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特集

分娩時および分娩直後の管理はどうしてる?

“待つ” “任せる” 2“手間を惜しまない” ル

伊賀市

津市

三重県伊賀市

ヤマギシズム春日農事組合法人・春日山実顕地 柳 文夫さん

① ② ③ ④

分娩エリアはクロースアップペンの一画。季節によって、西日の影響を避けるな ど、一番快適な場所で分娩できるようクロースアップペン内で分娩エリアは、臨 機応変に変更できる。いつでも観察できるよう、事務所にもミルキングパーラー にも、哺育・育成舎にも近い立地にある ①「管理を改善して、分娩後のトラブルはほとんどなく なった」という柳文夫さん ②「フレッシュでしっかり と観察・ケアすれば、その後のトラブルは少ない」とい う吉田純一さん ③「喰い負けしてしまう弱い牛も、別 に管理してあげるとすごく乳を出すんですよ」という柳 順さん ④「本当に初乳を飲めない子牛は、ほとんどい ません」と言う、稲井ゆかりさん

1 年半ほど前から、助産の勉強や乾乳・分娩 後の管理の徹底を図ることで、廃用頭数が半減 し、後継牛も増加傾向にあるヤマギシズム春 日山実顕地。そのポイントは、「人為的な難産 を生み出さないこと」 「乳牛に任せること」 「手 間を惜しまずに管理すること」にある。

《ヤマギシズム春日農事組合法人の概要》 □経産牛 350 頭、育成牛 240 頭、F 1 120 頭 □経産牛 1 頭当たり乳量 29㎏/日 □スタッフ 20 人(うち酪農従事 16 人)

たり、助産の対応が早すぎる」といった管理面の 問題があったという。1 年半前から知多大動物病 院に往診を依頼するようになり、まずは分娩前後 の基礎を学ぶことで、新たなスタートを切った。 「難産の原因は、助産のタイミングが早かった ことです」というのは、同農場を往診する鳥羽雄 一獣医師。「スタッフはみんな、胎子の頭位・尾 位の見極めはできていたので、分娩時には、その ときの状況に応じて細かく指示を

乳牛のお産を知り 「待つこと」を覚えた

あるたびに指示を出していくこと

分娩時、子牛には逆子や失位も

で、分娩介助の基本を覚えてもら

あり、母牛には後産停滞や低カル

いました」と言い、その結果、正

シウム血症、ケトーシス、第四胃

常な分娩と介助が必要な場合の微

変位などのトラブルが多かったと

妙な間を覚えたことで、人為的な

いう春日山実顕地。その背景に は、 「周産期に対する知識が古かっ

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出していきました。当初は、何か

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「細やかな管理の手間を惜しまないことが、 当たり前になっているのはすごい」という鳥 羽雄一獣医師

難産はほとんどなくなった。ま た、“分娩を待つこと”を知った


ル ポ

ため、無理な介助による子宮のダメージは減り、

“ドダッ”と勢い良く寝ますから、そのダメージ

結果として乳牛にも、人にもストレスの少ない分

が失位につながっているのではないか」というの

娩を迎えることができるようになった。難産だと

がその理由。だから、乾乳に入る前には、蹄を整

思い込んでいた分娩が、「子牛を助けたいという

えるようになった。

一念で、介助が早すぎていた」というのが、鳥羽 獣医師から教わって得た大切な教訓だ。

分娩はクロースアップペンから分娩エリアに移 動して行うが、移動のタイミングは分娩直前。乳

併せて、周産期の管理も改善した。これまで柳

牛の不安を少しでも軽減したいからだ。こうした

さんが設計していたエサを、知多大動物病院と検

細やかな管理ができるのは、“牛任せ”でも、観

討した。これによって分娩前の飼料の DCAD 値

察が行き届いているから。できるだけ直前に移動

は- 5~- 10 になった。サプリメントなどのコス

するので、ときには間に合わず、クロースアップ

トは上がったが、分娩事故や産後の代謝病が減っ

ペンで分娩してしまうこともあるのだとか。

たことで、プラスの効果を実感している。

基本は“牛にお任せ” こうした管理の改善で、分娩時のトラブルが 減った今、分娩は基本的に牛にお任せという状

根気強く 手間をかけた子牛のケア へそ

分娩後、子牛はハッチで管理する。まずは臍を ヨウ素剤で消毒する。

況。以前は夜中の分娩でも介助することがあった

初回の初乳給与は、必ず比重計で確認して、殺

という。介助を必要としなくなったのは、失位が

菌した経産牛の初乳を給与する(60℃・30 分)。

減ったことも理由の一つだ。乳牛の失位につい

余剰分は冷凍保存し、常にストックを切らさない

て、前出の鳥羽獣医師は、「基本的に乳牛は失位

ように心がけている。比重の低い初乳は、2 回目

しないものだと思います。それでも以前に失位が

以降の哺乳で利用している。給与量は 2~3ℓを

多発していたのは、肢蹄が悪かったことにあるの

基本としているが、子牛が飲みたいだけ与えてい

ではないでしょうか」と言う。「肢蹄が良ければ、

る。初乳給与のタイミングは「できるだけ早く」

喰い負けることもないし、腹もしっかりして妊娠

とし、分娩後 6 時間以内には飲ませている。

期間を満了できます。しかし、肢蹄が悪ければエ サは満足に食べられないし、ベッドに寝るときも パーラーからの戻り通路にはキャッチペンを設け、そこで削蹄できるよ うにしている。乾乳前の蹄のケアは失位や子宮捻転を減らした

「どうしても飲まない子牛にはストマックチュー ブで強制給与します が、ほとんどないで すね」と稲井さんは 搾乳した初乳は60℃・30分 間の殺菌後、冷蔵庫で熱を 取ってから給与する。余剰 分は冷凍保存する

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特集

分娩時および分娩直後の管理はどうしてる? ⑤10頭前後を1群とした育成牛管理。ベッド部分は数日おきにロータリーで攪拌する  ⑥4年前から始めたハッチでの子牛の管理。床はスノコ状でベッドを濡らさない。知恵 と工夫満載のこのハッチの詳細は下のコラムで ⑦軒高が高く、開放的な哺育・育成 舎の内部。清潔で乾燥し、換気も良好

言う。それは「飲ませ上手だから」と鳥羽獣医師。

なっている。初回搾乳のタイミングは、「親の分

「とにかく根気強く給与してくれるので、飲めるの

娩疲れを考えて、分娩後 1 時間半後くらいを目安

でしょう。今飲まなくても、1 時間後とかに再チャ

にしています。その見極めは子牛の状態で見てい

レンジを繰り返す細やかな管理が良いのだと思い

ます。産まれた子牛が乾いていたら、大体 1 時間

ます。こういう手間が、この農場では当たり前に

半以上経っているから搾りますし、濡れていた

なっているのです」と説明する。

ら、まだ間もないので時間をおいてから搾るよう

子牛の乾き具合で 初回搾乳のタイミングを計る

にしています」と担当の吉田さん。基本はサブ パーラーの稼働に合わせた搾乳で、最初または最 後に初乳を搾るようにしている。

初乳の搾乳は、サブパーラー(病畜やフレッシュ

初回搾乳は、搾り切らない。初産牛も経産牛も

など出荷できない乳牛の搾乳専用パーラー)で行

同様にしている。低カルシウム血症防止の意味も

現場の

三重県/ヤマギシズム春日農事組合法人・春日山実顕地

工夫満載で管理が楽なハッチ  本頁で紹介している三重県・ヤマギシズム春日農事 組合法人・春日山実顕地が4年前から使っているカー フハッチは、快適性とメンテナンス性に優れたオリジナ ルのハッチ。以下の4点が主な工夫ポイント。 【工夫①】床面は目の細かいスノコ状にし、尿は床下に 流れる。 【工夫②】仕切り板は、 片側だけに設置した。 これは 【工 夫③】 のメリットを最大限にするため。 【工夫③】ハッチの台座にフォークをさせるようにして、 子牛の入れ替え時にはフォークで持ち上げて仕切り板 のない側に傾けるだけで敷料を排出できるようにした。 【工夫④】 ウォーターカップを着脱式にすることで、 メン テナンス性を向上した。

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ル ポ

清潔で換気の良い環境で 哺育 分娩後の子牛は約 2 カ月間、ハッ チで管理する。このハッチは約 4 年 前に酪農部のみなさんで考案した もので、床がスノコ状で常に乾燥 した状態を維持できるようになっ

酪農教育ファームの認証を受け、地域の子供た ちの受け入れも行なっている。この教室はミル キングパーラーの2階。搾乳の様子を見学するこ ともできる

あるが、初回にあまり無理させない意味もある。

ている。同じ建屋内には、10 カ月 齢くらいまで管理する育成施設も 併設している。この建屋の特徴は、高い天井と日

「少し乳房に残っている程度」を目安にしている

差しを反射する屋根材にある。「子牛御殿」と揶

と吉田さん。低カルシウム血症予防は、分娩前 3

揄されたこともあるというこの施設は、軒高は

日のビタミン D 3 給与と、初回搾乳前のカルシウ

7 m ほどあり、換気は良好。屋根材の効果もあり、

ム剤の給与で対応している。

他の施設よりも温度の上昇を抑えられる。「コス

平均10日のフレッシュ群 分娩後の乳牛は、平均して 10 日程度、サブパー ラーに近いフレッシュ群で管理している。ここ

トはかかりましたが、この子牛たちは後の財産で すから」と柳さんは言い、先行投資の一つだとし ている。 *

での観察ポイントは「エサの喰い込みと寝方で

この春日山実顕地の改善が本格的に始まったの

す。とくに寝方では、横倒しで寝ていないか、き

は 1 年半前だ。分娩事故や周産期病の減少が、経

ちんと座って寝ているかをよく見ています。ここ

営的な数字として具体化するのはこれから。すで

でしっかりと観察、ケアしてあげれば、搾乳牛群

に育成牛頭数は増加していて、今後は搾乳規模の

でトラブルを起こすことはありません」と吉田さ

拡大と、個体販売も視野に入れている。

んは言う。フレッシュ牛群の飼料は、泌乳牛の飼 料をベースに、“薄め”に調製している(油脂類

(取材=前田朋/江成)

の添加をカット。配合飼料を 500 g 減。粗飼料 1 ㎏増)。「これまでは分娩後は産後の回復の意味も あって、栄養濃度が高いほうが良いと思っていま したが、それによって分娩直後から乳量が飛び出

春日山実顕地の酪農部外観。 中央の建物がクロースアップや分娩エリアを備えた施設

してしまい、代謝病を引き起こしていたと思った からです」というのがその理由。 フレッシュ群を出た乳牛は、受胎まで初産牛と 経産牛で群を分けて管理している。それは初産の 喰い負けなどを防ぐためだ。受胎後は初産牛も経 産牛も同群管理となるが、どうしても弱い乳牛の ために専用の群を用意しているのが、同農場の特 徴。「普通の群では喰い負けしてしまう乳牛でも、 この群ではしっかりと食べることができて、意外 と乳量も出るのですよ」というから興味深い。

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DairyJapan8月号特集ルポ