リフレッシュキャンプ報告集2014

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リフレッシュキャンプ 2014 報 告 集

◆日

時 : 2014年8月28日~30日

◆場

所 : 国立山口徳地青少年自然の家

(〒747-0342 山口県山口市徳地船路 668)



もくじ

1.はじめに

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2.リフレッシュキャンプがめざすもの

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3.キャンプ 1 日目

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4.子どもの主体性を徹底的に尊重するキャンプデザイン

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5.キャンプ 2 日目

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6.感想「はじめてのキャンプ参加」

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7.社会的養護を要する子どもたちへの体験活動

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8.キャンプ 3 日目

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9.オモイデ写真プログラム

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10. リフレッシュキャンプの効果~里親へのインタビューより

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11. 「リフレッシュキャンプ」のこれまでとこれから

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12. キャスティング 2014

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さわやかな風と ひとのぬくもりに包まれた 子どもたちの幸せに触れて・・・

山口県の中央部、さわやかな風が吹き渡る高原の一角にデンと居座る「国立山口徳地青 少年自然の家」 。われら、仲間たちが集う、その舞台です。 2014 年 8 月 29 日~9 月 1 日、三回目となるリフレッシュキャンプに、合わせて 160 余 名の「なかま」が集まりました。この世に生を受けて間もない乳幼児から中高生までが主 役でありながら、その子どもたちの日常の支援者である里親や、50 名を超えるサポーター の皆さんが、三日間をともに過ごし、楽しみ、この素敵な「非日常空間」で出会います。 子どもたちにとって、この開放的な時空がどれほど楽しく、ワクワク感に満ちたもので あったかは、オモイデ写真隊によって切り取られた、えがお溢れる写真が余すところなく 語っています。 「日常空間」では、たまにしかお目にかかれない美しい表情を惜しげもなく 晒しているのです。 3 年前の春。既に「子どもの村福岡」 (現 SOS 子どもの村 JAPAN)が先駆けとなり、ファ ミリーホーム養育者や子どもの村育親を対象にした専門研修と並行して、 『子どもプログラ ム』を実施していました。その共催者である『九州ぼうけん王』のジミー(大西さん)の 「里親さんたちは、真面目過ぎるのでは?」という一言から始まったのが、このリフレッ シュキャンプです。外からの眼で里親の生態を捉えた一言は、とても新鮮なものでした。 子どもたちの多くは、虐待によるトラウマティックストレスを、ある時期から養育者に 際限なく発散し、ぶつけて来ます。その子らの思いをどのように受け止めて、養育の質を 向上していくかを課題とした研修は、里親にとっては必須のものですが、せっせと研修に 励む姿が彼の目にそのように映ったのでしょう。車を運転するときにハンドルに「アソビ」 がないと事故につながりやすいように、里親養育にも「アソビ」が必要だという主張なの です。 ファミリーホームの養育者の「養育労働」は、1年 365 日 24 時間営業のコンビニ的な労 働とも言えます。しかし、 「子育ては労働なのか?」という論議ではなく、「子育てを楽し くするには?」という論議が必要です。それには「遊び心」が必要だし、疲れる前の「リ フレッシュ休暇」やレスパイト(休養制度)も不可欠です。ところが「勤勉な国民」であるた めに、余暇関連の「社会資源」は貧弱です。

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そのような社会資源がないのであれば、「自分たちで創り出そう!」というミッションを 掲げているのがこのリフレッシュキャンプです。 3 年間で延べ数百人の支援者(サポーター)がこのミッションに共感し、子どもたちと体 当たりで向き合ってきました。そこから生まれた安心と信頼感は、子どもたちにとって、 里親以外の複数の大人が自分たちのことを大切に思ってくれている、という体験となり、 自己肯定感へとつながっています。この子どもたちにとっては、自分のために一緒に遊ん だり、活動したり、相談に乗ってくれる大人がいることが、安心安全の居場所となるです。 参加した里親にとっても、 「リフレッシュ」を超えた「つながり」や「ぬくもり」、豊か な「社会関係資本(資源) 」(ソーシャルキャピタル)の構築に参加できたという喜びが実 感できたと言えます。その「報告集」がここに完成したことをとても嬉しく思っています。

実行委員長 こうちゃん (木村康三・福岡市里親会ファミリーホーム部会)

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リフレッシュキャンプがめざすもの

キャンプディレクター ねーさん (橋本愛美・SOS 子どもの村 JAPAN)

新しい里親里子支援をめざして。 いま日本では、 さまざまな理由で家族と暮らせない子どもたちは 4 万 6000 人を超えています。 家族と暮せない子どもを社会制度の下で養育することを社会的養護と言い、我が国では、多くの 子どもが児童養護施設・乳児院などで育っています。里親の下、家庭で育っている子どもは 15% ほどです。 また、子どもたちの多くは、不適切な養育や虐待・育児放棄などによって、心と身体に深い傷 をもっています。安心して大人を頼ることができない、友達とうまく関係をつくれない、勉強や 遊びに集中できない・・・など、そのような子どもたちには、日常的で温かく見守られた環境と、 安心して頼ることができる大人と、専門的な支援が必要とされています。 子どもを自分の家庭に迎え入れて育てる里親さんは、24 時間、子どもとのより良い関係づく り、より良い養育をめざして、日々の生活はもとより、自主的に研修会に参加するなどし、さま ざまな努力をされています。

「頑張っている里親さんたちに、休息の時間を提供し、里親養育をサポートしたい」 初めは、里親さんのための支援としてリフレッシュキャンプは企画されました。 里親さんたちは、「子どもが安心して心から楽しむことができる場があることが、私たちの一 番の安心になり、心からの休息にもなるんです」と話されます。そのため、このキャンプでは、 何よりも子どものための遊びプログラム(以下、 「子どもプログラム」)が大事にされています。 そして、ボランティアサポーターとともに、どんなプログラムや環境があれば子どもたちが安心 して心から楽しめるのか、ケアされていくのか、などの試行錯誤が続きました。

子どもの権利としての遊びの保障を。 「遊び」は子どもにとって無条件に楽しい活動であると同時に、知識・技能をはじめ自主性や 思いやりなど、多くのことを自発的に学び取る学習の場であることは、教育学、発達心理学、文 化人類学など様々な分野で言われています。また、国連子どもの権利条約第 31 条にも遊びは子 どもの権利であることが謳われています。 しかし、そのような環境が保障されず、里親のもとにやってくる子どもたちの多くは、とにか

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く必死で生き抜くことにエネルギーを費やしてきています。安全が守られること、安心できる環 境が最優先されなければならず、子どもらしくのびのびと遊ぶ機会を奪われてきました。

「そんな子どもたちにこそ、ワクワク・ドキドキできる創造的な遊びの体験をしてもらいたい」 いつしかそんな子どもたちへの想いの中で、「子どもプログラム」は検討されるようになりま した。このリフレッシュキャンプでは、セミナーを受けたボランティアサポーターが日常を離れ た大自然の中で、子どもとともに遊び、食べ、語り、長い時間を過ごします。寄り添い続ける大 人の良質な関わりが、子どもの安心感につながり、心から楽しんで遊べる環境が保障されます。 ここでは、子どもたちの主体性を徹底して尊重することで、子どもが本来持っている遊び心 を最大限に活性化させ、厳しい環境を生き抜いてきた力強いエネルギーを、創造的な遊びに変え ていくことをめざします。サポーターはキャンプ中ずっと、子どもたちから起こってくる「こん なことをしてみたい」「もっとこうしたい」という遊びのエネルギーに最小限の手助けをしなが ら、寄り添っていきます。

しかし、子どもたちの中には、発達障害、愛着障害などを抱え、マンツーマンで関わらなけれ ばならない子どももいます。安全を守りながら、一人ひとりの気持ちに寄り添い、ゆったりとし た時間の中で、心から楽しめるキャンプにするためには、子どもたち一人ひとりの背景や特徴を 理解し、配慮しながら、なおかつ子どもと対等に遊ぶことができるサポーターの養成が不可欠で す。このサポーター養成は、キャンプ後も里親・里子の理解者として地域に点在する里親・里子 支援者づくりにもつながっていると実感しています。

「不適切な養育や虐待を受けてきた子どもたちに最も必要なことは、痛みやつらさや喪 失感を和らげてくれる健全なコミュニティである。優しいケアを辛抱づよくくりかえすこ とが役に立つ。ケアとは、良好な対人コミュニケーションの質と量を増やすことである」 (アメリカの児童精神科医・脳科学者 ブルース・D・ペリー「犬として育てられた少年」より)

子どもたちはワクワク・ドキドキ、時にはモヤモヤしたりムカッとしたり、様々な感情体験を ボランティアサポーターや里子仲間と共有し、里親家庭や学校以外の豊かな人間関係をつくって いきます。そして、里親、里子、ボランティア、キャンプに関わるすべての人間が交流しながら、 関係をつくり、その中で子どもも大人も新しい自分に出会い、リフレッシュできる、これまでに ない新しい里親・里子支援を目指しています。

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キャンプ1日目 (8月29日)

今回のキャンプは、里親家庭 17 家族(大人 29 名、子ども 49 名)が参加しました。 里親家族を乗せた大型バスが 13 時に徳地に到着すると、このキャンプを支える 50 名を超すボ ランティアサポーターたちが子どもたちを出迎えました。長旅で疲れている子、元気いっぱいの 子、少し緊張している子、さまざまです。

このキャンプでは、以下のことが大切にされています。  参加する子どもたちの心と体が守られながら開かれ、一人ひとりが「大切にされている」と

感じることができること  子どもの「~したい」という気持ち(主体性)が徹底的に尊重されること  そのなかで、楽しいという感覚、達成感や他者とつながることの心地よさを感じられること。

そして、  子どもとサポーターがともに遊び、ともに食べ、ともに語り、寝食をともにすること  里親さん同士が時間を気にすることなく日頃の悩みや思いを共有したり相談したり、ゆっく

りと交流すること  大自然の中で、ゆったりのんびり過ごし、ワクワク・ドキドキを体験すること を通して、里親も子どもも、サポーターも、参加する皆がリフレッシュできるキャンプをめざし ています。

13 時 15 分

【はじまりの始まりの会】

のはじまりです。

里親、里子、サポーター、自然の家のスタッフ、参加者全員が顔をあわせ、このキャンプでは、 「あなたができるやりたいことは、何をやってもいい。でも、あなたがケガや事故にあうとみん なが悲しくなるので気をつけてほしい」という単純明快ルールだけが実行委員会から子どもたち に伝えられます。

その後はさっそくアドベンチャータイム。子どもたちには、事前にプロップ財団というところか らお手紙が届いています。 (以下、お手紙の要約です)

2014 年 8 月 29 日の夜、山口徳地で 【クラくらダーく現象】が発生。【精霊ファイヤーバ ードの巣】があらわれる。その巣のおくで不思議な光をはなつ『ピカぴかヤ-みん』をさ がし、ダーク生命体がやってくる。勇気ある子どもたちに、【クラくらダーく現象】とはどん な現象か?『ピカぴかヤ-みん』とは何か?ダーク生命体は危険な存在なのか? を 調査してきてほしい。 プロップ財団のマーク

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『ピカぴかヤーみん』を探すというミッションを受け取った子どもたちは、徳地にあるラリーポ イントをまわると、そのために必要なアイテム【トライダーク】がもらえることを告げられます。

小さな子どもたち(4~8 才)は、チームをつくって自然の家の様々なところにあるラリーポイ ントを、地図を片手にまわりだしました。このチームが、翌日の沢遊びのチームになります。沢 遊びといっても、ライフジャケットをつけてのアドベンチャーたっぷりの沢なので、初日にチー ムメンバーの関係づくりを行うことがとても大切です。

【知恵】と【勇気】を必要とするポイント、【元気】と【笑顔】が必要なポイント、それぞれ、 「早く氷をけずれ!」 「林の中から〇〇という言葉を探せ!」 「〇〇をできるだけ遠くに飛ばせ!」 などのミッションをクリアし、子どもたちは黒い三角形の【トライダーク】を集めていきました。

大きな子どもたち(9 才以上)は、TAP(徳地アドベンチャープログラム)を使って翌日の 大冒険 沢登りに向けたチームづくりです。ワクワク・ドキドキしながら、でもみんな笑顔でチ ームビルディングのためのゲームや、エレメントと呼ばれるコースをクリアしていきました。

あっという間に日も暮れ、この日の夜は、翌日の夜に『ピカぴかヤーみん』を見つけ出すため に必要な灯りをともすため、 【紙ランタン】を皆でつくりました。子どもたちは大好きなキャラ クターやオリジナルの絵、好きな言葉、今感じていることなど思い思いに紙ランタンに描きなが ら、あっという間に 500 個の紙ランタンをつくりあげました。

この紙袋が、ピカぴかヤーみんを見つけ出す ために必要な灯りをともす「紙ランタン」に なるんだ~(by ジミー)

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子どもの主体性を徹底的に尊重するキャンプデザイン

プログラムディレクター ジミー (大西清文・九州ぼうけん王)

主体性を尊重するとは? 社会的養護の子どもにとってのアドベンチャーの意義 SOS 子どもの村 JAPAN が主催する社会的養護を必要とする児童のための体験活動には、 その活動を支援するボランティアのためのルールがいくつかあります。(別表) その中で、特に「子どもの主体性を徹底的に尊重する」は、よく議論になるルールです。 「徹底的な尊重って何なのか、よくわからない」 「子どもの主体性ばかりを認めていたりし たらわがままを大人が追認したことになり、子どものためにならないのではないか」 「集団 活動は協調性を学ぶ機会になるので、その指導は大人の役割ではないか」等々、社会教育 的な要素を多分に持った意見が多く出されます。 しかし、彼らの社会的養護に至る過程を鑑みると、実親と暮らせない個々の理由や過去 に精神的・肉体的に厳しい養育環境があり、自らの身の安全を守る事に汲々としなければ ならず、自らの希望や意思を発露できない状況が多くあったと思います。 この背景を抱える子どもたちが必要とする体験は、社会教育的な学びの場ではなく、自 らの希望や意思の存在を認知し、それを他者に表明し、互いが認め合い、尊重し合える体 験であると私達は考えています。

(別表) ≪子どもプログラムに参加する大人のルール≫ Ⅰ.子どもと一緒に心から楽しむこと。 Ⅱ.不快な気持ちや、「やりたくない」気持ちも大事にすること。 Ⅲ.子どものチャレンジしたい気持ちを最小限の手助けで最大限応援すること。 Ⅳ.子どもとの関わり方はいろんなおとながいて OK だけど、疑問に思った時は、皆で話し合うこと。 子どもの意見も聞いてみること。 Ⅴ.子どもが持ってくるゲームやオモチャは、子どもの居場所として考えること。 Ⅵ.子どもの暴力的なコミュニケーションについて -その子のコミュニケーションのひとつの形である可能性を考え、その行動の意味を受けとめる。 ただし、無理はせずに、受け入れることのできる限界は、子どもにもきちんと伝えていくこと。 Ⅶ.・・・・・ (このルールは、サポーターとともに見直され、検討され続けます)

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主体性を徹底的に尊重するキャンプデザイン このキャンプでは、主体的に遊ぶ中で、自己や他者との間で起きる葛藤を体験するプロ グラムデザインを活動の主軸にしており、その構成は、「多数多彩で自由に選べる活動と 子どもへの事前の活動案内」、「ナイトファンタジープログラムの参加プロセスと自由な 表現活動」で構成されています

○多彩な選択プログラムと、ともに遊ぶボランティアサポーターの立ち位置 このキャンプでは、実行委員会からの子どもへの約束は「あなたが出来るやりたいこと は、何をやってもいい!でも、あなたがケガや事故にあうとみんなが悲しいので気をつけ てほしい」という単純明快なものです。それだけであることを示すために、子どもたちに 渡すキャンプ活動計画表には、集合、食事、入浴、解散時間のみが書かれており、空白時 間は「あなたの希望することをする」ということを伝えています。 しかし、日頃は、何時から○○しなさい!○○はだめ!○○もだめ!の中で遊ぶことが 多く見られます。だから、何をしてもいいとはどうすればいいのか分からない子どもも多 くいます。そんな子どものために、できる活動を提示しています。フリスビーなど簡単に 遊べるものはいつでもOK、マウンテンバイクは最初の日、カヌーは 2 日目の午前中、冒 険度の高い急流を歩く沢登りは事前研修を受けなければ参加できない、等々を提示し、ど れをやってみようかと子どもが選択できる環境をつくっています。しかし、その中にない 活動をしたい子どももいます。カブトムシを捕まえたい、釣りをしたいなどのオーダーも 自由に出せます。 この活動を可能とする重要な存在は、ともに遊ぶボランティアサポーターです。彼らは 子どもたちの主体性を徹底的に尊重することの意味や立ち位置について、やりたいことを 尊重される心地よさや、大人の子どもへの「あるべき感」の存在等、を研修で学んでいま す。 子どもたちにとって、この資質を備えたサポーターと過ごす僅か 3 日間がいかに濃密で 豊かなものとなったのかは、最終日の別れを惜しみ再会を約束する姿を見ると深く感じる ことができます。 ○ナイトファンタジープログラムの参加プロセスと自由な表現活動 もう一つの仕組みは、2 日目夜に開催されるナイトファンタジープログラムです。 このプログラムは、案内郵送による事前導入、仮装などの参加準備、会場潜入とミッショ ン達成の3つで構成されています。 事前導入では、リフレッシュキャンプの開催案内を保護者に渡す際に、子ども向けにフ ァンタジーあふれる参加案内を渡します。昨年は「森の妖精の秘密集会に潜入せよ」 、今年 は「この世を暗闇にするクラクラダークの秘密を解き明かせ」という架空団体の指令書を 事前に子どもたちに送ることによって、子どもたちへのワクワク・ドキドキの期待感を高 めるとともに、参加の意思確認を必ず家族でするようにお願いしています。それは、主体

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性の尊重を家族内で行えるようにするためであり、子どもが参加を決めた実感を持つため に行っています。 次の参加準備では「人間とばれないように仮装し、潜入せよ」という指示があり、ここ ではフェイスペイティングや古着、ビニール袋を使った衣装作りなどを行います。ここで は、子どもたちが思い思いの仮装を行い、互いに出来栄えを楽しみ、自慢し、評価し合う 時間となっています。まさに、子どもの主体性が、自由な表現という形で発露できるとと もに、他者との優劣を競うことのない互いが認め合う楽しく豊かな時間になっています。 最後の会場潜入では、真っ暗になった施設内を友達や大人と一緒に進み、怖さを乗り越 えながらゴールにたどり着く達成感を共感・共有できる活動になっています。また、体育 館に多くのろうそくを灯した幻想的な雰囲気のゴールがあり、ファンタジーのクライマッ クスとして、子どもたちが驚きを楽しめるような演出をしており、ミッション達成のメッ セージが館内放送され、締めくくりを迎えます。 この一連のプログラムも、決定や表現、達成感など様々な切り口でデザインして、子ど もの主体性を徹底的に尊重でき、その主体性を子どもが楽しみ心豊かになれることを大切 にしています。 主体性は、自立に向かう子どもたちにとって、その後の人生を大きく左右するといって も過言ではないとても重要な資質であると私達は考えています。その主体性を健やかに育 む場は、体験でしかないとも考えています。しかし、どのような体験が、主体性の育ちに つながるかの検討・検証や研究はまだまだ十分であるとは言えません。 ただ、今回のキャンプを終えて言える事は、子どもだからこその、何をも楽しみにでき る力、みずみずしい感性、大人との豊かで濃密な時間、これらを大切した体験活動である べきだという事です。

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キャンプ2日目 (8月30日)

雲行きがあやしいお天気の中、小さな子どもたちは沢遊びへ、大きな子どもたちは沢登 りへと向かいました。出発前の小さな子どもたちはワクワクを表情だけでなく身体全体で あらわしています。大きな子どもたちは、一大アドベンチャーを前に、昨日の和気あいあ いとした雰囲気とはうってかわって、真剣な表情もみられました。 沢に到着すると、子どもたちはライフジャケットをつけて準備体操です。2 人一組でバデ ィを組んで、安全確認の方法を学習した後は、小さい子どもはフリー沢遊び(川遊び)、大き な子どもは沢登りへ向かいました。 小さな子どもの川遊びと思って馬鹿にしてはいけませ ん。流れが急なところも、足が届かないところも、岩場も ある、通称“どっぽん谷” 。そのアドベンチャー感たっぷ りの沢遊びに、子どもだけでなく大人も大興奮です。曇り のお天気で気温が低く、水も少し冷たかったにも関わらず、 子どもたちは次々と大きな岩場を飛び込み台に沢の中へ 飛び込みます。サポーターも子どもに負けじと飛び込みま す。 飛び込んだ後に、子どもとサポーターが目を合わせて笑 いあったり、最初は怖くて飛び込めなかった子どもが、他 の子どもの様子を見ながら怖さを乗り越えて飛び込むこ とができたり、あっという間に午前中が終わりました。 午後からもひと遊び・・・と思っていたら遠くの空が暗くなってきて、お天気の様子が 怪しくなってきました。サポーターリーダーたちも、ここで戻るべきか、 「もっと遊びたい!」 という子どもの気持をくんでギリギリまで遊ぶかを悩んでいると、いつもは気象台で働い ているボランティアサポーターがポツリと一言、 「そろそろ大雨がくるよ」 。 勇気ある撤退を決めた沢遊びチームは、小さい子どもから順に自然の家まで戻りました。 自然の家につくころには、予想通り大雨がやってきて、無事に全員が戻ったことを喜びま

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した。冷たくなった体をお風呂であたため、その後は沢遊びで疲れた身体をのんびり… かと思いきや、子どもたちの元気はおさまるところを知りません。休むことなく自然の家 の中で遊べる遊びをフル活用。サポーターたちはその遊びのエネルギーに圧倒されっぱな しでした。 さらに険しいアドベンチャーを乗り越えて帰ってきた沢登りチームの子どもたちは、何 かを成し遂げた後のとても晴れやかな表情で自然の家に遅れて戻ってきました。足場の悪 い岩場を歩き、時には冷たい水の中を泳ぎ、誰かの手を借りなければ登りきることができ ない難所を何度もクリアし、励まし合って目的地にたどり着いた子どもたちは、明らかに 沢登りの前とは違う連帯感を見せていました。そして、沢登りのゴール地点には、「ぴかピ カヤーみん」を探すために必要な着火アイテムが置いてありました。

いよいよ夜は謎の「ぴかピカヤーみん」を探すファンタジープログラム。 小さな子どもたちは、前日にゲットしたトライダークを持ってオリエンテーションルー ムに集まり、メッセンジャーのジミーからこれからの探検について説明を受けました。 トライダークをブラックライトで照らすと・・・そこには、あるマーク が浮かび上がってきます。子どもたちはそのマークを手掛かりに、 「ぴかピ カヤーみん」の卵の巣を探しに出発しました。 すべての電気が消された真っ暗闇の自然の家を、子どもたちは何人か一組になってブラ ックライトの明かりで廊下や壁を照らし、光るマークをたどって、卵の巣まで向かいます。 途中には、ホラ貝の音が遠くでなったり、お風呂場の向こ うから美しい音楽が聞こえてきたり、タイコの音が聞こえた り、甘い香りが漂ってきたり・・・不思議なことが次々と起 こります。そして、とうとう子どもたちは卵の巣をみつけま した。

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その巣の中にあった灯りを持って、プレイホールに戻った後は、前日夜に子どもたちが つくった 500 個の紙ランタンに卵の巣の灯りをともし、 「ぴかピカヤーみん」の到来を待ち ました。 そこに現れたのは・・・

・・・ここから先の詳細は長くなるのでこのあたりで省略いたしますね。 真っ暗闇の中で「ぴかピカヤーみん」を見つけた後、プレイホールを出た後に空を見上 げると、天の川もはっきりと見える一面の星空。みんなが「わぁ~」とため息のような歓 声をあげて、雨上がりの丘にのぼり、しばらく皆で空を見上げてこの日のプログラムを終 えました。

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はじめてのキャンプ参加

ゆうちゃん (福岡県里親) わたしは里親登録して 16 年目になります。今回一緒にキャンプに参加した里子は、幼稚 園年少の時から受け入れており、今は中学 2 年生です。部活、学習塾、習い事と毎日忙し く生活しています。 さて、このリフレッシュキャンプに参加することができ、多くのサポーターの皆様から 支えられました。里親、里子ともども嬉しく、SOS 子どもの村のスタッフの皆様方、実行 委員会、サポーターの皆様方にとても感謝しています。 里親と離れてチャレンジした里子だけの沢登りでは、足がとどかなかった所や急流な所 で、そこで初めて出会った里子さんと助け合い、仲良くなっていました。また、その他の プログラムでも、とても喜び、普段は見せない生き生きとした表情を見せていたことが印 象に残りました。同年代の他の里子さんたちと交流できたことがとても嬉しかったようで す。 わたしたち夫婦も、里子から離れ森林浴、ノルディックウォークに参加し、日常生活を 忘れて大自然を楽しみました。ひと時の間、里子里親と離れ、それぞれの時間を過ごせ、 里親子ともども充実したキャンプになりました。 この子は、去年から実親や実の妹との交流があっており、精神的に複雑な心境が続いて いたのだと思います。8 月のキャンプがあるまで、退行行動や、里親や友達に対する乱暴な 言葉づかいがみられるなど、少し荒れた生活が続いていました。しかし、このキャンプに 参加した後から少しずつ落ち着きを取り戻し、実親と会う前の姿に戻りつつあります。 子どもが思春期となり、里親としてこの子との生活を続けていけるのか・・・と里親養 育の難しさを感じていましたが、このキャンプで多くの里親さんと語ることができ、里親 も子どももリフレッシュすることができました。これからも根気強く子どもに向き合い、 話し合い、コミュニケーションを大切にしながら、自立までを見守り、応援していきたい と思えるようになりました。 来年もキャンプに参加し、里親の皆さんとたくさんのことを語れたらと、今から楽しみ にしています。リフレッシュキャンプに参加できたことに対し本当に感謝しております。

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社会的養護を要する子どもたちへの体験活動

国立山口徳地青少年自然の家職員 Qちゃん (宮本慎也・企画指導専門職)

国立山口徳地青少年自然の家では、平成 19 年から 3 年間、調査研究事業「特定の状況に ある青少年の自立を支援するプログラム開発」事業を展開し、北九州市の児童相談所と連 携して本所の特徴的プログラムである「徳地アドベンチャープログラム(以下、TAP※1)」 の理念の実践を重ねてきました。 また、平成 22 年から 3 年間、 「困難な状況を有する青少年の支援プログラム」の試行・ 検証事業を展開し、県内外の児童養護施設や児童相談所、里親支援団体と連携し、TAP の 実践のみならず、自然体験や生活体験など様々な体験活動の有効性の検証を重ね、体験活 動の普及を図ってきました。 社会的養護を要する子どもが抱える課題は多様であり、その一つひとつにていねいに対 応しなくてはなりません。平成 26 年 8 月に閣議決定された「子どもの貧困対策に関する大 綱」では重点施策の一つとして「多様な体験活動の機会の提供」が掲げられ、児童養護施 設等の子どもを対象に自己肯定感の向上、生活習慣の改善等につながる多様な体験活動の 場を提供することが求められています。 そこで本所では「徳地オーダーメイド・プログラム」として、社会的養護を要する子ど もたちを支援している団体のねらい(ニーズ)や状況、さらには参加者の状況に柔軟かつ 臨機応変に対応し、プログラム構成の枠や時間枠にこだわらなくていいようにも配慮して います。また、普段子どもたちが経験することのない自然の中での集団宿泊活動などを通 して、以下の四つのねらいをもって支援しています。 ① 協調性やコミュニケーション能力といった社会性を育むこと ② 他者や自分自身に対する信頼感を育むこと ③ 問題を解決する力を養うこと ④ 困難な課題を解決することで得る達成感を味わわせること

※1 TAP(タップ) 徳 地 ア ド ベ ン チ ャ ー プ ロ グ ラ ム ( Tokuji Adventure Program)の略称。 プロジェクトアドベンチャーをベースにした活動 で、体験学習サイクルを生かした様々なグルー プ活動を通して人の成長を促すプログラム。

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しかし、我々自然の家の職員は、自然体験やアドベンチャー教育に関する知識・経験は あっても、社会的養護を要する青少年に関する知識や経験はその全てを有しているとは言 い切れません。そこで重要と考えたことが、対象団体の担当者や他分野の専門家を巻き込 んでプログラムを構成することでした。 実際にリフレッシュキャンプを準備する中で、SOS 子どもの村 JAPAN の担当者は何度も 徳地に下見・打ち合わせに訪れ、安心・安全な環境を提供することと、子どものわくわく・ ドキドキをどのように提供していくのかについて、自然の家の担当職員と協議しました。 また、本所職員・ボランティアの学生向けの勉強会を開き、子どもの村の担当者から社会的 養護に関することや、リフレッシュキャンプの趣旨や思いを直接伺い、スタッフの意識付 けや関わり方を学ぶことができたことが、職員のこのキャンプへの理解を高めることにつ ながりました。 さらには、リフレッシュキャンプのサポーター(学生・社会人からなるボランティア) の研修では、子どもの村は社会的養護の専門家として、徳地は子どもと関わる専門家とし てスタッフトレーニングを行ったことも、社会的養護を支える大人たちを育てる上でも非 常に重要なことであると考えています。 このように、自身の専門領域だけでなく、他の分野の専門家の知識・経験をブレンディ ングしていった結果が、双方に新たな気づきを得ることができ、よりよい体験の提供とリ フレッシュキャンプの成功につながったと考えています。 今後、先にあげた「子どもの貧困対策に関する大綱」を受け、社会的養護を要する子ど もたちへの支援や、それを支える支援者や環境の整備は広く展開されていくと考えられま す。その中でリフレッシュキャンプの企画や実践・スタッフトレーニングは、支援の在り 方の一つのモデルとなりうる事業であると考えています。本所では今後も多様な体験活動 の機会を提供するとともに、それを支える大人たちを支援していきます。

写真)自然の家全景

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キャンプ3日目 (9月1日) 最終日は、毎年恒例の「オモイデ写真プログラム」 。 2 日間の子どもたちや里親さんの様子を、オモイデ写真隊の 4 名が、一緒に遊びながら写 真を撮ってくれています。そのたくさんの写真の中には、子どもたちがのびのびとした表 情で、他の子どもやサポーターと遊んでいる姿や、里親さんやサポーターとのあたたかい 交流の様子が活き活きと写されています。 それを写真隊の皆さんが、一晩のうちにムービー風に仕上げ、みんなで鑑賞しました。 どこか懐かしいような素敵な音楽を BGM にムービーが進むと、笑い声や、 「お~」という歓 声があがります。その子どもたちの表情をみれば、どれだけ子どもたちがこのキャンプを 楽しんでいたかが伝わってきます。 ムービーが終わる頃には、大人も子どもも感動した様子で、終わった後もじ~んと余韻 を味わっているような一瞬の静かな間があり、拍手がおこりました。 子どもたちは、ムービーにおさめられた以外の 3000 枚近くの写真の中から好きな写真を 5 枚だけ選び持って帰ることができます。その写真を持って、最後は家族単位でキャンプの オモイデ新聞づくり。 沢登りの写真で記事を描く子、サポーターさんと一緒の写真で記事を書く子、子ども一 人一人の心に残るキャンプの思い出は様々です。子どもが里親さんに、子どもだけでどん なことをしていたのか、どんな楽しいことがあったのか、などを話しながら、家族だけの 時間を和気あいあいと、穏やかに過ごし、3 日間のキャンプは終了しました。

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オモイデ写真プログラム

オモイデ写真隊ディレクター タッキー (田北雅裕・九州大学大学院) 里親里子リフレッシュキャンプに参加し始めて 2 年。 「オモイデ写真プログラム」も 2 年 目を迎えた。このプログラムが始まったのは「思い出になる写真を残したい」という、あ る里親さんの一言がきっかけだったように思う。 「オモイデ写真プログラム」はシンプルだ。キャンプで過ごす子どもたちの写真を「オ モイデ写真隊」が撮影する。そして、その写真を最終日に皆に見てもらい、それをもとに 家族で「オモイデ新聞」を作る。一言で言うと、写真を記録して皆と共有する営みだが、 それ以上の意義を本プログラムに込めている。 まず、撮影するのはプロ(あるいはセミプロ)である。デジカメが普及し、誰でもそこ そこの写真を撮れるようになると、写真そのものへの思い入れも薄れていく。記録はされ ても記憶に残らない、そんな写真との出会いが少なくない。しかし写真隊の面々は、子ど もたちと一緒に遊び、過ごし、同じ目線でシャッターを切れるメンバーである。子どもた ちとの自然なコミュニケーションの延長上にある表情や姿は、キャンプが特別な日であっ たことを、しっかりと記憶に刻みこんでくれる。 そして、写真を皆で共有する最終日。まずは、子どもと離れて過ごした里親さんたちが、 写真を通して子どもたちが過ごした時間を知ることになる。自分が気付かなかった子ども たちの生き生きとした表情や、はじめて出会ったサポーターと打ち解けている姿に感じ入 るところがあるようだ。その後、お気に入りの写真を貼り合わせ、家族とともに「オモイ デ新聞」をつくる。キャンプの最後に訪れる家族だけの時間。3 日間に起こった出来事を家 族で振り返りながら、いわゆるアルバムをつくり、持ち帰ってもらう。実は、ぼくら撮影 隊は、記憶に残る写真をしっかり撮りたいという思いもあるが、それ以上にこのアルバム として写真を持ち帰ってもらうことに、大きな意味を感じている。 まず、思い出深い写真がこれから生きていく上での拠り所になるのは理解できるだろう。 つらい時の励みになったり、がんばろうと思えたり。サポーターに支えられ、そして里親 さんと共に過ごした時間が少しでも長く、子どもたちの支えになればと願っている。 そしてもう 1 点。心理学の言葉で「共同想起」と呼ばれる現象がある。例えば「あの時 A だったよね」 「いやいや、B だったよ」 「そうか、B だったね」…という具合に、他者とのや りとりの中で自分の記憶が修正されることをいう。他者と共に過去を思い起こし、記憶を 修正すること。実はその行為は、その人を信頼していることの裏返しでもある。相手のこ 20


とを信頼していなかったら、記憶を修正することなく、かたくなに自身の記憶に留まり続 けるだろう。互いに思い出を語る中で、少なからず記憶の修正がなされること。それはつ まり、信頼感とともに新しい過去が生まれていくということでもある。アルバムや写真を 素材に、今まで向き合わざるを得なかった過去が、少しずつ新しい過去に移り変わってい く。信頼できる里親さんと出会い、その人によってもたらされた新しい過去が、力強く未 来へと導いていくのだ。 最後に、ぼくの好きな CM を紹介したい。とあるスマートフォン(以下、スマホ)を販売 している IT 企業の CM だ。クリスマスの休日、家族と一緒に親戚宅へ旅行をする少年の話 である。その子はずっとスマホをいじっている。親戚の子どもたちは雪だるまをつくった り、クリスマスツリーを楽しんだり… そんな中でも、独りぼっちでスマホをいじり続け る。そんなつまらなさそうな彼の姿に、母親をはじめ、周囲の大人たちはうんざりするの だ。 休日の最後の夜、皆が集まったリビングで少年はおもむろにテレビを付ける。そこに映 し出されたのは、休日を楽しそうに過ごす家族や親戚の姿。皆とのコミュニケーションを 放棄し、スマホをいじっているようにしか見えなかった彼は、実は楽しく過ごす皆の表情 に一番目を配り、皆が気付いてないような自然な表情をとらえ、皆の記憶に残るよう思い を込め、カメラで撮影し編集していたのだ。この CM のタイトルは「Misunderstood(誤解)」 という。 カメラや写真との関わりは奥深い。カメラがあるからこそ、一緒にいれる関係がある。 カメラがあるからこそ、コミュニケーションができる関係もある。リフレッシュキャンプ は、あとどれくらい続くだろう。その中で、撮られるだけでなく、撮り手としての子ども たちの姿があってもいい。子どもたちにしか撮れない写真があるだろう。そしてその写真 を前にした里親さんの表情に、立ち会いたい。

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リフレッシュキャンプの効果 ―里親へのインタビューより

いでっち (井出智博・静岡大学) 参加者も含めて、リフレッシュキャンプ(以下、RC)に関わる人にとって、RC はとても 楽しく、良い時間であることは間違いない。しかし、何が、どのように良いのかを明らか にしていくことが、RC をより良い時間にしていくためには必要である。そこで、2014 年 度の RC 期間中に、キャンプに参加した里親に対してインタビューを行い、その内容を検討 することで、RC の持つ“良さ”について明らかにすることを試みた。 対象は 6 組の里親である。様々な活動の合間を縫って、30 分程度の半構造化面接を行っ た。あらかじめ準備された質問項目は「参加動機」 「RC と他の活動の比較」 「RC の良さ」な どである。インタビューの結果を、KJ 法を援用してリフレッシュキャンプが持つ力につい ての要因を抽出したものを図に示した。 RC では、里親、里子共に、 「里親家庭だけだからという安心感」を抱いており、子どもた ちはそうした安心感をベースに、 「子ども同士の付き合い」を楽しんだり、「安心できるス タッフ・サポーター」との関係を楽しんでいる。このように子どもたちが楽しむことはさ らに、里親の安心感を深めている。レスパイトのように、完全に別の場所で過ごすのでは なく、子どもが楽しんでいる様子を見ながらも、自分たちの時間が確保されていることや、 他の研修やキャンプと異なり、「里親の負担が少ない」ことによって、「子どもとの適切な 距離感」を保ちながら、 「里親同士で語り合える」時間に里親は大きな意味を感じている。 こうした里親や里子が安心感を持ちながら、お互いにとって適切な距離を保ちながら過ご すことができることが、RC が参加者にとって“良い”時間となることを心理的に実現させ ている。 さらに、こうした時間を里親が持つことを実現している背景には、敷地の中に棟が点在し ている「徳地(国立山口徳地青少年自然の家)の空間」や日常の生活から離れた「徳地の 立地」、さらには社会的養護に対する「徳地のスタッフの理解」がある。こうした要因が、 先述したような参加者が安心して、かつ適切な距離を保ちながら過ごすということを可能 にしている。これは徳地が持つ空間的な特徴だけではなく、子どもの村、ぼうけん王、国 立山口徳地青少年自然の家、里親会、サポーターの各所が協力をすることで成り立ってい る。 一方、こうした RC を続けていくこと、参加することにはいくつかの問題もある。その 1 つは、福岡から徳地までの距離の問題である。日常から離れられると肯定的に受け止めら 22


れている反面、やはり、遠すぎると感じていたり、家から離れているために何かがあった ときに対処しにくいという不安を抱いている里親もいた。また、日程的にも、2 泊 3 日であ る必要性を感じているものの、盆休みなどをとる 8 月中に、2、3 日の休暇を里親がとるこ とが難しいという意見も聞かれた。今後、どのような会場で開催することがよりよい満足 につながるかは検討が必要だろう。 しかし、リフレッシュキャンプに対して、子どもたちはまた行きたいという気持ちを抱き、 里親もまた連れていきたいという気持ちを抱くという循環が生まれてきている。里親、里 子双方にとって、 “良い”時間であることがこうした良い循環に繋がっており、そうした時 間を提供することができているのがこのキャンプの大きな特徴と言えるだろう。

(図 リフレッシュキャンプが持つ力)

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「リフレッシュキャンプ」のこれまでとこれから

副実行委員長 まーちゃん (坂本雅子・SOS 子どもの村 JAPAN)

「課題があれば、みんなでチャレンジしよう」を重ねながら 子どもの村福岡(2014 年 7 月 SOS 子どもの村 JAPAN と名称変更)は、2010 年、4 年 半の準備期間を経て、2010 年福岡市西区今津に開村しました。「すべての子どもに愛ある 家庭を」をスローガンに、世界 134 か国で子どもに家庭的環境での育ちを保障する活動を 展開している世界の NGO「SOS 子どもの村」が、日本に初めて誕生しました。 子どもの村福岡は、福岡市の児童相談所と子ども NPO センター福岡の協働による里親普 及・支援活動「新しい絆プロジェクト・ファミリーシップふくおか」の活動を経て、多く の企業や市民の支援を受けて生まれました。 子どもの村福岡では、里親登録した「育親」が、村の家族として子どもを育てています。 また、私たちは 2011 年から「里親・ファミリーホーム研修」を始めました。ファミリーホ ームは、我が国の家庭養護を進める新しい切り札として制度化されましたが、それを支え る人材養成のしくみはなく、研修は喫緊の課題と思われたからです。この研修プログラム の開発は、子どもの村福岡の専門家チーム「子どもサポートチーム」と、児童相談所、福 岡市里親会、弁護士有志、小児科医会、精神科病院協会等で多分野のネットワークをつく りながら行われました。そして、里親の研修についてきている子どもたちには、 「子どもた ちへのプログラム」をつくってはどうかとの意見がその中から持ち上がりました。

「里親・ファミリーホーム養育者研修」から「子どもプログラム」が生まれる 2012 年から始まった「子どもプログラム」は、社会的養護の子どものたちへの遊びプロ グラムとして実践をかさね、理論化し、評価し、質を向上させていくことができたのには、 「九州ぼうけん王」の大西さんとプログラムを支えるボランティアサポーターの協力なし には語れません。 子どもにとっての遊びは、 「国連子どもの権利条約 31 条」に定められた子どもの権利で すが、社会的養護の子どもたちは、多くの他の権利を失ってきたとともに、子どもの心身 の発達や健康を支えるこの遊びの経験が十分でないままに育ってきています。子どもプロ グラムとは、社会的養護の子どもたちへの遊びの権利の保障と重要性を訴えるシンボルと も言えます。この 4 年間で、このプログラムは「遊びを通した子どもの心のケアプログラ 24


ム」へと少しずつ質の向上を図ってきました。また、ボランティアサポーター研修などを 行いながら、多くのボランティアサポーターに支えられてきました。 (詳しくは、SOS 子ど もの村の子どもプログラム報告書をご覧ください)

「子どもプログラム」からリフレッシュキャンプへ ~さらなるチャレンジに向けて~ 子どもプログラムの活動からリフレッシュキャンプが生まれた経過は、木村実行委員長 が述べられています( 「はじめに」参照) 。 里親やファミリーホームは、わが国の社会的養護の中で、大きな役割が期待され、また、 推進の方針が出されていますが、里親支援の施策は十分ではありません。特に、日々の生 活の中で、休養し、リフレッシュすることは安定した養育のために必要不可欠です。ファ ミリーホームは、レスパイトの制度がないため、今後、ファミリーホーム推進の条件とし て、休養日の確保を保障することが重要です。 豊かな自然環境の中で、里子たちが楽しみ、里親は少し解放される、この時間のもつ意 味はとても大きいと思います。この試みは、中心となる里親会、九州ぼうけん王、SOS 子 ど も の 村 の メ ン バ ー に 加 え て 、 児 童 相 談 所 、 子 ど も NPO セ ン タ ー 福 岡 、 九 州 大 学 の皆さんでつくる実行委員会の力です。実行委員会は、これまで福岡市で培ってきた社会 的養護を取り囲む関係者や市民の「ないものは、ともに創り出していこう」というエネル ギーに支えられてきました。 このキャンプを継続するために、またさらなるチャレンジのために、これからは人材、 資金、場所の確保、中心となる事務局体制、活動の評価や記録などの課題がありますが、 力を合わせて乗り越えていくことが求められています。

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キャスティング2014

キャンプディレクター:ねーさん プログラムディレクター :ジミー オモイデ写真隊リーダー :たっきー サポーターリーダー:うめちゃん・しげぞう・エマエマ・はんちゃん サポーターサブリーダー :きよにい・ちぇき・つっつん・まっつん・そめちゃん・ごん きんちゃん サ ポ ー タ ー:あけひ・あさみん・あつし・あべし・ウーピー・えんえん・キティ・ けいさん・コービー・ごくちゃん・このみん・さーちゃん・さき・さ きてぃ・さとぅ・しおりん・しょう・しんちゃん・しんめい・たいこ・ つっちー・どんぐり・なおっぴー・なっちゃん・はるる・ぴこたん・ ひなたん・ひろさん・ひろと・ふらんそわ・まーくん・マイク・まい まい・まっきー・まっつー・みきてぃ・もえ・もずく・もも・ももれ んじゃー・ゆっきー・ゆっきー・よしの・りっちゃん・りの オ モ イ デ 写 真 隊 :さきちゃん・じゅんちゃん・まいまい・もずく 縁の下の力持ち隊(本部):ともちゃん・ろこさん・ゆきさん・かおるちゃん 里親インタビュアー:いでっち 二

奏 :みどたん

協 力 ・ 支 援:山口徳地青少年自然の家 キヤノン株式会社 ALBUS|株式会社アルバス 寄付者 99 名 (順不同)

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リフレッシュキャンプ2014実行委員会

実 行 委 員 長 : 木村康三(福岡市里親会 ファミリーホーム部会) 副実行委員長 : 坂本雅子(NPO 法人 SOS 子どもの村 JAPAN 常務理事) 実 行 委 員 : 天久真理(福岡市里親会 会長) 岩本 健(福岡市里親会 副会長) 中島浪子(福岡市里親会) 大西清文(九州ぼうけん王 代表) 田北雅裕(九州大学大学院人間環境学府教 育 学 部 門

専任講師)

酒井咲帆(株式会社アルバス・写真家) 宮本慎也(国立山口徳地青少年自然の家 企画専門職) 宮本智子(NPO 法人子ども NPO センター福岡 事務局長) 草場浩子(福岡市こども総合相談センター 里親担当係長) 角崎由紀子(子どもの村福岡 センタースタッフ) 橋本愛美(福岡市子ども家庭支援センター「SOS 子どもの村」 相談支援員) 生田 薫(SOS 子どもの村 JAPAN)

(順不同)

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今回のキャンプは、ボランティアサポーターをはじめ、 多くの寄付者、支援者によって支えられ、実施することができました。 このキャンプに関わったすべての皆さまに感謝申し上げます。

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リフレッシュキャンプ実行委員会 〒810-0054 福岡市中央区今川 2-14-3 SOS 子どもの村 JAPAN 事務局内

camp@sosjapan.org



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