情報通信革命と日本企業

Page 21

2.2. 分散から統合へ

13

強い.事実,保護サービスが向上すると競争的な市場が成立してサービスへ の需要は減少するから,それを防ぐために彼らは顧客の競争相手を暴力で排 除し,独占を維持することによって保護サービスへの需要を作り出した.マ フィアの別名,cosa nostra とは, 「おれたちのもの」という意味である [61]. このようなゆがみを防ぐには,私的な保護組合 (protective association) で はなく,いかなるものにも従属しない絶対的な権力としての主権を持つ国家 によって保護サービスが独占的に供給されなければならない [158].この意 味で,近代の主権国家は所有権保護にともなう規模の経済によって成立した 「自然独占」ともいえよう.事実,歴史的にも所有権の成立は主権国家として の国民国家の成立と不可分であり,フランスやスペインが地域経済やギルド などによる経済の分割を克服できなかったのに対して,オランダやイングラ ンドがいち早く国内の市場を統一したことが近代資本主義を確立する上で大 きな要因であった [157].所有権を成立させたのは,自由な個人の自発的な契 約ではなく,むしろ絶対的な主権の確立による徴税権や警察権などの国家へ の集中であり,この意味で資本主義は主権国家と不可分な政治経済システム なのである.

2.2

分散から統合へ

チーム生産とモラル・ハザード 土地から上がるレントを特定の個人に帰属させる所有権の設定は,かりに ただ乗り問題を防ぐ上で必要だとしても5 ,明らかに不公正なシステムであ る.それは所有者の努力にかかわらず,ある時に彼がたまたまそこを占有し ていたという偶然によって「不労所得」を得ることになるからである.これ に対して,自己の労働にもとづいて得た賃金は正当な対価であるように見え る.たしかにタクシーの運転手のように個人がほぼ独立に働いている場合に は,出来高がすべて個人の労働水準に依存するから,新古典派経済学の教え る限界生産力原理にしたがって限界生産力と賃金を均等化する歩合給によっ て社会的にも最善の効率が実現される.しかし,このように個人の労働とそ の果実との関係が透明な関係にある等価交換の世界は,今日ではきわめて例 外的なものであり,資本主義の根本前提である企業の存在と両立しない.企 業が作られるのは個人の労働の集計よりも高い生産が可能だからであり,こ のチーム生産の利益(外部性)がいったいだれのものかは必ずしも自明では ないからである. アルチャン=デムゼッツ [7] は,企業組織の根拠をこのような外部性によっ

5 経済史的には,囲いこみによる所有権の設定でイギリスの農業の生産性が上がったという証 拠はない. 「農業革命」の要因としては土地を地主に集積することによる分配効果の方が大きかっ た [8].


Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.