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東京 境界の感覚

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U9306 早稲 田大学理工学 部建築学科 卒業論文 指導教授 渡辺仁史

‐ 境界 の感覚 ‐

五十嵐恒樹

Department of Architecturc,School of Science and Engineering,Waseda University


早稲 田大 学 理 工 学部 建築 学科 平成 五 年度 卒業論文

―一―境界 の感 覚 ― 一一

指導

GOD.009

渡辺 仁史

教授

五十嵐 恒樹


目次 序章

ある画 家

#章

ある言葉

&章

ある感 覚

%章

ある写真

*章

ある試論

断章

ある行為


序章

ある画 家

50歳 でもはや事物 を描 こうとはせず 黄昏の光 と共 に物の周辺 をさまよい 物質 の影 と面 に息づ く 多彩な動悸 を 沈黙の交響楽 の見え ざる核 とした 彼がひたす ら描 いたのは 互 いに浸透 しあう形 と色との 神秘的な交換 の 人知れぬ展開と継続 いかなる中止も飛躍 も 告発 も断絶 もない動きだった 空間が支配する 大気の波が事物の面 をすベ リ 事物 を定義 し形 づ くる光茫 に滲 みこんで 到る所 にその芳香 と こだまを拡散 して 無限の光の埃 となって四囲に拡がって行 く

ベラスケスはタベ の画家だ 空間 と沈黙 の画家なのだ

・ 一 L・ ゴ ダール 」

-3-

「気狂 いピエ ロ」


二 早

#

あ る言葉

「都市 は飢え と渇きを助長 させ る 僕 らは満 たされない欲望 を自己の中に閉 じ込める 欲望 は僕 らの内臓 を喰 い破 る そ して、 したたる血の中に悦 びを見出す 僕 らは叫び、喚き、絶叫する そのしたたる血で、 コンクリー トの壁 に自分の名 を刻みつける」 これはある人が書 いた文章 だが、 ここからこの人の描 いている都市像が読 み取れる。何か陰鬱で得体 の知れな いイメージとしての都市 とい う感 じだ。 今は、この人物の都市像 について詳 しく立ち入るつも りはないが、東京 とい う都市だけ取 り上げても東京 について語 る人の数 だけ東京像があるのは明 ら かだ。そ して、一人一人 の東京像 も経験 によって変わ っていく。 ここで言 う 経験 とい うの は、カミュのいう"意 識の力"を 伴 って いるものである。問題 となるのは認識 の仕方、 どうい う視点でとらえるかなのだ。

"い き"と いう言葉 を取 り上げる。 「おっ、"い き"だ ねえ。」 「おっ、 "い き"な ねえちゃん」 というよ うには日常会話 では使 われなくなってきてはいるが、 "い き"が 日本特殊 の 民族性 をもった言葉であるとして、九鬼 周造 によって 一"い き"の 構造 一 で論 じられて いる。九鬼 によると、 "い き"の 定義 「垢抜け して (諦 )、 張のある (意 気地 )、 色っぼさ (媚 態 )」 "い き"な 建築 として 茶屋建築 などといわれているが、我 々には多少の違和感が感 じられる。そこで、ラン グの恣意性 を鑑みて、現代 における "い き" を次のよ うに定義す る。 "い き" "い き"と いう現象 は、対象間の関係の中で定義される。現実にある二つ の事象 の間 を、ゆ らめ く境界、 この中に"い き"は 見出される。それ故、動 きを失った (死 んだ)二 者 の間 には、"い き"は 顔 を出 さない。常 に動き続 ける二者 の関係 の中にだけ、それ を認識 しようとするとき、一瞬顔 を見せる。 ここでの二者 は、本質的に相異 なる存在 (集 合的に交わ りを持たない)と して生まれ出ている。 これ らを認識する以前 は、二つ は一 つだったのかもし れな い。例えば、男と女、例えば、影 と光、例 えば、 人間と自然。 こういった、相異なる存在 として二項対立 を成立させ ている境界、ゆ らめ く境界が、"い き"の 徴表 であ り、 この動き こそ "い き"を 定義 づけるも のである。

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&章

ある感 覚

自分 がた しかに存在 して い るとい う ことについての確実 さと この確信 に僕 があたえよ うと試 みる 内容 そのあ いだの溝 は いつ までたっても決 して埋め られ ることはないだろう 永久 に、僕 は僕 自身 にとって異邦人であるだろう 不条理 とい う言葉 のあてはまるの は この世界が理性では割 り切れず しかも人間 の奥底 には 明晰 を求 め る死物狂 いの願望が激 しく鳴 り響 いて いて この両者が共 に相対時 したままである状態 についてなのだ 不条理 は人 間 と世界 と、 この両者か ら発するものだ い まのところ、 この両者 を結 ぶ唯一 の絆、不条理 とはそれである 一

A・

カ ミュ

「シー シュポスの神話」

―

前章 で取 り上げた、 "い き"の 徴表 となる、ゆ らめ く境界、この境界 にお ` ` ける感覚が、我 々にとって新 たな 空間 の認識へ と導 いてくれる。 "境 界 の感覚" ` ` 境界 は 空間 の認識 の契機となる。記憶 を遡行すると、初めての境界、 胎内から外界 とい う生の境界に到 る。この境界 は、視覚よりも、聴 覚、嗅覚、 味覚 よりも、触覚、皮膚感 覚によって、初源 の感覚 として感 じられたのだろ う。 この、ゆらめ く境界、 をつ くりだす二つの事象間には、次の構造 を見出す ことができる。それは、二項対立の関係で、 この二者が相異なる性質 を持つ。 例えば、大 一小、影 ―光、外 ―内、秩序 ―混沌、均質 ―多様、反復 ―中断、 動的―静的 など。 今、 これは思考 による認識 によって、二者 に断絶されて いるが、 境界 に於 いては身体が思考 の速度 を超えるがゆえに、二者 は一体 となって感 じられる。 そこでは、アナログ的な、連続なる世界 を一瞬垣間見ることができる。

-5-


二 早

%

ある写真

ア

_夕

筆■ ,,―

-6-

_ ヽ

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二 早

*

ある試論

人 間の思考、感覚が、最大限に作動するの は、境界 に於 いてである。二つ の事象がぶつか りあうところで、我 々の意識 は動きだ し、そこにエ ネルギー を見出す。 あ らゆる事象、現象 として知覚、認識できることは、二項対立の 関係 (自 己と他者)に 還元される。我 々の脳 で認識 (こ こでい う認識とは、 言葉 とい う logicに 還元することを意 味 している)す るということは、 この二項 対立 の図式、デ ジタル 的なものか ら脱け出る ことはできない。だが、その背 後 にはアナログ的、連続的世界 (リ ゾーム)が 見え隠れ している。 我 々は、そういったアナログ的なものを希求 し、それを感 じることはでき る。最 も感 じることができるのは、境界、ゆ らめ く境界 においてだ。この境 界 に身体が触れるとき、異次元へ trip した感 じを受ける。それは、時 空間の亀裂である、このゆ らめく境界が、アナ ログ的世界が顕在化する唯一 の彼岸であるからだ。 数学の基礎論では、カン トールが無限の濃度 について、無限にも様 々な段 階があることを発見 している。卑近なところでは、可付番無限と連続無 限 と いうのがある。可付番無限というの は、平 た く言えば、1,2, 3, ・・・・ ・・ とい う自然数 の数 の量であ り、連続無限 というのは、0か ら 1の 間にあ ってその間 をすきまな く埋 め尽 くしている有理数、無理数 の量である。明ら かに、濃度 は、可付番 <連 続 である。 ここで、我 々はたった 1秒 間の中に 秘め られた無限の濃密 な時間を認識する。アナログ的世界 とデジタル的世界 の差異 は、このような意 味においてもとれる。 実際の 日常 に還元 してみる。我 々が何かに夢中になって、時間も忘れる位 にある世界 に没頭、陶酔するときがある。このとき人は、アナログ的世界、 またの名 はデ イオニュ ソス的世界 に身 を浸 して、 日常 の生活では見 ることの できない、官能的な色や音 を味わ い、まさに時を忘れるのである。 ここで時 とい う言葉が意味 して いるのは、我 々の中で通常働 いている認識 のことで、 デジタル的世界のことである。つ まり、 時 を忘れるというのは、 この二項対 立的図式、我 々の認識 の枠 を超えるというこ となのだ。

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断章

ある行為

神 あるいはそれに準ずるものが いた時代は幸せだった 絶対的なものが疑 いもなく受け入れ られた時代 は幸せだった いつの時代 でも人は明日に眼 を向けることによって現実 を受け入れた いつの時代 でも現実 から遊離 した場所 を人はつ くりあげ用意 した 時の支配者 はいつも永遠 を求 めた ピラミッド、パルテ ノン、法隆寺 。・・・・・ 歴史に残るもの は常 に永遠を、普遍的なるもの を求めた 神 の死 をニーチェがうたい、主体の死が鳴 り響 いた 「 誰 でもない誰かが 誰でもな い誰 かと 何 でもない何かをする ただそれだけなのだ 」 ― 田舎 の じっちゃん

一

観想 と行動 のどちらかを選ばねばならぬときが、必ずや ってくる そ こで は、今の時間 とともにに生 き、時間とともに死 ぬべきか 今 の時間か ら逃れてより大きな生に達 しようとすべ きか そのどち らかなのだ 一 A・ カミュ ー 不条理 はそれを認識することによって、生きることがで きる 唯一絶対なる真理 は 死 であるということを これ を前 にしたとき、飛躍の翼 を捨て、大地に向かう旅人 となる

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参考文献

シー シュポ スの神話

A・ カ ミ ュ

異邦 人 悲劇 の誕生

ニーチ ェ

無 限 と連続

遠山

空 間 <機 能 か ら様相 へ > 「 い き」 の構造

原

言葉 と物 人 間 の た めの街路 建築家 な しの建 築 見 えが くれ す る者5市

啓

広司

九鬼

周造 MOフ ー コー

B・ ル ドフス キ ー //

槙

文彦

非建 築 的考察 「気 狂 い ピエ ロ」

鈴木

構造 と力 日本 の思想

浅田

彰

丸山

真男

了二 J― L。 ゴ ダー ル


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東京 境界の感覚 by hitoshi watanabe - Issuu