JQR vol.16 2012年10月号

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第五席

追われて逃げ込む茨の道

年内出版予定の二冊の本の執筆に追われてい

か?」とちょっと思えたのは今年だ。つまりは

る。 「追われるというのがどういうことなのか」

15 年目にしてようやくそう思えたのだ。同人誌

が骨身に沁みるほど追われている。気晴らしに

ではない本の執筆は今回が初で、しかも二冊同

ちょっとコミケで頒布する新刊を作ろうと脇道

時進行。茨の道は当然のことだが、 「まぁどうに

に逸れたら、すぐに二冊の同人誌が出来上がっ

かなるでしょ」と軽く引き受けたあの時の私に

たくらいの追われ度だ。

近づき、耳元で「そうでもないよ」と言ってや

9月出版予定の本には対談が載る。談笑兄さ

りたい。まぁ聞く耳を持つような人間ではあり

ん、そしてもう一人が師匠の志らくだ。立川流

ませんが。

の濃い血を受け継いでいる両者との対談は私の

「落語家になりたい」と本気で思えた今年の心

発案でだが、去年の私では決断できなかったで

境を書けるのはきっと今しかない。真打ち昇進

あろう思い切った企画だ。

直前に2冊の本を出せるという奇跡をもっと噛

「同じ一門なんだから、それくらい簡単だろ」

み締めてパソコンの前にしがみ付きたい。

と思うかもしれない。いるのか? いるのなら

本の話ばかりでは仕方がない。落語家として

出て来い! と言えるほど簡単ではない。もし

落語での具体的な活動を積極的に進めていか

対談をしたがために「あいつ予想以上に大した

なければ。まずは独演会と一門会を客で一杯に

ことない奴だな」 「その程度か……」と思われ

する。そして、志らく一門以外の若手に私を刺

たら大変だ。

激する人間が数人いることが判明したので、そ

対談当日は、現在の私の思いをぶつけてみた。

いつらとの交流。もちろんそれと同時に先輩方

内容は本を読んで頂くとして、二人との対談を

へのアプローチ。落語家以外の人達との交流も

終えた私の感想は「立川流の落語家としての仕

積極的に増やす段取りを今やっている。先月も

事ができた」だ。男としての仕事をした充実感

モーニング娘。9 期 10 期、合計 8 人と落語を介

に満ちていた。正直ここがスタートライン。全

して対峙する。内容云々もそうだが、先方の事

力で走ったって追いつかないレースに参加して

務所や主催の放送局との交渉事も私の脳みそを

いるのであろうが、今まではそのスタートライ

刺激する大事な要素だ。こうやって書いていてワ

ンに立つ恐怖から逃げていたのであって、この

クワクしてきた。人前に立ち、喋る行為に興奮

一歩は大きい。

を覚える。もしかしたら私は落語家に向いてい

11 月出版予定の本は完全書き下ろしの一冊。

るのかもしれない。他の職業を経験したことは

これが本当に辛い作業。ようやく「こうすれば

ないが、これが天職なら幸いだ。それに比べて

いいのかな?」くらいの感覚を掴んだ程度。し

本の執筆の辛さ……。こうなったら気晴らしに

かしよくよく考えたら「落語ってこういう感じ

落語でもやるか!

●立川志ら乃(たてかわ しらの)立川談志の孫弟子。1998 年、立川志らくに入門し、2003 年 7 月に二ツ目に昇進。今春、真打昇進決 定! 毎月定期的に開催されている独演会『志ら乃大作戦』は要注目。サブカルチャーを愛し、 その分野を語りたおすラジオのレギュラー 番組もこなす。http://ameblo.jp/st-blog/

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