こうして歌が生まれた:「365歩のテーマ」ボンボ藤井さん 熊本 毎日新聞

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こうして歌が⽣まれた 熊本地震1年2カ⽉ 「365歩のテーマ」ボンボ藤井 さん(50) /熊本 毎⽇新聞 2017年6⽉14⽇ 地⽅版

⽀援への感謝と恩返し誓う  「365歩のテーマ」を作ったボンボ藤井さ ん(50)は、熊本地震の前震が起きた昨年4 ⽉14⽇夜は益城町にいた。町公⺠館のウクレ レ教室を終えた20分後、運転する⾞が熊本市 中央区渡⿅の事務所駐⾞場に着いたとたん「グ ラグラ」と激しい揺れに襲われた。しばらくし て建物のひび割れが⽬に⼊り、地震と分かっ 「全国からの⽀援に感謝したい」と語るボ ンボ藤井さん

た。⾝の危険を感じてその⽇は佐賀県へ避難し たが、思い出したのは⼋代市の家族や益城町の ⼗数⼈の教室⽣。メールで連絡を取り合い、佐

賀県で⽔や⾷料を購⼊して再び益城町へ⼊った。  そして1⽇過ぎて⾃宅で就寝中に襲ったのが同16⽇の本震。家族は無事で、熊本市の⾃ 宅と事務所は家具が倒れてぐしゃぐしゃになったが、⾃宅で暮らすことはできた。⽣活が落 ち着いてきた昨年6⽉、何ができるか⾃問⾃答した。「歌をつくるしかない」。多くの⾳楽 家が復興ソングを発表していたが、それが結論だった。ただ、「応援歌でいいのか」と疑問 が湧いた。 広告 inRead invented by Teads

ボンボさんは故郷の⼋代市ではギター少年で知られた。30歳のころウクレレと出会い、 ⾳楽で⾝を⽴てる道ができた。作詞作曲⽣活も20年。「くまモン体操」など県や企業のC M曲を作ってきたが、単に被災者の震災応援歌を作ることには⼾惑いがあった。  熊本地震の被害が最も⼤きかった益城町のウクレレ教室の⽣徒に聞いてみると、けがをし たり、避難所暮らしを強いられたりしていた。「⾃分たちは頑張るしかない。でも、これ以 上、頑張れと⾔われたら怒る」。被災者を応援するのではなく、思い浮かべたのは復興で活 躍しているボランティアの姿だった。


<⼀歩⼀歩前へ ⼀歩⼀歩前へ 踏み出したその勇気は⼩さいものだけれど ⼀歩⼀歩前 へ ⼀歩⼀歩前へ ありがとう 固い絆胸に進むよ>  できあがった「365歩のテーマ」は復興を⽀援してくれる⼈たちへの感謝の歌だ。アッ プテンポな軽快なリズムだが、「頑張る」「頑張ろう」の⾔葉は⼀⾔もない。題名の「36 5歩」は熊本出⾝の歌⼿、⽔前寺清⼦さんのヒット曲「365歩のマーチ」を思い浮かべ る。⽔前寺さんと⼀緒に歌うのがボンボさんの願いでもある。  歌詞には誓いの思いも込めた。被災した県⺠も少しずつ課題を克服して、次にどこかで災 害があったら、被災地と被災者を⽀援するという決意である。  <⽇常の当たり前が奪われていく 悲しみと思い出が絡み合う ⽡礫(がれき)の隙間 (すきま)にそっと⼀粒蒔(ま)いた あの時のひまわりの種>  情景は阪神⼤震災で亡くなった11歳の少⼥が発⾒された場所で咲いたヒマワリの奇跡の 逸話である。復興のシンボルとなったヒマワリの花。  曲のイメージを作っていた昨年6⽉12⽇のことだった。ボンボさんは、益城町がつくっ た⼦供の遊び場「よかましきハウス」で⼩学⽣にウクレレを演奏していた。「今⽇が誕⽣⽇ の⼈はいますか︖」と尋ねると、10歳くらいの男の⼦が名乗り出た。ボンボさんは「ハッ ピーバースデー」を快く弾いた。でも、彼の本当の誕⽣⽇は本震が起きた4⽉16⽇。経験 のない揺れから彼を守ろうと必死だった親から誕⽣⽇を祝ってもらえず、⼩さなうそをつい たのだったという。益城町は今も震災の傷痕が残る。ボンボさんは彼の今年の誕⽣⽇は親か ら祝福されたのだろうかと思う。彼のヒマワリのような笑顔を想像して今⽇も曲を弾く。 【杉⼭恵⼀】

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