 1) 「視界を通過したオブジェクト数」-「知覚時間」の相関について 本論文2_2_5で紹介した通り、人間の知覚時間はなんらかの記憶のはたら きに依存している。したがって、視覚が認識し、脳の記憶に蓄積されたオブジェ クトの個数が知覚時間の形成に影響を与えているため、このような結果が得ら れたと考えられる。 本実験では、既存研究のような光点や音など離散的な刺激ではなく、空間オ ブジェクトという空間的、連続的な刺激について、同様の効果が確認できた。 なお、今回使用したムービーにおいては、空間オブジェクトとして<柱>を 用いたが<目地><照明><サイン>など、他の空間オブジェクトについても 同様の効果が予測できる。 1 - 2)「オブジェクトの視覚占有率」の影響について トーマス・ウェバー知覚時間モデルにおいて、入力された情報に対する注意 の量が知覚時間に作用することが指摘されているが、この実験の結果も、認識 したオブジェクトの視野占有率が高いほど、 (無意識的に)そのオブジェクトに 対して注意が向けられるためと考えられる。 その推論が正しければ、例えば「目立つ色」-「目立たない色」などの比較に ついても同様の結果が得られると予測できる。 1 - 3)「オブジェクトの配置パターン」の影響について オブジェクトの視界通過のパターンに何らかの規則性がある方が、単位時間 における通過オブジェクトの増加、減少が顕著に意識されるために、このよう な結果が得られたと考えられる。
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4章 まとめ
2 - 1) 「視点の移動速度」と「知覚時間」の相関について 人間は、時間に比べると、空間をかなり正確に知覚することができる。そこ で被験者は、移動距離が長くなったのを知覚した後、その要因として移動速度 が大きくなったと感じるのと同時に、 移動時間も長くなったと錯覚してしまう。 そのため、本実験のような結果が得られると考えられる。 (つまり、知覚が不安 定な方でつじつま合わせをしている)したがって、急激な速度の変化ほど知覚 時間の歪みが大きくなるのであろう。 なお、本実験で得られたグラフは、知覚実験における「刺激」-「判断」系で は珍しい、直線的な単純増加のグラフであったが、そのグラフの範囲は、私達 が日常体験する速度変化の範囲(たとえジェットコースターやF1でも)を、ほ ぼカバーしている。
2 - 2) 「移動速度の変化パターン」による影響について 1-3)と同様、視点の移動速度変化に何らかの規則性がある方が、単位時間 における通過距離の増加、減少が顕著に意識されるために、このような結果が 得られたと考えられる。 また、本実験において最も顕著な結果が現れたのは、等加速度的な速度変化 のパターンであった。この結果より、加速度的に空間移動する場合、人間は非 常に特異な時間体験をしていると考えられる。
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4章 まとめ
4_1_ 3 空間体験における知覚時間因子の設定について 研究背景でも紹介した通り、知覚時間のモデル形成やシステム全体の理解は 非常に困難なものである。それは、人間の知覚時間が特定の知覚器官を有して いないため、特定刺激の入力結果として与えられておらず、外的要因、内的要 因など、複数の要因が複合し構成されるものであることによる。 その問題を解決するため、本研究においては「視界を通過したオブジェクト 数」 「視点の移動速度の変化」という2つの空間体験における知覚時間因子を設 定し、その因子と知覚判断の相関を調べた。 その結果、通常、色や音など特定の知覚器官を持った刺激でしか得ることが 難しい、精神測定関数的(S字型のグラフ)あるいは単調増加の関係性を得る ことが出来た。 これは、人間の空間体験における知覚時間について、本実験で設定した2つ の因子が非常に大きな影響を与えることを示している。 したがって、建築空間計画に直接的に反映することを考慮し設定した、2つ の知覚時間因子は、知覚心理学的に見ても論理的に妥当なものであったと言え よう。
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4章 まとめ
4 _ 1 _ 4 実際の建築空間にみる時間体験 1)知覚時間因子1「視界を通過したオブジェクト」について ジュセッペ・テラーニのダンテウム計画案(図4-1)は通常「空間の閉鎖性と 解放性、広さと狭さ、光と闇といった単純なモメントが幾何学的秩序のもとで 訪問者の空間的経験に作用する」 (文献22)などのように静的な空間としての解 釈がなされているが、本項ではこの建築について空間体験における時間知覚と いう観点から考察を試みたい。 この建築の訪問者は、比較的、空間的なオブジェクトの数が少ない地獄の間 (図 4-2) 、煉獄の間(図 4-3)を通過したのち、非常に狭いスパンで柱が林立す る天国の間(図4-4)を体験する。つまり、前の2つの空間に比べて、天国の間 では、 訪問者の視界を通過する空間オブジェクトが急激に増大することになる。 (しかも、柱のスパンが狭いためにその視野占有率は極めて高い。) 知覚時間因子1の特性から考察すると、訪問者はこの天国の間の内部では、 前の部屋との関係の中で、実際よりも長い体感時間を知覚すると考えられる。 (図 4-5 参照) このように、本研究の結果より空間体験における知覚時間という新しい観点 から建築空間を眺めることが可能になる。
図4-1 ダンテウム
図4-2 地獄の間
図4-5 「地獄の間- 煉獄の間-天国の間」における時間体験
図4-3 煉獄の間
図4-4 天国の間
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4章 まとめ
2)知覚時間因子2「主体の移動速度」について 本研究で検証したような「知覚時間因子2」による知覚時間の伸縮現象が起 こる典型的な例は、ジェットコースターであろう。 のろのろとした速度で頂上までのぼりつめた後、日常的な生活ではあり得な い加速度で急降下する体験は、時間知覚という側面から見ると、非常に特異な 時間体験であると考えられる。 知覚時間因子2の特性から考察すれば、視点の移動速度が加速度的変化をす ることで、主体は落下するにつれ実際の時間よりも間延びした時間を知覚して いると考えられる。 このように、知覚時間という観点から眺めれば、ジェットコースターなどの アトラクションは、急加速や急ブレーキなど非日常的な移動速度の変化により 体感時間の伸縮をデザインしているとも言えるだろう(図 4-7) 。
図4-6 ジェットコースター「fujiyama」
図4-7 ジェットコースターの時間体験
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4章 まとめ
4 _ 2 建築計画への提案
本研究では、2つの知覚時間因子を設定し、人間の空間体験における知覚時 間の特性を明らかにした。
これを用いて<柱の間隔> <目地の間隔> <照明の配置> <サインの配置 > などの建築的な操作や空間の計画することで、空間表現の中に『訪問者の体 感時間デザイン』という、新たな次元が加わる。
建築空間おいて、従来よりも幅広く、高度な表現が可能になる(図 4-8) 。
図4-8 「時間体験デザインによる空間計画」の提案
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4章 まとめ
4 _ 2 今後の展望
本研究では、2つの知覚時間因子 「1:視界を通過するオブジェクトの数」 「2:視点の移動速度の変化」 の知覚特性を検証することで、空間計画における時間体験デザインの最初の1 歩を踏み出すことが出来た。 今後は、それぞれの因子について、 ・仮想空間にとどまらず、実際的な条件のもとでその効果を検証する。 因子1について、 ・オブジェクトの色の効果、形の効果を検証する。 などの研究が引き続き必要である。 そういった研究データーを積み上げていくことで、空間計画への提案がさら に具体的なレベルで可能になると考えている。
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参考文献
1:中島義道「時間を哲学する/過去はどこへ行ったのか」(1998年、講談社現代新書) 2:下条信輔「意識とは何か」(1999年、講談社現代新書) 3:穐山貞登「デザインと心理学」(1967年、鹿島研究所出版会) 4:上松佑二「建築空間論」(1997年、早稲田大学出版部) 5:下条信輔「サブリミナルマインド」(1996年、中央公論社) 6:G.J.ウィットロウ「時間その性質」柳瀬睦男(1993年、法政大学出版局) 7:「10+ 1、ノーテーションカルトグラフィー」(1995年、INAX出版) 8:神宮秀夫「時間知覚の内的過程の研究」(1989年、風間書房) 9:松田文子他「心理的時間」(1996年、北大路書房) 10:大山正、今井省吾、和気典二編「感覚・知覚心理学 ハンドブック」(1996年、 誠信書房) 11:山本陽一「運動-視覚系の空間認知の特性」(1997年、渡辺仁史研究室卒業 論文) 12:長澤夏子「変化パターンによる景観の記述方法」(1991年、渡辺仁史研究室卒業 論文) 13:山田航司「都市の移動速度における空間記述」 (1997年、渡辺仁史研究室修士論文) 14:佐藤透「時間体験の哲学」(1999年、行路社) 15:安部三郎「時間意識の心理」(1936年、東宛書房) 16:阿部孫二郎「時間空間の心理学的相関」(1949年、黎明書房) 17:森隆之「長さの知覚における不安定性について」(1999年、日本建築学会大 会学術講演概集) 18:「10+ 1、メディア都市の地政学」(1998年、INAX出版) 19:「10+ 1、新しい地理学」(1998年、INAX出版) 20:モーセン・ムスタファビ、デイヴィット・レザボロー著「時間のなかの建築」 黒石いずみ訳( 1999年、鹿島出版会) 21:野矢秀樹「無限論の教室」(1999年、講談社現代新書) 22:日本建築学会編「人間-環境系のデザイン」(1997年、彰国社) 22:「建築文化Vol.53 No.619」(1998年、彰国社) 23:「筑波大学、鵜沢研究室ホームページ」 24:「富士急ハイランドホームページ」
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終わりに
本論文を書き上げるにあたり、御協力頂いた皆様、アドバイスを下さった 研究室の先輩方に感謝申し上げます。 なかでも特に、支離滅裂なレジメに適切な語句を付け加えて、その内容を整 理し、論文に仕上げてくれた玉井さん、言葉足らずの論文を私以上に理解して くれた長澤さん、途中何度か脇道にそれかかる論文を軌道修正してくれた渡辺 先生に、心より感謝申し上げます。
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