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グ リ ー ン ズ 編 集 学 校 の 教 科 書

グリー ンズ 編 集 学 校 の 教 科 書

04

VOL

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グリー ンズ 編 集 学 校 の 教 科 書

VOL 04


こんにちは! greenz.jp 編集長の兼松佳宏(YOSH)です。

はじめ に

グリーンズ編集学校は、greenz.jp の記事がどうつくられているの かを知りたい、編集や発信のスキルを自分の仕事に活かしたい、編 集者・ライターとして次のステージに進みたい、という方のための、 全6回の講義 &ワークショップです。

グ リ ー ン ズ 編 集 学 校 へ よ う こ そ!

2014 年のはじめに第一期がスタートし、2014 年末に第三期が終了。 今までに約 40 名が羽ばたいていきました。中には夢だった編集の仕 事を始めた人や、思い悩んだ末に念願の転職を果たした人もいます。 また、第三期までは東京だけでの開催でしたが、大阪、岐阜、島 根など遠方からの参加が相次いだこともあり、僕が鹿児島から京都 に引っ越す 2015 年春からは、いよいよ関西でも開校する予定です。 そんなグリーンズ編集学校のゴールは、greenz.jp に掲載される記 事を書くこと。他の誰も真似できない自分だけの「マイ企画」をつ くるところから、卒業後のインタビュー・記事執筆までをサポート していきます。 記事が公開されるまでの流れは、ふだん編集部で行っているライ ターさんとのやりとりとまったく同じ。編集長である僕がビシバシと 企画をブラッシュアップしたり、原稿に赤入れ(コメント)をしたり しながら、一緒に記事を仕上げていきます。

グリーンズ編集学校の様子

卒業作品 が世に出るのは、受講してから早くて 3 ヶ月後、遅くと も半年後。実際に取材をして、記事を書くところまでやりきるのは 受講生の1/3ほどですが、おかげさまでどの記事も反響があり、 確かな手応えを感じています。

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編集 ってどういうこと? 当たり前ですが、編集学校とは 編集 を学ぶための学校です。では、

『グリーンズ編集学校の教科書』なのです。

編集学校の流れ

編集学校

そもそも編集とは何でしょうか? 例えば、イシス編集学校を主宰する松岡正剛さんにとって、編集と

〈第一章〉

〈第二章〉

〈第三章〉

〈第四章〉

卒業発表として

グリーンズのそもそも

企画のつくり方

インタビューのしかた

記事の書き方

取材依頼書作成

は「ごちゃごちゃしている情報を、すっきりと整理して『必要な情報』

卒業

『意味のある情報』『使える情報』に変えること」。

取材/執筆

一方、僕も 20 代の頃に受講したスーパースクールの後藤繁雄さん

掲載

は、編集とは「『情報』 『表現』 『価値』 『企画』 『生活』を再編する術」 と表現しています。その定義は無限にありそうですが、日本を代表 する二人の編集者の言葉には重みがありますね。

この本には「グリーンズのそもそも(第一章)」、 「企画のつくり方(第 二章)」、「インタビューのしかた(第三章)」、「記事の書き方(第

では、greenz.jp 編集長である僕が実感している 編集 とは何か。

四章)」といった講義録のほか、greenz.jp が誇るライターさん達の

それは、情報発信をきっかけに、ご縁を育てていくことです。

コラム「greenz ライターという仕事」(第五章)、さらに歴代受講 生へのアンケートや推薦図書なども盛り込んでいます。

greenz.jp に掲載された一本の記事がきっかけとなって、取材先の 団体や活躍の場が広がったり、読者との素敵なコラボレーションが

この本を手にとった方に、何かひとつでもヒントがあれば嬉しいで

生まれたり、予想外のミラクルがどんどん起こっています。ときに

すし、2010 年から 4 年間、編集長として培ってきたひとつの成果を、

は記事を書いた本人が、転職したり、移住するなど、転機を迎え

こうして greenz people のみなさまにお届けできること、とても光

ることもあります。

栄に思います。

それくらい、人の思いを伝える編集者やライターには、人を前向き

greenz ライターさんや編集部メンバーが、ひとつひとつの記事にど

にし、社会を動かす力がある。グリーンズ編集学校を通じて、受

んな思いを懸けているのか。この本から、その一端を感じていた

講生にはその醍醐味を味わってほしいと願っています。

だけたら幸いです。

「とはいっても、インタビューは未 経験だし…」と思った方もいる

greenz.jp 編集長

かもしれません。その自信を得るために、全6回のカリキュラムが

兼松佳宏

用意されています。そして、その内容を丸ごと一冊にまとめたのが、

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卒業生に聞きました。 「スクールでもっとも学んだこと」をひとことで言うと?

CONTENTS コミュニティーの温 度

贈り物を届ける気持ち

いい文章は おいしいチャーハン! !

マウナケアで 考える

インタビューの奥深さ

はじめ に  グリーンズ 編 集 学 校 へようこそ!

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第 1 章   グリーンズ のそもそも

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第 2 章   企 画 の つくり方

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第 3 章   インタビュー のしか た

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第 4 章   記 事 の 書 き方

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第 5 章   g r e e n z ライターという仕 事

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お わりに   g r e e n z . j p 編 集 長という仕 事

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おまけ

102

答えは 自分の中にある

自分の研 究テーマが できたこと 思いを形にする力

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ほしい未来は、つくろう

第1章

グリー ンズ の そもそも

「greenz.jp」は、NPO 法人グリーンズが運営する、 ほしい未来 をつくるため のヒントを発 信するウェブマガジンです。キャッチコピーは、「ほしい未 来は、 つくろう」。 「誰かが決めた未来」ではなく、「自分がほしい未来」を思い描きながら、でき ることをひとつひとつ形にしていく。そんな新しい生き方や働き方を、情報発 信と対話の場づくりを通じて広めていきたいと思っています。 扱っている分野は、食やエネルギー、まちづくりから復興までさまざまですが、 掲載されている記事に共通するのは、「発見や驚き」「強い思い」「インパクト」 という 3 つの掲載基準を満たしていること。 これらの 要 素こそ、他 のウェブ マガジンやバイラルメディアとは一 線 を画 す、 greenz.jp らしさ の源だと言えます。

● 3つの掲載基準 NPO 法人グリーンズは何を目指しているの?

①「発見や驚き」がある   思わず人に伝えたくなるほど強 度があるネタか?

どんな人が greenz.jp を読んでいるの?

②「強い思い」がある 最初に、「グリーンズのそもそも」をご紹介します。

「何とかしたい」という個人的な思いから始まっているか?

③「インパクト」がある   実際に社会問題を解決し、さらに広がる可能性があるか?

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どんな人が読んでいるの?

・ 組織の中で孤軍奮闘している、あらゆる人 ・ 真面目なことを楽しそうにやっている、あらゆる人 ・ 自分に素直に生きている、あらゆる人

月間読 者数の推移

2 0万人!

単位:月間ユニークユーザ数

ここには「若者」や「アウトドア好き」といった、わかりやすいセグメントはあり

200000

ません。むしろこの とらえどころのなさ を、僕たちは大切にしたいと思っています。 性別も年代も人種も、趣味も学歴も職業も、もうみんながみんな、多様である。 でも、ほしい未来を自らの手でつくっている、あるいはつくりたいと思っている という、ただ一点だけで、共鳴している。

150000

押し付けがましくなく、気持ちいい人たちが、グリーンズの周りには集まってい ます。それはきっと記事を通じて、根底にある価値観や熱が、しっかりと伝わっ

100000

ているからかもしれません。

グリーンズが歩んできた道

50000

ここで少し、グリーンズの歴 史を振り返ってみましょう。ウェブマガジンとして 0

の「greenz.jp」が産声を上げたのは 06 年夏。鈴木菜央が初代編集長で、僕 2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

はフリーランスのウェブデザイナーとしてデザイン全般を担当していました。

※ Goolge Analy tics設置以降のデータ

その後、僕もだんだんと編集面にも口を挟むようになり、4年後の 10 年冬に 2015 年現在、月間読者数は約 20 万人。06 年の創刊当時は 5 千人ほどだった

は二代目編集長に。さらに4年後の 14 年秋からは、鈴木菜央と一緒に ふた

ので、一歩一歩、裾野が広がってきた実感があります。イベントやスクールで、

り編 集長 体 制 となりました。半ば 冗 談、半ば本気で、EXILE のように年々、

実際に読者の方々とお会いする中で、僕に見えている読者像は、例えばこんな

編集長が増えていくのも楽しそうだなあと思っていたりします。

方々です。

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創刊当時のキャッチコピーは、「エコスゴイ未来がやってくる!」。そして、翌 07

時代に合わせたメディアのあり方を模索していきました。

年のリニューアル時には、「エコスゴイ未来がやってきた!」と、未来形から完 了形になりました。このとき何を確信したのかは覚えていませんが、「 エコス

そして 13 年 2 月のリニューアルで、デザインは黒から白へ。キャッチコピーが「ほ

ゴイ ってどういうことだろうね?」とよく議論した記憶があったり、なかったり。

しい未来は、つくろう」に変わり、今に至ります。

その後 08 年頃には、エコメディアと紹介されることに違和感を持ち始め、「エ コメディアじゃないってば宣言」を発表。直後の 09 年のリニューアル時(デザ インの基調が黒だったので、 黒い時代 とも呼ばれます)には、「あなたの暮 らしと世界を変えるグッドアイデア厳選マガジン」となりました。

新しい時代の目利きとして 創刊から 9 年。ネガティブなニュースよりも解決策を紹介したい、素敵な未来 をつくる人たちの理解者として応援したい、という思いは、今でも変わることは

08 年から 09 年にかけては、世界的にも金融危機があった頃。誰もが経済成長

ありません。何より誇らしいのは、記事にご登場いただいた方の多くが、日本

至上主義に疑問を抱いた中で、僕たちの周りでは転職したり、起業したり、あ

全国、あるいは世界各地へと、着実に活躍の場を広げていること。

るいはマイプロジェクトを始めたりと、確かな変化の兆しを感じていました。そ れまで海外事例ばかり紹介していたグリーンズに、日本の記事が増え始めたの

取材先のみなさんと久々に再会すると、 「記事のおかげで取引先が増えました」、 「記事を名刺代わりに使っていて、助かっています」、「こういう深い話ができる

もこの頃です。

のは、グリーンズだけだよ」といったありがたい言葉を頂くことがあります。本 そんな中で起こった東日本大震災。悲しいこともたくさんありましたが、「自分たち

当に編集長冥利に尽きる思いです。

で社会をつくっていこう」という機運が一気に高まったタイミングでもありました。 とはいえ、先の 3 つの掲載基準さえクリアしていれば、取材先は有名無名は問 震災直後の 5 月にはフリーペーパー「メトロミニッツ」とグリーンズで共同編集

いません。むしろ「初めてのインタビューはグリーンズだった」と言ってもらえ

した「POWER OF SOCIAL DESIGN 特 集」を発行。大きな話題となり、「今こ

るくらい、100 年先の当たり前となるような、新たな兆しの目利きであり続けた

そグリーンズのような媒体が求められている」と強く自覚したのを覚えています。

いと思っています。

12 年には、『ソーシャルデザイン ー 社会をつくるグッドアイデア集』(朝日出版

そして、それにひとつひとつ光を当てていくのが、編集学校で 形にする「マイ

社)を出版し、販売部数は 2 万部を突破。その勢いに乗るように、NPO 法人グリー

企画」なのです。

ンズを立ち上げ、会員制度(greenz people)をスタートさせるなど、新しい

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卒 業 生 の「 マ イ 企 画 」

第2 章

企 画 の つくり方

私の子ども から 私たちの子どもたち へ 子をまるごと使って 3 児を育てる小野寺愛さんに聞 いた「 地域ぐるみの子育て のはじめ方」 (安浩美さん) http://greenz.jp/2015/01/17/aionodera_ zushi/

ほしい未 来のヒントは

発酵

にある!?

創業 340 年の蔵元「寺田本家」24 代目・寺田優さ んに聞く「酒づくりとまちづくりの関係」とは(染谷 沙織さん) http://greenz.jp/2014/12/13/terada_honke_hakkou/

3 年 以内の目標は

日本一 & 代表 選手を 3 人 輩出すること !

未来のなでしこジャパンを育てる「小美玉フットボー ルアカデミー」の挑戦(山田智子さん)

それではさっそく、「マイ企画」をつくっていきましょう。 そもそも「マイ企画」って? 企画をつくるために、何から始めたら?

http://greenz.jp/2014/07/27/omitama/

下駄で痛い思いをさせたくない この道 49 年、鼻緒すげ職人・根岸俊吉さんが「東京 花緒すげ名人会」に込めた思いとは(石川円香さん)

この章では、 「 グリーンズ流・企画のつくり方」をご紹介します。

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http://greenz.jp/2014/06/05/negishi/

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企画の種は「わたし」の内にある

だからこそ編集学校で苦楽をともにする、失敗さえも共有できる同期の存在は

みなさんの中には、「 面白い人 でないと、面白い企画はつくれない」と思っている

ンズの学校のひとつの価値なのです。

とても大きい。何かに挑戦するときに、失敗してもいい場所があるのも、グリー

方もいるかもしれません。シビアに言って、実際のところそうなのですが、編集長とし て僕が感じているのは、 「みんなそれぞれ面白いじゃん!」という当たり前の事実です。 ものの見方は千差万別だからこそ、誰もが企画の 種 を秘めている。誰かと

企画とは「秘密を明らかにすること」

話をしていて、「何だか興味が沸いてこないなあ」と感じてしまうのであれば、

では、そもそも「企画を考える」とはどういうことなのでしょうか? 僕にとって

それは単に僕自身のメガネが曇っているだけかもしれない。あるいは光を当て

それは、みんなが気付いていない

秘密

を明らかにすることです。

る角度が、ちょっぴりずれているのかもしれない。いつもそんなことを考えな がら、そこにある学びや可能性に目を向けようと心がけています。

greenz.jp の読者は、自分が「こうあってほしい」と思う未 来を、自分の手で つくろうとしている人たち。そんな方々にとって明日への活力になるようなヒン

もちろん、小さな種から出発して、多くの読者に読んでもらう記事として実を結

トを届けるには、すぐに応用できる浅く広い知識だけでなく、10 年後にふと腑

ぶまでには工夫が必要です。みんながもう知っていることや一歩先くらいのこ

に落ちるくらいの奥深い洞察も大事です。

となら、その情報はあまり価値が高いとはいえません。とはいえ、二歩先すぎ てもひとりよがりになるし、自分とは関係ない、ちょっと遠いことのように思わ

広さと深さ、ふたつの学び。この世界には、まだまだ光の当たっていない貴重

れてしまう。だからこそ、いつも 時代の 1.5 歩先 くらいを意識しながら、企

な知恵が、もったいない程にたくさんあります。それらをひとつひとつ紐解いて、

画を練るようにしています。

物語として伝えていくには、世界を眺めるたくさんの眼差しが必要です。

その上で、グリーンズとして最も大事にしたいのは、熱のある記事を届けること。

僕には思いもよらなかった、あなたらしい光の当て方を教えてほしい。そんな

だからこそ周りのニーズに合わせるよりも、自分の奥深いところから沸き上がっ

思いで編集学校の受講生と対話を重ねながら、これまでにいくつものすばらし

てくる「書きたい!」という気持ちを大切にしてほしいと思っています。

い卒業作品が生まれてきました。

その人にしか表現できない、とっておきの「マイ企画」は絶対にある。でも、それ

こうして受講 生と一 緒に企画を考えていくプロセスは、僕にとってもインスピ

を考えていくことは、自分自身をオープンにして、深く掘り下げていく作業でもあり

レーションの源となっています。

ます。それは生半可なことではなく、ときに

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藤と向き合う場面もあるでしょう。

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「⃝​⃝といえばわたし」 地 域ぐるみの子育てといえばわたし。職 人技といえばわたし。空海といえばわ たし。編集学校を通じて最終的に目指したいのは、そんな「⃝​⃝といえばわたし」 という旗を立てていくことです。 人生の軸がはっきりすると、不思議なご縁が面白いようにつながり、どんどん いい話が舞い込んできます。いつのまにか大きな何かに導かれ、予期せぬ場所

Q

何から始めたら?

A

ピンときたものを頼りにすべし

STEP 1  まずは greenz.jp を読んでみる その人にしか表現できない、とっておきの「マイ企画」。いきなりそう言われても、 「ハードル高いなあ」と感じた方も多いかもしれません。それは当然のことで、自 分ごと に近づくためには、いまここにある自分の心の動きを知ることが先決。

にワープしていることもあります。

そのための簡単な基礎演習が、greenz.jp を読むことです。ここではもう、ひ greenz ライターさんの中にも、取材をきっかけに独立したり、移住したり、次

たすら受動的で OK。

のステップへと着実に歩みを進めている方がたくさんいます。それくらいライター や編集者という仕事は、自分を高めたい意欲のある勉強家(*1) にとって、絶好

greenz.jp に一年間でアップされる記事は約 600 本ですが(2014 年現在)、全

の仕事だといえるでしょう。

部が全部、あなたにとってお気に入りというわけではもちろんないと思います。 でも、きっと何本かは心に響く、あるいは違和感があって、モヤモヤする記事

編集学校で実現した「マイ企画」が、それぞれの夢を叶えていくパスポートに

が見つかるはず。まずはその ピンときた感じ

(*2)を大切にしてほしいのです。

なることを願って。さっそく企画をつくるためのステップを見ていきましょう。

*1

勉強家

みなさんは勉強は好きですか?もしかしたら、あまりいいイメージがないかもしれません が、プロとして勉強する人としての「勉強家」は、僕が一番大切にしている肩書きです。調べ

物をしたり、文章を書いたり、旅をしたり、好きなことはいろいろありますが、それはきっ

と、もっともっと勉 強 がしたいからなんですよね 。ちなみに学 習は「学 び、習う」、教 育は 「教え、育てる」ですが、勉強とは「強いて勉める」。「空海とソーシャルデザイン」など、い つも自分には大きすぎるテーマを無茶ぶりしながら、ちょっとずつ追いついて、さらなる高 みを目指していきたいと思っています。

greenz.jp には「さがす」というメニューがあり、「まちづくり」「食と農」といっ た興味、「アフリカ」「鹿児島」といったエリアなどの切り口で、絞り込むことが できます。図書館で調べ物をするような気持ちで、ぜひ記事を探してみてください。

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お わりに

このとき最初に取り組んだのが、人気になりそうな記事を仕込むこ とでした。今でも歴代1位のページビュー数を誇る「スターバックス

g r e e n z . j p 編 集 長という仕 事

の紙コップ利用を減らすアイデアコンペ」の記事などが生まれ、月間 読者数も6万前後から 10 万前後まで底上げすることができました。 一方その裏側では、次々と問題が起こっていました。編集長交代に

ここまでお読みいただいて、ありがとうございました。『グリーン

よって校正フローが混乱し、出典の確認や誤字脱字の修正が間に

ズ編集学校の教科書』、お楽しみいただけましたでしょうか。

合わないまま公開してしまったり。あるいは、記事をショートさせ ないために、毎朝ライターさんにネタを振り、その日のうちに書い

この本を読んだ後、「誰が書いた記事なんだろう?」とライターさ

てもらうという無理強いをしたり。

んを気にかけるようになったり、引用符で囲まれた 生きた言葉 を楽しみにしていただいたり、いつもの greenz.jp がまた違って 見えてきたら、それ以上の喜びはありません。

また、3 月には東日本大震災も重なり、すっかり心ここにあらず状 態に陥ってしまいます。就任して半年は「編集長!」と呼ばれても、 「あ、僕?」という感じで、肩書きとの乖離に戸惑っていました。

さて、この本の結びとして、僕も「greenz.jp 編集長という仕事」 について少し言葉にしてみたいと思います。

光が見えたのは、震災直後のメトロミニッツ「POWER OF SOCIAL DESIGN」特集の仕事でした。過去の記事を振り返り、まとめてい

第一章でも書きましたが、創刊時の編集長だった鈴木菜央から、

く作業の中で気付いたのは、弱っていた自分自身が、まさにソーシャ

僕にバトンが渡ったのが 2010 年冬のこと。僕の 20 代は リーダー

ルデザインの力にワクワクしていたことでした。

の 側 近 という仕事が多く、フットワークの軽さを強みに新しい 風を運んでくる、そんな役回りでした。でも 30 歳を過ぎ、これ

これからの社会は、自分たちの手でつくる。このメッセージはきっと、

からの働き方を真剣に考えた時、「そろそろ自分がリーダーになら

多くの人に届くに違いない。

ないとダメになる」と思い至り、菜央くんに直談判したのでした。 「編集長をやらせてくれ。でなければ、僕はグリーンズを離れる」 それくらいの覚悟で。

予想通りというかそれ以上というか、その号は大反響をいただき、 当時メトロミニッツのクリエイティブディレクターをしていた菅付雅 信さんから、 「今度は書籍を出さないか」というオファーが届きます。

そして、菜 央くんからは「その言葉を待っていたよ」と受け入れ

聞いてみると、僕がメトロミニッツに書いた短いコラムの文体に、

てもらい、内々に新体制の準備を始めます。とはいってもライター

何かピンとくるものがあったようでした。

経験はあるものの、編集者としての仕事は実は未経験。まさに五 里霧中のスタートでした。

納得感のある仕事を続けていけば、次の仕事につながっていく。

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今までもさまざまなプロジェクトに関わらせていただきましたが、

コミュニティが温まっていればこそ、いざというときの積極的な参

それまでにない次元の手応えを感じた瞬間でした。兼松佳宏、31歳。

加が期待できるのでは?

やっとここで、プロフェッショナルへ。今まで、甘えてばかりでご めんなさい。

だからこそ編集長の仕事とは、太陽のように光を降り注いで、コミュ ニティの温度を上げることである。それは、ライターさんにとっての

そうしてライターさんたちと一緒に作り上げた、グリーンズ編『ソー

やりがいや安心できる居場所をつくることでもある。それは僕にとっ

シャルデザイン ̶ 社会をつくるグッドアイデア集』は、12 年1月

て革命的な気付きでした。

の発売以降、Amazon の「本」ランキングで 38 位まで上昇したり、 発売一週間で増刷が決まったりと、ベストセラーの仲間入りを果

フリーランスのライターさんも多い中で、その人が人生をかけて達

たします。このことは、グリーンズ史に残るターニングポイントと

成したいことと greenz.jp で書く記事を、いかに一致させていくの

なりました。

か。そ の 対 話 を 繰 り 返 す こ と で、ラ イタ ー さ ん と の 関 係 も、 greenz.jp の記事も、さらに熱のあるものになっていきました。13

まず、月間読者数が 15 万人まで伸びを見せ、ライターさんのモチ

年2月のリニューアルもうまくいき、僕らしい編集長スタイルがひと

ベーションもさらに高まっていきました。また、本が名刺代わりと

つの完成を見たように思えたのです。ちょうど娘の誕生という大き

なり、日本各地から講演依頼が相次ぎます。

な出来事もあり、13 年春は人生史上最高の時を過ごしていました。

そして、企業の方にも手に取っていただいたことで、単なる下請け

そして今、2015 年。14 年秋に菜央くんが編集長に復帰し、 ふたり

ではない、対等なパートナーシップを組めるようになり、ビジネス

編集長 として再スタートを切ったことは、第一章でもお伝えしまし

的にも安定していきました。一冊の本をきっかけに、NPO 法人グリー

た。あれ、いい感じだったのに、どうしてそんなことに? その背景

ンズの揺るぎない土台ができあがったのです。

には、僕のやり方に限界が見えてきたことがありました。

また、11 年秋から 12 年夏にかけては、僕の内面が変化した時期で

詳しくは書ききれませんが、鹿児島への移 住や仕事と子育ての両

もありました。最初は雑誌の黄金期に代表されるような スター編

立というライフステージの変化で、僕はまた心あらずの日々になっ

集長 に憧れていたものの、半人前の僕にそんなのできっこない。

てしまいます。太陽たる僕が曇ってしまえば、greenz.jp 全体も曇っ

そこで僕らしい編集長スタイルをつくり上げるために注目したのが、

てしまう。この歴然とした相関関係は、曇りがちな僕をさらに苦

コミュニティというキーワードでした。

しめます。

主役はグリーンズに関わってくれる一人ひとりのメンバー。彼らの

僕がライターさんに優しいように見えるのは、その矛先が自分に向

自発的な意欲、貢献したいという意志を引き出すことで、他のメディ

かってこないように、遠慮してしまっているだけ。攻めの企画も何

アにはないユニークな記 事 をつくれるのでは? そして普段 から

も考えられない。明らかに改革が必要でした。

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グリーンズというコミュニティが(単に経済的という意味だけではな

でいた感じ。そして再びまたゼロから、「編集長の仕事」について

く)成長し、持続的にスケールアップしていくには、属人性の高す

考えていきたいと思っています。

ぎる組織構造を卒業しなくてはいけない。理事3人にとって大切な マイプロジェクトであり、人生にも等しいグリーンズを、どうやって みんなの場 として開いていけるのか。もうすぐ 10 年目を迎えるグ リーンズの正念場です。

と、あれこれ書いてきましたが、この本で最も伝えたかったことは、 「誰でも編集者やライターになれる」ということ。そして、言葉の 力を駆使して世界に貢献する仕事には、無限の可能性が眠っている ということです。

そこで、この『グリーンズの編集学校の教科書』の話になります。 そもそも教科書をつくることになった発端は、編集学校の受講生が

僕はそんな人たちのことを、「人文系ソーシャルイノベーター」と呼

予習、復習できるテキストを用意したい、と思ったことでした。も

んでいます。そして、greenz.jp が誇るライターさんたちこそ、その

ちろん、greenz people のみなさまに、記事ができるまでの現場

最先端を行くロールモデルなのです。

感を知っていただくことも大切な目的でした。 日本各地にパン屋さんがあるように、街にひとりは必ず志のある編 さらにもうひとつ、この本には重要な役割がありました。それは約

集者やライターがいる。そして各地の面白いストーリーがどんどん

70 名のライターさん+これから参加するであろうライターさんに、

共有されて、いつのまにか世界は暮らしやすい場所になっている。

僕が培ってきた暗黙知をお伝えすることです。

いつかそんな時代が、本当に訪れることを願って。

まずはこの本を読んでいただき、「大切にしたいこと」の意識合わ

あ、もし、この教科書を読んでソワソワした人がいたら、ぜひ何か

せをしたい。そして遠慮せずに違和感も共有し、ガチンコで次のグ

書いてみてください。ラブレターのような記事を楽しみにしている

リーンズを一緒につくっていきたい。水面下で進行しているさまざ

とともに、まだ見ぬ未来の編集長との出会いを心待ちにしています。

まな編集部改革の一端として、この本の筆を執ることにしました。 greenz.jp 編集長

ライター未経験者からシニアライターさんまでのステップアップの過

兼松佳宏

程を明確にしたり、ライターさんへの謝礼を充実させて、 食える greenz ライターさん を増やすことを目指したり、今年の夏くらい に向けて、話し合いを続けているところです。 そんな中で発行された green Books 第四号は、 ひとり編集長 時 代の集大成であり、始まりの書です。今は「出しきった」という充 実感しかなく、一度こうして空っぽになることを、むしろ待ち望ん

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