ジャック ミルティル : ハイ・コンセプトの時代における教育

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ハイ・コンセプトの時代における教育 −能力開発型美的学習法− ジャックミルティル L’éducation à l’ère conceptuelle Jacques Mirtil Abstract:本論文では、自然な記憶メカニズムに基づいて開発した 「能力開発型語学習得方法」について述べる。 図1に、このメカニズムを教育に応用する全体構想を示した。 「能力開発型美的学習法」は、あらゆる外国語習得を容易にする手法である。

未来

ハイ・コンセプトの時代における教育

結び

過去 着想のきっかけ

環境 how to 知識 研究

はじめに

ハイ・コンセプトとは

概要 コーチングのスキル 人間の脳のメカニズムに従って -実例 脳の仕組み

視覚を楽しませ右脳に訴える 繰り返すこと 分かり易くて覚え易い 正しい言葉を選び

[能力開発]型語学習得|方法

左脳と右脳を刺激して 学習者の能力を引き出す教育

重要である

図2

従来の学習の進め方との比較 学習者の脳の活動に適合した学習環境

図3 教材

利点 カスタマイズできる 情報を整理 持続性 コンセプトの時代 デザイン 創造する人、他人と共感できる人

MON PORTFOLIO

情報の時代

「能力開発型学習」セミナー

教育者を対象にしたセミナー

図 1 ハイ・コンセプトから導かれる「能力開発型美的学習法」

*理工学部非常勤講師。認定プロフェッショナル・コーチ

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はじめに 日本は、優れた技術力と卓越した経済力で20世紀を生き抜いて来た。 しかし、先の見えない混沌とした現代において、この21世紀をどうやっ て生き残っていくのか。『ハイ・コンセプト(「新しい事」を考え出す人 の時代)』の著者ダニエル・ピンクは、今までの情報化社会で好まれた左 脳中心のロジカル能力のみならず、右脳でアイデアを出す力の重要性を説 く。 筆者は、日本でのフランス語教師という仕事を通して、様々な試行錯 誤の結果「能力開発型美的学習法」なるものの開発に至った。このメソ ッドは、ダニエル・ピンクの言う、ハイ・コンセプトの時代に活躍する6 つのセンスすなわち、デザイン、物語、調和、共感、遊び、生きがい、を フルに活用した、右脳が重要視されてくる時代にふさわしい教授方法であ ると認識している。 本論文は、この「能力開発型美的学習法」の開発に至るまでの経緯 と、具体的な方法について、述べる。

着想のきっかけ 筆者が日本に来て最初に従事することになったのは、電話による外国 語学習(フランス、イタリア、スペイン語、韓国、中国語)を扱う企業で の、教師採用、および養成の仕事であった。この 企業では教育システム自 体が確立されておらず、試行錯誤を繰り返していた。その中から、外国語 教育における正確な発音を身につけることの重要性と、教育法(メソッ ド)の大切さを認識するに至った。その後、国際協力事業団(JICA)のフ ランス語教育を担当することになり、そこでも、各分野の専門家たちの語 学力育成には、一般の教材は不適切であると痛感し、300 以上の教科書、 教材を検討した。しかし、これだというものがなく、学習者のニーズに対 応した、専門用語も盛り込んだ教材の必要性を実感するに至った。コーデ ィネーターとして、PDM(Project Design Matrix :計画立案像)の作成に参 加しながら、JICA の仕組みや、計画実行方法、派遣される技術者に何が求 められているか等を学び、技術的専門用語を盛り込んだ独自の教材を開発 した。

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一方、国内の短期大学のフランス語授業を担当した際にも同様の必要 性を感じた。 クラスは、若い女性ばかりで最初は戸惑ったが、自己紹介をする段階ま ではかなり盛り上がり、これはイケル!と思ったのも束の間、文法の説明 に入った頃から、なんと生徒が寝始めたのである。そういう光景はフラン スでは見たことがなかったので、大変驚くと同時にショックを受けた。同 僚に話したところ、「それは普通のことだよ」という答えであった。私と しては、「そんなことが普通であっていい訳がない」と考え、それならば 眠る余裕のない授業を作りたい、と考えた。そしてもう一点気にかかった のは、学生に、フランス語や英語についてどう思うかと質問すると、大体 「響きが奇麗、だけど難しい」という答えが返ってくること、そして、教 師もそれに対して「難しい、たしかにそうですね」という答えに甘んじて いることであった。このような環境で外国語習得がスムースにいくのだろ うか?という疑問と共に、文法の解説よりも、授業のやり方が一番大切な のではないか、やる気を出させるための工夫こそが必要なのではないか、 という思いが沸き上がったのである。

コーチングのスキル そこで筆者は、どうすれば学生のモチベーションを高められるか、と いう問題を解決するべく、3 年間、「コーチング」というスキルを研究し、 プロの資格を取得した(認定プロフェッショナルコーチ CLC、CPC)。 コーチングとは、「人は無限の可能性をもっている」「その人が必要とす る答えはその人のなかにある」「その答えに気付くためにはサポートが必 要である」、の3つの原則を基本として、クライアントの目標達成をサポ ートするシステムである。相手が学生で明確な目標がない場合も、目標を 持つ重要性を説き、それを明確にする手助けをし、希望の達成へと導いて いく。同時に筆者は心理学の面からも、学生の聞く力や質問力を養うこと の重要性を知り、また、生活面においても、睡眠や、食事、整理整頓など が、実は脳の働きに大きく影響することがわかった。 また、コーチングを通し、さまざまな悩み、問題に関しても、前向き な気持ちを持つことが重要であることもわかった。人間の脳というものは、 不平不満、あるいは不安や恐怖があるとうまく機能しない。いかなる困難

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をも乗り越えていく支えとなるものが、喜びの気持ち、そして感謝の気持 ちである。コーチングの目的は、プライベートと仕事の境無く、相手の能 力を引き出すことにある。私のコーチングの論文テーマは、『Using Coaching Skills To Assist Foreign Language Learners (外国語学習者支援におけ るコーチングスキルの応用)』であった。 コーチの仕事は、インテグラル・ライフ、すなわち、物理的、心理的 にも環境の変化を脳に認識するよう仕向けることにある。筆者は、脳の仕 組み、働きについても研究する機会を得て、この経験(後述)が、脳のメ カニズムに基づいた「能力開発型美的学習法」の開発に大いに役立った (セミナーNLP:神経言語プログラミング)。 このようにして、コーチングのスキルによって、相手のモチベーショ ンを上げつつ能力を引き出し、より良い環境を提供しながら効率良く外国 語を習得させるために出来上がったのが、この「能力開発型美的学習法 (Brain Natural Efficiency Esthetic Learning System)」である。

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能力開発型美的学習法の概要

能力開発型美的学習法は、筆者が脳の自然な記憶メカニズムに基づい て開発した、あらゆる外国語習得を容易にする手法である。また、教師と 学習者両方に有効である。

図2 従来の学習の進め方との比較 従来の進め方→ 1→

能 力 開 発 型 の 進 め 方 ↓

2→

3→

4→

5→

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1

1

1

1

1

1

1

2

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2

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2

2

3

3

3

3

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3

4

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4

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4

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5

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5

5

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9

9

9

9

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具体性

全 体 像

繰り返す

文章の作成

書き直す

自分について 話す 聞く 楽しむ 読む 書く podcast

明確な目標 意識とモチベーションを高めていく 図2の、横方向に並んだ1から6が、従来の一般的な授業の方法であ る。このやり方においては、各回に新しい事を学んでそれを積み重ねてい

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くが、新しい項目に入る頃には前の内容を忘れてしまっており、なかなか 前に進むことができない。 本論文で示している方法は、初めに全体像を与え、文法、発音の説明 を整理された解り易い表(「発見的表」と呼んでいる)にまとめ、学習者 は毎回それを見ながら、「根本的原則」(図3参照)に従って、毎回繰り 返し復習することによって語彙を増やしていく。

図 3 根 本 的 原 則 に 基 づ い て 作 品 を 作 り 上 げ て い く 祖 p: ̶w( Mon Portfolio、 La palette、 Mon Chevalet)

La Palette 10その他

イーゼル

MON PORTFOLIO

La Palette 9

実際のシチュエーション

発 見 的 表

La Palette 8 クイズ 8 bis「クイズ」つづき La Palette 7

コミュニケーション

感 謝 と 喜 び

0

言霊

1

時制を合わせ

2

発音の規則を

ー正しい言葉を選び

時 制 の 使 い 方

話す前に・書く前に、

La Palette 6 形容詞・副詞

数 字 の ク イ ズ

横 冠 と 動 詞 の 基 本

思い出し、

3

完全な文章を

4

間節詞を理解して、

La Palette 5 動詞

作り、

コミュニケーション能力を強化して行く

La Palette 4

【横冠】【名詞】

情 報 を 整 理

正 し く キ く コ ツ

La Palette 0 学び・自己啓発

助 活動 用詞 のの コ活 ツ用

ことば

繰 り 返 す 書 き 直 す

発 音 の ク イ ズ

La Palette 1 時制・叙法

文 章 の 作 成

[能力開発]型語学習得|方法

La Palette 「自分」 3 「自分」つづき 3 bis

La Palette 2 発音

使 用 する教材としては、『Mon Portfolio』(私の作品集)というタイトルの、 バインダー形式のものを作成した。大きさは、簡単に鞄に入り、持ち運び

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に便利なB5判。この『Mon Portfolio』は、色鮮やかでデザイン性の高い ものであり、文法や発音の説明も、できるだけ視覚に訴えるよう工夫した。 各項目にはそれぞれの色があり、教材全体をあたかもパレット(La Palette) のように見立て、仏作文を通して自分の作品を作り上げていくという趣向 に基づいている。 この教材の最大の特徴は、

自分

について、あらゆる時制、単語、

表現を使って表現したい文章を書いていき、

マイ・ストーリー

上げていくことにある。誰しも最も関心を持っているのは 自分

自分

を作り であり、

について語ることで学習者の記憶への定着がより確実なものとな

る。そして、バインダー形式にすることによって、情報の追加と削除が簡 単に行え、項目ごとの情報整理が可能となる。これらによって学習者は、 効率よく復習でき、より記憶し易くなるのだ。

分かり易くて覚え易い また、この教材のもう一つの特徴は、文法や発音規則の説明に、物語 を使っていることである。発音規則の説明について例をあげてみよう。フ ランス語では、子音だけでは発音することができないこと、また、母音字 に挟まれた「X」と「S」は、[Z](ズ)と濁って発音されることなどに ついて、以下のように説明している。「母音は女の人、ボは母だから。と すると子音は男の人。男の人は一人では何も出来ない。だから、t、s、x、 m・・・それだけでは発音できない。女の人が横に来て初めて音になる。 x氏とs氏は、恥ずかしがり屋。なぜなら、女性に囲まれると困ってしま って、恥ずかしいのだ。だから、母音字に挟まれた「S」と「X」は、 [Z]という音になる。しかもこの二人は従兄弟同士でよく似ている。な ぜなら、名詞の複数形を作るとき、このsとxが使われる。」初めてフラ ンス語を学ぶ不安でいっぱいだった学習者たちも、こうした説明に驚いた り笑ったりして、楽しみながら発音の規則を覚えることができるのである。

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視覚を楽しませ右脳に訴える この教材の3番目の特徴は、ここかしこに視覚を楽しませる美しい写 真がちりばめられていることだ。文法、発音の規則は全て、解りやすく色 鮮やかに 図式化し、まるで物語のように説明された「発見的表」(Mon Chevalet:イーゼル)として盛り込まれている。毎回、宿題となる文を書く 時、常に学習者はこの表を見ながら文を作成する。そのため、この表はこ のバインダーの最初と最後に折り畳んで入れられており(B5判で約4ペ ージ)、バインダーを開くと丁度自分のノートの両側にこの図が来るよう に工夫されている。まさに、今までにない、右脳の働きに訴えかける、デ ザイン性と創造性に優れた教材となっており、学生はこれらによってモチ ベーション・アップを図ることができると考える。これこそハイ・コンセ プトな教材ではないかと自負している次第である。

繰り返すこと さて、顕在的記憶を確保するためには、実は 40

80 回聴かなければな

らない、と言われている。たしかに繰り返すことは重要である。また、学 習の瞬間に精緻にコード化すればするほど、記憶が強固になるという事実 が確認されているので、学習者には最初からなるべく詳しい情報を与える。 そしてあとは、毎回繰り返して、知識を積み重ねて行く。わからなくなっ たらいつでも前述した「発見的表」を見て確認する。実習は欠かせないの で毎回授業の始めに 10 分間と時間を決め、最低4人に自分の自己紹介をし てもらう(二人、または三人で会話をし、4回以上パートナーを変える)。 そして、学習者の予見できないタイミングで、数字や動詞の活用等の クイズを行うことによって、学習内容を復習することができる。 『本当に頭が良くなる 1 分間勉強法』の著者である石井貴士氏も、次 のように書いている。

(学習者は)まったく知らないことを学ぼうとして、時間がか かりすぎている。 D、勉強とは、最初は知らないことを理解することから始まる。 C、理解したが思い出せないという状態、つまり潜在意識のな かに記憶を入れる。

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B、潜在意識から時間をかけてでも、引っ張って来ること ができるようにする。 A、潜在意識から引っ張ってくる時間をゼロ秒に短縮する ことで、常に潜在意識にある状態にする。 この4段階で、記憶は完成されるものなのです。ほとんど の人が、授業を聞いて潜在意識に落とし込んでいるだけ(つま りDをしているだけ)で勉強が終わっています。ですが、その 内容を「すぐに呼び出せるような記憶にとどめる練習=CBA をしないと意味がないのです。(『本当に頭が良くなる1分間 勉強法』p.110)

学習者の脳の活動に適合した学習環境 私が開発した方法においては、記憶を促進させる効果をねらって、授業 中に適度な音量で、クラシック音楽、時にはジャズ、ボサノバなどのBG Mを流している。そして、クラス全体が前向きになれるよう、教師も学生 も極力ネガティブな言葉は使わないよう指導する。例えば、「難しい」と いう言葉ではなく「慣れてないだけ」と言う、「不規則動詞」という名称 ではなく「その他群動詞」とする、「テスト」と言わずに「自己評価」と 名付ける、などである。 宿題に関しては、教師が毎回添削するのは勿論のことだが、そればか りでなく、毎回の授業の「まとめ」と「感想」を学習者に提出してもらう。 これは日本語(母国語)で構わない。そうすることによって、学習者は、 各回の授業で何を学んだかを一通り思い出すことができる。教師は感想を 聞くことによって、学習者の心理的ケアを行うこともできるのだ。 また、早い時期にフランス語の全体的なイメージを説明することによ り、学習の目的と、例えば「1学期でこの程度のことができるようになる ことを目指す」、というような、具体的な目標を示すことができる。これ らによって、目標を成し遂げた時の達成感が得られ、ますますモチベーシ ョンは高められる。 このことについては、『脳に悪い 7 つの習慣』の著者林成之氏も、以 下のように述べている。

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「無理かもしれない」と考えるのはNG 「もうダメだ」 「無理だ」と考えると脳の血流が落ちてしまいます。・・・こ うした考えは、脳の「自己保存」のクセによる「自分を守ろ う」という反応が過剰になった結果として生まれるもの。そし て、いったん「無理かもしれない」と考えると、それが脳にと っての

否定語

として作用し、脳の思考力や記憶力をダウン

させてしまいます。・・・目標と目的は分けなければ達成出来 ない 「達成に向けて一気に駆け上がる」というときに大事な のが、脳に対して明確に「目標」を決めてやることです。目的 を達成する為には、いくつもの目標があることになります。し かしながらそれを明確にしないまま「がんばります」と言う人 は少なくありません。・・・また、「がんばること」自体が目 標になってしまうと、目的を達成しなくても「がんばったか ら」と納得してしまい、いつまでたっても目的を達成出来ない という悪循環に陥ることになりかねません。・・・脳を正しく 頑張らせるためには「具体的に何をするのか」「いつまでにす るのか」「今日は何をするか」などの目標を明確にする必要が あります。・・・確実にこなせる目標を立て、達成することで 自信を生むことがポイントです。最初に「無理だ」と思ってし まえば脳は働いてくれませんから、まずは達成して自信をもつ ことを習慣づけることが先決。自己報酬神経群は、自信を生む 「うれしい」と感じる経験を重ねることで、「次に達成すれば、 またあのうれしさを味わえる」ことを覚えます。目標達成の繰 り返しが自己報酬神経群を鍛え、脳は二次関数的に力を発揮す るようになっていくのです。』(『脳に悪い 7 つの習慣』P71、 76、78)

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「能力開発型美的学習法」の利点 私の提唱する「能力開発型美的学習法」の要点を以下にまとめる。 +常に学習者の注意を喚起することで、内容の理解と記憶を容易にする。 +学習者のニーズに応じた現実的な内容 +自然な記憶メカニズムに沿った相乗効果により、学習を容易にする。 ここで使う教材(Mon Portfolio)は、「学習者自身が作っていく=学ぶ こと、覚えることが楽しくなる」ような工夫に満ちている。自分に合わせ てカスタマイズできる、すなわち、自分の本、自分の作品を作りながら、 各自のレベル、各自のペースで学習を進めることができる。 また、前述したように、この教材の最大の特徴は、人間の脳のメカニ ズムに従って作られたことである。脳には、視覚やイメージの領域を司る 右脳と、論理的な思考力を支配する左脳があり、その両者が協力した時、 最大限の力を発揮する。したがって、この教材では、読む、書く、話す、 聞く時に必要な知識が、一目で分かり易い美しいイラストになっている。 このこだわりのデザインによるイラストの数々が、右脳と左脳双方に訴え かけ、記憶への定着を容易にするのである。さらに、インターネットを活 用したwebサポートもあり、いつでもネイティヴの声で基本会話を聴い たり、音声教材をダウンロードしたりすることができる。

「 能力開発型美的学習法」セミナー 私は、この「能力開発型美的学習法」を使ったセミナーも行って いる。参加者は、フランス語入門者から、フランス語教育者まで、様々な レベルの人達だ。そこでの反響も上々である。「10年間勉強して解らな かったことが、これを見て一目でわかった・・・。」等のコメントを頂く のは、まことに嬉しい限りである。そして、フランス語教育者からもお褒 めの言葉を頂き、採用してくださった先生もいらっしゃる。この能力開発 型教育方法は、様々な分野に応用できると考えており、今後の計画として、 教育者を対象にしたセミナーを行うことも考えている。

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結び これからは、頭の良い先生より、前向きな先生の方が重要視される時 代ではないかと考えている。 ここで、ダニエル・ピンクによる『ハイ・コンセプト』からの一節を 引用しよう。

選んだ職業の中で、「左脳主導思考」を身につけているかど うかが問題になることは比較的少ない。大切なのは、数値で測 ることが難しい資質である。私が本書で述べて来た、想像力、 喜びを感じる力、社会的な器用さなどの、「ハイ・コンセプ ト」や「ハイ・タッチ」な能力がまさにそれである。 (・・・)組織内で最も優れたリーダーとされる人たちには 「おもしろい人物」が多いという。(「愉快で楽しい人」とい う意味であって「変わった人」ではない)。「おもしろい」リ ーダーたちは、普通の管理職と比べて3倍もよく笑うらしい。 (・・・)他人を思いやったり、ケアしたり、元気づけてやれ る能力。コンセプトの時代では、このような能力こそ、多くの 職業における重要な要素となる。(『ハイ・コンセプト』p.115、 117)

私は「能力開発型美的学習法」のような、左脳と右脳を刺激して学 習者の能力を引き出す教育方法を採用する教師が増えてくれることを望ん でいる。こういった教育法が発達すればするほど、学習面ばかりでなく、 学習者の生き方そのものが変わってくるのではないか。今の子供たちや若 者たちが、逆境にあっても、それをうまく乗り越え、前向きに生きられる 術をも身につけられるような、そんな期待を持つのである。

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参考文献リスト

石井貴士『本当に頭が良くなる 1 分間勉強法』、中経出版、2008 年 林成之 『脳に悪い 7 つの習慣』、幻冬舎新書、2009 年 ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト』、大前研一訳、三笠書房、2010 年 ジョン・メディナ『脳の力を 100%活用するブレイン・ルール』小野木明 恵訳、日本放送出版協会、2009 年 チップ・ハース+ダン・ハース『アイデアのちから』飯岡美紀訳、日経 BP 社、2008 年 ウィン・ウェンガー リチャード・ポー『頭脳の果て』田中孝顕訳、きこ 書房、2005 年 松島直也『NLP 速読術』フォレスト出版 、2010 年

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