Page 1

VOL.

40

Nature of Kagoshima Formerly Shizen-aigo

An annual Magazine for Naturalists 大隅半島におけるヤマネの生息確認と分布 トカラ列島口之島で確認されたテン 川内川推込分水路における環境の現状評価 鹿児島県から得られたニシン科ヤマトミズン 鹿児島県本土から得られたトビウオ科チャバネトビウオ メバル科ホウズキの奄美群島とトカラ列島からの記録

屋久島から得られたハタ科魚類ヤマトトゲメギスの分類学的再検討 キントキダイ科キビレキントキの奄美大島からの記録 鹿児島県から得られたクロサギ科ホソイトヒキサギ 鹿児島県から得られたイサキ科エリアカコショウダイ 鹿児島県のイトヨリダイ科魚類相 サクヤヒメジの東アジアにおける分布状況とヒメジ属の未同定個体 鹿児島県から得られたサバ科ヨコシマサワラ 南九州市頴娃町番所鼻自然公園地先の魚類 松元ダムにおけるオオクチバスとブルーギルの駆除 鹿児島湾のウミシダヤドリエビに超寄生するエビヤドリムシ類 南九州におけるモンスズメバチの多産地 トカラ列島のアリ 奄美大島名瀬の攪乱地のアリ相と活動レベルの季節変化 鹿児島県臥蛇島のアリ相 鹿児島市周辺における8種のセミの発生消長 川内川曾木分水路の自然再生の現状 鹿児島市喜入町の河口干潟におけるアラムシロガイの生活史 桜島における多板綱と腹足綱の分布と多様性 桜島袴腰海岸潮間帯における肉食性巻貝類5種の生活史と生態 鹿児島県南薩地域の海産固着性・付着性貝類の分布 大隅諸島における汽水・淡水産貝類相 鹿児島湾重富干潟における底生生物相と生息環境の変化 桜島産後鰓類と二枚貝類の現況調査 桜島火山灰中の重金属元素濃度 鹿児島の陸生ヘビ類の分布と生態 スナガニの警戒距離と警戒解除時間 霧島山系から得られたカワラムシヒキ 鹿児島に生息する毒蜘蛛コマチグモ類の観察 マルバハギとサツマハギの中間型 「鹿児島県昆虫・貝・植物・岩石展」の過去・現状と課題 インタープリテーションとしての「文学の力」

鹿児島県自然愛護協会

カゴシマネイチャー

2014.3.31


Nature of Kagoshima Vol.40 2014 目 次

目 次(表紙 2 からの続き)

Research Articles

Research Reports

鹿児島県大隅半島におけるヤマネ Glirulus japonicus の生息確認と分布  船越公威・安田雅俊・南 尚志 トカラ列島口之島で確認されたテン Martes melampus  稲留陽尉・塩谷克典・岡田 滋・鹿児島県環境林務部自然保護課 川内川推込分水路における環境の現状評価―モニタリング調査結果から―  大野幸一郎・新谷勝利・豊國法文・岩川敬樹・東郷純一・鮫島正道 鹿児島県から得られたニシン科ヤマトミズン Amblygaster leiogaster の記録  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 鹿児島県本土から得られたトビウオ科チャバネトビウオ Cypselurus spilonotopterus の記録  畑 晴陵・本村浩之 メバル科ホウズキ Hozukius emblemarius の奄美群島とトカラ列島からの記録  松沼瑞樹・本村浩之 屋久島から得られたハタ科魚類ヤマトトゲメギス Aporops bilinearis の分類学的再検討  吉田朋弘・本村浩之 キントキダイ科キビレキントキ Priacanthus zaiserae の奄美大島からの記録  ジョン ビョル・本村浩之 鹿児島県から得られたクロサギ科ホソイトヒキサギ Gerres macracanthus の記録  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 鹿児島県から得られたイサキ科エリアカコショウダイ Plectorhinchus schotaf の記録  畑 晴陵・藤原恭司・高山真由美・本村浩之 標本に基づく鹿児島県のイトヨリダイ科魚類相  藤原恭司・畑 晴陵・本村浩之 サクヤヒメジ Upeneus itoui(ヒメジ科)の種子島からの初記録を含む東アジアにおける分布状況と 種子島から得られたヒメジ属の未同定個体  田代郷国・高山真由美・本村浩之 鹿児島県から得られたサバ科ヨコシマサワラ Scomberomorus commerson の記録  畑 晴陵・伊東正英・本村浩之 鹿児島県南九州市頴娃町番所鼻自然公園地先の魚類リスト  岩坪洸樹・加藤 紳・本村浩之 松元ダムにおけるオオクチバスとブルーギルの駆除―人工産卵装置と捕獲装置を用いて―  江川昂弘・山本智子・鹿児島市松元土地改良区・高山真由美・中井克樹 鹿児島湾のニッポンウミシダ上に棲息するウミシダヤドリエビに超寄生するエビヤドリムシ類の記録  三浦知之 南九州におけるモンスズメバチの多産地  河野太祐・山根正気 トカラ列島のアリ  原田 豊・榎本茉莉亜・西俣菜々美・西牟田佳那 奄美大島名瀬の攪乱地のアリ相と活動レベルの季節変化  山根正気・榮 和朗・藤本勝典 鹿児島県臥蛇島のアリ相  福元しげ子・Rijal Satria・前田拓哉・山根正気 2011 年鹿児島市周辺における 8 種のセミの発生消長  今村桜子 川内川曾木分水路の自然再生の現状―河道掘削竣工後のエコシステムの回復―  鮫島正道・宅間友則・今吉 努・徳永修二・下沖洋人・東郷純一・豊國法文・角 成生 鹿児島市喜入町の河口干潟におけるアラムシロガイの生活史  冨田悠斗・冨山清升 桜島における多板綱および腹足綱の分布と多様性  木村喬祐・若林祐樹・冨山清升 桜島袴腰海岸潮間帯における肉食性巻貝類 5 種の生活史と生態  吉元 健・冨山清升 鹿児島県南薩地域の海産固着性貝類・付着性貝類の分布  大島浩明・冨山清升 大隅諸島における汽水および淡水産貝類相  片野田裕亮・中島貴幸・市川志野・冨山清升 鹿児島湾の重富干潟における底生生物相及びその生息環境の変化  上野綾子・佐藤正典・山本智子 桜島産後鰓類および二枚貝類の現況調査  若林佑樹・木村喬祐・冨山清升 桜島火山灰中の重金属元素(銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)濃度  坂元隼雄

(表紙 3 に続く)

1 7 13 19 25 29 35 43 47 53 59

鹿児島の陸生ヘビ類の分布と生態  鮫島正道・中村正二・中村麻理子 スナガニ Ocypode stimpsoni Ortmann の警戒距離と警戒解除時間  黒江修一 霧島山系から得られたカワラムシヒキ(ロクロウヒラズムシヒキ)(ハエ目:ムシヒキアブ科)  河野太祐・金井賢一 鹿児島に生息する毒蜘蛛コマチグモ類の観察―身近な生きものに強い幼児教育者養成―  鮫島正道・西 涼香・前田亜梨沙・萩原朋美・井出元志織・中村麻理子 マルバハギとサツマハギの中間型  丸野勝敏

247 257 261 263 269

Essays

「鹿児島県昆虫・貝・植物・岩石展」の過去・現状と課題  福田晴夫・中峯敦子 インタープリテーションとしての「文学の力」―小説「屋久島物語」でお伝えしたいこと―  柳田一郎(筆名:柳瀬良行)

273 281

Corrections

Nature of Kagoshima, vol. 39, p. 131, fig. 6 の訂正  金田竜祐・中島貴幸・片野田裕亮・冨山清升

285

Photography

中島俊郎・藤田宏之・落合晋作

287

Information 75

鹿児島県昆虫同好会(金井賢一) 鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子) 鹿児島県地学会(鈴木敏之)

81

Business Reports

69

95 101 107 111 123 127 133 141

289 293 294

鹿児島県自然愛護協会 2013 年度会記(本村浩之)

298

【表紙写真】 ニホンヒキガエル Bufo japonicas japonicas(2012 年 8 月 25 日,鹿児島県肝属郡稲尾岳) 体長は約 15 cm で,大人が両手の平を広げたときに,すっぽりと収まるくらいの大きさがある.背面は 褐色で腹面は白っぽい.また全身にイボのような突起がみられる.夜行性で,夜になると林やその近辺を 歩き回り,獲物を探す.肉食性でミミズやバッタなどの小動物を食べる.敵に刺激を与えられると,耳線 やイボ状の突起から毒を出す.冬季に田んぼや池で産卵を行い多くの仔ガエルたちが生まれるが,成体に なれるのはごく僅かである. (写真・文:山下 啓 カエル PROJECT 代表) 【裏表紙写真】 Nature of Kagoshima Vol. 40 で報告された生き物たち

155

ミヤコキセンスズメダイ (頴娃町)

セトミノウミウシ (桜島)

クロオビエビス (頴娃町)

ヒメスズメバチ (えびの市)

159

スナガニ (阿久根市)

キヌベラ (頴娃町)

イロミノウミウシ (桜島)

キビレキントキ (奄美大島)

169

エリアカコショウダイ (馬毛島)

ミヤコウミウシ (桜島)

ヤマトトゲメギス (屋久島)

カバキコマチグモ (大口市)

181

リュウキュウアオヘビ (奄美大島)

ホソイトヒキサギ (内之浦湾)

フタスジミノウミウシ (桜島)

ヤマトミズン (南さつま市)

ヒトスジタマガシラ (種子島)

ヤマトウミウシ (桜島)

アカタマガシラ (馬毛島)

クロシタナシウミウシ (桜島)

225

マルバハギとサツマハギの中間型 (南さつま市)

ミサキスジハゼ (頴娃町)

アマクサアメフラシ (桜島)

フタスジタマガシラ (種子島)

237

ホウズキ (奄美大島)

フレリトゲアメフラシ (桜島)

ソコイトヨリ (鹿児島湾)

ヒメハブ (徳之島)

クロシタナシウミウシ (桜島)

ハナビヌメリ (頴娃町)

カワラムシヒキ (高原町)

セグロチョウチョウウオ (頴娃町)

189 217


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県大隅半島におけるヤマネ Glirulus japonicus の生息確認と分布 1

2

船越公威 ・安田雅俊 ・南 尚志 1 2

3

〒 891–0197 鹿児島市坂之上 8 丁目 34–1 鹿児島国際大学国際文化学部生物学研究室

〒 860–0862 熊本県熊本市中央区黒髪 4–11–16 森林総合研究所九州支所森林動物研究グループ 3

〒 899–5652 鹿児島県姶良市平松 7703 特定非営利活動法人くすの木自然館 

 はじめに ヤマネ Glirulus japonicus は,本州,四国,九州, 隠岐島後に分布する 1 属 1 種の日本固有種で, 1975 年に国の天然記念物に指定されている(金 子,2005).頭胴長約 75 mm,尾長約 50 mm,体 重は約 17 g 前後であるが冬眠前には約 37 g に達 する(金子,2005; Iwasa, 2005).体毛について, 背面は淡褐色で,背中に黒褐色の一筋の線があり, 目の周りや尾も黒褐色である.尾は,ネズミと違っ て,長い毛で覆われている. 生息域は低山帯から亜高山帯の森林で,主に 夜間・樹上活動をする.行動圏は雄で 2 ha, 雌で 1 ha であり,生息密度は 0.8 頭 /ha である(芝田, 2000).樹洞などに樹皮やコケを敷き詰めて巣を 作る.食性をみると,盲腸をもたないため,高栄 養で消化しやすい果実,種子,花(花蜜),新葉, 昆虫などを摂食する(芝田,2000).食物が欠乏 する冬季には冬眠に入るため,秋季に大量の脂肪 を体内に蓄積している.越冬は中部地方で半年に も及ぶが,温暖な和歌山では 4 ヶ月と短い(芝田, 2000; 湊,1986).越冬場所は,樹洞,落ち葉の下, 浅い土の中,朽木内である(湊,1999).ヤマネ 科の動物は一般に冬眠期間中も中途覚醒する     Funakoshi, K., M. Yasuda and T. Minami. 2014. Distribution of the Japanese dormouse, Glirulus japonicas, in the Ohsumi Peninsula, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 40: 1–6. KF: Biological Laboratory, Faculty of International University of Kagoshima, 8–34–1 Sakanoue, Kagoshima 891–0197, Japan (e-mail: funakoshi@int.iuk.ac.jp).

(Walhovd, 1976; 大津,1991). 繁殖について,中部地方に生息する雌は年 1–2 回 繁 殖 し,1 回 当 た り 3–6 頭 出 産 す る( 芝 田, 2000;Minato, 1996).出生後,満 1 歳で性成熟に 達するが,飼育下では出生後の冬眠前に繁殖に関 与する例がみられる(芝田,2000; Minato, 1996). 寿命は 3 年であるが飼育下では 9 年の記録がある (金子,2005; Iwasa, 2005; 湊,2000). 九州におけるヤマネの生息状況や分布に関し ては,これまでの文献資料を基に安田・坂田(2011) によって総説としてまとめられている.それによ ると,各県の低標高の照葉樹林から高標高の落葉 広葉樹林まで広く分布し,秋から冬季に 3–5 頭を 出産,11 月下旬から 4 月下旬に冬眠する.近年, 福岡県(馬場,2003),長崎県(湊ほか,1998; 松 尾,2010),熊本県(坂田ほか,2010; 安田ほか, 2012),大分県(佐藤,1998)および宮崎県(木 場ほか,2008; 安田・栗原,2009)で生息の再確 認や新産地が報告されている.鹿児島県では,霧 島山(日野・森田,1964),大口市(日野・森田, 1964; 森田,1974),稲尾岳(森田,1986)での報 告があるが,これらの生息確認記録は 1967 年以 前で約 50 年前のものであり,現状は把握されて いない. そこで,今回は大隅半島を中心に,生息実態 調査を行い,本種の分布を確定するとともに,本 地域における南限種としての意義と地域個体群と しての位置づけを行った.また,冬季における若 干の生態的知見を得たので報告する.

1


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

クと自動撮影装置 5 機を回収した.2014 年 1 月 4 日に巣箱をチェックし,自動撮影装置 5 機を設置 した.その後,3 月 11 日に巣箱をチェックする とともに,巣箱と自動撮影装置のすべてを回収し た.C 地域では 2013 年 3 月 10 日に巣箱を 10 個 設置した.その後,3 月 23 日に巣箱をチェック 8 月 13 日に巣箱をチェックした後, した.その後, 巣箱 5 個の追加設置とそれらの付近に自動撮影装 置各 1 機を設置した.9 月 3 日に巣箱のチェック 図 1.大隅半島における調査地とヤマネの生息確認地点.A, 高隅山系の鹿児島大学農学部付属演習林;B,大篦柄岳 南東部中腹;C,御岳東部;D,甫与志岳西部麓の金弦の 森;E,荒西山中腹;F,稲尾岳西部;G,木場岳南部中腹; H,木場岳南部麓.●,生息確認;○,生息未確認.

と自動撮影装置を回収した.2014 年 1 月 4 日に 巣箱をチェックした後,自動撮影装置 5 機を設置 した.3 月 11 日に巣箱をチェックするとともに, 巣箱と自動撮影装置のすべてを回収した. D 地域では,2013 年 7 月 18 日に巣箱を 12 個 とその内の 4 個付近に自動撮影装置各 1 機を設置

 調査地と調査方法

した.その後,8 月 18 日に巣箱のチェックと自 動撮影装置を回収した.9 月 22 日に再び巣箱の

調査地は,大隅半島の 8 ヶ所で行った.北部

チェックと自動撮影装置 5 機を設置した.2014

から,高隅山系の鹿児島大学農学部付属演習林(図

年 1 月 12 日に巣箱のチェックと自動撮影装置を

1 の A 地域,標高 500 m 前後),大篦柄岳南東部

回収した.2 月 2 日に巣箱のチェックと自動撮影

中腹(図 1 の B 地域,標高 500 m 前後),御岳東

装置 5 機を設置した.3 月 14 日に巣箱のチェッ

部(図 1 の C 地域,標高 900 m 前後),甫与志岳

ク後に,巣箱と自動撮影装置をすべて回収した.

西部麓の金弦の森(図 1 の D 地域,標高 250 m

E 地域では,2013 年 5 月 30 日に巣箱 15 個とそ

前後),荒西山中腹(図 1 の E 地域,550 m 前後),

の内の 5 個付近に自動撮影装置各 1 機を設置した.

稲尾岳西部(図 1 の F 地域,標高 800 m 前後),

7 月 18 日に巣箱のチェックと自動撮影装置を回

木場岳南部中腹(図 1 の G 地域,標高 550 m 前後)

収した.その後,8 月 18 日に巣箱のチェックと

および木場岳南部麓(図 1 の H 地域,150 m 前後)

自動撮影装置を回収した.9 月 22 日には巣箱の

である.

チェックと自動撮影装置 5 機を設置した.2014

A 地域では,2013 年 3 月 26 日に 10 地点にそ

年 1 月 12 日に巣箱のチェックと自動撮影装置を

れぞれ巣箱 1 個(ヤマネのお宿 [ 塩ビ管巣箱:容

回収した.2 月 2 日に巣箱のチェックと自動撮影

積 200–500 cm3],(株)一成,兵庫県加古川市)

装置 5 機を設置した.3 月 14 日に巣箱のチェッ

とその付近に自動撮影装置 1 機(赤外線センサー

ク後に,巣箱と自動撮影装置をすべて回収した.

カメラ内蔵;Fieldnote I, II(有)麻里府商事,山

F 地域では,2013 年 10 月 18 日に木製巣箱(幅

口県岩国市)を設置し,4 月 25 日に巣箱の利用

14× 奥行 20× 高さ 31 cm)5 個とその付近 1 m 以

の有無のチェックと自動撮影装置を回収し,5 月

内に自動撮影装置(赤外線センサーカメラ内蔵 ;

26 日に巣箱のチェックとそれらの付近に自動撮

Fieldnote DS, DUO シリーズ,(有)麻里府商事,

影装置 10 機を設置した.6 月 20 日に巣箱をチェッ

岩国市)各 1 機を設置した.その後,12 月 13 日

クした後,巣箱と自動撮影装置を回収した.

に巣箱のチェックと自動撮影装置内の SD カード

B 地域では 2013 年 8 月 13 日に巣箱 15 個を設

とバッテリーの交換を行った.同様の調査を 3 月

置した.10 月 6 日に巣箱のチェックと自動撮影

6 日に実施した後,すべての巣箱と自動撮影装置

装置 5 機を設置した.11 月 23 日に巣箱のチェッ

を回収した.G 地域と H 地域では,2013 年 10 月

2


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

17 日において各地域に木製巣箱(野鳥用巣箱バー ドハウス B[YS400: 幅 14× 奥行 20× 高さ 31 cm], 木箱屋ドットコム,新潟県村上市)5 個とそれら の 付 近 1 m 以 内 に 自 動 撮 影 装 置(Fieldnote DS, DUO シリーズ, (有)麻里府商事,山口県岩国市) 各 1 機を設置した.その後,12 月 13 日に巣箱の チェックと自動撮影装置内の SD カードとバッテ リーの交換を行った.同様の調査を 3 月 6 日に実 施した後,すべての巣箱と自動撮影装置を回収し た.F,G および H 地域では,各地域の巣箱 1 個 の底に超小型の温度ロガー(サーモクロン G タ イプ [ 温度精度 ±1℃ ],KN ラボラトリー,大阪 府茨木市)を設置して,気温を測定した. なお,本研究は鹿児島森林管理署から国有林 野の入林許可証(25 鹿管大隅管 40-15 号)と国 指定天然記念物「ヤマネ」の現状変更について鹿 児 島 県 教 育 庁 文 化 財 課 の 許 可( 鹿 教 文 第 133, 270 号)を得て実施した.  結果 各地域におけるヤマネの生息や巣箱内の巣材 の有無について,以下に述べる.中標高の A 地 域では,巣箱 2 個に枯葉等が入っていたが,ヤマ ネの痕跡や写真は得られなかった.中標高の B 地域では,11 月 23 日に巣箱 1 個(No. 11)に巣 材としてコケ類やスギの樹皮が詰められていた (図 2b).また,別の巣箱 3 個に枯葉やどんぐり の殻が入っていた.自動撮影装置で得られた写真

図 2.大篦柄岳南東部における巣箱 No. 11 付近のヤマネ(a: 2013 年 10 月 9 日撮影)とその巣箱内の巣材(b).

から,No. 11 の巣箱付近でヤマネが 10 月 9 日に 撮影された(図 2a).高標高の C 地域では,9 月 3 日の調査で巣箱 3 個に枯葉やどんぐりの殻が

高標高の F 地域では,いずれの巣箱内にも枯

入っていたが,ヤマネの痕跡や写真は得られな

葉等がみられず,自動撮影装置によるヤマネの姿

かった.

は撮影されなかった.中標高の G 地域では,巣

低標高の D 地域では,2013 年 9 月 8 日に巣箱

箱 No. 2 付近で 2013 年 10 月 27 日にヤマネが撮

No. 47 付近でヤマネの姿が撮影された(図 3a).

影され,同巣箱付近で 2014 年 1 月 30–2 月 1 日に

2014 年 1 月 12 日の調査で 1 個の巣箱に枯葉,別

計 6 枚ヤマネが撮影された(図 4a).

の 1 個にコケ類が入っていた.中標高の E 地域

一方,低標高の H 地域では,巣箱 No. 6 の付近

では,1 月 12 日の調査で 3 個の巣箱に枯葉やド

で 2013 年 11 月 30 日にヤマネが撮影され,その

ングリの殻が入っていた.また,2 月 27 日に巣

後同巣箱付近で 2 月 3 日と 2 月 10 日に撮影され

箱 No. 32 付 近 で ヤ マ ネ の 姿 が 撮 影 さ れ た( 図

た(図 4b).巣箱 No. 7 の付近では 2013 年 12 月

3b).

25–26 日にヤマネが 6 枚撮影され,その後同巣箱

3


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 3.金弦の森における巣箱 No. 47 付近のヤマネ(a:2013 年 9 月 8 日撮影)と荒西山中腹における巣箱 No. 32 付近 のヤマネ(b:2014 年 2 月 27 日撮影).

図 4.木場岳南部中腹における巣箱 No. 2 付近のヤマネ(a: 2014 年 1 月 30 日撮影)と木場岳南部麓における No. 6 付 近のヤマネ(b:2014 年 2 月 3 日撮影).

付近で 2014 年 1 月 3 日,6 日および 24 日に撮影

され,大隅半島において約 50 年ぶりにヤマネの

された.また,巣箱 No. 9 付近では,2013 年 12

生息が再確認された.鹿児島県においては,九州

月 24 日と 2014 年 1 月 23 日にヤマネが撮影された.

地方の分布的特徴の記載(安田・坂田,2011)通

 考察 大隅半島における生息確認と分布

りに,低標高から高標高まで垂直的に広く分布し ていると思われるが,今回の調査では高標高域で の生息が確認されなかった.また,撮影された低・

今回の調査結果から,高隅山系,肝付山系お

中標高域は共通して樹齢・樹高がともに高い森林

よび稲尾岳山系の一部地域においてヤマネが撮影

を保有している.一方,高標高域にはこうした森

4


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

林が少なく樹高も低い.したがって,鹿児島県に

されるのは,冬眠期間中である 12 月から 2 月に

おける高標高域はヤマネにとって不適な環境であ

かけて,中標高の B 地域や本種の南限となった中・

るかもしれない.いずれにしても,ヤマネが生息

低標高の G・H 地域でヤマネが頻繁に撮影されて

しうる森林の広がりは比較的狭く,ヤマネの撮影

いることである.九州や四国では,しばしば冬季

頻度が低かったことから,個体数はあまり多くな

に 活 動 個 体 が 発 見 さ れ て い る( 安 田・ 坂 田,

く低密度であることが推測される.また,ヤマネ

2011).今回の調査による気温と冬季活動との関

の生息を確認できなかった自然林地域もあり,各

係はいずれ報告する予定である.冬季活動の際,

地域で孤立した個体群として存続している可能性

食物資源として何が利用されているのか興味深

が高い.また,今回の成果から,薩摩半島におい

く,今後の課題である.九州産のヤマネの繁殖期

ても広く分布することが予想されるので,今後薩

間に関して,秋から冬に偏った傾向にあり,本州

摩半島においても生息の確認調査を進めることが

中 部 以 北 の そ れ( 春 か ら 秋: 湊,2000; 芝 田,

期待される.

2000)と異なることが指摘されている(安田・坂 田,2011).今後,鹿児島産のヤマネの繁殖サイ

生態的特性

クルに関して検討する必要がある.

ヤマネは冬眠する哺乳類として知られている. 冬眠は,温帯から高緯度に生息する哺乳類にとっ て,冬の低温と食物欠乏の条件下で生き抜くため

保全に向けた取組 大隅半島のヤマネ生息域について,本調査結

の一つの生活史戦略である(川道,2000; 船越,

果から,森林の連続性を考慮すると高隅山系と稲

2000; 森田,2000).そのため,ヤマネにおける冬

尾岳を含む肝付山系の 2 つに分断された個体群に

眠開始や冬眠期間中の覚醒は,気温,食物条件,

分けられる.今後,両個体群間の遺伝的関係を調

脂肪蓄積量が密接に関係しているとされている

査し,保護管理する上で活用する必要がある.ま

(大津,1991; 芝田,2000; 芝田,2008).今回の

た,肝付山系では移動障壁を取り払うために緑の

調査で秋から冬にかけて撮影された個体をみる

回廊を実質的に構築していくことが望まれる.今

と,それほど肥っていないので,脂肪蓄積量は以

後の森林管理において,ヤマネの生息環境の保全

北の九州や本州産のヤマネのそれに比べて少ない

に配慮しながら進めていくことを期待する.

のではないかと考えられる.南限に分布する本種 の特性として,冬眠期間が短いことが予想される.

 謝辞

冬眠期間の長さと緯度との関係は,主に気温に

鹿児島大学農学部付属演習林における調査で

よって説明できるとしている(芝田,2000).日

は,便宜をはかっていただいた井倉洋二博士,ご

本産のヤマネでは,冬眠開始と終了の目安として,

協力いただいた職員の芦原誠一氏,演習林と大篦

Shimoizumi (1940) は平均気温 8.8℃の境界温度を

柄岳南東部中腹や御岳東部の調査にご協力いただ

示唆している.また,長野県ではヤマネが巣箱を

いたカエル PROJECT(NPO)の山下 啓氏,金

利用しなくなる 10 月末には平均気温が 9℃を下

弦の森についての情報をいただいた鹿児島大学理

回っている(芝田,2000).これらの目安にした

工学研究科の鈴木英治博士に厚くお礼申し上げ

がえば,例えば木場岳(低標高)では,境界温度

る.また,国有林野入林許可をいただいた鹿児島

(9℃)以下が 12 月中旬から 2 月下旬(安田ほか,

森林管理署の諸氏,国指定天然記念物「ヤマネ」

未発表)となって冬眠期間は 2 ヶ月半と予想され,

の現状変更について許可をいただいた鹿児島県教

和歌山産の個体(湊,1986)よりも短いことが考

育庁文化財の諸氏にお礼申し上げる.なお,本調

えられる.

査は鹿児島県希少野生生物調査事業業務委託にお

本調査で撮影されたヤマネは,すべて巣外で

ける哺乳類ワーキンググループへの助成により実

活動している瞬間の様子を示している.特に注目

施された.また,独立行政法人森林総合研究所の

5


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

研究課題(G212:野生動物の種多様性の観測技 術および保全技術の開発)の一部として施行され た.

RESEARCH ARTICLES 森田忠義.1974.VII.獣類調査 薩摩半島西側及び北薩地 方の哺乳動物.鹿児島県西部及び北部地域自然環境保 全基本調査(鹿児島県自然愛護協会,編),pp. 179–194. 鹿児島県,鹿児島. 森田忠義.1986.肝属山地自然自然環境保全地域及び周辺

 引用文献 福馬場 稔.2003.築城町でのヤマネの発見.森のめぐみ の里づくり(まちづくり推進室,編),pp. 86–89.築城 町まちづくり推進室,築城町. 船越公威.2000.コウモリ.冬眠する哺乳類(川道武男・ 近藤宣昭・森田哲夫,編),pp. 103–142.東京大学出版 会,東京. 日野光次・森田忠義.1964.鹿児島県の動物.鹿児島の自 然(鹿児島県理科教育協会,編) ,pp.173–193.鹿児島 県理科教育協会,鹿児島. Iwasa, M. A. 2005. Glirulus japonicas (Schinz, 1845). In (S. D. Odachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa and T. Saitoh, eds.) The Wild Mammals of Japan, pp.142–143. SHOUKADOH Book Sellers, Kyoto. 金子之史.2005.ヤマネ Japanese Dormouse.日本の哺乳類 [ 改 訂版 ](阿部 永,監修),p. 145.東海大学出版会,秦 野. 川道武男.2000.冬眠の生態学.冬眠する哺乳類(川道武男・ 近藤宣昭・森田哲夫,編),pp. 31–142.東京大学出版会, 東京. 木場頼孝・江藤 毅・森田哲夫・岩渕真奈美・湊 秋作. 2008.大崩山におけるヤマネの生息確認.宮崎県総合 博物館総合調査報告書「県北地域調査報告書」(宮崎県 総合博物館,編),pp. 35–44.宮崎県総合博物館,宮崎. 松尾公則.2010.長崎県の哺乳類.長崎新聞社,長崎,173 pp. 湊 秋作.1986.ニホンヤマネの生態 ― 日本特産の森の忍 者.動物大百科 5 巻小型草食獣(D. W. マクドナルド,編), pp. 96–97.平凡社,東京. Minato, S. 1996. Physical and behavioral development of the Japanese dormouse, Glirulus japonicas (Rodentia, Myoxidae). Mammalia, 60: 35–51. 湊 秋作.1999.ヤマネ・第十回 どこだ ヤマネの冬眠 場所は? WWF, 257: 17–18. 湊 秋作.2000.ヤマネって知ってる?ヤマネおもしろ観 察記.築地書館,東京,126 pp. 湊 秋作・松尾公則・田中龍子・相川千里・志田富美子・ 安東 茂・中西こずえ.1998.長崎県多良岳のヤマネ. 哺乳類科学,37: 115–118.

6

地域の哺乳類・爬虫類および両生類.肝属山地自然環 境 保 全 地 域 調 査 報 告( 環 境 庁 自 然 保 護 局, 編 ),pp. 109–148.環境庁自然保護局,東京. 森田哲夫.2000.冬眠現象.冬眠する哺乳類(川道武男・ 近藤宣昭・森田哲夫,編),pp. 3–30.東京大学出版会, 東京. 大津良英.1991.ニホンヤマネ.けものウォッチング(川 道武男・川道美枝子,編),pp. 130–138.京都新聞社, 京都. 佐藤眞一.1998.動物誌(二).九重の自然と歴史(松本征 夫・武石千雄・佐藤眞一・佐藤三千代・甲斐素淳,著), pp. 111–174.葦書房,福岡. 坂田拓司・安田雅俊・長峰 智.2010.熊本県水俣市大川 におけるニホンモモンガ Pteromyas momonga とヤマネ Glirulus japonicus の確認.熊本野生生物研究会誌,6: 23–28. 芝田史仁.2000.ヤマネ.冬眠する哺乳類(川道武男・近 藤宣昭・森田哲夫,編),pp. 162–186.東京大学出版会, 東京. 芝田史仁.2008.小さな K 戦略者の生態と生活史 ― ヤマネ. 日 本 の 哺 乳 類 学 ① 小 型 哺 乳 類( 本 川 雅 治, 編 ),pp. 200–222. 東京大学出版会,東京. Shimoizumi, J. 1940. Studies on the hibernation of the Japanese dormouse (Glirulus japonicas (SCHINZ). (1) On the hibernation period. Sci. Rep. Tokyo Kyoiku Daigaku Sect. B, 4: 51–61. 安田雅俊・栗原智昭.2009.自動撮影カメラで記録された 宮崎県椎葉村のニホンモモンガ.熊本野生生物研究会 誌,5: 31–35. 安田雅俊・大野愛子・井上昭夫・坂田拓司.2012.熊本県 におけるヤマネ Glirulus japonicas の分布.熊本野生生 物研究会誌,7: 25–24. 安田雅俊・坂田拓司.2011.絶滅のおそれのある九州のヤ マネー過去の生息記録からみた分布と生態および保全 上の課題 ―.哺乳類科学,51: 287–296. Walhovd, H. 1976. Partial arousal from hibernation in a pair of common dormice, Muscardinus avellanarius (Rodentia, Gliridae), in their natural hibernaculum. Ocologia, 25: 321– 330.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

トカラ列島口之島で確認されたテン Martes melampus 1

1

1

稲留陽尉 ・塩谷克典 ・岡田 滋 ・鹿児島県環境林務部自然保護課 1

2

〒 891–0132 鹿児島市七ツ島 1 丁目 1 番地 5 (一財)鹿児島県環境技術協会 2

〒 890–8577 鹿児島市鴨池新町 10 番 1 号 鹿児島県環境林務部自然保護課

 はじめに トカラ列島は,鹿児島県の屋久島と奄美大島 の間に位置し,有人島 7 島,無人島 5 島で構成さ れている.悪石島と小宝島の間には,生物地理学 上の区系分布境界線である渡瀬線が存在し,旧北 区と東洋区それぞれの特徴を示す生物群が生息す る 島 々 と し て 知 ら れ て い る( 例 え ば, 阿 部, 2005). 島にはネズミの駆除を目的としてイタチが持 ち込まれたり,観光目的としてマゲシカが持ち込 まれた過去がある(十島村,1995).これに加え てトカラ列島の固有品種とされるトカラヤギは, 家畜として管理されていたものが一部野生化して いる(十島村,1995). 平成 17 年に施行された外来生物法では,在来 種に大きな影響を与える種群は,特定外来生物や 要注意外来生物に指定され,規制や注意喚起の対 象となっている.しかしこれは国外からの外来種 に限定されており,在来種の国内での人為的な移 入は,法的規制が係っていないものの,森林生態 系や島嶼でのトカゲ類や昆虫類にとって大きな脅 威となっている(日本生態学会,2002). トカラ列島の島々のうち,口之島,中之島,臥 蛇島,平島,諏訪之瀬島,悪石島にはイタチが移     Inadome, T., K. Shioya, S. Okada and Kagoshima Prefecuture (Environment and Forestry Affairs, Department Nature Conservation Division). 2014. First records of Martes melampus from Kuchino-shima island, the Tokara Islands. Nature of Kagoshima 40: 7–11. TI: The Foundation of Kagoshima Environmental Research and Service, 1–1–5 Nanatsujima, Kagoshima 891– 0132, Japan (e-mail: inadome@kagoshima-env.or.jp).

入されたことが記録として残っている(十島村, 1995).しかしながら,今回口之島にて調査を実 施した結果,確認されたのはイタチではなくテン (Martes melampus)であったためここに報告する. なお,トカラ列島に持ち込まれ定着しているイタ チは,ニホンイタチ(Mustela itatsi:イタチと表 記される場合もある)とされているが(阿部, 2005),厳密に分類学的な研究はなされておらず, チョウセンイタチ(M. sibirica)が含まれる可能 性もある.また,十島村(1995)では島によって 亜種コイタチ(M. i. sho)と表記されている.そ のため,本稿ではテン以外のイタチ型動物をイタ チと表記する.  調査地 調査は,2012 年 10 月 2–5 日および 23–24 日に 鹿児島県鹿児島郡十島村口之島にて行った(図 1).口之島の面積は 13.33 km2 で,トカラ列島を 構成する島の中では 3 番目に面積が大きい.島の 中央に前岳を有し,標高 628.3 m は島の最高点と なっている.島の北側に集落があり,南部は野生 牛 が 生 息 す る こ と で 知 ら れ て い る( 十 島 村, 1995).  調査方法 既存の植生図(寺田,1999)を基に,島の全 域を森林,竹林,草地,海岸林,海岸,集落と 6 つの環境に分けた.それらの環境にて調査地域を 選定し,踏査ルートを設定した.ルートを踏査し, 糞や食痕等をそれぞれ確認する痕跡調査や赤外線 自動撮影装置による撮影,カゴ罠を用いた捕獲調 査を行った.赤外線自動撮影装置とカゴ罠は,落

7


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 2.口之島で確認されたイタチ科哺乳類の糞 1.昆虫等の 外骨格といった未消化部はみられず,植物の種子が含有 している.

図 1.口之島の調査地位置図.

花生,魚肉,果物を誘引餌に用い,各地点 1 晩設

図 3.口之島で確認されたイタチ科哺乳類の糞 2.

置して早朝見回りを行った.踏査にて採取したイ タ チ 科 哺 乳 類 の 糞 は,DNA 抽 出 キ ッ ト NucleoSpin Tissue (TaKaRa) を用いて DNA を抽出

撮影された画像を見ると,その大きさや末端部位

し,電気泳動のゲルイメージから種の同定を行っ

の黒さといった形態的特徴からテンのようにも見

た.また,イタチ科哺乳類の生息状況について,

えたが(安間,1987),明らかではなかった.

コミュニティーセンターの職員(50 代),と民宿 経営者夫婦(60 代)に聞き取りを行った.  結果 確認されたイタチ科哺乳類 調査の結果,6 地域全てにおいてイタチ科哺乳

地元住民への聞き取り イタチの生息状況について話を聞いたところ, 島内で観察されるイタチ科哺乳類のことをいずれ もイタチではなくテンと呼んでいた.また,農作 物,家禽等への被害について聞いてみたところ,

類の糞が確認された(図 2–3) .また,赤外線自

畑に植えられてあるバナナを木に登って採餌する

動撮影装置では,海岸,集落にてイタチ科哺乳類

話があった.日本産のテンは,肉食獣でありなが

が撮影された(図 4–5).今回確認されたイタチ

ら食性において果実依存傾向が強く(Tatara and

科哺乳類の糞は,形状や大きさ,糞に含有された

Doi, 1994),木登りが得意である。一方イタチで

植物種子といった状況から,島外から持ち込まれ

はこのような食性,行動はほとんどみられない(安

て生息するとされるイタチではなくテンである可

間,1987)。このことから,確認された糞や画像

能性が示唆された(安間,1987).また,集落で

がテンである可能性がより高まった.

8


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 4.口之島で撮影されたイタチ科哺乳類 1.

図 5.口之島で撮影されたイタチ科哺乳類 2.

DNA 分析

識することなく放獣された.

今回確認されたイタチ科哺乳類を確実に同定

現在の口之島にはテンのみ生息しているのか,

するため,採取した糞 10 検体を用いて遺伝子分

イタチも混在しているのか,以前はイタチも生息

析を行った.その結果,得られた遺伝子情報から

していたが現在はテンのみとなったのかは不明で

9 検体がテンと判別された(図 6).残りの 1 検体

ある.過去の記録として,1988 年にテンが生息

は,いずれの遺伝子情報も抽出することができず

するとの情報がありつつも確認できなかったもの

種は同定できなかった.  考察 島に持ち込まれた経緯

(森田,1988)がある.また,1996 年にはイタチ とテンの糞が観察されており,住民の間ではイタ チとテンを区別して認識していたとのことであっ た(本川氏,私信).しかしながら,今回行った

これまでトカラ列島には,ネズミ駆除を目的

住民への聞き取りでは島内でみられるイタチ科哺

としてイタチが持ち込まれたことが記録として

乳類はテンと呼ばれており,イタチとテンを区別

残っている(十島村,1995).しかしながら,持

した上でのイタチに関する具体的な話は聞かれな

ち込まれた年代や個体数等の詳細な情報は記録と

かった.

して残っていない.文献の記録によると,永井

こ れ ら の 状 況 か ら 推 測 す る と, 少 な く と も

(1928)ではイタチの記述はみられない.1988 年

1988–1996 年頃まで島内にはイタチとテン共に生

には,口之島でイタチの頭骨を採集した記録があ

息していたが,その後約 16 年の間にイタチは絶

る(森田,1988, 1991).したがって,口之島にイ

滅したもしくは,生息密度が極小化したと考えら

タチが移入されたのは,1928–1988 年の間と推測

れる.上記① – ③のうち可能性としては②が最も

される.

高く,次いで③であり,①はないと考えられる.

口之島にテンが生息するに至った可能性とし て,以下のことが考えられる. ①イタチを放獣した際,口之島ではイタチと

今後,より詳細な聞き取りや現地調査を実施する ことで,口之島のイタチ,テンの生息状況を把握 することが望まれる.

誤認されてテンのみ放獣された. ②イタチを放獣するのとは別のタイミングで テンが放獣された(イタチと間違って放獣された 可能性も含む). ③イタチ,テン共に混同した状態で,区別認

外来種の影響 島嶼に移入されたイタチは,爬虫類に対して 非常に強い捕食圧をかけ,複数種を絶滅させた事 例 が 与 論 島 で 知 ら れ て い る(Nakamura et al.,

9


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 6.口之島で採取されたイタチ科哺乳類の糞 10 検体の遺伝子分析結果.分析結果の電気泳動ゲルイメージ部を抜粋している. 1–9 検体までは,テンと同じバンドが検出され,10 検体目はいずれのバンドも検出されなかった.

2013).トカラ列島でも,持ち込まれたイタチが トカゲ属(Plestiodon)の個体群維持において大 き な 脅 威 と な っ て い る( 例 え ば Hikida et al., 1992). トカラ列島の中でも平島や悪石島のトカゲ属 は,イタチによる捕食によって個体群が消滅した とされている(太田,2003a).諏訪之瀬島,中之 島は消滅危惧Ⅰ類に指定を受けている(太田, 2003b).口之島は,それよりは危険性が低い消滅 危惧Ⅱ類とされている(太田,2003c).実際,今 回 の 調 査 中 に, オ キ ナ ワ ト カ ゲ(Plestiodon marginatus)は,決して低くない頻度で目撃され た.現在,口之島に優占して生息するイタチ科哺 乳類が,イタチではなくテンであるため,イタチ が現在も生息している他の島に比べて捕食圧が低 い可能性もある.

 謝辞 今回の調査を実施するにあたり現地での聞き 取りにご協力いただいた,口之島出張所の永田氏, 民宿くろしおの宿の肥後夫妻,口之島でのイタチ, テンの情報を下さった上,有益なアドバイスを下 さった兵庫県立大学自然環境科学研究所太田英利 教授,京都大学総合博物館本川雅治准教授,およ び現地調査時に協力いただいた当協会職員に厚く 御礼申し上げます.本調査は,鹿児島県が実施す る「平成 24 年度自然植生等調査事業委託」にて 実施した哺乳類調査の結果を一部抜粋している.  引用文献 福阿部 永(監修) .2005.日本の哺乳類 [ 改訂版 ].東海 大学出版会,神奈川.206 p. 安間繁樹.1987.アニマル・ウォッチング日本の野生動物. 晶文社,東京.271 p. Hikida, T., H. Ota and M. Toyama (1992) Herpetofauna of an

トカラの島々の状況 2011 年から 2012 年にかけて中之島,口之島, 臥蛇島と同一事業による哺乳類調査を実施してお り,中之島,臥蛇島に生息するイタチ科哺乳類は,

encounter zone of oriental and palearctic elements: amphibians and reptiles of the Tokara group and adjacent slands in the Northern Ryukyus, Japan. Biol. Mag. Okinawa 30: 29–43. 森田忠義.1988.野生牛の住む,トカラ列島・口之島の陸 生脊椎動物相.理科部会誌 (30): 14–19.

撮影画像や実際に捕獲することでイタチであるこ

森田忠義.1991.トカラ列島の動物(哺乳類,爬虫類,両

とが確認されている.残りの島々についても生息

生類) .トカラ列島学術調査報告書,鹿児島県,167–

状況を把握することで,トカゲ類その他の在来種 への影響を把握し,外来種対策を実施する際の判 断材料としていくことが必要である.

178. 永井亀彦.1928.南西諸島の動物分布.鹿児島県史跡名勝 天然記念物報告.第四輯,49–52. Nakamura, Y., A. Takahashi and H. Ota (2013) Recent cryptic extinction of squamate reptiles on Yoronjima Island of the Ryukyu Archipelago, Japan, inferred from garbage dump remains. Acta Herpetologica 8 (1): 19–34.

10


RESEARCH ARTICLES 太田英利.2003a.トカラ列島,悪石島・平島のニホントカゲ, p. 101.鹿児島県(編).鹿児島県の絶滅のおそれのあ る野生動植物 動物編-鹿児島県レッドデータブック -.財団法人鹿児島県環境技術協会,鹿児島. 太田英利.2003b.トカラ列島,諏訪之瀬島・中之島のオキ ナワトカゲ,p. 102.鹿児島県(編).鹿児島県の絶滅 のおそれのある野生動植物 動物編-鹿児島県レッド データブック-.財団法人鹿児島県環境技術協会,鹿

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 Tatara, M. and T. Doi (1994) Comparative analyses on food habits of Japanese marten, Siberian weasel and leopard cat in the Tsushima islands, Japan. Ecological Research, 9 (1): 99–107. 日本生態学会(編).2002.外来種ハンドブック.地球人館, 東京. 寺田仁志.1999.口之島の植物相と現存植生.鹿児島県立 博物館研究報告 (18): 43–78. 十島村.1995.十島村誌.斯文堂,鹿児島.1758 p.

児島. 太田英利.2003c.トカラ列島,口之島のオキナワトカゲ,p. 103.鹿児島県(編).鹿児島県の絶滅のおそれのある 野生動植物 動物編-鹿児島県レッドデータブック-. 財団法人鹿児島県環境技術協会,鹿児島.

11


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

12

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

川内川推込分水路における環境の現状評価 -モニタリング調査結果から- 1

1

1

1

2

大野幸一郎 ・新谷勝利 ・豊國法文 ・岩川敬樹 ・東郷純一 ・鮫島正道 1 2 3

3

〒 812–0023 福岡市博多区奈良屋町 2–1 株式会社建設環境研究所 

〒 895–0075 薩摩川内市東大小路町 20–2 国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所 

〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部

環境配慮事項等の保全措置に基づいた工事が行わ

 はじめに 推込分水路整備事業は,平成 18 年 7 月の洪水 により川内川流域内が甚大な被害を受けたことへ の対応として,平成 18 年 10 月 4 日に河川激甚災 害対策特別緊急事業(以下,「激特事業」という) に採択された事業の 1 つである. 同分水路は,さつま町屋地地区に新たに洪水 を流す水路を創り,外水氾濫による家屋浸水被害

れた. ここでは整備工事終了後,約 2 年間が経過し た推込分水路について,これまでに実施してきた モニタリング調査および河川水辺の国勢調査の結 果も踏まえて,確認種の状況からの同分水路にお ける環境の現状評価と委員会で協議された環境保 全措置等の結果について報告する.

を解消する目的で,平成 18 年 10 月から平成 23 年 6 月(出水期前)までの完成を目標に,川内川 流域内で最大の被害を被った市街部の下流側(図 1)で,築堤,河道掘削,分水路開削を行って整 備された(川内川河川事務所ホームページ)もの である.事業量は,延長約 250 m,底幅約 65 m, 3

3

掘削約 70 万 m (内訳は土砂掘削が約 50 万 m , 3

岩掘削が約 20 万 m )である. 当該激特事業では,特に短期間かつ大規模な 川の形状などの改変が伴うことから,そこに生息 している両生類,爬虫類,哺乳類,鳥類などの動

図 1.推込分水路の位置.

物の移動経路の分断などが危惧された.そこで, 学識者で構成された「川内川激特事業環境影響検 討委員会」が設置され,同委員会における助言や     Oono, K., K. Shintani, N. Toyokuni, T. Iwakawa, J. Tougou and M. Sameshima. 2014. An environmental assessment of current status of Shigome flood control channel, Sendai River system in Kagoshima, Japan, as a result of monitering surveys. Nature of Kagoshima 40: 13–17. KO: Civil Engineering and Eco-Technology Consultants Co. Ltd., 2–1 Narayamachi, Hakataku, Fukuoka 812–0023, Japan (e-mail: oono-ko@kensetsukankyo.co.jp).

図 2.完成した推込分水路.

 調査の目的と内容 目的 モニタリング調査は,推込分水路の整 備事業実施前(工事前;災害発生直後),実施中(工

13


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

事中),実施後(工事後)において,事業実施区 域周辺の動植物に関する生息状況について把握 し,当該事業の動植物への影響を評価することを 目的として行ってきた. 内容 現地調査は,「平成 18 年度版 河川水 辺の国勢調査基本調査マニュアル [ 河川版 ](鳥 類調査編および両生類・爬虫類・哺乳類調査編) 国土交通省水管理・国土保全局河川環境課 平成 18 年度制定 平成 24 年 3 月一部改訂」に準拠し て行ったもので,調査対象項目は両生類・爬虫類・ 哺乳類と鳥類の調査であった. 両生類,爬虫類および哺乳類の確認は,捕獲 確認,目撃法およびフィールドサイン法により行 い,併せて推込分水路内において確認された種の 確認位置や足跡の方向から,分水路周辺での移動 経路を推測した. 鳥類の確認はスポットセンサス法により行っ た.観測には双眼鏡等を用い,目視や鳴声により 出現した鳥類の種を同定し,分水路の内外で区分 して種名,個体数,確認位置を記録した.

 調査結果と考察 両生類・爬虫類・哺乳類調査 工事後の現地 調査(平成 24 年 6 月,8 月,10 月,12 月実施) で確認された両生類,爬虫類,哺乳類を表 1 に示 した.両生類は 1 目 2 科 3 種,爬虫類は 1 目 3 科 3 種,哺乳類は 3 目 5 科 7 種が確認された.推込 分水路の広範囲で確認された種は,両生類のニホ ンアカガエルやヌマガエル,哺乳類のテンやイタ チ属の一種であった. 両生類は,分水路の中央部分に形成された水 域(水溜り)や左岸と右岸の掘削斜面を中心に確 認されたことから,分水路周辺を広く移動してい ると推測される(表 1,図 3).一方,イタチ類や タヌキなどの中型哺乳類や,イノシシやホンドジ カなどの大型哺乳類は,足跡の調査結果から掘削 斜面から分水路内に形成された水溜り付近を移動 していることが推察され,分水路内の水域環境が 水飲み場や休憩場として利用されていることと考 えられる(表 1,図 3). 次に,「川内川激特事業環境影響検討委員会」 で検討された激特事業モニタリング調査における 指標種について,経年の確認状況を整理した(表

表 1.工事後の調査で確認された両生類・爬虫類・哺乳類. 目名

科名

種名

両生類

カエル

アマガエル アカガエル

爬虫類

トカゲ

哺乳類

ウサギ ネコ

トカゲ カナヘビ ナミヘビ ウサギ イヌ イタチ

ニホンアマガエル ニホンアカガエル ヌマガエル ニホントカゲ ニホンカナヘビ シマヘビ ノウサギ タヌキ テン イタチ属の一種 アナグマ イノシシ ホンドジカ

ウシ

イノシシ シカ

左岸 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

推込分水路 分水路内

右岸

○ ○

○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

表 2.両生類・爬虫類・哺乳類の指標種の経年確認状況. 目名

科名

種名

両生類

カエル

アカガエル

爬虫類

カメ トカゲ モグラ ネコ

- トカゲ モグラ イヌ イタチ

ニホンアカガエル ヌマガエル カメ類 ニホントカゲ コウベモグラ タヌキ イタチ属の一種

哺乳類

14

工事前 H19–H20 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

工事中 H21–H22 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

工事後 H23 ○ ○ ○ ○ ○ ○

H24 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 3.両生類・爬虫類・哺乳類の移動経路.

2).両生類,爬虫類および哺乳類における指標種 は,両生類ではニホンアカガエル,ヌマガエルの 2 種,爬虫類ではカメ類,ニホントカゲの 2 種, 哺乳類ではコウベモグラ,タヌキ,イタチ属の一 種の 3 種が評価対象として選定されており(表 2), ニホントカゲを除き,全ての指標種が全ての調査 において確認された.特に,両生類のニホンアカ ガエルについては,分水路内の水域(図 4)で多 くの卵塊が確認された(図 5).

図 4.ニホンアカガエルの卵塊が確認された分水路の水域.

以上の椎込分水路での経年的確認状況や足跡 調査による利用状況の推察等から,推込分水路整 備事業による両生類・爬虫類・哺乳類の生息環境 への影響は大きくなく,今後も順調に回復が進ん でいくものと推察される. 鳥類調査 工事後の現地調査(平成 25 年 7 月, 平成 26 年 1 月実施)では,11 目 22 科 36 種の鳥 類が確認された(表 3).推込分水路内では,陸 域を主な生息場とするスズメ目に属する鳥類が多 く確認されたほか,マガモ,タシギ,アオジ等が 同水路内の底部にできた湿性草地を利用してい

図 5.確認されたニホンアカガエルの卵塊.

た.また,隣接する川内川本川では,サギ類やカ

15


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

表 3.工事後の調査で確認された鳥類(速報値). 目名

科名

カイツブリ ペリカン コウノトリ

カイツブリ ウ サギ

カイツブリ カワウ ゴイサギ ササゴイ アオサギ カモ カモ オシドリ マガモ カルガモ ヒドリガモ キンクロハジロ タカ タカ ミサゴ トビ ツル クイナ バン チドリ チドリ イカルチドリ シギ クサシギ イソシギ タシギ ハト ハト ドバト キジバト ブッポウソウ カワセミ ヤマセミ カワセミ キツツキ キツツキ コゲラ スズメ ツバメ ツバメ セキレイ ハクセキレイ セグロセキレイ ヒヨドリ ヒヨドリ カワガラス カワガラス ウグイス ウグイス エナガ エナガ メジロ メジロ ホオジロ ホオジロ アオジ アトリ カワラヒワ ハタオリドリ スズメ カラス ハシボソガラス ハシブトガラス

工事後(H25) 本川 分水路 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

モ類を中心とした水辺の鳥類が確認された.特に 冬季の調査では,休息・採餌するカモ類の大きな 集団が確認された.鳥類のモニタリング調査の指 標種として,水辺に生息する種が評価対象として 選定されており,確認種のうち 7 目 8 科 23 種が 該当した(表 4). 工事前の調査では 10 種,工事中の調査では 17 種,工事後の調査では 17 種の指標種が確認され ている.工事前の調査は,災害発生直後であり, 鳥類の生息環境がほぼ消失したため,確認された 種数が少なかったと考えられる. 工事中の調査では,工事前に比べて確認種数 が増加している.これは,工事実施区域(直接改 変区域)周辺における鳥類の生息環境が回復した ことに起因するものと推察される.特にサギ類, カモ類に加えてバンやオオバン,クサシギやイソ シギなどが確認されたことや,これらの種の生態 的知見から,周辺の植生や水辺環境が回復したも のと判断できる. 工事後の調査では,確認種数が工事中と同数 となり,ほぼ同様の種群が確認された.また,完 成された分水路内には,既往の出水及び湧水によ る水溜りや湿性草地が形成されており,マガモや タシギ等の水辺の鳥類の生息が確認された.

表 4.鳥類の指標種の経年確認状況. 目名

科名

種名

カイツブリ コウノトリ

カイツブリ サギ

カイツブリ ゴイサギ ササゴイ ダイサギ コサギ アオサギ オシドリ マガモ カルガモ コガモ ヒドリガモ オナガガモ ハシビロガモ キンクロハジロ ミサゴ バン オオバン イカルチドリ クサシギ イソシギ タシギ ヤマセミ カワセミ

カモ

カモ

タカ ツル

タカ クイナ

チドリ

チドリ シギ

ブッポウソウ

16

カワセミ

工事前 H19–H20

工事中 H22

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

工事後 H25 本川 分水路 ○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○


RESEARCH ARTICLES

これらの鳥類の経年的確認状況から,推込分 水路整備事業による水辺の鳥類の生息環境への影 響は小さかったと評価できる. 環境保全措置の効果 「第 2 回 川内川激特事 業環境影響検討委員会」(平成 20 年 8 月開催)に おいて椎込分水路に対する環境保全措置が以下の 通りに協議され,工事の際に配慮事項として取り 組まれている. ①分断域の生息種への配慮として,分水路新 設に伴い,分断された樹林域ができるため,そこ を生息場とする種(特にイノシシやタヌキなどの 哺乳類)が利用しやすいような移動経路を確保し た. ②カメ類の産卵場の確保として,築堤および 河道掘削によりカメ類の産卵場となる砂礫地が消 失する可能性があったが,掘削予定のない 36.8 km 付近の水際植生を伴った砂礫地はそのまま残 した.また築堤により後背地への移動が困難とな らないよう工法や傾斜等の配慮を行った. ①の移動経路の確保に関しては,推込分水路 内及びその周辺での現地調査において,中型哺乳 類のテンやイタチ属の一種の生活痕(糞)が確認 されたほか,大型哺乳類のイノシシやホンドジカ の生体や生活痕(糞),足跡も分水路内で多数確 認され,主に足跡の方向から分水路上流側から下 流側に向けての移動経路が推察された.このこと から,分水路内も含めてこれらの動物の移動経路 としての機能が,工事後も確保されていることが 明らかとなった. ②のカメ類の産卵場対応は,分水路周辺での 取り組みであり,周辺では中州や砂礫地は現在も 確保されているが,本調査の中ではカメ類の卵は 確認されなかった.しかしながら,ニホンスッポ ンを本川にて確認したことから,分水路周辺はカ メ類の産卵場および生息場として利用されている 可能性があるものと考える. 以上のことから,当初懸念されていた分水路 による動物の生息域の分断への影響は小さいと考 えられ,生物の生息あるいは生息環境に配慮した

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

 おわりに 推込分水路において行われてきたモニタリン グ調査結果や河川水辺の国勢調査結果等から,椎 込分水路整備事業が動物ならびにそれらの生息環 境に与える影響を評価したが,現地調査は災害発 生直後からのものであり,災害発生前の環境と事 業実施後に創造された環境を直接比較することは できなかった.しかし,調査結果あるいはそれら について経年的な比較を行った結果から判断する と,分水路整備事業は両生類・爬虫類・哺乳類や 鳥類の生息あるいは生息環境に配慮した事業で あったといえる. 今後も継続的なモニタリング調査を行い,分 水路内およびその周辺も含めて動物の生息環境や 河川環境の変遷について把握していく必要がある と考える.  謝辞 本報告をとりまとめるにあたり,協力頂いた 国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所調査 課の方々に深く御礼申し上げる.  引用文献 株式会社建設環境研究所,2008.川内川河川環境検討業務 報告書. 株式会社建設環境研究所,2008.川内川激特事業事前環境 調査業務報告書. 株式会社建設環境研究所,2009.川内川河川環境検討業務 報告書. 株式会社建設環境研究所,2010.川内川河川環境調査検討 業務報告書. 株式会社建設環境研究所,2013.川内川河川水辺の国勢調 査(両生類,爬虫類,哺乳類)業務報告書. 株式会社建設環境研究所,2014.川内川河川水辺の国勢調 査(鳥類調査)業務報告書. 国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所ホームページ: http://www.qsr.mlit.go.jp/sendai/. 国土交通省水管理・国土保全局河川環境課,2012.平成 18 年度版 河川水辺の国勢調査基本調査マニュアル [ 河 川版 ](鳥類調査編),平成 18 年度制定 平成 24 年 3 月一部改訂. 日本工営株式会社,2009.川内川水辺の国勢調査(植物・ 魚類)業務-平成 21 年度激特事業モニタリング調査- 調査結果報告書. 日本工営株式会社,2012.川内川河川環境影響調査検討業 務報告書.

事業が行われ,その保全措置が工事後も継続され ていることが確認できた.

17


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

18

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県から得られたニシン科ヤマトミズン Amblygaster leiogaster の記録 1

2

畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

3

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部) 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに  ニシン科魚類 Clupeidae は世界で 57 属約 188 種 が知られており(Nelson, 2006),日本近海には 11 属 17 種が分布する(青沼・柳下,2013).ヤマト ミズン属 Amblygaster は世界から 3 種が有効種と して認められており(Whitehead, 1985),日本に はそのうちヤマトミズン A.leiogaster (Valenciennes, 1847) とホシヤマトミズン A. sirm (Walbaum, 1792) の 2 種が知られている(青沼・柳下,2013).  Kishinouye (1908) は Clupea okinawensis を「 や まとみづん」の和名を付して琉球列島から記載報 告したが,この学名は現在 Amblygaster leiogaster (Valenciennes, 1847) の 新 参 異 名 と さ れ て い る (Wongratana, 1980; Whitehead, 1985; Monroe et al., 1999).その後,吉野(1984)は琉球列島から得 られた体長 15 cm の標本に基づき本種の記載を行 い,鈴木ほか(2000)は兵庫県浜坂町から本種 2 個体(OMNH-P 8286, 12729)を報告し,畑(2014) は与論島から本種 1 個体(KAUM–I. 55088,体長 53.9 mm) を 報 告 し た. ま た Machida and Kuromachi (2003) は,沖縄県名護市および石垣島 から得られた本種に寄生していた二生吸虫類 5 種 の記載を行ったほか,石森ほか(2013)は本種を

    Hata, H., M. Ito and H. Motomura. 2014. First record of Amblygaster leiogaster (Clupeiformes: Clupeidae) from Kagoshima mainland, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 19–23. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

沖縄島,慶良間諸島,石垣島から報告するととも にホシヤマトミズンとの比較,マンマルウオノエ Ryukyua globosa の寄生状況を報告した.  松原(1955)は本種の国内における分布域を「鹿 児島,沖縄」とし,益田ほか(1988)は本種の分 布を「鹿児島以南」とした.また,中根ほか(2005) は薩摩半島西岸に位置する吹上浜から本種の幼魚 1 個体(全長 88 mm)を報告したが,鹿児島から の報告はいずれも標本に基づくものであるかは不 明である.また,畑・本村(2011)は鹿児島県南 さつま市から 1 標本(KAUM–I. 151)をヤマトミ ズンとして報告した.しかし,KAUM–I. 151 は 不明瞭ではあるが体側に暗色斑が 1 列に並ぶこ と,第 1 鰓弓下枝の鰓耙数が 40 であること,背 鰭起部が明らかに尾鰭基底よりも吻端に近いこと などから,畑・本村(2011)がヤマトミズンとし て報告した KAUM–I. 151 はホシヤマトミズンの 誤同定であることが明らかとなっている(畑ほか, 2013;石森ほか,2013).したがって,現在,ヤ マトミズンの国内における分布は,琉球列島(青 沼・柳下,2013;畑,2014),兵庫県浜坂町(鈴 木ほか,2000)となっている.  2013 年 3 月 22 日に鹿児島県南さつま市笠沙町 沖でヤマトミズンと同定される 1 個体が定置網に より採集された.本標本は鹿児島県本土における ヤマトミズンの標本に基づく初めての記録となる ため,ここに報告する.  材料と方法 標本の計数・計測方法は Kimura et al. (2009) に

19


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Amblygaster leiogaster. KAUM–I. 54522, 234.5 mm SL, Minami-satsuma, Kagoshima Prefecture, Japan.

し た が っ た. た だ し, 稜 鱗 の 計 数 は Whitehead

腹部正中線上には腹鰭前方に 16 枚,腹鰭後方に

(1985) にしたがった.標準体長は体長と表記した.

14 枚の稜鱗を有するが,腹部稜鱗は鈍く,不明瞭.

計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで

体側鱗は円鱗で,腹部稜鱗を除いて鱗は剥がれや

行い,計測値は体長に対する百分率(%)で示し

すい.背鰭前方鱗は体の正中線上に配列する.背

た.ヤマトミズンの生鮮時の体色の記載は,固定

鰭起部は腹鰭起部直上に位置する.背鰭基底は短

前に撮影された鹿児島県産の 1 標本(KAUM–I.

く,臀鰭基底の 112.2%.

54522)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録,

腹鰭後端は総排泄孔に達しない.総排泄孔は

撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.本報

体の中央より後方に位置し,臀鰭起部直前に開孔

告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館

する.臀鰭起部は背鰭基底後端より後方,眼と瞳

(KAUM: Kagoshima University Museum)に保管さ

孔はそれぞれ円形.脂瞼はよく発達し,厚く,後

れており,上記の生鮮時の写真は同館のデータ

鼻孔後縁から眼窩後縁まで広がる.口は端位で,

ベースに登録されている.

上顎は下顎より短く,吻長の 90.1%.下顎は上顎

 結果と考察

よりわずかに突出する.上顎後縁は丸い.口裂は 小さく,わずかに傾斜し,上顎後端は眼の前縁に

Amblygaster leiogaster (Valenciennes, 1847)

達しない.第 2 上主上顎骨は下半分が肥大せず,

ヤマトミズン (Fig. 1; Table 1)

上下対称.鰓孔後縁に 2 つの突起を有する.鰓耙 は細長く,先端は丸い.胸鰭起部は鰓蓋後端より

Sardinella leiogaster Valenciennes, 1847: 270 (type

わずかに前方に位置する.胸鰭起部に腋鱗を備え

locality, Indian Ocean).

る.腹鰭は短く,後端は尖り,起部に腋鱗を備え る. 尾 鰭 は 二 叉 す る. 臀 鰭 最 後 の 2 軟 条( 第

標 本 KAUM–I. 54522, 体 長 234.5 mm, 鹿 児 島県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側 (31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2013 年 3 月 22 日,定置網,伊東正英.

15–16 軟条)は伸長する. 色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は一様に暗青色. 体側上部は淡い青色.体側下部および体腹面は一 様に銀色.頭部側面は一様に銀色であるが,前鰓 蓋骨前縁から前鰓蓋骨後縁にかけては淡い赤色.

記載 計数形質と体各部の体長および頭長に

鰓蓋後方に小黒色斑が入る.背鰭,胸鰭および尾

対する割合(%)を Table 1 に示した.体は細長

鰭の各軟条は黒色であるが,鰭膜は無色透明.腹

い楕円形でやや側扁し,体高は低い.体の輪郭は

鰭および臀鰭の各軟条は白色で鰭膜は無色透明.

背腹が同程度に膨らみ,体高は背鰭起部で最大.

固定後の色彩 ― 体背面は暗い褐色となる.

20


RESEARCH ARTICLES

分布 アフリカ大陸北東岸からインド,ベン ガル湾,アンダマン海,インドネシア,オースト ラリア北西岸,インドシナ半島から日本にかけて 分

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

兵庫県浜坂町(鈴木,2000)および薩摩半島西岸 (本研究)から標本に基づいて記録されている. 備考 本標本は背鰭前方鱗が体の正中線上に

る(Chan, 1965–1966; Losse, 1968;

配列することで Whitehead (1985) や Monroe et al.

Whitehead, 1985; Moshin and Ambak, 1996; Monroe

(1999),青沼・柳下(2013)などによって報告さ

et al., 1999; Kimura et al., 2003; Chen, 2003; Chen,

れた Amblygaster 属と同定された.本属魚類は日

2004; Kimura, 2009;青沼・柳下,2013).日本国

本からヤマトミズン A. leiogaster とホシヤマトミ

内では琉球列島(青沼・柳下,2013;畑,2014),

ズン A. sirm の 2 種が知られており(青柳・柳下,

Table 1. Counts and proportional measurements of Amblygaster leiogaster. Values in parentheses indicate modes or means. Indonesia and Yoron Island, Minami-satsuma, Kagoshima Japan Kagoshima, Japan KAUM–I. 54522 n=5 Standard length 234.5 51.1–83.8 Counts Dorsal fin rays (unbranched) 3 3 Dorsal fin rays (branched) 14 14–15 (14) Anal fin rays (unbranched) 3 3 Anal fin rays (branched) 16 14–16 (14) Pectoral fin rays (unbranched) 1 1 Pectoral fin rays (branched) 15 15–17 (16, 17) Pelvic fin rays (unbranched) 1 1 Pelvic fin rays (branched) 7 7 Caudal fin rays (upper + lower) 10 + 9 10 + 9 Gill rakers on 1st gill arch (upper) 14 11–15 (14) Gill rakers on 1st gill arch (lower) 33 31–35 (31) Gill rakers on 1st gill arch (total) 47 42–50 (45) Gill rakers on 2nd gill arch (upper) 15 11–14 (14) Gill rakers on 2nd gill arch (lower) 33 28–36 (34) Gill rakers on 2nd gill arch (total) 48 39–50 Gill rakers on 3rd gill arch (upper) 12 10–14 (12) Gill rakers on 3rd gill arch (lower) 25 20–28 (25) Gill rakers on 3rd gill arch (total) 37 30–40 (38) Gill rakers on 4th gill arch (upper) 10 8–12 (11) Gill rakers on 4th gill arch (lower) 16 15–18 (16) Gill rakers on 4th gill arch (total) 26 23–29 (27, 29) Gill rakers on posterior face of 3rd gill arch 7 6–9 (8) Prepelvic scute 16 16–18 (16, 17) Postepelvic scute 14 13–15 (14) Measurements (%SL) Head Length 23.4 24.8–27.1 (25.6) Body depth 22.2 18.2–25.4 (21.2) Predorsal length 51.9 44.3–48.3 (46.0) Snout tip to pectoral insertion 24.2 21.9–27.5 (24.5) Snout tip to pelvic insertion 51.5 49.2–53.1 (50.5) Snout to anal fin origin 80.3 75.5–79.6 (77.6) Dorsal fin base length 12.6 9.8–15.0 (12.8) Anal fin base length 11.3 11.1–14.8 (13.3) Caudal peduncle length 9.9 8.7–9.4 (9.0) Caudal peduncle depth 6.3 6.7–8.4 (7.6) Orbit diameter 7.6 7.0–9.0 (7.8) Eye diameter 5.7 5.8–7.7 (6.5) Snout length 7.7 6.3–7.7 (7.2) Pectoral fin length broken 13.7–16.4 (15.4) Pelvic fin length 8.3 7.7–9.8 (9.1) Head width 10.9 9.4–10.2 (9.9) Interorbital width 5.8 3.9–6.1 (4.8) Postorbital length of the head 10.5 10.2–11.7 (11.0) Upper jaw length 6.9 9.8–11.1 (10.3) Mandibular length 9.2 11.2–12.6 (11.6)

21


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

2013),2 種は体側の黒色点列の有無,鰓耙数,

条起部直下に位置すること,上顎後端が眼の前縁

背鰭起部の位置,腹鰭の位置,上顎後端の位置な

に 達 し な い こ と な ど で 識 別 さ れ る(Whitehead,

どで識別できるとされてきた(Chan, 1965–1966;

1985; Monroe et al., 1999;青沼・柳下,2013;石

Wongratana, 1980; 吉 野,1984;Whitehead, 1985;

森ほか,2013).鹿児島県産の標本はインドネシ

Monroe et al., 1999; 青 沼・ 柳 下,2013).Chan

ア産の標本と比べて,頭長,尾柄高,眼径,上顎

(1965–1966)や吉野(1984)はヤマトミズンの主

長,下顎長の体長に占める割合が小さく,背鰭前

上顎骨後縁は瞳孔前縁下に達しないと記載した一

長,臀鰭前長,尾柄長,頭幅の割合は大きい(Table

方で,青沼・柳下(2013)では上顎後端は眼の前

1).これら若干の相違は,インドネシアおよび与

縁にかろうじて達すると記載しているなど,見解

論島産の標本の体長が 51.1–83.8 mm であるのに

に差異がみられ,本属魚類の種の同定には混乱が

対し,鹿児島県産の標本の体長が 234.5 mm と大

生じていた.石森ほか(2013)は琉球列島産のヤ

きいことから,成長に伴う体各部の相対値変化に

マトミズンとホシヤマトミズンの比較を行い,ヤ

よるものであると考えられる.

マトミズンは従来知られていた通り,体側に黒色

ヤマトミズンの鹿児島県での採集記録は,本

点列がないことでホシヤマトミズンと識別できる

種が鹿児島県から沖縄県にかけて広く分布するこ

ほか,背鰭前長の体長に占める割合が 48.5–52.6%

とを示唆する.しかし,本種は群泳することが知

であること(ホシヤマトミズンでは 42.4–47.1%),

ら れ て い る が(Whitehead, 1985; Monroe et al.,

上顎長の頭長に占める割合が 26.2–35.7%(32.2–

1999; 青沼・柳下,2013),鹿児島県では 2013 年

38.7%)であること,体長 139.7 mm 以上の個体

に 1 個体が単独で漁獲されたにすぎない.これは

において上顎長の吻長に占める割合が 82.4–98.3%

上記個体が黒潮によって鹿児島に偶発的に運ばれ

(101.3–125.0%)であること,小型個体を除いて,

てきた可能性を強く示しており,本種が鹿児島県

上顎後端は眼の前縁に達しない(眼の前縁に達す

近海で再生産している可能性も低いと考えられ

るか越える)こと,体長 139.7–234.5 mm の個体

る.

に お い て 第 1 鰓 弓 下 枝 鰓 耙 数 が 31–36( 体 長

比較標本 ヤマトミズン Amblygaster leiogaster

173.4–221.9 mm の個体において 37–42)であるこ

(5 個 体, 体 長 51.1–83.8 mm):KAUM–I. 43971,

と,吻部の上顎上方に斜走線がない(有する)こ

体 長 76.2 mm,KAUM–I. 43972, 体 長 83.8 mm,

と,生鮮時,体側上部の体色が青色(青緑色)で

KAUM–I. 43973,体長 78.5 mm,KAUM–I. 43974,

あることで識別されることを明らかにした.今回

体長 70.6 mm,インドネシア・スラウェシ島ビトゥ

鹿児島県本土から得られた標本は,背鰭前長の体

ン 沖(01°26′N, 125°12′E),2011 年 12 月 12 日,

長に占める割合が 51.9% であること,上顎長の

本村浩之;KAUM–I. 55088,体長 51.1 mm,鹿児

頭長に占める割合が 29.6% であること,上顎長

島 県 大 島 郡 与 論 町 茶 花 港 内(27°02′57″N,

の吻長に占める割合が 90.1% であること,上顎

128°24′19″E),0.5 m,タモ網,2013 年 6 月 30 日,

後端は眼の前縁に達しないこと,第 1 鰓弓下枝鰓

T. Trnski・C. Struthers・J. Leis・D. Bray・M.

耙数が 33 であること,吻部の上顎上方に斜走線

Gomon・O. Gon・J. Gon・本村浩之・吉田朋弘・

がないこと,生時,体側上部の体色が青色である

田代郷国・Byeol Jeong・畑 晴陵.

ことなどの特徴において,石森ほか(2013)が報 告した A. leiogaster の標徴とよく一致した.また,

 謝辞

本標本の計数形質は,インドネシアから採集され,

本報告を取りまとめるにあたり,琉球大学大

本研究で比較を行った標本の値の範囲内にあり,

学院理工学研究科の石森博雄氏には文献情報を頂

よく一致している(Table 1).本種は同属他種と

いた.原口百合子氏,西 大樹氏,大石一樹氏を

は体側に暗色斑がないこと,第 1 鰓弓下枝の鰓耙

はじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン

数が 31–35 であること,腹鰭起部が背鰭第 1–3 軟

ティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究室の皆

22


RESEARCH ARTICLES

さまには適切な助言を頂いた.以上の方々に謹ん で感謝の意を表する.本研究は,鹿児島大学総合 研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部 は JSPS 科研費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点 事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育 ネットワーク構築」,JSPS 若手研究者インターナ ショナル・トレーニング・プログラム「熱帯域に おける生物資源の多様性保全のための国際教育プ ログラム」,総合地球環境学研究所「東南アジア 沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プ ロジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様 性ホットスポットの構造に関する研究プロジェク ト」の援助を受けた.  引用文献 青沼佳方・柳下直己.2013.ニシン科,pp. 297–301, 1811– 1812.中坊徹次(編).日本産 魚類検索 全種の同定  第三版.東海大学出版会,秦野. Chan, W. L. 1965–1966. A systematic revision of the Indo-Pacific clupeid fishes of the genus Sardinella (Family Clupeidae). Japanese Journal of Ichthyology, 12: 104–118, 13: 1–39. Chen, C.-H. 2003. Fishes of Penghu. Fisheries Research Institute, Council of Agriculture, Keelung. xxxvi + 379 pp. Chen, C. 2004. Fishes of Penghu. Fisheries Research Institute, Council of Agriculture, Taiwan, Keelung. 175 pp. 畑 晴陵.2014.ヤマトミズン.p. 45.本村浩之・松浦啓 一(編).奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿児島 大学総合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館,つくば. 畑 晴陵・伊東正英・石森博雄・本村浩之.2013.鹿児島 県 か ら 得 ら れ た ニ シ ン 科 ホ シ ヤ マ ト ミ ズ ン の 記 録. Nature of Kagoshima, 39: 23–26. 畑 晴陵・本村浩之.2011.標本に基づく鹿児島県のニシ ン目魚類相.Nature of Kagoshima, 37: 49–62. 石森博雄・上野大輔・吉野哲夫.2013.琉球列島における ヤマトミズンとホシヤマトミズン(ニシン目:ニシン科) の判別とマンマルウオノエ(新称)(等脚目:ウオノエ 科)の寄生状況.魚類学雑誌,60: 81–89. Kimura, S. 2009. Amblygaster leiogaster. Page 28 in S. Kimura, U. Satapoomin and K. Matsuura, eds. Fishes of Andaman Sea. West coast of southern Thailand. National Museum of Nature and Science, Tokyo. Kimura, S., K. Hori and K. Shibukawa. 2009. A new anchovy, Stolephorus teguhi (Clupeiformes: Engraulidae), from North Sulawesi, Indonesia. Ichthyological Research, 56: 262–295.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 Kimura, S., T. Peristiwady and S. R. Suharti. 2003. Clupeidae. Pages 15–17 in S. Kimura and K. Matsuura, eds. Fishes of Bitung, northern tip of Sulawesi, Indonesia. Ocean Research Institute, the University of Tokyo, Tokyo. Kishinouye, K. 1908. Notes on the natural history of the sardine. Journal of Imperial Fisheries Bureau, 14: 71–105, pls. 13–21. Losse, G. F. 1968. The elopoid and clupeoid fishes of east African coastal waters. Journal of the East Africa Natural History Society and National Museum, 27: 77–115. Machida, M. and T. Kuromachi. 2003. Digenean trematodes from clupeid fishes of the genus Amblygaster of Japan and the neighboring waters. Bulletin of the National Museum, Series A, Zoology, 29: 1–6. 益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫.1988.魚類図鑑 南日本 の沿岸魚改訂版.東海大学出版会,東京.382 pp. 松原喜代松.1955.魚類の形態と検索.Part I. xi +789 pp. 石崎書店,東京. Monroe, T. A., T. Wongratana and M. S. Nizinski. Clupeidae Herrings (also, sardines, shad, sprats, pilchard, and menhadens). Pages 1775–1821 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific. ‚vol. 3. Batoid fishes, chimaeras and bony fishes part 1 (Elopidae to Linophrynidae). FAO, Rome. Moshin, A. K. M. and M. A. Ambak. 1996. Marine fishes and fisheries of Malaysia and neighbouring countries. Univ. Pertanian Malaysia Press, Serdang. ivxxxvi + 744 pp. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) 中 根 幸 則・ 須 田 有 輔・ 大 富  潤・ 早 川 康 博・ 村 井 武 四. 2005.中間型砂浜である鹿児島県吹上浜の近岸帯にお ける魚類相.水産大学校研究報告,53 (2): 57–70. Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world. Fourth edition. John & Sons, Inc., Hoboken, New Jersey. 601 pp. 鈴木寿之・細川正富・波戸岡清峰.2000.兵庫県産魚類標 本目録.大阪市立自然史博物館収蔵資料目録,第 32 集. 143 pp.大阪市立自然史博物館,大阪. Valenciennes, A. 1847. La Sardinella a ventre édentè. Pages 270– 271 in G. Cuvier and A. Valenciennes, eds. Histoire naturelle des poisons. Tome vingtième. Livrevingt et unième. De la famille des Clupéoïdes. vol. 20. Whitehead, P. J. P. 1985. FAO species catalogue. Vol. 7. Clupeoid fishes of the world (suborder Clupeoidei). An annotated and illustrated catalogue of the herrings, sardines, pilchards, sprats, anchovies and wolf-herrings. Part 1 – Chirocentridae, Clupeidae and Pristigasteridae. FAO Fisheries Synopsis, 7 (pt. 1): 1–303. Wongratana, T. 1980. Systematics of clupeoid fishes of the IndoPacific region. PhD thesis, University of London. 2 vols. 432 pp. 334 pls., 126 figs. 吉野哲夫.1984.ヤマトミズン,p.19. pl. 21-H.益田 一・ 尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).日本 産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.

23


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

24

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県本土から得られたトビウオ科 チャバネトビウオ Cypselurus spilonotopterus の記録 1

畑 晴陵 ・本村浩之 1

2

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部) 2

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに トビウオ科 Exocoetidae は日本近海には 7 属 31 種が分布しており(藍澤・土居内,2013),この うち 19 種がハマトビウオ属 Cypselurus に含まれ る( 藍 澤・ 土 居 内,2013). 今 井(1959) は Cypselurus spilonotopterus を標本に基づいて初め て日本から報告した.彼は,天草,屋久島,琉球 列島および国外から採集された体長 8.9–295 mm の複数の標本に基づき本種を記載し,生活史を報 告するとともに,カラストビウオの和名を提唱し た.しかし,吉野ほか(1975)は本種を琉球列島 から報告し,和名チャバネトビウオを提唱した. その後,加藤ほか(2006)は沖ノ鳥島周辺海域で の本種の産卵を報告し,加藤ほか(2008)は小笠 原諸島近海において本種が 3–6 月に産卵を行うこ とを報告した.立石(2010)は屋久島における本 種の出現状況を報告した.また加藤(2011)は小 笠原諸島から本種を報告すると同時に他の小笠原 諸島近海産トビウオ科魚類と本種との簡易識別法 を示した.中村(2014)は与論島から本種 1 個体 (KAUM–I. 55069,体長 250.0 mm)を報告した. 現在,チャバネトビウオは国内において,小 笠原諸島,沖ノ鳥島,天草,および屋久島から琉 球列島に出現するとされている(今井,1959;藍 澤・土居内,2013).     Hata, H. and H. Motomura. 2014. First record of Cypselurus spilonotopterus (Beloniformes: Exocoetidae) from the Kagoshima mainland, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 25–28. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

2013 年 10 月 10 日に鹿児島県肝属郡肝付町内 之浦湾で,チャバネトビウオと同定される 1 個体 が採集された.本標本は鹿児島県本土における チャバネトビウオの標本に基づく初めての記録と なるため,ここに報告する.  材料と方法 計数・計測方法は Parin and Belyanina (2002) に したがった.標準体長は体長と表記した.計測は デジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで行い, 計測値は体長に対する百分率(%)で示した.チャ バネトビウオの生鮮時の体色の記載は,固定前に 撮 影 さ れ た 鹿 児 島 県 産 の 1 標 本(KAUM–I. 56768)のカラー写真に基づく.本報告に用いた 標 本 は, 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館(KAUM: Kagoshima University Museum)に保管されており, 上記の生鮮時の写真は同館のデータベースに登録 されている.  結果と考察 Cypselurus spilonotopterus チャバネトビウオ (Fig. 1; Table 1) Exocoetus spilonotopterus Bleeker, 1865: 113 (type locality; Padang, Sumatra, Indonesia). 標本 KAUM–I. 56768,体長 89.3 mm,鹿児島 県 肝 属 郡 肝 付 町 内 之 浦 湾 新 地 沖(31°16′55″N, 131°04′49″E), 水 深 25 m,2013 年 10 月 10 日, 定置網,畑 晴陵・目黒昌利・小枝圭太・三澤  遼.

25


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Cypselurus spilonotopterus. KAUM–I. 56768, 89.3 mm SL, Uchinoura, Kagoshima, Japan.

記載 体計数形質と体各部の体長および頭長

McCosker and Rosenblatt, 2010; Dyer and Westneat,

に対する割合(%)を Table 1 に示した.体は細

2010).国内では天草(今井,1959),屋久島(今

長い円筒形.尾柄部は側扁するが,頭部から腹部

井,1959; 立 石,2010), 琉 球 列 島( 吉 野 ほ か,

にかけては丸みを帯びる.下顎は上顎よりわずか

1975),与論島(中村,2014),小笠原諸島(加藤

に突出する.口裂は小さく,上顎後端は眼窩前縁

ほか,2008;加藤,2011),沖ノ鳥島(加藤ほか,

に達しない.吻端は尖る.胸鰭は長く,その後端

2006)から報告されている.

は臀鰭基底後端直上に達する.腹鰭は長く,その

備考 本標本は胸鰭の上から 2 軟条が不分枝

先端は臀鰭基底後端をはるかに超える.臀鰭起部

であること,背鰭前方鱗数が 30 であること,背

は背鰭第 7 軟条起部直下のやや前方に位置する.

鰭に顕著な黒色域を有すること,生時,胸鰭が一

胸鰭は上から 2 軟条が不分枝で,第 1 軟条は極め

様に紫紺色であることなどの特徴において,Parin

て短く,痕跡的.背鰭は第 3 軟条が最長.背鰭基

(1999) や藍澤・土居内(2013)などが報告した

底後端は臀鰭最後軟条基底後端直上に位置する.

Cypselurus spilonotopterus の標徴とよく一致した.

尾鰭は湾入し,下葉は上葉より明らかに長い.

日本産の同属他種とは,胸鰭が一様に紫紺色であ

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は黒色.体側上

ること,胸鰭の上から 2 軟条が不分枝であること,

部は青色で,体側中部から腹面にかけては一様に

背鰭に顕著な黒色域がないこと,背鰭前方鱗数が

銀色で,無数の小黒斑が散在する.胸鰭鰭条は透

29–34 であることから識別される(藍澤・土居内,

明で,胸鰭の鰭膜は紫紺色.背鰭は淡い黄褐色で,

2013).また,本標本の計数値および計測値は,

第 3 軟条から第 8 軟条にかけての上縁付近のみ黒

与論島から採集され,本研究で比較を行った標本

色.腹鰭は一様に黄色がかかった黒色.臀鰭鰭条

の値と近似するが,腹鰭長の体長に占める割合が

は透明で,鰭膜は黒色.尾鰭の鰭条は白色.尾鰭

極端に大きい.この相違は与論島産の標本の体長

鰭膜は一様に透明であるが,上葉先端部と基底部

が 250.0 mm で あ る の に 対 し, 本 標 本 の 体 長 が

近辺,下葉は黒色がかる.固定後の色彩 ― 胸鰭

89.3 mm と小さいこと,また,本種の幼魚は成魚

は一様に黒色に,体背面は暗い褐色になる.

と比して腹鰭の体長に対する割合が大きいことが

分布 インド・太平洋の熱帯域に広く分布す

知られる(今井,1959)ことから,成長に伴う体

る(Parin, 1995, 1999; Seeto and Baldwin, 2010;

各部の相対値変化によるものであると考えられ

26


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

る.

ま,本原稿に対し適切な助言をくださった原口百

チャバネトビウオの鹿児島県内之浦湾での採

合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館

集記録は,本種の鹿児島県本土からの初記録とな

ボランティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究

る.

室の皆さまには謹んで感謝の意を表する.比較標

比較標本 チャバネトビウオ Cypselurus spilo-

本は日本学術振興会の「若手研究者インターナ

notopterus:KAUM–I. 55069, 体 長 250.0 mm, 鹿

ショナル・トレーニング・プログラム」によるタ

児 島 県 大 島 郡 与 論 町 茶 花 港 沖(31°03′07″N,

イ,マレーシアの魚類相調査の過程で採集された.

128°24′26″E),水深 15 m,2013 年 6 月 30 日,追

本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島

い込み漁,T. Trnski, C. Struthers, J. Leis, D. Bray, M.

県産魚類の多様性調査プロジェクト」の一環とし

Gomon, O. Gon,吉田朋弘,田代郷国.

て 行 わ れ た. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費 (19770067,23580259,24370041, 26241027,

 謝辞

26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南

本報告を取りまとめるにあたり,魚類調査に

アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー

協力して下さった内之浦漁業協同組合のみなさ

ク構築」,JSPS 若手研究者インターナショナル・

Table 1. Counts and proportional measurements of Cypselurus spilonotopterus from Kagoshima Prefecture, Japan.  

Standard length (SL; mm) Counts Unbranched dorsal fin rays Branched dorsal fin rays Unbranched anal fin rays Branched anal fin rays Unbranched pectoral fin rays Branched pectoral fin rays Unbranched pelvic fin rays Branched pelvic fin rays Caudal fin rays Predorsal scales Transverse scales Gill rakers Measurement (% SL) Preanal length Predorsal length Prepelvic length Ventrocaudal distance Head length Postorbital length Horizontal diameter of the orbit Snout length Interorbital space (bony) Head depth Maximum body depth Caudal peduncle depth Body width above the bases of pectoral fins Dorsocaudal distance Length of pectoral fin Length of 1st ray of pectoral fin Length of 2nd ray of pectoral fin Pelvic fin length Length of the longest ray of dorsal fin Depth of anal fin Dorsal fin base length Anal fin base length

Uchinoura, Kagoshima Prefecture, Japan KAUM–I. 56768 89.3

Yoron Island, Kagoshima Prefecture, Japan KAUM–I. 55069 250.0

1 11 1 7 2 14 1 6 17 30 8 7 + 18

1 12 1 9 2 13 1 6 17 29 8 6 + 18

78.1 68.9 56.0 43.4 23.4 9.8 10.0 5.2 8.6 17.0 18.3 7.5 14.6 33.0 65.2 3.2 35.7 40.4 12.7 9.7 19.1 9.1

77.9 70.0 58.0 42.8 24.8 11.1 7.0 6.8 7.8 15.2 17.3 7.3 12.0 28.9 68.2 2.4 42.5 27.3 11.7 broken 18.4 12.1

 

27


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

トレーニング・プログラム「熱帯域における生物 資源の多様性保全のための国際教育プログラム」, 総合地球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけ るエリアケイパビリティーの向上プロジェクト」, 国立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポッ トの構造に関する研究プロジェクト」の援助を受 けた.  引用文献 藍 澤 正 宏・ 土 居 内  龍.2013. ト ビ ウ オ 科.pp. 655–664, 1928–1933.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. B l e e k e r, P. 1 8 6 5 . S u r l e s e s p è c e s d ’ E x o c e t d e l ’ I n d e Archipélagique. Nederlandsch Tijdschrift voor de Dierkunde, 3: 105–129. Dyer, B. S. and M. W. Westneat. 2010. Taxonomy and biogeography of the coastal fishes of Juan Fernández Archipelago and Desventuradas Islands, Chile. Revista de Biología Marina y Oceanografica, 45 (S1): 589–617. 今井貞彦.1959.日本近海産トビウオ類生活史の研究 I.鹿 児島大学水産学部紀要,7: 1–85. 加藤憲司.2011.小笠原諸島海域で採集されたトビウオ科 魚類の外部形態による簡易種判別法.東京都水産海洋 研究報告,5: 17–32. 加藤憲司・川辺勝俊・岡村陽一・木村ジョンソン.2008. 小笠原海域におけるトビウオ科魚類の生態と漁業.東 京都水産海洋研究報告,2: 1–27. 加藤憲司・小埜田 明・前田洋志・川辺勝俊.2006.沖ノ 鳥島周辺海域で採集されたトビウオ科魚類に関する漁 業生物学的知見.東京都水産海洋研究報告,1: 65–71.

28

RESEARCH ARTICLES McCosker, J. E. and R. H. Rosenblatt. 2010. The fishes of the Galápagos Archipelago: an update. Proceedings of the California Academy of Sciences (Series 4), 61 (11): 167–195. 中村麻理子.2014.チャバネトビウオ.P. 79.本村浩之・ 松浦啓一(編).奄美群島最南端の島 与論島の魚類. 鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館, つくば. Parin, N. V. 1995. Exocoetidae. Pages 1091–1103 in W. Fischer, F. Krupp, W. Schneider, C. Sommer, K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. Guía FAO para la identificación para los fines de la pesca. Pacifico centro-oriental. Volumen II. Vertebrados. FAO, Rome. Parin, N. V. 1999. Family Exocoetidae. Pages 2162–2178 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Volume 4. Bony fishes part 2 (Mugillidae to Carangidae). FAO, Rome. Parin, N. V. and T. N. Belyanina. 2002. A review of flyingfishes of the subgenus Danichthys (genus Hirundichthys, Exocoetidae). Journal of Ichthylogy, v. 42 (Suppl. 1): S23–S24. Seeto, J. and W. J. Baldwin. 2010. A checklist of the fishes of Fiji and a bibliography of Fijian fish. Division of Marine Studies Technical Report 1/2010. The University of the South Pacific, Suva. 102 pp. 立石章治.2010.200 カイリ水域内漁業資源総合調査 ―III(ト ビウオ資源動向調査).Pp. 33–40.鹿児島県水産技術開 発センター(編).平成 21 年度鹿児島県水産技術開発 センター事業報告書.鹿児島県水産技術開発センター, 指宿. 吉野哲夫・西島信昇・篠原士郎.1975.琉球列島産魚類目録. 琉球大学理工学部紀要,理学編,20: 61–118.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

メバル科ホウズキ Hozukius emblemarius の 奄美群島とトカラ列島からの記録 松沼瑞樹・本村浩之 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに 2011 年から 2014 年にかけて,鹿児島市中央卸 売市場魚類市場にて奄美諸島とトカラ列島海域で 漁 獲 さ れ た 3 個 体 の ホ ウ ズ キ Hozukius emblemarius (Jordan and Starks, 1904)(メバル科)が 採集された.これまで本種は青森県から九州,お よび九州 ‐ パラオ海嶺と東シナ海から記録され ていた(中坊・甲斐,2014).したがって,奄美 群島とトカラ列島産の標本を記載し,この海域か らの本種の初記録として報告する.  材料と方法 計数と計測は Kai and Nakabo (2004) にしたがっ た.頭部の棘の名称は尼岡(1984)にしたがった. 標準体長(Standard length)は体長あるいは SL と 表記した.標本の作製,登録,撮影,固定方法は 本 村(2009) と Motomura and Ishikawa (2013) に したがった.体色の記載はホルマリンン固定前に 撮影されたカラー写真(Fig. 1)に基づく.色彩 の表記は財団法人日本色彩研究所(2001)の系統 色名に準拠した.本報告に用いた標本は鹿児島大 学総合研究博物館(KAUM)に登録・保管された.  結果と考察 Hozukius emblemarius (Jordan and Starks, 1904) ホウズキ (Fig. 1, Table 1)     Matsunuma, M. and H. Motomura. 2014. First records of Hozukius emblemarius (Sebastidae) from the Amami and Tokara islands, Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 29–33. MM: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: k1139853@ kadai.jp).

標本 KAUM–I. 37252, 体長 238.0 mm,鹿児島 県 奄 美 大 島 沖, 釣 り,2011 年 4 月 16 日; KAUM–I. 54894,体長 157.1 mm,鹿児島県トカ ラ 列 島 口 之 島 沖, 釣 り,2013 年 6 月 12 日; KAUM–I. 58299,体長 457.0 mm,鹿児島県トカ ラ列島横当島から悪石島近海,水深 100–200 m, 延縄,2014 年 1 月 9 日(標本はすべて鹿児島市 中央卸売市場魚類市場で購入). 記載 標本の計測値は Table 1 に示した.背鰭 鰭条数 XII, 12;臀鰭鰭条数 III, 5–6;胸鰭鰭条数 18–19(上部不分枝鰭条 1 +分枝鰭条 8 +下部不 分 枝 鰭 条 9–10); 腹 鰭 鰭 条 I, 5; 有 孔 側 線 鱗 数 27–28;鰓耙数 7 + 16–17. 体は側面からみて楕円形で,後方にむかって よく側偏する;頭部は大きく,頭長は体長の 2.3– 2.5 倍.体と頭部は櫛鱗で被われる;頭部は吻膨 状部の前面と上下の唇を除いて,吻,眼下域およ び下顎を含む全体が被鱗する;背鰭と臀鰭の基部 は小鱗で被われる.眼は大きく,眼径は頭長の 2.8–3.4 倍.口は大きく,主上顎骨の後端は,眼 の中心を通る垂線をわずかにこえる.前鼻孔は皮 質の短い管をともない,その後方は延長し短い皮 弁を形成する.鼻棘は 1 本.眼前棘は 1 本.眼上 棘は 1–2 本.眼後棘は 1–2 本.体長 157.1 mm の 個体(KAUM–I. 54894)は発達したそれぞれ 1 対 の額棘と耳棘をもつ;体長 238.0 mm 以上の 2 個 体では痕跡的であるか完全に欠く.体長 157.1 mm の個体(KAUM–I. 54894)は,1 棘をともな う発達した頭頂骨隆起をもち,隆起は 1 本の頸棘 の基部と完全に癒合する;体長 238.0 mm 以上の 2 個体では,痕跡的な頭頂骨隆起をもつのみで棘 を欠く.涙骨下縁に 4 本の棘があり,そのうち湾 入部よりも前方の棘は 2–3 棘,後方の棘は 1–2 棘.

29


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimens of Hozukius emblemarius from Kagoshima Prefecture, southern Japan. A. KAUM窶的. 54894, 157.1 mm SL, off Kuchino-shima island, Tokara Islands (coloration somewhat faded out); B. KAUM窶的. 37252, 238.0 mm SL, off Amami-oshima island, Amami Islands; C. KAUM窶的. 58299, 457.0 mm SL, off Yokoatari-jima to Akuseki-jima islands, Tokara Islands.

30


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

涙骨側面に 1–2 本の棘をともなう隆起がある.眼

い赤から明るい黄み赤で,腹部はやや白みをおび

下骨棘は 2 本で,前方の棘は眼の中心よりもやや

る. 小 型 の 個 体(KAUM–I. 54894, 体 長 157.1

後方に,後方の棘は眼下骨隆起の後端に位置する.

mm;KAUM–I. 37252,体長 238.0 mm;Fig. 1A–B)

前鰓蓋骨棘は 5 本.主鰓蓋棘は 2 本.上後側頭棘

では白みをおびる部位が全身にまばらにある(た

は 1 本.上擬鎖骨棘は 2 本.両顎,鋤骨,口蓋骨

だし KAUM–I. 54894 は撮影前にやや退色してい

に絨毛状歯からなる歯帯がある.背鰭棘は第 4–5

る).

棘が最長で,第 1 棘が最短;背鰭軟条は第 2–3 軟

備考 調査標本は,背鰭棘が 12 本,吻・主上

条が最長.第 1 臀鰭棘基部は第 1 背鰭軟条基部の

顎骨・下顎が被鱗する,胸鰭の後縁全体が丸い,

直下に位置する;第 2 臀鰭棘と第 3 臀鰭棘はほぼ

尾鰭の後縁が截形,眼窩下部に棘があるなどの特

同じ長さ;臀鰭軟条は第 1 軟条が最長.胸鰭は大

徴を有し,これらの特徴は中坊・甲斐(2013)で

きく,後縁は丸い;第 8–10 鰭条が最長で,体長

示されたホウズキ Hozukius emblemarius の特徴と

238.0 mm 以下の個体ではその先端が肛門に達す

一致するため,本種に同定された.

る(体長 457.0 mm の個体では背鰭第 9 棘基部直

調査標本のうち最も小型の KAUM–I. 54894(体

下に達する程度で肛門には達さない).腹鰭棘基

長 157.1 mm)は,発達した額棘,耳棘,頭頂棘

部は背鰭第 3 棘基部の直下に位置する;第 1 軟条

および頸棘をもつが,大型個体はこれらの棘が痕

が最長で,その先端は肛門に達さない.尾鰭は截

跡的か完全に欠いていた.この差異は成長に伴う

形で,後縁中央部はやや膨らみ,両葉の角は丸み

変異とみなした.また,体各部のうち体高,吻長,

をおびる.

眼径,尾鰭を除く鰭条の長さが成長に伴って体長

生鮮時の色彩 頭部と体,各鰭は一様に明る

に対して短くなる傾向が認められた(Table 1).

Table 1. Morphometrics, expressed as percentages of standard length, of Hozukius emblemarius from Kagoshima Prefecture, southern Japan. KAUM–I. 54894 37252 58299 Locality Tokara Islands Amami Islands Tokara Islands SL (mm) 157.1 238.0 457.0 Body depth (% SL) 41.8 39.9 37.2 Body width 21.6 21.3 21.9 Head length 43.5 44.3 40.4 Snout length 12.4 11.4 9.7 Orbit diameter 15.5 13.9 11.8 Interorbital width 6.9 7.2 5.4 Lacrimal width 2.8 2.9 3.4 Upper-jaw length 21.6 21.0 18.8 Pre-dorsal-fin length 42.7 41.6 36.9 1st dorsal-fin spine length 7.8 5.0 — 2nd dorsal-fin spine length 13.7 9.7 8.9 3rd dorsal-fin spine length 18.0 13.9 11.8 16.5 L 12.2 4th dorsal-fin spine length 19.1 L 5th dorsal-fin spine length 17.8 15.9 13.6 L 11th dorsal-fin spine length 9.9 9.6 5.9 12th dorsal-fin spine length 13.2 11.4 7.3 Longest dorsal-fin soft ray length 18.3 (2nd) 18.5 (3rd) 16.5 (2nd) 1st anal-fin spine length 9.8 7.8 5.3 2nd anal-fin spine length 19.2 16.6 11.2 3rd anal-fin spine length 18.9 17.3 13.0 Longest anal-fin soft ray length 22.3 (1st) 22.1 (1st) 18.0 (1st) Longest pectoral-fin ray length 29.4 (10th) 28.6 (9th) 26.2 (8th) Pelvic-fin spine length 16.4 16.3 12.3 Longest pelvic-fin soft ray length 22.5 (1st) 23.9 (1st) 22.6 (1st) Caudal-fin length 23.6 23.4 21.8 Caudal-peduncle depth 10.6 10.5 9.6 Caudal-peduncle length 17.4 17.4 18.0 L Longest dorsal-fin spine.

31


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

同様の成長に伴う体各部の変化は,ホウズキと同

ログラム」,総合地球環境学研究所「東南アジア

科のメバル属 Sebastes の複数種で知られる(Chen,

沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プ

1971).

ロジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様

ホウズキはこれまで青森県以南の東北地方の 太 平 洋 沿 岸( 金 山,1983; 北 川 ほ か,2008; Shinohara et al., 2009), 相 模 灘(Senou et al., 2006), 駿 河 湾(Shinohara and Matsuura, 1997), 熊野灘(小林,1986) ,高知県足摺岬沖(石田, 1997)など本州から四国の太平洋沿岸,兵庫県 (Shinohara et al., 2011)および山口県(河野ほか, 2011)の日本海沿岸,九州 ‐ パラオ海嶺(金山, 1982),およびトカラ列島西沖の東シナ海(29° 27–42′N, 128°27–32′E;東海水産研究所《東海深 海魚》編写組,1988;金,2006)から記録されて いた.したがって,本報告の調査標本は奄美諸島

性ホットスポットの構造に関する研究プロジェク ト」の援助を受けた.  引用文献 尼岡邦夫.1984.フサカサゴ科.益田 一・尼岡邦夫・荒 賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).P. 296.日本産魚 類大図鑑(解説).東海大学出版会,東京. Chen, L.-C. 1971. Systematics, variation, distribution and biology of rockfishes of the subgenus Sebastomus (Pisces, Scorpaenidae, Sebastes). Bulletin of the Scripps Institution of Oceanography of the University of California, 18: i–vi + 1–115, pls. 1–6. 東海水産研究所《東海深海魚》編写組.1988.東海深海魚. 学林出版社,上海.4 + 356 pp.

とトカラ列島近海からの本種の初記録となる.中

石田 実.1997.ホウズキ Hozukius emblemarius.岡村 収・ 尼岡邦夫(編).日本の海水魚.P. 209.山と渓谷社,東京.

坊・甲斐(2013)は本種の生息水深を 542–900 m

金 鑫波.2006.中国動物誌 硬骨魚綱 鮋形目.科学出

とし,河野ほか(2011)は山口県萩市見島沖の水 深 210 m からの採集記録を報告している.本報告 の 調 査 標 本 の う ち KAUM–I. 58299 は 水 深 100– 200 m から採集された.  謝辞 田中水産の田中 積氏,鹿児島市中央卸売市 場魚類市場と鹿児島県漁業協同組合連合会の職員 の皆様には標本の採集に協力をいただいた.京都 大学フィールド科学教育研究センターの甲斐嘉晃 氏ならびに高知大学大学院の中山直英氏には文献 の調査にご協力をいただいた.鹿児島大学総合研 究博物館の魚類分類学研究室の学生諸氏と,同博 物館ボランティアの皆様には標本の作製・登録作 業のご協力をいただいた.以上の諸氏に心よりお 礼を申し上げる.本研究は,鹿児島大学総合研究 博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェ クト」の一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点 事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育 ネットワーク構築」,JSPS 若手研究者インターナ ショナル・トレーニング・プログラム「熱帯域に おける生物資源の多様性保全のための国際教育プ

32

版会,北京.739 pp. Kai, Y. and T. Nakabo. 2004. A new species of Sebastes (Scorpaeniformes: Scorpaenidae) from the Pacific coast of southern Japan. Ichthyological Research, 51 (1): 5–9. 金山 勉.1982.フサカサゴ科.岡村 収・尼岡邦夫・三 谷文夫(編).九州‐パラオ海嶺ならびに土佐湾の魚類. Pp. 270–279, 392–397.日本水産資源保護協会,東京. 金山 勉.1983.フサカサゴ科.尼岡邦夫・仲谷一宏・新 谷久男・安井達夫(編).東北海域・北海道オホーツク 海 域 の 魚 類.Pp. 150–155, 211–213, 276–279, 335–336. 日本水産資源保護協会,東京. 河野光久・土井啓行・堀 成夫.2011.山口県日本海産魚 類目録.山口県水産研究センター研究報告,(9): 29–64. 北川大二・今村 央・後藤友明・石戸芳男・藤原邦浩・上 田祐司.2008.東北フィールド魚類図鑑 沿岸魚から 深海魚まで.東海大学出版会,秦野.140 pp. 小林 裕.1986.熊野灘海域の深海性サメ類に関する研究. 三重大学水産学部研究報告,(13): 25–133. 中 坊 徹 次・ 甲 斐 嘉 晃.2014. メ バ ル 科. 中 坊 徹 次( 編 ), 日 本 産 魚 類 検 索  全 種 の 同 定  第 3 版.Pp. 668–681, 1933–1938.東海大学出版会,秦野. 本村浩之(編).2009.魚類標本の作製と管理マニュアル. 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http:// www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Motomura, H. and S. Ishikawa (eds). 2013. Fish collection building and procedures manual. English edition. The Kagoshima University Museum, Kagoshima and the Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto. 70 pp. (http://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl_en.html) Senou, H., K. Matsuura and G. Shinohara. 2006. Checklist of fishes in the Sagami Sea with zoogeographical comments on shallow water fishes occurring along the coastlines under the influence of the Kuroshio Current. Memoirs of the National Science Museum Tokyo, (41): 389–542.


RESEARCH ARTICLES Shinohara, G. and K. Matsuura. 1997. Annotated checklist of deep-water fishes from Suruga Bay, Japan. National Museum of Nature and Science Monographs, (12): 269–318, pls. 1–2. Shinohara, G., Y. Narimatsu, T. Hattori, M. Ito, Y. Takata and K. Matsuura. 2009. Annotated checklist of deep-sea fishes from the Pacific coast off Tohoku District, Japan. National Museum of Nature and Science Monographs, (39): 685–735.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 Shinohara, G., A. M. Shirai, M. V. Nazarkin and M. Yabe. 2011. Preliminary list of the deep-sea fishes of the Sea of Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science (Ser. A), 37 (1): 35–62. 財団法人日本色彩研究所(監修).2001.改訂版 色名小事 典.日本色研事業株式会社,東京.92 pp.

33


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

34

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

屋久島から得られたハタ科魚類ヤマトトゲメギス Aporops bilinearis の分類学的再検討 1

吉田朋弘 ・本村浩之 1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–24 鹿児島大学大学院連合農学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに ハタ科 Serranidae は日本近海に 34 属 136 種が 分 布 し て お り( 岡 本 ほ か,2012;Endo and Kenmotsu, 2013;瀬能,2013, 2014),ヤマトトゲ メギス属 Aporops にはヤマトトゲメギス Aporops bilinearis Schultz, 1943 のみが含まれる. Aporops bilinearis Schultz, 1943 はフェニックス 諸島とアメリカンサモアから得られた標本に基づ き 新 種 記 載 さ れ た(Randall and Baldwin, 1997). Kamohara (1957) は喜界島産の標本 1 個体に基づ き Aporops japonicus を新種記載すると同時に,本 種に対して新標準和名ヤマトトゲメギスを提唱し た.その後,Kamohara and Yamakawa (1968) は喜 界島産の 3 標本に基づき,A. bilinearis を日本初 記録として報告し,同時に本種に対してナンヨウ トゲメギスを提唱した.その後,A. japonicus は A. bilinearis の新参異名とされ(Randall and Baldwin, 1997),現在は先に提唱された和名ヤマトトゲメ ギ ス が 標 準 和 名 と し て 扱 わ れ て い る( 瀬 能, 2000).ヤマトトゲメギス A. bilinearis は国内にお いて,南鳥島,奄美大島,喜界島,南大東島およ び石垣島に出現するとされている(瀬能,2013). 2005 年 10 月 28 日に大隅諸島屋久島一湊沖に おいて,ヤマトトゲメギス属と同定される 1 個体     Yoshida, T. and H. Motomura. 2014. Description of an unusual specimen of Aporops bilinearis Schultz, 1943 from Yaku-shima island, Kagoshima, southern Japan, and comparison with specimens from the Indo-West Pacific. Nature of Kagoshima 40: 35–41. TY: The United Graduate School of Agricultural Sciences, Kagoshima University, 1–21–24 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k5299534@kadai.jp).

が採集された.本標本は色彩や体型が典型的なヤ マトトゲメギス A. bilinearis と異なることから,A. bilinearis のタイプ標本や分布域広域から得られ た一般標本と比較検討を行った.その結果,屋久 島の標本はヤマトトゲメギスの種内変異内に含ま れることが明らかになった.この標本はヤマトト ゲメギスの分布の北限更新記録となるため,ここ に記載し,報告する.また,本種と近縁属の体側 鱗の比較を行った.  材料と方法 計数・計測方法はおおむね Randall and Baldwin (1997) にしたがった.計測は顕微鏡下でデジタル ノギスを用いて 0.1 mm 単位まで行った.標準体 長(standard length)は体長あるいは SL と表記し た.シノニムリストには原記載と日本産の標本を 用いた文献のみを提示した.ヤマトトゲメギスの 生鮮時の体色の記載は,固定前に撮影された標本 (CMNH-ZF 13858)のカラー写真に基づく.鱗の 撮影はアリザリンレッドで染色したのち,実体顕 微鏡 Nikon SMZ1200 を用いて撮影を行った.本 報告に用いた標本は,高知大学理学部海洋生物学 研究室(BSKU),千葉県立中央博物館分館・海 の博物館(CMNH),スミソニアン自然史博物館 (USNM)および横須賀市自然・人文博物館(YCM) に所蔵されている.  結果と考察 Aporops bilinearis Schultz, 1943 ヤマトトゲメギス (Figs. 1–3, 4A–B; Table 1)

35


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh (A) and preserved (B) specimen of Aporops bilinearis. CMNH–ZF 13858, 40.4 mm SL, Isso, Yaku-shima island, Kagoshima, southern Japan. Photo A by M. Aizawa.

Fig. 2. Distributional records of Aporops bilinearis. ★ specimen from Yaku-shima island; ● based on specimens examined in this study; ○ based on literature.

Aporops bilinearis Schultz, 1943: 112, fig. 9 (type locality: Hull Island, Phoenix Islands; paratypes from Phonix Islnads and American Samoa); Kamohara and Yamakawa, 1968: 4 (Kikai-jima island,Ryukyu Islands);林,1984: pl. 349, fig. B ( 喜 界 島 ); 林,1993: 637( 喜 界 島 );Randall and Baldwin, 1997: 10 (Minami-tori-shima, Kikaijima and Ishigaki-jima islands, Japan); 瀬 能,

36

2000: 731( 奄 美 大 島・ 喜 界 島 ); 吉 郷,2004: 15,pl. 2,fig. 14( 南 大 東 島 ); 吉 郷 ほ か, 2005: 14(南大東島) ;瀬能,2013: 802(南鳥島・ 奄美大島・喜界島・南大東島・石垣島). Aporops japonicus Kamohara, 1957: 21, fig. 14 (type locality: Wan, Kikai-jima island,Ryukyu Islands); 林,1984: pl. 349, fig. A(奄美大島);林,1993: 637(奄美大島).


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 3. Preserved specimens of Aporops bilinearis representing typical color pattern. A, BSKU 5425, holotype of A. japonicus, 53.0 mm SL, Japan; B, USNM 218920, 46.1 mm SL, Seychelles; C, YCM-P 29091, 68.0 mm SL, Japan; D, USNM 259081, 83.6 mm SL, Taiwan.

Fig. 4. Color photographs of stained scales of (A–B) Aporops bilinearis, (C) Pseudogramma polyacanthum and (D) Suttonia suttoni. A: CMNH–ZF 13858, 40.4 mm SL, Yaku-shima Island, Japan; B: USNM 259079, 31.9 mm SL, Papua New Guinea; C: YCM 28230, 37.0 mm SL, Japan; USNM 285959, 59.1 mm SL, Comoro Islands.

標 本 CMNH-ZF 13858, 体 長 40.4 mm, 大 隅

は第 6 側線鱗直上に位置する.胸鰭基部は背鰭第

諸 島 屋 久 島 一 湊 沖(30°27′13″N, 130°29′26″E),

2 棘基底直下に位置する.胸鰭先端は背鰭第 2 軟

2005 年 10 月 28 日,タモ網.

条基底直下に位置する.臀鰭起部は背鰭第 4 軟条

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合 を Table 1 に示した.体は細長く,やや側扁する. 吻端から背鰭起部にかけての背面は緩やかに曲が

基底直下に位置する.腹鰭は短く,その先端は背 鰭第 3 棘基底直下に位置する.尾鰭は円形. 色彩 体全体と各鰭は概ね黒色がかった茶色

る.口は大きく斜位で,口裂はわずかに斜行し,

であり,体側には不明瞭な黒色横線状の模様を有

主上顎骨後縁は眼後縁をはるかに越える.両顎は

する.前鰓蓋骨後縁に 1 白色斑を有し,その後方

絨毛状歯帯を有し,歯帯の幅は前方が広く,後方

の主鰓蓋骨上に 2 黒色小斑が並ぶ.

は狭い.上顎の歯帯前端に,細長い円錐歯が右側

分布 本種はインド・太平洋に広く分布する

に 4 本,左側に 2 本ある.鋤骨と口蓋骨に絨毛状

(Randall and Baldwin, 1997;本研究:Fig. 2).日

歯帯がある.前鼻孔は短い管を有し,その先端が

本では南鳥島(Randall and Baldwin, 1997;瀬能,

開孔する.後鼻孔は孔状で,眼前縁近くに開孔す

2013), 屋 久 島( 本 研 究 ), 奄 美 大 島( 瀬 能,

る.前鰓蓋骨の縁辺は円滑.前鰓蓋骨後縁に 1 本

2000, 2013; 本 研 究 ) , 喜 界 島(Kamohara, 1957;

の太い棘があり,上向きに突き出る.側線は 2 本.

Kamohara and Yamakawa, 1968; Randall and

前方側線は鰓蓋上方から背鰭第 3 棘基底直下にか

Baldwin, 1997;瀬能,2000, 2013),南大東島(吉

けて曲線をなすように上昇し,背鰭軟条基底部中

郷,2004;吉郷ほか,2005;瀬能,2013)および

央下にかけて緩やかに下降する.後方側線は背鰭

石垣島(Randall and Baldwin, 1997;瀬能,2013)

軟条基底部後方下から体軸上にはしる.背鰭起部

から確認された.

37


38

Standard length (SL, mm) Counts Dorsal-fin rays Anal-fin rays Pectoral-fin rays Principal caudal rays Anterior lateral-line scales Posterior lateral-line scales Longitudinal scale series Gill rakers (upper + lower = total) Measurement (% SL) Body depth Body width Head length Snout length Orbit diameter Interorbital width Upper-jaw length Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle length Pre-dorsal-fin length Pre-anal-fin length Pre-pelvic-fin length Dorsal-fin base First dorsal-fin spine length Last dorsal-fin spine length Longest dorsal-fin soft ray length Anal-fin base First anal-fin spine length Second anal-fin spine length Third anal-fin spine length Longest anal-fin soft ray length Caudal-fin length Pectoral-fin length Pelvic-fin length VII, 23–24 III, 19–20 16 17 32–35 13–26 53–56 5–6 + 11–13 = 16–19 27.5–30.6 14.2–19.7 36.9–39.3 5.8–7.6 7.4–8.5 3.0–3.7 15.8–19.5 11.9–13.5 7.5–10.9 39.7–43.0 59.6–68.1 29.2–32.3 54.5–60.5 3.1–4.2 4.3–5.5 10.6–13.7 28.6–34.5 2.0–2.8 3.4–5.2 2.0–2.8 9.0–13.2 16.5–20.6 19.6–23.3 10.0–13.4

VII, 23 III, 20 16 17 33 16 56 6 + 13 = 19 27.0 15.0 37.6 7.2 7.7 3.2 17.5 12.2 8.4 38.6 63.9 32.4 59.0 3.4 5.9 13.1 29.7 2.1 4.7 2.2 12.5 19.9 23.2 11.1

26.8–34.0 14.7–20.7 37.0–43.4 6.1–10.3 6.8–9.1 2.3–4.1 16.9–21.0 10.4–13.1 7.0–12.4 38.4–43.3 59.9–70.0 28.6–36.8 50.4–62.1 2.7–5.1 3.1–5.7 9.6–16.8 24.1–34.1 1.4–3.0 3.0–5.3 1.5–3.1 10.1–15.7 16.3–21.0 19.2–25.4 9.4–14.4

VII, 21–24 III, 18–21 16 17 30–37 16–32 51–60 5–6 + 11–13 = 16–19

Non-types Indo-West Pacific n = 43 31.9–95.5

Aporops bilinearis Paratypes Western Pacific n=7 26.0–58.0

Non-types Yaku-shima island CMNH-ZF 13858 40.4

Table 1. Counts and proportional measurements of Aporops bilinearis.

27.9 16.9 36.8 6.2 7.6 3.4 18.4 12.0 8.5 42.3 69.2 35.8 54.0 2.4 3.6 12.0 26.8 1.7 3.6 1.8 11.1 17.5 20.3 11.6

VII, 22 III, 19 16 17 32 20 52 5 + 11 = 16

Holotype of A. japonicus Kikai-jima island BSKU 5425 53.0 mode VII, 23 III, 20 16 17 33 22 55 5 +12 = 17 means 30.0 18.1 38.9 7.6 7.9 3.2 18.8 12.0 9.4 40.6 65.3 32.4 56.5 3.6 4.4 13.3 29.7 2.2 4.0 2.1 13.1 18.6 21.7 11.7

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

林(1984, 1993) は A. japonicus の 日 本 に お け

基づき,ヤマトトゲメギス属をハタ科のヌノサラ

る分布を奄美大島とした.林(1984)の pl. 349,

シ亜科に含めることが妥当であると判断した.多

fig. A に使用された標本は,尾鰭鰭膜中央が一部

くの研究者がこの見解にしたがい,現在も本属は

損傷していること,口が開いて固定されているこ

ハタ科として扱われている(Randall and Baldwin,

と な ど の 特 徴 か ら, 本 研 究 で 調 査 し た 1 標 本

1997;瀬能,2013).

(BSKU 5425; Fig. 3A)と同一個体であることが分

Randall and Baldwin(1997)は本種を含めた包

かった.さらに林(1993)の A. japonicus の図は,

括 的 な 分 類 学 的 研 究 を 行 い,A. allfreei と A.

口 が 閉 じ ら れ て 描 か れ て い る が, 前 述 の 標 本

japonicus の両名義種を A. bilinearis の新参異名と

(BSKU 5425)と体側の黒色斑のパターンが似て

判断し,A. bilinearis のみを有効種とした.本研

いるため,同標本を参考にしたと推測される.

究で A. japonicus のタイプ標本を調査したところ,

BSKU 5425 の産地は喜界島であることから,上

各特徴および計数・計測値が A. bilinearis の範囲

記の奄美大島という記述は誤りであり,林(1984,

内であることが再確認された.したがって,本研

1993)における本種の分布は喜界島が正しいと思

究 で も Randall and Baldwin (1997) の A. bilinearis

われる.一方,A. bilinearis の分布は喜界島のみ

が A. japonicus の古参異名という見解を支持する.

で あ る( 林,1984, 1993). そ の 後,A. japonicus

屋久島から採集された 1 標本は,側線が 2 本

は A. bilinearis の 新 参 異 名 と さ れ(Randall and

あること,眼隔域に感覚管孔がないこと,および

Baldwin, 1997),ヤマトトゲメギスの日本におけ

前鰓蓋骨棘が太く上向きに尖っていることからヤ

る分布は,奄美大島と喜界島とされた(瀬能,

マトトゲメギス A. bilinearis と同定された.本種

2000).瀬能(2000)は奄美大島から採集された

の体側には通常横長の黒色斑が散在する(Fig. 3)

ヤマトトゲメギスの標本あるいは水中写真を観察

が,屋久島産の標本は体側に不明瞭な黒色横帯を

し て 本 種 の 分 布 に 奄 美 大 島 を 加 え た の か, 林

有する(Fig. 1).体色の地色は固定状況などで濃

(1984, 1993)を引用したのかは不明である.しか

淡が生じるが,体側の模様は通常明瞭に発現する.

しながら,本研究で奄美大島産の標本(YCM-P

しかしながら,屋久島産の標本は体側の模様が薄

29091,体長 68.0 mm,奄美大島瀬戸内町浜崎;

い.同様に体側の模様が薄い個体として,セイシェ

Fig. 3C)が確認されたため,ヤマトトゲメギスが

ル か ら 得 ら れ た 1 標 本(USNM 218920, 体 長

奄美大島に生息することは間違いない.

50.1 mm)が確認された.また,屋久島産標本の

備 考 Aporops bilinearis Schultz, 1943 は フ ェ

主鰓蓋骨上の明瞭な 2 黒色斑は(Fig. 1),本研究

ニックス諸島とアメリカンサモア産の標本 17 個

で調査した他の標本では確認されなかったが,個

体に基づきメギス科として新種記載された.その

体変異であると判断した.

後,Smith (1953) はペンバ島産の標本 2 個体に基

ヤマトトゲメギスを同定する上で重要な形質

づき Aporops allfreei を新種記載するとともに,A.

として、前鰓蓋骨棘の他に体側鱗の露出部に分布

bilinearis を含めた両種をトゲメギス科として扱っ

する小棘の形態が評価されている(Smith, 1953;

た.続いて,Kamohara (1957) は喜界島産の標本

Randall and Baldwin, 1997).ヤマトトゲメギスと

1 個体(Fig. 3A)に基づき Aporops japonicus をト

ト ゲ メ ギ ス Pseudogramma polyacantha (Bleeker,

ゲメギス科の新種として記載した.この時点では

1856) は体側鱗の露出部に多数の小棘があり,鱗

ヤマトトゲメギス属には上記の 3 種が含まれ,ト

の後方に位置する小棘の先端が鱗の後縁を越える

ゲメギス科として扱われていたことになる.その

(Figs. 4A–C)ことに対し,Suttonia suttoni Smith,

後,Gosline (1960) はヤマトトゲメギス属が前鰓

1953 では少数の小棘があり,その先端は体側鱗

蓋骨棘をもつこと,側線が不完全であることから,

の後縁に達しないことで異なる(Fig. 4D).さら

本属をヌノサラシ科に含めた.さらに,Kendall

に,ヤマトトゲメギスは小棘の数が少ない(Figs.

(1976) は上神経棘と担鰭骨に関する骨学的研究に

4A–B)ことに対し,トゲメギスでは小棘の数が

39


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

多い(Fig. 4C)傾向があることが示唆された.本

te;USNM 259081,4 個 体, 体 長 66.8–95.5 mm,

研究における各種の鱗の観察数は僅かであるた

台湾,水深 5–6 m,1968 年 4 月 24 日,V. Springer

め,鱗の露出部にある小棘数が成長段階で変化す

ほ か;USNM 259085,2 個 体, 体 長 63.1–72.5

る可能性や種内変異がある可能性もある.これら

mm,台湾(21°55′15″N, 120°49′45″E),水深 0–6 m,

を明らかにするためには今後,追加標本を得て比

1968 年 5 月 8 日,V. Springer・J. Choat; USNM

較検討を行う必要がある.

324729,体長 47.7 mm,フィリピン,バブヤン諸

ヤマトトゲメギスは屋久島で採集された 1 個 体によって,従来の報告より約 250 km 北限を更 新したことになる.

島, 水 深 1.4 m,1990 年 3 月 8 日,C. Ross・V. Samarita;USNM 338450,体長 76.8 mm,トンガ (18°44′31″S, 174°06′36″W), 水 深 0.3–12.3 m,

比較標本 ヤマトトゲメギス Aporops bilinearis (51 個 体, 体 長 26.0–95.5 mm):BSKU 5425,A. japonicus のホロタイプ,体長 53.0 mm,奄美群島 喜界島喜界町湾,1956 年 3 月;USNM 115338,A.

1993 年 11 月 17 日,J. T. Williams ほ か;YCM-P 29091,体長 68.0 mm,奄美大島瀬戸内町浜崎, 1998 年 8 月 29 日. トゲメギス Pseudogramma polyacantha(1 個体,

bilinearis の パ ラ タ イ プ,4 個 体, 体 長 29.5–46.1

体長 37.0 mm):YCM-P 28230,体長 37.0 mm,奄

mm,アメリカンサモア,ローズ島(14°32′52″S,

美大島瀬戸内町西古見,1997 年 12 月 17 日,横

168°08′34″W),1939 年 1 月 11–14 日,L. Schultz;

山貞夫.

USNM 115339,A. bilinearis のパラタイプ,3 個体,

Suttonia suttoni(1 個体,体長 59.1 mm) :USNM

体長 26.0–58.0 mm,キリバス,エンダーベリー

324729,体長 47.7 mm,コモロ諸島,グランドコ

島(03°08′30″S, 171°05′34″W),1939 年 5 月 15–19

モ ロ 島(11°41′33″S, 43°14′27″E), 水 深 0–9.6 m,

日,L. Schultz;USNM 140715,9 個 体, 体 長

1964 年 11 月 27 日,H. A. Fehlmann.

44.0–84.5 mm, マ ー シ ャ ル 諸 島, 水 深 0–3 m, 1947 年 7 月 21 日,L. Schultz ほ

か;USNM

 謝辞

218920,10 個体,体長 46.1–79.5 mm,セイシェル,

本報告を取りまとめるにあたり,標本の入手・

アミランテ諸島 (05°24′S, 53°13′E) , 水深 3.6–7.6 m,

調査にご協力を頂いた高知大学の遠藤広光博士,

1964 年 12 月 8 日;USNM 242127, 体 長 63.7

スミソニアン自然史博物館の J. William 博士,横

mm, フ ィ ジ ー, ト ト ヤ 島(18°58′57″S, 179°52′

須賀市自然・人文博物館の萩原清司氏,宮内庁の

12″W), 水 深 0–14 m,1982 年 4 月 27 日,V.

藍澤正宏氏,鱗の写真撮影にご協力を頂いた鹿児

Springer ほ か;USNM 259040,2 個 体, 体 長

島大学水産学部の小針 統博士,軟 X 線写真の

38.0–55.1 mm,スリランカ,セイロン島,水深

撮影にご協力を頂いた同大学総合研究博物館の橋

5–6 m,1970 年 2 月 15 日,C. Koenig;USNM

本達也氏,適切な助言を下さった原口百合子氏を

259074,3 個体,体長 43.8–51.7 mm,コモロ諸島,

はじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラン

マヨット島(12°53′24″S, 45°16′05″E),水深 0–6 m,

ティアと同博物館魚類分類学研究室のみなさまに

1964 年 11 月 26 日,H. Fehlmann ほ か;USNM

は謹んで感謝の意を表する.本研究で使用された

259077, 体 長 73.0 mm, チ ャ ゴ ス 諸 島(07°15′

一部のデータは元鹿児島大学水産学部の中村千愛

43″S, 72°22′36″E),水深 0–2 m,1967 年 6 月 18 日,

氏によって計測された.本研究は鹿児島大学総合

H. Fehlmann ほ か;USNM 259078,4 個 体, 体 長

研究博物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロ

65.6–80.3 mm,マダガスカル(16°21′S, 43°59′E),

ジェクト」の一環として行われた.本研究の一部

水 深 5 m,1964 年 10 月 16 日,L. Knapp ほ か;

は JSPS 科研費(19770067,23580259,24370041,

USNM 259079,5 個体,体長 31.9–41.7 mm,パプ

26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点

アニューギニア,トロブリアンド諸島,キリウィ

事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育

ナ 島, 水 深 0–4 m,1970 年 6 月 17 日,B. Colle-

ネットワーク構築」,JSPS 若手研究者インターナ

40


RESEARCH ARTICLES

ショナル・トレーニング・プログラム「熱帯域に おける生物資源の多様性保全のための国際教育プ ログラム」,総合地球環境学研究所「東南アジア 沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プ ロジェクト」,および国立科学博物館「日本の生 物多様性ホットスポットの構造に関する研究プロ ジェクト」の援助を受けた.  引用文献 Endo, H. and K. Kenmotsu. 2013. Suttonia coccinea, a new grammistin fish from Japan (Acanthopterygii: Serranidae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A (Zoology), Supplement 7: 11–18. Gosline, W. A. 1960. A new Hawaiian percoid fish, Suttonia lineata, with a discussion of its relationships and a definition of the family Grammistidae. Pacific Science, 14: 28–38. 林 公義.1984.トゲメギス科.益田  一・尼岡邦夫・荒 賀 忠 一・ 上 野 輝 彌・ 吉 野 哲 夫( 編 ),pp. 136–137, pl. 349.日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京. 林 公義.1993.トゲメギス科.中坊徹次(編),pp. 637, 1313.日本産魚類検索 全種の同定.東海大出版会, 東京. Kamohara, T. 1957. List of fishes from Amami-Oshima and adjacent regions, Kagoshima Prefecture, Japan. Reports of the Usa Marine Biological Station, 4 (1): 1–65. Kamohara, T. and T. Yamakawa. 1968. Additional records of marine fishes from Amami (ІІ). Reports of the Usa Marine Biological Station, 15 (2): 1–17.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 岡本 誠・星野浩一・木暮陽一.2012.東シナ海から採集 された日本初記録のハナダイ亜科魚類ミズホハナダ イ(新称)Plectranthias elongatus.魚類学雑誌,59 (1): 55–60. Randall, J. E. and C. C. Baldwin. 1997. Revision of the serranid fishes of the subtribe Pseudogrammina, with descriptions of five new species. Indo-Pacific Fishes, 26: 1–56, pl. 1. Schultz, L. P. 1943. Fishes of the Phoenix and Samoan Islands collected in 1939 during the expedition of the U. S. S. “Bushnell”. Bulletin of the United States National Museum, 180: i–x + 1–316. 瀬 能  宏.2000. ハ タ 科. 中 坊 徹 次( 編 ),pp. 690–731, 1539–1547.日本産魚類検索 全種の同定,第二版.東 海大出版会,東京. 瀬 能  宏.2013. ハ タ 科. 中 坊 徹 次( 編 ),pp. 757–802, 1960–1971.日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東 海大学出版会,秦野. 瀬能 宏.2014.フジナハナダイ.本村浩之・松浦啓一(編), pp. 160–161.奄美群島最南端の島 与論島の魚類.鹿 児島大学総合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館, つくば. Smith, J. L. B. 1953. The fishes of the family Pseudogrammidae from East Africa. Annals and Magazine of Natural History, Series 12, 16 (67): 548–560. 吉郷英範.2004.南大東島で採集されたタイドプールと浅 い潮下帯の魚類.比和科学博物館研報,43: 1–51,pls. 1–10. 吉郷英範・市川真幸・中村慎吾.2005.比和町立自然科学 博物館魚類収蔵目録(IV).比和町立科学博物館標本資 料報告,5: 1–51,pl. 1.

Kendall, A. W., Jr. 1976. Predorsal and associated bones in serranid and grammistid fishes. Bulletin of Marine Science, 26 (4): 585–592.

41


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

42

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

キントキダイ科キビレキントキ Priacanthus zaiserae の 奄美大島からの記録 1

ジョン ビョル ・本村浩之 1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科) 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに キントキダイ科魚類はインド・太平洋と大西 洋に広く分布するスズキ目魚類である.本科魚類 は, 従 来 世 界 で 4 属 18 種 が 知 ら れ て い た が (Starnes, 1988),Pristigenys niphonia (Cuvier, 1829) の新参異名とされていた P. refulgens (Valenciennes, 1862) が Iwatsuki et al. (2012) によって有効種とさ れたため,現在は 4 属 19 種が有効種とされている. 一方,日本からは 4 属 11 種が知られている(林, 2013).本科魚類は体が側扁し,体高が比較的高 く鶏卵形または長楕円形,眼と口が大きい,体が 櫛鱗で覆われる,背鰭が 1 基,背鰭棘が 10 本, 臀鰭棘が 3 本,腹鰭と腹部が膜で繋がる,および 生時の色彩が明るい赤色であることなどによって 特徴付けられる(Starnes, 1988). キビレキントキ Priacanthus zaiserae Starnes and Moyer, 1988 は,これまでに伊豆諸島(三宅島), 神奈川県以南の太平洋沿岸,沖縄本島,尖閣諸島, 東シナ海から記録されていた.2013 年 12 月 9 日 に奄美大島にて,キビレキントキと同定される 2 個体が採集された.これらは奄美群島におけるキ ビレキントキの標本に基づく初めての記録となる ため、ここに記載し,報告する.  材料と方法 標本の計数・計測方法は Hubbs and Lagler (1947)     Jeong, B. and H. Motomura. 2014. First records of Priacanthus zaiserae (Perciformes: Priacanthidae) from Amami-oshima island, Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 40: 43–46. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

と Starnes (1988) にしたがった.計測はデジタル ノギスを用いて 0.1 mm 単位まで行い,計測値は 体長に対する百分率で示した.標準体長(standard length)は体長(SL)と表記した.生鮮時の体色 の 記 載 は,KAUM–I. 57884 と 57885 の 生 鮮 時 の カラー写真に基づく.比較で用いた計数・計測値 は Starnes (1988) に 基 づ く. 標 本 の 作 製, 登 録, 撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.本報 告で用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館 (KAUM: Kagoshima University Museum)に保管さ れ て お り,KAUM–I. 57884 と 57885 の カ ラ ー 写 真は同館の画像データベースに登録されている.  結果と考察 Priacanthus zaiserae Starnes and Moyer, 1988 キビレキントキ (Figs. 1–2; Table 1) 標本 KAUM–I. 57884, 体長 155.8 mm,KAUM –I. 57885,体長 170.2 mm,鹿児島県大島郡瀬戸 内町,2013 年 12 月 9 日,萩原清司・本村浩之・ 中江雅典・千葉 悟・目黒昌利・吉田朋弘・田代 郷国・横山貞夫. 記載 計数値を体各部の体長に対する割合を Table 1 に示した.体は長だ円形で,側扁する. 躯幹部の体高は一定であるが尾柄部から急に低く なる.吻端から背鰭起点までの背中線はなだらか. 眼は頭部の背方にあり,大きい.口は大きく,下 顎が上顎より突出する.上顎後端は眼の前半直下 に達する.両顎,鋤骨,口蓋骨には尖った小さい 円錐形の歯がある.鰓耙はよく発達する.前鰓蓋 骨隅角部には 1 後向棘があり,その先端は鰓蓋骨 後縁に達しない.鰓膜は峡部と分離する.背鰭棘

43


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Priacanthus zaiserae (KAUM–I. 57884, 155.8 mm SL, Amami-oshima island, Kagoshima, Japan).

Fig. 2. Preserved specimen of Priacanthus zaiserae (KAUM–I. 57885, 170.2 mm SL, Amami-oshima island, Kagoshima, Japan).

は後向ほど長くなり,最後の第 10 棘が最長.背

除いて体全体が櫛鱗で覆われる.

鰭と臀鰭の軟条部は広く,後縁は円い.背鰭の棘

色彩 生鮮時の色彩(Fig. 1)— 体は鮮紅色で

条部と軟条部の間には欠刻がない.腹鰭の後端は

体背面が腹面より濃い赤色.眼の虹彩も鮮紅色.

臀鰭の第 1–2 棘間あるいはそれよりわずかに後方

背鰭,臀鰭,尾鰭の後縁は鮮紅色で,基部はオレ

に達する.尾鰭は截形.背鰭第 1–6 棘(KAUM–I.

ンジ色を帯びる.腹鰭の鰭膜はうっすらと黒味を

57884 では 1–5 棘),臀鰭第 1–3 棘,腹鰭第 1 棘,

帯びる.腹鰭基部に明瞭な黒斑はない.胸鰭は薄

背鰭と臀鰭の軟条は鋸歯縁をもつ.鰓蓋骨後縁を

い黄色で,斑紋はない.固定後の色彩(Fig. 2)—

44


RESEARCH ARTICLES

体,胸鰭,尾鰭はクリーム色.腹鰭の鰭膜,背鰭 と臀鰭の軟条部の後縁はやや暗色を呈する. 分布 日本とフィリピン(シアヤン島)から

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

in Starnes (1988) によって新種として記載された (タイプ産地は三宅島).奄美大島産の標本は背鰭 が 10 棘 13 軟条,臀鰭が 3 棘 14 軟条,胸鰭軟条

のみ記録されている(Starnes, 1988).国内では三

が 18–19 本,側線鱗が 74 枚,側線上方鱗列が 11 枚,

宅島,神奈川県三浦,静岡県内浦,三重県志摩,

側線下方鱗列が 41–45 枚,鰓耙が 6+20 本,固定

尖 閣 諸 島( 林,2013), 沖 縄 県 糸 満(Starnes,

後に腹鰭の鰭膜が暗色を帯びる,および生鮮時に

1988),東シナ海(山田,2009),および奄美大島

胸鰭が黄色であることから P. zaiserae の原記載に

(本研究)から記録されている. 備 考 Priacanthus zaiserae は Starnes and Moyer

記載された特徴と完全に一致した.しかし,奄美 大島産標本と P. zaiserae の原記載を比較した結

Table 1. Counts and proportional measurements, expressed as percentages of standard length, of Priacanthus zaiserae. This study Starnes (1988) n=2 n = 10* Standard length (mm)

156–170

133–235

Counts Dorsal-fin rays X, 13 X, 13 Anal-fin rays III, 14 III, 13–14 Pectoral-fin rays 18–19 18–19 Pelvic-fin rays I, 5 I, 5 Lateral-line scales 74 71–76 Scales above lateral line 11 9–11 Scales below lateral line 41–45 40–45 Gill rakers 6 + 20 5–6 + 19–22 Measurements Body depth 37.8–38.2 37.3–40.9 Body depth at sixth dorsal spine 37.5–37.9 — Body depth at first anal spine 36.6–37.3 — Body width 16.6–17.7 16.3–19.8 Head length 35.3–35.7 30.0–33.5 Head depth 29.2–29.3 33.7–36.9 Head width 19.3–19.9 17.0–20.4 Snout length 10.1–10.3 7.8–10.1 Orbit diameter 16.1–16.6 15.2–17.3 Interorbital width 8.3–8.8 7.6–8.7 Upper-jaw length 18.2–18.5 — Lower-jaw length 13.7 — Pre-dorsal-fin length 32.8–33.5 — Pre-anal-fin length 57.5–58.0 — Pre-pectoral-fin length 35.3–35.4 — Pre-pelvic-fin length 36.5–37.4 — Dorsal-fin base length 57.5–57.6 — First dorsal-fin spine length 4.8–6.0 — Second dorsal-fin spine length 8.5–9.0 — Third dorsal-fin spine length 10.3–11.6 — Longest dorsal-fin spine length (10th) 15.7–16.4 13.9–16.4 Longest dorsal-fin ray length (2nd) 20.3–20.4 16.1–19.5 Anal-fin base length 33.8–35.4 — First anal-fin spine length 7.1–8.0 — Second anal-fin spine length 10.1–11.6 — Third anal-fin spine length 14.2–15.4 — Longest anal-fin ray length (2nd) 19.9–20.7 15.1–17.9 Longest pectoral-fin ray length 18.4–19.1 17.0–19.3 Pelvic-fin spine length 20.8–21.3 — Longest pelvic-fin ray length (2nd) 26.8–27.2 25.4–27.8 Caudal-peduncle length 16.0–16.5 14.8–16.4 Caudal-peduncle depth 8.3–8.8 7.7–8.9 Caudal-fin length 22.0–22.9 — *Counts based on 13 specimens (Starnes, 1988); values given in Starnes (1988) were expressed as thousandths of SL which were converted here into percentages.

45


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

果,前者は頭長が体長の 35.3–35.7% とやや長い

レキントキの標本に基づく奄美群島近海からの初

こ と( 原 記 載 で は 30.0–33.5%), 頭 高 が 体 長 の

めての記録となる.

29.2–29.3% とやや低いこと(33.7–36.9%),背鰭 軟 条 長 が 体 長 の 20.3–20.4% と 長 い こ と(16.1–

 謝辞

19.5%),臀鰭軟条長が体長の 19.9–20.7% と長い

鹿児島大学総合研究博物館の魚類分類学研究

こと(15.1–17.9%)などの相違が確認された(Table

室の学生諸氏とボランティア諸氏には標本の作製

1).これらの相違が地理的変異を示すものなのか,

や処理などについてご協力をいただいた.西海区

単なる個体変異であるのか,今後のさらなる標本

水産研究所の岡本 誠氏には文献調査をして頂い

調査が必要である.

た.以上の方々に対して深く感謝の意を表する.

林(2013)はキビレキントキ P. zaiserae の日本

本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島

国内における分布を「三宅島,神奈川県三浦,静

県産魚類の多様性調査プロジェクト」と国立科学

岡県内浦,三重県志摩,尖閣諸島」とし,琉球列

博物館の「日本の生物多様性ホットスポットの構

島を分布域に含めなかった.しかし,Starnes and

造に関する研究プロジェクト」の一環として行わ

Moyer in Starnes (1988) は P. zaiserae の原記載の中

れた.

で,沖縄県糸満産の 2 個体をパラタイプに指定し ている.さらに,町田(1985)が沖縄舟状海盆か ら Priacanthus sp. a として報告した標本は,記載 文と標本写真からキビレキントキと同定される (Shinohara et al., 2005; 本 研 究 ).Shinohara et al. (2005) は本種を琉球列島から報告したが,標本に 基づくのではなく,町田(1985)を根拠とした. 山田(1997)は東シナ海産の標本写真を提示し, 本種の分布域として「南日本太平洋側,琉球列島, 東シナ海以南」とした.山田(1997)が本種の分 布域として琉球列島を含めた根拠は不明である が,本種のパラタイプ(沖縄本島産)に基づくも のと思われる.依田ほか(2002)は東シナ海・黄 海産魚類目録にキビレキントキをリストしている が,東シナ海産なのか黄海産なのか不明である. しかし,依田ほか(2002)を根拠として書かれた と思われる山田ほか(2009)は,本種の分布域と して「南日本太平洋側,琉球列島,東シナ海以南」 としているため,依田ほか(2002)の記録は東シ ナ海だと思われる.したがって,これまで奄美群 島以北の琉球列島沿岸から本種が記録された報告 はない.なお,奄美大島産のキビレキントキは, 奄 美 群 島 固 有 種 の ホ シ レ ン コ Cheimerius matsubarai Akazaki, 1962(KAUM–I. 57871, 体 長 224.4 mm)と同時に水揚げされていたことから, 奄美群島近海から漁獲されたことに間違いはな い.したがって,本研究で調査した標本は,キビ

46

 引用文献 林  公 義.2013. キ ン ト キ ダ イ 科. 中 坊 徹 次( 編 ),pp. 822–825, 1978–1979.日本魚類検索 全種の同定 第 3 版.東海大学出版会,秦野. Hubbs, C. L. and K. F. Lagler. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Bull. Cranbrook Inst. Sci., (26): i–xii+1–186. Iwatsuki, Y., T. Matsuda, W. C. Starnes, T. Nakabo and T. Yoshino. 2012. A valid priacanthid species, Pristigenys refulgens (Valenciennes 1862), and a redescription of P. niphonia (Cuvier in Cuvier & Valenciennes 1829) in the Indo-West Pacific (Perciformes: Priacanthidae). Zootaxa, 3206: 41–57. 町 田 吉 彦.1985. キ ン ト キ ダ イ 科. 岡 村  収( 編 ),pp. 476–483.沖縄舟状海盆及び周辺海域の魚類 II.日本水 産資源保護協会,東京. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島大学総合研究博物館,鹿児島市.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Shinohara, G., T. Sato, Y. Aonuma, H. Horikawa, K. Matsuura, T. Nakabo and K. Sato. 2005. Annotated checklist of deepsea fishes from the waters around the Ryukyu Islands, Japan. Deep-sea fauna and pollutants in the Nansei Islands. Natl. Sci. Mus. Monogr., (29): 385–452. Starnes, W. C. 1988. Revision, phylogeny and biogeographic comments on the circumtropical marine percoid fish family Priacanthidae. Bull. Mar. Sci., 43(2): 117–203. 山田梅芳.1997.キントキダイ科.岡村 収・尼岡邦夫(編・ 監修),pp. 286–287.日本の海水魚.山と溪谷社,東京. 山田梅芳・時村宗春・星野浩一・ 邓 思明・ 郑 元甲・李  圣法・金 英燮・金 眞久.2009.東シナ海・黄海 魚名図鑑 新版.財団法人海外漁業協力財団,東京. xi + 784 pp. 依田真里・時村宗春・堀川博史・山田梅芳.2002.東シナ海・ 黄海産魚類目録およびその地方名.西海区水産研究所, 長崎.iii + 42 pp.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県から得られたクロサギ科ホソイトヒキサギ Gerres macracanthus の記録 1

2

畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

3

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部) 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

網により採集された.これらの標本は鹿児島県に

 はじめに  クロサギ科 Gerreidae は日本近海には 2 属 14 種 が分布しており(波戸岡,2013),このうち 13 種 が ク ロ サ ギ 属 Gerres に 含 ま れ る( 波 戸 岡, 2013).Gerres macracanthus はインドネシア・ジャ ワ島のバタビア(現在のジャカルタ)から採集さ れ た 全 長 95–131 mm の 6 標 本 に 基 づ き Bleeker (1854) に よ っ て 新 種 記 載 さ れ た. そ の 後,G. macracanthus はイトヒキサギ G. filamentosus の新 参 異 名 と さ れ る こ と が 多 か っ た( 例 え ば Kühlmorgen-Hille, 1974; Woodland, 1983)

が,

Iwatsuki et al. (1996) によって有効種とされた.ま た,Iwatsuki et al. (1996) は本種 1 個体(IORD 76– 1347,体長 142.0 mm)を西表島から報告し,同 時に新標準和名ホソイトヒキサギを提唱した.そ の 後, 竹 内 ほ か(2011) は 本 種 1 個 体(KUN-P 42019)を和歌山県南部から報告した.現在,ホ ソイトヒキサギの国内における分布は西表島と和 歌山県とされている(竹内ほか,2011;波戸岡, 2013;吉郷,2014).  2006 年 11 月 16 日に鹿児島県南さつま市笠沙 町沖で,2013 年 10 月 10 日に肝属郡肝付町内之 浦湾でそれぞれ 1 個体のホソイトヒキサギが定置     Hata, H., M. Ito and H. Motomura. 2014. First records of Gerres macracanthus (Perciformes: Gerreidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 47–52. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

おける本種の標本に基づく初めての記録となるた め,ここに報告する.  材料と方法 計数・計測方法は Iwatsuki et al. (1996) にした がった.標準体長は体長と表記した.計測はデジ タルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで行い,計測 値は体長に対する百分率(%)で示した.ホソイ トヒキサギの生鮮時の体色の記載は固定前に撮影 さ れ た 鹿 児 島 県 産 の 2 標 本(KAUM–I. 3738, 56720)のカラー写真に基づく.標本の作製,登録, 撮影,固定方法は本村(2009)に準拠した.本報 告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物館 (KAUM: Kagoshima University Museum)に保管さ れており,上記の生鮮時の写真は同館のデータ ベースに登録されている.本報告で使用した研究 機関略号は以下のとおり.KUN– 近畿大学農学部; IORD– 東海大学海洋研究所;RMNH– ライデン国 立自然史博物館.  結果と考察 Gerres macracanthus (Bleeker, 1854) ホソイトヒキサギ (Fig. 1; Table 1) 標本 KAUM–I. 3758,体長 108.5 mm,鹿児島 県南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m,2006 年 11 月 16 日, 定置網,伊東正英;KAUM–I. 56720,体長 119.2 mm, 鹿 児 島 県 肝 属 郡 肝 付 町 内 之 浦 湾

47


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Gerres macracanthus (KAUM–I. 56720, 119.2 mm SL, Uchinoura, Kagoshima Prefecture, Japan).

(31°18′20″N, 130°06′04″E), 水 深 40 m,2013 年

条は糸状に伸長する.胸鰭起部は腹鰭起部より前

10 月 10 日,定置網,畑 晴陵・目黒昌利・小枝

方に位置する.胸鰭は腹鰭より長く,後端は尖り,

圭太・三澤 遼.

第 6 軟条が最長で,その後端は背鰭第 3 軟条起部 直下に達する.腹鰭は短く,起部に腋鱗を備える.

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

腹鰭後端は総排泄孔に達しない.臀鰭起部は背鰭

を Table 1 に示した.体は楕円形でよく側扁する.

第 3–4 軟条基底直下に位置する.体は剥がれやす

前鰓蓋骨には鱗が 3 列並ぶ.前鰓蓋骨後縁は円滑.

い円鱗に被われる.

尾は深く 2 叉し,上下両葉の後端は尖る.口裂は

 色彩 生鮮時の色彩 ― 体側上部は黒みを帯び

小さく,わずかに傾斜し,上顎後端は眼の前縁を

た銀色で,体側面は一様に銀色.背鰭第 1–2 棘条,

越える.上顎は下顎より短く,下顎よりわずかに

背鰭,腹鰭,臀鰭および尾鰭の各軟条は緑がかっ

突出する.両顎には絨毛状の歯を備える.口は端

た黒色.背鰭第 3–9 棘条,腹鰭および臀鰭の各棘

位で,前方に伸出する.眼と瞳孔はそれぞれ円形

条は白色.体側には暗色横帯が 7 本入る.背鰭鰭

である.鼻孔は 2 対で,前鼻孔と後鼻孔は互いに

膜の上半部は黒色で,下半部は無色透明.胸鰭は

近接し,眼の前縁前方に位置する.鰓耙は短い.

一様に透明.腹鰭および臀鰭の鰭膜は透明.固定

総排泄孔は臀鰭起部前方に開孔する.背鰭起部は

後の色彩 ― 体背面は暗い褐色となる.

腹鰭第 2–3 軟条起部直上に位置する.背鰭第 2 棘

 分布 紅海を含むインド・西太平洋の熱帯・亜

48


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

熱帯域に分布する(Iwatsuki et al., 1996; Iwatsuki

本種の日本における分布はこれまで西表島と

and Kimura, 1998; Woodland, 2001; Allen and Adrim,

和 歌 山 県 南 部 と さ れ て い た が(Iwatsuki et al.,

2003; Adrim et al., 2004; Iwatsuki, 2009;

1996;竹内ほか,2011;波戸岡,2013),本研究

Tafzilmeriam, 2011, 2013; 波戸岡,2013).国内で

によって鹿児島県本土から記録された.ホソイト

は 西 表 島(Iwatsuki et al., 1996; Iwatsuki and

ヒキサギの鹿児島県での採集記録は,これまでの

Kimura, 1998; 波 戸 岡,2013; 吉 郷,2014), 鹿

国内における本種の分布の空白域を埋めるもので

児島県の薩摩半島西岸と大隅半島東岸(本研究),

あり,本種が和歌山県南部から鹿児島県本土にか

和歌山県南部(竹内ほか,2011)から報告がある.

けて連続的に広く分布することを示唆する.しか

 備考 鹿児島県から得られた標本は,臀鰭が 3

し, 本 種 は 群 泳 す る こ と が 知 ら れ て い る が

棘 7 軟条であること,臀鰭基底が背鰭軟条部基底

(Woodland, 2001),鹿児島県では 2007 年と 2013

よりも短いことなどが Woodland (2001) や波戸岡

年に 1 個体ずつ,計 2 個体が単独で漁獲されたに

(2013)の報告した Gerres の標徴とよく一致した.

すぎない.これは上記個体が黒潮によって鹿児島

また,同標本は側線有孔鱗数が 44 であること,

に偶発的に運ばれてきた可能性を強く示してお

背鰭第 5 棘条と側線間の横列鱗数が 4–4½ である

り,本種が鹿児島県近海で再生産している可能性

こと,側線上方横列鱗数が 5½ であること,側線

も低いと考えられる.

下方横列鱗数が 10½ であること,臀鰭第 2 棘条

比 較 標 本  ホ ソ イ ト ヒ キ サ ギ Gerres macra-

長が体長の 10.8–11.9% であること,体側に 7 本

canthus(9 個 体, 体 長 76.5–96.0 mm):KAUM–I.

の不明瞭な暗色横帯が入ること,吻長が眼窩径の

12202,体長 96.0 mm,マレーシア・サバ州コタ

95.1–98.2% で あ る こ と な ど の 特 徴 が Iwatsuki et

キナバル沖(06°00′N, 116°07′E),2008 年 9 月 15 日,

al., (1996) や Woodland (2001),波戸岡(2013)な

荻 原 豪 太;KAUM–I. 12536, 体 長 76.5 mm,

どが報告した G. macracanthus の標徴とよく一致

KAUM–I. 12579,体長 82.7 mm,マレーシア・サ

した.

バ州コタキナバル・タンジュンリパ沖(06°00′N,

鹿児島県産の標本は,タイとマレーシア産の

116°10′E),2008 年 10 月 21 日, 荻 原 豪 太;

標本と比べて,頭長,上顎長,尾柄高,背鰭前長,

KAUM–I. 22985,体長 85.7 mm,タイ王国・タイ

腹鰭前長,背鰭基底長,臀鰭基底長,背鰭第 1 軟

湾(サムットプラーカーン県マハチャイの市場で

条長の体長に対する割合がやや小さく,一方,第

購 入 ),2009 年 9 月 3 日, 底 曳 網, 松 沼 瑞 樹;

1 腹鰭軟条長,背鰭第 2 棘条長,臀鰭第 1 棘条長

KAUM–I. 24157–24160,体長 81.4, 83.6, 81.0, 77.1

の割合はやや大きい(Table 1).しかし,鹿児島

mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン

Iwatsuki et al. (1996) 県産の標本から得られた値は,

県マハチャイの市場で購入),2009 年 10 月 22 日,

の示した G. macracanthus の値と一致し,これら

底 曳 網, 松 沼 瑞 樹;KAUM–I. 33003, 体 長 81.0

の若干の相違は種内変異であると考えた.本種は

mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン

側線有孔鱗数が 41–44 であること,背鰭第 5 棘条

県マハチャイの市場で購入),2010 年 11 月 3 日,

と側線間の横列鱗数が 4–5 であること,側線上方

底曳網,吉田朋弘.

横列鱗数が 5½–6½ であること,側線下方横列鱗 数が 9½ または 10½ であること,臀鰭第 2 棘条長

 謝辞

と 臀 鰭 第 3 棘 条 が 短 く, そ れ ぞ れ 体 長 の 9.1–

本報告を取りまとめるにあたり,魚類調査に

13.9%,10.4–14.4% で あ る こ と, 体 側 に 6–14 本

協力して下さった内之浦漁業協同組合のみなさ

の不明瞭な暗色横帯が入ること,吻長が眼窩径の

ま,本原稿に対し適切な助言をくださった原口百

75–102% であることなどで同属他種から識別で

合子氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館

ボランティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究

る(Iwatsuki et al., 1996; Iwatsuki and Kimura,

1998; Woodland, 2001;波戸岡,2013).

室の皆さま,以上の方々には謹んで感謝の意を表

49


50

Standard length (SL; mm) Counts Dorsal fin spines Dorsal fin rays Anal fin spines Anal fin rays Pectoral fin rays Pelvic fin spine Pelvic fin rays Pored lateral line scales Scales above lateral line Scales below lateral line Scales between 5th dorsal fin spine base and lateral line Gill rakers, including rudiments (in parentheses) Vertical bands on body Measurement (% SL) Body depth Body depth at first anal fin spine base Head length Body width at pectoral fin base Snout length Orbit diameter Interorbital width Upper jaw length Caudal peduncle depth Predorsal length Preanal length Prepelvic length Dorsal fin base length Anal fin base length Pelvic spine length

119.2 9 10 3 7 16 1 5 44 + 3 5½ 10½ 4½ 5+1+7 7 39.8 33.8 28.8 16 10.1 10.6 10.1 9.1 10.6 41.6 67.6 37.6 55.6 18.4 broken

9 10 3 7 16 1 5 44 + 3 5½ 10½ 4 6+1+7 7 40.9 33.3 28.9 15.7 10 10.2 10 9.5 11 40.3 67.6 38.1 50.8 17.4 broken

KAUM–I. 56720

KAUM–I. 3738 108.5

Uchinoura, Kagoshima Prefecture, Japan

Minami-satsuma, Kagoshima, Prefecture, Japan

36.7–42.5 (40.6) 31.1–36.2 (33.9) 30.7–32.9 (31.9) 11.7–16.0 (14.1) 8.8–11.5 (10.4) 10.2–11.0 (10.7) 9.8–11.1 (10.5) 10.4–11.3 (10.7) 10.7–12.0 (11.4) 40.8–43.0 (41.9) 66.6–69.6 (67.6) 38.7–44.0 (40.3) 52.4–54.0 (53.1) 17.7–20.7 (18.7) 13.0–14.2 (13.6)

9 10 3 7 16-17 1 5 42–44 + 2–3 4½–5½ 10½ 4–4½ 5+1+7 6–7

76.5–96.0

n=9

Thailand and Malaysia

RMNH 32791 70

RMNH 6686 95

38.4 31.1 31.6 14.2 9.6 10.5 10.6 11.1 10.5 39.5 63.2 40.1 53.9 16.3 14.7

39.3 34.4 31.4 12.9 8.6 12.7 11.4 10 12.9 44.3 61.3 40 52.1 16.4 15.9

9 10 3 7 16 1 5 41 + 3 5½ 10½ 4 5+1+7 4 or 5

Paralectotype

Lectotype

9 10 3 7 16 1 5 42 + 2 5½ 10½ 4½ 5+1+7 6

Indonesia

Indonesia

41 34 31.9 13.6 9.7 11.3 11 10.4 12.5 41.7 59.7 40.3 50 18.1 14.6

9 10 3 7 16 1 5 42 + 3 5½ 10½ 4 5+1+7 4 or 5

RMNH 32791 72

Paralectotype

Indonesia

35.6 31.9 31.3 11.9 10 10 9.8 11.4 11.1 39.4 63.1 37.4 51.9 16.9 9.9

9 10 3 7 16 1 5 41 + 2 5½ 9½ 4½ 5 (1) + 1 + 7 6

RMNH 32791 80

Paralectotype

Indonesia

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Gerres macracanthus. Figures in parentheses indicate mean values of specimens from Thailand and Malaysia. This study Iwatsuki et al. (1998)

35.6–44.9 31.1–38.4 28.2–33.5 11.7–31.0 10.0–11.1 10.5–12.7 9.5–12.4 9.5–13.8 10.9–13.5 39.4–44.7 56.9–67.6 37.3–44.2 50.0–57.0 16.5–20.9 9.6–17.9

9 10 3 7–8 15–17 1 5 41–44 + 2–5 5½–6½ 9½–10½ 4–5 5–7 (1–6) + 1 + 7 6–14

58.0–166.0

n = 42

Non-type specimens

Indo-west Pacific incl. Red Sea

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

17.5–26.8 31.3–41.5 1.7–3.4 32.7–66.2 18.1–30.1 8.2–12.0 10.4–16.9 2.0–3.4 9.1–13.9 10.4–14.4 11.1–15.3

する.比較標本は日本学術振興会の「若手研究者 インターナショナル・トレーニング・プログラム」 によるタイとマレーシアの魚類相調査の過程で採 集された.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館 の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」 17.5 31.3 2.4 broken 21.3 8.6 broken 3.4 13.9 12.6 broken

の一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南

broken 31.3 2.8 38.3 18.1 8.8 broken 2.1 13.2 12.2 broken

アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー ク構築」,JSPS 若手研究者インターナショナル・ トレーニング・プログラム「熱帯域における生物

19.3 broken 2.7 32.7 22.9 10.1 broken 2.3 12.9 14.4 broken

資源の多様性保全のための国際教育プログラム」, 総合地球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけ るエリアケイパビリティーの向上プロジェクト」,

First pelvic fin ray length Longest pectoral fin ray length First dorsal fin spine length Second dorsal fin spine length Third dorsal fin spine length Last dorsal fin spine length First dorsal fin ray length First anal fin spine length Second anal fin length Third anal fin length First anal fin ray length

18.7 31.8 2.3 broken broken 8.3 broken 2.4 11.8 broken broken

17.7 35.3 broken 53.8 22.4 broken 12.7 2.1 10.8 10.5 11.4

16.2–18.5 (17.7) 31.3–39.1 (34.6) 2.0–2.4 (2.2) 42.7–51.0 (45.7) 20.8–24.7 (22.7) 8.1–8.9 (8.4) 13.0–14.1 (13.4) 1.9–2.3 (2.1) 10.2–11.9 (11.1) 10.4–12.1 (11.3) 10.9–12.7 (11.8)

20.2 35.8 2.1 broken 18.2 9.5 12.2 2.1 12.1 11.6 broken

国立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポッ トの構造に関する研究プロジェクト」の援助を受 けた.  引用文献 Adrim, M., I-S. Chen, Z.-P. Chen, K. K. P. Lim, H. H. Tan, Y. Yusof and Z. Jaafar. 2004. Marine fishes recorded from the Anambas and Natuna Islands, South China Sea. The Raffles Bulletin of Zoology, Supplement, 1: 117–130. Allen, G. R. and M. Adrim. 2003. Coral reef fishes of Indonesia. Zoological Studies, 42 (1): 1–72. Bleeker, P. 1854. Speciés piscium bataviensium novae vel minus cognitae. Natuurkundig Tijdschrift voor Nederlandsch Indië, 6 (7): 191–202. 波 戸 岡 清 峰.2013. ク ロ サ ギ 科,pp. 935–939, 2005, 2008. 中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定,第三版. 東海大学出版会,秦野. Iwatsuki, Y. 2009. Gerres macracanthus Bleeker, 1854, p. 149 in S. Kimura, U. Satapoomin and K. Matsuura, eds. Fishes of Andaman Sea. West coast of southern Thailand. National Museum of Nature and Science, Tokyo. Iwatsuki, Y. and S. Kimura. 1998. A new species, Gerres infasciatus, from the Gulf of Thailand (Perciformes: Gerreidae). Ichthyological Research, 45 (1): 79–84. Iwatsuki, Y., S. Kimura, H. Kishimoto and T. Yoshino. 1996. Validity of the gerreid fish, Gerres macracanthus Bleeker, 1854, with designation of a lectotype, and designation of a neotype for G. filamentosus Cuvier, 1829. Ichthyological Research, 43 (4): 417–429. Kühlmorgen-Hille, G. 1974. Gerreidae, pp. "Gerr" to "Gerr Pent 1" in W. Fischer and R. J. R Whitehead, eds. FAO species identification sheets for fishery purposes. Eastern Indian Ocean (Fishing Area 57) and western Central Pacific (Fishing Area 71). Vol. 2. FAO, Rome. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

51


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 Tafzilmeriam, S. 2011. Gerres macracanthus Bleeker, 1854, p. 123 in M. Matsunuma, H. Motomura, K. Matsuura, N. A. M. Shazili and M. A. Ambak, eds. Fishes of Terengganu – east coast of Malay Peninsula, Malaysia. National Museum of Nature and Science, Tokyo, Universiti Malaysia Terengganu, Terengganu and Kagoshima University Museum, Kagoshima. Tafzilmeriam, S. 2013. Gerres macracanthus Bleeker, 1854, p. 140 in T. Yoshida, H. Motomura, P. Musikasinthorn and K. Matsuura, eds. Fishes of northern Gulf of Thailand. National Museum of Nature and Science, Tsukuba, Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto and Kagoshima University Museum, Kagoshima. 竹内啓明・朝井俊亘・内山りゅう・細谷和海.2011.近畿 大学農学部所蔵の内山りゅう魚類標本コレクション. 近畿大学農学部紀要,44: 63–87.

52

RESEARCH ARTICLES Woodland, D. J. 1983. Gerreidae, pp. "GERR" to "GERR Pent 1" in W. Fischer and G. Bianchi, eds. FAO species identification sheets for fisheries purposes. Western Indian Ocean. Fishing Area 51, Vol. 3. FAO, Rome. Woodland, D. J. 2001. Gerreidae, pp. 2946–2960 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Vol.5, No. 3. FAO, Rome. 吉郷英範.2014.琉球列島産陸水生魚類相および文献目録. 2014.Fauna Ryukyuana, 9: 1–153.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県から得られたイサキ科エリアカコショウダイ Plectorhinchus schotaf の記録 1

2

3

畑 晴陵 ・藤原恭司 ・高山真由美 ・本村浩之 1

3

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部) 2

〒 759–6595 山口県下関市永田本町 2–7–1 水産大学校海洋生産管理学科

3

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに  イサキ科 Haemulidae は日本近海には 5 属 20 種 が分布しており(島田,2013),このうち 11 種が コショウダイ属 Plectorhinchus に含まれる(島田, 2013).Plectorhinchus schotaf (Walbaum, 1792) は 紅海から得られた標本に基づき Sciaena scotaf と して新種記載された(Fricke, 2008;島田,2013). 蒲原(1937)は高知県から得られた全長 470 mm の 魚 を P. griseus (Cuvier and Valenciennes) と し て 日本における初めての記録を報告し,同時に本種 に対して標準和名ナンヨウコタイを提唱した.そ の後,Kamohara and Yamakawa (1967) は沖縄島か ら全長 343 mm の 1 個体をナンヨウコタイの和名 とともに P. schotaf として報告した.しかし,蒲 原(1937)と Kamohara and Yamakawa (1967) のナ ンヨウコタイは体側と頭部に多数の橙色斑点があ ることからオシャレコショウダイ P. flavomaculatus (Cuvier, 1830) と思われ,P. schotaf とは別種 である.さらに,Kamohara (1958) は P. schotaf を 高知県から,蒲原(1960)と財団法人海中公園セ ンター八重山研究所(1971)は高知県沖ノ島付近 から報告しているが,詳細な記載はなく,これら の記録が P. schotaf または P. flavomaculatus のどち らを指すのかは,不明である.その後,P. schotaf     Hata, H., K. Fujiwara, M. Takayama and H. Motomura. 2014. First records of Plectorhinchus schotaf (Perciformes: Haemulidae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 53–57. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

は,赤崎(1984)によって土佐湾と琉球列島から 報告され,その際に新たな標準和名エリアカコ ショウダイが提唱された.畑ほか(2012)は鹿児 島県のイサキ科とシマイサキ科の魚類相を標本に 基づいて報告したが,P. schotaf は記録されてい ない.したがって,現在エリアカコショウダイの 国内における分布は土佐湾と琉球列島とされてい る(赤崎,1984;島田,2013).  2013 年 9 月 7 日に種子島沖から 1 個体,同年 9 月 9 日に馬毛島沖で 2 個体,計 3 個体のエリアカ コショウダイが採集された.これら大隅諸島から 採集された標本は鹿児島県における本種の標本に 基づく初めての記録となるため,ここに報告する.  材料と方法 計数・計測方法は Satapoomin and Randall (2000) にしたがった.標準体長は体長と表記した.計測 はデジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行った. エリアカコショウダイの生鮮時の体色の記載は, 固定前に撮影された鹿児島県産の 3 標本(KAUM– I. 56206, 56209, 56899)のカラー写真に基づく. 標本の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009) に準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学 総 合 研 究 博 物 館(KAUM: Kagoshima University Museum)に保管されており,上記の生鮮時の写 真は同館のデータベースに登録されている.  結果と考察 Plectorhinchus schotaf (Walbaum, 1792) エリアカコショウダイ (Fig. 1; Table 1)

53


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimens of Plectorhinchus schotaf. A, KAUM–I. 56899, 348.1 mm SL, off Mage-shima island, Kagoshima Prefecture, Japan; B, KAUM–I. 56206, 217.2 mm SL, off Tanega-shima island, Kagoshima Prefecture, Japan.

標 本 KAUM–I. 56206, 体 長 217.2 mm, 鹿 児

9 日,巻網,高山真由美;KAUM–I. 56899,体長

島 県 熊 毛 郡 中 種 子 町 星 原 浜 津 脇 沖(30°33′N,

348.1 mm, 鹿 児 島 県 大 隅 諸 島 馬 毛 島 沖

130°55′E),2013 年 9 月 7 日,刺網,高山真由美;

(30°48′15″N, 130°49′38″E),2013 年 9 月 9 日,巻網,

KAUM–I. 56209,体長 360.0 mm,鹿児島県大隅 諸 島 馬 毛 島 沖(30°35′N, 130°41′E),2013 年 9 月

54

高山真由美.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

記載 計数形質と体各部の体長に対する割合

部および臀鰭軟条部の基底は鱗で被われる.背鰭

を Table 1 に示した.体は楕円形で側扁する.吻

後縁は丸みを帯びる.臀鰭起部は背鰭第 7 軟条起

端は丸く,唇は厚い.口裂は小さく,主上顎骨後

部直下に位置する.臀鰭後縁は丸みを帯びるが,

端は眼窩前縁直下に達する.下顎腹面には 3 対の

ややとがる.腹鰭は腋鱗をそなえる.腹鰭はたた

感覚孔をそなえる.眼の下縁は吻端よりも上方に

むと,後端は背鰭第 3 軟条起部直下に達する.前

位置する.眼および瞳孔はそれぞれ円形.鼻孔は

鰓蓋骨後縁は鋸歯状.背鰭中央部に深い欠刻はな

2 対で,前鼻孔と後鼻孔は互いに近接し,眼の前

い.尾鰭後縁はわずかに湾入する.鰓耙は細長い.

縁前方に位置する.総排泄孔は体の中央より後方

側線は胸鰭起部上方から始まり,背鰭第 1 軟条起

に位置し,臀鰭起部直前に開孔する.胸鰭後端は

部直下付近で緩やかに下降し,尾柄部で直走し,

背鰭第 9–10 棘条起部直下に位置する.背鰭軟条

尾鰭基底付近で終わる.体は細かい櫛鱗に被われ

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of standard length, of Plectorhinchus schotaf. off Tanega-shima island off Mage-shima island KAUM–I. 56206 KAUM–I. 56209 KAUM–I. 56899 Standard length 217.2 360.0 348.1 Counts Dorsal-fin spines 12 12 12 Dorsal-fin rays 19 19 19 Anal-fin spines 3 3 3 Anal-fin rays 8 8 8 Pectoral-fin rays 17 17 17 Pelvic-fin spines 1 1 1 Pelvic-fin rays 5 5 5 Lateral-line scales 54 55 55 Transverse scales above lateral line 21 21 21 Transverse scales below lateral line 24 24 24 Gill rakers (upper) 10 10 11 Gill rakers (lower) 16 16 15 Gill rakers (total) 26 26 26 Measurements (% SL) Greatest body depth 44.2 42.5 41.9 Body width 16.5 15.3 16.7 Head length 28.8 26.4 27.5 Snout length 11.2 12.3 11.7 Orbit diameter 8.2 6.3 6.9 Pupil diameter 3.8 3.0 2.7 Interorbital width 10.2 8.8 9.7 Suborbital depth 6.4 5.9 6.2 Preorbital width 7.0 7.4 7.6 Caudal-peduncle depth 13.0 12.7 12.4 Caudal-peduncle length 20.3 17.8 18.6 Pre-dorsal-fin length 23.3 36.1 36.9 Pre-anal-fin length 68.2 66.7 69.8 Pre-pelvic-fin length 37.7 36.1 35.2 Upper-jaw length 8.9 8.2 8.9 First dorsal-fin spine length 4.2 4.2 4.6 Longest dorsal-fin spine length 13.4 13.1 13.3 Longest dorsal-fin ray length 11.3 10.1 9.6 Spinous dorsal-fin base length 33.5 31.4 31.9 Soft dorsal-fin base length 34.0 32.0 32.9 First anal-fin spine length 4.0 2.5 3.0 Second anal-fin spine length 16.0 12.0 13.7 Third anal-fin spine length 13.4 10.8 11.9 Longest anal-fin ray length 12.4 10.8 10.3 Anal-fin base length 14.3 14.0 13.9 Caudal-fin length 18.7 17.4 16.6 Longest pectoral-fin ray length 17.4 17.2 17.4 Pelvic-fin length 22.4 20.8 21.3 Pelvic-fin spine length 12.1 11.1 11.4  

Means

42.9 16.2 27.6 11.7 7.1 3.2 9.6 6.1 7.3 12.7 18.9 32.1 68.2 36.3 8.7 4.3 13.3 10.3 32.3 33.0 3.2 13.9 12.0 11.2 14.1 17.6 17.4 21.5 11.5

55


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

る.頭頂部の鱗域の先端部はくさび形をなし,前 鼻孔前縁に達する.両顎歯は細かく,絨毛状.鋤 骨に歯はない. 色彩 生鮮時の色彩 ― 体側上部は暗いウグイ ス色で,体側および腹面は灰色がかった白色.背 鰭棘条,背鰭軟条はウグイス色で,鰭膜は緑がかっ た黒色.胸鰭は黒色で,後縁は橙色で縁取られる. 胸鰭起部に黒色斑を有する.腹鰭は黒色で,前縁 は白色.臀鰭は一様に黒色.鰓蓋後縁上部は暗赤 色で縁取られる.眼は明るい橙色で縁取られる. 瞳孔は青みがかった黒色で,黄色で縁取られる. 固定後の色彩 ― 体背面および各鰭は一様に黒褐 色となり,体側および体腹面は暗い灰褐色となる. 分 布  日 本 国 外 で は 南 ア フ リ カ と 紅 海 か ら オーストラリア北岸,北マリアナ諸島にかけての イ ン ド・ 西 太 平 洋 に 分 布 す る(Kimura and Peristiwady, 2000; McKay, 2001).国内では土佐湾 と琉球列島(赤崎,1984;島田,2013),および 種子島と馬毛島(本研究)から記録されている. 備考 これらの標本は,背鰭棘条数が 12 であ ること,背鰭軟条数が 19 であること,下顎腹面 に感覚孔を 6 つ有すること,下顎正中線に溝がな い こ と な ど が McKay (2001) の 報 告 し た Plectorhinchus の標徴と一致した.また頭部と尾 鰭が一様に暗色であること,背鰭中央部に顕著な 欠刻がないことなどの特徴が McKay (2001) や島 田(2013)の報告した Plectorhinchus schotaf の標 徴と一致したため,本種と同定された. エリアカコショウダイの鹿児島県での採集記 録は,これまでの国内における本種の分布の空白 域を埋めるものであり,本種が土佐湾から琉球列 島にかけて連続的に広く分布することを示唆す る. な お,Sciaena schotaf の 原 記 載 は, 従 来 Forsskål (1775) と さ れ て き た が(Johnson, 2000; McKay, 2001),Forsskål (1775) は schotaf を Sciaena gaterina のアラビア語名として記述して お り,Plectorhinchus schotaf が Sciaena schotaf と して初めて記載されたのは Walbaum (1792) であ る(Fricke, 2008).

56

RESEARCH ARTICLES

 謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏をはじめとする鹿児島大学総合研究博物館ボラ ンティアの皆さまと同博物館魚類分類学研究室の 皆さまには適切な助言を頂いた.標本の採集に際 しては,種子島漁協に多大なご協力を頂いた.以 上の方々に謹んで感謝の意を表する.本研究は, 鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚類の 多様性調査プロジェクト」の一環として行われた. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067, 23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿 岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,JSPS 若 手研究者インターナショナル・トレーニング・プ ログラム「熱帯域における生物資源の多様性保全 のための国際教育プログラム」,総合地球環境学 研究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパ ビリティーの向上プロジェクト」,国立科学博物 館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関 する研究プロジェクト」の援助を受けた.  引用文献 赤崎正人.1984.ナンヨウコタイ(エリアカコショウダイ), p. 167, pl. 160-F.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野 輝彌・吉野哲夫(編).日本産魚類大図鑑.東海大学出 版会,東京. Forsskål, P. S. 1775. Descriptiones animalium avium, amphibi­ orum, piscium, insectorum, vermium; quae in itinere orien­tali observavit PetrusForskål. Prof. Haun. Post mortem auctoris editit Carsten Niebuhr. Adjuncta est material med­ica Kahirina atque tabula maris rubric geographica. Möller, Hauniae. 20 + xxxiv + 164 pp., 1 map. Fricke, R. 2008. Authorship, availability and validity of fish names described by Peter (Pehr) Simon Forsskål and Johann Christian Fabricius in the 'Descriptiones animalium' by Carsten Niebuhr in 1775 (Pisces). Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde. Serie A (Biologie), Neue Serie. Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde A, Neue Serie, 1: 1–76. 畑 晴陵・原口百合子・本村浩之.2012.標本に基づく鹿 児 島 県 の イ サ キ 科 と シ マ イ サ キ 科 魚 類 相.Nature of Kagoshima, 38: 19–38. Johnson, J. 2000. Haemulidae (sweetlips and grunts), p. 619 in J. E. Randall and K. K. P. Lim (eds.). A checklist of the fishes of the South China Sea. The Raffles Bulletin of Zoology, Supplement (8): 569–667. 蒲原稔治.1937.土佐産魚類の 9 稀種.動物学雑誌,49 (12): 424–429. Kamohara, T. 1958. A catalogue of fishes of Kochi Prefecture (Province Tosa), Japan. Reports of the Usa Marine Biological Station, 5 (1): 1–76.


RESEARCH ARTICLES 蒲原稔治.1960.高知県沖ノ島およびその付近の沿岸魚類. 高知大学学術研究報告 9(自然科学 I),(3): 15–30. Kamohara, T. and T. Yamakawa. 1967. On some fishes from the waters of Okinawa and Yaeyama. Reports of the Usa Marine Biological Station, 14 (1): 1–17. Kimura, S. and T. Peristiwady. 2000. Haemulidae, pp. 234–239 in K. Matsuura, O. K. Sumadhiharga and K. Tsukamoto (eds.). Field Guide to Lombok Island: Identification guide to marine organisms in seagrass beds of Lombok Island, Indonesia. Ocean Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo. McKay, R. J. 2001. Haemulidae, pp. 2961–2989, pls. XIII–XV in K. E. Carpenter and V. H. Niem (eds.). FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 Satapoomin, U. and J. E. Randall. 2000. Plectorhinchus macrospilus, a new species of thicklip (Perciformes: Haemulidae) from the Andaman Sea off southwestern Thailand. Phuket Marine Biological Center Research Bulletin, 63: 9–16. 島田和彦.2013.イサキ科,pp.940–945, 2008–2011.中坊徹 次(編) .日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海 大学出版会,秦野. Walbaum, J. J. 1792. Petri Artedi sueci genera piscium. In quibus systema totum ichthyologiae proponitur cum classibus, ordinibus, generum characteribus, specierum differentiis, observationibus plurimis. Redactis speciebus 242 ad genera 52. Ichthyologiae pars III. Ant. Ferdin. Rose, Grypeswaldiae. i–viii + 1–723, pls. 1–3. 財団法人海中公園センター八重山研究所.1971.海中公園 センター調査報告 高知県海中公園計画学術調査書. 財団法人海中公園センター,東京.122 pp.

57


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

58

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

標本に基づく鹿児島県のイトヨリダイ科魚類相 藤原恭司 1・畑 晴陵 ・本村浩之 2

1 2

3

〒 759–6595 山口県下関市永田本町 2–7–1 水産大学校海洋生産管理学科

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部) 3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに イトヨリダイ科は日本から 4 属 22 種が知られ ている(藍澤・土居内,2013).これまで鹿児島 県におけるイトヨリダイ科魚類を幅広く扱った魚 類相調査は行われておらず,過去に行われた鹿児 島県内における魚類相調査(例えば今井,1969; 財団法人鹿児島市水族館公社,2008;Motomura et al., 2010)においてもイトヨリダイ科魚類の報 告は少ない.そこで,本研究では鹿児島県におけ るイトヨリダイ科魚類相を明らかにするため,鹿 児島大学総合研究博物館に所蔵されている鹿児島 県産イトヨリダイ科魚類標本の調査を行った.そ の結果,4 属 10 種を確認したため,ここに報告 する.日本周辺海域におけるイトヨリダイ科の包 括的な計数形質の頻度分布はこれまで報告されて いないため,今後の分類学的研究の基礎資料とし て詳述する.  材料と方法 標本の計数・計測方法は原則として Hubbs and Lagler (1947) にしたがい,側線上方および側線下 方横列鱗数は Russell (1986) にしたがった.計測 はデジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで測定 した.標準体長は体長と表記した.確認された全 種の主な計数形質を Tables 1–6 に示した.各種の     Fujiwara, K., H. Hata and H. Motomura. 2014. Nemipterid fishes of Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 59–67. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

分布は,国外,国内,鹿児島県内の順に記載した. 本報告に用いた標本は,鹿児島大学総合研究博物 館(KAUM: Kagoshima University Museum) に 保 管されており,標本のカラー写真は同館の画像 データベースに登録されている.  鹿児島県産イトヨリダイ科魚類リスト Nemipterus bathybius Snyder, 1911 ソコイトヨリ (Fig. 1; Tables 1–6) 標 本 16 個 体( 体 長 63.3–175.6 mm):KAUM–I. 98, 体 長 76.6 mm,南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 4 月 6 日,定置網,伊東 正英;KAUM–I. 241,体長 157.4 mm,南さつま市笠沙町片 浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 6 月 19 日,定置網,伊東正英;KAUM–I. 384,体長 63.3 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 4 月 7 日,定置網,伊東 正英;KAUM–I. 390,体長 147.6 mm,南さつま市笠沙町片 浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 8 月 23 日, 定 置 網, 伊 東 正 英;KAUM–I. 5955, 体 長 119.0 mm,KAUM–I. 5956,体長 142.1 mm,KAUM–I. 5957, 体長 123.1 mm,鹿児島湾,2007 年 7 月 27 日,本村浩之; KAUM–I. 10207, 体 長 161.4 mm, 指 宿 市 開 聞 岳 西 側 沖 (31°11′21″N, 130°30′6″E), 水 深 120 m,2008 年 6 月 4 日, 延 縄, 荻 原 豪 太・ 吉 田 朋 弘;KAUM–I. 25553, 体 長 69.1 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2010 年 2 月 10 日,定置網,伊東 正英;KAUM–I. 30457,体長 86.4 mm,南さつま市笠沙町高 崎山地先(31°26′00″N, 130°10′05″E),水深 36 m,2010 年 3 月 13 日,定置網,中畑勝見;KAUM–I. 30507,体長 104.8 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2010 年 6 月 7 日,定置網,伊東 正 英;KAUM–I. 30810, 体 長 149.4 mm,KAUM–I. 30927, 体長 132.4 mm,志布志市志布志湾(31°38′N, 131°14′E),水 深 70–100 m,2010 年 7 月 8 日,底曳網,荻原豪太・山下真 弘・大橋祐太;KAUM–I. 31272,体長 120.0 mm,志布志市 志布志湾(31°38′N, 131°14′E),水深 70–100 m,2010 年 7 月 21 日,底曳網,荻原豪太・山下真弘・吉田朋弘・大橋祐太; KAUM–I. 33713, 体 長 134.2 mm,KAUM–I. 33714, 体 長 175.6 mm, 出 水 郡 長 島 町 伊 唐 島 沖(32°13′N, 130°12′E), 2010 年 10 月 20 日,KAUM 魚類チーム.

59


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

記載 背鰭条数 X, 6–9;臀鰭条数 III, 5–7;胸 鰭条数 15–16;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 44– 46; 側 線 上 方 横 列 鱗 数 4; 側 線 下 方 横 列 鱗 数 9–11;総鰓耙数 9–15.眼下骨の縁辺に鋸歯がない. 前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がない.頭頂部の鱗域の先 端部は楔形.頬部の鱗は 3 列.尾鰭上葉は糸状に 伸長する.胸鰭は長く,肛門に達する.生時,腹 面は黄色. 分布 済州島・台湾(藍澤・土居内,2013), 南シナ海,フィリピン,インドネシアおよびオー

RESEARCH ARTICLES 426,体長 90.3 mm,KAUM–I. 427,体長 97.1 mm,南さつ ま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水 深 27 m,2006 年 4 月 27 日,定置網,伊東正英;KAUM–I. 6422,体長 238.3 mm,いちき串木野市串木野沖,2007 年 9 月 15 日,高山真由美;KAUM–I. 12733,体長 149.4 mm,肝 属郡肝付町内之浦湾(31°17′N, 130°05′E),水深 40 m,2008 年 9 月 27 日, 定 置 網, 山 田 守 彦;KAUM–I. 14714, 体 長 84.1 mm, 肝 属 郡 肝 付 町 内 之 浦 湾 津 代 地 先(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2008 年 11 月 26 日,定置網,大瀬智 尋;KAUM–I.55789,体長 252.9 mm,いちき串木野市串木 野沖(30°42′18″N, 130°14′49″E),2013 年 7 月 23 日,福井美 乃;KAUM–I. 56739,体長 60.3 mm,肝属郡肝付町内之浦湾 (31°18′20″N, 131°06′04″E),40 m,2013 年 10 月 10 日,定置 網,目黒昌利・畑 晴陵・小枝圭太・三澤 遼;KAUM–I. 56959, 体 長 176.6 mm, 指 宿 市 沖(31°14′N, 130°41′E), 2013 年 11 月 7 日,底曳網,畑 晴陵.

ストラリア北西部を含む西太平洋に分布(Russell, 1990, 2001;藍澤・土居内,2013).国内では若狭

記載 背鰭条数 IX–X, 9;臀鰭条数 III, 7–8;胸

湾,島根県敬川沖,山口県日本海沿岸,九州西岸,

鰭条数 16–17;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 44–

相模湾から九州南岸にかけての太平洋沿岸,伊予

46; 側 線 上 方 横 列 鱗 数 4; 側 線 下 方 横 列 鱗 数

灘,東シナ海南部大陸棚縁辺域に分布する(藍澤・

8–10;総鰓耙数 10–13.眼下骨の縁辺に鋸歯がな

土居内,2013).鹿児島県内では,標本に基づき

い.前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がない.頭頂部の鱗域

鹿児島湾,薩摩半島西岸,大隅半島東岸および鹿

の先端部は楔形.頬部の鱗は 3 列.尾鰭上葉は糸

児島県北西部から確認された(本研究).

状に伸長する.生時,側線の始部に赤色斑がある. 分布 日本国外ではベトナムから台湾にかけ ての南シナ海,オーストラリア北西部およびアラ フラ海に分布する(Russell, 1990, 2001).国内では, 新潟県から九州南岸にかけての日本海・東シナ海 沿岸,鹿島灘から九州南岸にかけての太平洋沿岸, 瀬戸内海,東シナ海大陸棚域に分布する(藍澤・ 土居内,2013).鹿児島県内では,標本に基づき 鹿児島湾,薩摩半島西岸,大隅半島東岸および鹿

Fig. 1. Fresh specimen of Nemipterus bathybius from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 5955, 119.0 mm SL).

児島県北西部から確認された(本研究).

Nemipterus virgatus (Houttuyn, 1782) イトヨリダイ (Fig. 2; Tables 1–6) 標本 12 個体(体長 120.1–252.9 mm):KAUM–I. 84,体 長 120.1 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側 (31°25′44″N, 130°11′49″E) , 水 深 27 m,2006 年 5 月 1 日, 定置網,伊東正英;KAUM–I. 103,体長 156.2 mm,南さつ ま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水 深 27 m,2006 年 4 月 6 日, 定 置 網, 伊 東 正 英;KAUM–I. 279, 体 長 121.0 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側 (31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m,2006 年 7 月 25 日, 定置網,伊東正英;KAUM–I. 341,体長 116.3 mm,南さつ ま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水 深 27 m,2006 年 6 月 11 日,定置網,伊東正英;KAUM–I.

60

Fig. 2. Fresh specimen of Nemipterus virgatus from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 56959, 176.6 mm SL).

Parascolopsis eriomma (Jordan & Richardson, 1909) アカタマガシラ (Fig. 3; Tables 1–6) 標 本 7 個 体( 体 長 213.1–266.1 mm):KAUM–I. 7409,


RESEARCH ARTICLES 体長 213.1 mm,KAUM–I. 7410,体長 244.6 mm,屋久島北 部 沖,2007 年 12 月 1 日, 釣 り, 高 山 真 由 美;KAUM–I. 52164, 体 長 266.1 mm, 馬 毛 島 沖 大 隅 海 峡(30°51′N, 130°47′E),2012 年 10 月 22 日, 釣 り, 高 山 真 由 美; KAUM–I. 55567, 体 長 266.0 mm,KAUM–I. 55568, 体 長 256.4 mm,KAUM–I. 55569,体長 261.0 mm,トカラ列島沖 (29°34′N, 129°38′E), 水 深 100 m 以 浅,2013 年 7 月 19 日, 釣り,松沼瑞樹;KAUM–I. 55852,体長 246.0 mm,奄美大 島沖,2013 年 7 月 30 日,釣り,松沼瑞樹.

記載 背鰭条数 X, 9;臀鰭条数 III, 6–7;胸鰭 条数 16–17;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 33–35; 側線上方横列鱗数 3–4;側線下方横列鱗数 12– 13;総鰓耙数 14–16.前鰓蓋骨に鱗がない.頭部 の鱗域は眼の中央に達する.眼下骨の縁辺に鋸歯 がある.前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がある.鰓耙は棍 棒状で長い.生時,体側に黄色縦帯がある. 分布 本日本国外ではモザンビークを南限と するアフリカ東岸からオマーン湾,スリランカ, アンダマン海にかけてのインド洋と,インドネシ ア,フィリピン,台湾を含む西太平洋および紅海 に分布する(Russell, 1990, 2001).国内では千葉 県館山,八丈島,駿河湾,土佐湾,高知県柏島, 屋久島,琉球列島から報告がある(藍澤・土居内, 2013).鹿児島県内では標本に基づき大隅諸島, トカラ列島および奄美群島から確認された(本研 究).

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 正英;KAUM–I. 1446,体長 44.3 mm,肝属郡肝付町内之浦 湾(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2006 年 12 月 29 日,定 置網,山田守彦;KAUM–I. 3559,体長 60.8 mm,南さつま 市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 5 月 6 日, 定 置 網, 伊 東 正 英;KAUM–I. 4305, 体 長 159.9 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 沖(31°29′N, 130°02′E),水深 140 m,2007 年 7 月 29 日,刺し網,宮下  透;KAUM–I. 6996,体長 81.7 mm,肝属郡肝付町内之浦湾 (31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2007 年 2 月 15 日,定置網, 山田守彦;KAUM–I. 10205,体長 147.1 mm,指宿市開聞岳 西側沖(31°11′12″N, 130°30′6″E),水深 120 m,2008 年 6 月 4 日,延縄,荻原豪太・吉田朋弘;KAUM–I. 11921,体長 69.7 mm,南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2008 年 6 月 7 日,定置網,伊東 正英;KAUM–I. 21158,体長 98.8 mm,指宿市知林ヶ島沖 (31°16′38″N, 130°40′18″E), 水 深 25 m,2009 年 7 月 1 日, 定置網,折田水産;KAUM–I. 21224,体長 92.2 mm,指宿市 知林ヶ島沖(31°16′38″N, 130°40′18″E),水深 25 m,2009 年 7 月 8 日,定置網,折田水産;KAUM–I. 26005,体長 47.6 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2008 年 6 月 7 日,定置網,伊東 正英;KAUM–I. 29074,体長 84.1 mm,肝属郡肝付町内之浦 湾(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2006 年 6 月 21 日, 定 置網,山田守彦;KAUM–I. 29870,体長 121.1 mm,肝属郡 肝付町内之浦湾(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2010 年 4 月 15 日,定置網,山田守彦;KAUM–I. 30860,体長 120.2 mm,志布志市志布志湾(31°38′N, 131°14′E),水深 100–120 m, 2010 年 6 月 18 日,底曳網,KAUM 魚類チーム;KAUM–I. 31512,体長 78.3 mm,南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側 (31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m,2010 年 5 月 24 日, 定置網,伊東正英;KAUM–I. 44862,体長 66.3 mm,肝属郡 肝付町内之浦湾(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2012 年 1 月 24 日,定置網,山田守彦;KAUM–I. 54489,体長 170.0 mm,南さつま市坊津町野間池沖(31°24′18″N, 130°02′84″E), 水深 116 m,2013 年 5 月 22 日,釣り,宮下 透;KAUM–I. 56202, 体 長 135.5 mm;KAUM–I. 56203, 体 長 122.1 mm, 指 宿 市 沖(31°14′N, 130°41′E),2013 年 9 月 9 日, 底 曳 網, 松沼瑞樹;KAUM–I. 56736,体長 44.4 mm,肝属郡肝付町内 之浦湾(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2013 年 10 月 10 日, 定 置 網, 目 黒 昌 利・ 畑  晴 陵・ 小 枝 圭 太・ 三 澤  遼; KAUM–I. 57815, 体 長 169.0 mm, 熊 毛 郡 中 種 子 町 熊 野 沖 (30°28′N, 130°58′E),2013 年 12 月 4 日,釣り,高山真由美.

記載 背鰭条数 X–XI, 8–9;臀鰭条数 III, 7;胸 鰭条数 15–16;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 32– 35;側線上方横列鱗数 4;側線下方横列鱗数 11– 14;総鰓耙数 9–12.前鰓蓋骨に鱗がない.頭部 Fig. 3. Fresh specimen of Parascolopsis eriomma from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 52164, 266.1 mm SL).

の鱗域は眼の中央に達する.眼下骨の縁辺に鋸歯 がある.前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がある.鰓耙は塊 状で短い.生時,体側に 4 本の赤褐色横帯がある. 分布 ラッカディブ諸島,スリランカ,アン ダマン海を含む東部インド洋,南シナ海を含む西

Parascolopsis inermis (Temminck & Schlegel, 1843)

太平洋に分布する(Russell, 1990, 2001).国内で

タマガシラ (Fig. 4; Tables 1–6)

は日本海南西海域から九州西岸,千葉県館山から 九州南岸にかけての太平洋岸,東シナ海大陸棚縁

標本 20 個体(体長 44.3–170.0 mm):KAUM–I. 141,体 長 65.7 mm,南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2006 年 5 月 23 日,定置網,伊東

辺域,沖縄島に分布する(藍澤・土居内,2013). 鹿児島県内では標本に基づき鹿児島湾,薩摩半島

61


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

西岸,大隅半島東岸,および大隅諸島から確認さ

2011;藍澤・土居内,2013),鹿児島県黒島(山川,

れた(本研究).

2011;藍澤・土居内,2013),琉球列島(Russell, 2001;藍澤・土居内,2013)に分布する.鹿児島 県内では標本に基づき大隅半島東岸および大隅諸 島から確認された(本研究).KAUM–I. 7777(内 之浦湾)は鹿児島県本土におけるヤクシマキツネ ウオの標本に基づく初めての記録である.

Fig. 4. Fresh specimen of Parascolopsis inermis from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 10205, 147.1 mm SL).

Pentapodus aureofasciatus Russell, 2001

Fig. 5. Fresh specimen of Pentapodus aureofasciatus from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 7777, 146.3 mm SL).

ヤクシマキツネウオ (Fig. 5; Tables 1–6) 標本 4 個体(体長 146.3–158.8 mm)KAUM–I. 35,体長 152.0 mm,熊毛郡屋久島,釣り,原崎 森;KAUM–I. 285, 体長 158.8 mm,熊毛郡屋久島志戸子沖(30°27′N, 130°31′E), 水深 25 m,2006 年 1 月 26 日,釣り,中馬初生;KAUM–I. 7777, 体 長 146.3 mm, 肝 属 郡 肝 付 町 内 之 浦 湾(31°17′N, 131°05′E),水深 40 m,2006 年 7 月 27 日,定置網,山田守彦; KAUM–I. 14137, 体 長 156.0 mm, 熊 毛 郡 屋 久 島 志 戸 子 沖 (30°27′N, 130°31′E),水深 20 m,2008 年 7 月 21 日.

Pentapodus caninus (Cuvier, 1830) キツネウオ (Fig. 6; Tables 1–6) 標本 KAUM–I. 5087,体長 132.9 mm,鹿児島県.

記載 背鰭条数 X, 9;臀鰭条数 III, 7;胸鰭条

記載 背鰭条数 X, 9;臀鰭条数 III, 7;胸鰭条

数 16–17; 腹 鰭 条 数 I, 5; 側 線 有 孔 鱗 数 44–46;

数 16;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 46;側線上

側線上方横列鱗数 3;側線下方横列鱗数 10–13;

方横列鱗数 3;総鰓耙数 13.眼下骨の縁辺に鋸歯

総鰓耙数 11–12.眼下骨の縁辺に鋸歯がない.前

がない.前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がない.頭頂部の

鰓蓋骨の下縁に鋸歯がない.頭頂部の鱗域は眼窩

鱗域は前鼻孔まで達する.頭頂部の鱗域の先端部

の前縁を越えるが,後鼻孔には達しない.頭頂部

は直線状.尾鰭の両葉は伸長する.

の鱗域の先端部は直線状.尾鰭の両葉は伸長しな い.前鰓蓋骨に鱗がある. 分布 日本国外では台湾(Russell, 2001; 藍澤・

分布 日本国外ではニューカレドニア,ヴァ ヌアツ,ソロモン諸島,パプアニューギニア,マー シャル諸島,パラオ,フィリピン,インドネシア

土 居 内,2013), フ ィ リ ピ ン( 藍 澤・ 土 居 内,

を含む西太平洋に分布する(Russell, 1990, 2001).

2013),インドネシア,パプアニューギニア,オー

国内では屋久島,琉球列島に分布する(藍澤・土

ストラリア北西岸,ニューカレドニア,フィジー,

居内,2013).KAUM–I. 5087 は鹿児島大学水産

トンガ,米領サモア(Russell, 2001; 藍澤・土居内,

学部に古くから保管されていた標本であり,最近

2013)から知られている.国内では和歌山県,高

鹿児島大学総合研究博物館に移管された.詳細な

知 県 柏 島( 山 川,2011; 藍 澤・ 土 居 内,2013),

産地や採集日などは不明である.

屋 久 島(Motomura and Harazaki, 2007; 山 川,

62


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 6. Preserved specimen of Pentapodus caninus from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 5087, 132.9 mm SL).

Fig. 7. Fresh specimen of Pentapodus nagasakiensis from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 48366, 116.0 mm SL).

Pentapodus nagasakiensis (Tanaka, 1915) イトタマガシラ (Fig. 7; Tables 1–6) 標 本 12 個 体( 体 長 72.6–141.2 mm):KAUM–I. 27368, 体 長 72.6 mm, 大 島 郡 徳 之 島 町 亀 津(27°44′20″N, 129°02′20″E),1955 年 8 月 17 日;KAUM–I. 34482, 体 長 136.8 mm,KAUM–I. 34483,体長 134.9 mm,大島郡瀬戸内 町名瀬漁港沖(28°23′N, 129°25′E),水深 60–100 m,2010 年 11 月 22 日, 定 置 網, 荻 原 豪 太;KAUM–I. 37602, 体 長 121.3 mm, 三 島 村 硫 黄 島 西 側(30°47′04″N, 130°15′42″E), 水深 47 m,2011 年 5 月 10 日,釣り,出羽慎一;KAUM–I. 48366, 体 長 116.0 mm,KAUM–I. 48367, 体 長 106.5 mm, KAUM–I. 48368, 体 長 115.4 mm,KAUM–I. 48369, 体 長 110.8 mm,西之表市大崎漁港沖(30°46′29″N, 131°00′01″E), 水深 27 m,2012 年 5 月 24 日,定置網,山田守彦;KAUM–I. 54483, 体 長 141.2 mm, 甑 列 島 沖(31°45′N, 129°48′E), 2013 年 5 月 18 日,釣り,松沼瑞樹;KAUM–I. 55405,体長 126.3 mm,KAUM–I. 55406, 体 長 119.8 mm, 種 子 島 沖, 2013 年 6 月 18 日,釣り,岩坪洸樹;KAUM–I. 58593,体長 116.1 mm, 薩 摩 川 内 市 下 甑 島 青 瀬 沖(31°39′39″N, 129°44′06″E),2013 年 8 月 3 日,定置網,山田守彦.

記載 背鰭条数 X, 9;臀鰭条数 III, 7;胸鰭条 数 15–16; 腹 鰭 条 数 I, 5; 側 線 有 孔 鱗 数 41–44; 側線上方横列鱗数 3–4;側線下方横列鱗数 12– 16;総鰓耙数 11–13.眼下骨の縁辺に鋸歯がない. 前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がない.頭頂部の鱗域は眼 窩の前縁を越えるが,後鼻孔には達しない.頭頂 部の鱗域の先端部は直線状.尾鰭の両葉は伸長し ない.前鰓蓋骨に鱗がない. 分布 日本国外では済州島,台湾(藍澤・土

Scolopsis bilineata (Bloch, 1793) フタスジタマガシラ (Fig. 8–9; Tables 1–6) 標 本 13 個 体( 体 長 20.8–172.2 mm):KAUM–I. 6879, 体 長 151.9 mm, 大 島 郡 瀬 戸 内 町 須 手 桟 橋(28°08′59″N, 129°18′04″E),2007 年 9 月 30 日, 釣 り, 泉  修 蔵; KAUM–I. 11334,体長 168.9 mm,熊毛郡屋久島町栗生カマ ゼ ノ 鼻 西 側(30°16′03″N, 130°24′47″E), 水 深 0–3 m,2008 年 8 月 12 日, タ モ 網,KAUM 魚 類 チ ー ム;KAUM–I. 15129,体長 135.5 mm,大島郡奄美大島,1975 年 7 月 3 日; KAUM–I. 19840,体長 79.4 mm,鹿児島県奄美大島古仁屋魚 市場,1975 年 6 月 13 日;KAUM–I. 24306,体長 172.1 mm, 大島郡瀬戸内町小名瀬(28°10′58″N, 129°15′49″E),水深 1–2 m,2009 年 8 月 23 日, 釣 り, 泉  忠 孝;KAUM–I. 30768, 体 長 49.0 mm, 南 さ つ ま 市 笠 沙 町 片 浦 漁 港 外(31°25′N, 130°10′E), 水 深 3 m,2010 年 8 月 18 日, 伊 東 正 英; KAUM–I. 37615, 体 長 172.2 mm, 三 島 村 硫 黄 島 西 側 (30°47′04″N, 130°15′42″E),水深 5–10 m,2011 年 5 月 10 日, タ モ 網,KAUM 魚 類 チ ー ム;KAUM–I. 39768, 体 長 20.8 mm,大島郡与論町皆田海岸(27°03′13″N, 128°27′02″E),水 深 1–3 m,2011 年 8 月 10 日,タモ網,吉田朋弘・西山 肇・ 岩坪洸樹;KAUM–I. 39897,体長 44.6 mm,大島郡与論町茶 花港内(27°03′01″N, 128°24′05″E),水深 0.5 m,2011 年 8 月 12 日,投網,松沼瑞樹;KAUM–I. 42017,体長 151.4 mm, 熊毛郡屋久島志戸子沖(30°26′95″N, 130°31′27E),水深 12 m, 2011 年 10 月 22 日,タモ網,KAUM 魚類チーム;KAUM–I. 45765, 体 長 144.8 mm, 大 島 郡 与 論 町 供 利 漁 港 沖 (27°01′54″N, 128°24′29″E),水深 5–10 m,2012 年 4 月 15 日, タモ網,山下真弘・吉田朋弘;KAUM–I. 55893,体長 148.3 mm,西之表市国上大久保漁港(30°46′22″N, 131°00′29″E), 水深 3 m,2013 年 8 月 4 日,釣り,目黒昌利・吉田朋弘・ 田代郷国;KAUM–I. 56325,体長 115.2 mm,西之表市国上 浦 田 沖(30°49′36″N, 131°02′11″E), 水 深 6 m,2013 年 9 月 20 日,銛,千葉 悟.

居内,2013)南シナ海,インドネシア,オースト ラリア北西岸から知られている(Russell, 1990,

記載 背鰭条数 X–XI, 8–9;臀鰭条数 III, 6–7;

2001).国内では小笠原諸島,千葉県館山から南

胸鰭条数 16–17;腹鰭条数;I, 4–5 側線有孔鱗数

九州にかけての太平洋岸,屋久島,琉球列島に分

42–45;側線上方横列鱗数 4–5;側線下方横列鱗

布(藍澤・土居内,2013).鹿児島県内では標本

数 13–15;総鰓耙数 9–10.眼下骨の縁辺に鋸歯が

に基づき鹿児島県北西部,薩摩半島西岸,大隅諸

ある.前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がある.眼下骨と眼

島および奄美群島から確認された(本研究).

の間に前方棘がある.臀鰭の前半部は黒い. 分布 ラッカディブ諸島から,オーストラリ

63


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

ア北岸,ニューカレドニア,フィジー,台湾にか

記載 背鰭条数 X, 8–9;臀鰭条数 III, 7;胸鰭

け て の イ ン ド・ 西 太 平 洋 に 分 布 す る(Russell,

条数 16–18;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 43–44;

1990, 2001).国内では八丈島,駿河湾から高知県

側線上方横列鱗数 4–5;側線下方横列鱗数 13–

沖ノ島にかけての太平洋岸,屋久島,琉球列島に

14;総鰓耙数 11.眼下骨の縁辺に鋸歯がある.

分布する(藍澤・土居内,2013).鹿児島県内で

前鰓蓋骨の下縁に鋸歯がある.前鰓蓋骨に鱗があ

は標本に基づき薩摩半島西岸,大隅諸島および奄

る.生時,体側中央に 1 黄褐色縦帯がある.

美 群 島 か ら 確 認 さ れ た( 本 研 究 ).KAUM–I.

分布 台湾(藍澤・土居内,2013),インドネ

30768(南さつま市笠沙町)は鹿児島県本土にお

シア,フィリピン,南シナ海,パプアニューギニ

けるフタスジタマガシラの標本に基づく初めての

ア,ソロモン諸島,オーストラリア北東岸を含む

記録である.

西 太 平 洋, ア ン ダ マ ン 海 に 分 布 す る(Russell, 1990, 2001).国内では伊豆大島,駿河湾から高知 県柏島にかけての太平洋沿岸.屋久島,琉球列島 に分布する(藍澤・土居内,2013).鹿児島県内 では標本に基づき,薩摩半島西岸から確認された (本研究).本記載標本は鹿児島県本土におけるヒ メタマガシラの標本に基づく初めての記録とな る.

Fig. 8. Fresh specimen of Scolopsis bilineata from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 55893, 148.3 mm SL).

Fig. 10. Fresh specimen of Scolopsis affinis from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 34026, 70.7 mm SL).

Fig. 9. Fresh juvenile specimen of Scolopsis bilineata from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 30768, 49.0 mm SL).

Scolopsis monogramma (Cuvier, 1830) ヒトスジタマガシラ (Fig. 11; Tables 1–6)

Scolopsis affinis Peters, 1877 ヒメタマガシラ (Fig. 10; Tables 1–6) 標本 2 個体(体長 63.3–70.7 mm):KAUM–I. 34026,体 長 70.7 mm,南さつま市笠沙町片浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2010 年 11 月 2 日,定置網,伊東 正英;KAUM–I. 25983,体長 73.3 mm,南さつま市笠沙町片 浦崎ノ山東側(31°25′44″N, 130°11′49″E),水深 27 m,2009 年 9 月 25 日,定置網,伊東正英.

標 本 2 個 体( 体 長 288.0–308.0 mm):KAUM–I. 56295, 体長 308.0 mm,熊毛郡中種子町長浜海岸阿高磯沖(30°31′N, 130°54′E),水深 14–15 m,2013 年 9 月 12 日,釣り,高山真 由美;KAUM–I. 58658,体長 288.0 mm,熊毛郡南種子町島 間 港(30°28′02″N, 130°51′38″E),2014 年 2 月 1 日, 釣 り, 高山真由美.

記載 背鰭条数 X, 9;臀鰭条数 III, 7;胸鰭条 数 18;腹鰭条数 I, 5;側線有孔鱗数 45;側線上 方横列鱗数 5;側線下方横列鱗数 18;総鰓耙数 9–10.眼下骨の縁辺に鋸歯がある.前鰓蓋骨の下

64


RESEARCH ARTICLES

縁に鋸歯がある.尾鰭上葉は伸長する.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

の,鹿児島県内でもトカラ列島や奄美群島に生息

分布 日本国外ではアンダマン海からオース

し て い る 可 能 性 は 高 い. カ メ ン タ マ ガ シ ラ

トラリア北岸,台湾にかけてのインド・西太平洋

Scolopsis xenochrous と シ ン ジ ュ タ マ ガ シ ラ

に分布する(Russell, 1990, 2001).国内では屋久島,

Scolopsis margaritifer は沖縄島から報告されてお

琉球列島に分布する(藍澤・土居内,2013).鹿

り(藍澤・土居内,2013),これらの種も鹿児島

児島県内では標本に基づき大隅諸島から確認され

県内に出現する可能性が高いと考えられる.ジャ

た(本研究).

バイトヨリ N. tambuloides は国内では西表島から のみ記録されている(藍澤・土居内,2013)が, 同様に八重山諸島以南を主な分布域とするカンム リ ブ ダ イ Bolbometopon muricatum( ブ ダ イ 科 ), ゴマアイゴ Siganus guttatus(アイゴ科)が黒潮の 影響により鹿児島県本土に遇来した例が報告され ており(荻原ほか,2010;伊東ほか,2011),本 種も同様に鹿児島県への偶発的な出現が見込まれ

Fig. 11. Fresh specimen of Scolopsis monogramma from Kagoshima Prefecture (KAUM–I. 58658, 288.0 mm SL).

る.  謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,鹿児島大学

 まとめ

総合研究博物館ボランティアのみなさまと同館魚

日本から記録されているイトヨリダイ科魚類 4

類分類学研究室のみなさまには標本や文献の調査

属 22 種(藍澤・土居内,2013)のうち,本研究 では鹿児島県から 4 属 10 種が記録された.これ らは鹿児島大学総合研究博物館に保管されている 標本に基づく記録であり,水中写真や国内外の研 究機関に保管されている標本を含んでいない.本 研究で確認されなかった 12 種のうち,タイワン タマガシラ Scolopsis vosmeri は藍澤・土居内(2013) に よ っ て 奄 美 大 島 か ら, ヨ コ シ マ タ マ ガ シ ラ Scolopsis lineata は Motomura et al. (2010) によって 屋久島からそれぞれ報告されている.キスジタマ ガシラ Parascolopsis tosensis は日本国内では島根 県浜田・敬川沖,土佐湾,九州西岸・南岸に分布 するとされており(藍澤・土居内,2013),鹿児 島県内からも標本が得られる可能性が高い.また, シャムイトヨリ Nemipterus peronii,ヒライトヨリ N. aurora,モモイトヨリ N. furcosus,トンキンイ トヨリ N. thosaporni,ヒメイトヨリ N. zysron およ びハクセンタマガシラ Scolopsis ciliata は琉球列 島から記録されており(藍澤・土居内,2013), 琉球列島内における詳細な産地は不明であるもの

に協力して頂いた.厚くお礼申し上げる.本研究 は,鹿児島大学総合研究博物館の「鹿児島県産魚 類の多様性調査プロジェクト」の一環として行わ れた.本研究の一部は JSPS 科研費(19770067, 23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南アジアにおける沿 岸海洋学の研究教育ネットワーク構築」,JSPS 若 手研究者インターナショナル・トレーニング・プ ログラム「熱帯域における生物資源の多様性保全 のための国際教育プログラム」,総合地球環境学 研究所「東南アジア沿岸域におけるエリアケイパ ビリティーの向上プロジェクト」,国立科学博物 館「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関 する研究プロジェクト」の援助を受けた.  引用文献 藍澤正宏・土居内 龍.2013.イトヨリダイ科.pp. 947– 954, 2011–2013.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全 種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野. Hubbs, C. L. and K. F. Lagler. 1947. Fishes of the Great Lakes region. Bulletin of Cranbrook Institute of Science, (26): i–xi + 1–186.

65


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

伊東正英・松沼瑞樹・岩坪洸樹・本村浩之.鹿児島県笠沙 沿岸から得られたアイゴ科魚類ゴマアイゴ Siganus guttatus の北限記録.Nature of Kagoshima, 37: 161–164.

Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yakushima Island, Kagoshima, southern Japan. Pages 65–247 in H. Motomura and K. Matsuura, eds. Fishes of Yaku-shima island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo.

荻原豪太・吉田朋弘・伊東正英・山下真弘・桜井 雄・本 村浩之.2010.鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリ ブダイ Boldometopon muricatum(ベラ亜目:ブダイ科) の記録.Nature of Kagoshima, 36: 43–47.

Russell, B. C. 1986 Review of the western Indian Ocean species of Nemipterus Swainson 1839, with description of a new species. Senckenbergiana Biologica, 67: 19–35.

Motomura, H. and S. Harazaki. 2007. In situ ontogenetic color changes of Pentapodus aureofasciatus (Perciformes, Nemipteridae) off Yakushima Island, southern Japan and comments on the biology of the species. Biogeography, 9: 23–30.

Russell, B. C. 1990. FAO species catalogue. Vol. 12. Nemipterid fishes of the world (thread fin breams, whiptail breams, monocle breams, dwarf monocle breams and coral breams). Family nemipteridae. An annotated and illustrated catalogue of the nemipterid species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 12: i–v + 1–149.

Motomura, H., K. Kuriiwa, E. Katayama, H. Senou, G. Ogihara, M. Meguro, M. Matsunuma, Y. Takata, T. Yoshida, M. Yamashita, S, Kimura, H. Endo, A. Murase, Y. Iwatsuki, Y. Sakurai, S. Harazaki, K. Hidaka, H. Izumi and K. Matsuura. 2010.

Table 1. Frequency distribution of dorsal-fin spine and ray counts in Nemipteridae from Kagoshima Prefecture. Dorsal-fin spines n Pentapodus caninus Pentapodus nagasakiensis Pentapodus aureofasciatus Nemipterus virgatus Nemipterus bathybius Parascolopsis inermis Parascolopsis eriomma Scolopsis bilineata Scolopsis monogramma Scolopsis affinis

1 12 4 12 16 20 7 13 2 2

9

10 1 12 4 11 16 19 7 12 2 2

1

Dorsal-fin rays 11

6

7

8

1

1

9 1 12 4 12 15 19 7 11 2 1

1

1

2 1

Table 2. Frequency distribution of anal-fin spine and ray counts in Nemipteridae from Kagoshima Prefecture. Anal-fin spines Pentapodus caninus Pentapodus nagasakiensis Pentapodus aureofasciatus Nemipterus virgatus Nemipterus bathybius Parascolopsis inermis Parascolopsis eriomma Scolopsis bilineata Scolopsis monogramma Scolopsis affinis

n

3

1 12 4 12 16 20 7 13 2 2

1 12 4 12 16 20 7 13 2 2

Anal-fin rays 5

6

1

7

8

1 12 4 1 13 20 6 11 2 2

1 1 2

11 1

Table 3. Frequency distribution of pectoral-fin ray and pelvic-fin spine and ray counts in Nemipteridae from Kagoshima Prefecture. Pelvic-fin Pectoral-fin rays Pelvic-fin rays spine n n 15 16 17 18 1 4 5 Pentapodus caninus Pentapodus nagasakiensis Pentapodus aureofasciatus Nemipterus virgatus Nemipterus bathybius Parascolopsis inermis Parascolopsis eriomma Scolopsis bilineata Scolopsis monogramma Scolopsis affinis

66

1 12 3 12 16 20 7 13 2 2

8

5 9

1 4 1 6 11 11 5 2 1

2 6

2 11

2 1

1 12 4 12 16 20 7 13 2 2

1 12 4 12 16 20 7 13 2 2

1

1 12 4 12 16 20 7 12 2 2


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 山川 武.2011.高知県柏島と鹿児島県黒島で採集された ヤクシマキツネウオ Pentapodus aureofasciatus(イトヨ リダイ科).南紀生物,53 (1): 32–34.

Russell, B. C. 2001. Nemipteridae. Pages 3051–3089, pls. 1–22 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 5, Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome.

財団法人鹿児島市水族館公社(編著).2008.かごしま水族 館が確認した ― 鹿児島の定置網の魚たち.260 pp.財 団法人鹿児島市水族館公社,鹿児島市 .

Russell, B. C. 2001. A new species of Pentapodus (Teleostei: Nemipteridae) from the western Pacific. The Beagle, Records of the Museums and Art Galleries of the Northern Territory, 17: 53–56.

Table 4. Frequency distribution of pored lateral-line scale counts in Nemipteridae from Kagoshima Prefecture. Pored lateral-line scales n Pentapodus caninus Pentapodus nagasakiensis Pentapodus aureofasciatus Nemipterus virgatus Nemipterus bathybius Parascolopsis inermis Parascolopsis eriomma Scolopsis bilineata Scolopsis monogramma Scolopsis affinis

32

1 10 4 11 14 18 7 12 2 2

33

34

35

41

42

43

44

2

1

8 4

6 2

45

1

8 1 3 6

3 1

2

2 6 7

9 1

1 10 4 11 16 19 7 12 2 2

1 7 4

5

0 9 4 9 13 16 7 10 2 2

3 11 16 19 2 11

1 2 1

1

2

6 8

1

3 1 4

1

1 8

6 4

1

1 3

1

1

1

2

1 2 1

1 2

Table 5. Frequency distribution of scales counts above and below the lateral line in Nemipteridae from Kagoshima Prefecture. Scales above Scales below lateral line lateral line n n 3 4 5 8 9 10 11 12 13 14 15 16 Pentapodus caninus Pentapodus nagasakiensis Pentapodus aureofasciatus Nemipterus virgatus Nemipterus bathybius Parascolopsis inermis Parascolopsis eriomma Scolopsis bilineata Scolopsis monogramma Scolopsis affinis

46

7

1

6

2

17

18

2

Table 6. Frequency distribution of upper, lower and total gill-raker counts in Nemipteridae from Kagoshima Prefecture. Upper gill rakers

  n

  Pentapodus caninus Pentapodus nagasakiensis Pentapodus aureofasciatus Nemipterus virgatus Nemipterus bathybius Parascolopsis inermis Parascolopsis eriomma Scolopsis bilineata Scolopsis monogramma Scolopsis affinis

1 11 4 10 16 20 7 13 2 2

3

4

5

6

Lower gill rakers 7

5

6

7

2 2 6

1 9 3 6 8 5

1

2 2

9 3 3 4 13 1 8 2

2 1 7 8 5 4 5 2

3

1

2 9

8

9

Total gill rakers 10

11

2 1 2 4

9

10

1 9

1 1 5

2 1

11 1

11 9 2 2 4 4

7 7 1

6 1 2

12

13

14

15

16

1 2 2 6 4 2

1 5

1 2

1

4

2

67


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

68

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

サクヤヒメジ Upeneus itoui(ヒメジ科)の 種子島からの初記録を含む東アジアにおける分布状況と 種子島から得られたヒメジ属の未同定個体 1

2

田代郷国 ・高山真由美 ・本村浩之 1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館(水産学研究科) 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに ヒメジ科ヒメジ属サクヤヒメジ Upeneus itoui Yamashita, Golani and Motomura, 2011 は近年新種 として記載され,愛媛県,高知県,宮崎県,鹿児 島県本土(薩摩半島西岸と鹿児島湾),および沖 縄島から報告されている. 著者らは大隅諸島種子島における魚類相調査 の過程で,中種子町熊野沖の定置網からサクヤヒ メジ U. itoui と同定される 2 標本を得た.本研究 ではこれらの 2 標本のサクヤヒメジを詳細に記載 するとともに,本種が台湾にも分布することが文 献(Liu et al., 1985)により確認されたため,合 わせて報告する. また,サクヤヒメジに酷似するヒメジ属魚類 Upeneus sp. を 1 個体が種子島から採集された. 本報告では Upeneus sp. を U. itoui の原記載および 種子島産サクヤヒメジと詳細に比較した.

た.なお,Yamashita et al. (2011) は背鰭間距離と して第 1 背鰭最後棘基部から第 2 背鰭起部の間を 計測したと明記しているが,実際は第 1 背鰭起部 から第 2 背鰭起部の間を計測していた(山下真弘 氏,私信) .本報告では背鰭間距離として後者に 従った.計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行い,本文中の標準体長は SL の略記で示し た.鰓耙数は上枝鰓耙数 + 下枝鰓耙数 = 総鰓耙 数で表記した.標本の作製,登録,撮影,固定方 法は本村(2009)に準拠した.本報告に用いた標 本 は 鹿 児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館(KAUM: Kagoshima University Museum)に保管されており, 体色の記載に用いた生鮮時のカラー写真は同館の 画像データベースに登録されている.  結果と考察 Upeneus itoui Yamashita, Golani and Motomura, 2011 サクヤヒメジ (Figs. 1A, 2A–B; Table 1)

 材料と方法 計 数・ 計 測 方 法 は 概 ね Randall and Kulbicki (2006) に従った.最大体高,最大頭高,および髭 基底幅の計測方法は Yamashita et al. (2011) に従っ     Tashiro, S., M. Takayama and H. Motomura. 2014. Distributional range extension of Upeneus itoui (Perciformes: Mullidae) in East Asia, with the first records from Tanega-shima island in the Osumi Islands, Kagoshima, Japan, and notes on an unidentified specimen of Upeneus from Tanega-shima island. Nature of Kagoshima 40: 69–74. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

Upeneus subvittatus (not of Temminck and Schlegel, 1843): Liu et al., 1985: 195, unnumbered fig.(台湾・ 東港). Mullidae sp.: 平田,2010: 65, unnumbered figs.(愛 媛県室手;高知県大月町). Upeneus itoui Yamashita, Golani and Motomura, 2011: 48, figs. 1–6 (type locality: east of Sakinoyama, Kataura, Kasasa, Minami-satsuma, Kagoshima, Japan). 標 本  鹿 児 島 県 熊 毛 郡 中 種 子 町 熊 野 沖(30° 28′13″N, 130°58′32″E) ,水深 25 m,定置網,高山真 由 美:KAUM–I. 54077,101.8 mm SL,2013 年 8 月 13 日; KAUM–I. 59466,102.6 mm SL,2014 年 2 月 1 日.

69


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Color photographs of fresh specimens of (A) Upeneus itoui and (B) Upeneus sp. A: KAUM–I. 59466, 102.6 mm SL; B: KAUM–I. 58746, 91.5 mm SL, Tanega-shima island, Kagoshima, Japan.

Fig. 2. Color photographs of caudal fins of (A–B) Upeneus itoui and (C–D) Upeneus sp. A–B: KAUM–I. 59466, 102.6 mm SL, Tanega-shima island; C–D: KAUM–I. 58746, 91.5 mm SL, Tanega-shima island; A and C: fresh specimens; B and D: preserved specimens.

記載 計数値と体各部の体長に対する割合を

2 背鰭基部と臀鰭基部の前半は小鱗で覆われる.

Table 1 に示した.体は細長く,側扁する.背鰭

第 1 背鰭は棘条からなり,第 1 棘が最長.第 2 背

は 2 鰭で互いによく離れる.第 1 背鰭始部は第 4

鰭は第 1 軟条のみ不分枝で,第 2 軟条が最も長い.

有孔側線鱗の上方に位置する.第 2 背鰭始部は臀

胸鰭軟条は第 1–2 軟条をのぞき,2 分枝する.腹

鰭始部のやや前方.鱗は櫛鱗で剥がれやすい.第

鰭鰭条は 1 棘 5 軟条からなり,軟条はすべて分枝

70


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

する.臀鰭第 1 棘はきわめて短い.臀鰭軟条は第

Ben-Tuvia and Golani, 1989 と形態および色彩的特

1 軟条のみ不分枝で,第 2 軟条が最長.尾鰭は 2

徴が非常によく似るが,鰓耙数が 6–8 ( 最頻値 7)

叉し,両葉先端はやや尖る.口は小さく下方に位

+ 16–18 (17) = 22–25 (23)[U. pori は 7–8 (7) + 18–

置し,口裂はやや斜行する.上顎後端は眼前縁直

21 (19) = 25–28 (28)]と少ない,体が細長く体高

下を超える.両顎に瘤状の歯帯をもち,前部から

と頭高がやや小さい傾向がある,髭基底幅が 110

中部にかけて幅がやや大きくなり,中部から後部

mm SL 以上の個体では小さい傾向があることな

に向かうにつれ幅が小さくなる.鋤骨は V 字型

どで識別される(Yamashita et al., 2011).

で絨毛状歯帯をもつ.口蓋骨に絨毛状歯帯をもつ.

Liu et al. (1985) は台湾南部の東港から Upeneus

内翼状骨歯をもたない.1 対の髭が下顎縫合部か

subvittatus (Temminck and Schlegel, 1843) を報告し

ら伸び,その後端は前鰓蓋骨後縁に達する.

た.Liu et al. (1985) の U. subvittatus の写真の個体

色彩 頭部と側線より上の体背部は灰色.吻

は,髭が白色であること,尾鰭下葉が赤色で縁辺

端から目を通り尾鰭基部に達する赤色線がある,

に不明瞭な白色点をもつことなどの特徴から,U.

頬部と側線より下の体側面は不明瞭な赤色のまだ

subvittatus とは異なり U. itoui に同定される.サ

ら模様.髭は白色.背鰭の鰭膜は半透明で,基部

クヤヒメジは Yamashita et al. (2011) により,愛媛

から先端にかけて赤色と白色の縦帯が交互にそれ

県,高知県,宮崎県,鹿児島県本土(薩摩半島西

ぞれ 4 本ずつはいる.胸鰭は半透明.腹鰭と臀鰭

岸と鹿児島湾),および沖縄島から報告され,そ

の鰭膜は半透明で,鰭軟条は白色.尾鰭上葉は半

れ以降記録がなかった.本研究によって,サクヤ

透明で,赤色と白色の横帯が交互にそれぞれ 5–6

ヒメジは種子島および本種の分布南限となる台湾

本ずつはいる.尾鰭下葉の地色は赤色で,腹側縁

にも生息することが確認された.日本におけるサ

辺に赤色点と白色点が交互に 7–8 本ずつはいり,

クヤヒメジの記録は黒潮流域とその周辺に集中し

背側縁辺には 7 白色点がはいる.尾鰭下葉先端は

ており,本種は黒潮の影響を強く受けていると思

黒ずむ.

われる.また,台湾での生息が確認されたことか

分布 本種は愛媛県,高知県,宮崎県,鹿児 島県本土(薩摩半島西岸と鹿児島湾),沖縄島か

ら,日本に分布する個体群は台湾周辺海域に由来 する可能性が高いことが示唆された.

ら記録されていた(Yamashita et al. 2011).本研

Upeneus itoui の標準和名サクヤヒメジはタイプ

究によって新たに大隅諸島種子島と台湾からもサ

産地であり本種が多く生息する鹿児島県笠沙町の

クヤヒメジが記録された.

地名に縁のある日本神話の女神,木花咲耶姫(コ

備考 種子島中種子町熊野沖から採集された 2

ノハナサクヤヒメ)が語源である.

標本(KAUM–I. 54077, 59466)は鋤骨と口蓋骨に

サクヤヒメジに近縁な未同定標本 上記サク

歯帯をもつこと,第 2 背鰭基底前半が小鱗に被わ

ヤヒメジが採集された同じ定置網でサクヤヒメジ

れることなどの特徴をもつことからヒメジ属

に 酷 似 し た ヒ メ ジ 属 魚 類 Upeneus sp.(Figs. 1B,

Upeneus であり,第 2 背鰭棘数が 7 であることか

2B–D;KAUM–I. 58746, 91.5 mm SL)が 1 個体採

ら U. japonicus 類 似 種 群 に 属 す る(Uiblein and

集された.Upeneus sp. はサクヤヒメジと比較し

Heemstra, 2010).これら 2 標本は第 2 背鰭軟条数

計測値に差異はみられなかったが,総鰓耙数が

が 9 であること,胸鰭軟条数が 14 であること,

28 で,サクヤヒメジの鰓耙数 22–25 ( 最頻値 23)

有孔側線鱗数が 28–29 であること,鰓耙数 6 + 16

と異なる(Table 1).また,本種を同定する上で

= 22 であること,内翼状骨を欠くこと,そのほ

重要な尾鰭の色彩にも違いがみられた(Fig. 2).

か の 計 数・ 計 測 形 質, お よ び 色 彩 的 特 徴 が

サクヤヒメジは尾鰭下葉が赤色で上下両縁辺に不

Upeneus itoui の原記載(Yamashita et al., 2011)と

明瞭な 5–9 本の短い白色帯あるいは白色斑が配列

よく一致したためサクヤヒメジと同定された.

する(Fig. 2A)ことに対し,Upeneus sp. では尾

Upeneus itoui は北西インド洋に分布する U. pori

鰭下葉が黄色味がかり,黒味を帯びた暗赤色斑が

71


72

Standard length (mm) Counts Dorsal-fin rays Pectoral-fin rays Pelvic-fin rays Anal-fin rays Pored lateral-line scales Scale above lateral line Scale below lateral line Scale rows between dorsal fins Scale rows around caudal peduncle Gill rakers (upper + lower = total) Measurements (%SL) Maximum body depth Body depth at anal-fin origin Body width Head length Maximum head depth Snout length Orbit diameter Interorbital width Upper-jaw length Cheek depth Barbel length Barbel width Caudal-peduncle depth Caudal-peduncle length Pre-1st dorsal-fin length Pre-2nd dorsal-fin length Pre-pectoral-fin length Pre-pelvic-fin length Pre-anal-fin length First dorsal-fin spine length Second dorsal-fin spine length

Holotype Kagoshima NSMT-P 102554* 122.9 VII + 9 ii + 12 I, 5 I, 7 29 2.5 5.5 3 16 7 + 17 = 24 22.1 21.3 14.5 27.8 19.9 12.0 5.8 7.1 11.3 8.6 18.1 2.0 9.1 22.9 36.4 64.4 29.2 30.9 64.2 18.3 16.3

This study Non-types Tanega-shima island n=2 101.2–102.6

VII + 9 ii + 12 I, 5 I, 7 28 2–2.5 5.5 4 16 6 + 16 = 22

21.1–22.4 20.0–22.0 14.1–15.4 27.8–28.1 18.4–19.4 10.9–11.2 6.1–6.2 6.9–7.1 10.6–11.0 8.4–8.6 17.0–17.4 2.0–2.2 9.6–10.5 22.4–23.7 34.9–35.0 63.2–63.5 29.1–29.6 30.2–30.7 63.4 18.5–19.6 17.5–17.9

Table 1. Counts and measurements of specimens of Upeneus itoui and Upeneus sp.

20.9–24.7 20.0–23.5 13.4–16.5 27.8–30.3 18.0–20.3 11.1–13.2 5.8–7.4 6.6–8.0 10.3–11.9 8.0–9.8 16.6–20.0 1.8–2.3 8.5–10.4 21.1–25.2 35.0–38.3 62.1–68.1 28.9–32.5 28.9–32.8 59.3–68.8 16.6–21.8 16.2–20.4

VII + 9 ii + 11–13 I, 5 I, 7 28–30 2–2.5 5–5.5 3–4 16 6–7 + 16–18 = 22–25 22.0–24.4 20.7–22.5 14.2–16.3 28.1–29.1 18.8–20.6 11.4–12.2 6.4–7.1 6.7–7.7 10.4–11.3 8.0–9.3 16.3–18.9 1.8–2.2 9.6–10.7 22.4–25.2 34.6–36.6 62.8–64.3 28.2–30.0 29.8–32.3 62.3–65.0 17.3–19.4 16.5–18.1

VII + 9 ii + 11–13 I, 5 I, 7 28–29 2–2.5 5–5.5 3–4 16 6–7 + 16–18 = 22–25

Upeneus itoui Yamashita et al. (2011) Paratypes Non-types Kagoshima and Miyazaki Okinawa n = 53 n = 13 62.1–68.1 93.3–115.0

22.7 21.6 14.8 28.7 19.2 12.2 6.5 7.3 11.1 8.8 18.0 2.0 9.7 23.5 36.1 64.2 30.0 31.2 64.5 18.7 17.6

Mode VII + 9 ii + 12 I, 5 I, 7 29 2 5.5 3 16 6 + 17 = 23

21.1 20.5 14.6 27.7 18.7 11.2 6.2 7.0 10.2 8.4 17.0 2.1 9.1 23.7 35.0 63.6 30.2 31.0 64.7 19.4 broken

VII + 9 ii + 12 I, 5 I, 7 29 2 5.5 4 16 8 + 20 = 28

Upeneus sp. This study Non-type Tanega-shima island KAUM–I. 58749 91.5

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


Third dorsal-fin spine length 15.8–15.9 15.5 Fourth dorsal-fin spine length 13.1–13.5 12.9 First dorsal-fin soft ray length 7.9–8.2 8.1 Second dorsal-fin soft ray length 14.4–14.8 13.9 Eighth dorsal-fin soft ray length 7.0–7.5 6.7 Ninth dorsal-fin soft ray length 7.0 6.9 Anal-fin spine length 1.0–1.5 0.8 First anal-fin soft ray length 9.5–9.8 7.6 Second anal-fin soft ray length 14.1–15.1 13.1 Last anal-fin soft ray length 7.4–8.4 7.1 Caudal-fin length 26.7–27.4 25.4 Caudal-concavity length 11.3–13.4 13.8 Pectoral-fin spine length 20.2–21.5 19.4 Pelvic-fin spine length 13.6–15.6 11.6 Longest pelvic-fin length 17.4–20.7 17.1 Distance between dorsal fins 29.8–30.3 29.9 Axillary scale length broken 8.0 *NSMT-P = abbreviation for fish collection of the National Museum of Nature and Science.

14.0–18.5 11.7–16.4 7.4–10.1 13.6–17.4 5.4–8.0 6.1–8.9 0.5–1.9 7.0–10.7 12.3–15.7 6.4–9.5 24.6–32.5 12.2–18.3 18.0–22.3 12.4–15.7 16.3–20.8 28.1–32.0 8.0–10.3

14.5–17.0 11.7–14.0 7.4–8.9 — 6.0–7.2 6.1–8.3 0.6–1.4 8.1–10.1 12.6–14.7 6.4–7.7 25.8–27.7 13.4–17.0 18.4–20.6 13.1–15.4 17.7–19.9 27.6–30.1 9.3–10.3

16.0 13.2 8.6 15.0 6.7 7.3 1.1 9.1 14.0 7.4 27.9 14.8 20.0 13.8 18.9 29.7 9.2

16.8 13.6 8.2 13.3 7.5 8.3 1.2 broken 13.6 7.2 24.9 12.6 21.5 15.3 19.9 29.4 broken

RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

6 個並ぶことで異なる(Fig. 2C).固定後の尾鰭

下葉は,サクヤヒメジでは明瞭な黒色斑が無い

(Fig. 2B)ことに対し,Upeneus sp. では 6 個の暗

(Fig. 2D).しかし,サクヤヒメジは尾鰭の色彩

赤色斑に含まれる黒色色素が明瞭に残っている

は変異に富むことが知られているおり(Yamashita

et al., 2011),Upeneus sp. は 1 個体しか得られてい

ないため,上記の色彩の特徴が個体変異であるの

か,種の違いを示すものなのか現時点で判断する

ことはできない.Upeneus sp. の分類学的位置づ

けを明らかにするためには今後,追加標本を得て

比較検討を行う必要がある.  謝辞

本報告をまとめるにあたり,標本採集の便宜

を図っていただいた中種子町熊野定置網と種子島

漁業協同組合の皆様,文献収集にご協力いただい

た高知大学大学院総合人間自然科学研究科の中山

直英氏と鹿児島大学魚類分類学研究室の松沼瑞樹

氏,標本作製や登録を手伝ってくださった鹿児島

大学総合研究博物館ボランティアの伊東正英氏,

原口百合子女史,内村公大氏,および同大学魚類

分類学研究室の目黒昌利氏,吉田朋弘氏,ジョン・

ビョル氏,福井美乃氏,畑 晴陵氏に厚くお礼申

し上げる.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館

の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」

の一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科

研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027,

26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南

アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー

ク構築」,JSPS 若手研究者インターナショナル・

トレーニング・プログラム「熱帯域における生物

資源の多様性保全のための国際教育プログラム」,

総合地球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけ

るエリアケイパビリティーの向上プロジェクト」,

国立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポッ

トの構造に関する研究プロジェクト」の援助を受

けた.

73


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

 引用文献 Liu, C. H., J. C. Ma and J. M. Jaw. 1985. The interesting marine fishes of Taiwan. Taiwan Provincial Department of Education, Taipei. x + 221 + 24 pp. 平田智法.2010.ヒメジ科の 1 種,p. 65.高木基裕・平田智法・ 平田しおり・中田 親(編).えひめ愛南お魚図鑑.創 風社出版,松山. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html)

74

RESEARCH ARTICLES Randall, J. E. and Kulbicki, M. 2006. A review of the goatfishes of the genus Upeneus (Perciformes: Mullidae) from New Caledonia and the Chesterfield Bank, with a new species and four new records. Zoological Studies, 45: 298–307. Uiblein, F. and Heemstra, P. C. 2010. A taxonomic review of the western Indian Ocean goatfishes of the genus Upeneus (Family Mullidae) with descriptions of four new species. Smithiana Bulletin, 11: 35–71. Yamashita, M., Golani, D. and Motomura, H. 2011. A new species of Upeneus (Perciformes: Mullidae) from southern Japan. Zootaxa, 3109: 47–58.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県から得られたサバ科 ヨコシマサワラ Scomberomorus commerson の記録 1

2

畑 晴陵 ・伊東正英 ・本村浩之 1

3

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学総合研究博物館(水産学部) 2 3

〒 897–1301 鹿児島県南さつま市笠沙町片浦 718

〒 890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに  サバ科 Scombridae は世界で 15 属 49 種が知ら れており(Collette and Nauen, 1983),日本近海に は 11 属 21 種が分布する(中坊・土居内,2013). サワラ属 Scomberomorus は世界で 18 種が有効種 と し て 認 め ら れ て お り(Collette and Nauen, 1983) ,そのうち,日本からはヨコシマサワラ S. commerson,タイワンサワラ S. guttatus,ヒラサ ワラ S. koreanus,サワラ S. niphonius,ウシサワ ラ S. sinensis の 5 種が知られている(中坊・土居内, 2013).Scomberomorus commerson は Lacepéde (1800) によって Scomber commerson として新種記 載された.Kishinouye(1923)は山口県北岸から, 日本における本種の標本に基づく初めての記録を 報告し,同時に本種に対して和名ヨコシマサワラ を提唱した.  現在,ヨコシマサワラはインド・西太平洋,紅 海および地中海の熱帯・亜熱帯域に分布すること が 知 ら れ(Kishinouye, 1923; Collette and Nauen, 1983; Dor, 1984; Collette and Russo, 1984; Moshin and Ambak, 1996; Carpenter et al., 1997; Collette, 2001; Kimura et al., 2003; Kim et al., 2005; Kimura, 2009; Kimura, 2011; Kimura, 2013),国内からはこ れまで新潟県佐渡島周辺,山口県北岸,長崎県生     Hata, H., M. Ito and H. Motomura. 2014. First record of Scomberomorus commerson (Perciformes: Scombridae) from Kagoshima Prefecture, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 75–79. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

月島と琉球列島から標本に基づいて報告されてい る(Kishinouye, 1923;加藤,1956;道津・冨山, 1967; 吉 野 ほ か,1975; 中 坊・ 土 居 内,2013). 2010 年 12 月 30 日に鹿児島県南さつま市笠沙町 沖で,ヨコシマサワラと同定される 1 個体が採集 された.本標本は鹿児島県におけるヨコシマサワ ラの標本に基づく初めての記録となるため,ここ に報告する.  材料と方法 計 数・ 計 測 方 法 は お お む ね Marr and Schaefer (1949) を改変した Gibbs and Collette (1967) にした がった.計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm まで行った.ヨコシマサワラの生鮮時の体色の記 載は,固定前に撮影された鹿児島県産の 1 標本 (KAUM–I. 35615)のカラー写真に基づく.標本 の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009)に 準拠した.本報告に用いた標本は,鹿児島大学総 合研究博物館(KAUM: Kagoshima University Museum)に保管されており,上記の生鮮時の写真 は同館のデータベースに登録されている.  結果と考察 Scomberomorus commerson (Lacepéde, 1800) ヨコシマサワラ (Fig. 1) 標 本 KAUM–I. 35615, 標 準 体 長 476.0 mm, 尾叉長 494.0 mm,鹿児島県南さつま市笠沙町片 浦 崎 ノ 山 東 側(31°25′44″N, 130°11′49″E), 水 深 27 m,2010 年 12 月 30 日,定置網,伊東正英.

75


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1. Fresh specimen of Scomberomorus commerson (KAUM–I. 35615, 476.0 mm FL, Kagoshima Prefecture, Japan).

記載 計数形質と体各部の尾叉長に対する割

1923; Collette and Nauen, 1983; Dor, 1984; Collette

合を Table 1 に示した.体は細長い楕円形でよく

and Russo, 1984; Moshin and Ambak, 1996; Carpenter

側扁する.体の輪郭は背腹が同程度に膨らむ.体

et al., 1997; Collette, 2001; Kimura et al., 2003; Kim

高は頭長の約 0.82 倍と低く,第 2 背鰭起部で最大.

et al., 2005; Kimura, 2009, 2011, 2013).国内では新

上下各顎にはそれぞれ 1 列の円錐歯があり,歯の

潟 県 佐 渡 島 周 辺( 加 藤,1956), 山 口 県 北 岸

縁辺には微細鋸歯がある.吻端は尖る.口裂は大

(Kishinouye, 1923),長崎県生月島(道津・冨山,

きく,主上顎骨後端は眼窩後縁直下に達する.主

1967),鹿児島県(本研究)および琉球列島(吉

上顎骨後端は露出する.第 1 背鰭と第 2 背鰭は近

野ほか,1975;Senou et al., 2006)から報告がある.

接する.第 1 背鰭は後方にゆくに従って低くなる.

備考 本標本は吻が短いこと,第 1 鰓弓上の

第 2 背鰭起部は臀鰭起部より前方に位置する.第

鰓耙数が 3 本であること,第 1 背鰭棘条が 16 本

2 背鰭基底後端は臀鰭第 14 軟条起部直上に位置

で あ る こ と, 上 顎 後 端 が 露 出 す る こ と な ど が

する.臀鰭起部は第 2 背鰭第 10 軟条起部直下に

Collette and Nauen (1983) や Collette and Russo

位置する.胸鰭起部は第 1 背鰭起部直下よりわず

(1984),Collette (2001) が報告した Scomberomorus

かに前方に位置する.胸鰭後端は尖り,第 1 背鰭

の標徴と一致した.また体に多くの横帯を有する

第 10 棘条起部直下に達する.腹鰭起部は第 1 背

こと,側線は第 2 背鰭後方で急に下方に曲がるこ

鰭起部直下に位置し,腹鰭後端は第 1 背鰭第 6 棘

と,歯の縁辺に微細鋸歯があることなどの特徴が

条起部直下に達する.尾鰭は深く湾入する.側線

Collette and Russo (1984) や Collette (2001),中坊・

は胸鰭基部上方から始まり,第 2 背鰭後方で急に

土 居 内(2013) の 報 告 し た Scomberomorus

下方に曲がり,尾鰭基底付近で終わる.体は細か

commerson の標徴とよく一致したため,本種と同

い小鱗に被われる.

定された.また,本標本の計数値および計測値は,

色彩 生鮮時の色彩 ― 体背面は黒色.体側上

タイとマレーシアから採集され,本研究で比較を

部は青みを帯びた銀色で,体腹面は一様に銀色.

行った標本の値の範囲内におおむね当てはまり,

第 1 背鰭は一様に淡い黒色.第 2 背鰭,背鰭後方

よく一致する.鹿児島県産の標本は,タイとマレー

の小離鰭,胸鰭および尾鰭は緑がかった濃い黒色.

シア産の標本と比べて,頭長,第 1 背鰭前長,第

腹鰭棘条および腹鰭の鰭膜は白色.腹鰭軟条は黒

2 背鰭前長,胸鰭前長,腹鰭前長,腹鰭長,眼窩径,

色.臀鰭の先端および臀鰭後方の小離鰭は白色.

上顎長の尾叉長に対する割合がやや小さく,一方,

臀鰭基底付近は黒色.体側には暗色横帯が多数入

体長,第 2 背鰭長の割合はやや大きい(Table 1).

る.固定後の色彩 ― 体背面は暗い褐色となる.

し か し, 本 標 本 か ら 得 ら れ た 値 は Collette and

分布 紅海を含むインド・西太平洋,および

Russo (1984) の 示 し た Scomberomorus commerson

地中海の熱帯・亜熱帯域に分布する(Kishinouye,

の計数値・計測値とよく一致し,これらの若干の

76


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

相違は種内変異であると考えた.本種は側線が第

2001),鹿児島県では 2010 年に 1 個体が単独で漁

2 背鰭後方で急に下方に曲がること,第 1 鰓弓上

獲されたにすぎない.これは上記個体が黒潮に

の総鰓耙数が 3–8 であること,第 1 背鰭棘条数が

よって鹿児島に偶発的に運ばれてきた可能性を強

15–18 であることなどで同属他種から識別される

く示しており,本種が鹿児島県近海で再生産して

(Collette and Russo, 1984).

いる可能性も低いと考えられる.

ヨコシマサワラの鹿児島県での採集記録は,こ

比 較 標 本  ヨ コ シ マ サ ワ ラ Scomberomorus

れまでの国内における本種の分布の空白域を埋め

commerson(10 個 体, 体 長 112.4–468.0 mm):

るものであり,本種が佐渡島から琉球列島にかけ

KAUM–I. 12638, 体 長 374.0 mm, マ レ ー シ ア・

て連続的に広く分布することを示唆する.しかし,

サバ州クダ沖(06°93′N, 116°94′E),2008 年 10 月

本種は群泳することが知られているが(Collette,

5 日, 荻 原 豪 太;KAUM–I. 16943, 体 長 152.0

Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of folk length, of Scomberomorus commerson. Minami-satsuma Kagoshima Prefecture, Japan Fork length (FL; mm) Counts Dorsal spines Dorsal fin rays Anal fin rays Pectoral fin rays Pelvic spines Pelvic fin rays Caudal fin rays Dorsal finlets Anal finlets Gill rakers Measurement (% FL) Standard length Head length Snout to insertion first dorsal Snout to insertion second dorsal Snout to insertion anal Snout to insertion of pectoral fin Snout to insertion of ventral Greatest depth Length pectoral Pelvic fin length Insertion pelvic fin to vent Pectoral insertion to first dorsal Length base first dorsal Length base second dorsal Spread caudal Length longest dorsal spine Length first dorsal spine Length second dorsal Length anal Length longest dorsal finlet Snout length Diameter of iris Length of bony orbit Interorbital width Length maxillary Least depth caudal peduncle Maximum width of body Greatest width caudal peduncle at keels

Thailand and Malaysia

n=1

n =9

494

118.5–496.0

17 18 17 21 1 5 21 10 10 3

16–18 15–17 16–21 20–23 1 5 21 10–11 8–11 3–6

96.4 20.9 21.9 49 54.7 22.4 23.3 17.3 11.8 4.6 27.3 7.9 27 10.1 23 broken broken 9.2 8.8 2.8 7.9 2.9 3.7 6.9 11.4 3.2 8.8 3.7

94.4–96.0 (93.7) 21.4–25.9 (23.8) 22.7–27.3 (25.1) 49.2–53.0 (51.1) 52.4–57.6 (55.6) 22.5–27.1 (24.9) 24.0–28.3 (26.5) 17.0–21.3 (19.1) 9.3–12.1 (10.4) 4.7–5.8 (5.3) 25.2–29.8 (26.9) 7.7–9.8 (8.8) 25.1–27.0 (26.0) 7.7–10.6 (9.3) 18.9–36.5 (23.9) 6.3–19.3 (11.3) 5.0–5.8 (5.4) 5.8–8.7 (7.7) 4.6–9.0 (7.0) 2.2–3.4 (2.9) 7.5–9.0 (8.4) 2.8–4.8 (3.9) 4.0–6.0 (4.9) 6.1–7.8 (6.6) 12.0–15.5 (13.7) 3.0–3.6 (3.3) 7.2–17.3 (9.3) 1.3–4.0 (2.6)

77


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

mm,マレーシア・トレンガヌ州クアラトレンガ

アジアにおける沿岸海洋学の研究教育ネットワー

ヌ 沖(05°22′N, 103°15′E),2008 年 12 月 17 日,

ク構築」,JSPS 若手研究者インターナショナル・

松沼瑞樹;KAUM–I. 22137,体長 468.0 mm,マレー

トレーニング・プログラム「熱帯域における生物

シ ア・ サ バ 州 ク ダ 沖(06°93′N, 116°94′E),2009

資源の多様性保全のための国際教育プログラム」,

年 8 月 23 日,荻原豪太;KAUM–I. 23185,体長

総合地球環境学研究所「東南アジア沿岸域におけ

226.3 mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカー

るエリアケイパビリティーの向上プロジェクト」,

ン県マハチャイの市場で購入),2009 年 9 月 8 日,

国立科学博物館「日本の生物多様性ホットスポッ

底曳網,松沼瑞樹;KAUM–I. 23432,体長 144.9

トの構造に関する研究プロジェクト」の援助を受

mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン

けた.

県マハチャイの市場で購入),2009 年 9 月 24 日, 底曳網,松沼瑞樹;KAUM–I. 32848,体長 228.6 mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン 県マハチャイの市場で購入),2010 年 10 月 27 日, 底曳網,吉田朋弘;KAUM–I. 33123,体長 148.2 mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン 県マハチャイの市場で購入),2010 年 11 月 18 日, 底曳網,吉田朋弘;KAUM–I. 32848,体長 228.6 mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン 県マハチャイの市場で購入),2010 年 11 月 25 日, 底曳網,吉田朋弘;KAUM–I. 39447,体長 112.4 mm,マレーシア・セランゴール州タンジュンセ パット沖(02°39′N, 101°33′E),33 m,2007 年 12 月 2 日,本村浩之;KAUM–I. 47470,体長 198.7 mm,タイ王国・タイ湾(サムットプラーカーン 県マハチャイの市場で購入),2012 年 6 月 20 日, 底曳網,吉田朋弘.  謝辞 本報告を取りまとめるにあたり,原口百合子 氏,西 大樹氏,大石一樹氏をはじめとする鹿児 島大学総合研究博物館ボランティアの皆さまと同 博物館魚類分類学研究室の皆さまには適切な助言 を頂いた.以上の方々に謹んで感謝の意を表する. 比較標本は日本学術振興会の「若手研究者イン ターナショナル・トレーニング・プログラム」に よるタイ,マレーシアの魚類相調査の過程で採集 された.本研究は,鹿児島大学総合研究博物館の 「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェクト」の 一環として行われた.本研究の一部は JSPS 科研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点事業「東南

78

 引用文献 Carpenter, K. E., F. Krupp, D. A. Jones and U. Zajonz. 1997. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of Kuwait, eastern Saudi Arabia, Bahrain, Qatar, and the United Arab Emirates. FAO, Rome. 293 pp., 17 pls. Collette, B. B. 2001. Scombridae. Pp. 3721–3756 in K. E. Carpenter and V. H. Niem (eds.). FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the western central Pacific, vol. 6, no. 4. FAO, Rome. Collette, B. B. and C. E. Nauen. 1983. FAO species catalogue. Vol. 2. Scombrids of the world. An annoutated and illustrated catalogue of tunas, mackerels, bonitos and related species known to date. FAO Fisheries Synopsis, 2 (125): 1–137. Collette, B. B. and J. L. Russo. 1984. Morphology, systematics, and biology of the Spanish mackerels (Scombridae). Fishery Bulletin, 82 (4): 545–692. Dor, M. 1984. Checklist of the fishes of the Red Sea. Israel Academy of Sciences and Humanities, Jerusalem. xxii + 437 pp. 道津喜衛・冨山一郎.1967.西海国立公園の海産魚類.長 崎大学水産学部研究報告,23: 1–42. Gibbs, R. H. and B. B. Collette. 1967. Comparative anatomy and systematic of the tunas, genus Thunnus. Fishery Bulletin, 66 (1): 65–130. 加藤源治.1956.日本海海産魚類目録.日本海区水産研究 所研究報告,4: 311–331. Kim, I. S., Y. Choi, C. L. Lee, Y. J. Lee, B. J. Kim and J. H. Kim. 2005. Illustrated book of Korean fishes. Kyhaku Publishing, Seoul. 615 pp. Kimura, S. 2009. Scombridae. Pp. 311–312 in S. Kimura, U. Satapoomin and K. Matsuura (eds.). Fishes of Andaman Sea. West coast of southern Thailand. National Museum of Nature and Science, Tokyo. Kimura, S. 2011. Scomberomorus commerson (Lacepéde, 1800). P. 222 in M. Matsunuma, H. Motomura, K. Matsuura, N. A. M. Shazili and M. A. Ambak (eds.). Fishes of Terengganu – east coast of Malay Peninsula, Malaysia. National Museum of Nature and Science, Tokyo, Universiti Malaysia Terengganu, Terengganu and Kagoshima University Museum, Kagoshima. Kimura, S. 2013. Scomberomorus commerson (Lacepéde, 1800). P. 204 in T. Yoshida, H. Motomura, P. Musikasinthorn and K. Matsuura (eds.). Fishes of northern Gulf of Thailand. National Museum of Nature and Science, Tsukuba, Research Institute for Humanity and Nature, Kyoto and Kagoshima University Museum, Kagoshima.


RESEARCH ARTICLES Kimura, S., T. Peristiwady and S. R. Suharti. 2003. Scombridae. Pp. 209–212 in S. Kimura and K. Matsuura (eds.). Fishes of Bitung, northern tip of Sulawesi, Indonesia. Ocean Research Institute, the University of Tokyo, Tokyo. Kishinouye, K. 1923. Contributions to the comparative study of the so-called scombrid fishes. Journal of the College Agriculture, Imperial University Tokyo, 8 (3): 293–475. Lacepéde, B. G. E. 1800. Histoire naurelle des Poissons. Vol.2. Plassan, Paris. lxiv + 632. Marr, J. C. and M. B. Schaefer. 1949. Difinitions of body dimensions used in describing tunas. United States Fish and Wildlife Service Fishery Bulletin, 47 (51): 241–244. Moshin, A. K. M. and M. A. Ambak. 1996. Marine fishes and fisheries of Malaysia and neighbouring countries. Universiti Pertanian Malaysia Press, Serdang. ivxxxvi + 744 pp.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) 中 坊 徹 次・ 土 居 内  龍.2013. サ バ 科.Pp. 1648–1654, 2224.中坊徹次(編).日本産魚類検索 全種の同定, 第三版.東海大学出版会,秦野. Senou, H., H. Kodato, T. Nomura and K. Yunokawa. 2006. Coastal fishes of Ie-jima island, the Ryukyu Islands, Okinawa, Japan. Bulletin of the Kanagawa Prefectural Museum (Natural Science), 35: 67–92. 吉野哲夫・西島信昇・篠原士郎.1975.琉球列島産魚類目録. 琉球大学理工学部紀要,理学編,20: 61–118.

79


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

80

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県南九州市頴娃町番所鼻自然公園地先の魚類リスト 1

2

岩坪洸樹 ・加藤 紳 ・本村浩之 1 2

1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

〒 891–0704 鹿児島県南九州市頴娃町別府 5202–2 シーホースウェイズ株式会社

 はじめに 南九州市頴娃町の海岸に位置する番所鼻自然 公園は,開聞岳と海と空を眺望できる景勝観光地 である.公園の地表は約 9 万年前の阿多火砕流の 下に柔らかい鳥浜火砕流や粘土層があり,それら が波の影響で浸食された結果,硬い層が取り残さ れ形成された(鹿児島県地理学会,1991).公園 内は複雑に入り組んだ岩の裂け目や凹凸地形を呈 しており,地先の大きな環状プールは全国的にも 希少な地形である.また,環状プール内にはハマ サンゴ Porites australiensis Vaughan, 1918 による小 さな環礁が散在する.さらに,環状プールの底質 は岩礁帯,サンゴ礁帯,転石帯,および砂泥帯が 入り混じっており変化に富んでいる. 2012 年 8 月 4 日から 2013 年 11 月 4 日にかけ て行った魚類相調査で,鹿児島県南九州市頴娃町 別府番所鼻自然公園地先の海域から 37 科 70 属 105 種の魚類を確認した.そのうち,アマクサヨ ウジ Festucalex erythraeus (Gilbert, 1905) とミサキ スジハゼ Priolepis borea (Snyder, 1909) が標本に基 づ く 国 内 で の 南 限 更 新 記 録, ク ロ オ ビ エ ビ ス Sargocentron praslin (Lacepède, 1802),セグロチョ ウ チ ョ ウ ウ オ Chaetodon ephippium Cuvier, 1831, ニ セ フ ウ ラ イ チ ョ ウ チ ョ ウ ウ オ Chaetodon lineolatus Cuvier, 1831,フタスジリュウキュウス     Iwatsubo, H., S. Kato and H. Motomura. 2014. List of fishes off the Bandokorobana Nature Park in Ei, Minamikyushu, Kagoshima, southern Japan. Nature of Kagoshima 40: 81–94. HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum. kagoshima-u.ac.jp).

ズ メ ダ イ Dascyllus reticulatus (Richardson, 1846), ミヤコキセンスズメダイ Chrysiptera brownriggii (Bennett, 1828),トカラベラ Halichoeres hortulanus (Lacepède, 1801), ム ナ テ ン ベ ラ Halichoeres melanochir Fowler and Bean, 1928, キ ヌ ベ ラ Thalassoma purpureum (Forsskål, 1775), ハ ク テ ン ヘ ビ ギ ン ポ Enneapterygius leucopunctatus Shen, 1994, ハ ナ ビ ヌ メ リ Paradiplogrammus enneactis (Bleeker, 1879), ペ ガ ス ス ベ ニ ハ ゼ Trimma annosum Winterbottom, 2003, ニ シ キ カ ワ ハ ギ Pervagor janthinosoma (Bleeker, 1854),およびコク テ ン フ グ Arothron nigropunctatus (Bloch and Schneider, 1801) の 13 種が標本に基づく鹿児島県 本土での初記録となる.本調査で確認された魚類 の記録は,観光地でもある同海域の生態系保全の ための基礎情報として重要である.それと同時に, 国内における魚類の分布情報の蓄積に寄与するた めにも,ここに記して報告する.  材料と方法 採集場所はすべて鹿児島県南九州市頴娃町別 府番所鼻自然公園地先(31°14ʹN, 130°25ʹE)であ る.標準体長は体長と表記した.体長は吻端から 尾てい骨後端まで,全長は吻端から尾鰭後端まで を計測した.計測はデジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで行った.本報告に用いた標本は,鹿 児島大学総合研究博物館(KAUM)に保管され ており,生鮮時の標本のカラー写真は同館の画像 データベースに登録されている. 標本の作製,登録,撮影,固定方法は本村(2009) に準拠した.分類群,学名,および和名は中坊 (2013)にしたがった.目・科の配列は中坊(2013)

81


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

にしたがい,種は学名のアルファベット順に配列

Sargocentron praslin (Lacepède, 1802)

した.また,未同定種は,属名のあとに sp. を付

標本 KAUM–I. 56336,体長 45.8 mm,タモ網,水深 5 m, 2013 年 9 月 11 日,岩坪洸樹.

し属の末尾に配列した.特筆すべき情報を含む種 には,備考にその旨を記した.  魚類リスト

備考 本種はこれまでに,日本国内では静岡 県,高知県,宮崎県,大隅諸島,および琉球列島 から記録されている(Randall, 1998;岩槻ほか,

ウナギ目 Anguilliformes

1999; 山 川,2001;Motomura et al., 2010; 林,

ウツボ科 Muraenidae

2013a;西山,2013;冨山・岸本,2013).したがっ

クモウツボ 

て,本報告は標本に基づく鹿児島県本土における

Echidna nebulosa (Ahl, 1789)

クロオビエビスの初記録となる.本種は国内にお

標本 KAUM–I. 55738,全長 268.6 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 7 月 10 日,岩坪洸樹.

いて静岡県以南の太平洋沿岸から琉球列島にかけ て広く分布すると考えられる.

ウツボ  Gymnothorax kidako (Temminck and Schlegel, 1847) 標本 KAUM–I. 54905,全長 694.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日,岩坪洸樹.

カワウツボ  Gymnothorax meleagris (Shaw, 1795) 標本 KAUM–I. 56343,全長 479.3 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 22 日,岩坪洸樹.

トラウツボ  Muraena pardalis Temminck and Schlegel, 1847

Fig. 1. Fresh specimen of Sargocentron praslin from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56336, 45.8 mm SL).

標本 KAUM–I. 55392,全長 129.7mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

ニシン目 Clupeiformes ニシン科 Clupeidae キビナゴ  Spratelloides gracilis (Temminck and Schlegel, 1846) 標本 KAUM–I. 55386,体長 56.7mm,タモ網,水深 0.1 m, 2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

ナマズ目 Siluriformes ゴンズイ科 Plotosidae ゴンズイ  Plotosus japonicus Yoshino and Kishimoto, 2008 標本 KAUM–I. 54205,全長 112.3 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 3 月 21 日,岩坪洸樹.

キンメダイ目 Beryciformes イットウダイ科 Holocentridae クロオビエビス (Fig. 1) 

82

トゲウオ目 Gasterosteiformes ヤガラ科 Fistulariidae アオヤガラ  Fistularia commersonii Rüppell, 1838 標本 KAUM–I. 56143,体長 141.1 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

ヨウジウオ科 Syngnathidae ノコギリヨウジ  Doryrhamphus (Doryrhamphus) japonicus Araga and Yoshino, 1975 標本 KAUM–I. 54653,体長 50.0 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 5 月 29 日,岩坪洸樹.

アマクサヨウジ (Fig. 2)  Festucalex erythraeus (Gilbert, 1905) 標本 KAUM–I. 55936,体長 53.5 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 7 月 28 日,岩坪洸樹.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 2. Fresh specimen of Festucalex erythraeus from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 55936, 53.5 mm SL).

備考 本種はこれまでに,日本国内では伊豆

オニカサゴ 

大島,千葉県,静岡県,高知県柏島,山口県日本

Scorpaenopsis cirrosa (Thunberg, 1793)

海沿岸,愛媛県,長崎県,および天草諸島から記

標本 KAUM–I. 56455,体長 166.5 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

録 さ れ て い る(Tomiyama, 1972; 瀬 能 ほ か, 1997;萩原・木村,2006;高木ほか,2010;瀬能, 2013).したがって,本報告は標本に基づく鹿児 島県におけるアマクサヨウジの初記録となると同

イヌカサゴ  Scorpaenopsis ramaraoi Randall and Eschmeyer, 2002

時に,本種の国内における分布の南限記録である.

標本 KAUM–I. 52092,体長 107.7 mm,タモ網,水深 2 m, 2012 年 10 月 12 日,岩坪洸樹.

クロウミウマ 

ミノカサゴ 

Hippocampus kuda Bleeker, 1852

Epinephelus coeruleopunctatus (Bloch, 1790)

標本 KAUM–I. 58710,オス,体長 172.0 mm,KAUM–I. 58711, オ ス, 体 長 136.9 mm,KAUM–I. 58713, 体 長 78.5 mm,定置網,2013 年,加藤 紳;KAUM–I. 58712,メス, 体長 130.5 mm,タモ網,2013 年,加藤 紳.

標本 KAUM–I. 57870,体長 42.7 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 7 月 10 日,岩坪洸樹.

ハタ科 Scorpaenidae

タカクラタツ 

ハクテンハタ 

Hippocampus trimaculatus Leach, 1814

Epinephelus coeruleopunctatus (Bloch, 1790)

標本 KAUM–I. 58709,オス,体長 131.5 mm,刺し網, 2013 年,加藤 紳.

標本 KAUM–I. 56147,体長 28.2mm,タモ網,水深 0.3 m, 2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

スズキ目 Perciformes

アカハタ 

メバル科 Sebastidae

Epinephelus fasciatus (Forsskål, 1775)

カサゴ 

標本 KAUM–I. 56335,体長 51.5mm,タモ網,水深 5 m, 2013 年 9 月 11 日,岩坪洸樹.

Sebastiscus marmoratus (Cuvier, 1829) 標本 KAUM–I. 56338,体長 74.7 mm,タモ網,水深 5 m, 2013 年 9 月 11 日,岩坪洸樹.

フサカサゴ科 Scorpaenidae イソカサゴ  Scorpaenodes evides (Jordan and Thompson, 1914) 標本 KAUM–I. 54652,体長 42.3 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 5 月 29 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 55297, 体 長 49.1 mm, タ モ 網, 水 深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日,岩坪洸樹; KAUM–I. 56139,体長 37.4 mm,タモ網,水深 3 m,2013 年 8 月 14 日,岩坪洸樹;KAUM–I. 56337,体長 42.3 mm,タ モ 網, 水 深 5 m,2013 年 9 月 11 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 57865,体長 57.0 mm,タモ網,水深 3 m,2013 年 9 月 15 日, 岩坪洸樹.

タナバタウオ科 Plesiopidae タナバタウオ  Plesiops coeruleolineatus Rüppell, 1835 標本 KAUM–I. 54207,体長 50.1 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 5 月 21 日,岩坪洸樹.

テンジクダイ科 Apogonidae オオスジイシモチ Apogon doederleini Jordan and Snyder, 1901 標本 KAUM–I. 55390,体長 60.1 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

83


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

コミナトテンジクダイ

チョウチョウウオ

Apogon kominatoensis Ebina, 1934

Chaetodon auripes Jordan and Snyder, 1901

標本 KAUM–I. 55935,体長 40.0 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 7 月 28 日,岩坪洸樹.

標本 KAUM–I. 54654,体長 27.6 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 5 月 29 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56134, 体 長 39.9 mm,タモ網,水深 3 m,2013 年 8 月 14 日,岩坪洸樹.

クロホシイシモチ Apogon notatus (Houttuyn, 1782) 標本 KAUM–I. 55389,体長 55.9 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

キンセンイシモチ

セグロチョウチョウウオ (Fig. 3) Chaetodon ephippium Cuvier, 1831 標本 KAUM–I. 56137,体長 26.9 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 8 月 14 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では八丈

Apogon properuptus (Whitley, 1964)

島,小笠原諸島,千葉県,静岡県,和歌山県,愛

標本 KAUM–I. 55391,体長 54.5 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

媛県,高知県,屋久島,および琉球列島から記録

シボリ Fowleria variegata (Valenciennes, 1832) 標本 KAUM–I. 56148,体長 18.7 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 8 月 21 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56698, 体 長 29.2 mm, タ モ 網, 水 深 4 m,2013 年 9 月 22 日, 岩 坪 洸 樹; KAUM–I. 57866,体長 72.4 mm,タモ網,水深 3 m,2013 年 9 月 22 日,岩坪洸樹.

されている(東ほか,1989;市川ほか,1992;平 田 ほ か,1996; 平 田 ほ か,2001; 坂 井 ほ か, 2005; 坂 井 ほ か,2009; 高 木 ほ か,2010; Motomura and Aizawa, 2011;加藤,2011a;島田, 2013a).したがって,本報告は標本に基づく鹿児 島県本土におけるセグロチョウチョウウオの初記 録となる.

フエダイ科 Lutjanidae フエダイ Lutjanus stellatus Akazaki, 1983 標本 KAUM–I. 56144,体長 46.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

ヒメジ科 Mullidae ホウライヒメジ Parupeneus ciliatus (Lacepède, 1802) 標本 KAUM–I. 55393,体長 54.9 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

ハタンポ科 Pempheridae ミナミハタンポ Pempheris schwenkii Bleeker, 1855 標本 KAUM–I. 58664,体長 29.8 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

Fig. 3. Fresh specimen of Chaetodon ephippium from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56137, 26.9 mm SL).

チョウチョウウオ科 Chaetodontidae トゲチョウチョウウオ

ニセフウライチョウチョウウオ (Fig. 4)

Chaetodon auriga Forsskål, 1775

Chaetodon lineolatus Cuvier, 1831

標本 KAUM–I. 54655,体長 19.9 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 5 月 29 日,岩坪洸樹.

標本 KAUM–I. 56135,体長 34.4 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 8 月 14 日,岩坪洸樹.

84


RESEARCH ARTICLES

備考 本種はこれまでに,日本国内では八丈

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

トノサマダイ

島,小笠原諸島,千葉県,和歌山県,高知県柏島,

Chaetodon speculum Cuvier, 1831

大阪府,愛媛県,屋久島,および琉球列島から記

標本 KAUM–I. 54656,体長 12.2 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 5 月 29 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56153, 体 長 21.8 mm,KAUM–I. 56154, 体 長 12.5 mm, タ モ 網, 水 深 2 m, 2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

録 さ れ て い る( 市 川 ほ か,1992; 平 田 ほ か, 1996;瀬能ほか,1997;坂井ほか,2005;萩原・ 木 村,2006; 坂 井 ほ か,2009;Motomura et al., 2010; 高 木 ほ か,2010; 岩 坪,2013a; 加 藤,

ヤリカタギ

2011a;島田,2013a).したがって,本報告は標

Chaetodon trifascialis Quoy and Gaimard, 1825

本に基づく鹿児島県本土におけるニセフウライ

標本 KAUM–I. 57869,体長 29.8 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 10 月 13 日,岩坪洸樹.

チョウチョウウオの初記録となる.

ミスジチョウチョウウオ Chaetodon trifasciatus Park, 1797 標本 KAUM–I. 56138,体長 25.0 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 8 月 14 日,岩坪洸樹.

フウライチョウチョウウオ Chaetodon vagabundus Linnaeus, 1758 標本 KAUM–I. 56341,体長 41.5 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 11 日,岩坪洸樹.

スズメダイ科 Pomacentridae イソスズメダイ Abudefduf notatus (Day, 1870) Fig. 4. Fresh specimen of Chaetodon lineolatus from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56135, 34.4 mm SL).

標本 KAUM–I. 56146,体長 28.6 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

シチセンスズメダイ チョウハン

Abudefduf septemfasciatus (Cuvier, 1830)

Chaetodon lunula (Lacepède, 1802)

標本 KAUM–I. 56684,体長 23.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 11 月 4 日,岩坪洸樹.

標本 KAUM–I. 55394,体長 29.1 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

ロクセンスズメダイ アケボノチョウチョウウオ

Abudefduf sexfasciatus (Lacepède, 1801)

Chaetodon melannotus Bloch and Schneider, 1801

標本 KAUM–I. 55304,体長 19.1 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日,岩坪洸樹.

標本 KAUM–I. 55733,体長 19.6 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 7 月 10 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56149, 体 長 19.9 mm,タモ網,水深 2 m,2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

シマスズメダイ Abudefduf sordidus (Forsskål, 1775)

スミツキトノサマダイ Chaetodon plebeius Cuvier, 1831 標本 KAUM–I. 55394,体長 29.1 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

標本 KAUM–I. 55303,体長 23.2 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56683, 体 長 23.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 11 月 4 日,岩坪洸樹.

85


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

オヤビッチャ

媛県,高知県,大隅諸島,および琉球列島から記

Abudefduf vaigiensis (Quoy and Gaimard, 1825)

録 さ れ て い る( 市 川 ほ か,1992; 平 田 ほ か,

標本 KAUM–I. 55395,体長 31.6 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

1996;平田ほか,2001;坂井ほか,2005;坂井ほ

クマノミ Amphiprion clarkii (Bennett, 1830) 標本 KAUM–I. 55732,体長 30.7 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 7 月 10 日,岩坪洸樹.

か,2009; 高 木 ほ か,2010;Motomura et al., 2010; 加 藤,2011b; 青 沼 ほ か,2013; 岩 坪, 2013b).したがって,本報告は標本に基づく鹿児 島県本土におけるフタスジリュウキュウスズメダ イの初記録となる.

ミヤコキセンスズメダイ (Fig. 5) Chrysiptera brownriggii (Bennett, 1828) 標本 KAUM–I. 56692,体長 16.2 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 9 月 15 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では伊豆 大島,八丈島,小笠原諸島,千葉県から高知県に かけての太平洋沿岸,大隅諸島,および琉球列島 から記録されている(東ほか,1989;市川ほか, 1992;瀬能ほか,2002;坂井ほか,2005;坂井ほ

Fig. 6. Fresh specimen of Dascyllus reticulatus from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56145, 7.6 mm SL).

か,2009;Motomura et al., 2010; 加 藤,2011b; 青沼ほか,2013).したがって,本報告は標本に 基づく鹿児島県本土におけるミヤコキセンスズメ ダイの初記録となる.

ハクセンスズメダイ Plectroglyphidodon leucozonus (Bleeker, 1859) 標本 KAUM–I. 56340,体長 34.8 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 11 日,岩坪洸樹.

ソラスズメダイ Pomacentrus coelestis Jordan and Starks, 1901 標本 KAUM–I. 56691,体長 17.3 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 9 月 15 日,岩坪洸樹.

Fig. 5. Fresh specimen of Chrysiptera brownriggii from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56692, 16.2 mm SL).

フタスジリュウキュウスズメダイ (Fig. 6) Dascyllus reticulatus (Richardson, 1846) 標本 KAUM–I. 56145,体長 7.6 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では三宅 島,八丈島,小笠原諸島,静岡県,和歌山県,愛

86

ナガサキスズメダイ Pomacentrus nagasakiensis Tanaka, 1917 標本 KAUM–I. 56690,体長 16.8 mm,タモ網,水深 5 m, 2013 年 9 月 22 日,岩坪洸樹.

ユゴイ科 Kuhliidae ギンユゴイ Kuhlia mugil (Forster, 1801) 標本 KAUM–I. 55300,体長 32.3 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日,岩坪洸樹.

カゴカキダイ科 Microcanthidae


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

カゴカキダイ Microcanthus strigatus (Cuvier, 1831) 標本 KAUM–I. 55302,体長 23.7 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 55396, 体 長 29.8 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

メジナ科 Girellidae クロメジナ Girella leonina (Richardson, 1846) 標本 KAUM–I. 54204,体長 85.7 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 3 月 21 日,岩坪洸樹.

ベラ科 Labridae イトヒキベラ

Fig. 7. Preserved specimen of Halichoeres hortulanus from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56339, 30.5 mm SL).

ムナテンベラ (Fig. 8) Halichoeres melanochir Fowler and Bean, 1928 標本 KAUM–I. 56702,体長 88.8 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

Cirrhilabrus temminckii Bleeker, 1853 標 本 KAUM–I. 56142, メ ス, 体 長 60.7 mm, タ モ 網, 水深 2 m,2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹;KAUM–I. 57864, 体長 21.8 mm,タモ網,水深 3 m,2013 年 10 月 13 日,岩 坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では八丈 島,千葉県,静岡県,徳島県,高知県,愛媛県, 長崎県,鹿児島県甑島,大隅諸島,および琉球列 島から記録されている(新井・井田,1975;藍澤・

ホンベラ

瀬能,1991;市川ほか,1992;平田ほか,1996;

Halichoeres bleekeri (Steindachner and Döderlein, 1887)

篠 原 ほ か,2000; 平 田 ほ か,2001; 瀬 能 ほ か,

標本 KAUM–I. 56703,体長 35.4 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

2002;田和・竹垣,2009;Motomura et al., 2010;

トカラベラ (Fig. 7) Halichoeres hortulanus (Lacepède, 1801)

高木ほか,2010;西山,2012;片山,2013;島田, 2013b).したがって,本報告は標本に基づく鹿児 島県本土におけるムナテンベラの初記録となる.

標本 KAUM–I. 56339,体長 30.5 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 11 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では伊豆 諸島,小笠原諸島,神奈川県,和歌山県,高知県 柏島,愛媛県,長崎県男女群島,大隅諸島,およ び琉球列島から記録されている(新井・井田, 1975;市川ほか,1992;平田ほか,1996;瀬能ほ か,2002; 坂 井 ほ か,2005; 坂 井 ほ か,2009;

Fig. 8. Preserved specimen of Halichoeres melanochir from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56702, 88.8 mm SL).

Motomura et al., 2010; 高 木 ほ か,2010; 西 山, 2012;片山,2013;島田,2013b).したがって,

アカササノハベラ

本報告は標本に基づく鹿児島県本土におけるトカ

Pseudolabrus eoethinus (Richardson, 1846)

ラベラの初記録となる.

標本 KAUM–I. 54206,体長 34.1 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 3 月 21 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 55388, 体 長 71.2 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

カミナリベラ Stethojulis interrupta terina Jordan and Snyder, 1902 標 本 KAUM–I. 56688, オ ス, 体 長 47.1mm,KAUM–I.

87


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 56689,メス,体長 47.1 mm,タモ網,水深 1 m,2013 年 9 月 15 日,岩坪洸樹;KAUM–I. 57863,体長 18.5 mm,タモ網, 水深 2 m,2013 年 10 月 13 日,岩坪洸樹.

ニシキベラ

RESEARCH ARTICLES

ナガブダイ Scarus rubroviolaceus Bleeker, 1847 標本 KAUM–I. 56704,体長 30.1 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 15 日,岩坪洸樹.

Thalassoma cupido (Temminck and Schlegel, 1846)

トラギス科 Pinguipedidae

標本 KAUM–I. 53941,体長 24.4 mm,タモ網,水深 1 m, 2013 年 3 月 21 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 54412, 体 長 85.3 mm, 釣 り, 水 深 0.5 m,2013 年 4 月 28 日, 岩 坪 洸 樹; KAUM–I. 55387,オス,体長 56.2 mm,タモ網,水深 0.3 m, 2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

コウライトラギス

キヌベラ (Fig. 9) Thalassoma purpureum (Forsskål, 1775) 標 本 KAUM–I. 55298, メ ス, 体 長 55.7 mm, タ モ 網, 水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では八丈 島,千葉県,静岡県,高知県柏島,福岡県,長崎

Parapercis snyderi Jordan and Starks, 1905 標本 KAUM–I. 55736,体長 50.3 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 7 月 10 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 54410, 体 長 62.5 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 4 月 28 日,岩坪洸樹.

ヘビギンポ科 Tripterygiidae ヘビギンポ Enneapterygius etheostoma (Jordan and Snyder, 1902) 標 本 KAUM–I. 53940, メ ス, 体 長 20.6 mm, タ モ 網, 水深 1 m,2013 年 5 月 21 日,岩坪洸樹;KAUM–I. 54669, オス,体長 42.5 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 5 月 29 日, 岩坪洸樹.

県男女群島,屋久島,および琉球列島から記録さ れている(市川ほか,1992;平田ほか,1996;瀬

ハクテンヘビギンポ (Fig. 10)

能 ほ か,2002; 坂 井 ほ か,2005; 坂 井 ほ か,

Enneapterygius leucopunctatus Shen, 1994

2009;Motomura et al., 2010;工藤・山田,2011;

標 本 KAUM–I. 55301, メ ス, 体 長 28.7 mm, タ モ 網, 水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日,岩坪洸樹;KAUM–I. 55380, オス,体長 28.4 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日, 岩坪洸樹.

西山,2012;島田,2013b).したがって,本報告 は標本に基づく鹿児島県本土におけるキヌベラの 初記録となる.

備考 本種はこれまでに,日本国内では高知 県 と 屋 久 島 か ら 記 録 さ れ て い る(Endo et al., 2010;Motomura et al., 2010;林,2013b).したがっ て,本報告は標本に基づく鹿児島県本土における ハクテンヘビギンポの初記録となる.

Fig. 9. Fresh female specimen of Thalassoma purpureum from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56298, 55.7 mm SL).

ブダイ科 Scaridae ブダイ Calotomus japonicus (Valenciennes, 1840) 標本 KAUM–I. 55397,体長 36.8 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

88

Fig. 10. Fresh specimen of Enneapterygius leucopunctatus from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan. A: male (KAUM–I. 55380, 28.4 mm SL); B: female (KAUM–I. 55307, 28.7 mm SL).


RESEARCH ARTICLES

ヘビギンポ属の 1 種 (Fig. 11) Enneapterygius sp. 標本 KAUM–I. 55381,体長 28.4 mm,KAUM–I. 55382, オ ス, 体 長 31.5 mm,KAUM–I. 55383, メ ス, 体 長 30.7 mm,KAUM–I. 55384, オ ス, 体 長 33.8 mm,KAUM–I. 55385,オス,体長 31.4 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56701, メ ス, 体 長 30.1 mm,タモ網,水深 4 m,2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

備考 本種は未記載種と考えられ,鹿児島大

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 m,2013 年 3 月 21 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 54203, 体 長 41.5 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 3 月 21 日,岩坪洸樹.

シマギンポ Salarias luctuosus Whitley, 1929 標本 KAUM–I. 56687,体長 51.2 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 22 日,岩坪洸樹.

ウバウオ科 Gobiesocidae

学総合研究博物館で研究が進んでいる.また,本

ハシナガウバウオ

種は高木ほか(2010)が生態写真に基づき愛媛県

Diademichthys lineatus (Sauvage, 1883)

から報告した Enneapterygius sp. 1 と同種と考えら

標 本 KAUM–I. 55734, オ ス, 体 長 51.3 mm, タ モ 網, 水深 2 m,2013 年 7 月 10 日,岩坪洸樹.

れる.

ミサキウバウオ Lepadichthys frenatus Waite, 1904 標本 KAUM–I. 56686,体長 43.1 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 22 日,岩坪洸樹.

ホソウバウオ Pherallodus indicus (Weber, 1913) 標本 KAUM–I. 55398,体長 23.1 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

ネズッポ科 Callionymidae Fig. 11. Fresh specimen of Enneapterygius sp. from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan. A: male (KAUM–I. 55382, 31.5 mm SL); B: female (KAUM–I. 55383, 30.7 mm SL).

イソギンポ科 Blenniidae カエルウオ Istiblennius enosimae (Jordan and Snyder, 1902) 標 本 KAUM–I. 53939, オ ス, 体 長 71.8 mm, タ モ 網, 水深 1 m,2013 年 5 月 21 日,岩坪洸樹.

ハナビヌメリ (Fig. 12) Paradiplogrammus enneactis (Bleeker, 1879) 標 本 KAUM–I. 53945, メ ス, 体 長 51.3 mm, タ モ 網, 水 深 1 m,2012 年 8 月 4 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 56140, オス,体長 68.8 mm,タモ網,水深 4 m,2013 年 7 月 10 日, 岩坪洸樹;KAUM–I.56141,メス,体長 54.6 mm,タモ網, 水深 3 m,2013 年 8 月 21 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では千葉 県から高知県にかけての太平洋沿岸,兵庫県,山 口県,愛媛県,高知県柏島,長崎県,および琉球 列島から記録されている(新井・安部,1970;平 田 ほ か,1996; 瀬 能 ほ か,1997; 篠 原 ほ か,

クモギンポ

1998;瀬能,2001;工藤・山田,2005;吉郷ほか,

Omobranchus loxozonus (Jordan and Starks, 1906)

2005;萩原・木村,2006;吉郷・中村,2008;高

標本 KAUM–I. 55737,体長 50.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 7 月 10 日,岩坪洸樹.

木ほか,2010;中坊・土居内,2013).したがって,

タマギンポ

本報告は標本に基づく鹿児島県本土におけるハナ ビヌメリの初記録となる.

Praealticus bilineatus (Peters, 1868) 標本 KAUM–I. 54202,体長 55.6 mm,タモ網,水深 0.1

89


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

クモハゼ Bathygobius fuscus (Rüppell, 1830) 標本 KAUM–I. 54200,体長 43.2 mm,水深 0.1 m,2013 年 3 月 21 日,岩坪洸樹.

オキナワハゼ Callogobius hasseltii (Bleeker, 1851) 標本 KAUM–I. 56696,体長 18.0 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

シュンカンハゼ Fig. 12. Fresh specimen of Paradiplogrammus enneactis from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan. A: male (KAUM–I. 56140, 68.8 mm SL); B: female (KAUM–I. 56141, 56.6 mm SL).

Callogobius snelliusi Koumans, 1953 標本 KAUM–I. 56685,体長 58.7 mm,タモ網,水深 5 m, 2013 年 9 月 22 日,岩坪洸樹.

ナンヨウミドリハゼ Eviota prasina (Klunzinger, 1871) ハゼ科 Gobiidae ダテハゼ Amblyeleotris japonica Takagi, 1957 標本 KAUM–I. 54409,体長 90.0 mm,釣り,水深 0.3 m, 2013 年 4 月 28 日,岩坪洸樹.

サラサハゼ Amblygobius phalaena (Valenciennes, 1837) 標本 KAUM–I. 57868,体長 36.0 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 11 月 4 日,岩坪洸樹.

ホシハゼ Asterropteryx semipunctata Rüppell, 1830 標本 KAUM–I. 56697,体長 31.2 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

クサビハゼ Bathygobius cotticeps (Steindachner, 1879) 標本 KAUM–I. 54201,体長 50.1 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 3 月 21 日,岩坪洸樹.

標本 KAUM–I. 54670,体長 25.9 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 5 月 29 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 55399, 体 長 27.2 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹; KAUM–I. 56693,体長 17.4 mm,タモ網,水深 4 m,2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

キンホシイソハゼ Eviota storthynx (Rofen, 1959) 標本 KAUM–I. 56694,体長 17.4 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

クツワハゼ Istigobius campbelli (Jordan and Snyder, 1901) 標本 KAUM–I. 54411,体長 67.4 mm,釣り,水深 0.3 m, 2013 年 4 月 28 日,岩坪洸樹.

ミサキスジハゼ (Fig. 13) Priolepis borea (Snyder, 1909) 標本 KAUM–I. 55400,体長 27.3 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

備考 ミサキスジハゼはこれまでに,日本国 内では伊豆大島,青森県下北半島,千葉県から高

ヤハズハゼ

知県にかけての太平洋沿岸,愛媛県,青森県から

Bathygobius cyclopterus (Valenciennes, 1837)

熊本県にかけての日本海・東シナ海沿岸,鹿児島

標本 KAUM–I. 55402,体長 19.9 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

湾から記録されている(今井・中原,1969;塩垣, 1985;松浦ほか,1988;東ほか,1989;藍澤・瀬 能,1991;平田ほか,1996;瀬能ほか,1997;篠

90


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

原ほか,2000;鈴木・渋川,2004;萩原・木村, 2006; 高 木 ほ か,2010; 明 仁 ほ か,2013; 辻, 2013).これまでの本種の南限記録は今井・中原 (1969)が報告した鹿児島県本土(鹿児島湾)で あるが,標本の有無や所在は不明である.また, 本標本の採集地は鹿児島県薩摩半島の南端に位置 する.したがって,本報告は標本に基づくミサキ

Fig. 14. Fresh specimen of Trimma annosum from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56695, 13.4 mm SL).

スジハゼの国内における分布の南限記録となる.

クロユリハゼ科 Ptereleotridae サツキハゼ F i g . 1 3 . F r e s h s p e c i m e n o f P r i o l e p i s b o re a f r o m o ff Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 55400, 27.3 mm SL).

Parioglossus dotui Tomiyama, 1958 標本 KAUM–I. 55735,体長 31.2 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 7 月 10 日,岩坪洸樹.

ツノダシ科 Zanclidae ツノダシ Zanclus cornutus (Linnaeus, 1758) ベンケイハゼ Priolepis cincta (Regan, 1908) 標本 KAUM–I. 55401,体長 34.7 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

オニハゼ Tomiyamichthys oni (Tomiyama, 1936) 標本 KAUM–I. 55934,体長 70.5 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 7 月 28 日,岩坪洸樹.

ペガススベニハゼ (Fig. 14) Trimma annosum Winterbottom, 2003 標本 KAUM–I. 56695,体長 13.4 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

備考 本種はこれまでに,日本国内では八丈

標本 KAUM–I. 55933,体長 60.0 mm,タモ網,水深 3 m, 2013 年 7 月 28 日,岩坪洸樹.

ニザダイ科 Acanthuridae ニザダイ Prionurus scalprum Valenciennes, 1835 標本 KAUM–I. 55299,体長 27.5 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 12 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 55403, 体 長 35.5mm,タモ網,水深 03 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

カレイ目 ササウシノシタ科 Soleidae ムスメウシノシタ  Aseraggodes sp. 標本 KAUM–I. 56700,体長 26.2 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日, 岩 坪 洸 樹;KAUM–I. 57867, 体 長 63.6 mm,タモ網,水深 3 m,2013 年 10 月 13 日,岩坪洸樹.

島,静岡県,大隅諸島,および琉球列島から記録

フグ目 Tetraodontiformes

されている(鈴木ほか,2008;加藤,2011a;明

モンガラカワハギ科 Balistidae

仁ほか,2013;鈴木,2013).したがって,本報

クラカケモンガラ 

告は標本に基づく鹿児島県本土におけるペガスス

Rhinecanthus verrucosus (Linnaeus, 1758)

ベニハゼの初記録となる.

標本 KAUM–I. 53944,体長 30.9 mm,タモ網,水深 1 m, 2012 年 8 月 4 日,岩坪洸樹.

91


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

カワハギ科 Monacanthidae

大隅諸島,および琉球列島から記録されている(市

ニシキカワハギ (Fig. 15)

川 ほ か,1992; 平 田 ほ か,1996; 坂 井 ほ か,

Pervagor janthinosoma (Bleeker, 1854)

2005;坂井ほか,2009;山田・柳下,2013).し

標本 KAUM–I. 56699,体長 69.1 mm,タモ網,水深 4 m, 2013 年 9 月 29 日,岩坪洸樹.

たがって,本報告は標本に基づく鹿児島県本土に おけるコクテンフグの初記録となる.

備考 本種はこれまでに,日本国内では小笠 原諸島,千葉県,静岡県,三重県,愛媛県,高知 県,大隅諸島,および琉球列島から記録されてい る(市川ほか,1992;平田ほか,1996;萩原・木 村,2006;Motomura et al., 2010; 高 木 ほ か, 2010;林・萩原,2013).したがって,本報告は 標本に基づく鹿児島県本土におけるニシキカワハ ギの初記録となる.

Fig. 16. Preserved specimen of Arothron nigropunctatus from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56342, 86.9 mm SL).

ハナキンチャクフグ Canthigaster axiologus Whitley, 1931 標本 KAUM–I. 54658,体長 27.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 5 月 29 日,岩坪洸樹.

キタマクラ Canthigaster rivulata (Temminck and Schlegel, 1847) Fig. 15. Preserved specimen of Pervagor janthinosoma from off Bandokorobana Nature Park, Ei, Minami-kyushu, Kagoshima, Japan (KAUM–I. 56699, 69.1 mm SL).

標本 KAUM–I. 54657,体長 29.0 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 5 月 29 日,岩坪洸樹.

クサフグ Takifugu niphobles (Jordan and Snyder, 1901) ハコフグ科 Ostraciidae

標本 KAUM–I. 54413,体長 37.9 mm,タモ網,水深 0.1 m,2013 年 8 月 28 日,岩坪洸樹.

ハコフグ

ハリセンボン科 Diodontidae

Ostracion immaculatus Temminck and Schlegel, 1850

ハリセンボン

標本 KAUM–I. 55404,体長 14.3 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 6 月 23 日,岩坪洸樹.

Diodon holocanthus Linnaeus, 1758

フグ科 Tetraodontidae

標本 KAUM–I. 54651,体長 170.0 mm,タモ網,水深 0.3 m,2013 年 5 月 29 日,岩坪洸樹.

コクテンフグ (Fig. 16) Arothron nigropunctatus (Bloch and Schneider, 1801)

 謝辞

標本 KAUM–I. 56342,体長 86.9 mm,タモ網,水深 2 m, 2013 年 9 月 15 日,岩坪洸樹.

本研究を行うにあたり,西山 肇氏(大阪府

備考 本種はこれまでに,日本国内では八丈 島,小笠原諸島,神奈川県,高知県柏島,福岡県,

92

豊中市)にはイットウダイ科,吉田朋弘氏(鹿児 島大学)にはテンジクダイ科,小枝圭太博士(琉 球大学)にはハタンポ科,西山一彦氏(新成警備


RESEARCH ARTICLES

保障)にはベラ科,渋川浩一博士(長尾自然環境 財団)にはハゼ科,大橋祐太氏(柏崎市役所)に はササウシノシタ科の同定にそれぞれご協力をい ただいた.山川 武氏(高知市)には文献を提供 していただいた.畑 晴隆氏(鹿児島大学)には 文献調査に協力していただいた.鹿児島大学魚類 分類学研究室の学生諸氏と同大学総合研究博物館 ボランティアのみなさまには標本整理などのご協 力をいただいた.以上の諸氏に対して深く感謝の 意を表する.なお,本研究は,頴娃町の観光養殖 場タツノオトシゴハウスと NPO 頴娃おこそ会の 「番所鼻いきものガイドプロジェクト」の一環と して行われた.本研究は,鹿児島大学総合研究博 物館の「鹿児島県産魚類の多様性調査プロジェク ト 」 の 一 環 と し て 行 わ れ た. 本 研 究 の 一 部 は JSPS 科 研 費(19770067,23580259,24370041, 26241027, 26450265),JSPS アジア研究教育拠点 事業「東南アジアにおける沿岸海洋学の研究教育 ネットワーク構築」,JSPS 若手研究者インターナ ショナル・トレーニング・プログラム「熱帯域に おける生物資源の多様性保全のための国際教育プ ログラム」,総合地球環境学研究所「東南アジア 沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上プ ロジェクト」,国立科学博物館「日本の生物多様 性ホットスポットの構造に関する研究プロジェク ト」の援助を受けた.  引用文献

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 Endo, H., E. Katayama, M. Miyake and K. Watase. 2010. New records of a triplefin, Enneapterygius leucopunctatus, from southern Japan (Perciformes: Tripterygiidae), pp. 9–16. In Motomura, H. and K. Matsuura (eds.), Fishes of Yaku-shima Island — A World heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo. 萩原清司・木村喜芳.2006.房総半島館山湾波佐間周辺海 域の魚類相.国立科学博物館専報,(41): 351–387. 林  公 義.2013a. イ ッ ト ウ ダ イ 科,pp. 579–591, 1897– 1899.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定, 第三版.東海大学出版会,秦野. 林  公 義.2013b. ヘ ビ ギ ン ポ 科,pp. 1280–1290, 2097– 2099.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定, 第三版.東海大学出版会,秦野. 林  公 義・ 萩 原 清 司.2013. カ ワ ハ ギ 科,pp. 1712–1721, 2236–2237.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 東 貞三・林 公義・長谷川孝一・足立行彦・萩原清司. 1989.伊豆半島須崎,田の浦湾周辺海域の魚類.日本 大學農獸医學部學術研究報告,(46): 175–185. 平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 恒・大 西信弘.1996.高知県柏島の魚類相 — 行動と生態に関 する記述を中心として.高知大学海洋生物教育研究セ ンター研究報告,(16): 1–177. 平田智法・山岡耕作・神田 優・平田しおり.2001.生態図鑑, pp. 42–111.中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳 (編),以布利 黒潮の魚.海遊館,大阪. 市川 聡・砂川 聡・松本 毅.1992.屋久島産魚類の概観, pp. 19–46.屋久島沿岸海洋生物調査団(編).屋久島沿 岸海洋生物学術調査報告書,屋久島. 今井貞彦・中原官太郎.1969.錦江湾海中公園候補地の魚 類相,pp. 51–82.鹿児島県(編),霧島・屋久国立公園  錦江湾海中公園調査書.鹿児島県,鹿児島. 岩坪洸樹.2013a.ニセフウライチョウチョウウオ,p. 179. 本村浩之・出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児 島県三島村 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研 究博物館,鹿児島・国立科学博物館,つくば.

藍澤正宏・瀬能 宏.1991.徳島県牟岐町およびその周 辺 の 浅 海 性 魚 類 相. 徳 島 県 立 博 物 館 研 究 報 告,(1): 73–208.

岩坪洸樹.2013b.フタスジリュウキュウスズメダイ,p. 237.本村浩之・出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編), 鹿児島県三島村 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総 合研究博物館,鹿児島・国立科学博物館,つくば.

明 仁・坂本勝一・池田祐二・藍澤正宏.2013.ハゼ亜目, pp. 1347–1608, 2109–2211.中坊徹次(編),日本産魚類 検索 全種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野.

岩槻幸雄・吉野哲夫・木村清志.1999.クロオビエビス(新 称)Sargocentron praslin の日本からの記録.魚類学雑誌, 46: 51–55.

青沼佳方・吉野哲夫・柳下直己.2013.スズメダイ科,pp. 1029–1066, 2033–2036.中坊徹次(編),日本産魚類検 索 全種の同定,第三版.東海大学出版会,秦野.

片山英里.2013.ベラ科,pp. 241–272.本村浩之・出羽慎 一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村 硫黄 島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島・ 国立科学博物館,つくば.

新井良一・安部宗明.1970.対馬の海産魚類相.国立科学 博物館専報,(3): 83–100. 新井良一・井田 斉.1975.屋久島・種子島の海産魚類相. 国立科学博物館専報,(8): 183–204.

加藤昌一.2011a.ネイチャーウォッチングガイドブック  海水魚~ひと目で特徴がわかる図解付き~.誠文堂新 光社,東京.303 pp. 加藤昌一.2011b.ネイチャーウォッチングガイドブック  スズメダイ~ひと目で特徴がわかる図解付き~.誠文 堂新光社,東京.239 pp.

93


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 鹿児島県地理学会(編).1991.鹿児島県地学のガイド(上). コロナ社,東京.192 pp. 工藤孝浩・山田和彦.2005.三浦半島南西部沿岸の魚類 – VI.神奈川自然誌資料,(26): 79–84. 工藤孝浩・山田和彦.2011.三浦半島南西部沿岸の魚類 – VII.神奈川自然誌資料,(32): 135–141. 松浦啓一・新井良一・塩垣 優・藍澤正宏.1988.下北半 島の魚類.国立科学博物館専報,(21): 163–180. 本村浩之.2009.魚類標本の作製と管理マニュアル.鹿児 島 大 学 総 合 研 究 博 物 館, 鹿 児 島.70 pp.(http://www. museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/dl.html) Motomura, H. and M. Aizawa. 2011. Illustrated list of additions to the ichthyofauna of Yaku-shima Island, Kagoshima Prefecture, southern Japan: 50 new records from the island. Check List, 7 (4): 448–457. Motomura, H., K. Kuriiwa, E. Katayama, H. Senou, G. Ogihara, M. Meguro, M. Matsunuma, Y. Takata, T. Yoshida, M. Yamashita, S. Kimura, H. Endo, A. Murase, Y. Iwatsuki, Y. Sakurai, S. Harazaki, K. Hidaka, H. Izumi, and K. Matsuura. 2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan, pp. 65–247. In Motomura, H. and K. Matsuura (eds.), Fishes of Yakushima Island — A World heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo. 中坊徹次(編).2013.日本産魚類検索 全種の同定,第三 版.東海大学出版会,秦野.xlix + 2428 pp. 中 坊 徹 次・ 土 居 内 龍.2013. ネ ズ ッ ポ 科,pp. 1331–1346, 2106–2108.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 西山 肇.2013.イットウダイ科,pp. 22–30.本村浩之・ 出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三島村  硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館, 鹿児島・国立科学博物館,つくば. 西山一彦.2012.日本のベラ大図鑑,初版.東方出版,大阪. 302 pp. Randall, J. E. 1998. Revision of the Indo-Pacific squirrelfishes (Beryciformes: Holocentridae: Holocentrinae) of the genus Sargocentron, with descriptions of four new species. IndoPacific Fishes, (27): 1–105. 坂井陽一・門田 立・木寺哲明・相良恒太郎・柴田淳也・ 清水則雄・武山智博・藤田 治・橋本博明・具島健二. 2005.トカラ列島北部に位置する口之島,中之島の浅 海性魚類相.広島大学大学院生物圏科学研究科紀要, 44: 1–14. 坂井陽一・門田 立・清水則雄・坪井美由紀・山口修平・ 中口和光・郷 秋雄・増井義也・橋本博明.具島 健 二.2009.トカラ列島口之島,中之島,平島,小宝島 における浅海魚類相 —2002 年 –2007 年の潜水センサス 調査から.広島大学大学院生物圏科学研究科紀要,48: 19–35.

RESEARCH ARTICLES 瀬 能  宏・ 御 宿 昭 彦・ 反 田 健 児・ 野 村 智 之・ 松 沢 陽 士. 1997.魚類写真資料データベース(KPM-NR)に登録 された水中写真に基づく伊豆半島大瀬崎産魚類目録. 神奈川自然誌資料,(18): 83–98. 瀬能 宏・篠原現人・松浦啓一・古瀬浩史・加藤昌一・菊 地 健.2002.八丈島の魚類相.国立科学博物館専報, (38): 195–237. 鈴木寿之.2013.ペガススベニハゼ,pp. 333–334.本村浩 之・出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編),鹿児島県三 島村 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物 館,鹿児島・国立科学博物館,つくば. 鈴木寿之・渋川浩一.2004.決定版 日本のハゼ,初版. 平凡社,東京.534 pp. 鈴木寿之・瀬能 宏・矢野維幾・加藤昌一・湯野川 恭. 2008.日本初記録のベニハゼ属 3 種.大阪市立自然史 博物館研究報告,(62): 1–12. 島 田 和 彦.2013a. チ ョ ウ チ ョ ウ ウ オ 科,pp. 990–1004, 2022–2025.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の 同定,第三版.東海大学出版会,秦野. 島田和彦.2013b.ベラ科,pp. 1088–1136, 2045–2056.中坊 徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定,第三版.東 海大学出版会,秦野. 篠原現人・松浦啓一・白井 滋.1998.長崎県橘湾の魚類. 国立科学博物館専報,(30): 105–138. 篠原現人・佐藤陽一・松浦啓一.2000.徳島県伊島の沿岸 性魚類.国立科学博物館専報,(33): 175–186 塩垣 優.1985.6. 魚類相,pp. 203–208.日本海洋学会沿 岸海洋研究部会(編),日本全国沿岸海洋誌.東海大学 出版会,東京. 高木基裕・平田智法・平田しおり・中田 親.2010.えひ め愛南お魚図鑑.創風社出版,松山.249 pp. 田和篤史・竹垣 毅.2009.長崎県野母崎沿岸の浅海性魚 類相.長崎大学水産学部研究報告,90: 9–18. Tomiyama, I. 1972. List of the fishes preserved in the Aitsu Marine Biological Station, Kumamoto University, with notes on some interesting species and descriptions of two new species. Publications from the Amakusa Marine Biological Laboratory Kyushu University, 3 (1): 1–21. 冨山晋一・岸本浩和.2013.駿河湾から記録されたイット ウダイ科魚類 5 種.日本生物地理学会会報,68: 1–10. 辻 幸一.2013.愛媛県伯方島の魚類相.徳島県立博物館 研究報告,(23): 1–21. 山田梅芳・柳下直己.2013.フグ科,pp. 1728–1742, 2239– 2241.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定, 第三版.東海大学出版会,秦野. 山川 武.2001.イットウダイ科,pp. 156–158.中坊徹次・ 町田吉彦・山岡耕作・西田清徳(編),以布利 黒潮の 魚.海遊館,大阪.

瀬能 宏.2001.油壷の海.伊豆海洋公園通信,12 (10): 7.

吉郷英範・市川真幸・中村慎吾.2005.比和町立自然科学 博物館魚類収蔵標本目録(IV).比和町立自然科学博物 館標本資料報告,5: 1–51.

瀬 能  宏.2013. ヨ ウ ジ ウ オ 科,pp. 615–635, 1909–1913. 中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定,第三版. 東海大学出版会,秦野.

吉郷英範・中村慎吾.2008.比和町立自然科学博物館魚類 収蔵標本総合目録.比和町立自然科学博物館標本資料 報告,8: 1–111.

94


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

松元ダムにおけるオオクチバスとブルーギルの駆除 — 人工産卵装置と捕獲装置を用いて — 1

2

3

4

江川昂弘 ・山本智子 ・鹿児島市松元土地改良区 ・高山真由美 ・中井克樹 1

5

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部水産学研究科 2 3

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

〒 899–2703 鹿児島市上谷口町 2883 (鹿児島市役所松元支所内) 4 5

〒 891–1202 鹿児島市西伊敷 3–42–1 かごしま市民環境会議

〒 525–0001 滋賀県草津市下物町 1091 滋賀県立琵琶湖博物館

 はじめに  外来種とは,もともとの生息地ではないところ へ人為的に移行された生物のことである.その中 でも,オオクチバス Micropterus salmoides やブルー ギル Lepomis macrochirus は代表的な海外からの 外来種である(中井,2000).この 2 種は食性や 環境への対応力から,外来生物法の対象種となっ ており,全国で駆除の取り組みが行われている(鎌 田ほか,2009).生活史段階に応じた駆除方法が 開発されており,オオクチバスでは人工産卵装置 を利用した卵の除去,稚魚には三角網,成魚には 小型刺し網を用いた駆除がなされている(高橋ほ か,2007).しかし,三角網は大人数での作業を 必要とし,刺し網の使用には専門的な技術を要す る上に混獲の問題がある(矢野ほか,2005).人 工産卵装置は,設置と回収以外に作業を必要とし ないが,効果的な構造や設置場所が確立されてい

 そこで本研究では,2002 年に竣工した松元ダ ムに定着したオオクチバスとブルーギルに対し, それぞれの種の成長段階の一部に適した駆除方法 を検討する.オオクチバスについては,吊下げ式 人工産卵装置の構造と設置場所による誘因効率の 比較を行うと共に,天然産卵床の捜索も行った. 吊下げ式人工産卵装置とは,フロ – トと重りを使 用し,産卵基質となる人工芝が水中で水平になる ように設計された人工産卵装置である.ブルーギ ルにおいては,カニ篭や大型の篭網を使用し,成 魚の段階の駆除を行った.  方法 オオクチバスの産卵と人工産卵装置の誘因効 率を調べる調査は,2012 年 4 月 4 日から 8 月 7 日までと,2013 年 4 月 8 日から 8 月 6 日まで行っ た.構造による誘因効率の違いをみるため,産卵

るとは言い難い.また,従来のように,水底に直 接設置する人工産卵装置では設置場所の制限や, 砂礫地での効果の低さが問題になっている(小西 ほか,2012).     Egawa, K., T. Yamamoto, Matsumoto Land Improvement District in Kagoshima, M. Takayama and K. Nakai. 2014. Development of removal technique of largemouth bass and blue gill at the Matsumoto Dam – using artificial spawning equipment and net cages –. Nature of Kagoshima 40: 95–99. TY: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: yamamoto@fish.kagoshima-u.ac.jp).

写真 1.人工産卵装置の形態.a)衝立無;b)衝立有.

95


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 1.人工産卵装置の設置場所.○ダム中央;□岸沿い;△ 網付き.

木(以下岸沿い)8 か所,岸から垂らしたフェン ス状の網の先(以下網付き)4 か所である(図 1). ただし,2012 年には衝立有を 2 基しか使用して おらず,いずれも 6 月 28 日からダム中央に設置 した. 天然産卵床および人工産卵装置への産卵の確 認は可能な限り岸沿いを泳ぎ,視覚での確認が困 難になった段階で船上での調査とした.また,ダ ム中央に設置した人工産卵装置は,船上からの確 認とした.産卵が確認された人工産卵装置は,卵 を回収し再び設置を行った. 複数種の篭網を使用したブルーギルの捕獲実 験は,2013 年の 6 月 5 日から 12 月 6 日まで行った. 捕獲効率を比較するため,カニ篭,カニ篭に遮光 ネットを取り付けたもの(以下影ありカニ篭), 大型の篭の 3 種類の篭網を用意した(写真 3). カニ篭と影ありカニ篭の 2 種類を 1 セットとし, ダム中央に 2 か所,両岸沿いに 1 か所ずつの計 4 か所に設置した.カニ篭に加え,大型の篭網を両 写真 2.人工産卵装置の設置状況.a)ダム中央(流木流出 防止用のネットに固定) ;b)岸沿い(岸沿いの木に固定) ; c)網付き(岸沿いからネットを沖出し).

岸沿いに 1 か所ずつ 7 月 19 日から設置した.篭 網による捕獲状況の確認と外来魚の回収は船上で 行った.  結果と考察

基質となる人工芝が影になるような衝立の無いも

天然産卵床は,調査区域内で 2012 年に 5 ヶ所,

の(以下衝立無)(写真 1a),衝立のあるもの(以

2013 年に 4 か所みつかった.天然産卵床は,水

下衝立有)(写真 1b)の 2 種類を組にして設置し

深が 50 cm から 2 m 程度の,木の根付近の砂礫地

た(写真 2).設置場所は,ダムを横断する流木

につくられており(写真 4a–b),保護オスも確認

防止用の網(以下ダム中央)に 8 か所,岸沿いの

さ れ た( 写 真 4c). 人 工 産 卵 装 置 へ の 産 卵 は,

96


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

写真 3.ブルーギル捕獲用篭網の形状.a)カニ篭;b)影 付きカニ篭;c)大型篭網.

写真 4.オオクチバスの天然産卵床.a)木の根につくられ た天然産卵床;b)泳ぐまで成長したオオクチバスの稚魚; c)産卵床を保護するオオクチバスのオス.

表 1.人工産卵装置の誘因効率.誘因効率=産卵回数/調査回数 × 設置数. 2012 年 4/19–8/7 (調査回数 15 回)

衝立無 20 基

衝立有 2基

2013 年 4/15–8/1 (調査回数 20 回)

衝立無 20 基

衝立有 20 基

ダム中央

1/50

1/8 *

岸沿い

0/300

-

ダム中央

1/100

3/100

岸沿い

0/400

網付き

0/300

-

0/400

網付き

0/400

0/400

 *2012 年衝立有の調査回数は 8 回.

97


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 2.篭網の設置場所とブルーギルの捕獲数.□カニ 篭;○ 影ありカニ篭; 大型篭網.

2012 年には衝立無に計 6 回,途中で 2 基のみ設 置した衝立有にも 2 回確認された.2013 年には, 衝立無に 4 回,衝立有に 15 回の産卵がみられた. すべてダム中央と網付きに設置されたもので,岸 沿いの人工産卵装置には反応がみられなかった. 産卵がみられた回数を調査回数と設置数の積で 割ったものを人工産卵装置の誘因効率として求め たところ,2012 年には,衝立無で 1/50,衝立有 は 1/8 となった(表 1).2013 年のデ – タから算 出した誘因効率は,衝立無で 1/100,衝立有は 3/80 となり,2012 年同様,衝立有の方が高い値 を示した.この 2 年間の結果から松元ダムでは, 衝立有の人工産卵装置を,岸から離して設置する ことでオオクチバスの産卵を効率的に誘引できる ことが分かった. ブルーギルの篭網による捕獲結果を,篭網の 形態ごと別にまとめると,カニ篭に 95 個体,影 ありカニ篭に 137 個体,大型篭網に 283 個体の計 515 個体となった(写真 5).しかし,設置期間や 写真 5.篭網によるブルーギル捕獲状況.a)影ありカニ篭 に入っているブルーギル;b)カニ篭を船上で確認してい る様子;c)大型篭網に入っていたブルーギル.

設置数に違いがあるので,篭網の構造別に一篭あ たりの捕獲数を求めた.結果は,カニ篭 0.82,影 ありカニ篭 1.18,大型篭網 6.74 となり,遮光の 有無による違いは大きくなく,それに対して大型 篭網の捕獲数が著しく多い結果となった.カニ篭

表 2.篭網 3 種類それぞれのブルーギル捕獲効率.

に関しては,ダム中央 2 か所に設置したものの捕

調査期間 6/5–12/6

獲総数が 52 個体,岸沿い 2 か所に設置したもの

捕獲効率 (捕獲尾数 / 設置数 × 調査回数)

カニ篭

137/4×29=1.18

が 180 個体と,設置場所によって 3 倍以上の差が

影付きカニ篭

95/4×29=0.82

みられた(図 2).このことから,蝟集装置は岸

大型篭網

283/2×21=6.74

沿いに設置し,大型の構造のものが多くのブルー

98


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

写真 7.篭網による在来種の混獲.a)カニ篭に入っていた コイ;b)イシガメとテナガエビ.

 引用文献

写真 6.篭網によるオオクチバスの混獲.a)カニ篭に入っ ているオオクチバス;b)船上でオオクチバスを確認して いる様子.

ギルを誘引できると考えられる.また,全ての種 類の篭網で,ブルーギルだけではなくオオクチバ スも 27 個体捕獲できたが(写真 6),イシガメや テナガエビなどの在来種も篭網に入っていたため (写真 7),混獲の対策を今後の課題とする.

鎌田健太郎・平出 亜・鴨下智裕・佐藤好史.2009.伊豆 沼におけるサイドスキャンソナ – を用いたオオクチバ ス産卵適地の抽出とその妥当性の検証.伊豆沼・内沼 研究報告,3: 31–40. 小西雅樹・北川哲郎・濱野 陽・細谷和海.2012.近畿大 学バスバスタ – ズによる外来魚駆除の取り組み.近畿 大学農学部紀要,45: 241–249. 中井克樹.2000.日本における外来魚問題の背景と現状~ 管理のための方向性をさぐる~.保全生態学研究,5: 171–180. 高橋清孝・須藤篤史・花輪正一.2007.オオクチバスの繁 殖抑制を目的とした人工産卵床の開発.伊豆沼・内沼 研究報告,1: 35–46. 矢野 亮・大澤陽一郎・奥津励・桑原香弥美.2005.自然 教育園におけるブルーギル・オオクチバスの密放流か ら 駆 除 ま で. 自 然 教 育 園 報 告(Rept. Inst. Nat. Stu. ), 36: 9–20.

 謝辞  今回の研究を進めるにあたって協力していただ いた鹿児島大学海洋環境教育センタ – の皆さま と,タナカ漁網株会社の田中秀冶様に厚くお礼申 しあげます.

99


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

100

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島湾のニッポンウミシダ上に棲息するウミシダヤドリエビに 超寄生するエビヤドリムシ類の記録 三浦知之 〒 889–2192 宮崎市学園木花台西 1–1 宮崎大学農学部

 はじめに 宮崎県の沿岸域を中心に甲殻類に寄生するエ ビヤドリムシ上科等脚類を調査しているが(三浦 ほか,2014),かつて鹿児島湾で採集した甲殻類 からも日本未記録のエビヤドリムシ類を見いだし たので,報告する. 等脚目ウエノエ亜目エビヤドリムシ上科 Bopyroidea Rafinesque, 1815 は, 世 界 で 600 種 以 上が知られ,比較的大型の十脚甲殻類から小型の 貝形類まで,底生 ・ 遊泳性を問わず,多様な宿主 に寄生し(WoRMS Editorial Board, 2013; An et al., 2009),その鰓腔内に入り込むか,腹部などの外 面に付着し,宿主の寄生部位が大きく変形するこ とも多く,漁獲対象種のエビ類では商品価値を下 げることもある.日本は戦前から椎野による研究 がなされ,世界で最も本動物群の分類 ・ 生態研究 が進展している海域と言える(Shiino, 1933– ほか; 齋藤,2002).エビヤドリムシ類は他生物に寄生・ 共 生 す る 甲 殻 類 に も 寄 生 す る た め, 超 寄 生 者 hyperparasite となることがある.本報告もその一 例である. 鹿児島湾および奄美大島のウミシダ類と共生 する生物に関しては,すでに報告したが(三浦, 2012),その補足として桜島袴腰海岸のニッポン

    Miura, T. 2014. Note on a hparasitic isopod (Bopyridae; Hemiarthrinae) on a crinoid-associated shrimp, Periclimenes commensalis, living on Oxycomanthus japonicus found in Kagoshima Bay. Nature of Kagoshima 40: 101–106. Faculty of Agriculture, University of Miyazaki, 1–1 Gakuen-Kibanadai-Nishi, Miyazaki 889–2192, Japan (e-mail: miurat@cc.miyazaki-u.ac.jp).

ウミシダに共生するウミシダヤドリエビの鰓腔に 超寄生するエビヤドリムシ類を紹介する.なお, 調査方法等は三浦(2012)に詳細があり,本稿で は材料の説明に簡潔に示すのみにした. 等脚目甲殻類 Isopoda Latreille, 1817 については 上位分類の体系に複数の考え方があり,まだ議論 の途上にあることから,本論文では,旧エビヤド リ ム シ 亜 目 Epicaridea Latreille, 1831 を World Register of Marine Species (WoRMS) のサイトで使 用 さ れ て い る 仮 の 分 類 体 系 に 従 っ て (WoRMS Editorial Board, 2014), エ ビ ヤ ド リ ム シ 上 科 Bopyroidea Rafinesque, 1815 と し て 扱 う. こ の グ ル ー プ に は 5 科 が あ り, エ ビ ヤ ド リ ム シ 科 Bopyridae Rafinesque, 1815 も含まれている.エビ ヤドリムシ科はさらに 8 亜科に分かれ,本報告で はその 1 亜科 Hemiarthrinae に属す未同定種を報 告する.なお,標本は宮崎大学農学部(MUFS) に保管されている.  分類 Family Bopyridae Rafinesque, 1815 Subfamily Hemiarthrinae Marckham, 1972 本亜科は体が著しく左右不相称で,体の片側 だけに保育嚢を発達させ,反対側まで広がる.主 にコエビ下目 Caridea のエビ類の腹部腹面に寄生 する.上記の WoRMS では 26 属 56 種が有効とさ れているて (WoRMS Editorial Board, 2014).この 中 で,9 種 が 日 本 か ら 知 ら れ て い る( 齋 藤, 2002;齋藤・本尾,2010).鹿児島湾から確認さ れた種はこれらのいずれにも同定されず,その形 態は既存の 26 属に含まれる.現在,主に体胸部

101


102 2 胸脚 2 胸脚 2 胸脚 2 胸脚

ホンカクレエビ属

ナガレモエビ属

ハクセンエビ

モシオエビ属

Periclimenes longicaudatus

Hippolyte sp.

Plesionika ortmanni

Harpiliopsis beaupresi

Periclimenes commensalis

Synalpheus gambarelloides

Periclimenis spp.

Periclimenes vaubani

Athanas sp.

Coralliocaris superba

Alpheus sp.

Athanas dorsalis

Thor floridanus

Athanas nitescens

Alpheus sp.

Allodiplophryxus

Metaphryxus

Anomophryxus

Mesophryxus

鹿児島湾産種

Epiphrixus

Metaphrixus

Dicropleon

Eriphrixus

Mediophrixus

Hemiphryxus

Micropodiphryxus

Anchiarthrus

Loki

Anisarthrus

Apophrixus

Cataphryxus

7 胸脚

2 胸脚 3 胸脚 3 胸脚 3 胸脚 4 胸脚

ホンカクレエビ属

ホンカクレエビ属

ムラサキエビ属

モシオエビ属

前 4 対二叉型

Pliophrixus —

7 胸脚

7 胸脚

Latreutes pygmeus

7 胸脚

前 4(3) 対二叉型 5–6 節

7 胸脚

ヒラツノモエビ —

前 4 対二叉型

7 胸脚

7 胸脚 ヒゲナガモエビ属 Alpheus sp., Periclimenis sp., テッポウエビ属 7 胸脚 ホンカクレエビ属 Synalpheus sp. ツノテッポウエビ属 Alpheus sp. 7 胸脚 テッポウエビ属

Lysmata sp.

7 胸脚

7 胸脚

テッポウエビ属

前 2 対二叉型 —

前 4 対単枝型

7節

?

7節

前 4 対単枝型

7 胸脚

6節

前 3 対二叉型

7 胸脚

7節

5節

前 5 対二叉型

前 4 対二叉型

前 4 対単枝型

前 4 対単枝型

前 4 対単枝型

Nierstraz & Brender à Brandis, 1932

本研究

Bruce, 1973

Shiino, 1937

Markham, 1985a Shimomura et al., 2006; Nierstrasz & Brender à Brandis, 1931

Markham, 1885; Nierstrasz & Brender à Brandis, 1931

Nierstraz & Brender à Brandis, 1932

Bruce, 1973, 2007

斎藤・本尾,2010; Giard & Bonnier, 1887

Richardson, 1904; Shiino, 1934

Markham, 1985a

Bruce, 1972b

Bruce, 1972a

出典

(Caroli, 1930 未確認)

Barnard, 1955

Shiino, 1934

Shiino, 1939, 1941; Hay, 1917(Caroli, 1930 未確認)

Shiino, 1934

Markham, 1982; Nierstrasz & Brender à Brandis, 1931

Giard, 1907

Markham, 1972

Markham, 1992

Boyko, 2012

Bruce, 1974(Bruce, 1978 未確認)

Markham, 1990

7節 Nierstrasz & Brender à Brandis, 1931 7(6?)節 Markham, 1972; Bourdon, 1967 (第 1 は不明瞭) 7節 Markham, 1990

7節

7節

7節

ムラサキエビ属

7 胸脚

7 胸脚

7 胸脚

前 4 対二叉型

前 4 対二叉型

前 3 対単枝型

前 4 対二叉型 前 2 対大, 後 2 対小 単枝型 前 3 対単枝型

7節

7節

7節

7 胸脚 1–2, 7 胸脚無し 3–6 胸脚小 7 胸脚

テッポウエビ属

7 胸脚

ツノテッポウエビ属 2 胸脚 7 胸脚

7 胸脚

2 胸脚

7 胸脚

7 胸脚

7 胸脚

前 4 対二叉型

前 4 対二叉型

前 3 対二叉型

前 4 対二叉型

7節

7節

7節

雄 胸部

4 胸脚 1–2 胸脚大 ムラサキエビ属 3–7 胸脚小 ヒメサンゴモエビ属 7 胸脚(萎縮)

Miophrixus

Hypophryxus

Eophrixus

7 胸脚

1–2 胸脚

ホンカクレエビ属

Periclimenes perryae

Hyperphrixus

ホンカクレエビ属

7 胸脚

ツノテッポウエビ属 1 胸脚

Hypohyperphrixus Synalpheus triunguiculatus 5 胸脚

7 胸脚

1 胸脚

モシオエビ属

Coralliocaris graminea

Neophryxus

前 4 対単枝型

7 胸脚

Hippolytidae gen. spp.

Hemiarthrus

前 4 対二叉型

7 胸脚

Alpheus sp., Palaemon sp.

Diplophryxus

前 3 対単枝型

7 胸脚

ツノテッポウエビ属 1 胸脚 テッポウエビ属, 1 胸脚 イソスジエビ 1 胸脚 モエビ科

Synalpheus spp.

Azygopleon

無し

前 3 対単枝型

4 胸脚

1, 4–6 胸脚

1 胸脚

腹肢

1 胸脚

Periclimenes grandis

Orophryxus

雌 形態 体凹側

ホンカクレエビ属

Periclimenes spp.

Filophryxus

体凸側

ホンカクレエビ属

宿主

表 1.コエビノハラヤドリ科属間での形態比較.ただし,Pliophrixus 属については文献が入手できず,未確認のままである.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

の変形程度(あるいは胸脚の発達度合い)と腹肢

中心線とする)が頭部において 30–40 度右に傾斜

の内外肢の有無などでこれらの属が分類されてい

しているため,体長という呼び方が必ずしも適切

る.鹿児島産種は既知の Mesophryxus 属と一致し,

かどうか疑問があるため,ここでは長軸長,短軸

詳細な検討を行っているが,同種のホストから別

長としたが,長軸がほぼ体幅,短軸がほぼ体長に

種のエビヤドリムシ類も報告されており,ここで

相当する.原記載を含め,著者によってはどの部

はそれらを比較検討するとともに,和名を付すこ

位の計測を行っているのか判然としないが,動物

とにした.

の大きさを理解する上では問題ないと思う.雄は 体の変形が少なく,ダンゴムシ状の体をもつ.雄

ウミシダヤドリエビノツボミムシ(新称) Mesophryxus sp. (図 1)

の体長は 0.7 mm,体幅は 0.2 mm. 雌の体凹部では第 1–7 胸脚のすべてが確認で きる.ただし,第 2・3 胸脚がやや萎縮している.

MUFS CR 00001–00002 雌雄各 1 個体:雌 2.9

第 3–7 胸脚は第 1 胸脚と同様に発達している.体

m x 2.1 mm; 雄 0.7 mm x 0.2 mm — 1998 年 9 月

凸部には第 1・2 胸脚が頭部の脇にあり,第 3–7

12 日,桜島袴腰,水深 8.6 m,ニッポンウミシダ

胸脚は確認できない.

Oxycomanthus japonicus (Müller, 1841) に共生して

腹部は 4 節と腹尾節からなる.腹肢は 3 対が

いたウミシダヤドリエビ Periclimenes commensalis

発達し,いずれも単枝型である.雄は 7 胸節すべ

Borradaile, 1915 の雌(甲長 3.4 mm)の第 1 腹節

てが明瞭である.

背側.

備考 コエビノハラヤドリ亜科には 26 属 56

MUFS CR 00003–00004 雌雄各 1 個体:雌 2.3

種 が ふ く ま れ て い る が, ホ ン カ ク レ エ ビ 属

x 1.6 mm;雄 0.7 mm x 0.2 mm — 1999 年 4 月 19 日,

Periclimenes のさまざまな十脚甲殻類を宿主とす

桜島袴腰(採集水深の記録無し),ニッポンウミ

る ヤ ド リ ム シ 類 は 7 属:Filophryxs, Orophryxus,

シダ上のウミシダヤドリエビ雌(甲長 2.8 mm)

Hyperphrixus, Allodioplophryxus, Dicropleon,

の左鰓腔内.

Eophrixus, Eriphrixus が 知 ら れ る( 表 1). 特 に

MUFS CR 00005 雌 1 個体:雌 2.3 m x 1.8 mm

Dicropleon marator Markham, 1982 は香港のウミシ

— 1999 年 5 月 24 日,桜島袴腰(採集水深の記録

ダヤドリエビから報告され,本属の他種と同様に

無し),ニッポンウミシダ上のウミシダヤドリエ

体凸側に 3 胸節がみられ,腹肢は 4 対が単枝型で

ビ雌(甲長 2.8mm)の第 3 腹節背側.

ある点で,鹿児島湾産種とは異なっている.また,

寄生の痕跡のみ — 1998 年 6 月 23 日,桜島袴腰,

香港産種では雄の第 1 胸節が頭部と融合傾向があ

水深 7.2 m,ニッポンウミシダ上のウミシダヤド

る.ホンカクレエビ属に寄生し,ニューカレドニ

リエビ雌(甲長 3.2 mm)の左鰓腔が肥大.ヤド

ア か ら 報 告 さ れ た Eriphrixus obesus Markham,

リムシの固定に失敗したため,標本は得られな

1990 も,香港産種と同じ形態をもち,鹿児島湾

かった.

産種とは形態的に区別される.オーストラリア産 のホンカクレエビ属の 1 種 P. hertwigi Balss, 1913

形態 雌の体は著しく変形し,その外形は,閉

の腹部背面に寄生する Filophryxus dorsalis Bruce,

じた花のつぼみ状で,左側(体凸部 long side あ

1972 はその概形が鹿児島産種とよく似ている.

るいは convex side と呼ばれ,第 3・4胸節左側に

しかし,体凸部に 1 胸脚,体凹部に 4 胸脚しかみ

相当する.体の長軸)が丸く,反対側(体凹部

られない点で区別される.胸脚,腹肢,雄胸節な

short side あるいは concave side と呼ばれる.体の

どの形態から,鹿児島湾産種は Mesophryxus 属の

短軸)には明瞭な付属肢が確認できる.雌の長軸

1 種と判断される.本属には , アフリカのインド

長は 2.3–2.9 mm,短軸長は 1.6–2.1 mm.雌のサ

洋側にあるザンジバルのサンゴ類に共生するホソ

イズに関しては,体の主軸(頭部から尾部までの

ジ マ モ シ オ エ ビ Harpiliopsis beaupresii (Audouin,

103


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 1.A:ウミシダヤドリエビノツボミムシ Mesophryxus sp.,1998 年 9 月 12 日,桜島袴腰,水深 8.6 m,雌 2.3 m x 1.6 mm,腹面;B:同,背面;C: 同,覆卵葉および卵を取り除いた背面;D:同,腹部,腹面;E:同,口器,腹面;F:1999 年 4 月 19 日,桜島袴腰,雌 2.3 m x 1.6 mm および雄; G:1998 年 9 月 12 日,桜島袴腰,水深 8.6 m,ウミシダヤドリエビ Periclimenes commensalis 雌(甲長 3.4 mm),第 1 腹節背面にウミシダヤドリエ ビノツボミムシ(A)の寄生痕;H:同,雄 0.7 mm x 0.2 mm,背面;I:同,第 2 触角.

104


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

1826) の 腹 部 に 付 着 寄 生 す る M. ventralis Bruce,

Bruce, A. J. (1972a) Filophryxus dorsalis gen. nov., sp. nov., an

1973 のみが知られている.ザンジバル産種では

unusual bopyrid parasite from eastern Australia. Parasitology, 65: 351–358.

体凹部の胸脚がいずれも良く発達していて,7 対

Bruce, A. J. (1972b) Orophryxus shiinoi gen. nov., sp. nov., an

の間に大きさなどの違いがないが,鹿児島湾産種

unusual phryxid (Crustacea, Isopoda, Bopyridae) parasitic

で は 第 2・3 胸 脚 が や や 小 型 で, 上 述 の

upon a pontoniid shrimp from Zanzibar. Parasitology, 64:

Filophryxus dorsalis に類似する点が異なる.また, 雄第 1 胸節と頭部との癒合が鹿児島産種では全く みられない点も異なっていた.雄は胸節の融合状 態が属間でも異なるため,5 胸節しか確認されな い ニ ュ ー カ レ ド ニ ア 産 の Mediophrixus pinuum Markham, 1990 などは本種とは容易に区別できる. 以上のような形態的特徴から,本種は未記載 種である可能性も高いが,国内で入手が難しい文

445–450. Bruce, A. J. (1973) Mesophryxus ventralis gen. nov., sp. nov., a phryxid bopyrid parasitic upon the pontoniid shrimp Harpiliopsis beaupresi (Audouin). Parasitology, 66: 515–523. Bruce, A. J. (1973) Prophryxus globicaudatus gen. nov., sp. nov., a hemiarthrinid bopyrid parasite of pontoniid shrimps of the genus Coralliocaris Stimpson. Parasitology, 67: 365–373. Bruce, A.J. (1974) Allophryxus malindiae gen. nov., sp. nov., a hemiarthrinid bopyrid parasitic upon the pontoniid shrimp Coralliocaris superba (Dana). Parasitology, 68: 127–134. Bruce, A.J. (2007) Neophryxus, a new name for Prophryxus Bruce,

献などもあり,今後も継続して詳細な検討を行い

1973 (Crustacea: Isopoda: Bopyridae). Zootaxa 1646: 67–68.

たいと考えている.本稿では,鹿児島湾の動物相

Chopra, B. (1930) Further notes on bopyrid isopods parasitic on

に関する新しい知見として和名のみを提唱する.  謝辞 この研究は 1998 年および 1999 年に鹿児島大

Indian Decapoda Macrura. Records of the Indian Museum, 32: 113–147. Giard, A. (1907) Sur l’Anisarthrus pelseneeri (nov. gen. et nov. sp.) bopyrien parasite d’Athanas nitescens Leach et sur la synonymie du genre Hemiarthrus. Comptes rendus de la Societe de Biologie (Paris), 63: 321–324.

学大学院連合農学研究科に所属していた著者の研

Giard, A., and Bonnier, J. (1887) Contributions a l’etude des

究室で卒論研究を行った学生の研究材料を再検討

bopyriens. Travaux de l’Institut Zoologique de Lille et du

することでまとめたものである.採集は,水産学 部平成 11 年 3 月卒業の森 昌範氏および谷平英 之氏によるものであり,深く謝意を送りたい.

Laboratoire Marine de Wimereux, 5: 1–272. Hay, W. P. (1917) A new genus and three new species of parasitic isopod crustaceans. Proceedings of the United States National Museum, 51: 569–574. Markham, J. C. (1972) Two new genera of western Atlantic

 引用文献 An, J., J. D. (2009) A review of bopyrid isopods infesting crabs

abdominally parasitizing Bopyridae (Isopoda, Epicaridea), with a proposed new name for their subfamily. Crustaceana, Supplement, 3: 39–56.

from China. Integrative and Comparative Biology, 49: 95–

Markham, J. C. (1982) Bopyrid isopods parasitic on decapod

105. (online version: http://icb.oxfordjournals.org/

crustaceans in Hong Kong and Southern China. In B. Morton

content/49/2/95; June 21, 2012) Barnard, K. H. (1955) Additions to the fauna-list of South African Crustacea and Pycnogonida. Annals of the South African Museum, 43:1–107, figs. 1–53. Bourdon, R. (1967) Sur deux nouveaux epicarides (Isopoda) parasites de crustaces decapodes. Zoologische Mededelingen, 42 (17): 167–174. Boyko, C. B. (2012) Description of an exceptionally large new species of Diplophryxus (Crustacea: Isopoda: Bopyridae) from a Chilean alpheid (Crustacea: Decapoda: Alpheidae), with a key to species of Diplophryxus and a new genus for D. richardsonae. Proceedings of the Biological Society of Washington, 125: 145–152. Bruce, A. J. (1968) A new species of Hypophryxus (Isopoda,

and C. K. Tseng (eds.), “The Marine Flora and Fauna of Hong Kong and Southern China. Proceedings of the First International Marine Biological Workshop, 18 April–10 May 1980” pp. 205–291. Hong Kong University Press, Hong Kong. Markham, J. C. (1985a) A review of the bopyrid isopods infesting caridean shrimps in the northwestern Atlantic Ocean, with special reference to those collected during the Hourglass cruises in the Gulf of Mexico. Memoirs of the Hourglass Cruises, 7 (3): 1–156. Markham, J. C. (1990) Crustacea Isopoda: new records of Bopyridae from New Caledonian waters. In A. Crosnier (ed.), Résultats des Campagnes MUSORSTOM, Volume 6.

Bopyridae) from an Indo-Pacific pontoniid shrimp.

Memoires du Muséum National d’Histoire Naturelle,

Crustaceana, 14: 13–20.

Nouvelle Série, 145: 55–69.

105


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Markham, J. C. (1992) Second list of additions to the Isopoda

Richardson, H. (1904) Contributions to the Natural History of the

Bopyridae of Hong Kong, 277–302, illustr. In B. Morton

Isopoda. Proceedings of the United States National Museum,

(ed.), The marine flora and fauna of Hong Kong and southern China 3. Volume 1: introduction, taxonomy and ecology.

27: 1–89. 齋藤暢宏(2002)日本産ヤドリムシ(甲殻綱・フクロエビ

Proceedings of the Fourth International Marine Biological

上目・等脚目)の宿主リスト.タクサ,(13): 18–31.

workshop: The Marine Flora and Fauna of Hong Kong and

齋藤暢宏・本尾 洋(2010)クボイバラモエビ Lebbeus kuoi

Southern China, 11–29 April 1989, pp. 1–526. Hong Kong University Press, Hong Kong.

Hayashi, 1992 から得られたエビヤドリムシ類について. Cancer, 19: 15–17.

三浦知之・宇都宮美樹・北嶋雄太・富岡 宏(2014)海産

Shiino, S. M. (1934) Bopyrids from Tanabe Bay II. Memoirs of

甲殻類に寄生する等脚目エビヤドリムシ上科に関する

the College of Science, Kyoto University, Series B 9 (4,

宮崎県での初めての記録(予報).宮崎大学農学部研究 報告,60: 29–39. 三浦知之(2012)鹿児島県に生息するウミシダ類と共生生 物群集の記録.Nature of Kagoshima, 38: 39–45. Nierstrasz, H. F. and Brender a Brandis, G. A. (1923) Die Isopoden der Siboga-Expedition. II. Isopoda Genuina. I. Epicaridea. Siboga Expeditie Monographie, 32b: 57–121. Nierstrasz, H. F. & Brender a Brandis, G.A. (1930) Three new genera and five new species of parasitic Crustacea. Proceedings of the United States National Museum, 77 (2832): 1–9, figs. 1–20.

Article 7): 257–287. Shiino, S. M. (1937) Bopyrids from Tanabe Bay, IV. Memoirs of the College of Science, Kyoto Imperial University, (B) 12 (3, Article 18): 479–493. Shiino, S. M. (1939) A new phryxid (Epicaridea) from the inland sea. Annotationes Zoologicae Japonenses, 18 (1): 17–20. Shiino, S. M. (1941) Further notes on bopyrids from Kyusyu and Ryukyu. Annotationes Zoologicae Japonenses 20 (3): 154– 158. Shimomura, M., Ohtsuka, S., and Sakakihara, T. (2006) Two bopyrid isopods infesting caridean shrimp Hippolyte sp. in

Nierstrasz, H. F. and Brender a Brandis, G. A. (1931) Papers from

the Seto Inland Sea, western Japan (Crustacea: Peracarida).

Dr. Th. Mortensen’s Pacific Expedition 1914–16. 57.

Bulletin of the Kitakyushu Museum of Natural History and

Epicaridea 2. Videnskabelige Meddelelser fra Dansk Naturhistorisk Forening i Kjobenhavn, 91: 147–225. Nierstrasz, H. F. and Brender a Brandis, G. A. (1932) Alte und neue Epicaridea. Zoologischer Anzeiger, 101: 90–100.

106

Human History, Series A Natural History, 4: 1–17. WoRMS Editorial Board (2013) World Register of Marine Species. Available from http://www.marinespecies.org at VLIZ. Accessed 2013-10-16.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

南九州におけるモンスズメバチの多産地 河野太祐・山根正気 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部生物多様性学講座

 はじめに モンスズメバチ Vespa crabro Linnaeus は旧北区 に広く分布する中型のスズメバチであり,北米に も移入個体群が知られる(Archer, 2012; Kimsey and Carpenter, 2012).国内では,北海道から九州 まで広く分布することが知られるが,九州におけ る生息地に関する情報は乏しい.鹿児島県では, 長瀬(1982)が 1978 年からあしかけ 5 年間有剣 ハチ類の分布を調べたが本種を記録していない. その後のおよそ 30 年間も本種の記録は皆無で あったが,2009 年に県北部の姶良町からベイト トラップによって1個体が得られた(渡邊ほか, 2009). 筆者らは昨年,宮崎県えびの市の沢原高原に おいて本種の多産地を確認した.この生息地では, わずか半日の調査にもかかわらず,南九州に分布 するスズメバチ属全種が得られた.また沢原高原 の鹿児島県側(湧水町)においてもモンススメバ チの生息が確認された.沢原高原はスズメバチ類 の保全にとって極めて貴重な地域であると考えら れたので,同地域におけるモンスズメバチおよび 他のスズメバチ属の生息状況を簡単に報告する.  調査地と調査方法 沢原(さわら)高原は鹿児島県湧水町と宮崎 県えびの市にまたがって広がり,栗野岳の北西,     Kawano, T. and Sk. Yamane. 2014. Vespa crabro Linnaeus in southern Kyushu, Japan (Hymenoptera: Vespidae: Vespinae). Nature of Kagoshima 40: 107–109. TK: c/o Prof. Seiki Yamane, Department of Earth and Environmental Sciences, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: pseudoidatenankafu@gmail.com).

標高 500–600 m に位置する草原である.同地は毎 年春に野焼きが行われ,植生の遷移が進まず草原 環境が維持されている.このように,大規模な草 原環境が残されているため,オオウラギンヒョウ モンやユウスゲに代表される草原性の希少な動植 物の生息地として知られている(福田,1997). ハチ類では近年,全国的な希少種であるフジジガ バ チ Ammophila atripes japonica Kohl の 生 息 も 確 認 さ れ た( 長 利・ 長 利,2012; 河 野・ 山 元, 2013). 沢原高原は陸上自衛隊の霧島演習場としても 利用されているため,入域できる日時,時間が限 られる.調査日程は,えびの市のウェブサイトを 閲覧し,演習がおこなわれないことを確認し,決 定した. 2013 年 9 月 24 日,河野および山根がえびの市 側で草原内に孤立するクヌギ林の樹液に集まる個 体や,訪花・飛翔する個体を任意に採集,観察し たほか,夜間の灯火採集もおこなった.同年 10 月 1 日には山根が鹿児島県側の湧水町にて短時間 の調査を実施した. 標本の所蔵:鹿児島県側で採集されたモンス ズメバチのワーカー(1 個体)は鹿児島県立博物 館,それ以外の標本(本種を含むスズメバチ 5 種) は鹿児島県立博物館,大阪市立自然史博物館,北 海道大学総合博物館,河野個人コレクションに所 蔵される予定である.8 月に採集されたモンスズ メバチの標本は二町・塚田両氏が保管されている.  結果 宮崎県えびの市側においては,モンスズメバ チ Vespa crabro flavofasciata Cameron の働きバチと 雄バチ(Figs. 1−6)多数がクヌギの樹液を訪れて

107


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Figs. 1−6. Vespa crabro Linnaeus from Sawara plateau, southern Kyushu, Japan−1. worker dorsal view; 2. male dorsal view; 3. worker head frontal view; 4. male head frontal view; 5. worker lateral view; 6. male lateral view.

いるのが観察された.日没前後の薄暮時にも樹液 を訪れる個体がみられ,また日没後にはライトに 多数の働きバチが飛来した.鹿児島県湧水町では やはりクヌギの樹液を訪れた働きバチ 1 個体を得 ることができた. モンスズメバチのほかに,キイロスズメバチ Vespa simillima xanthoptera Smith(えびの市),コ ガ タ ス ズ メ バ チ Vespa analis insularis Dalla Torre (えびの市),ヒメスズメバチ Vespa ducalis pulchra du Buysson(えびの市)(Fig. 7),オオスズメバチ Vespa mandarinia japonica Radoszkowski(えびの市, 湧水町)が得られた.これらの内,クヌギの樹液 に頻繁に訪れていたのは,モンスズメバチ,ヒメ スズメバチ,オオスズメバチの 3 種であった.樹 液が大量にでている木や部位は限られており,オ オスズメバチが飛来すると他の 2 種は追い出され るケースが多かった.コガタスズメバチとキイロ スズメバチではほとんどのケースで訪花あるいは 飛翔中の個体が採集された.

108

 考察 沢原高原のモンスズメバチに関する情報は, 2013 年 8 月に蛾類の夜間採集を行った際に多数 飛来したモンスズメバチを採集した二町一成・塚 田拓氏によりもたらされた.本種は日本産スズメ バチ属のなかでは唯一夜行性も示す種である(松 浦・山根,1984).したがって,本種の分布情報 を得るには蛾類の研究者と緊密な連絡をとる必要 がある.通常,ライトに飛来した本種は採集の妨 害者として踏みつぶされ,標本が残ることは少な い.破損していても最低 1 個体持ち帰るよう蛾類 研究者に周知しておくことが望ましい. 今回発見されたモンスズメバチの多産地は,草 原の中にある散在するクヌギ林の一つであり (Fig. 8),二町氏が夜間採集をされた場所と同一 である.樹液が春から秋まで豊富にでる木の存在 は,モンスズメバチのコロニー維持の重要な要因 になる.狩りの対象としてはセミを好む傾向があ


RESEARCH ARTICLES

Fig. 7. Vespa ducalis pulchra du Buysson visiting sap of Quercus acutissima Carruthers. Sawara plateau (Miyazaki Pref. side), 24 Sept. 2013 (photo by Sk. Yamane).

るが、沢原高原周辺のセミに関する情報は少ない. 本種は主に樹洞営巣性であるが,沢原高原には営 巣できるほどの大木は見当たらない.まれに引越 し後の成熟巣が木造家屋の軒先や屋根裏でみつか ることもあるが(松浦・山根,1984),ここには そのような環境はない.おそらく,沢原高原の外 に位置する照葉樹二次林に営巣地があり,クヌギ 林まで通っているものと想定される.沢原高原を 車で回ってみたが,樹液を豊富に出すクヌギが多 く,かつ営巣場所となる照葉樹林が比較的近くに 位置するのは,この場所だけであった.ヒメスズ メバチとオオスズメバチはおもに土中営巣,コガ タスズメバチはおもに樹枝営巣,キイロスズメバ チは閉鎖・開放いずれの場所も利用するので,こ のクヌギ林内や周辺でも営巣している可能性が高 い. モンスズメバチは近年,日本各地で個体数を 減らしているといわれ,生息状況のモニターが重 要になっている.そのような中で元来本種の生息 数が少ない南九州において,多産地がみつかった ことは注目に値する.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 8. Forest of Q. acutissima Carruthers, in Sawara plateau (Miyazaki Pref. side) where many Vespa spp. were collected.

 謝辞 貴重な情報をもたらされた二町一成・塚田  拓両氏、また今回の調査に同行されたに二町氏に 深謝の意を表する.また,調査を手伝ってくださっ た福田晴夫先生と中峯浩司氏にもお礼申し上げ る.  引用文献 Archer, M. E. 2012. Vespine Wasps of the World: Behaviour, Ecology & Taxonomy of the Vespinae. Siri Science Press, Manchester. 352 pp. 福田晴夫,1997.南九州沢原高原におけるオオウラギンス ジヒョウモンの生態と保護(2).Butterflies, (17): 22−32. 河野太祐・山元宣征,2013.希少種フジジガバチ(ハチ目: アナバチ科)の九州における生息環境について.Nature of Kagoshima, 39: 109−111. Kimsey, M. S. and Carpenter, J. M. 2012. The Vespinae of North America. Journal of Hymenoptera Research, 28: 37−65. 松浦 誠・山根正気,1984. スズメバチ類の比較行動学.北 海道大学図書刊行会,札幌.xvi+428 pp., 4 pls. 長瀬博彦,1982.南九州の蜂 —4—.蜂友通信,(14): 57−78. 長利貴大・長利京美,2012. フジジガバチを姶良郡湧水町で 2011 年,2012 年に採集.SATSUMA, (148): 264. 渡邊尚一・川口エリ子・佐藤嘉一・臼井陽介,2009.森林 技術総合センターにおいてベイトトラップで捕獲され たスズメバチ科昆虫.鹿児島県森林技術総合センター 研究報告,12: 24−26.

109


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

110

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

トカラ列島のアリ 原田 豊・榎本茉莉亜・西俣菜々美・西牟田佳那 〒 890–0033 鹿児島市西別府町 1680 池田学園池田高等学校

Abstract In total, 57 ant species belonging to 27

using honey baits and 21 by manual collecting. Five

genera in 6 subfamilies were collected from 5 habitat

ant species were not collected with honey baits. On the

types (port, residential area, forest, forest edge,

other hand, in forests, of the 33 species 19 were

grassland) on 7 islands of the Tokara Islands,

collected using powdered cheese baits, and 19 by

Kagoshima Prefecture, southwestern Japan. This figure

manual collecting, 17 by litter sifting and 23 by soil

corresponds to around 40% of the 145 ant species

sifting.

recorded in the prefecture. The largest number (45 species) was recorded from Nakano-shima, and the smallest (15) from Kodakara-jima. Of the 57 species 15 are newly recorded from this island group. Monomorium chinense and Nylanderia amia were

 はじめに 南西諸島におけるアリ類の各島の分布は,山 根ほか(1999)によって 8 亜科 54 属 190 種が報

collected in all of the 7 islands surveyed. Around ports

告されている.これまでに鹿児島県では,本土か

the most dominant ant species measured by the

ら約 110 種(山根ほか,2010),屋久島から 95 種

frequency of occurrence at honey baits were M.

(細石ほか,2007),種子島から 52 種(原田ほか,

chinense on Kuchino-shima, Nakano-shima,

2009),黒島・硫黄島・竹島の上三島から 43 種(福

Suwanose-jima, Akuseki-jima and Takara-jima, Tetramorium tsushimae on Taira-jima (0.46–0.70), and Pheidole indica (0.97) on Kodakara-jima. On the other hand, in forests the most dominant species measured

元ほか,2013),南西諸島を含めると 145 種(山 根ほか,1999)のアリが記録されている.これま でトカラ列島から採集されたアリは,口之島 34

by the frequency of occurrence at powdered-cheese

種,中之島 33 種,平島 11 種,諏訪之瀬島 13 種,

baits were Nylanderia flavipes and Aphaenogaster

悪石島 24 種,宝島 33 種,小島 5 種,横当島 15

tokarainsula (0.53) on Kuchino-shima, N. flavipes and

種 の 合 計 54 種(Yamane et al., 1994; 山 根 ほ か,

Pachycondyla nakasujii (0.63) on Nakano-shima, Pheidole noda (0.80) on Taira-jima and Suwanosejima, and P. pieli (0.97) on Akuseki-jima. Similarity in species composition as measured by

1999;廣森,2003;中峯,2005a–b)で,小宝島, 臥蛇島,小臥蛇島等からの記録はない.トカラ列 島のアリ相は,旧北区と東洋区の移行的性格を示

Nomura-Simpson’s Coefficients was greatest between

すが,チョウや直翅目で知られているように旧北

Akueseki-jima and each of Kodakara-jima and Takara-

区的要素はきわめて乏しい(Yamane et al., 1994).

jima (0.80), and between Kodakara-jima and Takara-

ほとんどのアリ類は九州本土と奄美・沖縄の両方

jima (0.80), and was smallest between Nakano-shima

に分布する広域分布型であるが,明らかに東洋区

and Taira-jima (0.40). Around ports, of the 22 species 17 were collected     Harada, Y., M. Enomoto, N. Nishimata and K. Nishimuta. 2014. Ants of the Tokara Islands, northern Ryukyus, Japan. Nature of Kagoshima 40: 111–121. YH: Ikeda High School, 1680 Nishibeppu, Kagoshima 890–0033, Japan (e-mail: harahyo@yahoo.co.jp).

的性格をもつ種も存在する.悪石島と小宝島の間 には,陸生の脊椎動物の分布境界線である渡瀬線 があるが,アリの分布については明確な境界線と しての意味はもたない. トカラ列島におけるこれまでの調査は,見つ け採り,ベイトトラップによる地表活動性のアリ

111


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

樹林内のそれとは大きく異なっていた.林縁は, 林と車道あるいは歩道との境界部分で,多くの落 葉がみられた.草地は,丈の低い草本類で覆われ た公園や広場(空き地)で,利用者は稀で,伸び 過ぎたら草刈が行われる程度の管理が行われてい た. 港では,代表的な 3 つのタイプの環境にそれ ぞれ 1 つの調査区を設けてアリ相を調べた.それ ぞれの調査区につきトランセクトを 1 本ずつ設置 し,ベイト(餌)として蜂蜜希釈液(約 30%) をしみ込ませたカット綿を約 2 m おきに 10 個ず つ設置し(3 トランセクトで計 30 個),その横に 80 % エタノールの入ったチューブを置いた.全 ベイトを設置後,60 分間,トランセクトを往復 しながら集まってきたアリを種類ごとにピンセッ 図 1.調査地.

トを使って数個体ずつ採集し,エタノールチュー ブに液浸した.また,トランセクトを設置した周 辺においてベイトでの採集と同じ時間帯に見つけ

の採集が主体で,特に土壌中のアリの採集は不十 分であった.今回の調査では,異なる 5 つの環境 タイプ(港・民家周辺・林内・林縁・草地)で, 4 つの採集方法を組み合わせることによって,地 表活動性のアリはもちろんのこと,リター層や土 壌中に生活するアリも採集を行った.  調査地と方法 調査地は,鹿児島県十島村のトカラ列島有人 7 島(口之島・中之島・平島・諏訪之瀬島・悪石島・ 小宝島・宝島)である(図 1). 調査は,主に港・民家周辺・林内と,補足的 に林縁・草地の 5 つの異なる環境タイプで実施し た(図 2).トカラ列島各島の港は,県本土およ び種子島,屋久島のそれと比較して,どの港も小 規模で周りの植生は多様性の低い単純な環境で あった.トカラ列島の民家は,多くが雑木林と隣 接あるいは雑木林の中にあって,これまで調査を 行ってきた県本土の民家周辺の環境とは大きく異 なっていた.また,民家の周りのいたるところに 部分的に落葉の積もった場所がみられた.林内の 環境は,これまで調査を行ってきた県本土の照葉

112

採りを実施した.なお,ベイトでの採集は,各ト ランセクト 1 名ずつ計 3 名で,見つけ採りは原則 4 名で実施した. 民家周辺では,原則として 60 分間,民家を取 り囲む石垣,道路,空き地等で見つけ採りを行っ た.中之島では,時化によって船が港へ接岸がで きず,2 日間滞在期間が延びたため可能な限り民 家周辺において自由採集を行った. 林内では,1 つの調査地点に 3 本のライントラ ンセクトを設置した.採集は,4 つの方法(粉チー ズベイト・見つけ採り・リターふるい・土壌ふる い ) を 組 み 合 わ せ て 行 っ た(Quadra-protocol; Yamane & Hashimoto, 2001).各トランセクトにお いてベイトとして約 3 m おきに粉チーズ(約 0.5 g) を地面に直接まき(3 トランセクトで計 30 個), その横に目印棒を立て,80% エタノールの入っ たチューブを置いた.港の調査と同様に,全ベイ ト設置後,60 分間,トランセクトを往復しなが ら集まってきたアリを種類ごとにピンセットを 使って数個体ずつ採集し,エタノールチューブに 液浸した.また,トランセクトの両側にできる横 9 m x 縦 27 m のコドラート内で,ベイトでの採 集と同じ時間帯に見つけ採り,リターふるい,土


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 2.調査地の環境. A:切石港(諏訪之瀬島).B:小宝島港(小宝島).C:燃岳(口之島,標高約 80 m).D:中岳(悪石島, 標高約 200 m).E:民家周辺(口之島).F:民家周辺(平島).

壌ふるいを行った.リターふるいと土壌ふるいで は,ふるい(4 mm x 4 mm メッシュ)と受け皿 を使用し,リター(主に落葉)と土壌(縦 10 cm x 横 10 cm x 深さ 15 cm)を採取し,ふるいでふるっ て受け皿に落ちたアリを種類ごとに数個体ずつ採 集した.なお,ベイトでの採集は,各トランセク ト 1 名ずつ計 3 名で,見つけ採りは 2 名,リター ふるいと土壌ふるいは原則それぞれ 1 名で実施し た.なお,トカラハブの生息する小宝島と宝島で は,咬まれる危険があるために林内での調査を実 施しなかった. 採集したアリは,少なくとも 1 種につき数個 体ずつ三角台紙に貼付して乾燥標本としたのち, 実体顕微鏡を使って同定した.アリの種の同定に は主に日本蟻類研究会(1989, 1991, 1992)を使用 し,種の配列は山根ほか(2010)に従った.なお, 調査日は下記の通りである.口之島:2013 年 4 月 16–29 日;中之島:5 月 25–28 日;平島:6 月 28–30 日;諏訪之瀬島:7 月 19–21 日;悪石島:8 月 23–25 日;小宝島:10 月 18–20 日;宝島:9 月 20–23 日.

 結果 トカラ列島のアリ 今回の調査によって,トカラ列島 7 島から 6 亜科 27 属 57 種のアリが採集された(表 1). ル リアリ Ochetellus glaber (Mayr),アワテコヌカア リ Tapinoma melanocephalum (Fabricius),ウメマツ オオアリ Componotus vitiosus F. Smith,ケブカア メイロアリ Nylanderia amia (Forel),ハダカアリ Cardiocondyla kagutsuchi Terayama,クロヒメアリ Monomorium chinense Santschi, オ オ シ ワ ア リ Tetramorium bicarinatum (Nylander) の 7 種 は 7 島 すべてで採集された.一方,1 つの島のみから採 集 さ れ た ア リ は, ク ロ オ オ ア リ Camponotus japonica Mayr(中之島;林縁),ヒメキイロケア リ Lasius talpa Wilson(諏訪之瀬島;林内),ノコ ギ リ ハ リ ア リ Stigmatomma silvestrii Wheeler( 中 之島;民家周辺)など 21 種であった.これら 1 つの島のみから採集されたアリは,ウメマツアリ Vollenhovia emeryi Wheeler(民家周辺と林内)を 除き,各島の 1 つの環境タイプのみから採集され た. 過去の記録と比較して今回の調査で採集され

113


114

Nylanderia ryukyuensis

Paraparatrechina sakurae

12リュウキュウアメイロアリ

13サクラアリ

14ノコギリハリアリ

Pachycondyla chinenense

Pachycondyla nakasujii

Pachycondyla pilosior

Ponera scabra

Ponera tamon

17オオハリアリ

18ナカスジハリアリ

19ケブカハリアリ

20テラニシハリアリ

21ミナミヒメハリアリ

○ ○

Aphenogaster osimensis

Aphaenogaster sp.

24イソアシナガアリ

25アシナガアリの一種

フタフシアリ亜科

Proceratium itoi

Proceratium japonicum

22イトウカギバラアリ

23ヤマトカギバラアリ

カギバラハリアリ亜科

Hypoponera beppin

Hypoponera sauteri

15ベッピンニセハリアリ

16ニセハリアリ

ハリアリ亜科

Stigmatomma silvestrii

Nylanderia flavipes

ノコギリハリアリ亜科

Nylanderia amia

11アメイロアリ

Lasius talpa

9ヒメキイロケアリ

10ケブカアメイロアリ

Camponotus vitiosus

8ウメマツオオアリ

Camponotus niponicus ○

○ ○

Camponotus nawai

7ヒラズオオアリ

FE

6ナワヨツボシオオアリ

F

H

中之島

Camponotus bishamon ○

P

Camponotus japonicus

G

4ホソウメマツオオアリ ○

FE

5クロオオアリ

Technomyrmex brunneus

3アシジロヒラフシアリ

ヤマアリ亜科

Ochetellus glaber

Tapinoma melanocephalum

F

口之島

H

1ルリアリ ○

P

2アワテコヌカアリ

カタアリ亜科

種  名

表 1.各港で環境タイプの違いによって採集されたアリ.

P

F

平島 H

G

P

H

F

諏訪之瀬島

P

H

悪石島

F

P

H

FE

小宝島

P

H

FE

宝 島

G

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


○ ○ ○ ○

Pyramica canina

Pyramica membranifera

Solenopsis japonica

Strumigenys lewisii

Temnothorax anira

Temnothorax mitsukoae

Temnothorax spinosior

Tetramorium bicarinatum

Tetramorium kraepelini

Tetramorium lanuginosum

Tetramorium nipponense

Tetramorium simillimum

Tetramorium tsushimae

Vollenhovia benzai

Vollenhovia emeryi

43ヒラタウロコアリ

44トカラウロコアリ

45トフシアリ

46ウロコアリ

47ヒラセムネボソアリ

48アレチムネボソアリ

49ハリナガムネボソアリ

50オオシワアリ

51ケブカシワアリ

52イカリゲシワアリ

53キイロオオシワアリ

54サザナミシワアリ

55トビイロシワアリ

56タテナシウメマツアリ

57ウメマツアリ

P:港;H:民家周辺;F:森林;FE:林縁;G:丈の低い草本類で覆われた草地.

合  計

○ ○

Pristmyrmex punctatus

42アミメアリ

12

16

24

15

8

6

11

13 45

33

20

10

28

22

8

16

11

27

16

17

21

10 12

11

9

15

12

4

Pheidole pieli

41ヒメオオズアリ

Pheidole noda

40オオズアリ

Pheidole indica

39インドオオズアリ

12

14

Pheidole fervens

○ ○

Oligomyrmex ymatonis

38ミナミオオズアリ

37コツノアリ

Myrmecina nipponica

36カドフシアリ

Monomorium floricola

○ ○

Monomorium pharaonis

35フタイロヒメアリ

34イエヒメアリ

Monomorium intrudense

33ヒメアリ

○ ○

Monomorium chinense

Crematogaster vagula

32クロヒメアリ

31クボミシリアゲアリ

Crematogaster osakensis

Crematogaster nawai

30キイロシリアゲアリ

29ツヤシリアゲアリ

Crematogaster matsumurai

28ハリブトシリアゲアリ

Cardiocondyla kagutsuchi

27ハダカアリ

Aphaenogaster tokarainsula

26トカラアシナガアリ

30

18

9

RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

115


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

50

50

45

45

40

40

30

30

28

27

24 21

20

31

30

27 22

21

20 15

10

10

0

0 口之島

中之島

平島

諏訪之瀬島

悪石島

小宝島

宝島

民家周辺

林内

林縁

草地

図 3.各島で採集されたアリの種数.

図 4.環境タイプの違いによって採集されたアリの種数.

な か っ た ア リ は, ハ シ リ ハ リ ア リ Leptogenys

アゲアリ Crematogaster matsumurai Forel,カドフ

confucii Forel,エラブアシナガアリ Aphaenogaster

シアリ Myrmecina nipponica Wheeler,ヒラタウロ

erabu Nishizono et Yamane, ク ロ オ オ ズ ア リ

コアリ Pyramica canina (Brown et Boisvert),ウロ

Pheidole susanowo Onoyama et Terayama,オキナワ

コアリ Strumigenys lewisii Cameron,アレチムネボ

トフシアリ Solenopsis tipuna Forel,オオウロコア

ソアリ Temnothorax mitsukoae Terayama et Yamane,

リ Strumigenys solifontis Brown, ミ ナ ミ ウ ロ コ ア

ハ リ ナ ガ ム ネ ボ ソ ア リ Temnothorax spinosior

リ Strumigenys sp. 9, ツ ヤ ウ ロ コ ア リ Pyramica

Terayama et Onoyama, ケ ブ カ シ ワ ア リ

mazu (Terayama, Lin et Wu) ,ミツバアリ Acropyga

Tetramorium kraepelini Forel, サ ザ ナ ミ シ ワ ア リ

sauteri Forel, ア シ ナ ガ キ ア リ Anoplolepis

Teramorium simillimum (F. Smith),トビイロシワア

gracilipes (F. Smith), ト ビ イ ロ ケ ア リ Lasius

リ Tetramorium tsushimae Emery の 15 種であった

japonicus Santschi,アメイロオオアリ Camponotus

(表 4).なお,ナカスジハリアリは,山根ほか

devestivus Wheeler, ユ ミ セ オ オ ア リ Camponotus

(1999)でオオハリアリと区別されておらず,オ

kaguya Terayama の 12 種であった.なお,アシナ

オハリアリと同定した中にナカスジハリアリが混

ガキアリは,山根ほか(1999)で宝島での記録が

在している可能性がある.中之島と諏訪之瀬島か

あったが,鹿児島大学理学部の SKY コレクショ

ら得られたアシナガアリの一種は,アシナガアリ

ンに標本はなく確認することができなかった.一

Aphaenogaster famerica (F. Smith) に 近 縁 な 種 で,

方,今回の調査のみで採集された新記録種は,ヨ

体色は黄色味が強く,本土のアシナガアリとはっ

ツ ボ シ オ オ ア リ Camponotus quadrinotatus Forel,

きり区別できる.過去の記録では,中之島からエ

ウメマツオオアリ,ヒメキイロケアリ,ナカスジ

ラブアシナガアリが採集されているが,今回の調

ハリアリ Pachycondyla nakasujii Yashiro et al.,テ

査で得られた個体に典型的なエラブアシナガアリ

ラニシハリアリ Ponera scabra Wheeler,イトウカ

はみられない.従って,中之島にアシナガアリと

ギバラアリ Proceratium itoi (Forel),ハリブトシリ

エラブアシナガアリの両方がいるのか,中之島の

表 4.各島から得られた新記録種.

116

口之島

中之島

平島

諏訪之瀬島

悪石島

過去の記録

33

今回の調査

24

合  計 新記録種

小宝島

宝島

合計

33

11

13

45

28

27

24

0

33

54

21

15

30

38

56

28

57

32

37

15

44

5

23

17

69

19

13

15

11

15


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

は 17.9 であった.林内の調査は,小宝島と宝島

口之島

を除く 5 島で実施して合計 31 種が採集され,平 均種数は 13.4 であった.林縁の調査は,4 島(口

0.70

中之島

0.60

0.40

平 島

0.64

0.60

0.70

諏訪之 瀬島

0.50

0.60

0.60

0.70

悪石島

0.78

0.78

0.56

0.67

0.80

小宝島

0.50

0.60

0.60

0.73

0.80

0.80

之島・中之島・小宝島・宝島)で実施して合計 27 種が採集され,平均種数は 12.0 であった.林 縁では,採集された種数の範囲(4–18)が大きかっ た.草地の調査は,3 島(口之島・平島・宝島) で実施して合計 21 種が採集され,平均種数は 10.7 であった.

宝 島

図 5.7 島間の種構成の類似度.

優占種 港 ベイトへの出現頻度によって優占種を推 定した.港でハニーベイトへの出現頻度によって 推定された最優占種をみると,口之島,中之島, 諏訪之瀬島,悪石島,宝島がそれぞれクロヒメア

エラブアシナガアリには体色変異があってアシナ

リ Monomorium chinense Santschi( そ れ ぞ れ 出 現

ガ ア リ に 類 似 し た 個 体 が い る の か, 染 色 体 を

頻度が 0.50, 0.70, 0.63, 0.46, 0.63),平島がオオシ

チェックしないと結論を出すことはできない(山

ワ ア リ(0.66), 小 宝 島 が イ ン ド オ オ ズ ア リ

根,私信).よって,今回採集されたアシナガア

Pheidole indica F. Smith(0.97)であった.7 島全

リの一種は,アシナガアリであるかエラブアシナ

体で出現頻度をみると,クロヒメアリ(0.44)が

ガアリであるかの判定はできなかったが,体色で

最も高く,次がケブカアメイロアリ(0.22), オ

みるかぎりアシナガアリによく似た個体であっ

オシワアリ(0.18)の順であった(表 2).ルリア

た.

リ,ケブカアメイロアリ,クロヒメアリの 3 種は す べ て の 港 で み ら れ た. ト カ ラ ウ ロ コ ア リ

各島で得られたアリ 中之島から最も多くのアリ(45 種)が採集さ

Pyramica membranifera (Emery) とタテナシウメマ ツアリ Vollenhovia benzai Terayama et Kinomura は,

れた.一方,小宝島から採集されたアリは 15 種

それぞれ平島の南之浜港の 1 個のベイトのみで採

のみであった(図 3).今回の調査で確認された

集された.

トカラ列島 7 島からの新記録種は,口之島 5 種,

林内 林内で粉チーズベイトへの出現頻度に

中之島 23 種,平島 17 種,諏訪之瀬島 19 種,悪

よって推定された最優占種をみると,口之島がア

石島 13 種,小宝島 15 種,宝島 11 種で,7 島全

メイロアリ Nylanderia flavipes (F. Smith) とトカラ

体で 15 種であった.リター層,土壌中を主な生

アシナガアリ Aphaenogaster tokarainsula Watanabe

活場所とする種が多く含まれるハリアリ亜科,カ

et Yamane(それぞれ 0.53),中之島がアメイロア

ギバラアリ亜科,フタフシアリ亜科のアリで新記

リとナカスジハリアリ(それぞれ 0.63),平島と

録種がみられた.

諏訪之瀬島がそれぞれオオズアリ Pheidole noda F. Smith(それぞれ 0.80 と 0.97),悪石島がヒメオ

環境タイプの違いによって得られたアリ 港の調査は,7 島すべてで実施し,採集された

オズアリ Pheidole pieli Santschi(0.97)であった(表 3).諏訪之瀬島のオオズアリと悪石島のヒメオオ

アリは合計 22 種,平均種数は 10.7 であった.民

ズアリは,それぞれ 30 個のベイト中 29 個(0.97)

家周辺の調査は,7 島すべてで実施して最も多く

でベイトに誘引され,きわめて高い出現頻度を示

のアリ(45 種)が採集された(図 4).平均種数

した.5 島全体で出現頻度をみると,オオズアリ

117


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

40

25 22

21

33

20 ハニーベイトのみ  トカラウロコアリ 見つけ採りのみ  ホソウメマツオオアリ  ナワヨツボシオオアリ  クボミシリアゲアリ  リュウキュウアメイロアリ  サクラアリ

17 種

15

数 10

30 23 種 数

19

20

19

17

5

10

0 ハニーベイト

見つけ採り

全体

図 6.港で採集方法の違いによって得られたアリ. 0 チーズベイト 見つけ採り リターふるい 土壌ふるい

全体

図 7.林内で採集方法の違いによって得られたアリ.

(0.39)が最も高く,次がアメイロアリ(0.37), ナカスジハリアリ(0.22),ヒメオオズアリ(0.21)

は最も低かった.7 島間の種構成の類似度の平均 は 0.65 であった.

の順であった.オオズアリはすべての林内でみら れた.一方,ナワヨツボシオオアリ Camponotus

採集方法の違いによって得られたアリ

nawai Ito と マ ナ コ ハ リ ア リ Ponera kohmoku

港 港では,ハニーベイト 17 種,見つけ採り

Terayama は,それぞれ平島と口之島の 1 個のベ

21 種の合計 22 種のアリが採集された(図 6).ト

イトのみから採集された.

カラウロコアリはハニーベイトのみで,ホソウメ マツオオアリ,ナワヨツボシオオアリ,リュウキュ

7 島間の種構成の類似度

ウアメイロアリ Paratrechina ryukyuensis Terayama,

野村 — シンプソン指数(NSC)によって求め

サクラアリ Paraparatrechina sakurae (Ito),クボミ

た種構成の類似度は,悪石島-小宝島間,悪石島

シ リ ア ゲ ア リ Crematogaster vagula Santschi の 5

-宝島間,小宝島-宝島間がそれぞれ 0.80 と最

種は見つけ採りのみで採集された.

も高かった(図 5).一方,中之島-平島間(0.40)

林内 林内では,チーズベイト 19 種,見つけ

表 2.ハニーベイトへの出現頻度. 種 名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

口之島

中之島

平島

諏訪之瀬島

悪石島

小宝島

宝島

西之浜港

中之島港

南之浜港

切石港

やすら浜港

小宝島港

前籠港

3(0.10)

10(0.33)

2(0.07)

3(0.10) 1(0.03)

5(0.17) 8(0.27)

2(0.07)

1(0.03) 14(0.46) 3(0.10)

2(0.07) 14(0.46)

2(0.07) 3(0.10) 2(0.07) 4(0.13)

14(0.46)

9(0.30)

8(0.27)

2(0.07)

3(0.10)

19(0.63)

1(0.03) ルリアリ アワテコヌカアリ ウメマツオオアリ 1(0.03) ケブカアメイロアリ アメイロアリ 4(0.13) トカラアシナガアリ ハダカアリ 8(0.27) ツヤシリアゲアリ 15(0.50) クロヒメアリ ヒメアリ 4(0.13) ミナミオオズアリ 1(0.03) インドオオズアリ アミメアリ トカラウロコアリ イカリゲシワアリ 1(0.03) オオシワアリ タテナシウメマツアリ 8 種数 計

( )ハニーベイトへの出現頻度.

118

21(0.70)

4(0.13) 14(0.46) 6(0.20)

2(0.07)

8(0.27) 19(0.63)

29(0.97)

4(0.13) 6(0.20)

3(0.10)

7(0.23) 1(0.03)

7

9

14(0.46) 1(0.03)

3

20(0.66) 1(0.03)

2(0.07)

10

6

2(0.07) 11(0.37) 8

合計 (210) 26(0.12) 12(0.06) 3(0.01) 46(0.22) 17(0.08) 4(0.02) 14(0.07) 16(0.08) 93(0.44) 6(0.03) 8(0.04) 36(0.17) 14(0.07) 1(0.01) 9(0.04) 38(0.18) 1(0.01) 17


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

採り 19 種,リターふるい 17 種,土壌ふるい 23

その周辺の植生が単純で,多様性の低い環境で

種の合計 33 種のアリが採集された(図 7).調査

あったためであると考えられる.また,これまで

を行った 5 島すべての林内でみられたアリはいな

の県本土と大隅諸島における合計 8 港の調査で,

かった.ケブカアメイロアリは諏訪之瀬島を除き,

採集された種数が最も少なかった港が鹿児島港南

アメイロアリは悪石島を除き,タテナシウメマツ

埠頭(7 種)で,最も多かった港が屋久島の宮之

アリは中之島を除き,それぞれ残り 4 島の林内で

浦港(28 種)と得られた種数の範囲に大きな差

みられた.

がみられた(原田ほか,2013).一方,今回の調 査において各島の港で採集されたアリは 9–12 種

 考察

と大きな違いはみられなかった.これは,県本土

トカラ列島 7 島から 6 亜科 27 属 57 種のアリ

と大隅諸島各港の環境は多様性の高い港から低い

が採集されたが,この種数は鹿児島県で記録され

港までさまざまであるが,トカラ列島各島の港の

ている約 145 種(山根ほか,1999)の約 40% に

環境は,一様に単純な環境であったためであると

相当する.

考えられる.

港では,これまで県本土 6 港と大隅諸島(種

これまで鹿児島県内において民家周辺で行わ

子島と屋久島)2 港から合計 42 種のアリが採集

れた調査例は少なく,例えば屋久島宮之浦と安房

された(原田ほか,2013).今回の調査でトカラ

の 2 つ の 調 査 地 点 で 合 計 24 種( 原 田 ほ か,

列島 7 島の港から採集されたアリは,県本土と大

2009),沖永良部和泊の住宅地で 16 種(下野・山

隅諸島で採集された合計 42 種の約半数の 22 種の

根,2003)が記録された.今回の調査で環境タイ

みであった.このことはトカラ列島各島の港及び

プ別にみると民家周辺から最も多くの種(45 種)

表 3.粉チーズベイトへの出現頻度. 種  名

口之島

中之島

平島

諏訪之瀬島

悪石島

燃岳 (80 m)

御岳 (100 m)

御岳 (160 m)

根上岳 (320 m)

中岳 (200 m)

1 アシジロヒラフシアリ 2 ケブカアメイロアリ

2(0.07) 3(0.10)

4 アメイロアリ

16(0.53)

6 ナカスジハリアリ

19(0.63)

8(0.27)

55(0.37)

2(0.07)

1(0.03)

3(0.02)

19(0.63)

14(0.47)

33(0.22)

1(0.03)

1(0.01)

16(0.53)

3(0.10)

9 クボミシリアゲアリ

2(0.07)

1(0.03)

19(0.13) 3(0.02)

10 クロヒメアリ

3(0.10)

11 カドフシアリ

3(0.02)

3(0.10)

12 ミナミオオズアリ

6(0.20)

13 オオズアリ

3(0.10)

14 ヒメオオズアリ

3(0.10)

15 アミメアリ

6(0.10)

10(0.33)

16 ウロコアリ

1(0.03)

2(0.07)

3(0.02) 10(0.33)

1(0.03)

17 オオシワアリ

24(0.80)

16(0.11) 29(0.97)

1(0.03)

58(0.39)

29(0.97)

32(0.21) 16(0.11) 3(0.02)

6(0.20)

18 キイロオオシワアリ 種数 計

1(0.01) 12(0.40)

8 トカラアシナガアリ

19 タテナシウメマツアリ

4(0.03)

1(0.03)

5 サクラアリ 7 マナコハリアリ

2(0.01) 1(0.03)

3 ナワヨツボシオオアリ

2(0.07) 3(0.10) 11

合計 (150)

11

6(0.04)

2(0.07)

1(0.03)

2(0.07)

1(0.03)

8

5

4

5(0.03) 6(0.04) 19

( )粉チーズベイトへの出現頻度.

119


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

が採集されたが,トカラ列島各島の民家は,雑木

RESEARCH ARTICLES

出て採餌していたものと考えられる.

林と隣接あるいは雑木林の中にあるといった印象

港において 22 種中 21 種が見つけ採りによっ

で,林内と民家周辺の 2 つの環境タイプのそれぞ

て採集された.ハニーベイトのみで採集されたア

れで活動するアリが採集されたために種数が多く

リは,トカラウロコアリ 1 種のみであった.港全

なったものと考えられる.また,民家の周りのい

体に生息するアリを漏れなく採集するためには,

たるところに落葉の積もった場所がみられ,これ

ベイトを用いたライントランセクト法と見つけ採

らの場所から通常林内のリター層で生活するアリ

りを組み合わせて行うことが望ましい.一方,林

が採集されたことも理由の 1 つであろう.

内では 5 島全体で 31 種のアリが得られたが,見

これまでトカラ列島各島で林内の組織的な調

つけ採り・チーズベイト・リターふるい・土壌ふ

査はほとんど行われてこなかった.今回の調査で

るいのそれぞれで採集されたアリは 17–23 種で,

は林内で 4 つの採集方法を組み合わせたサンプリ

地表活動性のアリは主に見つけ採りとチーズベイ

ングによって,多数のトカラ列島新記録種(15 種)

トによって,リター層と土中で生活するアリは主

が得られたものと考えられる.県本土での照葉樹

にリターふるいと土壌ふるいによって採集され

二次林の調査において,例えば鹿児島市吉野町寺

た.特に林内の調査では,見つけ採りと土壌ふる

山の 4 か所から 26 種(川原ほか,1999),伊佐市

いを組み合わせることによって 95% 以上のアリ

十曽の 3 か所から 22 種(原田ほか,2012)が記

が採集されたが,採集漏れをなくすために時間が

録されている.トカラ列島の林内環境は,これま

許す限りこれら 2 つの方法にチーズベイトとリ

で調査を行ってきた県本土と近隣島嶼の照葉樹二

ターふるいを加えた 4 つの採集方法を組み合わせ

次林内のそれとはかなり異なっていたが,今回の

て調査を行うことが望ましい.

調査で採集された 34 種の種構成は本土のそれと 大きな違いはなかった.今回,林内の調査は,小

 謝辞

宝島と宝島を除く 5 島においてそれぞれ 1 か所ず

鹿児島大学理学部山根正気氏には,採集され

つ行ったが,今後再調査を行うことによってさら

たアリの同定チェック,原稿の校正等をしていた

に多くの追加種が見込まれるものと思われる.

だいた.また,アリの生態,分類に関する貴重な

今回の調査結果のみに基づいた 7 島間の種構

情報をいただいた.心より感謝申し上げる.なお,

成の類似度は,0.8–0.4 の範囲で,平均は 0.65 と

今回の調査に関わる旅費,宿泊費等の必要経費は,

高かった.これは,トカラ列島の港,民家周辺,

すべて平成 25 年度スーパーサイエンスハイス

林内の環境がお互いにそれぞれ似ていたからかも

クール(SSH)学校予算に依った.

しれない.悪石島と小宝島との間には動物分布境 界線の渡瀬線があるが,アリの種構成について明 確な違いはみられなかった.今回の調査で,7 島 のうち小宝島あるいは宝島のみから採集されたア リ は, イ エ ヒ メ ア リ Monomorium pharaonis (Linnaeus), フ タ イ ロ ヒ メ ア リ Monomorium floricola (Jerdon),ケブカシワアリ,サザナミシワ アリの 4 種であった.イエヒメアリは小宝島と宝 島の両島において民家周辺で数個体ずつ採集され たが,小宝島で宿泊した民宿では屋内のいたると ころにイエヒメアリがみられた.また,屋内でア リ道も確認された.おそらく民家周辺で採集され たイエヒメアリは,屋内に営巣したものが屋外に

120

 引用文献 福元しげ子・Weeyawat Jaitorong・山根正気,2013.鹿児島 県黒島・硫黄島・竹島のアリ相.Nature of Kagoshima, 39: 119–125. 原田 豊・福倉大輔・栗巣 連・山根正気,2013. 港のア リ-外来アリのモニタリング-.日本生物地理学会会 報,68: 29–40. 原田 豊・古藤聡一・川口尚也・佐藤宏洋・瀬戸口太志・ 村永龍星・山下寛人・楊 晃慶・山根正気,2012.鹿 児島県伊佐市十曽のアリ.日本生物地理学会会報,67: 143–152. 原 田  豊・ 松 元 勇 樹・ 前 田 詩 織・ 大 山 亜 耶・ 山 根 正 気, 2009.屋久島の異なった環境間におけるアリ相の比較. 日本生物地理学会会報,4: 125–134. 原田 豊・宿里宏美・米田万里枝・瀧波りら・長濱 梢・ 松元勇樹・大山亜耶・前田詩織・山根正気,2009.種 子島のアリ相.南紀生物,51: 15–21.


RESEARCH ARTICLES 廣森敏昭,2003.トカラ列島悪石島,2002 年 8 月の昆虫. 鹿児島県立博物館研究報告,22: 75–82. 川原慶博・細山田三郎・山根正気,1999.鹿児島大学寺山 自然教育研究施設のアリ相.鹿児島大学教育学部研究 紀要(自然科学編),50: 147–156.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 日本蟻類研究会編,1992.日本産アリ類の検索と解説(III). フタフシアリ亜科,ムカシアリ亜科.(追補).94 pp. 日 本蟻類研究会,東京. 下野綾子・山根正気,2003.沖永良部島におけるアリの多 様性.離島学の構築(鹿児島大学),3: 11–29.

中峯浩司,2005a.トカラ列島中之島,2003 年 6 月の昆虫. 鹿児島県立博物館研究報告,24: 28–45.

山根正気・原田 豊・江口克之,2010.アリの生態と分類 -南九州のアリの自然史-.200 pp. 南方新社,鹿児島.

中峯浩司,2005b.トカラ列島口之島,2004 年 3 月の昆虫. 鹿児島県立博物館研究報告,24: 46–51.

Yamane, Sk. and Hashimoto, Y., 2001. Standardized sampling methods: the Quadra Protocol. ANeT Newsletter, 3: 16–17.

日本蟻類研究会編,1989.日本産アリ類の検索と解説(I). ハリアリ亜科,クビレハリアリ亜科,クシフタフシア リ亜科,サスライアリ亜科,ムカシアリ亜科.42 pp. 日 本蟻類研究会,東京.

山根正気・幾留秀一・寺山 守,1999.南西諸島有剣ハチ・ アリ類検索図説,pp. 138–317.北海道大学図書館刊行会. 札幌.

日本蟻類研究会編,1991.日本産アリ類の検索と解説(II). カタアリ亜科,ヤマアリ亜科,56 pp. 日本蟻類研究会, 東京.

Yamane, Sk., Iwai, T., Watanabe, H. and Yamanouchi, Y., 1994. Ant fauna of the Tokara Islands, northern Ryukyus, Japan. WWF Japan Science Report, 2: 311–327.

121


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

122

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

奄美大島名瀬の攪乱地のアリ相と活動レベルの季節変化 1

2

山根正気 ・榮 和朗 ・藤本勝典 1 2

3

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学研究科 〒 894–0009 奄美市名瀬大熊町 28 番地 3 市営大熊住宅 1–206 3

〒 894–0007 奄美市和光町 30–2

 はじめに 鹿児島県生物系教員等ネットワークでは,だ れでも参加できる生物多様性モニタリングの簡便 法(shikagaku プロトコール)を開発してきた(鹿 児島県生物教員等ネットワーク , 2012, 2013).そ の中に,港のアリのモニタリングがある.外来種 (あるいは放浪種)と呼ばれるアリの侵入は港を 起点とすることが多いため,港のアリ相を監視す る必要があるためである.これまでに,原田 豊 氏の指導のもと池田学園・池田高等学校の生徒た ちが,鹿児島県本土,大隅諸島,トカラ列島でベ イトを使って港のアリ相を調べてきた(原田ほか, 2013).調査されたのは主に大きなフェリーが入 る港で,他に漁港もいくつか含まれている.その 結果,九州南部から大隅諸島,トカラ列島にかけ ての港では,ベイトに誘引されるアリは,7–28 種で,平均は 13.1 種であった.また,緯度が下 がるほど外来種の比率が増えることがわかった. 原田らの調査は各港で 1 回しか行っていない ため,活動の季節性は把握されていない.温帯で はアリの大半は晩秋から早春にかけて巣外活動を 休止するが,鹿児島県のような暖温帯から亜熱帯 に位置する地域では,一部の種が冬期にも活動す る.沖縄島の山原における調査では,在来種は春     Yamane, Sk., K. Sakae and K. Fujimoto. 2014. Species composition of ants and seasonal change in their activity level in disturbed areas of Naze, Amami-oshima, southern Japan (Hymenoptera: Formicidae). Nature of Kagoshima 40: 123–126. SY: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: opaari@ yahoo.co.jp).

から初夏にかけて,放浪種は晩夏から冬にかけて 活動のピークをもつことがみいだされた(Suwabe et al., 2009).本研究では沖縄島より北に位置する 奄美大島で,shikagaku プロトコールを用い,攪 乱地に生息するアリ類の活動レベルを 1 年間にわ たって調べた.  材料と方法 調査地として,鹿児島県奄美市輪内公園と名 瀬新港を選んだ.輪内公園は朝日小中校の校区に あり四方を道路や住宅地に囲まれた運動公園で, 裸地が多いが一部に植樹がみられる.トックリヤ シモドキ,デイゴ,ツツジ,シャリンバイなどが 植えられているが,デイゴはデイゴヒメコバチの 寄生でほとんどが根の部分しか残っていない.名 瀬新港は東京、大阪,鹿児島,沖縄等からの大型 フェリーが発着する大きな港である.調査地点は, フェリー待合所の西側を走る舗装道路の,港とは 反対側に沿ったベルトで,木や植込みがまばらに ある攪乱地である.ソテツ,シャリンバイ,ガジュ マル,アカギ,トベラ等が植栽されている.いず れも海抜 10 m 以下である. 上記 2 カ所のそれぞれに,30% 砂糖水をしみ 込ませたカット綿をおよそ 2 m 間隔で 30 個設置 し,設置開始から 1 時間ベートを見回り,ベート に来ていたアリの全ての種を 1 種について数個体 採集した.採集されたアリはべートごとに 80% アルコールの入ったサンプル管に入れ,後日同定 した.「結果」および「考察」における「出現頻度」 は,設置されたベイトに誘引されたそれぞれの種 の出現回数を示す.1 個のベートに 2 種以上のア リが誘引されることが少なくないため,各月 30

123


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 1.2 つの調査地においてベイトに誘引されたアリの出現頻度(各調査地において全 360 ベイトにたいしてそれぞれの種が出 現したベイト数). Fig. 1. Frequency of occurrence of ants at honey baits in two survey sites (number of baits attracting each ant species; 360 baits were set up in each site).

個のベイトに誘引されたアリの総出現頻度は 30

とんど不可能である.本稿では,国際的に放浪種

を超えることがある.

として認められている種(Schultz and McGlynn, 2000)や,日本において比較的最近になって出現

 放浪種の認定

したと見做されている種を放浪種とした(表 1 の

 本研究では放浪種(tramp species)を以下のよ

注を参照).Yamauchi and Ogata (1995) は,東洋区

うに認定した.放浪種は,人間により運ばれて分

に広く分布し人為による拡散の傾向が強い種

布を拡大している種で,多くは攪乱的環境に適応

を ’eurycholic’ species,より狭い分布域をもちア

している.原産地以外では基本的に外来種とされ

ジア東部などに固有な種を ’stenochoric’ species と

るが,自力で分散する能力をもつ種(たとえばア

呼んだが、前者が通常考えられている放浪種に相

シジロヒラフシアリ)の場合,新たな侵入が人為

当し(ただし,細かい点では一致しない部分もあ

によるとは限らない.人為と自力分散の両方で分

る),それらの大部分は外来種と考えられる.

布拡大を行っている可能性がある.日本において アリ類の分布記録が充実してきたのは,1960 年 代以降であり,外来種の可能性が高い種であって も,日本に到着した正確な時期を特定するのはほ

 結果 1.種数,種構成,優占種 輪内公園で 9 属 12 種,名瀬新港で 5 属 8 種,

表 1.奄美大島名瀬の攪乱地におけるアリの種構成. Table 1. List of ant species from disturbed areas in Naze, Amami-oshima. 和名

学名

アワテコヌカアリ ** アシジロヒラフシアリ ** ケブカアメイロアリ ** サクラアリ ヒゲナガアメイロアリ ** ハダカアリ * ヒメハダカアリ ** クロヒメアリ インドオオズアリ ** ツヤオオズアリ ** 1) ナンヨウテンコクオオズアリ ** ** オオシワアリ ケブカシワアリ *

Tapinoma melanocephalum (Fabricius) Technomyrmex brunneus Forel Nylanderia amia (Forel) Paraparatrechina sakurae (Ito) Paratrechina longicornis (Latreille) Cardiocondyla kagutsuchi Terayama Cardiocondyla minutior (Forel) Monomorium chinense Santschi Pheidole indica Mayr Pheidole megacephala (Fabricius) Pheidole parva Mayr Tetramorium bicarinatum (Nylander) Tetramorium kraepelini Forel

1)

名瀬新港

輪内公園

出現頻度合計

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

7 40 95 1 1 1 5 131 30 30 207 47 1

○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○

別名:ブギオオズアリ;*:外来種の可能性がある種;**:ほぼ確実に外来種と考えられる種.両者を合わせて放浪種とした.

124


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 2.2 つの調査地におけるアリ類の活動レベルの季節変化.各調査地で毎月 1 回 30 ベイトを設置した.1つのベイトに 2 種以 上が誘引されることがあったため,アリの出現頻度が 30 を超す月がある. Fig. 2. Seasonal change in ant activity level. Total number of baits attracting at least one ant species (left) and the sum of occurrences of all ant species at baits (right) in each month.

全体で 9 属 13 種が得られた(表 1).名瀬新港で

ベートの 24% 前後)であった(図 1).月ごとに

得られた 8 種のうち輪内公園でみられなかったの

みると,ケブカアメイロアリのベートへの出現頻

はツヤオオズアリのみであった.輪内公園では

度が 50% を越えたのは 4 月(56.7%)と 6 月(90%)

10 種が,名瀬新港では 7 種が放浪種と考えられ

であった.ナンヨウテンコクオオズアリが 50%

たが,これらのうち何種かは在来であるかあるい

以上のベートに出現した月はなかった.

は自力分布による可能性がある.また,非放浪種

このように,二つの調査地点間では,種数だ

として扱ったクロヒメアリは放浪種である可能性

けでなく優占種にも違いがみられた.しかし,い

が排除できない.

ずれにおいてもナンヨウテンコクオオズアリは高

輪内公園では,1 年間合計した全 360 ベイトに

い出現頻度を示した.両地点を合計すると,第 1

対して 5% 以上の出現があったのはわずか 4 種で,

位はナンヨウテンコクオオズアリで全 720 ベート

残り 8 種のうち 1 回しか出現しなかった「稀な」

へ の 出 現 率 は 28.8%,2 位 は ク ロ ヒ メ ア リ で

種が 5 種もあった.ナンヨウテンコクオオズアリ

18.2%,次いでケブカアメイロアリが 13.2% であっ

(34.7%)とクロヒメアリ(23.6%)が圧倒的に優

た.サクラアリ,ヒゲナガアメイロアリ,ハダカ

占種しており,第 3 位はアシジロヒラフシアリ

アリ,ケブカシワアリの 4 種はそれぞれ 1 回しか

(11.1%)であった(図 1).

出現しなかった.

名瀬新港では,全ベート(360)への出現頻度 でみると 1 回しか出現しなかったのはヒメハダア

2.季節変化

リ 1 種のみで,それ以外の種は 6% 以上で,大半

まず,全ベイト数にたいするアリを誘引した

は 8% 以上であった.優占種は,ケブカアメイロ

ベイトの数はいずれの調査地でも気温と高い相関

アリとナンヨウテンコクオオズアリ(ともに全

をしめした(r =0.64).とくに気温の低い 12 月か

2

125


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

ら 3 月にかけてアリ誘引ベート数は激減した(図

均 48.6%)であった(最高は小宝島)(原田ほか,

2).2 種あるいは 3 種を誘引したベートの数も同

2013 をもとに計算).しかし,今回調査した奄美

様の傾向を示した.しかし,4–11 月にはアリ誘

大島名瀬の 2 カ所の攪乱地をみると,輪内公園で

引ベート数と気温の間に必ずしも強い相関はな

は 83.3%,名瀬新港では 87.5% に達した.さらに,

かった.このことは,全アリ種の出現頻度の総計

Yamauchi and Ogata (1995) が eurychoric species と

2

と気温の関係 (r =0.60–0.64) でも同様であった(図

したクロヒメアリをこのカテゴリーに含めると,

2).

名瀬新港のアリはすべてが放浪種ということにな

種ごとにみると、ナンヨウテンコクオオズア

る.このように奄美大島名瀬の攪乱地における放

リとクロヒメアリでは,明らかに冬期に活動が落

浪種の比率は,鹿児島県本土からトカラ宝島まで

ちる傾向があった.オオシワアリも似た傾向を示

のそれに比べて著しく高いといえる.この理由は

した.一方,誘引されたベイトが季節を通じて少

明らかでないが,多くの放浪種の起原が熱帯〜亜

なかったのではっきりしたことは言えないが、ア

熱帯であることを考えると、熱帯に近づくにつれ

シジロヒラフシアリでは冬期における活動レベル

撹乱地のアリ相に占める放浪種の比率が高まるこ

の低下はとくに認められなかった.

とが考えられる.また,調査地をとりまく環境の

 考察 鹿児島県本土の 6 つ港で確認されたアリの種 数は 7–17(平均 12.2),トカラ列島の 7 つの港で

自然度も放浪種の比率に影響を及ぼすものと考え られる.  謝辞

確認された種数は 9–12(平均 10.7)であった(原

調査に参加された有馬康文,田畑満大,原千

田ほか,2013).これらはそれぞれ 1 回の調査に

代子,服部哲久(以上奄美市),榮祈和人,榮日

もとづいた数字である.今回年間を通した 12 回

向(以上奄美市朝日小学校生徒)の諸氏に厚くお

の調査にも関わらず,輪内公園では 12 種,名瀬

礼申し上げる.また,池田学園・池田高等学校の

新港ではわずか 8 種であった.

原田 豊氏には鹿児島県の港における外来性アリ

調査地点間で優占種に違いがみられたが,共 通して多かったのは奄美大島を北限とするナンヨ ウテンコクオオズアリであった。トカラ列島以北 でオオズアリ属の種が優占したのは,屋久島宮之 浦港におけるオオズアリ Pheidole noda F. Smith の ケースのみであった(原田ほか,2013).クロヒ メアリは鹿児島県本土から奄美大島にいたる全域 で高い出現頻度をしめしたが,この種を除くとト カラ列島以北と奄美大島との間では優占種に共通 性が低かった。ちなみに県本土と種子島の港で出 現頻度が高かったトビイロシワアリはトカラ列島 や奄美群島には生息していない。今後,トカラ列 島以北で港以外の攪乱地におけるアリ相を調査す る必要がある. 港で採集された種に占める外来種(本研究の 放浪種にほぼ相当)は,鹿児島県本土では 14.3– 50.0%( 平 均 35.9%) , 種 子 島 と 屋 久 島 で は 25– 38.1%(平均 31.6),トカラ列島では 36–67%(平

126

類について種々ご教示いただいた.  引用文献 原田 豊・福倉大輔・栗巣 連・山根正気.2013. 港のアリ ― 外来アリのモニタリング ―.日本生物地理学会会報 , 68: 29–40. 鹿児島県生物教員等ネットワーク.2012. 生物多様性モニタ リング・プロトコール集 1.30 pp. 鹿児島県生物教員等ネットワーク.2013. 生物多様性モニタ リング・プロトコール集 2.34 pp. Schultz, T. R. and McGlynn, T. P. 2000. The interactions of ants with other organisms. In: Agosti, D., Majer, J. D., Alonso, L. E. and Schultz, T. R. (eds.), Ants: Standard methods for measuring and monitoring biodiversity, pp. 35–44. Smithsonian Institution Press, Washington and London. Suwabe, M., Ohnishi, H., Kikuchi, T., Kawara, K. and Tsuji, K. 2009. Difference in seasonal activity pattern between nonnative and native ants in subtropical forest of Okinawa Island, Japan. Ecological Research, 24: 637–643. Yamauchi, K. and Ogata, K. 1995. Social structure and reproductive systems of tramp versus endemic ants (Hymenoptera: Formicidae) of the Ryukyu Islands. Pacific Science, 49: 55–68.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県臥蛇島のアリ相 1

2

2

福元しげ子 ・Rijal Satria ・前田拓哉 ・山根正気 1 2

1

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

〒 890–0056 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科

Abstract Gaja-jima belongs to the Tokara Islands, the

島)と 5 つの無人島(臥蛇島,小臥蛇島,小島,

Northern Ryukyus. It became an uninhabited island

上ノ根島,横当島)からなる.行政区は鹿児島県

after the emigration of the people in July, 1970 out of the island. Fifty-three ant species have been recorded from the Tokara Islands, but no species from Gajajima. An expedition to Gaja-jima was carried out by

鹿児島郡十島村で,北側に位置する三島村(硫黄 島,黒島,竹島)と同じく役場が自治体の外(鹿 児島市内)に設置されている.

the Kagoshima University Museum from 2011 to

 臥蛇島はトカラ列島の北部に位置し(Fig. 1),

2013, and 30 ant species (20 genera) were collected

面積 4 km ,島の周囲 9 km,最高標高 497 m の火

there. Twenty-one species (16 genera) were newly

山地形が残存する火山島である.1970 年に最後

collected from the island. It should be noted that the

の島民が島外に移住し無人島となっている.人の

famous tramp ant Nylanderia amia (Forel) was not found. The alien tramp ant Technomyrmex brunneus (F. Smith) has been recorded from the Amami Islands,

2

住んでいない島で山羊や鹿が増え,岩肌がむき出 しになっているところが島のいたるところでみら

four islands of the Tokara group (Kuchino-shima, Nakano-shima, Akuseki-jima and Takara-jima), Tanega-shima, Yaku-shima, and the Kagoshima mainland, but was absent from Gaja-jima. The larger islands of the Tokara group have been connected to each other and to the Kagoshima Port by Ferry Toshima, but Gaja-jima has never been linked with the other islands of the Tokara group even when it was inhabited by people. Despite the island seems to have a suitable climate for the habitation of T. brunneus, there might have not been any chance for its invasion onto it.  はじめに  鹿児島県のトカラ列島は 7 つの有人島(口之島, 中之島,平島,諏訪之瀬島,悪石島,小宝島,宝

    Fukumoto, S., R. Satria, T. Maeda and Sk. Yamane. 2014. Ant fauna of Gaja-jima, Tokara Islands, southwestern Japan. Nature of Kagoshima 40: 127–131. SF: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: shigeko@ kaum.kagoshima-u.ac.jp).

Fig. 1. Location of Gaja-jima and surrounding islands.

127


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

れる.

人家跡,小学校跡,荒れ地など短時間で歩き回れ

 トカラ列島の昆虫相は 1980 年代から鹿児島県

るところを中心にサンプリングを行った.同定に

立博物館により調査されてきたが,全てのグルー

は山根ほか(2010)を用いた.バウチャーは鹿児

プを網羅した目録は発表されていない.アリ類に

島大学総合研究博物館に保管されている.

ついては山根ほか(1999)が過去の記録を整理し

これらの記録を総合して,臥蛇島のアリ類リ

53 種を報告したが,臥蛇島からはアリ類の記録

ストを作成した(Table 1).また,SKY コレクショ

がない.2006 年 6 月 22 日に十島村昆虫保護条例

ンおよび鹿児島大学総合研究博物館に保管されて

が制定され,昆虫のサンプリングには許可が必要

いる臥蛇島産アリ類の標本データを付録として本

となった.

論文の末尾に示した.

 2011–13 年に鹿児島大学総合研究博物館は臥蛇 島のアリ類の分布・生態調査を実施した.この島 は,鹿児島大学理学部南西島弧地震火山観測所の

 臥蛇島のアリ相 従来の記録のまとめ

観測点となっており,著者らは地震計のメンテナ

文献からは臥蛇島からのアリの記録は見いだ

ンスのための渡島を機に結成された「臥蛇島調査

せなかった.SKY コレクションを精査したとこ

団」のメンバーとして参加した.本報告では,過

ろ,小野田繁氏によって 1996 年に採集された 9

去の記録もふくめて,臥蛇島のアリ相を総合的に

属 9 種の標本を確認した(「付録」の採集データ

検討した.なお,生態学的調査の結果は稿を改め

参照).

て報告の予定である.

2011–13 年に得られた新知見

 材料および方法 以下の 3 つの方法によって,アリ類の採集記

調査により 20 属 30 種が採集された(Table 1). それらのうち 16 属 21 種は新たに採集されたもの である.林床性の種では本列島未記録のイトウカ

録を集めた.

ギバラアリ Proceratium itoi (Forel) が得られ,ま

文献調査

た樹上の枯枝に営巣するヒラズオオアリ

トカラ列島のアリ相については Abe (1977) が

Camponotus nipponicus (Wheeler) が採集されたの

中之島と宝島から 37 種を記録し,このデータは

は注目に値する .

その後日本蟻類研究会(1989–1992)や寺山(1992)

アリ相の特徴

などによって使われたと考えられる.Yamane et

これまでに臥蛇島とその周辺(北琉球)で記

al. (1994) は過去の記録に加え,鹿児島大学理学

録されたアリの種数は,屋久島 39 属 95 種(細石

部の学生によって採集された標本をとりまとめ,

ほ か,2007), 種 子 島 28 属 52 種( 原 田 ほ か,

28 属 54 種を記録した.山根ほか(1999)は新た

2009), 口 永 良 部 島 16 属 21 種( 山 根 ほ か,

な種を追加するとともに疑問種を削除し 53 種を

1999),竹島 17 属 24 種,硫黄島 21 属 32 種,黒

リストアップした.

島 20 属 31 種(竹島・硫黄島・黒島全体で 26 属

標本調査

43 種;福元ほか,2013),口之島 20 属 34 種,中

鹿児島大学理学部の SKY コレクションにある

之島 22 属 34 種(これら両島については福元の未

トカラ列島のすべてのアリ標本をチェックした.

発表データを含む),臥蛇島 20 属 30 種(以上,

2011–13 年の調査結果

本研究)である.臥蛇島で採集された種は大部分

福元らが 2011–13 年に採集したアリ類を各種に

が口之島,中之島,種子島,屋久島からも記録が

つき 1– 数個体ずつマウントし,同定した.調査

ある.イトウカギバラアリは九州本土と奄美大島

は 2011 年 5 月 17 日と 10 月 8 日,2012 年 5 月 8 日,

からは記録があったが,北琉球からは初めての記

2013 年 5 月 7 日に実施した.採集に使えた実質

録 で あ る. ナ カ ス ジ ハ リ ア リ Pachycondyla

的な時間は,各回およそ 3 時間であった.畑地跡,

(Brachyponera) nakasujii Yashiro et al. は大隅諸島か

128


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ら の 記 録 は あ っ た が( 福 元 ほ か,2013), 今 回

Technomyrmex brunneus (Forel) は, 奄 美 群 島, ト

SKY コレクションを精査した結果,中之島の標

カラ列島の 4 島(口之島,中之島,悪石島,宝島),

本が見つかった.

種子島,屋久島(山根ほか,1999),鹿児島県本

放浪種

土(山根ほか,2010)で生息が確認され,近年分

鹿児島県本土と大隅諸島(種子島,屋久島,口

布域を拡大していると考えられる(Shimana and

永良部島)に分布する放浪種と考えられるアリは

Yamane, 2009)が,臥蛇島では確認されなかった.

14 種である.臥蛇島からは 5 種採集されたが,

トカラ列島は鹿児島港と「フェリーとしま」によっ

全種数に対する放浪種の割合は 17% と低い.放

て結ばれているが,臥蛇島はかつて島民が住んで

浪種の大半は外来種と考えられるが,侵入の時期

いた時代も含め定期船によって結ばれたことがな

など詳しいことは分かっていない.この他に攪乱

い.そのため,気候的には本種の生息に適してい

地 適 応 性 の ア リ と し て サ ク ラ ア リ Parapara-

るにもかかわらず,本種の侵入を許していないと

trechina sakurae (Ito) やクロヒメアリ Monomorium

考えられる.

chinense Santschi もあげられる.放浪種であるケ ブカアメイロアリ Nylanderia amia (Forel) を欠く

 謝辞 2012–13 年の調査に当たり,十島村役場および

ことは注目に値する. 外来性の放浪種アシジロヒラフシアリ

中峯浩司氏(鹿児島大学理工学研究科)に協力い

Table 1. Ant species recorded from Gaja-jima.

Ochetellus glaber Tapinoma melanocephalum Lasius japonicus Nylanderia flavipes Paraparatrechina sakurae Camponotus nipponicus Camponotus bishamon Camponotus nawai Camponotus devestivus Pachycondyla nakasujii Pachycondyla pilosior Ponera tamon Proceratium itoi Strumigenys lewisii Vollenhovia benzai Monomorium chinense Monomorium floricola Monomorium hiten Oligomyrmex yamatonis Solenopsis japonica Tetramorium bicarinatum Aphaenogaster osimensis Aphaenogaster tokarainsulana Pheidole fervens Pheidole noda Creatogasuter nawai Crematogaster osakensis Crematogaster vagula Cardicondyla kagutsuchi Pristomyrmex punctatus Total: 30 species (20 genera)

ルリアリ アワテコヌカアリ ケブカアメイロアリ アメイロアリ サクラアリ ヒラズオオアリ ホソウメマツオオアリ ヒラズオオアリ アメイロオオアリ ナカスジハリアリ ケブカハリアリ ミナミヒメアリ イトウカギバラアリ ウロコアリ タテナシウメマツアリ クロヒメアリ フタイロヒメアリ フタモンヒメアリ コツノアリ トフシアリ オオシワアリ イソアシナガアリ トカラアシナガアリ アズマオオズアリ オオズアリ ツヤシリアゲアリ キイロシリアゲアリ クボミシリアゲアリ ハダカアリ アミメアリ

SO

SF

SF

RS, SF, TM

SF

1996.8.20

2011.5.17

2011.10.8

2012.5.8

2013.5.7

⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝

⃝ ⃝

⃝ ⃝

Shigeru Onoda (SO), Shigeko Fukumoto (SF), Rijal Satria (RS), and Takuya Maeda (TM).

129


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

ただいた.小野田繁氏(鹿児島市)には貴重な標

雄アリ m の個体数で示し,括弧内は点数(ピン

本を提供していただいた.鹿児島大学南西島弧地

の数)である.採集者名は以下のように省略され

震火山観測所の皆様には臥蛇島渡島に同行するこ

て い る:KN, Koji Nakamine; RS, Rijal Satria; SF,

とをお許しくださった.以上の方々に深くお礼申

Shigeko Fukumoto; SO, Shigeru Onoda, TM, Takuya

し上げる.

Maeda.必要に応じて標高,生息環境などの情報

 引用文献

も含めた.以下にリストする標本はすべて乾燥標 本であり,これら以外に液浸の状態で保存されて

Abe, T. 1977. A preliminary study on the ant fauna of Tokara Islands and Amami-Oshima. Pp. 93–102. In S. Ikehara (ed.). Ecological Studies of Nature Conservation of the Ryukyu Islands – (III). University of the Ryukyus, Naha.

いるサンプルが多数ある.

福元しげ子・Weeyawat Jaitrong・山根正気.2013.鹿児島県 黒島・硫黄島・竹島のアリ相.Nature of Kagoshima, 39: 119–125.

2011.5.17, SF; 1w(1), 120 m alt., 2011.10.8, SF;

原田 豊・宿里宏美・米田万里枝・瀧波りら・長濱 梢・ 松元勇樹・大山亜那・前田詩織・山根正気.2009.種 子島のアリ相.南紀生物,51(1): 15–21. 細石真吾・吉村正志・久保木謙・緒方一夫.2007.屋久島 のアリ類.蟻,(30): 47–54.

Ochetellus glaber — 1w(1), 120 m alt. (time unit), 2w(1), 120 m alt. (cheese bait), 2012.5.8, SF. Tapinoma melanocephalum — 1w(1), 58 m alt., 2011.5.17, SF. Lasius japonicus — 3w(1), 2013.5.7, SF. Nylanderia flavipes — 3w(3), 120 m alt. (cheese bait

日本蟻類研究会(編),1989.日本産アリ類の検索と解説(I). ハリアリ亜科,クビレハリアリ亜科,クシフタフシア リ亜科,サスライアリ亜科,ムカシアリ亜科.42 pp. 日本蟻類研究会,東京.

etc.), 2011.5.17, SF; 1w1m(1), 120 m alt. (soil),

1991,日本産アリ類の検索と解説(II). 日本蟻類研究会(編), カタアリ亜科,ヤマアリ亜科.56 pp.日本蟻類研究会, 東京

Paraparatrechina sakurae — 3w(1), 2013.5.7, SF.

日本蟻類研究会(編),1992,日本産アリ類の検索と解説(III). フタフシアリ亜科,ムカシアリ亜科(補追).94 pp.日 本蟻類研究会,東京

m alt., (on tree), 2012.5.8, TM.

Shimana, Y. and Yamane, Sk. 2009. Geographical distribution of Technomyrmex brunneus Forel (Hymenoptera, Formicidae) in the western part of the mainland of Kagoshima, South Japan. Journal of the Myrmecological Society of Japan [Ari], (32): 9–19.

2012.5.8, SF; 1w(1), 120 m alt. (time unit etc.), 2012.5.8, RS; 2w(2), 2013.5.7, SF. Camponotus (Colobopsis) nipponicus — 1w(1), 120 Camponotus (Myrmamblys) bishamon — 1w(1), 2011.10.8, SF. Camponotus (Myrmamblys) nawai — 2w(1), 2012.5.8, TM. Camponotus (Tanaemyrmex) devestivus — 2w1q(3),

寺山 守.1992.東アジアにおけるアリの群集構造(I). 地域性および種多様性.日本生物地理学会会報,47: 1–31.

1996.8.20, SO; 1w(1), 2013.5.7, KN.

山根正気・原田 豊・江口克之.2010.アリの生態と分類 — 南九州のアリの自然史.200 pp.南方新社,鹿児島.

2011.10.8, SF; 3w(3), 2013.5.7, SF.

山根正気・幾留秀一・寺山 守.1999.南西諸島産有剣ハチ・ アリ類検索図説.24 pls. + v + 831 pp.北海道大学図書 刊行会,札幌. Yamane, Sk., Iwai, T., Watanabe, H. and Yamanouchi, Y. 1994. Ant fauna of the Tokara Islands, Northern Ryukyus, Japan (Hymenoptera, Formicidae). WWF Japan Science Report, 2 (2): 311–327.

 付録 臥蛇島産アリ類の乾燥標本 種名はすべて学名で表した.和名は Table 1 を 参照のこと.標本数は働きアリ w,女王アリ q,

130

Pachycondyla (Brachyponera) nakasujii — 3w(3), Pachcondyla pilosior — 1q(1), 1996.8.20, SO. Ponera tamon — 1q(1), 1996.8.20, SO. Proceratium itoi — 1w(1), 120 m alt. (time unit), 2012.5.8, TM. Strumigenys lewisii — 1w(1), 2011.10.8, SF; 1w(1), 120 m alt. (time unit), 2012.5.8, RS. Vollenhovia benzai — 1w(1), 2011.10.8, SF; 3w(2), 120 m alt. (cheese bait etc.), 2012.5.8, SF. Monomorium chinense — 1w(1), 120 m alt. (time unit), 2011.5.17, SF; 1w(1), 120 m alt. (time unit), 2012.5.8, RS.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Monomorium floricola — 1w(1), 120 m alt., 2013.5.8, SF.

Pheidole noda — 1w(1), 58 m alt., 2011.5.17, SF;

Monomorium hiten — 2w(2), 2011.10.8, SF.

2w(2), (time unit etc,), 2012.5.8, SF.

Oligomyrmex yamatonis — 1w(1), 1996.8.20, SO.

Crematogaster nawai — 1w(1), 1996.8.20. SO;

Solenopsis japonica — 2w(2), 1996.8.20, SO; 1w(1),

1w(1), 120 m alt. (cheese bait), 2011.5.17, SF.

2011.10.8, SF; 1w(1), 120 m alt. (cheese bait), 2012.5.8,

Crematogaster osakensis — 1w(1), 120 m alt. (time

SF; 2w(1), 120 m alt. (soil), 2012.5.8, SF.

unit), 2012.5.8, SF.

Tetramorium bicarinatum — 1w(1), 1996.8.20, SO;

Crematogaster vagula — 1w(1), 2011.5.17, SF;

1w(1), 58 m alt., 2011.5.17, SF; 1w(1), 120 m alt.

1w(1), 120 m alt. (time unit), 2011.10.8, SF; 1w(1),

(cheese bait etc.), 2012.5.8, SF; 2w1q(1), 2012.5.8,

120 m alt. (on tree), 2012.5.8, TM; 3w(1), 120 m alt.,

SF; 1w1q(1), 120 m alt. (decayed wood), 2013.5.7, SF.

2013.5.7, SF.

Aphaenogaster osimensis — 1w(1), 120 m alt.,

Cardiocondyla kagutsuchi — 1w(1), 2011.10.8, SF.

2011.10.8, SF.

Pristomyrmex punctatus — 1w(1), 1996.8.20. SO;

Aphaenogaster tokarainsulana — 1w(1), 1996.8.20,

1w(1), 2011.10.8, SF; 1w(1), 120 m alt. (time unit),

SO; 1w(1), 120 m alt., 2011.5.17, SF; 1w(1), 120m alt.

2012.5.8, SF; 2w(1), 2013.5.7, SF.

(leaf litter), 2011.10.8, SF; 1w(1), 120 m alt., 2012.5.8, SF. Pheidole fervens — 1w(1), 58 m alt., 2011.5.17, SF; 5w(3), 120 m alt. (cheese bait etc.), 2012.5.8, SF; 4w(2), 2013.5.7, SF.

131


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

132

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

2011 年鹿児島市周辺における 8 種のセミの発生消長 今村桜子 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科

 はじめに  セミは半翅目 Hemiptera 頸吻亜目セミ型下目の セ ミ 上 科 Cicadoidea に 属 す 昆 虫 の 総 称 で あ る. 2011 年現在,日本では 35 種のセミの生息が確認 されており,そのうち鹿児島県内では 15 種,県 本 土 で は 10 種 が 記 録 さ れ て い る( 福 田 ほ か, 2009).しかし,鹿児島県本土におけるセミの発 生消長について詳しく調べた研究はない.本研究 では 2011 年に、鹿児島県鹿児島市周辺に生息す るセミの発生消長を,羽化殻の採集と鳴き声の音 量測定という 2 つの方法を用いて調査を行った.

による音の聞き取りをもとにした音量評価と三脚 に固定した騒音計(CUSTOM SL-1373SD SD Card Data Logger SOUND LEVEL METER)による音量 測定を行った.人の耳による音量評価は 1 回目の 調査で聞いた音量を,個体数が少ないと感じた場 合 2,個体数が多いと感じた場合は 3 とし,これ を基準に 1–5 の 5 段階で行った.ヒグラシでは, 個体同士がバラバラに鳴くことが多かったので, 音量評価は行わず 1 分間に聞くことができた鳴き 声の数をカウントした.調査時期が最も早かった ハルゼミでは,騒音計が準備できていなかったた め調査者による音の聞き取り調査のみとなった.

 材料と方法 鳴き声の音量測定 調査対象種はハルゼミ,ヒメハルゼミ,ヒグ ラシ,ニイニイゼミ,アブラゼミ,ミンミンゼミ, クマゼミ,ツクツクボウシの 8 種とした.調査は, 出現が最も早かったハルゼミを確認した 2011 年 4 月 16 日から出現が一番遅かったツクツクボウ シが確認できなくなった 11 月 21 日まで雨天の日 を避けて行った.調査地には,ミンミンゼミの場 合は生息を確認できた場所の中で最も近い布引の 滝周辺を選び,他種の場合は「交通量が少ないこ と」「静かであること」を重視し,調査対象種の 生息が観察できた 3 か所を選んだ(表 1).各調 査地で測定地点を定め,約 5 日おきに調査者の耳     Imamura, S. 2014. Seasonal change in the abundance of eight cicada species around Kagoshima-shi, Kyushu, Japan. Nature of Kagoshima 40: 133–140. Department of Earth and Environmental Sciences, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: k4517735@kadai.jp).

羽化殻採集 調査対象種はニイニイゼミ,アブラゼミ,ク マゼミ,ツクツクボウシの 4 種とした.「連続し た森林に隣接した」鹿児島市宮川野外活動セン ター, 「孤立した森林」である鹿児島大学郡元キャ ンパス植物園,「都市的環境」である鹿児島県立 鴨池野球場周辺の 3 か所で,調査地ごとに調査木 約 50 本を定め,調査木ごとについている、また はその周辺に落下している羽化殻を探し,数を記 録した.調査は,鹿児島大学でアブラゼミの初鳴 を確認した翌々日の 2011 年 7 月 13 日から羽化殻 が 2 回続けてみつからなくなった 9 月 19 日まで 1 日おきに合計 35 回行った.セミの幼虫が羽化 を行うのは夕方から夜にかけてと言われているの で(中尾,1990),採集は羽化が終わっていると 考えられる午前中に行った.採集した個体は種, 性別,地表からの高さ(垂直距離)を記録した. クマゼミ,アブラゼミの羽化殻は高所についてい るものが多く,手の届かないところにある羽化殻

133


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 1.それぞれの種を確認した期間.黒線部は 2011 年に実際に確認した出現時期,斜線部は『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方(福 田ほか,2009)のデータに基づく出現時期を表している.終鳴日が定かでない場合は(最後に鳴き声を聞いた日~鳴き声を 聞かなくなった日)を示す.

(3 m 以上)についてはおおよその距離を目測し

いたため,布引の滝周辺でも 7 月下旬に鳴きだし

た.羽化途中の個体についても同様の記録をとっ

たのではないかと思われる.ツクツクボウシは

た.採集日の気温,湿度データは鹿児島市におけ

五ヶ別府と吹上浜で発生時期が異なった.吹上浜

る 2011 年 7 月から 9 月の気象庁観測データ(http://

のほうが五ヶ別府に比べて鳴き始めが早く,また

www.jma.go.jp/jma/index.html)を使用した.採集

鳴き終わるのは遅かった.

した羽化殻は宮武ほか(1992)をもとに種と性を 同定した.

各種の鳴き声の音量推移の結果は図 2 のよう になった.布引の滝周辺では多種のセミが鳴くこ と,雨天後の調査だと滝・川の水量が増え音がよ

 結果

く聞こえないということがあり,調査がうまくい

成虫の発生時期と鳴き声の音量の推移 ここでは音量調査にもとづき結果を述べる. 2011 年におけるそれぞれの種の発生(鳴き声を

かなかったためミンミンゼミの音量推移の結果は 省く. (1)ハルゼミ

聞いた)期間は図 1 に示した.もっともはやく鳴

初めて調査地に行き,鳴き声を聞いたのは 4

き声を確認したのがハルゼミ,その次にニイニイ

月 16 日だった.吹上浜周辺の住民に話を伺った

ゼミ,ヒメハルゼミ,ヒグラシ,ツクツクボウシ

ところ 4 月 16 日が初鳴日ということだった.4

(吹上浜),アブラゼミ,クマゼミ,ツクツクボウ

月の下旬から 5 月上旬にかけて音量が増加し 5 月

シ(五ヶ別府)の順で確認した.ミンミンゼミは

21 日以降は減少し,台風が通過した後の 5 月 30

初めて調査地に行った 8 月 3 日の時点で多数の個

日の調査では鳴き声がほとんど聞こえずハルゼミ

体が鳴いており,鳴き始めてすでに日数が経過し

が激減したように感じた.6 月 5 日から 6 月 23

ていると感じた.7 月 20 日に坊津で確認されて

日は調査日が雨や台風の日と重なったため中止し

表 1.各セミの鳴き声の調査地と時間. 調査地 日置市吹上町吹上浜公園

31°31′18″N, 130°20′5″E

鹿児島市五ヶ別府町

31°33′57″N, 130°28′15″E

鹿児島市鹿児島大学郡元キャンパス

31º34′13″N, 130°32′35″E

姶良市布引の滝周辺

31°42′6″N, 130°36′35″E

134

調査対象種 ハルゼミ Terpnosia vacua Olivier ニイニイゼミ Platypleura kaempferi Fabricius ツクツクボウシ Meimuna opalifera Walker ヒメハルゼミ Euterpnosia chibensis Matsumura ヒグラシ Tanna japonensis Distant アブラゼミ Graptosaltoria nigrofuscata Motschulsky クマゼミ Cryptotympana facialis Walker ミンミンゼミ Hyalessa maculaticollis Motschulsky

時間 13:30~ 13:30~ 13:30~ 18:00~ 18:30~ 18:45~ 11:30~ 13:00~


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 2.それぞれの種の鳴き声の音量の推移.上方の折れ線グラフは騒音計による 測定量の変化,下方の折れ線グラフは調査者の耳で聞いた音量(ヒグラシの場 合は 1 分間に聞こえた鳴き声の回数)の変化を示す.

た.6 月 23 日には確認できなかった. (2)ヒメハルゼミ 6 月 28 日に初めて鳴き声を確認し,7 月 1 日

り変化がみられず,7 月 27 日まで増加しその後 低下した. (4)ニイニイゼミ

以降の調査から騒音計による測定を開始した.騒

6 月 26 日に初めて鳴き声を確認し,7 月 2 日

音計の測定結果では 7 月 1 日から 7 日まで音量は

以降の調査から騒音計による測定を開始した.騒

低下し,その後 7 月 15 日まで増加 7 月 21 日から

音計の測定結果では 7 月 17 日まで音量は増加し

さらに増加した.調査者の耳による音量評価では

その後徐々に減少していく傾向がみられた.人の

7 月 17 日まで増加し,その後低下していくよう

耳による音量評価では 7 月 14 日まで増加し 7 月

に感じた.

28 日までピーク,その後低下した.

(3)ヒグラシ 騒音計の測定結果では 7 月 1 日から 7 月 27 日 まで増加し,8 月 10 日以降さらに増加する傾向 がみられた.鳴き声の数は 7 月 15 日まではあま

(5)アブラゼミ 騒音計の測定結果では音量は 8 月 13 日をピー クにした山型グラフになった. 調査者の耳による音量評価でも騒音計の測定

135


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

結果と同様に 8 月 13 日をピークにした山型グラ

調査木以外の木で採集した羽化殻を含めるとアブ

フになった.鳴き始めの 7 月 11–18 日はほとんど

ラゼミ(27)とクマゼミ(24)の 2 属 2 種 51 個

鳴き声が聞こえなかったが 7 月 25 日から急に多

となる.3 つの調査地の中で羽化殻個数,種数と

くの個体が鳴きだしたように感じた.

もに最も少なかった.鳴き声を確認したのもアブ

(6)クマゼミ

ラゼミとクマゼミの 2 種のみだった.

騒音計による測定結果では音量は 8 月 8 日と 8 月 31 日に高い値を示した.調査者の耳による音 量評価では,音量は 8 月 4 日から 8 日まで増加し 8 月 8–16 日がピーク,それ以降は減少した. (7)ツクツクボウシ 騒音計の測定結果では 8 月 21 日までの期間で 7 月 17 日を,それ以降の期間で 9 月 21 日をピー クとする 2 山型グラフとなった.

羽化殻個数の推移 各調査地におけるニイニイゼミ,アブラゼミ, クマゼミ,ツクツクボウシのそれぞれの羽化殻個 数の推移は以下に示すとおりである.鴨池の結果 は羽化殻個数が少なすぎるため省略する. (1)宮川野外活動センター(図 4) ニイニイゼミは,調査を開始した 7 月 13 日か

調査者の耳による音量評価では 7 月 7 日から 9

ら 8 月 8 日まで羽化殻を確認した.7 月 15 日に

月 5 日にかけて増加,9 月 5–15 日をピークとして,

最多の 14 個(42%)がみつかったが,それ以降は,

以降は減少した.

羽化殻個数は減少していく傾向がみられた.鳴き

本種はヒメハルゼミとヒグラシを調査してい た五ヶ別府でもよく鳴いていた.しかし,吹上浜 では五ヶ別府と比べ発生期間が長かった(図 1).

声は調査開始日にはすでに聞こえて おり,9 月 1 日まで確認できた. アブラゼミは,7 月 23 日から 9 月 7 日まで羽 化殻を確認した.最も多くの羽化殻を採集したの

羽化殻個数に占める各種の割合 各調査地において採集した羽化殻全体に占め

は 8 月 16 日で(21 個,12%).8 月 3 日と 16 日, 22 日付近にそれぞれピークがみられた.7 月 23

る各種の割合を図 3 に示した.宮川野外活動セン

日から 8 月 3 日にかけて徐々に羽化殻個数は増加,

ター(以下「宮川」と略記)で羽化殻を採集でき

8 月 16 日,22 日にかけては急に増加している.8

た種は多い順にアブラゼミ(172 個),ニイニイ

月 24 日以降は急に羽化殻がみつからなくなり,

ゼミ(38),ツクツクボウシ(15),ヒグラシ(1),

減少していく傾向がみられた.鳴き声は 7 月 27

ヒメハルゼミ(2)の 5 属 5 種 228 個であった.3

日から 9 月 13 日まで確認した.

調査地の中で最も種数が多かった.羽化殻を採集

ツクツクボウシは,8 月 22 日に初めて羽化殻

したのは 5 種だが,これに加えてクマゼミの鳴き

を確認した.9 月 15 日以降,9 月 17 日,19 日に

声もわずかに確認した.

調査を行ったが,ツクツクボウシの羽化殻はみつ

鹿児島大学郡元キャンパス植物園(以下「鹿大」

からなかった.最も多くの羽化殻がみつかったの

と略記)で羽化殻を採集できた種は多い順にアブ

は 8 月 31 日と 9 月 15 日で(4 個,26.7%)であっ

ラゼミ(641),ニイニイゼミ(46),クマゼミ(53),

た.鳴き声は 8 月 18 日に初めて確認した.

ツクツクボウシ(17)の 4 属 4 種 757 個であり, 羽化殻の個数は他の調査地に比べて非常に多かっ

(2)鹿児島大学郡元キャンパス植物園(図 5) ニイニイゼミは,調査を開始した 7 月 13 日か

た.鳴き声を確認したのもこれら 4 種のみだった.

ら 8 月 4 日までは羽化殻をほぼ毎回確認した.そ

鹿児島県立鴨池野球場周辺(以下「鴨池」と

れ以降も 4 回の調査で羽化殻をみつけたがそのほ

略記)の調査木ではクマゼミのみの 1 種 3 個しか

とんどは落下個体である.7 月 21 日に最も多く

羽化殻を採集する事がでなかったため,調査木以

の 羽 化 殻(12 個,26%) を 確 認 し, そ れ 以 降,

外の木も確認したところ,アブラゼミ 27 個,ク

羽化殻個数は増減を繰り返しながら減少していく

マゼミ 21 個の羽化殻を採集することができた.

傾向がみられた.鳴き声は 6 月 28 日から 9 月 3

136


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 3.各調査地における羽化殻数をもとにしたそれぞれの種の割合.鴨池:鴨池陸上競技場周辺;鹿大:鹿児島大学郡元キャン パス植物園;宮川:宮川野外活動センターでの結果を示す.

図 4.宮川野外活動センターにおける各種の羽化殻個数の推移.実線はオス,破線はメスの羽化殻の推移の 2 区間移動平均を示す.

日まで確認した. アブラゼミは,7 月 15 日に羽化殻を確認した

て確認したが,その後 10 回の調査ではみつから ず,8 月 24 日から連続して羽化殻を確認した.9

がその後 2 回の調査では確認できず,7 月 21 日

月 15 日以降の 3 回の調査で羽化殻が確認できな

から 9 月 13 日まで毎回羽化殻を確認した.最も

かったため調査を中止した.学内では 8 月 5 日に

多くの羽化殻がみつかったのは 8 月 8 日で(49 個,

初めて鳴き声を確認した.

7.6%).8 月 8 日と 16 日,22 日付近にそれぞれピー

両調査地におけるそれぞれの種の雌雄の発生

クがみられた.8 月 22 日以降は減少する傾向が

時期をみてみると,調査開始時にすでに鳴き声が

みられた.特に 9 月 1 日の調査では確認できた羽

聞こえていたニイニイゼミでは出現初期の記録を

化殻個数がその前の回の 8 月 30 日の調査と比べ

欠くが,出現期における性差は小さかった.一方,

て急に減った.鳴き声は 7 月 11 日に初めて確認し,

アブラゼミ,クマゼミ,ツクツクボウシではオス

7 月 25 日から本格的に聞こえるようになった.

の出現ピークは明らかにメスのそれに先行してお

その後 9 月 20 日まで確認した.

り,とくにクマゼミでその傾向が強かった.

クマゼミは,7 月 13 日に羽化殻を確認したが その後 6 回の調査では確認できず,7 月 27 日か ら 9 月 1 日までほぼ毎回羽化殻を確認した.最も

羽化殻の高さの分布 図 6 はそれぞれの種の羽化殻の高さの分布を

多くの羽化殻がみつかったのは 8 月 30 日で(7 個,

示している.これをみてみるとニイニイゼミは

13.2%),8 月 5 日前後と 20 日,30 日付近にそれ

150 cm 以下の低所に,クマゼミは 100 cm 以上の

ぞれピークがみられた.鳴き声は 7 月 17 日から

高所に分布しており,両種の分布はほとんど重な

9 月 15 日まで確認した.

らない.アブラゼミとクマゼミの高さの平均に差

ツクツクボウシは,8 月 2 日に羽化殻をはじめ

があるか t 検定をもちいて調べたところ両種には

137


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 5.鹿児島大学郡元キャンパス植物園における各種の羽化殻個数の推移.実線はオス,破線はメスの羽化殻個数の推移の 2 区 間移動平均を示す.

差がみられ(t0.05 = 1.96 < t = | -5.66 |),平均

前(R = 0.40)と相関がみられた.特に前日と 2

値をみてみるとアブラゼミ ( 宮川 314 cm,鹿大

日前の湿度との相関が高かった.鹿大におけるア

257 cm) より,クマゼミ (383 cm) のほうが高かっ

ブラゼミの羽化殻個数と湿度とでは羽化殻採集日

た.ツクツクボウシにおいては,宮川では低所に,

の 2 日前の湿度との相関(R = 0.34)がみられた.

鹿大では高所に分布が片寄っており,両調査地の

 考察

分布は大きく異なっていた.したがって,ツクツ クボウシの高さの分布は明らかではないが,高さ

2011 年におけるそれぞれの種の出現時期とピー

の分布は低い方からニイニイゼミ,ツクツクボウ

シ,アブラゼミ,クマゼミの順となった.羽化殻

アブラゼミでは羽化殻個数は宮川,鹿大とも

のつく場所は高所では葉につくものが多く,低所

に 8 月 16 日,22 日に特に高い値を示している.

では幹についているものが多かった.

8 月 10–20 日までは博物館実習があり通常より急 いで採集を行ったため見逃した羽化殻があった可

アブラゼミの羽化殻個数の推移と天候

能性がある.そのため,実習の休日(8 月 16 日)

気温と羽化殻個数には相関がなかったが湿度

と実習あけ(8 月 22 日)の調査では見逃した羽

と羽化殻個数にはわずかに相関がみられた.宮川

化殻も採集している可能性が高い(ただし期間を

のアブラゼミの羽化殻個数と湿度とでは羽化殻採

通じての総個数は把握されている).これらを考

集日の前日(R = 0.47),2 日前(R = 0.46),3 日

慮すると,アブラゼミの羽化がピークに達したの

138


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 6.鹿児島大学郡元キャンパス植物園における各種の羽化殻の地上高分布.実線は鹿児島大学郡元キャンパス植物園,破線は 宮川野外活動センターでの羽化殻分布の 2 区間移動平均を示す.

は宮川が 8 月 2 日,鹿大が 8 月 8 日であると考え る. ヒメハルゼミとヒグラシでは騒音計による音 量測定結果と,調査者の耳で聞いた音量変化の結 果が大きく異なる.これは,騒音計使用時にアブ ラゼミやツクツクボウシも鳴いていたためその影 響を受けた結果と考えられる.ツクツクボウシ(吹 上)の 1 つ目のピークも同様にニイニイゼミがよ く鳴いていたのでその影響を受けていると考えら れる. 音 量 調 査, 羽 化 殻 採 集 の 結 果 を ま と め る と 2011 年の鹿児島市周辺におけるセミの発生消長 は次のようになる. ・ハルゼミ(4 月中旬 –6 月中旬,ピークは 4 月末 –5 月上旬) ・ヒメハルゼミ(6 月末 –8 月上旬,ピークは 7 月中旬)

・ヒグラシ(7 月初旬 –9 月上旬,ピークは 7 月下旬) ・ニイニイゼミ(6 月末 –9 月初旬,ピークは 7 月中旬) ・アブラゼミ(7 月中旬 –9 月中旬,ピークは 8 月中旬) ・クマゼミ(7 月中旬 –9 月中旬,ピークは 8 月上旬) ・ツクツクボウシ(7 月の中旬 –10 月初旬,ピー クは 9 月の上旬) ・ミンミンゼミ(7 月下旬 –9 月中旬) ほとんどの種で福田ほか(2009)の示した出 現時期と重なる.福田ほか(2009)の示した出現 時期ではアブラゼミがツクツクボウシよりも早く 出現するとされている.しかし今回の調査ではツ クツクボウシに関しては,五ヶ別府,吹上ともに アブラゼミよりも早く出現した.また,吹上での

139


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

出現時期は長期にわたった.2011 年がツクツク

ニイゼミの高さ分布は全く重ならない.この順位

ボウシの多い時期であったか,または 2 つの調査

は,4 種の体長の順位と同じであった.殻の乾く

地の環境がツクツクボウシにとって好条件であっ

スピードを考えてみると,体長が小さいほど体積

たということが考えられる.

に対する表面積の比率が大きくなるため,そのス ピードは速まる.よって殻が乾くまでに移動出来

環境と種

る距離は小さい個体ほど短くなると考えられる.

森林に隣接する宮川野外活動センター,孤立

しかし,吹上浜ではニイニイゼミの羽化殻は低所

した森林である鹿児島大学郡元キャンパス植物

でのみみつかったが,ニイニイゼミと同様に体長

園,都市的な環境にある鹿児島県立鴨池野球場に

が小さいハルゼミの羽化殻が 7 m ほどの高所につ

ついて生息種数をみてみると,宮川で最も種数が

いているのを何個体も確認した.したがって,体

多く鴨池で最も少ない.また,クマゼミの割合は

長だけが羽化する高さを決定する要因とはいえな

鴨池が最も高く,宮川ではゼロであった.

いと考える.羽化する地上高が各種の移動速度を

森林に隣接する環境で種数が増えるのは,林

反映している可能性があり,今後幼虫が地表に表

内に生息するヒメハルゼミやヒグラシといった種

れてから羽化地点に到達するまでの時間を測定す

が移入できるからであると考える.都市的な環境

る必要があると考える.

では,林内に生息する種は移入できないため,ク マゼミやアブラゼミといった種のみになる.大阪

湿度と羽化について

でも,この 2 種のセミはしばしば共存するけれど

今回の 1 日おきの調査では,アブラゼミにお

も,クマゼミは広い都市開発が特徴的な場所に優

いて羽化前と前日および前々日の湿度との間に正

勢であるのに対し,アブラゼミは郊外や森林地域

の相関がみられた.調査の際,羽化途中に殻が乾

に 優 勢 で あ っ た と さ れ て い る(Moriyama and

いて固まり羽化失敗した個体を何度か確認した.

Numata, 2010).このように,森林環境から都市

湿度が高い時に羽化を行うことで,その危険の回

部に近づくにつれて生息する種数は減少し,クマ

避率を高めるのではないだろうか.

ゼミの占める割合が増加することが確認され,先 行研究の結果とも一致した.

 謝辞 本研究,調査を進めるにあたり,調査や論文

羽化する時期の性差 クマゼミ,アブラゼミ,ツクツクボウシの 3 種でメスよりもオスのほうが早く出現した.同様 のことは奄美大島のクマゼミですでに確認されて いる(金井,2008).ニイニイゼミについては発 生初期を確認することは出来なかったが,メスの ほうが遅くまで出現していることから,クマゼミ, アブラゼミ,ツクツクボウシと同様にオスが先に 出現すると考えられる. 羽化する高さ ニイニイゼミ,アブラゼミ,クマゼミ,ツク ツクボウシで羽化高度分布を比較すると,低い方 から,ニイニイゼミ,ツクツクボウシ,アブラゼ ミ,クマゼミの順となる.また,クマゼミとニイ

140

作成などの際に多くのご協力・ご助言を頂いた研 究室の皆様に深く感謝いたします.  引用文献 福田晴夫・山下秋厚・福田輝彦・江平憲治・二町一成・大 坪修一・中峯浩司・塚田 拓,2009.昆虫の図鑑 採 集と標本の作り方.261 pp.南方新社,鹿児島. 林 正美・税所康正,2011.日本産セミ科図鑑.223 pp.誠 文堂新光社,東京. 金井賢一,2008.2007 年奄美大島におけるクマゼミの羽化 消長.SATSUMA, 139: 79–87. 宮武頼夫・加納康嗣,1992.検索入門 セミ・バッタ.215 pp.保育社,大阪. Moriyama, M. and Numata, H. 2010. Desiccation tolerance in fully developed embryos of two cicadas, Cryptotympana facialis and Graptopsaltria nigrofuscata. Entomological Science, 13: 68–74. 中尾舜一,1990.セミの自然誌 鳴き声に聞く種分化のドラ マ.179 pp.中公新書,東京.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

川内川曾木分水路の自然再生の現状 ― 河道掘削竣工後のエコシステムの回復 ― 1

2

2

2

鮫島正道 ・宅間友則 ・今吉 努 ・徳永修二 ・ 2 3 4 2 下沖洋人 ・東郷純一 ・豊國法文 ・角 成生 1

〒 899–4396 霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学鹿児島県野生生物研究会本部 2 3

〒 895–0012 薩摩川内市平佐町 2416 新和技術コンサルタント ( 株 )

〒 895–0075 薩摩川内市東大小路町 20–2 国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所 4

〒 812–0023 福岡市博多区奈良屋町 2–1 株式会社建設環境研究所

要旨 近自然河川工法(多自然型川づくり)は,

況は,ある程度の自然の回復がみられ,環境に配

人間の利便性を地球環境や生命に配慮しながら実

慮した事業として良い評価を得られそうな兆しが

現しようとする試みのひとつであり,「自然と人

みられた.今後,詳細なモニタリング調査と順応

との共生」を目指している.本調査の目的は,竣

的管理により,生物多様性に富んださらにレベル

工後のエコシステム(河川生態系)回復状況の把

の高い生態系の再生が可能である.

握にある.

 河床や周辺域の植生環境の多様化は,陸上・陸

 曾木分水路において,環境の成り立ちの中での

水生態系の食物連鎖において確かな生態系ピラ

作用,反作用,および相互作用により,複雑な食

ミッドの基礎部であり,自然再生の要でもある.

物連鎖および食物網,食物ピラミッド等が観察さ

したがって,施工や維持管理の現場ごとに,こう

れている.このような生態学の典型的な内容が具

した小さな生態系ピラミッドの存在・植生環境の

体的に確認され,速い速度で生態環境が回復して

多様化を意識して作業を行うことが必要である.

いることも確認された.  掘削による裸地からの遷移には,周辺地の環境

 はじめに

と生物の多様性が大きな役割を担っている.時間

 河道計画を立てるときにはその川の河道特性を

の経過に伴う植物の遷移,マント群落とソデ群落

しっかり把握することが重要である.河道は平面

の発達,それに連動する動物の遷移,河床の多様

形,縦断形,横断形といった川の姿の骨格は河道

な構造変化(甌穴の発達)等が予測され,自然の

計画によって決まる.しかし,治水,利水,およ

力を積極的に利用することが自然の再生には有効

び環境から考えた場合,その川の特性(景勝的,

である.

文化的,社会的な理由)により,河道の改修が不

 本調査(簡易モニタリング)は,完成後 1 年数ヵ

可能な場合がある.

月経過した 2012 年(平成 24 年)8 月現在の結果 である.短期間にもかかわらず,曾木分水路の状     Sameshima, M., T. Takuma, T. Imayoshi, S. Tokunaga, H. Shimooki, J. Tougou, N. Toyokuni and N. Sumi. 2014. Current status of nature restoration in Soki floodway of Sendai River: ecosystem recovery after the floodway excavation. Nature of Kagoshima 40: 141–153. TT: Shinwa Gijutsu Consultant Co. Ltd., 2416 Hirasa, Satsuma-sendai, Kagoshima 895–0012, Japan (e-mail: t-takuma@net-shinwa.co.jp).

図 1.調査地点位置図.

141


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 2.調査状況.A:植物調査.B:昆虫調査.C:魚介類調査.D:両生類,爬虫類,哺乳類調査.

 河道の狭窄部の存否による氾濫には,2013 年 9

 曽木分水路のような大規模工事においては,必

月 16 日,台風 18 号は愛知県豊橋市付近に上陸し,

然的に周辺域を含む生態系保全策が義務付けられ

関東甲信から東北を縦断して太平洋に抜けた.気

ている.また,事後のモニタリング調査,さらに

象庁は広い範囲に大雨特別警報を発表した.この

アダプティブマネージメント(順応的管理)を行

台風に伴い,京都市を流れる桂川は伏見区内で氾

う必要が出てくる.今回の簡易モニタリング調査

濫.上流の観光名所,嵐山の渡月橋にも橋脚が見

は,今後の正規のモニタリング調査の精度を高め

えなくなる高さまで濁流が押し寄せた.この桂川

るための資料蓄積を目的としている.

の氾濫は記憶に新しい.川内川の中流に景勝地「曾

 今回の調査は,環境要因の把握にある.生物に

木の滝」がある.河川の構造は,この滝の存在に

作用する環境の要因は,無機的環境(非生物的環

より狭窄部となり,出水のたびに上流域が氾濫し

境)要因と有機的環境(生物的環境)要因に大別

ているのが現状であった.図 1 に曾木の滝分水路

される.生物と,それを取り巻く大気・土壌・光

の位置図を示す.

や他の生物などの環境要因は密接な関係をもちな

 曾木の滝分水路は,大規模な地形の変更を伴う

がら生態系というまとまりを形成している.当該

工事である.2006 年(平成 18 年)7 月の記録的

地の環境を把握するために広い視野からの調査が

な豪雨災害を受けて,激甚災害対策特別緊急事業

必要になる.

の一環として事業化が図られ,2008 年(平成 20 年)

 生態系保全に関しては鷲谷ほか(2003),三島

10 月から 2011 年(平成 23 年)3 月まで工事が行

(2002),および佐藤ほか(2003)が,多自然型川

われた.この工事に先立ち,「川内川激特事業環

づくりについてはリバーフロント整備センター

境影響検討委員会」の結果を踏まえた環境保全措 置,また「曾木の滝分水路景観検討会」による景 観に配慮した事業として計画が進められた経緯が ある.

142

(2000)と山脇(2000)が詳しい.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 3.曾木分水路への水の流入口と水温測定位置図.

しているか),⑤季節による変化(いつ出現するか)

 調査の内容と方法 曾木分水路は,鹿児島県内一級河川の一つ,川 内川中流域曾木の滝の左岸に造られた分水路で, 位置は図 1 に示した. この「曾木分水路」の計画は,曾木の滝の左 岸に位置する岩山を削って水路を構築するとい う,大規模な地形の変更を伴う工事である.分水 路延長約 400 m,平均河床幅 30 m とし,事業量は, 3

土砂掘削土量約 90 千 m ,岩掘削土量約 160 千 m3 の合計約 250 千 m3 の掘削を予定した工事で あった. 生態系調査の目的及び調査時期は,①現状把 握調査,②環境保全対策調査,③モニタリング調 査が主である.今回の調査は,完成後 1 年数ヵ月 経過した平成 24 年 8 月現在の現状把握である. 生物調査には際限がないという傾向があり,目的 に応じて『何のために何を調べるか』ということ を明確に意識して実施することが重要である.調 査項目の内容は,①生物相(何が生育・生息して いるか),②分布状況(どこに生育・生息してい るか),③現存量(どのくらい生育・生息してい るか),④生物種の生態(確認された場所で何を

などである. 生物の生活は,無機的(非生物的)環境と有 機的(生物的)環境の環境要因が密接な関係をも ちながら生態系というまとまりを形成している. 生態系の構造は,無機的ならびに有機的環境要因 の間で,作用(無機的環境が生物に影響をおよぼ すこと) ,反作用(生物が無機的環境に影響をお よぼすこと),相互作用(生物どうしがたがいに 影響をおよぼしあうこと)がはたらき密接に影響 を与え合っている. 無機的環境(非生物的 ) 要因は,光,温度,風, 水分,土の粒度,pH および栄養塩類などである. 理化学的な調査データの採取や分析は,筆者らは 専門外であるため,ここでは一般的な観察程度(担 当:角 成生)に留めた. 有機的環境(生物的)要因で対象とした動植 物相の分類群は,植物相(担当:今吉 努),昆 虫相(下沖洋人),魚介類相(徳永修二),両生爬 虫哺乳類相(宅間友則)で,それぞれの調査状況 を図 2 に示す.範囲は分水路内全体と一部周辺域. 生物相は可能な限りリストアップすることとし た.

143


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 4.分水路内の状況.

 結果および考察 無機的環境(非生物的環境)要因 岩盤・土・水 分水路内は真新しい岩盤が露 出しているが,周辺域からの風や雨による砂塵・ 土砂の流入により小規模ながら植物の生育環境が 整いつつある.曾木分水路内への水の流入は,出 水時に起こる本川からの越流水(年により数回で あるが,大量の河川水が短時間に流れる) ,上流 部の水田排水(左岸側の奥に位置する谷津田から の小川),および下流部の山林からボックスカル バート経由で流れ込む清流の三本である.曾木分 水路内への水の流入口と水温測定位置図を図 3 に 示す. 光・温度・水温 分水路内の状況は図 4 に示す. 夏季は,流水と水溜りの水温や外気の温度も周辺 部より高温になる.水温については図 3 に示した. 岩盤の硬度 平成 23 年 3 月まで工事が行われ, その年の夏季に 3 回の出水による越流が発生して いる.分水路内の河床の岩盤の硬度は比較的軟ら かいと思え,河床には,規模的には小さいが甌穴 の予備軍と思われる穴(中心に大きな石が詰まっ ている)が多数確認された(図 5).無機的(非 生物的)環境要因の中の水は,分水路内への流入 水であり,出水時の本川からの越流水,上流部の 水田排水,および下流部の山林からの清流の三本 がある.これらの水の流入は,生態系の回復に大 きく貢献していることがうかがえる.光と温度(水 温を含む)については,分水路内の光に対する遮 蔽物がないオープン状態のため,日射による気温 と水温の上昇がみられる.今後,順応的管理のひ

144

RESEARCH ARTICLES

図 5.河床にみられる小さな甌穴.

とつとして河床の植生回復を推進させることによ り,気温の上昇を抑える効果があると思われる. 岩盤の硬度は比較的低く軟らかいため,河床には 規模的小さく甌穴の予備軍と思われる穴が多数確 認された.数年,数十年後には,川内川本川の急 流地(轟の瀬と曾木の滝)にみられるような甌穴 群の景観へと移る可能性がある.   有機的環境 ( 生物的環境 ) 要因 植物相調査結果 今回の植物調査は,植生調 査と植物群落組成調査を主眼とした.現地調査に より確認された植物(維管束植物)は,93 科 302 種であった.表 1 に分類群ごとの確認種一覧を示 した.さらに,分水路内の植生図を図 6 に,代表 的な左岸と水路内の植生断面図を図 7 に示した. 植物相は生態系の基礎であり,生態環境を把 握するためには欠かせない調査項目である.生態 系の成り立ちと食物連鎖からの視点では,生産者 (植物)として位置づけられ,食物連鎖の出発(要) の位置を占めている.一般的に,植物相が豊かで あればその生態系も豊かであるといえる. 法面の植生に当たっては,「曾木の滝分水路景 観検討会」により景観に配慮した事業計画のもと に実施された経緯があり,短期間の経過にもかか わらず,着実に生態系の回復が認められる. 森林の階層構造とマント群落・ソデ群落につ いて,掘削された河道と森林とのエッジには,特 有な構造(マント群落とソデ群落)が発達しつつ ある.当該地の上部斜面にはエコトーンとして理 想とされるマント群落とソデ群落の初期のものが


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

表 1.植物確認種一覧. 科名 シダ植物 ヒゲノカズラ科 イワヒバ科 トクサ科 ウラジロ科 ゼンマイ科 ウラボシ科 ヒメシダ科 オシダ科 シシガシラ科 キジノオシダ科 フサシダ科 コバノイシカグマ科 ホングウシダ科 裸子植物 マキ科 ヒノキ科 マツ科 スギ科 被子植物 アカザ科 タデ科 ボロボロノキ科 モクレン科 イラクサ科 クワ科 ブナ科 ヤナギ科 ブドウ科 マンサク科 アブラナ科 ケシ科 オトギリソウ科 ツバキ科 ウマノスズクサ科 ヒユ科 ドクダミ科 バラ科 アケビ科 キンポウゲ科 クスノキ科 シキミ科 マツブサ科 ヒシ科 ユキノシタ科 ジンチョウゲ科 グミ科 ホルトノキ科 ミソハギ科 クロウメモドキ科 アカバナ科 アリノトウグサ科 ウコギ科 セリ科 ウリ科 マメ科 カタバミ科 フウロソウ科 トウダイグサ科 ミカン科 ウルシ科 カエデ科

種名 トウゲシバ クラマゴケ スギナ コシダ,ウラジロ ゼンマイ ミツデウラボシ,マメヅタ ゲジゲジシダ,ホシダ,ヤワラシダ,ヒメワラビ オオカナワラビ,ベニシダ,オオベニシダ,ヤマイタチシダ,イノデ シシガシラ,オオカグマ オオキジノオ,キジノオシダ カニクサ コバノイシカグマ ホラシノブ イヌマキ ヒノキ アカマツ スギ アリタソウ ツルソバ,オオイヌタデ,イヌタデ,ヤノネグサ,ホソバノウナギツカミ,ボントクタデ,アキノウナ ギツカミ,ミゾソバ,イタドリ ボロボロノキ コブシ ヤブマオ,カラムシ,コアカソ,サンショウソウ ツルコウゾ,イヌビワ,ホソバイヌビワ,カナムグラ クリ,ツブラジイ,スダジイ,シリブカガシ,イチイガシ,アラカシ,シラカシ,コナラ ジャヤナギ,ヤマヤナギ ノブドウ,エビヅル イスノキ タネツケバナ,イヌガラシ,スカシタゴボウ タケニグサ ヒメオトギリ,コケオトギリ モッコク アリマウマノスズクサ ヒナタイノコズチ ハンゲショウ キンミズヒキ,ミツバツチグリ,ヤマザクラ,リンボク,テリハノイバラ,フユイチゴ,ビロードイチゴ, クサイチゴ,ヒメバライチゴ,ナガバモミジイチゴ,ワレモコウ ミツバアケビ,ムベ センニンソウ,キツネノボタン ヤブニッケイ,アオモジ,タブノキ,イヌガシ,シロダモ シキミ サネカズラ ヒシ コガクウツギ キガンピ ツルグミ,ナワシログミ,アキグミ コバンモチ,ホルトノキ ホソバヒメミソハギ,キカシグサ クマヤナギ チョウジタデ,コマツヨイグサ,アレチマツヨイグサ アリノトウグサ タラノキ,カクレミノ,タカノツメ,ヤツデ,ハリギリ オオバチドメ ゴキヅル,スズメウリ,カラスウリ ネムノキ,ヤブマメ,カワラケツメイ,ヌスビトハギ,ノササゲ,ツルマメ,コマツナギ,ヤハズソウ, ヤマハギ,メドハギ,ネコハギ,ナツフジ,クズ,シロツメクサ,ヤブツルアズキ,ヤマフジ カタバミ ゲンノショウコ エノキグサ,カンコノキ,アカメガシワ,コバンノキ,コミカンソウ,シラキ カラスザンショウ,イヌザンショウ ヌルデ,ハゼノキ,ヤマハゼ,ヤマウルシ イロハモミジ

145


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

みられた.既存樹林のフロント部に植栽(杭柵工)

オカナダモ,アメリカセンダングサやセイタカア

がみられ,マント群落は順調に生育している.ま

ワダチソウ等のキク科植物,シナダレスズメガヤ

た,フロント部には,幅は狭いが表土流出防止,

やタチスズメノヒエ等のイネ科植物計 14 種(分

乾燥防止,環境配慮などの意味合いからも人口草

水路全体の 26%)がみられた.これらはいずれ

地(植物マルチ工法)) が施してあり,ソデ群落

も川内川本川の河川敷や水中でよくみられる植物

的な機能を果たしている.

である.キク科の数種は冠毛があるため風散布も

植物の在来種と外来種の関係(外来種の侵入

考えられるが,微細な種子もつイネ科や湿地性の

経路)については,植生調査において得られた結

植物,そして,ちぎれた植物片の一部から栄養繁

果から,調査地点に生育する在来種と外来種の種

殖するオオカナダモ等は,出水時の川内川本川か

数について比較を行った.照葉樹林内では外来種

ら流水に乗って分水路内に侵入したものと考えら

率 0%,分水路内では 26% であった.分水路内は,

れる.改変地はパイオニア種としての外来種が侵

湿地性植物のホソバヒメミソハギ,沈水植物のオ

入しているが,遷移がすすむにつれて,在来種に

表 1.続き.植物確認種一覧. 科名 ツリフネソウ科 モチノキ科 ニシキギ科 ミツバウツギ科 ガガイモ科 キツネノマゴ科 ゴマノハグサ科 ナス科 ツツジ科 クマツヅラ科 アカネ科 キョウチクトウ科 モクセイ科 ハイノキ科 エゴノキ科 カキノキ科 サクラソウ科 キク科 シソ科 オミナエシ科 スイカズラ科 オオバコ科 イグサ科 ミズアオイ科 イネ科

ツユクサ科 ユリ科 トチカガミ科 ラン科 カヤツリグサ科

ヤマノイモ科 ガマ科

146

種名 ツリフネソウ シイモチ,ナナミノキ,モチノキ,タラヨウ,ソヨゴ,クロガネモチ ツルウメモドキ ゴンズイ コカモメヅル キツネノマゴ キクモ,スズメノトウガラシ,ウリクサ,アメリカアゼナ,アゼトウガラシ,アゼナ,ムラサキサギゴケ, トキワハゼ イヌホオズキ ネジキ,ヤマツツジ,シャシャンボ コムラサキ,ムラサキシキブ,ヤブムラサキ,ハマクサギ,アレチハナガサ オオアリドオシ,メリケンムグラ,ホソバノヨツバムグラ,クチナシ,フタバムグラ,ハシカグサ,サ ツマイナモリ,ヘクソカズラ テイカカズラ ネズミモチ シロバイ,クロキ,ハイノキ,クロバイ エゴノキ カキノキ,トキワガキ オカトラノオ,コナスビ,マンリョウ,カラタチバナ,ヤブコウジ,イズセンリョウ ヨモギ,ホウキギク,アメリカセンダングサ,トキンソウ,コスモス,ベニバナボロギク,タカサブロウ, ダンドボロギク,ヒメムカシヨモギ,ヒヨドリバナ,サケバヒヨドリ,ハハコグサ,ヤナギニガナ,ア キノノゲシ,セイタカアワダチソウ,ヤクシソウ,オニタビラコ トウバナ,ヒメジソ,アキノタムラソウ オトコエシ スイカズラ,ガマズミ,コバノガマズミ オオバコ イ,コウガイゼキショウ,クサイ コナギ メリケンカルカヤ,コブナグサ,トダシバ,ギョウギシバ,メヒシバ,コメヒシバ,イヌビエ,ケイヌビエ, シナダレスズメガヤ,コゴメカゼクサ,コバノウシノシッペイ,チガヤ,チゴザサ,ササクサ,オギ,ススキ, ケチヂミザサ,キシュウスズメノヒエ,タチスズメノヒエ,ツルヨシ,セイタカヨシ,ホテイチク,マ ダケ,ゴキダケ,メダケ,イタチガヤ,ハイヌメリ,アキノエノコログサ,キンエノコロ,エノコログサ, マコモ ツユクサ,イボクサ ソクシンラン,オモト,サルトリイバラ オオカナダモ エビネ属の一種,シュンラン,ユウコクラン,オオバノトンボソウ ナキリスゲ,ヒメクグ,クグガヤツリ,タマガヤツリ,ヒナガヤツリ,アゼガヤツリ,コアゼガヤツリ, コゴメガヤツリ,カヤツリグサ,オニガヤツリ,イガガヤツリ,カワラスガナ,ハリイ,テンツキ,ク グテンツキ,ヒデリコ,ヤマイ,ヒンジガヤツリ,ホタルイ,ヒメホタルイ,ヒメカンガレイ,オオア ブラガヤ,アブラガヤ ヤマノイモ,ヒメドコロ ガマ属の一種


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 6.植生図.

置き換えられていくものと思われる.

クにおける拠点的な存在として機能している.河

有機的(生物的)環境要因は,生態系にはバ

床や周辺域の植生環境の多様化は,陸上生態系・

ランスがあり,食うか食われるかの関係の食物連

陸水生態系の食物連鎖において確かな生態系ピラ

鎖(食物網)がある.それぞれの地域には,微妙

ミッドの基礎部であり,自然再生の要でもある.

に内容の違った小さな生態系ピラミッドが点在

したがって,施工や維持管理の現場ごとに,こう

し,それぞれが繋がり,エコロジカルネットワー

した小さな生態系ピラミッドの存在を意識して作

図 7.植生断面図.A:左岸.B:水路内.

147


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

業を行うことが必要である.

RESEARCH ARTICLES

さらに一次消費者を餌にする肉食性昆虫(二次消 費者)の被食・捕食関係を知るための資料として,

動物相調査結果

植食性昆虫を代表して蝶類を表 3 に,肉食性昆虫

昆虫類調査結果 昆虫類は 8 目 38 科 77 種が 確認された.表 2 に昆虫類確認種一覧を,図 8 に 昆虫類確認位置図を示した.

類を表 4 に示した. 昆虫は,陸上生態系の食物連鎖では,生産者(植 物)を直接食べる一時消費者(植物食性昆虫)と

生態系食物連鎖(食物網)の関連として動物

その一次消費者を餌とする二次消費者(肉食性昆

の中でも昆虫類の生態からの確認が分かりやす

虫)に区分される.昆虫相が豊かであれば,それ

い.植物を餌とする植食性昆虫(一次消費者)と,

らを餌とする高次消費者も必然的に豊かであると

表 2.昆虫類確認種一覧. 目名 科名 カゲロウ目 モンカゲロウ科 トンボ目 イトトンボ科 カワトンボ科 ヤンマ科 オニヤンマ科 トンボ科 カマキリ目 カマキリ科 バッタ目 キリギリス科 バッタ科 イナゴ科 オンブバッタ科 ヒシバッタ科 カメムシ目 セミ科 ヨコバイ科 カスミカメムシ科 ホソヘリカメムシ科 ヘリカメムシ科 ナガカメムシ科 カメムシ科 アメンボ科 マツモムシ科 チョウ目 セセリチョウ科 シジミチョウ科 タテハチョウ科 アゲハチョウ科 シロチョウ科 ジャノメチョウ科 スズメガ科 ヤガ科 コウチュウ目 ハンミョウ科 ゲンゴロウ科 ガムシ科 コガネムシ科 テントウムシ科 ハムシ科 ゾウムシ科 ハチ目 ドロバチ科 ミツバチ科

148

種名 トウヨウモンカゲロウ キイトトンボ,アオモンイトトンボ ハグロトンボ クロスジギンヤンマ,ギンヤンマ オニヤンマ ショウジョウトンボ,シオカラトンボ,オオシオカラトンボ,ウスバキトンボ,チョウトンボ,マユタ テアカネ,ベニトンボ コカマキリ ウスイロササキリ ショウリョウバッタ,トノサマバッタ,イボバッタ ハネナガイナゴ,コバネイナゴ オンブバッタ ヒシバッタ科の 1 種 アブラゼミ,ツクツクボウシ ツマグロオオヨコバイ アカスジカスミカメ クモヘリカメムシ ホソハリカメムシ ヒメナガカメムシ トゲシラホシカメムシ,オオトゲシラホシカメムシ,シラホシカメムシ,ルリクチブトカメムシ オオアメンボ,アメンボ,シマアメンボ コマツモムシ ホソバセセリ,ギンイチモンジセセリ,ヒメキマダラセセリ,イチモンジセセリ ルリシジミ,ウラギンシジミ,ツバメシジミ,ベニシジミ,ムラサキツバメ,ヤマトシジミ本土亜種, ゴイシシジミ ツマグロヒョウモン,タテハモドキ,ルリタテハ本土亜種,コミスジ,アカタテハ アオスジアゲハ,モンキアゲハ,クロアゲハ本土亜種,ナミアゲハ キチョウ,モンシロチョウ ヒメウラナミジャノメ セスジスズメ ナシケンモン ハンミョウ コガタノゲンゴロウ,ハイイロゲンゴロウ,ウスイロシマゲンゴロウ ヒメガムシ,ガムシ科の 1 種 ナミハナムグリ,マメコガネ ナナホシテントウ カミナリハムシ属の 1 種,クロウリハムシ,ホタルハムシ カツオゾウムシ スズバチ ナミルリモンハナバチ


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 8.昆虫類確認位置図.

いえる.

あるいは 1 属や 1 科に限定される狭食性が知られ

食草(食樹)と蝶類との相互作用について,食

ている.

草(食樹)と蝶類との関係(相互作用)は表 3 に

これまでに蝶類の幼虫の食べる食草と食樹は

示した.「食草」と「食樹」とは,昆虫が幼虫期

研究されており,「食草・食樹と蝶類の関係」は

に餌として食べる植物のことである.これが草で

環境の自然度を測る指標として利用されている.

ある場合は「食草」,樹木であったら「食樹」と

今回の調査では 8 科 25 種の蝶が確認され,これ

いう.多くの昆虫では,食草と食樹は 1 ~数種,

らの蝶が利用する植物が分水路内に生育してい

表 3.植食性蝶類確認種と植物一覧. 科名 セセリチョウ

シジミチョウ

タテハチョウ

アゲハチョウ

シロチョウ ジャノメチョウ スズメガ

種名 ホソバセセリ ギンイチモンジセセリ ヒメキマダラセセリ イチモンジセセリ ルリシジミ ウラギンシジミ ツバメシジミ ベニシジミ ムラサキツバメ ヤマトシジミ本土亜種 タテハモドキ ルリタテハ本土亜種 コミスジ アカタテハ アオスジアゲハ モンキアゲハ クロアゲハ本土亜種 ナミアゲハ キチョウ モンシロチョウ ヒメウラナミジャノメ セスジスズメ

食草・食樹名 ススキ,チガヤ ススキ,チガヤ,エノコログサ ケチヂミザサ ススキ,チガヤ マメ科,バラ科,ブナ科,ミカン科,タデ科 クズ,マメ科(花穂の大きい) シロツメクサ,コマツナギ,マメ科 タデ科 シリブカガシ カタバミ スズメノトウガラシ,クマツヅラ科,キツネノマゴ科,ゴマノハグサ科 サルトリイバラ,ユリ科 クズ,ヤマフジ,マメ科 カラムシ,ヤブマオ,イラクサ科 タブノキ,イヌガシ,ヤブニッケイ,クスノキ科 カラスザンショウ,ミカン科 カラスザンショウ,サンショウ類 カラスザンショウ,ミカン科 ヤマハギ,メドハギ,ネムノキ,ハギ類,マメ科 イヌガラシ,アブラナ科 ケチヂミザサ,ススキ,チガヤ,ササクサ,イネ科 ノブドウ

149


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 9.魚介類確認位置図.

る.蝶の生活環は改変地内で保障され,環境の多

成り立っていることもあり,分水路内の一部にお

様性が証明されている.

いて自然再生が進んでいることが確認された.

分水路内で確認されたトンボ類は,イトトン

魚介類調査結果 魚介類は魚類 3 目 4 科 8 種,

ボ科 2 種,カワトンボ科 1 種,ヤンマ科 2 種,オ

貝類 3 目 3 科 3 種が確認された.魚介類確認種一

ニヤンマ科 1 種,およびトンボ科 7 種の計 13 種

覧を表 5 に,魚介類確認位置を図 9 に示した.

である.その中の 6 種で産卵行動がみられた.分

魚類は陸水生態系の食物連鎖では,植物プラ

水路内の水溜りでは,各生育段階のヤゴが確認さ

ンクトン,藻類,および沈水植物などの植物性の

れている.ここでは,トンボ相の完全な生活環が

餌を食べる一時消費者から,それらを餌とする二

表 4.肉食性昆虫類確認種と植性一覧. 科名 イトトンボ カワトンボ ヤンマ オニヤンマ トンボ

カマキリ シジミチョウ ハンミョウ ゲンゴロウ

ガムシ テントウムシ ドロバチ

150

種名 キイトトンボ アオモンイトトンボ ハグロトンボ クロスジギンヤンマ ギンヤンマ オニヤンマ ショウジョウトンボ シオカラトンボ オオシオカラトンボ ウスバキトンボ チョウトンボ マユタテアカネ コカマキリ ゴイシシジミ ハンミョウ コガタノゲンゴロウ ハイイロゲンゴロウ ウスイロシマゲンゴロウ ヒメガムシ ナナホシテントウ スズバチ

食性 成虫:飛翔性昆虫,幼虫:水生昆虫 成虫:飛翔性昆虫,小型のイトトンボ類,幼虫:水生昆虫 成虫:飛翔性昆虫,小型のイトトンボ類,幼虫:水生昆虫 成虫:飛翔性昆虫,小型,中型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型,中型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型,中型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 成虫:飛翔性昆虫,小型のトンボ類,幼虫:水生昆虫,小魚 小型昆虫 タケ科植物につくタケノアブラムシ,ササコナフキツノアブラムシなど 昆虫 弱った魚や,死体 小魚や昆虫 弱った魚や,死体 成虫は水草や藻.幼虫は貝類や小魚,水生昆虫 アブラムシ類 ガ類の幼虫等


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 10.両生類・爬虫類・哺乳類確認位置図.

次消費者,三次消費者,高次消費者として食性に

は広い水溜りが形成されていて,そこには多くの

よってそれぞれ位置づけられている.

個体数を確認している.流入支流の上流域には水

貝類は一次消費者に位置する.生態系の多様

田や灌漑用の溜池があり,小規模な水路によって

性を観る尺度として種の多様性は生態系の評価に

流れ下っている魚類相の供給源はこの支流および

は欠かせない事項である.

本川(川内川)からの越流水と考えられる.

分水路内の魚類の利用状況は,4 科 8 種の魚類

分水路内に分散する水溜りの多くでメダカが

が確認されている.特に,流入支流との合流部に

確認できているが,調査時点では,水の流れは繋

表 5.動物類(貝類・魚類・両生類・爬虫類・哺乳類)確認種一覧. 貝類

魚類

目名 原始紐舌目 盤足目 基眼目 コイ目 ダツ目 スズキ目

両生類

サンショウウオ目 カエル目

爬虫類

カメ目 トカゲ目

哺乳類

モグラ目 コウモリ目 ネズミ目 ネコ目 ウシ目

科名 リンゴガイ科 カワニナ科 サカマキガイ科 コイ科 メダカ科 ドンコ科 ハゼ科 イモリ科 アマガエル科 アカガエル科 スッポン科 トカゲ科 カナヘビ科 ナミヘビ科 モグラ科 ヒナコウモリ科 ネズミ科 イタチ科 イノシシ科 シカ科

種名 スクミリンゴガイ カワニナ サカマキガイ オイカワ,カワムツ,タカハヤ,カマツカ,イトモロコ メダカ ドンコ ヨシノボリ属の 1 種 アカハライモリ ニホンアマガエル ニホンアカガエル,ヤマアカガエル,トノサマガエル ウシガエル,ツチガエル,ヌマガエル ニホンスッポン ニホントカゲ ニホンカナヘビ シマヘビ,ヤマカガシ コウベモグラ ヒナコウモリ科の 1 種 カヤネズミ イタチ属の 1 種,アナグマ,イタチ科の 1 種 イノシシ ホンドジカ

151


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 11.両生類・爬虫類・哺乳類の移動経路.

がっていない状態であり孤立している.この水溜

所を利用していると思われる.また,本来の分布

りは長期間の乾燥により乾上がる構造のものでも

域ではないイトモロコが確認されたが,川内川で

ある.また,流入支流よりさらに上流域にも確認

は移入種として知られている.

されていることの解釈は,出水時の本川からの流

両生類・爬虫類・哺乳類調査結果 両生類は 2

入が考えられる.一方,分散・孤立状態でのメダ

目 3 科 8 種,爬虫類は 2 目 4 科 5 種,哺乳類は 5

カの存否の状態は,雨天時の雨量の多いときの小

目 6 科 7 種が確認された.両生類,爬虫類,およ

規模な水の流れを巧みに利用し,遡上・降下を繰

び哺乳類の確認種一覧を表 5 に,両生類,爬虫類,

り返し分散していることを推察する.

および哺乳類の確認位置を図 10 に示した.また,

確認された魚類の中に,冷水性のタカハヤが

食物連鎖の関係性で,両生類,爬虫類,および哺

確認されているが,分水路内にある水温の低い箇

乳類の食性一覧を表 6 に示した.生態系ピラミッ

表 6.両生類・爬虫類・哺乳類食性一覧. 科名 イモリ アマガエル アカガエル

種名 アカハライモリ ニホンアマガエル ニホンアカガエル ヤマアカガエル トノサマガエル ウシガエル ツチガエル ヌマガエル スッポン ニホンスッポン トカゲ ニホントカゲ カナヘビ ニホンカナヘビ ナミヘビ シマヘビ ヤマカガシ モグラ コウベモグラ ヒナコウモリ ヒナコウモリ科の一種 * ネズミ カヤネズミ イタチ イタチ属の一種 アナグマ イタチ科の一種 イノシシ イノシシ シカ ホンドジカ

152

食性 昆虫類,ミミズなど小動物 小さな昆虫類,クモ類 昆虫類,クモ類,ミミズなど 昆虫類,クモ類,ミミズなど 昆虫類,クモ類,小型のカエルやヘビ 昆虫類,節足動物,甲殻類の他,魚類や両生類,小型爬虫類も捕食する 小さな昆虫類,クモ類 小型の昆虫類 魚類,甲殻類,貝類などを捕食し,稀に植物も採食する 昆虫類,クモ類,ミミズなど 昆虫類,クモ類,ミミズなど 主にカエル類であるが,ネズミ類、小鳥類他,他のヘビを捕食することもある カエル類,オタマジャクシ,魚類 土中の昆虫類、ミミズ類をはじめ、ジムカデ類や植物種子を採食することもある * 飛翔昆虫類(参考:モモジロコウモリ) 巣内の痕跡として昆虫類の破片や種子、飼育下ではヒエ、アワ、アサ、煮干、バッタ類 ネズミ類、鳥類、昆虫類、ザリガニ等、鶏等の家禽を襲うこともある 土壌動物,小動物,果実 - 植物の地下茎,果実,タケノコ,昆虫類,サワガニなど イネ科草本,木の葉,堅果,ササ類


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ドの主要な位置を占める両生類,爬虫類,および

水路内を縦断する形で残されているが,侵入経路

哺乳類の移動経路を図 11 に示した.

は主に上流取り込み口の裸地と考えられる.

両生類,爬虫類,および哺乳類は,陸上生態

有機的(生物的)環境要因は,生態系にはバ

系の食物連鎖において,高次消費者として位置づ

ランスがあり,食うか食われるかの関係の食物連

けられる.高等動物は移動性が強く,広範囲を利

鎖(食物網)がある.それぞれの地域には,微妙

用する.さらに,生態系の多様性を観る尺度とし

に内容の違った小さな生態系ピラミッドが点在

て種の多様性は生態系の評価には欠かせない事項

し,それぞれが繋がり,エコロジカルネットワー

である.

クにおける拠点的な存在として機能している.河

分水路内の両生類の利用状況は,止水(水溜り)

床や周辺域の植生環境の多様化は,陸上・陸水生

域でヌマガエルとツチガエルの繁殖に利用され,

態系の食物連鎖において確かな生態系ピラミッド

変態後は分水路内の草地や流水中で生活している

の基礎部であり,自然再生の要でもある.したがっ

と考えられる.絶滅危惧種のトノサマガエルは数

て,施工や維持管理の現場ごとに,こうした小さ

個体確認された.しかし,繁殖は確認されなかっ

な生態系ピラミッドの存在を意識して作業を行う

たことから,周辺域からの侵入と思われる.カエ

ことが必要である.

ル類の分水路内への侵入は,成体と幼体では歩行 での移動,幼生では出水時の本川から,流入支流 (2 本)からの流入あるいは侵入が考えられる.

 謝辞 本報告の研究をすすめるに当たり,調査員の

今後,止水域と流水域の環境の安定化や植物の繁

派遣を快諾いただいた(株)新和技術コンサルタ

茂に伴い,カエル類の生息環境としての質が向上

ントに対し御礼申し上げる.また,本報告を公表

し,カエル相の多様性が豊かになると思われる.

する機会を与えてくださった国土交通省九州地方

分水路内の爬虫類の利用状況は,ヘビ類は,シ

整備局川内川河川事務所所長をはじめ,調査課な

マヘビとヤマカガシが確認されている.目的は分 水路内に多数生息するカエルの捕食であろう.ト カゲ類ではニホンカナヘビが確認されている.敷 設された巨石間の空隙は,トカゲ類の棲家として 利用され,良好なビオトープとしての役割を果た している.カメ類では,ニホンスッポンの繁殖痕 として孵化済みの産卵巣と卵殻を隣接する草地で 確認された.分水路内には多種多様な魚類やカエ ル類を含む水生生物が比較的豊富なため,摂餌環 境として高頻度で利用される可能性が高い. 分水路内の哺乳類の利用状況は,イタチの仲 間は,分水路右岸の既設道路と左岸の管理道路上 で,生活痕跡(糞)を確認している.大型哺乳類

らびに工務課の方々に深く御礼申し上げる.  引用文献 三島次郎.2002.トマトはなぜ赤い — 生態学入門.東洋館 出版社,東京.251 pp. 鷲谷いずみ・草刈秀紀.2003.自然再生事業 — 生物多様性 の回復をめざして ―.築地書館,東京.369 pp. 山脇正敏.2000.近自然工学 — 新しい川・道・まちづくり. 山社サイテック,東京.209 pp. 安田 実.2000.多自然型川づくりとは,pp. 2–15.リバー フロント整備センター(編),まちと水辺に豊かな自然 を III— 多自然型川づくりの取組みとポイント.山海堂, 東京. 横山 潤.2003.生物相調査における生物間相互作用の評価, pp. 200–209.佐藤正孝・新里達也(編),野生生物保全 技術.海游舎,東京.

のホンドジカの足跡が複数確認された.足跡は分

153


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

154

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島市喜入町の河口干潟におけるアラムシロガイの生活史 冨田悠斗・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科

要 旨  ア ラ ム シ ロ ガ イ Nassarius festiva (Powys,

値 6.55 mm に大きく減少していた.これらのこ

1833) は北海道南部以南の内湾潮間帯の干潟に生

とをふまえてアラムシロガイは 1 月と 8 月に新規

息する腐肉食性の巻貝である.殻表の粗いむしろ

加入することが観察でき,喜入町の河口干潟に生

目状の模様が特徴で吸腔目 Sorbeoconcha ムシロ

息するアラムシロガイの産卵時期は 1 月と 8 月で

ガイ科 Nassariidae に属する.本研究においては,

はないかと考察した.

殻長,殻幅の季節ごとのサイズ頻度分布,季節ご との殻長,殻幅の相関グラフ,季節ごとの殻長,

 はじめに

殻幅の最大値,最小値,平均値を示したグラフを

 新腹足目ムシロガイ科のアラムシロガイ

利用して,鹿児島県鹿児島市喜入町の河口干潟に

(Reticunassa festiva)は北海道南部以南の内湾潮

おける,アラムシロガイの生活史の調査を行った.

間帯の干潟に生息する腐肉食性の巻貝である.ア

 殻長のサイズ頻度分布の季節変化において,1

ラムシロガイの生態に関する研究は,網尾(1957)

月に 6.0 mm < N ≦ 7.0 mm(N は殻長)の小さな

によるムシロガイ(Niotha livescens),アラムシ

個体が加入していた.8 月に 6.0 mm < N ≦ 7.0

ロガイ,ヒメムシロガイ(R. multigranosa),ナミ

mm の小さな個体が加入していた.殻幅のサイズ

ヒメムシロ(R. pauperus),キヌボラ(Raticunasa

頻度分布の季節変化において,1 月に 4.0 mm < N

japonica)の産卵行動と初期発生,奥谷(2000)

≦ 5.0 mm の小さな個体が加入していた.8 月に 3.0

によるウネハナムシロ(Nassarius variciferus)の

mm < N ≦ 4.0 mm の小さな個体が加入していた.

生息環境が報告されているのみで,アラムシロガ

殻長の最大値,最小値,平均値を示したグラフに

イの生態に関する研究の報告例は少なく,喜入河

おいては,1 月に最小値 7.02 mm の値をとり,平

口干潟に生息するアラムシロガイの生活史の研究

均値 12.11 mm と大きく減少していた.8 月に最

を行うに至った.

小値 6.21 mm の値をとり,平均値 11.41 mm と大 きく減少していた.殻幅の最大値,最小値,平均

 材料と方法

値を示したグラフにおいては,1 月に最小値 4.22

研究材料 アラムシロガイ(Fig. 1)の縦肋は

mm の値をとり,平均値 6.69 mm と大きく減少し

白色で太い暗褐色の螺溝で分断され顆粒状.外唇

ていた.8 月に最小値 3.92 mm の値をとり,平均

は肥厚し小歯をもつ.北海道南部以南,韓国,中

    Tomita, Y. and K. Tomiyama. 2014. Life history of Nassarius festiva (Powys, 1833) (Gastropoda: Nassariidae) on a mangrove tidal flat in Kiire, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 40: 155–158. KT: Department of Earth and Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@ sci.kagoshima-u.ac.jp).

国,フィリピンの内湾潮間帯の干潟に生息する. 死んだ魚などに群がる腐肉食性の巻貝で「海の掃 除人」とも呼ばれている.殻は厚く,殻の表面は 粗い顆粒状である.個体の色は通常灰色であるが, 黄色の個体も確認できる(日本近海産貝類図鑑, 2000).

155


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 1.アラムシロガイ. Fig. 2.調査地点の地図.

調査方法 調査は 2012 年 12 月から 2013 年 11

頻度分布の季節変化において,1 月に 6.0 mm < N

月の期間,喜入干潟において干潮時刻前後に月に

≦ 7.0 mm(N は殻長),2 月に 6.0 mm < N ≦ 7.0

1 回,アラムシロガイを 40–50 個体を採集した.

mm,3 月に 7.0 mm < N ≦ 8.0 mm と 1–3 月にか

採集した個体は研究室に持ち帰り冷凍した.その

けて小さな個体が加入していた.8 月に 6.0 mm <

後全個体の殻長,殻幅をノギス(0.1 mm 精度)

N ≦ 7.0 mm,9 月に 7.0 mm < N ≦ 8.0 mm と 8–9

を用いて測定した.季節ごとの殻長,殻幅のサイ

月に小さな個体が加入していた.

ズ頻度分布,相関を求めた. 調査地 調査は鹿児島市喜入町(Fig. 2)を流

殻幅のサイズ頻度分布の季節変化において,1 2 月に 4.0 mm < N ≦ 5.0 月に 4.0 mm < N ≦ 5.0 mm,

れる愛宕川の河口干潟(31°22ʹN, 130°32ʹE)で行っ

mm,3 月に 4.0 mm < N ≦ 5.0 mm と 1–3 月に小

た.愛宕川は鹿児島湾の日石石油基地の内側に河

さな個体が加入していた.8 月に 3.0 mm < N ≦ 4.0

口があり,この河口部で八幡川と合流している.

mm,9 月に 4.0 mm < N ≦ 5.0 mm と 8–9 月に小

干潟周辺にはメヒルギ(Kandelia obovata)やハ

さな個体が加入していた.

マボウ(Hibiscus hamabo)からなるマングローブ

2012 年 12 月から 2013 年 11 月までのアラムシ

林が広がっており,太平洋域における北限のマン

ロガイの季節ごとの殻長,殻幅の相関を Fig. 5 に

グローブ林とされている.この干潟では道路道路

示す.年間を通して R² の値が 1 に近く,相関が

開発事業が行われており,それによって干潟の環

あることが確認された.

境の一部が破壊された.この干潟にはウミニナ科 のウミニナ(Batillaria multiformis),フトヘナタ リ 科 の フ ト ヘ ナ タ リ(Cerithidea rhizophorarum)

 考察 殻長のサイズ頻度分布の季節変化において,1

が同所的に生息しており,カワアイ(Cerithidea

月に 6.0 mm < N ≦ 7.0 mm の小さな個体が加入し

djadjariensis)もわずかに生息している(若松・

ていた.8 月に 6.0 mm < N ≦ 7.0 mm の小さな個

冨山,2000).

体が加入していた.殻幅のサイズ頻度分布の季節

 結果 アラムシロガイの殻長と殻幅のサイズ頻度分 布の季節変化を Figs. 3–4 に示す.殻長のサイズ

156

変化において,1 月に 4.0 mm < N ≦ 5.0 mm の小 さな個体が加入していた.8 月に 3.0 mm < N ≦ 4.0 mm の小さな個体が加入していた.殻長の最大値, 最小値,平均値を示したグラフにおいて,1 月に


RESEARCH ARTICLES

Fig. 3.アラムシロガイの殻長のサイズ頻度分布の季節変化.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 5.アラムシロガイの季節ごとの殻長,殻幅の相関グラ フ.

最小値 7.02 mm の値をとり,平均値 12.11 mm を とって大きく減少していた.8 月に最小値 6.21 mm の値をとり,平均値 11.41 mm をとって大き く減少していた.殻幅の最大値,最小値,平均値 を示したグラフにおいて,1 月に最小値 4.22 mm の値をとり,平均値 6.69 mm をとって大きく減 少していた.8 月に最小値 3.92 mm の値をとり, 平均値 6.55 mm をとって大きく減少していた. 以上のことをふまえてアラムシロガイは 1 月 と 8 月に新規加入することが観察でき,喜入町の 河口干潟に生息するアラムシロガイの産卵時期は 1 月と 8 月ではないかと考察した.西日本沿岸に 生息するアラムシロガイは 4–8 月に産卵し,卵は 水温 25–28℃で約 9 日間で孵化,約 4 週間の浮遊 幼生期間を経たのち,殻長 0.65 mm に成長した 稚貝が着底する(綱尾,1957).本研究において 喜入町の河口干潟に生息するアラムシロガイの産 Fig. 4.アラムシロガイの殻幅のサイズ頻度分布の季節変化.

卵時期は 8 月であるといる考察は,綱尾(1957) により報告された西日本に生息するアラムシロガ イの産卵時期と一致する.

157


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

しかし,1 月に産卵するという他地域からの報 告例はない.アラムシロガイは生息環境により寿 命が異なり,潮干狩りなどによる人為的影響のあ る海域では,人為的影響のない海域の個体群に比 べ寿命が短くなる(Morton & Chan, 2004).鹿児 島県喜入町愛宕川の河口干潟では 2010 年から防 災道路整備事業が行われており,この人為的影響 が喜入町の河口干潟に生息するアラムシロガイの 産卵時期に影響をおよぼし,1 月に産卵したので はないかと考察した.

 謝辞 本研究を行うにあたり,日頃より多くの知識 と示唆をいただいた鹿児島大学理学部地球環境科 学科の先生・先輩・同輩の皆様に深く感謝いたし ます.

158

RESEARCH ARTICLES

 引用文献 綱尾 勝,1957.アラムシロ Tritia (Hinia) festivus (Powys), ムシロガイ Nassarius livescens (Philippi) の卵嚢および孵 化幼生に就いて.水産学研究報告,6 (2): 123–132. Morton, B. & K. Chan, 2004. The population dynamic of Nassarius festivus (Gastropoda: Nassariidae) on three environmentally different beaches in Hong Kong. Journal of Molluscan Studies, 70 (4): 329–339. 奥谷喬司,2000.日本近海産貝類図鑑.東海大学出版会,東京. xiviii + 1174 pp. 若松あゆみ・冨山清升,2000.北限のマングローブ林周辺 干潟におけるウミニナ類分布の季節変化.Venus, 59 (3): 225–243.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

桜島における多板綱および腹足綱の分布と多様性 木村喬祐・若林祐樹・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科

要旨 これまでに桜島では,玉井・冨山(2001),

Pt. F の藤野で 40 種類,最も種数が少なかったの

野中ほか(2002),竹ノ内・冨山(2003)などによっ

は Pt. H の前崎で 11 種であった.その他の地点で

て特定の地点で特定の種のみに限定した研究は数

は 26–36 種類の種をみつけることができた.

多く行われてきた.しかし桜島の周囲の海岸全体

 周囲わずか 50 km ほどの比較的小さな半島であ

を対象とした,生物群の現況や種多様度について

る桜島には,70 種もの巻貝類が生息しており,

の研究はほとんど行われていない.そこで本研究

その多様性は非常に高いといえる.ヒザラガイ

では,桜島の海岸 8 地点で調査を行い,桜島にお

Acanthopleura japonica, ヨ メ ガ カ サ Cellana

ける巻貝類の現況を明らかにするとともに,桜島

toreuma, ア マ オ ブ ネ ガ イ Nerita (Theliostyla)

の潮間帯に生息する巻貝類の多様度と各調査地点

albicilla,オオヘビガイ Serpulorbis imbricatus,イ

間の類似度を算出し,それを基に桜島の貝類相の

ボニシ Thais (Reishia) clavigera の計 5 種類は,発

特徴や地点間の相違点を明らかにすることを目的

見が比較的容易であるということもあるが,今回

とした.

の調査ではどの地点でも出現し,その個体数も他

 調査対象は,桜島の潮間帯に生息する多板綱お

の種よりも多くみられたことから,これらは桜島

よび後鰓亜綱をのぞく腹足綱である.今回の調査

における普通種であるといえる.

では,桜島の周囲の海岸 8 か所を調査した.2013

 多くの種をみつけることができた理由として,

年の 4–11 月の大潮と前後日の干潮時に各調査地

転石海岸における地形の複雑性が,物理的ストレ

点に行き,潮間帯に生息している貝類を見つけ取

スを軽減し,捕食者からの捕食の危険を減らすこ

りした.採集したサンプルは,表面の汚れを軽く

と が で き る た め だ と 考 え ら れ る(Raffaelli &

水で洗い流した後,乾燥機にかけて約 1–2 週間乾

Hawkins, 1996).さらに,本研究での多様度指数

燥した.乾燥が終わったものから順次図鑑などを

の結果は,転石海岸に生息する生物群集の多様度

用いて同定作業を行った.その後地点ごとに多様

は,その特有の地形の複雑性によって高くなると

度指数と類似度指数,群分析を行った.

いう Raffaelli & Hawkins (1996) の記述に沿う結果

 桜島の海岸 8 地点において,調査および同定作

となった.

業の結果,多板綱 5 種,腹足綱 65 種の合計 70 種 の貝類がみられた.最も種数が多くみられたのは     Kimura, K., Y. Wakabayashi and K. Tomiyama. 2014. Molluscan fauna of Polyplacophora and Prosobranchia in intertidal area of Sakurajima, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 40: 159–167. KT: Department of Earth and Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@ sci.kagoshima-u.ac.jp).

 はじめに  本研究の調査地とした桜島は,鹿児島県の鹿児 島湾のほぼ中央に位置している世界的にも有名な 活火山である.約 2 万 6 千年前からの噴火活動に よって形成された島で,有史以後も大規模な噴火 活動を何度も繰り返し,今現在も活発な活動を続 けている.

159


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

 材料と方法 調査地 桜島は,鹿児島県の薩摩半島,大隅 半島に挟まれた鹿児島湾(錦江湾)のほぼ中央に 位置しており,日本で最も活発な活火山の一つで ある.桜島は姶良カルデラの南縁部に生じた成層 火山で,地質学的には比較的新しい火山である. 御岳と呼ばれる,約 2 万 6 千年前に鹿児島湾内の 海底火山として活動を開始した活火山によって形 図 1.桜島と本研究の調査地点.

成された.北から北岳,中岳,南岳がつらなり, 最もあとにできた南岳が現在も小爆発を繰り返す 散発的な活動を続けている.現在活発な活動を続

 桜島の周囲を囲む海岸は,その多くの地点が噴 火の際に流れ出た溶岩によって形成されており, 巨大な岩から直径数 cm の小石まで,大小様々な 溶岩由来の転石でおおわれている岩礁海岸と転石 海岸の両方の性質をあわせもつ海岸である.これ ら 2 つの性質を持つ海岸の潮間帯における地形の 複雑性は,波浪や温度,日光などの物理的要因か らの生物種に対するストレスを軽減するため,そ こに生息する生物群集は高い多様性を示すことが 知られている(Takada & Kikuchi, 1990; Raffaelli & Hawkins, 1996).  これまでに玉井・冨山(2001),野中ほか(2002) などによって桜島の袴腰海岸におけるアマオブネ ガイ Nerita albicilla (Linnaeus) やイシダタミガイ Monodonta labio confuse Tapprone-Canefri などの貝 類の生活史など,特定の地点で特定の種のみに限 定した研究は多く行われたが,桜島の周囲の海岸 全体を対象とした,そこに生息する生物群の種多 様度(species diversity)についての研究はほとん ど行われていない.そこで本研究では,多板綱お よび後鰓亜綱を除くすべての腹足綱を研究対象と し,桜島の海岸 8 地点でサンプリング調査を行い, 桜島における巻貝類の現況を明らかにするととも に,潮間帯に生息する巻貝類の多様度と各調査地 点間の類似度を算出し,それを基に桜島の貝類相 の特徴や地点間の相違点を明らかにすることを目 的とした.

けている南岳火口は,鹿児島市の市街地からわず か 10 km の距離にある.桜島は,世界的にも例の ない長期間にわたり継続的な噴火をしている活火 山であり,何世紀も前から大規模な噴火活動を繰 り返してきた.有史以後起こった文明(1471 年), 安永(1779 年),大正(1914 年),昭和(1946 年) の噴火は桜島の四大噴火とよばれ,いずれも大量 の火山噴出物を出し,桜島とその周辺地域の自然 環境に多くの影響を与えた(福山・小野,1981). 大正 3 年(1914 年)の大噴火以前,桜島は鹿児 島湾内の火山島であったが,大正噴火で流出した 大量の溶岩により大隅半島と陸続きになった.現 在は東西 12.2 km,南北 9.5 km,周囲 52 km の不 規則な楕円形の小半島となっている(国土地理院, 1990). 調査材料と方法 桜島の海岸は,過去の幾多 もの噴火活動の際に流れ出た溶岩によって形成さ れている.海岸には溶岩が冷え固まってできた黒 いゴツゴツした岩が転がっており,桜島の海岸の 多くが転石海岸である.なお,桜島が面する鹿児 島湾の平均海水面は 155 cm,大潮時の潮位差は 270 cm である. 今回の調査では,桜島の周囲の海岸の袴腰(Pt. A: 31°35ʹN, 130°35ʹE),

俣(Pt. B: 31°37ʹN,

130°39ʹE),有村(Pt. C: 31°33ʹN, 130°40ʹE),赤水 (Pt. D: 31°34ʹN, 130°36ʹE), 31°36ʹN, 130°42ʹE),

前(Pt. E:

野(Pt. F: 31°37ʹN,

130°37ʹE),割石崎(Pt. G: 31°37ʹN, 130°40ʹE),前 崎(Pt. H: 31°33ʹN, 130°42ʹE)の合計 8 か所を調

160


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

査した(図 1) .調査地点の設定は,島全体の潮

で与えられる(Simpson, 1949).ただし

間帯を調査でき,かつ安全に調査が行えることな

番 目 の 群 に 属 す る 玉 の 数 で あ る. こ の

どを考慮して行った.

Simpson の 単 純 度 指 数(Simpson's index of

2013 年の 4–11 月の大潮と前後日の干潮時に各

concentration) で あ り, こ れ の 逆 数

は第 i は が

調査地点に行き,潮間帯に生息している貝類を見

Simpson の 多 様 度 指 数(Simpson's index of

つけ取りした.

diversity)である.

調査対象は,桜島の潮間帯に生息する多板綱

次に,群集の計量的比較のためによく用いら

および後鰓亜綱をのぞく腹足綱である.多板綱と

れる類似度指数を求めた.類似度を表現する指数

はいわゆるヒザラガイ類のことである.長楕円形

には単に共通指数によるものから,種類構成によ

で扁平な体を持もち,背側の中央は 8 枚の殻片か

るもの,構造的規則性の母数によるものなど非常

らなる殻板に被われており,その周辺には肉帯と

に多くのものがあるが,今回は共通種数による指

呼ばれる硬い外套膜がある.腹足綱とは,一般に

数である野村・シンプソン指数を用いた.この指

巻き貝と呼ばれている貝類のグループである.通

数は,Jaccard の共通係数やその他の共通種数を

常は石灰質の硬いらせん状に巻いた殻をもってい

基礎とする指数では,比較される群集のサイズに

るが,内巻や笠形の類もあり,殻の形は非常に多

大きな差のある場合にはこれらの指数に影響を与

様である.軟体は通常殻の中にあり,頭,内臓嚢

える点に気付いた野村(1939, 1940)によって提

と足よりなるが,頭には 1 対の触角と目があり口

案されたものである.

は前方腹面にある(波部ほか,1994). 調査地にて採集したサンプルは,表面の汚れ

こ の 式 は, ア メ リ カ で 有 名 な Simpson 係 数

を軽く水で洗い流し,その後乾燥機にかけて約

(Simpson's coefficient)と同一である.なお本研究

1–2 週間乾燥した.乾燥が終わったものから順次

では,この野村・シンプソン指数を共通種数では

図 鑑 な ど を 用 い て 同 定 作 業 を 行 っ た( 伊 藤,

な く 共 通 科 数 に よ っ て 算 出 し た( 野 村,1939,

1983;奥谷,2000;鳥海,1975;行田,1995;稲

1940;Simpson, 1949).

留・山本,2005).

上記の方法で算出した各地点間の野村・シン

データ解析 各地点ごとに同定作業を行い,そ

プソン指数を基に,Mountford 法を用いてデンド

の結果を図にまとめた.その後,各地点の貝類相

ロ グ ラ ム(dendrogram) を 作 成 し た.Mountford

の特徴を明らかにするため,また,各地点間の類

法は数量分類学でいう平均連結法の一種である.

似度を調べるために以下の方法で解析を行った.

この方法は,マトリックスの中で最も高い数値の

各地点の潮間帯における生物相の多様性の度

群を選び,残りの群集と初めに形成された群との

合いを数値化するために,多様度指数(index of

間の類似度指数をまた新たに計算し,新しいマト

diversity)を算出した.今回は個体数を含めて多

リックスを作成する.つぎにそのマトリックスよ

様度を評価することができる Simpson (1949) の多

り最も高い数値の群を選び,その群を中心にまた

様度指数(Simpson's index of diversity)を用いた.

類似度指数を計算して新たなマトリックスを作成

今,S 群に分けられた全数 N 個の玉を箱に入れよ

するという作業を繰り返して最終的にデンドログ

く混ぜ,任意の 1 個を取り出して箱に戻し,再度

ラ ム を 完 成 さ せ る と い う 方 法 で あ る( 木 元,

玉を取り出すという試行を考える.このとき,2

1978;大垣,2008).

回の試行で取り出した玉 2 個が同一群に属する確 率を

とすると

 結果 桜島の海岸 8 地点において,調査および同定 作業の結果,多板綱 5 種,腹足綱 65 種の合計 70 種の貝類がみられた(表 1).8 地点のうち最も種

161


162

GASTROPODA

Neritimorpha Discopoda

Fissurellidae Trochidae

Vetigastropoda

Strombidae Calyptraeidae Vermetidae Cypraeidae

Litiopidae Planaxidae Batillariidae Littorinidae

Neritidae Cerithiidae

Turbinidae

Necellidae Lottiidae

Patellogastropoda

ヨメガカサ ウノアシ ヒメコザラ コウダカアオガイ カスリアオガイ オトメガサ クマノコガイ コシダカガンガラ アシヤガイ ニシキウズ ギンタカハマ ナツモモ クロマキアゲエビス イシダタミ チグサガイ ヒラヒメアワビ スガイ カサウラウズ アマオブネガイ カヤノミカニモリ ノミカニモリ シマハマツボ ゴマフニナ ウミニナ コビトウラウズガイ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ アラレタマキビ マガキガイ アワブネガイ オオヘビガイ クチムラサキダカラ Cellana toreuma Patelloida saccharina Patelloida pygmaea heroldi Nipponacnea concinna Nipponacnea radula Scutus (Aviscutum) sinensis Shlorostoma xanthostigma Omphalius rusticus Granata lyrata Trochus maculatus Tectus piramis Clanculus margaritarius Clancuius microdon Monodonta labio confusa Cantharidus japonicus Stomatella impertusa Turbo (lunella) cornatus coreensis Astralium heimburgi Nerita (Theliostyla) albicilla Clypeomorys bifasciata Bittium glareosum Alaba picta Planaxis sulcatus Batillaria multiformis Peasiella habei Littoraria (Littorinposis) intermedia Littoraria (Palustorima) articulata Nodilittorina radiada Strombus (Conomurex) luhuanus Crepidula (Bostrycapulus) gravispinosus Serpulorbis imbricatus Cypraea (Lyncia) carneola carneola

表 1.各調査地点における出現種および Simpson の多様度指数. Class Order Family Japanese name Species name POLYPLACOPHORA Neoloricata Ischnochitonidae Ischnochiton comptus ウスヒザラガイ Lepidozona coreanica ヤスリヒザラガイ Chitonidae Acanthopleura japonica ヒザラガイ Acanthochitonidae ヒメケハダヒザラガイ Acanthochitona achates Cryptoplacidae Cryptoplax japonica ケムシヒザラガイ + + + + - - - + - - - - + + - + + + + - + + - - - - - - - - + -

- - + + -

- + + - - + - + + + - + - - + + + + + - - + - + + - - - - - - - + - + + +

Pt. B

Pt. A

+ + + - - - - - - + - - + - - + - - + - - + + - + - + + - - + -

+ - + + -

Pt. C

+ + - + + - - + - + - - - + + + + - + - - + - - - - - - + - + -

+ - + + +

Pt. D

+ + + - - - - - - + - - - + - + + - + - - - - - - + - + + + + -

+ - + + -

Pt. E

+ + - - - + + + + - - - + + - + + - + - - + + + - - - + - - + -

+ - + + +

Pt. F

+ - - - - + + + - + - - - + - - + - + + - - - - - - - - - - + -

+ - + - -

Pt. G

+ - + - - - - - - - - - + + - - + - + - - - - - - + - - - - + -

- - + + -

Pt. H

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


Simpson's index of diversity

Number of species in all area

Heterostropha Basommatophora

Ptenoglossa Neogastropoda

Mitridae Conidae Terebridae Architectonicidae Siphonariidae

Buccinidae

Nassariidae

Columbellidae

Bursidae Triphoridae Muricidae

ナツメダカラ メダカラ ハツユキダカラ イワカワウネボラ キリオレ カゴメガイ ウネレイシダマシ ヒメヨウラク シマレイシダマシ ウニレイシ レイシガイ イボニシ フトコロガイ マツムシ コウダカマツムシ ムギガイ ノミニナモドキ ノミニナ キビムシロ ムシロガイ シイノミヨフバイ ナミヒメムシロ アラムシロ クロスジムシロ キヌボラ ゴマフホラダマシ シマベッコウバイ ヤタテガイ ハルシャガイ コンゴウトクサ クロスジグルマ キクノハナガイ カラマツガイ Cypraea (Erronea) ovum ovum Cypraea (Purpuradusta) gracilis Cypraea (Erosaria) miliaris Bursa (Colubrellina) grannlaris Viriola (Viriola) tricincta Bedeva birileffi Cronia margariticola Ergalatax contractus Marula musiva Mancinella echinata Thais (Reishia) bronni Thais (Reishia) clavigera Euplica scripta Pyrene testudinaria tylerae Mitrella burchardi Mitrella bicincta Zafra (Zafra) mitriformis Zafra (Zafra) pumila Niotha splendidula Niotha livescens Telasco velatus Reticunassa pauperus Reticunassa festiva Reticunassa fratercula Reticunassa japonica Enzinopsis menkeana Japeuthria cingulata Strigatella scutula Conus (Lithoconus) tessulatus Decorihastula undulata Architectonica perspectiva Siphonaria (Anthosiphonaria) sirius Siphonaria (Sacculosiphonaria) japonica 11.80

- - - + + - + + + - + + + - - - + + - - - + - - - + + + - - - - + 34 12.19

- + + + - - + + + - + + + - - - + + - - - + + - - + + + - - - - - 32 11.21

- - - - + + + + + - + + + - + - - - - - - + - - - + - + - - - + - 29 13.50

- - + + - - + + + - + + + - + - + + - - + - - - - + - + - + + + + 36 12.25

- + + - - + + - - - + + + - + + - + - - - - - + - - - - - - - + - 28 13.33

- + + + - - + + + + - + + - - + - + + + - - + + + + + + + - - - - 40 9.94

+ - + + - - + + + - + + + + - + - - - - - - - - - + + - - - + - - 26 9.31

- - - - - - - - - - - + - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 11

RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

163


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

数が多くみられたのは Pt. F の藤野で 40 種類で

ガイとマルウズラタマキビ(Pt. C),チグサガイ,

あった.この地点では,多板綱 4 種,腹足綱 36

シイノミヨフバイ,コンゴウトクサ(Pt. D),ア

種を発見した.最も種数が少なかったのは Pt. H

シヤガイ,ウミニナ,ウニレイシ,キビムシロ,

の前崎で,Pt. F のおよそ 4 分の 1 の 11 種しかみ

ムシロガイ,キヌボラ,ハルシャガイ(Pt. F),

られなかった.ここでは多板綱 2 種,腹足綱 9 種

ナツメダカラとマツムシ(Pt. G)である.Pt. E

を 発 見 す る こ と が で き た. そ の 他 の 地 点 で は

と Pt. H には特定の種は出現しなかった.

26–36 種類の種をみつけることができた.ヒザラ ガイ,ヨメガカサ,アマオブネガイ,オオヘビガ

多様度指数と類似度指数

イ,イボニシの計 5 種類は,Pt. A–H の全ての地

各地点の Simpson の多様度指数は,最も高かっ

点で出現した.8 つの調査地点のうち,過半数の

た地点は赤水(Pt. D)で 13.50 であり,この地点

5 地点以上でその存在を確認できた種の数は,多

は出現種数が 2 番目に高かった地点である.出現

板綱が 3 種,腹足綱が 21 種であった.イシダタ

種数が 11 種と最も少なかった前崎(Pt. H)は,

ミとスガイは Pt. C 以外の全地点でみられ,ウネ

多様度指数も全地点で最も低く,その値は 9.31

レイシダマシとフトコロガイは Pt. H 以外の全地

であった.最も出現種数の多かった藤野(Pt. F)

点でみられた.ある特定の地点でのみ出現した種

の多様度指数は 13.33 で,全地点で 2 番目に高かっ

は全部で 20 種あり,ヤスリヒザラ,ギンタカハマ, ナツモモ,クチムラサキダカラ(Pt. A),カサウ ラウズとノミカニモリ(Pt. B),コビトウラウズ

た.その他の 5 地点は 9.94–12.25 の範囲であった (表 1). 各調査地点を出現科数でみてみると,調査地

表 2.各地点における巻貝類の出現科数. ウスヒザラガイ科 クサズリガイ科 ケハダヒザラガイ科 ケムシヒザラガイ科 ヨメガカサガイ科 ユキノカサガイ科 スカシガイ科 ニシキウズガイ科 サザエ科 アマオブネガイ科 オニノツノガイ科 ウキツボ科 ゴマフニナ科 ウミニナ科 タマキビ科 ソデボラ科 カリバガサガイ科 ムカデガイ科 タカラガイ科 オキニシ科 ミツクチキリオレ科 アッキガイ科 フトコロガイ科 ムシロガイ科 エゾバイ科 フデガイ科 タケノコガイ科 イモガイ科 クルマガイ科 カラマツガイ科 Number of family

164

Pt. A 1 1 0 0 1 3 0 6 1 1 1 0 0 0 1 0 1 1 1 1 1 5 3 1 2 1 0 0 0 1 20

Pt. B 0 1 1 0 1 3 0 4 2 1 1 1 0 0 0 0 0 1 2 1 0 5 3 2 2 1 0 0 0 0 17

Pt. C 1 1 1 0 1 2 0 3 0 1 0 1 1 0 3 0 0 1 0 0 1 6 2 1 1 1 0 0 0 1 18

Pt. D 1 1 1 1 1 3 0 5 1 1 0 1 0 0 0 1 0 1 1 1 0 5 4 1 1 1 1 0 1 2 22

Pt. E 1 1 1 0 1 2 0 3 1 1 0 0 0 0 2 1 1 1 2 0 0 4 4 1 0 0 0 0 0 1 17

Pt. F 1 1 1 1 1 1 1 6 1 1 0 1 1 1 1 0 0 1 2 1 0 5 3 5 2 1 0 1 0 0 23

Pt. G 1 1 0 0 1 0 1 4 1 1 1 0 0 0 0 0 0 1 2 1 0 5 3 0 2 0 0 0 1 0 15

Pt. H 0 1 1 0 1 1 0 2 1 1 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 10


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

全体では 30 科出現しており,最も出現科数が多 かったのは藤野(Pt. F)の 23 科で,最も少なかっ たのは前崎(Pt. H)の 10 科であった(表 2).全 30 科のなかで最も種数の多かったのはニシキウ ズガイ科で,10 種がみつかった.次いでムシロ ガイ科の 7 種,フトコロガイ科の 6 種と続いた. 海岸ごとに貝類相の特徴をみてみると,各地 点ともニシキウズガイ科とアッキガイ科の割合が 高く,全地点において 30% 前後がこの二つの科 で占められていた.

図 2.Mountford 法による群分析.

各調査地点間の共通科数による野村・シンプ ソン指数をみると,Pt. E–H 間と Pt. F–H 間の 1.000 が最も高く,Pt. C–G 間の 0.600 が最も低かった(表 全地点間の多様度指数は 1.000–0.800 と高い数値

3).

の範囲であるという結果が得られた. Mountford 法による群分析 野村・シンプソン指数によって計量化した 8 地点間の類似度を群分析法(cluster analysis)に

 考察 出現種数と海岸環境

よって表示した結果が図 2 に示すデンドログラム

桜島の海岸 8 地点において潮間帯の貝類群集

である.Pt. E と H,Pt. F と H がそれぞれ多様度

の調査を行ったところ,計 70 種の多板綱および

指数 1.000 という結果からひとつのグループを形

後鰓類を除く腹足綱をみつけることができた.藤

成した.同様に Pt. B と C,Pt. A と G がそれぞれ

野(Pt. F)の 1 地点だけでも 40 種類の貝類が出

小さなグループを形成した.E と F と H の指数

現した.Pt. F の次に多くの種が出現した地点は,

は 1.000 で,B と D の指数は 0.941,A と G の指

36 種が出現した赤水(Pt. D)であった.これほ

数は 0.867 であった.さらに,EFH 群と C の多

ど多くの種をみつけることができた理由として,

様度指数は 0.851 で,EFHC 群と BD 群の指数は

転石海岸における地形の複雑性が,物理的ストレ

0.843,最後に EFHCBD 群と AG 群の指数は 0.800

スを軽減し,捕食者からの捕食の危険を減らすこ

であった.デンドログラムで示されている通り,

と が で き る た め だ と 考 え ら れ る(Raffaelli & Hawkins, 1996). さらに,各地点の Simpson の多様度指数をみ てみると,発見種数の多かった赤水(Pt. D)や

表 3.各調査地点間の共通科数(右上)と類似度指数(左下). P t. A P t. A

P t. C

P t. D

P t. E

P t. F

P t. G

P t. H

15

15

16

15

16

13

9

13

16

12

16

12

9

15

13

16

9

9

も全地点で最も低い 11 種であった.今回調査し

15

18

13

9

た地点は,Pt. H を除くすべての地点が桜島溶岩

14

10

10

由来の転石海岸である.本研究での多様度指数の

13

10

結果は,転石海岸に生息する生物群集の多様度は,

7

その特有の地形の複雑性によって高くなるという

P t. B 0.882 P t. C 0.833 0.765

P t. D 0.800 0.941 0.833 P t. E

藤野(Pt. F)などが非常に高い値をとり,Pt. D

P t. B

0.882 0.706 0.765 0.882

P t. F 0.800 0.941 0.889 0.818 0.824 P t. G 0.867 0.800 0.600 0.867 0.667 0.867

P t. H 0.900 0.900 0.900 0.900 1.000 1.000 0.700

が 13.50 で最も高く,次いで Pt. F が 13.33 という 結果になった.最も低い値になったのは前崎(Pt. H)でその値は 9.31 であった.Pt. H は出現種数

Raffaelli & Hawkins (1996) の 記 述 に 沿 う 結 果 と

165


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

なった. しかし Pt. D と Pt. F は,桜島の浸食により供給

RESEARCH ARTICLES

く砂や泥が堆積している海岸である.また,ここ の海岸は鹿児島湾内で漁業を行っている人々の漁

された溶岩や火山灰などの物質の堆積によってで

港として使われており,多くの船が係留している.

き た 火 山 麓 扇 状 地 上 に あ る 海 岸 で あ り, 直 径

さらに,桜島の周囲を囲む鹿児島湾は,その地形

1–20 cm 程度の小さな石が多く,1 m 以上の巨大

構造のために湾奥部の海水の交換が非常に行われ

な岩は比較的少ない海岸である.一方,溶岩の流

難いという特徴を持つ.以上のことから,Pt. H

出によってできた袴腰(Pt. A)や浦之前(Pt. E),

が最も貝類の出現種数が少なかったのは,ここが

割石崎(Pt. G)の海岸は,大小様々な岩が多く

砂や泥で形成された海岸で軟体動物が生息しやす

存在し,干潮時には潮だまりもできる非常に地形

い岩や複雑な地形がないこと,人々の生活活動に

が複雑な海岸である.一見すると Pt. A や Pt. G の

よって汚染された海水が長期間に渡りこの地点に

ほうが生物群集の多様性が高くなる要因をより多

溜まってしまったことによる水質の悪化などが理

く有しているように見受けられるが,今回の調査

由として考えられる.

では,Pt. D や Pt. F がより高い多様度指数を示す 結果となった.これは,Pt. A や Pt. G の海岸付近

桜島における普通種と希少種

はフェリーなどの船の往来が多く,海岸に打ち寄

桜島は,周囲わずか 50 km ほどの小さな島で

せる波が他地点よりも強く,Pt. D と Pt. F に比べ

ありながら,70 種類もの巻貝類が生息しており,

て生物群に対するストレスが強いためだと考えら

その多様性は非常に高いといえる.ヒザラガイ,

れる.また,もうひとつ考えられる要因としては,

ヨメガカサ,アマオブネガイ,オオヘビガイ,イ

今回の調査方法におけるサンプル採集の過程にい

ボニシの計 5 種類は,Pt. A–H の全地点で出現し

くつかの問題があったことが挙げられる.今回の

た.この 5 種は,発見が比較的容易であるという

サンプル採集は,干潮時に潮間帯上を歩き,岩陰

こともあるが,今回の調査ではどの地点でも出現

や潮だまりに潜む貝類を見つけ取りしていくとい

し,その個体数も他の種よりも多くみられたこと

う方法であった.この方法は少数でも少ない時間

から,この 5 種は桜島の全ての海岸に生息する普

でより広範囲を捜索できるという利点があるが,

通種であるといえる.また,70 種のうち約 3 分

その反面,調査者の技量や海岸の足場の良し悪し,

の 1 の 20 種が,ある特定の地点でのみ出現した

さらには時間帯や天候などによっても採集結果が

種で,これらは桜島における希少種であるといえ

左右されるという欠点がある.この欠点を補うた

る.

めには,一か所の地点で複数回の調査を行う必要 があるが,本研究ではそれを十分に行うことがで

地質と生物群の関係性

きず,その結果,地点間でサンプル採集の質に差

各地点の海岸を形成している地質(国土地理

異が生じ,多様度指数に少なからずの影響が出て

院,1990)をみると,Pt. A と Pt. H が大正溶岩,

しまったものと考えられる.

Pt. C が安永溶岩,Pt. E が文明溶岩,Pt. D,Pt. F,

8 地点のうち,最も出現種数が少なかったのは

Pt. B が火山麓扇状地,Pt. G が年代不詳の古い溶

Pt. H の前崎で,その数はわずか 11 種であった.

岩によって構成されている.これを踏まえ各地点

今回調査した 8 地点のうち,そのほとんどの場所

間の類似度を基にした群分析の結果(図 2)をみ

が桜島の溶岩流出によってできた転石海岸である

てみると,E と F と H のグループ,B と D のグルー

が,前崎(Pt. H)は他の地点とは特徴が大きく

プ,A と G のグループの大きく 3 つに分けられた.

異なる海岸であった.前崎は桜島の南東部にあり,

このことから各地点間の生物群集の類似度に,海

大正噴火の際の溶岩流出によって大隅半島と桜島

岸を構成する溶岩の違いは関係がないことが分か

が陸続きになったことでできた海岸である.この

る.また,距離の近い地点同士でグループを構成

地点は鹿児島湾の湾奥に位置し,波がほとんどな

していないことから,桜島内での地理的距離によ

166


RESEARCH ARTICLES

る生物群の変異はないと考えられる.しかし,A と G,B と D,E と F はそれぞれ海岸の地形や転 石の大きさなどの地理的特徴が似ており,このこ とが地点間の類似度に影響を与えている一つの要 因と考えられる. 今回の桜島 8 海岸における潮間帯生物の分布 調査では,計 70 種の巻貝類を発見し,その種が どの地点に分布しているのかを明らかにすること ができた.しかし,今回の調査は全地点において 十分なサンプリングを行うことができておらず, 結果,充実した完璧なデータを得ることができな かった.桜島の潮間帯生物の分布および多様性に ついて,より正確かつ詳細に明らかにするために は,更なる細かいサンプリングと,今回は行わな かった各種の個体数についての調査やコドラート 法を用いた調査などを行う必要がある.

 謝辞 本研究を行うにあたり,研究について多くの 貴重なご助言をして頂きました行田義三氏(鹿児 島市),水生生物調査の方法や同定作業について 丁寧にご指導して下さいました森敬介氏(国立水 俣病総合研究センター)に深く感謝申し上げます. 調査および論文作成に協力していただいた同輩の 若林佑樹氏,ならびに同研究室の同輩,先輩方に お礼申し上げます.  引用文献

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 波部忠重・奥谷喬司・西脇三郎,1994.軟体動物学概説(上 巻).サイエンティスト社,東京. 稲留陽尉・山本智子,2005.桜島転石海岸の潮間帯にお け る 貝 類 群 集 と 転 石 の 特 性 の 関 連.Venus, 64 (3–4): 177–190. 伊藤年一,1983.学研生物図鑑 — 貝 I [ 巻貝 ].株式会社学 研研究社. 木元新作,1978.動物群集研究法 I— 多様性と種構成.共 立出版. 国土地理院,1990.1:15,000 火山土地条件図 ‐ 桜島.国 土地理院. 野村健一,1939.種ヶ島の蛾類について.吉田博士祝賀記 念誌,601–634. 野村健一,1940.昆虫相比較の方法 特に相関法の提唱に ついて.九州帝国大学農学部学芸雑誌,9: 235–263. 野中佐紀・鎌田育江・若松あゆみ・冨山清升,2002.桜島 袴腰大正溶岩の岩礁性転石海岸における草食性腹足類 4 種の潮間帯での帯状分布の季節的変化.九州の貝,58: 35–47. 奥谷喬司,2000.日本近海産貝類図鑑.東海大学出版会,東京. 大垣俊一,2008.多様度と類似度,分類学的新指標.Argonauta, 15: 10–22. Raffaelli, D. & Hawkins, S. 1996. Intertidal ecology. Chapman & Hall, London. Simpson, E. H. 1949. Measurement of diversity. Nature, 163: 688. Takada, Y. & Kikuchi, T. 1990. Mobile molluscan communities in boulder shores and the comparison with other intertidal habitats in Amakusa. Publications of the Amakusa Marine Biological Laboratory of Kyushu University, 10: 145–168. 竹ノ内秀成・冨山清升,2003.溶岩質転石海岸におけるア マオブネガイのサイズ頻度分布の季節変動.鹿児島大 学理学部地球環境科学科.卒業論文. 玉井宏美・冨山清升,2001.火山性溶岩の転石海岸におけ るカラマツガイの生活史について.鹿児島大学理学部 地球環境科学科.卒業論文. 鳥海 衷,1975.海岸動物の生態と観察.築地書店,東京. 136 pp. 行田義三,1995.鹿児島県を模式産地とする貝.九州の貝, 45: 29–45.

福山博之・小野晃司,1981.桜島火山地質図 1:25,000.地 質調査所.

167


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

168

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

桜島袴腰海岸潮間帯における肉食性巻貝類 5 種の生活史と生態 吉元 健・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専攻

要 旨  シ マ ベ ッ コ ウ バ イ Japeuthria cingulate

み分けを行っている可能性を示唆した.ベルト調

(Reeve, 1847), シ マ レ イ シ ダ マ シ Marula musiva

査におけるサイズ構成においては,各種で小型の

(Kiener, 1834), イ ボ ニ シ Thais clavigera (Kuster,

サイズが多く生息する場所がわかった.これは各

1860), ウ ネ レ イ シ ダ マ シ Cronia margariticola

種で繁殖や稚貝定着のために移動を行っているこ

(Broderip, 1833), カ ヤ ノ ミ カ ニ モ リ Clypemorus

とを示唆している.またウネレイシダマシは下部

bifasciata (Sowerby, 1822) の 5 種は桜島袴腰海岸

より,中部と上部のサイズが大きくなる傾向が

に生息する肉食性の巻貝である.これらの巻貝に

あった.シマレイシダマシは 11 月に上部に個体

ついて,過去の研究によって分布などは明らかに

数が多くなる傾向もあったことから,種の移動は

なっているが,種間の棲み分けなどの群集生態学

繁殖,稚貝定着のために限らず,乾燥耐性の影響,

的側面は明らかになっていない.本研究では 5 種

捕食 ‐ 被食の関係による影響も一要因となって

の殻長サイズ頻度分布の季節変動,垂直分布の移

いる可能性が考えられる.

動性から生活史を明らかにし,調査地において基 本生態を比較することを目的とした.

 はじめに

 2013 年 1 月から 2013 年 12 月まで桜島袴腰海

鹿児島県鹿児島市桜島袴腰海岸の潮間帯には

岸の潮間帯において,5 種を採取した.サイズ頻

多数の貝類が生息しており,その中でも複数種の

度分布の結果から,シマベッコウバイは夏から冬,

肉食性巻貝類が生息している.それらの中にシマ

イボニシは秋から冬,ウネレイシダマシは年に複

ベ ッ コ ウ バ イ Japeuthria cingulate (Reeve, 1847),

数回,カヤノミカニモリは夏に繁殖が行われてい

シ マ レ イ シ ダ マ シ Marula musiva (Kiener, 1834),

ると推定した.垂直分布の様子から,各種の生息

イボニシ Thais clavigera (Kuster, 1860),ウネレイ

個体数が多い範囲は潮間帯において種間で異なる

シダマシ Cronia margariticola (Broderip, 1833),カ

結果となった.シマベッコウバイは潮間帯中部か

ヤ ノ ミ カ ニ モ リ Clypemorus bifasciata (Sowerby,

ら下部にかけて,ウネレイシダマシは主に下部に,

1822) の 5 種がいる.

カヤノミカニモリは上部に,シマレイシダマシは

シマベッコウバイの生態的な研究はこれまで

3 月と 7 月は主に下部に,11 月は上部と下部に個

に,當山(2008),川野(2009),柳生(2013)が

体群が分かれた.これは調査地において 4 種が棲

袴腰海岸において生活史,内部成長線(年輪)解

    Yoshimoto, K. and K. Tomiyama. 2014. Life history and ecology of five species of carnivorous snail in intertidal zone in Hakamagoshi, Sakura-jima, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 40: 169–180. KT: Graduate School of Science and Engineering (Science), Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp).

析などの生態研究を行っている.シマレイシダマ シは Tong (1986, 1988) に繁殖について調べられて いるが,季節移動などを含めた生活史は明らかと なっていない.ウネレイシダマシの生態学的研究 は少なく,鎌田 (2000) が同調査地においてシマ ベッコウバイ,ウネレイシダマシ,シマレイシダ マシの生活史を研究したもののみである.イボニ

169


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

イシダマシ,カヤノミカニモリという 5 種の肉食 性巻貝類の生活史,生態をサイズ頻度分布の季節 移動,垂直分布の移動性から明らかにすることを 目的とした.  材料と方法 調査地 調査は鹿児島県鹿児島市桜島袴腰海岸の潮間 帯(31°35′N, 130°35′E) で 行 っ た. 袴 腰 海 岸 は 1914 年の大正噴火で噴出した溶岩で形成された 岩礁性の転石海岸である.通常の転石海岸とは異 なり転石は円礫ではなく,不定形で角張っており, 多孔質である.転石のサイズは直径約数 cm の小 石から約数 m の岩まで様々である.転石の下に は砂や礫が存在する.調査地には多種の肉食性巻 貝類が生息している. 材料 本研究では桜島袴腰海岸に生息するシマベッ Fig. 1.調査地写真(鹿児島県鹿児島市桜島袴腰海岸).

コウバイ Japeuthria cingulate (Reeve, 1847),シマ レイシダマシ Marula musiva (Kiener, 1834),イボ ニシ Thais clavigera (Kuster,1860),ウネレイシダ

シは遺伝的な二型分化に焦点があてられた研究が

マシ Cronia margariticola (Broderip, 1833),カヤノ

多 く, 中 部 田 辺 湾 に お け る 二 型 の 遺 伝 的 分 化

ミ カ ニ モ リ Clypemorus bifasciata (Sowerby, 1822)

(Hayashi, 1999), 二 型 間 で の 餌 選 択 性(Abe,

を調査対象とした.これら 5 種は全て肉食性の巻

1994)などの研究がある.イボニシの季節移動や 繁殖期などの生活史を研究した例は少ない.カヤ

貝である. シマベッコウバイはエゾバイ科の肉食性巻貝

ノ ミ カ ニ モ リ は Abdul-Salam & Sreelatha (1996),

である.殻長は約 3.5cm で殻は太く短いで紡錘形

吉田(2008),吉元(2012)によって研究例が報

で,暗緑色の地に不規則な褐色の線状模様がある.

告されている.Abdul-Salam & Sreelatha (1996) に

伊豆諸島以南,西太平洋の潮間帯の岩礁に生息す

よる論文では,カヤノミカニモリに寄生するセル

る(日本近海産貝類図鑑,2000).

カリアについては記載されているが,本種の生態

シマレイシダマシはアッキガイ科の肉食性巻

学的側面については記載されていない.吉田と吉

貝である.殻長は約 2–3 cm で殻は紡錘形で厚質,

元は同調査地において生活史を明らかにする研究

肋の交差部は低いイボ状になる.イボは螺肋ごと

を行った.また袴腰海岸では肉食性貝類 3 種(シ

に褐色と暗褐色に交互に彩色される.殻口内は暗

マベッコウバイ,シマレイシダマシ,ウネレイシ

灰色である.熱帯インド・西太平洋,潮間帯岩礁

ダマシ)の生活史と分布について(鎌田,2000),

域に生息する(日本近海産貝類図鑑,2000).

草食性貝類 4 種の生活史と分布について(野中, 2000)の研究例がある.

イボニシはアッキガイ科の肉食性巻貝で,殻 長は約 3–5 cm でレイシガイに似るが,縦肋は広

これらの研究を参考に,本研究ではシマベッ

い黒帯をもち,肋間がわずかに白い.殻口内は黒

コウバイ,イボニシ,シマレイシダマシ,ウネレ

紫色である.北海道南部,男鹿半島以南,潮間帯

170


RESEARCH ARTICLES

岩礁に生息する(日本近海産貝類図鑑,2000). ウネレイシダマシはアッキガイ科の肉食性巻 貝である.殻長は約 3 cm で螺肋は細かく小鱗片

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

区画,10 区画,20 区画,40 区画に区切り,それ ら区画内の各種種間関係を調査した.ウネレイシ ダマシ,カヤノミカニモリ,シマレイシダマシ,

状,縦肋はイボ状,殻口内は紫色であった.熱帯

シマベッコウバイ 4 種の個体数から ω 指数を算

インド・西太平洋,潮間帯岩礁,サンゴ礁に生息

出し,同所的生息の程度を考察した.ω=1 のとき

している(日本近海産貝類図鑑,2000).

は完全に分布が同所的で,ω=0 のときは独立した

カヤノミカニモリはオニノツノガイ科の肉食 性巻貝である.殻長は約 2 cm で殻は太い紡錘形 で堅固である.縦肋と螺肋が交わり,顆粒となる.

分布,ω= - 1 のときは排他的な分布を表す.  結果

温帯域では黒色の個体が多いが,白い斑紋や色帯

1.定期調査

がでる場合もある.白色で螺肋上に黒斑列をもつ

1–1.シマベッコウバイのサイズ頻度分布

ものはカスリカニモリ,黒褐色で顆粒の顕著なも

 シマベッコウバイのサイズ頻度分布グラフを

のはアラレカニモリと呼ばれる.房総半島・山口

Fig. 2 に,殻長平均値の推移を Fig. 7 に示した.

県以南,熱帯インド・西太平洋,潮間帯上部,岩

グラフは複数のサイズピークをもつ形となった.

礁のくぼみに群生する(日本近海産貝類図鑑,

サイズピークは 20 mm 前後になる月が多かった

2000).

が,2–3 月は 15 mm 前後にサイズピークをもった. 最大のサイズピークは 10 月と 4 月の 26 mm であ

調査方法

り,最小のサイズピークは 2 月の 14 mm であった.

定 期 調 査  定 期 調 査 は 2013 年 1 月 か ら 2013

10 mm 以下の小型の個体は 2–3 月,6–7 月,9–11

年 12 月までの期間行った.毎月 1 度大潮の干潮

月に出現した.一年を通して最小の個体は 11 月

時刻前後に桜島袴腰海岸で調査行った.調査はコ

に出現した 6.1 mm の個体であった.殻長 1.0–5.0

ドラートを用いて行った.ランダムに 50 cm × 50

mm の個体は調査期間中一度も採取されなかっ

cm の範囲を 3 ヶ所選び,範囲内にいるシマベッ

た.25 mm 以上の大型の個体は各月で安定して

コウバイ,シマレイシダマシ,ウネレイシダマシ,

出現した.一年を通して最大の個体は 12 月に出

カヤノミカニモリ,イボニシを全て採取し,研究

現した 30.6 mm の個体であった.殻長平均値は

室に持ち帰った.その後ノギスで 0.1 mm の単位

年間を通して 20 mm 前後であった.殻長平均値

まで測定し,記録した.記録からシマベッコウバ

が最も大きくなるのは 5 月の 22.7 mm であり,最

イ,シマレイシダマシ,ウネレイシダマシ,カヤ

も小さくなるのは 3 月の 18.5 mm であった.2–5

ノミカニモリ,イボニシのサイズ頻度分布を作成

月に増加傾向にあり,1–2 月,5–6 月,9–11 月に

した.

は減少傾向であった.

ベルト調査 ベルト調査は 2013 年 3 月,2013 年 7 月,2013 年 11 月に行った.大潮の干潮時刻

1–2.イボニシのサイズ頻度分布

前後に桜島袴腰海岸で行った.大潮の満潮線から

 イボニシのサイズ頻度分布グラフを Fig. 3 に,

干潮線に向かってメジャーを伸ばし,コドラート

殻長平均値の推移を Fig. 7 に示した.3–4 月,8

を用い 50 cm × 50 cm の範囲に生息するシマベッ

月はサンプルを得ることができなかった.イボニ

コウバイ,シマレイシダマシ,イボニシ,ウネレ

シは,調査期間中充分な数の個体数が採取されな

イシダマシ,カヤノミカニモリを全て採取した.

かったためサイズ頻度分布グラフは山型にはなら

満潮線を 0 m とし,干潮線まで個体を採取した.

ない月が多かった.サイズピークは 6–12 月に増

採取した個体は研究室に持ち帰った後,殻長を測

加する傾向がみられた.殻長 1.0–9.0 mm の個体

定し記録した.

は調査期間中一度も採取されなかった.一年を通

種間関係調査 ベルト調査の地点を 2 区画,5

して最小の個体は 2 月に出現した 10.9 mm の個

171


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 2.シマベッコウバイの殻高の月別サイズ頻度分布.

Fig. 3.イボニシの殻高の月別サイズ頻度分布.

体であった.また,最大の個体は 9 月に出現した

18.0 mm であり,最も小さくなるのは 6 月の 14.0

29.4 mm の個体であった.殻長平均値は 6–7 月を

mm で あ っ た.1 月 か ら 2 月,6–7 月,3–5 月,

除き,約 20 mm であった.殻長平均値が最も大

8–11 月は増加傾向がみられた.2–3 月,5–6 月,

きくなるのは 12 月の 20.9 mm であり,最も小さ

7–8 月,11–12 月は減少傾向がみられた.

くなるのは 6 月の 15.1 mm であった.5–6 月は減 少傾向がみられたが,それ以外の月では増加傾向

1–4.シマレイシダマシのサイズ頻度分布

であった.

 シマレイシダマシのサイズ頻度分布グラフを Fig. 5 に,殻長平均値の推移を Fig. 7 に示した.

1–3.ウネレイシダマシのサイズ頻度分布

サイズピークは山型の月が多く,一年を通して

 ウネレイシダマシのサイズ頻度分布グラフを

15 mm 前後のサイズピークになった.10 mm 以

Fig. 4 に,殻長平均値の推移を Fig. 7 に示した.

下の小型の個体が 3–4 月に出現した.一年を通し

一年を通して単一のサイズピークをもつ月が多く

て最小の個体は 4 月に出現した 7.5 mm の個体で

みられた.サイズピークは一年を通して 16 mm

あった.それ以下の個体は調査期間中一度も採取

前後となった.8.0 mm から 10 mm のやや小さい

されなかった.20 mm 以上の個体は一年を通し

個体が 3 月と 9 月にみられた.一年を通して最小

て 少 な く, 最 大 の 個 体 は 12 月 に 出 現 し た 21.2

の個体は 3 月に出現した 8.1 mm の個体であった.

mm の個体であった.殻長平均値は一年を通して

殻長 1.0 mm から 8.0 mm の個体は調査期間中一

15 mm 前後となった.殻長平均値が最も大きく

度も採取されなかった.殻長 20 mm 以上の個体

なるのは 2 月の 17.7 mm であり,最も小さくな

は調査期間中毎月採取された.一年を通して最大

るのは 8 月の 14.5 mm であった.1–2 月に増加傾

の個体は 11 月に採取された 22.8 mm の個体であっ

向が,2–3 月に減少傾向がみられた.それ以外の

た.殻長平均値は一年を通して 16 mm 前後であっ

月では大きな変化はなかった.

た.殻長平均値が最も大きくなるのは 11 月の

172


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 4.ウネレイシダマシの殻高の月別サイズ頻度分布.

Fig. 6.カヤノミカニモリの殻高の月別サイズ頻度分布.

Fig. 5.シマレイシダマシの殻高の月別サイズ頻度分布.

Fig. 7.観察した 5 種の月別の殻高平均値の変化

1–5.カヤノミカニモリのサイズ頻度分布  カヤノミカニモリのサイズ頻度分布グラフを

であった.10 mm 以下の小型の個体は 9 月に出

Fig. 6 に,殻長平均値の推移を Fig. 7 に示した.

現した.一年を通して最小の個体は 9 月に出現し

サイズピークは一年を通して 20 mm 前後の月が

た 8.4 mm の個体であった.20 mm 以上の個体は

多かった.最大のサイズピークは 1 月の 22 mm

一年を通して安定して出現し,最大の個体は 12

173


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

月に現れた 24.6 mm の個体であった.殻長平均 値は一年を通して 19 mm 前後であった.殻長平 均値が最も大きくなるのは 8 月の 20.2 mm であり, 最 も 小 さ く な る の は 9 月 の 17.7 mm で あ っ た. 1–3 月,5–6 月,8–9 月 に 減 少 傾 向 が み ら れ た. 3–5 月,6–8 月,9–12 月に増加傾向がみられた. 2.ベルト調査 2–1.肉食性巻貝類の垂直分布  ベルト調査において採取された肉食性巻貝類の 個体数と潮位を Figs. 8–12 に示した.ほとんどの イボニシが大きな岩礁に付着し生息しており,ベ ルト調査を行った直線上に生息していなかった. そのためイボニシはベルト調査においては採取し ていない.

Fig. 8.ベルト調査におけるシマレイシダマシの場所別個体 数の頻度分布.

 3 月ベルト調査 シマレイシダマシは潮間帯中 部では個体数は少なくなり,上部と下部に生息し

cm の範囲で最も個体数が多くなった.また中部,

ていた.大潮時満潮線から 15 m 50 cm – 16 m の

下部では個体数は採取されなかった.シマベッコ

範囲で最も個体数が多くなった.ウネレイシダマ

ウバイは広範囲に分布していた.15 m – 15 m 50

シは大潮時干潮線に向かって個体数が増加した.

cm,15 m 50 cm – 16 m の範囲で個体数が最も多

上部,中部ではほとんど出現しなかった.大潮時

くなった.3 月の調査より海側の個体数が増加し

満潮線から 18 m – 18 m 50 cm の範囲で最も個体

た.

数が多くなった.カヤノミカニモリは上部から中

 11 月ベルト調査 シマレイシダマシは広範囲

部にかけて生息し,大潮時満潮線から 7 m – 7m

に分布したが,3 月,7 月の調査より陸側の大潮

50 cm の範囲で最も個体数が多くなった.シマ

時満潮線付近の個体数が多くなった.4 m 50 cm –

ベッコウバイは下部から中部にかけて個体数が多

5 m の範囲で個体数が最も多くなった.ウネレイ

くなり,中部から上部にかけて個体数は少なく

シダマシは 3 月,7 月の調査と同様に大潮時干潮

なった.大潮時満潮線から 14 m – 14 m 50 cm の

線に向かって個体数は増加した.3 月,7 月の調

範囲で最も個体数が多くなった.また,大潮時満

査より上部,中部の個体が多く出現した.18 m

潮線より上部では肉食性巻貝類は採取されなかっ

50 cm – 19 m の範囲で個体数が最も多くなった.

た.

カヤノミカニモリは採取した個体数は少なかった

 7 月ベルト調査 シマレイシダマシは広範囲に

が,3 月,7 月の調査同様,上部に生息していた.

垂直分布していた.大潮時干潮線付近の個体数が

6 m 50 cm – 7 m の範囲で最も個体数が多くなっ

多くなり,最も多かったのは 19 m – 19 m 50 cm

た.シマベッコウバイは広範囲に分布し,中部の

の範囲であった.ウネレイシダマシは 3 月の調査

個体数が多くなった.13 m 50 cm – 14 m の範囲で

と同じように,上部,中部では個体数は採取でき

最も個体数が多くなった.

ず,下部に多く生息していた.大潮時満潮線から 19 m 50 cm – 20 m の範囲で最も個体数が多くなっ

2–2.ベルト調査における肉食性巻貝類のサイズ

た.カヤノミカニモリは,ベルト調査を行った場

 ベルト調査における肉食性巻貝類のサイズと潮

所がカヤノミカニモリの群生している場所と重な

位の散布図を Figs. 13–15 に示した.

り,採取した個体数が多くなった.4 m – 4 m 50

 3 月ベルト調査 シマレイシダマシは 15 mm 以

174


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 9.ベルト調査におけるウネレイシダマシの場所別個体 数の頻度分布.

Fig. 11.ベルト調査におけるシマベッコウバイの場所別個 体数の頻度分布.

Fig. 10.N ベルト調査におけるカヤノミカニモリの場所別 個体数の頻度分布.

Fig. 12.N ベルト調査における 4 種(シマレイシダマシ・ ウネレイシダマシ・カヤノミカニモリ・シマベッコウバイ) の場所別個体数の頻度分布.

下の個体が満潮線から 0–5 m の陸側より 15–20m

コウバイは 15 mm 以上の個体は広範囲で採取さ

の海側に多くみられた.またこの海側で 10 mm

れたが,15 mm 以下の個体は 10 m 付近から 17 m

以下の個体も採取された.ウネレイシダマシは

付近の範囲に限られて採取された.

15–20 m の範囲にのみ 15 mm 以下の小さい個体

 7 月ベルト調査 シマレイシダマシは 10–20 m

が出現した.カヤノミカニモリは 20 mm 前後の

の範囲で 15 mm 以下の個体が出現した.ウネレ

個体が 5–10m の範囲で採取され,15 mm 以下の

イシダマシは海側に向かうほど小型の個体が多く

個体が 7–13m 付近の範囲で採取された.シマベッ

出現した.カヤノミカニモリは群生場所であった

175


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 13.3 月ベルト調査における貝類のサイズ.

RESEARCH ARTICLES

Fig. 15.11 月ベルト調査における貝類のサイズ.

特徴はなかった.ウネレイシダマシは海側に向か うほど小型のサイズが出現した.反対に 20 mm 以上の個体は陸側の 5–10 m の範囲の方が多かっ た.カヤノミカニモリに関しては,とくに大きな 特徴はなかった.シマベッコウバイは 10 m 付近 から海側に向けて 15 mm 以下の個体が多く採取 された.また,15–20 m の範囲では 20 mm 以上 の個体は少なかった. 3.種間関係調査  ベルト調査における各種間の ω 指数を Fig. 16 に示した.  ウネレイシダマシ ― カヤノミカニモリの種間 関係 ウネレイシダマシとカヤノミカニモリの ω Fig. 14.7 月ベルト調査における貝類のサイズ.

指数は,3 月,7 月は –1 にほぼ近い値であった. 11 月は –0.5 から 0 の値でやや高くなった.  ウネレイシダマシ ― シマベッコウバイの種間

5 m 付近に 15 mm 以下の個体が出現した.シマ

関係 ウネレイシダマシとシマベッコウバイの ω

ベッコウバイは潮間帯中部の下方から下部の上方

指数は,3 月と 11 月は 0 に近い値となり,7 月は

付近で 15 mm 以下の個体数が多く出現した.

0 から –0.5 に近い値となった.

 11 月ベルト調査 シマレイシダマシは 13–17

 ウネレイシダマシ ― シマレイシダマシの種間

mm ほどの個体が広範囲で採取され,特に大きな

関係 ウネレイシダマシとシマレイシダマシの ω

176


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 16.各種間のω指数.

指数は,3 月は 0 に近い値となり,7 月は指数が 高くなり 0.5 から 1 の間で値を示した.11 月は低 くなり,0 から 0.5 の値となった.  カヤノミカニモリ ― シマベッコウバイの種間 関係 カヤノミカニモリとシマベッコウバイの種 間関係は,3 月に –0.5 に近い値,7 月は –0.5 から 0 の間,11 月は 0 に近い値となった.月を重ねる ごとに値が高くなった.  カヤノミカニモリ ― シマレイシダマシの種間 関係 カヤノミカニモリとシマレイシダマシの種 間関係は,3 月は –0.5 に近い値,7 月,11 月は 0 に近い値となった.  シマベッコウバイ ― シマレイシダマシの種間 関係 シマベッコウバイとシマレイシダマシの種 間関係は,3 月と 11 月は 0 から 0.5 に近い値とな り,7 月に 0 から –0.5 の値になった.

 考察 シマベッコウバイの生活史 シマベッコウバイのサイズ頻度分布において, 殻長 9 mm 以下の個体が 2–3 月,10–11 月に採取 されている.鎌田(2000, 2002),當山(2008)の 報告によると 4 月に 10 mm 以下の小型の個体が 採取されている.これらのことからシマベッコウ バイは夏から冬にかけて安定的に新規個体加入が 行われていると考えられる.またサイズピークは 20 mm 前後の月が多かったが,2 月は 14 mm,3 月は 16 mm となった.シマベッコウバイは生後 1 年で 13 mm に成長することから(Ota & Tokeshi, 2002),これらのサイズピークの個体群は前年の 冬に新規加入した個体群であると考えられる. またベルト調査においてシマベッコウバイは, 潮間帯全域に生息するが,大潮時干潮線のやや上

177


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

方部から潮間帯中部にかけて多数の個体数が生息

が減少することがわかった.ウネレイシダマシは

していることがわかった.これらは鎌田(2000,

20 mm 付近で成長が止まり,死亡する可能性が

2002),Takada & Kikuchi (1991) の報告と一致する.

考えられる.よって本種は寿命が一年の可能性が

この範囲に主に生息する要因として下部は肉食性

ある.

巻貝類が多く生息するため,餌を獲得するために やや上方に生息しているかもしれない. ベルト調査におけるサイズ構成は,どの月も

またベルト調査においてウネレイシダマシは, 大潮時干潮線付近に主に生息することがわかっ た.満潮線に向かうにつれ個体数は減少するが,

潮間帯中部において 15 mm 以下の個体が多いこ

7 月の調査を除き,数個体は中部から上部に生息

とが特徴としてみられた.15 mm 以上の個体は

していた.垂直分布におけるサイズ構成は下部よ

潮間帯全域に一定に分布していた.過去に天草・

り中部,上部のサイズが大きい傾向があった.こ

曲崎における腹足類の分布状況の報告例(Takada

のことから成長した一部のウネレイシダマシは上

& Kikuchi, 1990, 1991)おいて,シマベッコウバ

方に移動している可能性が考えられる.考えられ

イは小型個体の加入と産卵を潮間帯中部で行い,

る要因として,餌の獲得のため,繁殖行動のため

成長に伴い分布域が,高・低潮位に,特に低潮域

の移動などがあげられる.特定はできないため

広がると報告されている.本研究では殻長 5 mm

データを更に集め,検討する余地がある.

以下の稚貝をみつけることができなかったが,過 去に袴腰海岸の潮間帯下部において稚貝が多く採 取 さ れ た こ と が 報 告 さ れ て い る( 鎌 田,2000,

シマレイシダマシの生活史 シマレイシダマシのサイズ頻度分布において,

2002).これらのことから,今回の調査地におけ

3–4 月に 10 mm 以下の個体が出現したが,サイ

るシマベッコウバイは下部で産卵し,上方に,特

ズ頻度分布から繁殖期を読み取ることはできな

に潮間帯中部に移動することが考えられる.

かった.またベルト調査においてシマレイシダマ シは,7 月は潮間帯の下部に多く生息していたが,

イボニシの生活史

11 月は潮間帯の上部に多く生息していた.3 月は

イボニシはサイズ頻度分布において 6–12 月に

下部,上部ともに生息していた.7 月は特に大潮

かけてサイズピークが増加傾向にあった.加えて,

時干潮線付近に多く生息しており,この個体群の

2 月に今回の調査の中では最小の 10 mm 台の個

サイズをみると小型の個体は少ないが,13–20

体が出現した.6 月にみられた 12–14 mm の個体

mm の個体が多かった.これはシマレイシガイの

群はこれらが成長したものと考えられる.これら

成貝が産卵のため,7 月に海側に移動しているこ

のことからイボニシは秋から冬にかけて新規加入

とが考えられる.また 11 月に大潮時満潮線付近

が行われている可能性が考えられる.しかし今回

に個体数が増えたことから,冬は陸側に移動して

の調査データでは不足している月,また個体数が

いることが考えられる.上部の方では小型の個体

全体として少なかったため,データを増やし再度

があまり採取されなかったことから,上部で繁殖

検討しなければならない.

活動を行っていることは考えにくい.上部に個体 が移動する要因については,餌の獲得のための移

ウネレイシダマシの生活史

動などが考えられるが,特定はできなかった.

ウネレイシダマシのサイズ頻度分布において, 3 月,6 月,9 月に 10 mm 前後の小型の個体が出 現した.これらのことからウネレイシダマシは一

カヤノミカニモリの生活史 カヤノミカニモリのサイズ頻度分布において,

年に複数回,または一年中繁殖活動を行っている

サイズピークはほぼ一定であることから,本種の

可能性が考えられる.また 20 mm 以上の個体が

寿命は少なくとも 1 年以上であることがわかる.

多く出現した月の翌月は,20 mm 以上の個体数

また,6–8 月にかけて小型の個体がみられなかっ

178


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

たことと,サイズピークが増大していることから,

分布様式も変化していた.よって各種間の種間関

この時期に繁殖を行っている可能性が考えられ

係は個体の季節移動が大きな影響を及ぼしている

る.過去の卒業論文(吉元,2011)の結果におい

と考えられる.また袴腰海岸における各種の移動

ても,11 月から小型の個体がみられていたこと

は頻繁に行われていることも示された.

から,この時期が繁殖時期であると推測できる. ベルト調査においてカヤノミカニモリは,主

調査地における肉食性巻貝類の棲み分け

に潮間帯上部に生息していることがわかった.3

肉食性巻貝類は調査地の潮間帯において,棲

月の調査では海側に近づくほど,サイズが小さく

み分けを行っている可能性が考えられる.ベルト

なる傾向がみられた.吉田(2008)の報告による

調査の結果から各種の個体数密度が高い場所は,

と,夏に陸側の密度が高く,冬に海側の密度が高

他の種と重なることが少なく,潮間帯において分

くなり,本種が繁殖のために移動している可能性

布が分けられている.分布を決定する要因として,

が報告されている.今回の調査では冬の海側にお

乾燥耐性,捕食や被食の関係性,繁殖期の違い,

ける個体群は確認できなかったが,3 月の傾向を

微生息場所などの環境要因,その他の物理的要因

みる限りでは,吉田の報告したカヤノミカニモリ

などがある.

の季節移動は実際に行われている可能性が高い.

乾燥耐性については今回の調査では行ってい

今回の調査では 12 月から 2 月間のベルト調査を

ないが,過去の研究で同調査地における肉食性巻

行えていないため,その期間に海側に移動してい

貝の乾燥耐性実験を行った論文がある(鎌田,

るかもしれない.

2000).鎌田の論文によると個体の乾燥耐性が分 布の上限を制限する,という結果がみられた.特

種間関係調査

に小型の個体は乾燥耐性が小さく,分布の上限が

ウネレイシダマシとカヤノミカニモリの種間

低くなるという報告は今回の結果にもあてはま

関係は,二種間で排他的な分布を示す結果となっ

り,乾燥耐性は分布様式を決定する一要因となっ

た.11 月に ω 指数が高くなったのは二種の季節

ている.

移動によるものである.ウネレイシダマシとシマ

繁殖期に関しては今回の調査では,しっかり

ベッコウバイの種間関係は,二種間で独立的な分

とした時期を各種で確認はできなかった.更に精

布傾向がみられた.ウネレイシダマシとシマレイ

密な繁殖時期を推定するためには生殖腺の観察を

シダマシの種間関係は,主に独立的な分布だが,

しなければならない.繁殖期の違いについては,

7 月に同所的な傾向を示した.これは二種の繁殖,

今回の調査においては種同士で繁殖期が重ならな

または別の要因による季節移動のためである.カ

いようにしている結果はみられなかった.繁殖期

ヤノミカニモリとシマベッコウバイの種間関係

の違いは分布様式決定にはあまり影響を与えてい

は,排他的分布と独立的分布の中間を示した.月

ないかもしれないが,稚貝の定着場所は重要な要

ごとに値が増加する傾向もみられた.これはカヤ

因となる可能性がある.Vermeij (1972) の報告に

ノミカニモリの海側への移動とシマベッコウバイ

よると,岩礁性潮間帯における腹足目では,潮間

の陸側への移動によるものと考えられる.カヤノ

帯上部で特徴的な種は潮間帯上部ほど殻のサイズ

ミカニモリとシマレイシダマシの種間関係は,排

が増大し,潮間帯下部で特徴的な種では潮間帯上

他的分布または独立的分布を示した.11 月に値

部ほど殻のサイズが小さくなるというサイズ勾配

が高くなったのは,シマレイシダマシの成貝が上

を述べた.このサイズ勾配は種が稚貝の死亡率を

方へ移動したことが要因であると考えられる.シ

低くなるような定着場所を選ぶためである.この

マベッコウバイとシマレイシダマシの種間関係

仮説は移動可能な種ではあまりあてはまらない傾

は,独立的な分布傾向がみられた.各種間におい

向がある.今回の調査では 11 月のウネレイシダ

て,月毎に ω 指数の変化は大きく,それにより

マシでやや Vermeij (1972) の仮説の傾向がみられ

179


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

たが,全体としては当てはまらなかった.しかし 今回の調査では移動可能な種においても,稚貝の 定着をするために移動を行っている可能性はあ る.よって稚貝の定着場所も分布様式決定に影響 を与える要因であり,今後更に精密に特定する必 要がある. 捕食や被食の関係性に関しては,今回調査は できなかった.今回の研究対象は全て腐肉食性で あるが,種によって好む餌は異なり,それらが分 布に影響を与えているのかもしれない.イボニシ の二型を研究した阿部(1994)によると,イボニ シは二型間でも餌選択がことなり,成長により餌 選択を変える型もいることが報告されている.今 回の研究対象の腐肉食性貝類も餌選択が種で異な るかもしれないため,明らかにするために今後食 物の違いを調べる必要がある. 微生息場所に関しては,種によって違いがあ るかは今回分からなかった.カヤノミカニモリは 顕著に群生して生息しており,イボニシは大きな 岩礁に付着し生息していた.これらのことから種 によって好ましい生息場所が存在し,それが潮間 帯の分布になっている可能性も考えられる. 棲み分けという点で考えると,単に分布が分 かれただけで,調査地では棲み分けが行われてい ないことも考えられる.しかし同じ肉食性である 以上,競争は避けることができないため,棲み分 けを行っている可能性が高い.今後,今回調査で きなかった要因を研究し,様々な要因から検討し た上で調査地における棲み分けを明らかにしてい く必要がある.  謝辞 本研究を行うにあたり,調査を手伝っていた だいた若林佑樹氏をはじめとする冨山研究室,鈴 木研究室,地球環境科学科の皆様に深くお礼申し 上げます.

180

RESEARCH ARTICLES

 引用文献 Abe, N. 1994. Growth and prey preference of the two forms in Thais clavigera (kuster) under rearing. Venus, 53: 113–118. Abdul-Salam, J. & Sreelatha, B. S., 1996. Studies on Cercariae from Kuwait Bay VII. Description surface topography of a new Cercariae Kuwaitae VII (Opisthorchioidea: Heterophyidae). Zoological Science, 13 (1):167–174. 鎌田育江,2000.火山性溶岩の転石海岸における肉食性貝 類の 3 種の生活史と分布について.1999 年度鹿児島大 学地球環境科学科.卒業論文. 鎌田育江,2002.火山溶岩の転石海岸における肉食性貝類 3 種の生活史.2002 年度鹿児島大学理工学研究科地球環 境科学専攻.修士論文. 川野勇気,2009.桜島袴腰海岸におけるシマベッコウバイ Japeuthria cingulate (Reeve,1847) の生活史.2008 年度鹿 児島大学地球環境科学科.卒業論文. 野中佐紀,2000.火山性溶岩の転石海岸における草食性貝 類 4 種の生活史と分布について.1999 年度鹿児島大学 地球環境科学科.卒業論文. Takada, Y. & Kikuchi, T. 1990. Mobile molluscan communities in boulder shores and the comparison with other intertidal habitats in Amakusa. Publications from the Amakusa Marine Biological Laboratory, Kyushu University, 10: 145–168. Takada, Y. & Kikuchi, T. 1991. Seasonal and vertical variation of the boulder shores fauna in Amakusa. Publications from the Amakusa Marine Biological Laboratory, Kyushu University, 11: 1–17. Hayashi, Y. 1999. Genetic differentiation between the two forms of Thais clavigera (Kuster, 1858) (Mollusca, Gastropoda) in Tanabe Bay, central Japan. Zoological Science, 16(1): 81–86. 當山真澄,2008.溶岩転石海岸におけるシマベッコウバイ の生態学的研究.2007 年度鹿児島大学地球環境科学科. 卒業論文. Vermeij, G. J. 1972. Intraspecific shore-level size gradients in intertidal molluscs. Ecology, 53: 639–700. 柳生良太,2013.桜島袴腰海岸におけるシマベッコウバイ Japeuthria cingulata の内部成長線の観察.2012 年度鹿児 島大学地球環境科学科.卒業論文. 吉田稔一,2008.火山溶岩の転石海岸におけるカヤノミカ ニモリの生活について.2007 年度鹿児島大学地球環境 科学科.卒業論文. 吉元 健,2012.桜島袴腰海岸におけるカヤノミカニモリ の生活史について.2011 年度鹿児島大学地球環境科学 科.卒業論文.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島県南薩地域の海産固着性貝類・付着性貝類の分布 大島浩明・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科

要旨 鹿児島県の南薩地域は九州の南西端にあた

ズ科,ヨメガカサ科のように 6 地点全てで確認出

り,その海岸線の多くは岩礁帯から成り立ってい

来た科もあれば,1 つの地点のみでしか確認でき

る.そのため多くの種類の海産固着性貝類・付着

ない科もいくつかみられた.

性貝類が生息することが予想されるが,その分布

 この調査結果を基に Simpson の多様度指数を用

についての詳しい研究はほとんど行われていな

いて各調査地の海産固着性貝類・付着性貝類の多

い.特に笠沙から坊津にかけては急峻な山並みが

様度を求めた.その結果,笠沙町で最も高く(最

沈水して出来たリアス式海岸が形成されており,

も複雑な群集),山川町で最も低い値(最も単純

調査の手が入りにくい地形となっている.そこで

な群集)となった.笠沙町の多様度指数が高い理

本研究では笠沙町,坊津町,枕崎市,知覧町,頴

由としては,一つ目に笠沙町の調査地がリアス式

娃町,山川町という 6 つの地点を定め,南薩地域

海岸を形成しているため人のアプローチが少なく

の海産固着性貝類・付着性貝類の分布調査を行っ

海岸生態系の撹乱があまりないこと,二つ目に笠

た.

沙町が黒潮海流の影響を強く受ける場所であるこ

 調査は,笠沙町,坊津町,枕崎市,知覧町,頴

とが考えられる.山川町の多様度指数が低い理由

娃町,山川町の 6 つの地点の海産固着性貝類・付

としては,調査地が長崎鼻付近ということで,観

着性貝類を,2013 年 1 月から 7 月の間,月に 1 回,

光客が多く,貝類の採取等によって海岸の自然が

大潮の日の干潮前後に調査地に行き,約 2 時間見

乱されていることが考えられる.さらに地点間の

つけ捕り採集を行った.採集する数は同定に必要

群集の類似度を野村・シンプソン指数を用いて求

と考えられる必要最小限の数とした.採集したサ

め,類似デンドログラムを作成した.その結果,

ンプルは茹でて肉抜きした後,水道水で洗い,乾

類似度は知覧 ― 頴娃間が最も高かった.これは

燥機で一週間程乾燥させ,同定を行った.

知覧と頴娃の調査地が,阿多溶結凝灰岩が侵食さ

 調査の結果,笠沙町では 9 科 12 種,坊津町で

れ出来た岩礁帯という共通の地形的特長をもって

は 11 科 16 種,枕崎市では 10 科 14 種,知覧町で

いることが大きな理由だと考えられる.次に類似

は 14 科 22 種,頴娃町では 10 科 13 種,山川町で

度が高かった笠沙 ― 坊津間もリアス式海岸中の

は 15 科 23 種を確認した.6 地点の合計としては

岩礁と転石が混じりあった似た地形同士だったこ

22 科 48 種を確認した.アッキガイ科やニシキウ

とから,群集の類似度には海岸地形が大きく関係

    Oshima, H. and K. Tomiyama. 2014. The Molluscan fauna of the property to attach to a rock in the southern part of Satsuma Peninsula, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 40: 181–188. KT: Department of Earth and Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@ sci.kagoshima-u.ac.jp).

していることが考察される.  はじめに  鹿児島県の南薩地域は九州の南西端にあたり, その海岸線の多くは岩礁帯から成り立っている. そのため多くの種類の海産固着性貝類・付着性貝 類が生息することが予想されるが,その分布につ

181


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 1 に示した.以下,各調査地,調査実施日を記 載する.各地点番号(1–6)は図 1 の地点番号に 対応している. 1 南さつま市笠沙町片浦 (2013 年 1 月 30 日) 2 南さつま市坊津町坊  (2013 年 2 月 27 日) 3 枕崎市火の神岬町   (2013 年 3 月 30 日) 4 南九州市知覧町南別府 (2013 年 4 月 27 日) 5 南九州市頴娃町別府  (2013 年 5 月 26 日) 6 指宿市山川町岡児ケ水 (2013 年 7 月 24 日) 図 1.採集地(1.笠沙町,2.坊津町,3.枕崎市,4.知覧町, 5.頴娃町,6.山川町).

※笠沙町・坊津町は岩礁交じりの転石帯,枕崎市 は転石帯,知覧町・頴娃町・山川町は岩礁帯で採 集を行った(図 2 参照).

いての詳しい研究はほとんど行われていない.特

調査方法

に笠沙から坊津にかけては急峻な山並みが沈水し

調査は,笠沙町,坊津町,枕崎市,知覧町,頴

て出来たリアス式海岸が形成されており(坊津町

娃町,山川町 6 つの地点の潮間帯の海産固着性貝

郷土誌,1969;笠沙町郷土誌,1986),調査の手

類・ 付 着 性 貝 類 を,2013 年 1 月 か ら 7 月 の 間,

が入りにくい地形となっている.そこで本研究で

月に 1 回,大潮の日の干潮前後に約 2 時間見つけ

は,地形(福岡人文社,1995;鹿児島県立博物館,

捕り採集を行った(6 月は梅雨の影響で採集に行

1995;黒田,2006)を参考にして,笠沙町,坊津

くことが出来なかった).採集する数は同定に必

町,枕崎市,知覧町,頴娃町,山川町という 6 つ

要と考えられる必要最小限の数とした.採集した

の地点を定め,南薩地域の潮間帯における海産固

サンプルは茹でて肉抜きした後,水道水で洗い,

着性貝類・付着性貝類の分布調査を行った.貝類

乾燥機で一週間程乾燥させ,同定を行った(伊藤,

(軟体動物)の生息型には,岩等への固着・付着 性の他に,藻類付着性,浮遊性,遊泳性,基質穿 孔性,砂泥中潜伏性,寄生性,等々の多種多様な 生活型が存在する.今回の調査では,調査時間も 限られたことから,見落としの少ない固着性・付

1983; 吉 良,1954; 奥 谷,2000; 行 田,2000, 2003).  結果 調査の結果,笠沙町では 9 科 12 種を確認し,

着性の生活型をとる貝類の調査にしぼった.

ヨメガカサガイ科が 3 種と最も多かった.坊津町

 また,採集結果を基に Simpson の多様度指数

では 11 科 16 種を確認し,アッキガイ科,イガイ

(Simpson, 1949)を用いて各調査地の海産固着性

科,イタボガキ科,エゾバイ科,ヨメガカサガイ

貝類・付着性貝類の多様度を求め,比較を行った.

科が各 2 種ずつで最も多かった.枕崎市では 10

さらに地点間の群集の類似度を野村・シンプソン

科 14 種を確認し,アッキガイ科,サザエ科,ニ

指数(野村,1939, 1940)を用いて求め,比較した.

シキウズ科,ヨメガカサガイ科が各 2 種ずつで最

 調査地・調査日・調査方法 調査地・調査日

も多かった.知覧町では 14 科 22 種を確認し,アッ キガイが 5 種で最も多く,ついでニシキウズ科, ヨメガカサガイ科が各 3 種ずつで多かった.頴娃

調査地は鹿児島県の南薩地域の海岸で,笠沙

町では 10 科 13 種を確認し,ヨメガカサガイ科が

から山川にかけて計 6 地点で調査を行った.正確

3 種と最も多かった.山川町では 15 科 23 種を確

な位置を知るため,全ての調査地で GPS 受信機

認し,アッキガイ科とニシキウズ科が各 4 種ずつ

を使って緯度・経度を求めた.調査地の位置は,

で最も多かった.

182


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 2.採集地.1:笠沙町,2:坊津町,3:枕崎市,4:知覧町,5:頴娃町,6:山川町.

全体としては科数,種数ともに山川町(15 科

カサは 6 地点,全ての調査地で確認できた.

23 種)が最も多く,ついで知覧(14 科 22 種)が

種としてはアッキガイ科に属するものが 9 種

多いという結果になった.最も科数,種数が少な

と最も多く,ついでニシキウズ科の 6 種が多いと

いのは笠沙町の 9 科 12 種だった.6 地点の合計

いう結果になった.クマノコガイは笠沙町と坊津

としては 22 科 48 種を確認した.ヨメガカサガイ

町では数多くみられたが,他の調査地では全くみ

科に属するベッコウガサ,マツバガイ,ヨメガカ

られなかった.

サはほとんどの調査地で確認できた.特にヨメガ

多様度を求める多様度指数の値(表 1)は,高

表 1.各地点の多様度指数. 科 アッキガイ科 アマオブネ科 イガイ科 イタボガキ科 イモガイ科 ウグイスガイ科 ウミギク科 エゾバイ科 オキニシ科 クサズリガイ科 ゴマフニナ科 サザエ科 タカラガイ科 タマガイ科 トマヤガイ科 ニシキウズ科 ハボウキ科 フジツガイ科 フネガイ科 ミミガイ科 ユキノカサガイ科 ヨメガカサガイ科 N(総種数) S(総科数) A(多様度指数)

笠沙 2 1 1 1       1       1       1         1 3

坊津 2 1 2 2   1   2   1     1 1   1           2

枕崎 2     1 1   1     1   2 1     2       1   2

知覧 5 1 1 1 1 1   1   1           3 1   1 1 1 3

頴娃 2 1 1 1 1         1 1         1     1     3

山川 4 1 1   1 1   2 1 1   1 1   1 4   1 1     2

12

16

14

22

13

23

9

11

10

14

10

15

0.1389

0.1016

0.1122

0.1116

0.1243

0.0964

183


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

い順に笠沙町(0.1389),頴娃町(0.1243),枕崎 市(0.1122),知覧町(0.1116),坊津町(01016), 山川町(0.0964)となり,笠沙町の調査地が最も 複雑な群集,山川町の調査地が最も単純な群集と いう結果になった.群集の類似度を求める野村・ シンプソン指数の値(表 2)は知覧 ― 頴娃間で 最も高く(0.846),ついで笠沙 ― 坊津間で高かっ

図 3.6 つの調査地の固着性貝類・付着性貝類の類似性を示 したデンドログラム.

た(0.667).類似デンドログラムは付表の図 3 に 示す.以下に種別出現状況と地点別出現状況を示

3.マツバガイ Cellana nigrolineata (Reeve, 1854)

す.

 採集地:笠沙町,坊津町,知覧町,頴娃町,山 川町(計 5 ヵ所)

種別出現状況

4.ベッコウガサ Cellana grata (Gould, 1859)

多板綱 POLYPLACOPHORA

 採集地:笠沙町,枕崎市,知覧町,頴娃町(計

新ヒザラガイ目 Neoloricata

4 ヵ所)

クサズリガイ科 Chitonidae

ユキノカサガイ科 Lottiidae

1. ヒ ザ ラ ガ イ Acanthopleura japonica (Lischke,

5.ウノアシ Patelloida saccharina (Reeve,1855)

1873)

 採集地:知覧町(計 1 ヵ所)

採集地:坊津町,枕崎市,知覧町,頴娃町,山

6.ホソスジアオガイ Nipponacmea teramachii (Kira, 1961)

川町(計 5 ヵ所).

 採集地:笠沙町(計 1 ヵ所)

腹足綱 GASTROPODA

古腹足目 Vetigastropoda

前鰓亜綱 PROSOBRANCHIA

オキナエビスガイ上科 Pleurotomarioidea

カサガイ目 Patellogastropoda

ミミガイ科 Haliotidae

ヨメガカサガイ亜目 Nacellina

7.トコブシ Sulculus diversicolor supertexta (Lischke, 1870)

ヨメガカサガイ上科 Nacelloidea

 採集地:枕崎市,知覧町(計 2 ヵ所)

ヨメガカサガイ科 Nacellidae

ニシキウズガイ上科 Trochoidea

2.ヨメガカサ Cellana toreuma (Reeve, 1854)

ニシキウズ科 Trochidae

 採集地:笠沙町,坊津町,枕崎市,知覧町,頴

8.イシダタミ Monodonta labio confusa Tapprone-Canefri, 1874

娃町,山川町(計 6 ヵ所)

 採集地:知覧町,頴娃町,山川町(計 3 ヵ所) 9.ギンタカハマ Tectus pyramis (Born, 1778)  採集地:山川町(計 1 ヵ所) 10.クマノコガイ Chlorostoma xanthostigma A.Adams, 1853

表 2.各調査地点間の NSC(野村・シンプソン指数).

 採集地:笠沙町,坊津町(計 2 ヵ所)

B

坊津

0.667

C

枕崎

0.333

0.214

D

知覧

0.583

0.563

0.5

E

頴娃

0.5

0.538

0.308

0.846

F

山川

0.417

0.375

0.462

0.545

0.538

笠沙

坊津

枕崎

知覧

頴娃

A

B

C

D

E

184

11.コシダカガンガラ Omphalius rusticus (Gmelin, 1791)  採集地:枕崎市,山川町(計 2 ヵ所) 12.ニシキウズ Trochus maculates Linnaeus, 1758  採集地:枕崎市,知覧町,山川町(計 3 ヵ所) 13.メクラガイ Diloma suavis (Philippi, 1849)  採集地:知覧町(計 1 ヵ所) サザエ科 Turbinidae 14.ウラウズガイ Astralium haematragum (Menke, 1829)


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

 採集地:枕崎市,山川町(計 2 ヵ所)

25.ウニレイシ Mancinella echinata (Blainville. 1832)

15.カタベガイ Angaria neglecta Poppe & Goto, 1993

 採集地:枕崎市(計 1 ヵ所)

 採集地:笠沙町,枕崎市(計 2 ヵ所)

26.ウネレイシダマシ Cronia margariticola (Broderip, 1833)  採集地:山川町(計 1 ヵ所)

アマオブネガイ目 Neritimorpha

27.シマレイシダマシ Morula musiva (Kiener, 1834)

アマオブネガイ上科 Neritoidea

 採集地:笠沙町,知覧町,山川町(計 1 ヵ所)

アマオブネ科 Neritidae

28.ガンセキボラ Chicoreus brunneus (Link, 1807)

16.アマオブネ Nerita albicilla Linnaeus, 1758

 採集地:知覧町,頴娃町,山川町(計 3 ヵ所)

 採集地:笠沙町,坊津町,知覧町,頴娃町,山

29.テツボラ Purpura panama (Roeding, 1798)

川町(計 5 ヵ所)

 採集地:知覧町(計 1 ヵ所) 30.テツレイシ Thais savignyi (Deshayes, 1844)

盤足目 Discopoda

 採集地:枕崎市(計 1 ヵ所)

カニモリガイ上科 Cerithioidea

31.ヒメヨウラク Ergalatax contractus (Reeve, 1846)

ゴマフニナ科 Planaxidae

 採集地:山川町(計 3 ヵ所)

17.ゴマフニナ Planaxis sulcatus (Born, 1778)

32.レイシダマシ Morula granulate (Duclos, 1832)

 採集地:頴娃町(計 1 ヵ所)

 採集地:笠沙町,坊津町,知覧町(計 3 ヵ所)

タカラガイ上科 Cypraeoidea

エゾバイ科 Buccinidae

タカラガイ科 Cypraeidae

33.イソニナ Japeuthria ferrea (Reeve, 1847)

18.ナツメモドキ Erronea errones errones (Linnaeus, 1758)

 採集地:笠沙町,坊津町(計 2 ヵ所)

 採集地:坊津町(計 1 ヵ所)

34.シマベッコウバイ Japeuthria cingulata (Reeve, 1847)

19.ハナマルユキ Erosaria caputserpentis Linnaeus, 1758

 採集地:坊津町,知覧町,山川町(計 3 ヵ所)

 採集地:枕崎市(計 1 ヵ所)

35.ノシガイ Euginopsis concinna (Linnaeus, 1758)

20.ホソヤクシマダカラ Mauritia eglantina eglantina(Duclos,1833)

 採集地:山川町(計 1 ヵ所)

 採集地:山川町(計 1 ヵ所)

イモガイ上科 Conoidea

タマガイ上科 Naticoidea

イモガイ科 Conidae

タマガイ科 Naticidae

36.アジロイモ Conus pennaceus Born, 1778

21.ネズミガイ Mammilla simiae (Deshayes, 1838)

 採集地:頴娃町(計 1 ヵ所)

 採集地:坊津町(計 1 ヵ所)

37.ハイイロミナシ Conus rattus Hawass in Bruguiere,1792

ヤツシロガイ上科 Tonnoidea

 採集地:枕崎市,知覧町,山川町(計 3 ヵ所)

オキニシ科 Family Bursidae 22.イワカワウネボラ Bursa granularis (Roeding, 1798)

二枚貝綱 BIBALVIA

 採集地:山川町(計 1 ヵ所)

翼形亜綱 PTERIOMORPHIA

フジツガイ科 Ranellidae

フネガイ目 Arcoida

23.サツマボラ Cymatium aquatile (Reeve, 1844)

フネガイ上科 Arcasea

 採集地:山川町(計 1 ヵ所)

フネガイ科 Arcidae 38.アオカリガネエガイ Barbatia obtusoides Nyst, 1848

新腹足目 Neogastropoda

 採集地:山川町(計 1 ヵ所)

アッキガイ上科 Muricoidea

39.エガイ Barbatia lima (Reeve, 1844)

アッキガイ科 Muricidae

 採集地:知覧町,頴娃町(計 2 ヵ所)

24.イボニシ Thais (Reishia) clavigera (Kuster, 1860)  採集地:坊津町,知覧町,頴娃町(計 3 ヵ所)

イガイ目 Mytiloida

185


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

イガイ上科 Mytilacea イガイ科 Mytilidae

地点別出現状況(五十音順)

40.クジャクガイ Septifer bilocularis (Linnaeus, 1758)

鹿児島県南さつま市笠沙町(31°25′41.7″N, 130°10′11.6″E)

 採集地:坊津町(計 1 ヵ所)

1.アマオブネ(アマオブネ科)

41.ムラサキインコ Septifer virgatus (Wiegmann, 1837)

2.イソニナ(エゾバイ科)

 採集地:笠沙町,坊津町,知覧町,頴娃町,山

3.オハグロガキ(イタボガキ科)

川町(計 5 ヵ所)

4.カタベガイ(サザエ科(カタベガイ科)) 5.クマノコガイ(ニシキウズ科)

ウグイスガイ目 Pterioida

6.シマレイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

ウグイスガイ上科 Pteriacea

7.ベッコウガサ(ヨメガカサガイ科)

ウグイスガイ科 Pteriidae

8.ホソスジアオガイ(ユキノカサガイ科)

42.アコヤガイ Pinctada fucata martensii (Dunker, 1873)

9.マツバガイ(ヨメガカサガイ科)

 採集地:知覧町,山川町(計 2 ヵ所)

10.ムラサキインコ(イガイ科)

43.ミドリアオリ Pinctada maculata (Gould, 1850)

11.ヨメガカサ(ヨメガカサガイ科)

 採集地:坊津町(計 1 ヵ所)

12.レイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

ハボウキガイ上科 Pinnacea ハボウキ科 Pinnidae

鹿児島県南さつま市坊津町(31°16′17.4″N, 130°13′25.3″E)

44.タイラギ Atrina pectinata (Linnaeus, 1767)

1.アマオブネ(アマオブネ科)

 採集地:知覧町(計 1 ヵ所)

2.イソニナ(エゾバイ科) 3.イボニシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

カキ目 Ostreoida

4.オハグロガキ(イタボガキ科)

イタヤガイ亜目 Pectinina

5.クジャクガイ(イガイ科)

イタヤガイ上科 Pectinacea

6.クマノコガイ(ニシキウズ科)

ウミギク科 Spondylidae

7.ケガキ(イタボガキ科)

45.チリボタン Spondylus cruentus Lischke, 1868

8.シマベッコウバイ(エゾバイ科)

 採集地:枕崎市(計 1 ヵ所)

9.ナツメモドキ(タカラガイ科)

カキ亜目 Ostreina

10.ネズミガイ(タマガイ科)

カキ上科 Ostracea

11.ヒザラガイ(クサズリガイ科・ヒザラガイ科)

イタボガキ科 Ostreidae

12.マツバガイ(ヨメガカサガイ科)

46.オハグロガキ Saccostrea mordax (Gould, 1850)

13.ミドリアオリ(ウグイスガイ科)

 採集地:笠沙町,坊津町,枕崎市,知覧町,頴

14.ムラサキインコ(イガイ科)

娃町(計 5 ヵ所)

15.ヨメガカサ(ヨメガカサガイ科)

47.ケガキ Saccostrea kegaki Torigoe & Inaba, 1981

16.レイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

 採集地:坊津町(計 1 ヵ所) 鹿児島県枕崎市(31°14′57.7″N, 130°16′59.9″E) 異歯亜綱 HETERODONTA

1.ウニレイシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

マルスダレガイ目 Veneroida

2.ウラウズガイ(サザエ科・リュウテン科)

トマヤガイ上科 Carditacea

3.オハグロガキ(イタボガキ科)

トマヤガイ科 Carditidae

4.カタベガイ(サザエ科・カタベガイ科)

48.トマヤガイ Cardita leana Dunker, 1860

5.コシダカガンガラ(ニシキウズ科)

 採集地:山川町(計 1 ヵ所)

6.チリボタン(ウミギク科)

186


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

7.テツレイシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

8.ゴマフナ(ゴマフニナ科)

8.トコブシ(ミミガイ科)

9.ヒザガイ(クサズリガイ科・ヒザラガイ科)

9.ニシキウズ(ニシキウズ科)

10.ベコウガサ(ヨメガカサガイ科)

10.ハイイロミナシ(イモガイ科)

11.ツバガイ(ヨメガカサ科)

11.ハナマルユキ(タカラガイ科)

12.ムラサキインコ(イガイ科)

12.ヒザラガイ(クサズリガイ科・ヒザラガイ科)

13.ヨメガカサ(ヨメガカサ科)

13.ベッコウガサ(ヨメガカサガイ科) 14.ヨメガカサ(ヨメガカサガイ科)

鹿児島県指宿市山川町(31°15′60.6″N, 130°58′69.6″E) 1.アオカリガネエガイ(フネガイ科)

鹿児島県南九州市知覧町(31°14′54.5″N, 130°23′54.9″E)

2.アコヤガイ(ウグイスガイ科)

1.アコヤガイ(ウグイスガイ科)

3.アマオブネ(アマオブネ科)

2.アマオブネ(アマオブネ科)

4.イシダタミ(ニシキウズ科)

3.イシダタミ(ニシキウズ科)

5.イワカワウネボラ(オキニシ科)

4.イボニシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

6.ウネレイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

5.ウノアシ(ユキノカサガイ科)

7.ウラウズガイ(サザエ科・リュウテン科)

6.エガイ(フネガイ科)

8.ガンセキボラ(アッキガイ科・アクキガイ科)

7.オハグロガキ(イタボガキ科)

9.ギンタカハマ(ニシキウズ科)

8.ガンセキボラ(アッキガイ科・アクキガイ科)

10.コシダカガンガラ(ニシキウズ科)

9.シマベッコウイ(エゾバイ科)

11.サツマボラ(フジツガイ科)

10.シマレイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

12.シマベッコウバイ(エゾバイ科)

11.タイラギ(ハボウキガイ科)

13.シマレイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

12.テツボラ(アッキガイ科・アクキガイ科)

14.トマヤガイ(トマヤガイ科)

13.トコブシ(ミミガイ科)

15.ニシキウズ(ニシキウズ科)

14.ニシキウズ(ニシキウズ科)

16.ノシガイ(エゾバイ科)

15.ハイイロミナ(イモガイ科)

17.ハイイロミナシ(イモガイ科)

16.ヒザラガイ(クサズリガイ科・ヒザラガイ科)

18.ヒザラガイ(クサズリガイ科・ヒザラガイ科)

17.ベッコウガサ(ヨメガカサガイ科)

19.ヒメヨウラク(アッキガイ科・アクキガイ科)

18.マツバガイ(ヨメガカサガイ科)

20.ホソヤクシマダカラ(タカラガイ科)

19.ムラサキインコ(イガイ科)

21.マツバガイ(ヨメガカサガイ科)

20.メクラガイ(ニシキウズ科)

22.ムラサキインコ(イガイ科)

21.ヨメガカサ(ヨメガカサガイ科)

23.ヨメガカサ(ヨメガカサガイ科)

22.レイシダマシ(アッキガイ科・アクキガイ科) 鹿児島県南九州市頴娃町(31°14′44.4″N, 130°26′36.7″E)

 考察 ヨメガカサガイ科であるヨメガカサが,6 地点

1.アジロイモ(イモガイ科)

全ての調査地で確認できたという調査結果から,

2.アマオブネ(アマオブネ科)

ヨメガカサガイ科は調査地の岩礁帯や転石帯にあ

3.イシダタミ(ニシキウズ科)

まり影響を受けることなく,幅広く分布する種で

4.イボニシ(アッキガイ科・アクキガイ科)

あることが推察される.

5.エガイ(フネガイ科)

調査地の知覧町から山川町にかけてはアッキ

6.オハグロガ(イタボガキ科)

ガイ科が隠れ家として好む岩礁帯が広がってい

7.ガンセキラ(アッキガイ科・アクキガイ科)

る.知覧町でアッキガイ科が 5 種,山川町でアッ

187


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

キガイ科が 4 種と多く確認出来たのはこの岩礁帯

出来た岩礁帯という共通の地形的特長をもってい

のためだと考えられる.このことはアッキガイ科

ることが大きな理由だと考えられる(図 2 の 1–2

のガンセキボラが転石中心だった笠沙町,坊津町,

参照).次に類似度が高かった笠沙 ― 坊津間もリ

枕崎市では確認できなかったが,岩礁帯である知

アス式海岸中の岩礁と転石が混じりあった似た地

覧町,頴娃町,山川町では確認することができた

形同士だったことから(図 2 の 4–5 参照),群集

ことからも推察される.

の類似度には海岸地形が大きく関係していること

フネガイ科のエガイやアオカリガネエガイも

が考察される.

アッキガイ科のガンセキボラと同じように知覧町 から山川町にかけての岩礁帯のみで確認されたこ とから,転石のような不安定な場所よりも安定し た岩礁に付着し,身を隠していることが調査結果 から考察できる. クマノコガイに関して,今回の調査では笠沙 町と坊津町でしか確認することが出来なったが, 郷土生態系調査会の枕崎市板敷・立神海岸におけ る調査(1994.10.16)では生息が確認されている

 謝辞 本研究を行うにあたり,適切なご助言および ご指導をいただきました鹿児島大学理学部地球環 境科学科多様性生物学講座の研究室の先輩方,4 年生のみなさんに深く感謝申し上げます.  引用文献

ので,探し方が不十分だった可能性がある.郷土

坊津町郷土誌,1969.坊津町郷土誌編さん委員会.677 pp.

生態調査会の調査結果(1994.10.16)と今回の調

福岡人文社,1995.鹿児島県広域道路地図.145 pp.

査結果から笠沙町,坊津町,枕崎市にクマノガイ

伊藤年一,1983.学研生物図鑑.貝Ⅰ 巻貝.学習研究社, 東京.294 pp.

が生息しているとすると,先述したガンセキボラ やエガイ・カリガネエガイとは逆にクマノコガイ は転石帯に多く分布するということが言える. 各調査地の多様度に関して多様度指数を用い て求めた結果,笠沙町が最も高かった.理由とし ては,一つ目に笠沙町の調査地がリアス式海岸を 形成しているために人のアプローチが少なく海岸 生態系の撹乱があまりないこと,二つ目に笠沙町 が黒潮海流の影響を強く受ける場所であることが 考えられる.山川町の多様度指数が低い理由とし ては,調査地が長崎鼻付近ということで,観光客

鹿児島県立博物館,1994.鹿児島の自然調査事業報告書Ⅰ. 南薩の自然.151 pp. 鹿児島県立博物館,1995.― 自然のつながりリサーチ事業 郷土の生態系調査会報告書(2)― 南薩の海岸.59 pp. 笠沙町郷土誌,1986.笠沙町郷土誌編さん委員会.554 pp. 吉良哲郎,1954.原色日本貝類図鑑.保育社,出版地.173 pp. 黒田茂夫,2006.知ればしるほど新発見 なるほど地図帳. 旺文社,東京.143 pp. 野村健一,1939.種ヶ島の蛾類について.吉田博士祝賀記 念誌,601–634. 野村健一,1940.昆虫相比較の方法 特に相関法の提唱に ついて.九州帝国大学農学部学芸雑誌,9: 235–263.

が多く,貝類の採取等によって海岸の自然が乱さ

奥谷喬司,2000.日本近海海産貝類図鑑.東海大学出版会, 東京.1173 pp.

れていることが考えられる.また,群集の類似度

Simpson, E. H. 1949. Measurement of diversity. Nature, 163: 688.

を野村・シンプソン指数を用いて求めた結果,類

行田義三,2000.鹿児島の貝.春苑堂出版,鹿児島.228 pp.

似度は知覧 ― 頴娃間が最も高かった.これは知 覧と頴娃の調査地が,阿多溶結凝灰岩が侵食され

188

行田義三,2003.貝の図鑑.採集と標本の作り方.南方新社, 鹿児島.174 pp.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

大隅諸島における汽水および淡水産貝類相 片野田裕亮・中島貴幸・市川志野・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専攻

要旨 大隅諸島は南西諸島北部に位置する島嶼群

島の貝類相との比較では,本調査地は鹿児島県本

である.大隅諸島の軟体動物相について,陸産貝

土の貝類相に近いと考えられる.

類に関する研究は比較的多く行われているが,汽

 生息環境と種数の関係において,最も出現種数

水および淡水産貝類の研究に関してはほとんどな

の多い生息場所は河口であり,最も出現種数の多

く,基本的な貝類相についての報告すらない状況

い水の性状は汽水であった.また,最も出現種数

である.そこで,本研究では大隅諸島と口之島,

の多い河川の改修強度は強であった.河口には干

および比較のために大隅半島南部,薩摩半島南部,

潟や砂浜,マングローブ林などの様々な環境があ

与論島における汽水および淡水産貝類の分布調査

り,各環境に応じて生物相が変化するため,種数

を行い,本調査地における汽水および淡水産貝類

が多いと考えられる.汽水域は,塩分濃度に応じ

相を明らかにするとともに,汽水および淡水産貝

て生物相が変化するため,種数が多いと考えられ

類における生息環境と種数の関係を明らかにする

る.汽水の巻貝は,岩盤付着性の生態を持つ貝が

事を目的とした.

多いため,改修強度が強の河川では,コンクリー

 汽水および淡水産貝類は,2007 年から 2008 年

ト護岸が多く,付着性の貝類にとって安定した付

にかけて,各調査地にある河川(主に汽水域を含

着基盤となることから,結果的に種数が多くなっ

む下流域や周辺干潟と純淡水域)とその周辺の水

たと考えられる.

路,水田,湧水地において,簡易ドレッジおよび 目視で確認できるものを採集した.

 はじめに

 汽水および淡水産貝類は,全調査地で 12 科 22

 大隅諸島は琉球列島の北部,鹿児島県本土とト

種確認した.海産貝類を含めると,全調査地で

カラ列島の間に位置し,種子島,屋久島,口永良

21 科 54 種確認した.最も多くの調査地で確認で

部島,黒島,竹島,硫黄島を含む島嶼群である.

きた種はカワニナである.カワニナは,日本全国

この島嶼群において,種子島と屋久島は,リス~

に分布する広域分布種であり,生息環境に適応す

ウルム間氷期(15–7 万年前)に大隅海峡が形成

る柔軟性をもつ表現型可塑性があることから,本

するまで大隅半島と繋がっていたとされており

調査地でも分布を拡大していくことができたと考

(大嶋,1977),鹿児島県本土と種子島・屋久島の

えられる.本調査地と鹿児島県本土および奄美大

間には,昆虫の生物分布境界線として提唱されて いる三宅線が存在する(徳田,1969).また,硫

    Katanoda, Y., T. Nakashima, S. Ichikawa and K. Tomiyama. 2014. Study of brackish and fresh water snail fauna in Ôsumi islands. Nature of Kagoshima 40: 189–215. KT: Graduate School of Science and Engineering (Science), Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp).

黄島と竹島は約 7300 年前の鬼界カルデラ形成に 伴う大爆発により生物相が絶滅したとされている ことから(奥野,2002),大隅諸島は生物地理学 的に非常に興味深い島々を含んでいる.  大隅諸島における軟体動物相についての研究と して,中北部琉球列島における陸産貝類相の数量

189


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

的解析(冨山,1983),鹿児島県三島村の陸産貝

島南部,与論島(淡水産貝類のみ採集)において,

類 相 と 陸 産 貝 類 の 分 散 様 式 に つ い て( 冨 山,

汽水および淡水産貝類の採集を行い,各調査地に

1984),屋久島の陸産貝類相(黒田,1955),種子・

ある河川(主に汽水域を含む下流域や周辺干潟と

屋久島を中心とする陸産貝類相(大迫,1956)な

純淡水域)とその周辺の水路,水田,湧水地で採

どの陸産貝類についての研究が比較的多く行われ

集を行った.調査地の概要および各調査地におけ

ている.また,鹿児島県内における汽水および淡

る調査地点は,Figs. 1–10 と Table 1 に示す.

水産貝類相については,鹿児島県全体の淡水およ び汽水産貝類の報告として,鹿児島県本土を中心

調査期間

に調査された,鹿児島県の絶滅のおそれのある野

 種子島:2007 年 8 月 7–9 日,2008 年 8 月 11–13 日

生動植物 動物編(冨山ほか,2003)や奄美大島

 屋久島:2007 年 8 月 21–23 日,2008 年 9 月 29 日

産陸水性貝類相(増田・早瀬,2000),口永良部

–10 月 1 日

島産の淡水貝類 4 種(湊・楠井,1997)などの報

 口永良部島:2008 年 10 月 2–3 日

告が行われているが,大隅諸島における汽水およ

 黒島:2008 年 9 月 5–6 日

び淡水産貝類については,基本的な貝類相の報告

 硫黄島:2008 年 9 月 7–8 日

すらされていない状況である.

 竹島:2008 年 9 月 9–10 日

 そこで本研究では,大隅諸島と口之島,および,

2008 年 5 月 7 日,  大隅半島南部:2007 年 9 月 12 日,

比較のために,大隅半島南部,薩摩半島南部と与

11 月 28 日

論島を調査地として設定した.これらの地域にお

2008 年 5 月 6 日,  薩摩半島南部:2007 年 9 月 13 日,

ける汽水および淡水産貝類の貝類相を明らかにす

12 月 3 日,5 日

るために,各調査地の汽水域および淡水域におい

 口之島:2007 年 3 月 29 日 –4 月 1 日

て貝類の採集を行った.これら地域の貝類相につ

 与論島:2007 年 5 月 20 日

いての詳細な報告および考察を行った.また,主 要な環境別・調査地のおもな出現種,生息環境と 種数の関係についても考察した.  材料と方法 本研究で扱う汽水および淡水産貝類

調査方法 2007–2008 年の期間に各調査地を巡り,汽水お よび淡水産貝類の採集を行った.基本的に目視で 確認できるものを手取りで採集し,水深が深い場 所や手の届かない場所は,タモ網を用いた簡易ド

貝類は,生息環境や生活史の特性から主に海

レッジで採集を行った.採集したものは標本とす

産と陸産,淡水産の 3 つの生息区に分けている研

るため,採集を行ったその日のうちに熱湯処理を

究例が多いが,実際,河口周辺では潮の干満差に

行い,肉抜きし,軟体部は 40% アルコールに保

よって塩分濃度が時間や流程,水深によって変化

存し,殻はそのまま持ち帰った.肉抜きが困難な

するため,川と海との区別が難しく,出現種にし

小さな個体は,90% アルコールに保存し持ち帰っ

ても淡水産種と海産種の区別は困難である.本研

た.持ち帰った殻は乾燥させ,1 つ 1 つラベルを

究では,河口および周辺干潟で淡水が影響してい

つけて保存した.90% アルコールに保存したも

るとみなされるエリア(汽水域)と純淡水域,湧

のは,乾燥させてからガラス管に入れ,調査地お

水による湿潤地で確認される種類を対象として採

よび種ごとに分け,ラベルをつけて保存した.各

集を行った.

採集ポイントで採集環境を記録し,GPS を用い て緯度と経度(日本測地計)を記録して地図上に

調査地 大隅諸島(種子島,屋久島,口永良部島,黒島, 硫黄島,竹島),口之島,大隅半島南部,薩摩半

190

プロットした.


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 3.屋久島における調査地点.

Fig. 1.調査地の概要.

Fig. 4.口永良部島における調査地点.

Fig. 2.種子島における調査地点.

Fig. 5.黒島における調査地点.

191


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Fig. 6.硫黄島における調査地点.

Fig. 9.大隅半島南部における調査地点.

Fig. 7.竹島における調査地点.

Fig. 10.薩摩半島南部における調査地点.

 結果 貝類相 今回の調査で 22 科 32 属 56 種の淡水・汽水産 貝類が採集できた(一部,汽水域で採集した海産 貝類も含む).採集された貝類は下記の通りであ る. Fig. 8.口之島における調査地点.

192


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Table 1.調査地の概要.(a)種子島. Pt. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

市町村・地名 美浜 美浜 湊 湊 湊 大川 庄司浦 浅川 新上里 里 本村 仲之町 平山 仲之町 島間 小平山 牧川 住吉 能野 大崎 安納 川脇 向井

河川名など 水路・河口・砂浜 水路・河口・砂浜 湊川・下流・転石 湊川・河口・転石 湊川・マングローブ干潟 大川・河口・転石 河口・転石 湊川・河口・転石 宮瀬川・上流・転石 山神川・中流・転石 鹿鳴川・下流・転石 大浦川・マングローブ干潟 大浦川・河口・転石 水路 島間川・河口・転石 谷切川・河口・転石 下二ツ川・河口・転石 河口・転石 上二ツ川・河口・砂浜 小川砂防堰提 安納川・河口・転石 川脇川・河口・転石 向井川・河口・転石

北緯 30°44′25.4″ 30°44′19.2″ 30°48′32.6″ 30°48′34.5″ 30°48′26.3″ 30°46′21.3″ 30°42′46.7″ 30°41′06.0″ 30°24′08.2″ 30°22′18.0″ 30°21′44.8″ 30°27′10.4″ 30°26′58.5″ 30°26′06.7″ 30°27′30.4″ 30°28′40.2″ 30°37′55.3″ 30°38′51.9″ 30°41′38.8″ 30°46′19.4″ 30°43′02.6″ 30°38′34.7″ 30°32′51.7″

東経 131°00′01.3″ 130°59′51.8″ 131°03′57.0″ 131°04′05.3″ 131°03′55.8″ 131°04′45.2″ 131°04′31.8″ 131°03′57.1″ 130°56′27.3″ 130°54′54.5″ 130°53′30.4″ 130°57′32.6″ 130°57′41.2″ 130°57′31.6″ 130°52′10.4″ 130°53′01.3″ 130°57′06.5″ 130°56′43.3″ 130°58′07.4″ 131°00′55.8″ 131°04′29.4″ 131°03′05.6″ 131°00′28.5″

調査日 2007.8.7, 2008.8.11 2007.8.7, 2008.8.11 2007.8.8 2007.8.8 2007.8.8 2007.8.8, 2008.8.12 2007.8.8 2007.8.8 2007.8.8, 2008.8.13 2007.8.8, 2008.8.13 2007.8.8, 2008.8.13 2007.8.9, 2008.8.13 2007.8.9 2007.8.9, 2008.8.13 2007.8.9 2007.8.9, 2008.8.13 2007.8.9, 2008.8.13 2007.8.9, 2008.8.13 2007.8.9, 2008.8.13 2008.8.11 2008.8.12 2008.8.12 2008.8.11

河川名など 椨川・河口・転石 牧之川・下流・転石 城之川・河口・転石 下流・転石 河口・転石 泉川・下流・転石 泥落川・下流・転石 湯泊川・下流・水路 中間川・下流・転石 中間川・河口・転石 栗生川・河口・転石 栗生川・河口・岩礁海岸 水路 水路 河口・転石 水路・泥 男川・河口・転石 河口・転石 宮之浦川・河口・転石 下流・転石 河口・転石

北緯 30°23′53.8″ 30°24′05.1″ 30°24′26.0″ 30°24′49.9″ 30°24′54.1″ 30°14′32.3″ 30°14′24.6″ 30°13′53.8″ 30°15′06.8″ 30°15′02.0″ 30°15′57.5″ 30°15′53.1″ 30°18′32.3″ 30°18′42.4″ 30°23′31.6″ 30°23′32.4″ 30°23′47.8″ 30°25′41.1″ 30°25′15.6″ 30°15′46.1″ 30°17′53.3″

東経 130°37′29.8″ 130°37′00.4″ 130°36′01.2″ 130°35′33.4″ 130°35′34.3″ 130°35′01.1″ 130°34′41.7″ 130°28′50.8″ 130°26′04.0″ 130°26′00.9″ 130°25′05.5″ 130°25′03.4″ 130°24′30.2″ 130°24′23.9″ 130°24′55.2″ 130°25′41.1″ 130°38′05.2″ 130°27′36.1″ 130°34′29.4″ 130°36′40.5″ 130°39′17.7″

調査日 2007.8.21 2007.8.21 2007.8.21 2007.8.21, 2008.9.29 2007.8.21 2007.8.22, 20089.29 2007.8.22, 20089.29 2007.8.22, 20089.29 2007.8.22, 20089.29 2007.8.22 2007.8.23 2007.8.23 2007.8.23, 2008.9.30 2007.8.23, 2008.9.30 2007.8.23, 2008.9.30 2007.8.23, 2008.9.30 2008.9.29 2008.9.30 2008.9.30 2008.9.30 2008.9.30

河川名など 田代川・中流・転石 中流・転石 河口・転石 湧水 水路 新村川・中流・転石・泥 水路 河口・転石 河口・岩礁海岸 金ヶ迫川・中流・転石 湯向川・河口・転石

北緯 30°28′00.3″ 30°27′46.0″ 30°27′50.8″ 30°27′56.6″ 30°27′30.6″ 30°27′29.0″ 30°27′44.4″ 30°27′37.2″ 30°27′28.3″ 30°27′32.5″ 30°27′02.9″

東経 130°12′56.8″ 130°13′25.4″ 130°14′01.3″ 130°13′36.7″ 130°10′53.6″ 130°10′52.1″ 130°11′39.5″ 130°11′38.1″ 130°11′54.1″ 130°12′04.3″ 130°15′06.8″

調査日 2008.10.2 2008.10.2 2008.10.2 2008.10.2 2008.10.3 2008.10.3 2008.10.3 2008.10.3 2008.10.3 2008.10.3 2008.10.3

(b)屋久島. Pt. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

市町村・地名 椨川 牧之川 城之川 楠川 楠川 原 原 湯泊 中間 中間 栗生 栗生 大川 大川 永田 永田 男川 吉田 宮之浦 麦生 安房

(c)口永良部島. Pt. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

市町村・地名 田代 田代 寝待 寝待 新村 新村 本村 本村 本村 本村 湯向

193


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

(d)黒島. 河川名など 中流・転石 下流・転石 沢・水路 中流・転石 湧水 中流・転石 河口・転石 中流・転石 下流・河口・テトラポット 湧水 上流・転石 上流・転石 上流・転石 堀田川・中流・コンクリート

北緯 30°50′02.5″ 30°50′16.2″ 30°50′27.4″ 30°50′15.7″ 30°50′14.2″ 30°49′52.5″ 30°49′55.8″ 30°49′04.9″ 30°49′39.7″ 30°49′13.4″ 30°49′04.9″ 30°49′07.8″ 30°49′29.0″ 30°49′44.9″

東経 129°55′21.3″ 129°55′38.7″ 129°55′50.0″ 129°56′15.5″ 129°56′40.3″ 129°57′21.6″ 129°57′36.0″ 129°55′05.5″ 129°54′38.8″ 129°55′35.4″ 129°56′26.4″ 129°55′53.6″ 129°55′03.8″ 129°54′45.9″

調査日 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.5 2008.9.6 2008.9.6 2008.9.6 2008.9.6 2008.9.6

(e)硫黄島. Pt. 市町村・地名 1 坂本温泉 2 東温泉

河川名など 湧水 湧水

北緯 30°47′55.8″ 30°46′40.8″

東経 130°17′34.9″ 130°18′00.1″

調査日 2008.9.7 2008.9.7

(f)竹島. Pt. 市町村・地名 1 東風泊港 2 ウツン崎 3 ― 4 赤崎

河川名など 下流・岩礁海岸 河口・岩礁海岸 船倉川・下流 河口・転石

北緯 30°48′38.4″ 30°48′51.0″ 30°48′43.3″ 30°48′46.2″

東経 130°24′33.7″ 130°24′51.0″ 130°25′07.5″ 130°24′38.3″

調査日 2008.9.9 2008.9.9 2008.9.10 2008.9.10

(g)口之島. Pt. 市町村・地名 1 ― 2 ― 3 ― 4 ― 5 ― 6 ― 7 ― 8 ― 9 ― 10 ― 11 ―

河川名など 湧水 湧水 小河川・上流・転石 湧水 水田 水田 ため池 水路・河口 水路・河口 水路 水田

北緯 29°59′04.3″ 29°58′25.4″ 29°58′55.5″ 29°58′58.3″ 29°59′06.8″ 29°59′07.3″ 29°59′06.3″ 29°59′06.2″ 29°59′03.5″ ― ―

東経 129°55′17.4″ 129°55′38.4″ 129°55′26.6″ 129°55′25.2″ 129°55′19.6″ 129°55′21.5″ 129°55′27.4″ 129°55′28.7″ 129°55′30.3″ ― ―

調査日 2007.3.29 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.30 2007.3.31 2007.4.1

(h)大隅半島南部. Pt. 市町村・地名 1 大泊 2 外之浦 3 竹之浦 4 古里 5 郡 6 神川 7 神川 8 塩入 9 大川

河川名など 大泊川・河口・転石 外之浦川・水路・河口 河口・転石 下流・転石・泥 郡川・中流・転石 神之川・河口干潟 水田 雄川・河口干潟 大川・下流・転石

北緯 31°01′23.1″ 31°01′31.4″ 31°02′29.4″ 31°02′49.5″ 31°03′33.8″ 31°16′04.8″ 31°16′04.8″ 31°12′50.7″ 31°06′45.0″

東経 130°41′11.6″ 130°42′03.8″ 130°43′06.1″ 130°43′46.6″ 130°44′21.1″ 130°47′52.5″ 130°47′52.5″ 130°45′59.9″ 130°44′07.9″

調査日 2007.9.12 2007.9.12, 2008.11.28 2007.9.12, 2008.11.28 2007.9.12, 2008.11.28 2007.9.12 2008.5.7 2008.5.7 2008.5.7 2008.5.7, 2008.11.28

(i)薩摩半島南部. Pt. 市町村・地名 1 秋目 2 久志 3 枕崎 4 生見 5 西方 6 ― 7 馬渡 8 生見 9 伍位野

河川名など 秋目川・河口干潟 久志川・河口・転石 花渡川・河口干潟 下流・転石 湊川・河口・泥 河口干潟 馬渡川・河口・転石 水路・転石・泥 伍位野川・中流・転石

北緯 31°21′18.3″ 31°18′27.1″ 31°16′08.0″ 31°17′58.9″ 31°16′14.5″ 31°14′36.9″ 31°14′40.7″ 31°18′34.6″ 31°27′52.4″

東経 130°12′09.9″ 130°13′36.6″ 130°17′21.9″ 130°34′41.8″ 130°37′34.7″ 130°39′06.4″ 130°28′26.3″ 130°34′24.2″ 130°30′35.8″

調査日 2007.9.13 2007.9.13 2007.9.13 2008.5.6 2008.5.6 2008.5.6 2008.5.6 2008.12.3 2008.12.3

Pt. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

194

市町村・地名 ― ― 中里 中里 ― 大里 大里 ― 片泊 ― ― ― ― 片泊


RESEARCH ARTICLES

腹足綱 Class GASTROPODA 始祖腹足亜綱 Subclass Eogastropoda カサガイ目 Order Docoglossa ヨメガガサ科 Family Nacellidae. 1. ヨメガカサガイ Cellana toreuma (Reeve, 1854) 2. アミガサガイ Cellana grata stearnsi Pilsbry, 1911 ユキノカサガイ科 Family Acmaeidae 3.コウダカアオガイ Notoacmea concinna (Lischke, 1870) 4.コガモガイ Lottia kogamogai Sasaki & Okutani, 1994

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

トウガタカワニナ科 Family Thiaridae 24. タ ケ ノ コ カ ワ ニ ナ Stenomelania rufescens (Martens, 1860) 25.アマミカワニナ Stenomelania costellaris (Lea, 1850) 26.イボアヤカワニナ Tarebia granifera (Lamarck, 1822) リンゴガイ科 Family Ampullariidae 27.スクミリンゴガイ Pomacea canaliculata Lamarck, 1819

直腹足亜綱 Subclass Orthogastropoda

ミズゴマツボ科 Family Stenothyridae

古腹足目 Order Vetigastropoda

28.オキナワミズゴマツボ Stenothyra basiangulata

ニシキウズガイ科 Family Trochidae 5. イ シ ダ タ ミ ガ イ Monodonta confusa TapparoneCanefri, 1874 6.クロヅケガイ Monodonta neritoides (Philippi, 1849) 7. ク ビ レ ク ロ ヅ ケ ガ イ Monodonta perplexa

(Mori, 1938) キバウミニナ科 Family Potamididae 29.フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum A.Adams, 1855 30. カ ワ ア イ Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis

Pilsbry, 1889

(K.Martin, 1899)

アマオブネガイ目 Order Neritopsina

ウミニナ科 Family Batillariidae

アマオブネガイ科 Family Neritidae 8.イシマキガイ Clithon retropictus (Martens, 1879) 9.カノコガイ Clithon faba Sowerby, 1836 10.ヒメカノコガイ Clithon oualaniensis (Lesson, 1831) 11.イガカノコガイ Clithon corona (Linnaeus, 1758) 12. ア マ オ ブ ネ ガ イ Nerita (Theliostyla) albicilla Linnaeus, 1758 13.イシダタミアマオブネガイ Nerita helicinoides Reeve, 1855 14. ヒ メ イ シ ダ タ ミ ア マ オ ブ ネ ガ イ Nerita helicinoides tristis Pilsbry, 1901 15.アマガイ Nerita (Heminerita) japonica Dunker, 1860 16.オオアマガイ Nerita ocellata Le Guillou, 1841 17.キバアマガイ Nerita plicata Linnaeus, 1758 18.リュウキュウアマガイ Nerita insculpta Recluz, 1841 19.エナメルアマガイ Nerita incerta Philippi, 1844

31.ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869) カワザンショウガイ科 Family Assimineidae 32.クリイロカワザンショウ Angustassiminea castanea castanea (Westerlund, 1883) 33.ダテカワザンショウ Assiminea bella Kuroda, 1958 34.ウスイロオカチグサ Paludinella debilis (Gould, 1859) タマキビ科 Family Littorinidae 35.コウダカタマキビ Littorina pintado (Wood, 1828) 36. ヒメウズラタマキビLittoraria intermedia (Philippi, 1846) 37.マルウズラタマキビ Littoraria articulate (Philippi, 1847) 38.ホソスジウズラタマキビ Littoraria undulate (Gray, 1839) 39.カスリ(ウズラ)タマキビ Littoraria ardouiniana (Heude, 1885)

20.ヌリツヤアマガイ Nerita rumphii (Recluz, 1841)

40.イボタマキビ Nodilittorina trochoides (Gray,1839)

21.フトスジアマガイ Nerita costata Gmelin, 1791

41.アラレタマキビ Nodilittorina exigua (Dunker,1860)

22.フネアマガイ Septaria porcellana (Linnaeus, 1758)

42.タイワンタマキビ Nodilittorina vidua (Gould,1859)

吸腔目 Order Sorbeoconcha カワニナ科 Family Pleuroceridae 23.カワニナ Semisulcospira libertina (Gould, 1859)

43.マルアラレタマキビ Nodilittorina sp. アッキガイ科 Family Muricidae 44.レイシガイダマシモドキ Cronia fusca (Kiister,

195


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

1862)

RESEARCH ARTICLES

島において共通する貝類は 15 種である.種子島

45.テツレイシガイ Thalessa savignyi (Deshayes, 1844)

と鹿児島県本土においてのみ共通する貝類は 9 種

46.アッキガイ科の一種 Muricidae sp. 1

である.種子島と奄美大島においてのみ共通する

ゴマフニナ科 Family Planasidae 47.クロタマキビモドキ Supplanaxis niger (Quoy & Gaimard, 1834) ムシロガイ科 Family Nassariidae 48.アラムシロ Nassarius festiva (Powys, 1833)

貝類は 3 種である.種子島においてのみ確認でき たのはダテカワザンショウである. 屋久島 屋久島における貝類相を Table 3 に示 す.出現種数は 8 科 25 種である.最も多くの地 点で確認できたのはカワニナで,13 地点で確認

有肺目 Order Pulmonata

した.2 番目に多くの地点で確認できたのはヒメ

カラマツガイ科 Family Siphonariidae

ウズラタマキビで,5 地点で確認した.出現種数

49.カラマツガイ科の一種 Siphonariidae sp. 2 モノアラガイ科 Family Lymnaeidae

が最も多い調査地点はポイント 21 で,13 種確認 した.出現種数が 2 番目に多い調査地点はポイン

50.ヒメモノアラガイ Austropeplea ollula (Gould ,1859)

ト 17 で,9 種確認した.屋久島と鹿児島県本土,

51.タイワンモノアラガイ Radix swinhoei H.Adams,

奄美大島において共通する貝類は 16 種である.

1866 52.コシタカヒメモノアラガイ Lymnaea truncatula

屋久島と鹿児島県本土においてのみ共通する貝類 は 2 種である.屋久島と奄美大島においてのみ共

(Mueller, 1774)

通する貝類は 4 種である.屋久島においてのみ確

サカマキガイ科 Family Physidae

認できたのはヌリツヤアマガイとカスリタマキビ

53.サカマキガイ Physa acuta Draparnaud, 1805 二枚貝綱 Class VIVALVIA

である. 口 永 良 部 島  口 永 良 部 島 に お け る 貝 類 相 を

翼形亜綱 Subclass Pteriomorphia

Table 4 に示す.出現種数は 7 科 19 種である.最

イガイ目 Order Mytilida

も多くの地点で確認できたのはカワニナで,10

イガイ科 Family Mytilidae

地点で確認した.2 番目に多くの地点で確認でき

54.ヒバリガイモドキ Hormomya mutabilis (Gould, 1861)

たのはフネアマガイで,3 地点で確認した.出現 種数が最も多い調査地点はポイント 9 で,14 種

ウグイスガイ目 Order Pterioida

確認した.出現種数が 2 番目に多い調査地点はポ

ウグイスガイ科 Family Pteriidae

イント 11 で,7 種確認した.口永良部島と鹿児

55.ウグイスガイ科の一種 Pteriidae sp. 3

島県本土,奄美大島において共通する貝類は 12

異歯亜綱 Subclass Heterodonta

種である.口永良部島と鹿児島県本土においての

マルスダレガイ目 Order Veneroida

み共通する貝類は 3 種である.口永良部島と奄美

シオサザナミ科 Family Psammobiidae

大島においてのみ共通する貝類は 4 種である.

56.ハザクラ Psammotaea minor (Deshayes, 1855)

黒島 黒島における貝類相を Table 5 に示す. 出現種数は 9 科 19 種である.最も多くの地点で

種子島 種子島における貝類相を Table 2 に示

確認できたのはカワニナで,14 地点で確認した.

す.出現種数は 15 科 29 種である.最も多くの地

出現種数が最も多い調査地点はポイント 7 とポイ

点で確認できたのはカワニナで,12 地点で確認

ント 9 で,11 種確認した.黒島と鹿児島県本土,

した.2 番目に多くの地点で確認できたのはイシ

奄美大島において共通する貝類は 13 種である.

マキガイで,6 地点で確認した.出現種数が最も

黒島と鹿児島県本土においてのみ共通する貝類は

多い調査地点はポイント 16 で,11 種確認した.

2 種である.黒島と奄美大島においてのみ共通す

出現種数が 2 番目に多い調査地点はポイント 7 で,

る貝類は 4 種である.

10 種確認した.種子島と鹿児島県本土,奄美大

196

硫黄島 硫黄島における貝類相を Table 6 に示


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Table 2.種子島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名

調査地点

1

2

3

4

5

6

7

8

出現 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 地点数

腹足綱 カワニナ科 1カワニナ

○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○

12

トウガタカワニナ科 ○

2タケノコカワニナ

1

サカマキガイ科 3サカマキガイ

○ ○

2

リンゴガイ科 ○

4スクミリンゴガイ

1

フトヘナタリ科 5フトヘナタリ

1

6カワアイ

1

フネアマガイ科 7フネアマガイ

○ ○

○ ○

3

アマオブネガイ科 ○

8イシマキガイ

○ ○

9カノコガイ

6

10キバアマガイ 11アマオブネガイ

12イシダタミアマオブネ

3 ○

2

3

2 ○

13リュウキュウアマガイ 14アマガイ

15オオアマガイ

1 2 ○ ○

4

カワザンショウガイ科 ○

16クリイロカワザンショウ

1

17ダテカワザンショウ

1

タマキビ科 ○

18イボタマキビ ○ ○ ○

19ヒメウズラタマキビ

○ ○

2

7

20ホソスジウズラタマキビ 21アラレタマキビ

1 ○

4

ニシキウズガイ科 22イシダタミガイ

3 ○

1

○ ○

3

4

23クビレクロヅケ ユキノカサガイ科 ○

24コウダカアオガイ ヨメガカサガイ科 ○

25ヨメガカサガイ

カラマツガイ科 ○

26カラマツガイ科の一種

1

アッキガイ科 ○

27レイシダマシモドキ

1

28アッキガイ科の一種

1

二枚貝綱 イガイ科 ○

29ヒバリガイモドキ 地点別確認種類数

2

2

1

9

○ 2

2 10 2

1

3

1

3

2

4

2 11 1

2 1

2

1

6

6

3

197


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

す.出現種数は 3 科 9 種である.汽水および淡水

土においてのみ共通する貝類は確認できなかっ

産貝類は確認できなかった.おもにアマオブネガ

た.竹島と奄美大島においてのみ共通する貝類は

イ科とタマキビ科が確認された.温泉が海に流出

確認できなかった.

している 2 ポイントで採集を行った.硫黄島と鹿

口之島 口之島における貝類相を Table 8 に示

児島県本土,奄美大島において共通する貝類は 6

す.出現種数は 5 科 6 種である.最も多くの地点

種である.硫黄島と鹿児島県本土においてのみ共

で確認できたのはカワニナで,9 地点で確認した.

通する貝類は 1 種である.硫黄島と奄美大島にお

2 番目に多くの地点で確認できたのはウスイロオ

いてのみ共通する貝類は 2 種である.

カチグサで,6 地点で確認した.出現種数が最も

竹島 竹島における貝類相を Table 7 に示す.

多い調査地点はポイント 9 で,6 種確認した.口

出現種数は 3 科 7 種である.最も多くの地点で確

之島と鹿児島県本土,奄美大島において共通する

認できたのはカワニナで,4 地点で確認した.出

貝類は 5 種である.口之島と鹿児島県本土におい

現種数が最も多い調査地点はポイント 4 で,6 種

てのみ共通する貝類は 1 種である.口之島と奄美

確認した.竹島と鹿児島県本土,奄美大島におい

大島においてのみ共通する貝類は確認できなかっ

て共通する貝類は 7 種である.竹島と鹿児島県本

た.

Table 3.屋久島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 カワニナ科 1カワニナ フネアマガイ科 2フネアマガイ アマオブネガイ科 3イシマキガイ 4カノコガイ 5ヒメカノコガイ 6イガカノコガイ 7アマガイ 8アマオブネガイ 9ヒメイシダタミアマオブネ 10リュウキュウアマガイ 11イシダタミアマオブネ 12ヌリツヤアマガイ 13フトスジアマガイ 14オオアマガイ 15キバアマガイ タマキビ科 16ヒメウズラタマキビ 17アラレタマキビ 18イボタマキビ 19カスリタマキビ 20ホソスジウズラタマキビ ニシキウズガイ科 21イシダタミガイ 22クロヅケガイ ユキノカサガイ科 23コガモガイ 二枚貝綱 イガイ科 24ヒバリガイモドキ ウグイスガイ科 25ウグイスガイ科の一種 地点別確認種類数

198

調査地点 1

2

3

4

5

6

7

8

9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

13

3

○ ○

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○

○ ○

○ ○

2

4

3

3

1

1

1

1

4

5

4 3 1 2 2 1 2 5 3 1 2 5 5 5 4 5 1 2 4 1 1

1

出現 地点数

1

7

1

1

5

1

9

8

○ 5 1 13

1


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

大隅半島南部 大隅半島南部における貝類相

島において共通する貝類は 10 種である.薩摩半

を Table 9 に示す.出現種数は 8 科 10 種である.

島南部と鹿児島県本土においてのみ共通する貝類

最も多くの地点で確認できたのはカワニナとイシ

は 3 種である.薩摩半島南部と奄美大島において

マキガイで,5 地点で確認した.出現種数が最も

のみ共通する貝類は確認できなかった.

多い調査地点はポイント 6 とポイント 8 で,4 種

与論島 与論島における貝類相を Table 11 に示

確認した.大隅半島南部と鹿児島県本土,奄美大

す.出現種数は 5 科 5 種である.最も多くの地点

島において共通する貝類は 7 種である.大隅半島

で確認できたのはタイワンモノアラガイとサカマ

南部と鹿児島県本土においてのみ共通する貝類は

キガイで,3 地点で確認した.出現種数が最も多

2 種である.大隅半島南部と奄美大島においての

い調査地点はポイント 4 で,4 種確認した.与論

み共通する貝類は確認できなかった.大隅半島南

島と鹿児島県本土,奄美大島において共通する貝

部においてのみ確認できたのはコシタカヒメモノ

類は 2 種である.与論島と鹿児島県本土において

アラガイである.

のみ共通する貝類は確認できなかった.与論島と

薩摩半島南部 薩摩半島南部における貝類相

奄美大島においてのみ共通する貝類は 2 種であ

を Table 10 に示す.出現種数は 9 科 13 種である.

る.与論島においてのみ確認できたのは,オキナ

最も多くの地点で確認できたのはイシマキガイ

ワミズゴマツボである.

で,5 地点で確認した.2 番目に多くの地点で確

海産貝類を含む汽水産および淡水産貝類相(与

認できたのはカワニナで,4 地点で確認した.出

論島を除く) 貝類相を Table 12 に示す.出現種

現種数が最も多い調査地点はポイント 6 で,5 種

数は全調査地で 21 科 54 種である.主要出現種は,

確認した.薩摩半島南部と鹿児島県本土,奄美大

カワニナを硫黄島以外の全ての調査地で確認し

Table 4.口永良部島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 カワニナ科 1カワニナ フネアマガイ科 2フネアマガイ アマオブネガイ科 3イシマキガイ 4カノコガイ 5ヒメカノコガイ 6イガカノコガイ 7アマオブネガイ 8リュウキュウアマガイ 9フトスジアマガイ 10オオアマガイ 11キバアマガイ 12エナメルアマガイ タマキビ科 13マルアラレタマキビ 14アラレタマキビ 15イボタマキビ 16ホソスジウズラタマキビ アッキガイ科 17テツレイシガイ ユキノカサガイ科 18コウダカアオガイ ヨメガカサガイ科 19ヨメガカサガイ 地点別確認種類数

調査地点 1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

出現 地点数

10

3

○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○ ○

1

○ 5

1 2 3 3 1

1

1 2 2 1 1 1 1 3 1 1

1

1

1

3

5

○ 14

1 2 1

7

199


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

た.フネアマガイを硫黄島と竹島以外の全ての調

較では,本調査地と鹿児島県本土,奄美大島にお

査地で確認した.アマオブネガイ科は硫黄島以外

いて共通する貝類が 28 種,本調査地と鹿児島県

の全ての調査地で計 14 種確認した.

本土においてのみ共通する貝類が 13 種,本調査

鹿児島県本土と奄美大島の汽水および淡水産

地と奄美大島においてのみ共通する種が 7 種であ

貝類相と本調査地の汽水および淡水産貝類相の比

ることから,本調査地の貝類相は鹿児島県本土の

Table 5.硫黄島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 カワニナ科 1カワニナ モノアラガイ科 2タイワンモノアラガイ サカマキガイ科 3サカマキガイ フネアマガイ科 4フネアマガイ アマオブネガイ科 5イシマキガイ 6ヒメカノコガイ 7リュウキュウアマガイ 8オオアマガイ 9キバアマガイ 10エナメルアマガイ タマキビ科 11アラレタマキビ 12コウダカタマキビ 13イボタマキビ 14ホソスジウズラタマキビ 15タイワンタマキビ ニシキウズガイ科 16クロヅケガイ ゴマフニナ科 17クロタマキビモドキ ヨメガカサガイ科 18アミガサガイ 19ヨメガカサガイ 地点別確認種類数

調査地点 1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

出現 地点数

14

1

1

1

1

1 1

○ ○ ○ ○

1 1 1 2 1 1

○ ○ ○ ○

1 1 2 1 1

○ ○

1

1

○ ○

1

1

1

11

1

○ ○ 11

1 1 1

1

1

1

1

Table 6.硫黄島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 アマオブネガイ科 1アマオブネガイ 2オオアマガイ 3イシダタミアマオブネガイ 4キバアマガイ タマキビ科 5アラレタマキビ 6イボタマキビ 7ホソスジウズラタマキビ 8コウダカタマキビ ヨメガカサガイ科 9ヨメガカサガイ 地点別確認種類数

200

調査地点 1

2

出現 地点数

Table 7.竹島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

7

1 2 1 1

○ ○ ○

2 2 1 1

○ 4

1

腹足綱 カワニナ科 1カワニナ アマオブネガイ科 2フトスジアマガイ 3キバアマガイ タマキビ科 4アラレタマキビ 5コウダカタマキビ 6イボタマキビ 7ホソスジウズラタマキビ 地点別確認種類数

調査地点 1

2

3

4

出現 地点数

4

○ ○

1 1

2 1 3 1

○ ○ ○

2

4

1

○ ○ 6


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

貝類相に近いと示唆される.

貝類相と本調査地の汽水および淡水産貝類相の比

汽水および淡水産貝類相(与論島を除く) 貝

較では,本調査地と鹿児島県本土,奄美大島にお

類相を Table 13 に示す.出現種数は全調査地で

いて共通する貝類が 13 種,本調査地と鹿児島県

12 科 22 種である.硫黄島には,河川およびその

本土においてのみ共通する貝類が 6 種,本調査地

他の淡水域が存在しないため,汽水および淡水産

と奄美大島においてのみ共通する種が確認されな

貝類は確認できなかった.主要出現種はカワニナ

かったことから,本調査地の貝類相は鹿児島県本

を硫黄島以外の全ての調査地で確認した.フネア

土の貝類相に近いと示唆される.

マガイを硫黄島と竹島以外の全ての調査地で確認

本調査で確認できた全 22 種中淡水産貝類は 6

した.イシマキガイを硫黄島,竹島,口之島以外

種のみであり,残りの 16 種は汽水産貝類である.

の全ての調査地で確認した.

本調査では,大隅諸島に固有である種は確認でき

鹿児島県本土と奄美大島の汽水および淡水産

なかった.

Table 8.口之島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 カワニナ科 1カワニナ モノアラガイ科 2ヒメモノアラガイ サカマキガイ科 3サカマキガイ フネアマガイ科 4フネアマガイ カワザンショウガイ科 5ウスイロオカチグサ 6クリイロカワザンショウ 地点別確認種類数

1

2

3

4

5

○ ○

調査地点 6

11

出現 地点数

7

8

9

10

9

5

4

1

1

2

2

○ 2

2

○ 3

1

○ ○ 6

2

6 1

4

1

Table 9.大隅半島南部における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 カワニナ科 1カワニナ モノアラガイ科 2ヒメモノアラガイ 3コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ科 4サカマキガイ フネアマガイ科 5フネアマガイ アマオブネガイ科 6イシマキガイ 7カノコガイ タマキビ科 8マルウズラタマキビ 二枚貝綱 イガイ科 9ヒバリガイモドキ シオサザナミ科 10ハザクラ 地点別確認種類数

1

2

3

4

調査地点 5

6

7

8

9

5

1 1

1

○ ○ ○

1 ○

○ ○

○ ○

5 3

2

3

出現地点数

1

3

2

1

1

○ 4

1

○ 4

2 3

201


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

主要環境別・調査地のおもな出現種(報告)

カノコガイ,ヒメカノコガイ,イガカノコガイ,

河口・下流域 河口・下流域における出現種

口永良部島においてカノコガイ,ヒメカノコガイ,

を Table 14 (a) に示す.河口・下流域の中でも,

イガカノコガイ,黒島においてイシマキガイ,ヒ

海水の影響する汽水域では,河川の存在しない硫

メカノコガイ,大隅半島南部においてイシマキガ

黄島と,少量の水路の水が海岸に注いでいる口之

イ,カノコガイ,薩摩半島南部においてイシマキ

島,河川が岩礁海岸に注いでいる竹島を除く全て

ガイ,カノコガイ,ヒメカノコガイ,イガカノコ

の調査地において,多くのアマオブネガイ科の貝

ガイである.種子島と屋久島では,ヒメウズラタ

類を確認した.各調査地におけるアマオブネガイ

マキビを確認し,大隅半島南部と薩摩半島南部で

科の貝類の出現種は,種子島においてイシマキガ

はマルウズラタマキビを確認した.大隅半島南部

イ,カノコガイ,屋久島においてイシマキガイ,

と薩摩半島南部の河口干潟では,ハザクラを確認

Table 10.薩摩半島南部における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 カワニナ科 1カワニナ トウガタカワニナ科 2タケノコカワニナ 3イボアヤカワニナ フネアマガイ科 4フネアマガイ ウミニナ科 5ウミニナ アマオブネガイ科 6カノコガイ 7ヒメカノコ 8イシマキガイ 9イガカノコ タマキビ科 10マルウズラタマキビ ニシキウズガイ科 11イシダタミガイ ムシロガイ科 12アラムシロ 二枚貝綱 シオサザナミ科 13ハザクラ 地点別確認種類数

1

2

3

4

調査地点 5

6

7

8

9

出現 地点数

4

○ ○

1 1

1 ○

○ ○

○ ○

2 ○ ○

3 1 5 1

1

1 ○

○ 4

3

○ 2

2

○ 5

3

1

3 2

2

2

Table 11.与論島における主要調査地点別貝類相出現種. 分類群 和名 腹足綱 トウガタカワニナ科 1アマミカワニナ モノアラガイ科 2タイワンモノアラガイ サカマキガイ科 3サカマキガイ カワザンショウガイ科 4ウスイロオカチグサ ミズゴマツボ科 5オキナワミズゴマツボ 地点別確認種類数

202

1

2

調査地点

3

4

○ ○

1

○ 3

出現地点数

1 3

3

1 1

2

4


RESEARCH ARTICLES

した.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

調査に関しては不十分である.参考までに調査し

河口・下流域の中でも,純淡水域が存在する

た本調査地における出現種は,口永良部島,黒島

河川では,硫黄島を除く全ての調査地においてカ

においてカワニナ,口之島においてカワニナとウ

ワニナを確認し,硫黄島と竹島を除く全ての調査

スイロオカチグサである.

地においてフネアマガイを確認した.他にも様々

硫黄島には河川が全くないが,火山の影響で

な貝類を確認したが,コシタカヒメモノアラガイ

海岸に温泉が湧き出して海へと流れ込んでおり,

は大隅半島南部において,タケノコカワニナとイ

非常に特殊な環境となっている.温泉が湧き出し

ボアヤカワニナは薩摩半島南部においてのみ確認

ている硫黄島の 2 地点で確認した貝類の出現種

した.

は,坂本温泉においてアマオブネガイ,オオアマ

上・中流域,水路 上・中流域,水路におけ

ガイ,イシダタミアマオブネガイ,キバアマガイ,

る出現種を Table 14 (b) に示す.上・中流域,水

アラレタマキビ,イボタマキビ,コウダカタマキ

路は純淡水であり,硫黄島と竹島を除く全ての調

ビ,東温泉においてオオアマガイ,アラレタマキ

査地においてカワニナを確認し,他の様々な汽水

ビ,イボタマキビ,ホソスジウズラタマキビ,ヨ

および淡水産貝類を確認した.各調査地において

メガカサガイである.しかし,これらの貝類は,

確認された汽水および淡水産貝類の出現種は,種

潮間帯にみられる種であることから,温泉の有無

子島においてイシマキガイ,フネアマガイ,タケ

に関係なく生息していると考えられる.

ノコカワニナ,スクミリンゴガイ,口永良部島に

水田 水田における出現種を Table 14 (e) に示

おいて,イシマキガイ,フネアマガイ,口之島に

す.水田も湧水地と同様に調査が不十分であるが,

おいてフネアマガイ,ヒメモノアラガイ,サカマ

参考までに調査した本調査地における出現種は,

キガイ,ウスイロオカチグサ,クリイロカワザン

口之島においてカワニナ,ヒメモノアラガイ,サ

ショウ,大隅半島南部においてイシマキガイ,フ

カマキガイ,ウスイロオカチグサ,大隅半島南部

ネアマガイ,薩摩半島南部においてイシマキガイ

においてヒメモノアラガイである.

である. マングローブ干潟 マングローブ干潟におけ

生息環境と種数の関係

る出現種を Table 14 (c) に示す.本調査地では,

各生息環境における出現種を Table 15 に示す.

種子島と屋久島にマングローブ自生地が存在した

生息場所 生息場所は,河川の上流,中流,下

が,屋久島のマングローブ自生地は,栗生の栗生

流,河口および,水路,湧水,水田に区分した.

川に非常に小規模のマングローブ自生地が存在す

生息場所において最も出現種数が多いのは河口で

るだけで,マングローブ干潟を形成しておらず,

あり,本調査地の汽水および淡水産貝類全 22 種

汽水および淡水産貝類を採集することができな

中 19 種確認した.

かった.したがって,種子島の湊にある湊川と仲

水の性状 水の性状は,純淡水と汽水に区分

之町にある大浦川河口に広がるマングローブ干潟

した.河口において,堰により純淡水と汽水の両

で汽水および淡水産貝類の採集を行った.種子島

方を有している環境で確認した貝類については,

の 2 地点における汽水および淡水産貝類の出現種

純淡水と汽水の両方に含めた.水の性状において

は,湊川においてダテカワザンショウ,ヒメウズ

最も出現種数が多いのは汽水であり,本調査地の

ラタマキビ,大浦川においてフトヘナタリ,カワ

汽水および淡水産貝類全 22 種中 17 種確認した.

アイ,ヒメウズラタマキビである.

改 修 強 度  河 川 の 改 修 強 度 は, 増 田・ 早 瀬

湧水地 湧水地における出現種を Table 14 (d)

(2000)に基づき,強,中,弱に区分した.強は

に示す.本調査では,淡水産貝類だけではなく,

2 面コンクリート護岸またはそれ以上,中は護岸

汽水産貝類を採集することを目的としたため,河

が古い石垣や部分的な改修のみ,弱は多少人の手

川を中心に調査を行った.したがって,湧水地の

による構造物があるが,ほとんど自然状態の河川

203


204

腹足綱 カワニナ科 1カワニナ トウガタカワニナ科 2タケノコカワニナ 3イボアヤカワニナ 4アマミカワニナ モノアラガイ科 5ヒメモノアラガイ 6タイワンモノアラガイ 7コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ科 8サカマキガイ リンゴガイ科 9スクミリンゴガイ ミズゴマツボ科 10オキナワミズゴマツボ フネアマガイ科 11フネアマガイ フトヘナタリ科 12フトヘナタリ 13カワアイ ウミニナ科 14ウミニナ アマオブネガイ科 15イシマキガイ 16カノコガイ 17ヒメカノコガイ 18イガカノコガイ 19アマオブネガイ 20イシダタミアマオブネガイ 21ヒメイシダタミアマオブネ 22アマガイ 23オオアマガイ 24キバアマガイ 25リュウキュウアマガイ 26エナメルアマガイ 27ヌリツヤアマガイ 28フトスジアマガイ

分類群 和名

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

○ ○

種子島

○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

屋久島

○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○

口永良 部島

○ ○ ○ ○

黒島

Table 12.今回の調査に基づく調査地別海産貝類を含む汽水及び淡水産貝類相出現種.

○ ○

○ ○

硫黄島

竹島

口之島

調査地

○ ○

大隅半 島南部

○ ○ ○ ○

○ ○

薩摩半 島南部

与論島

○ ○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

鹿児島 県本土

○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

奄美 大島

8 7 6 5 6 4 2 3 6 8 5 3 1 5

3

3 2

9

1

3

7

4 3 1

3 3 2

10

出現地点数

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


カワザンショウガイ科 29クリイロカワザンショウ カワザンショウガイ科 30ダテカワザンショウ 31ウスイロオカチグサ タマキビ科 32イボタマキビ 33ヒメウズラタマキビ 34マルウズラタマキビ 35ホソスジウズラタマキビ 36カスリタマキビ 37アラレタマキビ 38マルアラレタマキビ 39タイワンタマキビ 40コウダカタマキビ ニシキウズガイ科 41イシダタミガイ 42クロヅケガイ 43クビレクロヅケガイ アッキガイ科 44レイシダマシモドキ 45テツレイシガイ 46アッキガイ科の一種 ゴマフニナ科 47クロタマキビモドキ ムシロガイ科 48アラムシロ ユキノカサガイ科 49コウダカアオガイ 50コガモガイ ヨメガカサガイ科 51ヨメガカサガイ 52アミガサガイ カラマツガイ科 53カラマツガイ科の一種 二枚貝綱 イガイ科 54ヒバリガイモドキ シオサザナミ科 55ハザクラ ウグイスガイ科 56ウグイスガイ科の一種 地点別確認種類数 19

19

9

7

6

5

○ ○ ○

○ ○ ○ ○

5 2

3 3

3

3

2 2 1

5 4 3

13

41

10

35

1

3

○ 25

○ ○

○ ○

○ ○

○ ○ ○

○ ○

8 3 3 7 1 8 2 3 5

29

2 4

5

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

3

○ ○

1

○ ○

○ ○

○ ○ ○

○ ○

○ ○

RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

205


206

腹足綱 カワニナ科 1カワニナ 2チリメンカワニナ トウガタカワニナ科 3タケノコカワニナ 4イボアヤカワニナ 5アマミカワニナ 6トウガタカワニナ 7ネジヒダカワニナ 8カリントウカワニナ 9スグカワニナ 10ヌノメカワニナ 11トゲカワニナ科の一種 モノアラガイ科 12ヒメモノアラガイ 13タイワンモノアラガイ 14コシタカヒメモノアラガイ 15モノアラガイ 16ナガオカモノアラガイ サカマキガイ科 17サカマキガイ タニシ科 18オオタニシ 19マルタニシ エゾマメタニシ科 20ヒメマルマメタニシ リンゴガイ科 21スクミリンゴガイ ミズゴマツボ科 22ミズゴマツボ 23オキナワミズゴマツボ 24カワグチツボ ワカウラツボ科 25マンガルツボ 26ワカウラツボ科の一種 ヒラマキガイ科 27ヒラマキミズマイマイ 28トウキョウヒラマキガイ

分類群 和名

種子島

屋久島

口永良 部島

Table 13.鹿児島県レッドリストに基づく調査地別汽水及び淡水産貝類相出現種.

黒島

硫黄島

竹島

口之島

調査地

大隅半 島南部

○ ○

薩摩半 島南部

与論島

○ ○

○ ○

2 1

1 1

1 1 1

3

1

7

4 3 1 1 1

3 3 2 2 2 1 1 1 1

10 1

出現地点数

1 1

○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○

奄美 大島

○ ○

○ ○

○ ○

○ ○

○ ○

鹿児島 県本土

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


29ハブタエヒラマキガイ 30ヒラマキガイモドキ カワコザラガイ科 31カワコザラガイ フネアマガイ科 32フネアマガイ 33ベッコウフネアマガイ フトヘナタリ科 34フトヘナタリ 35カワアイ 36ヘナタリガイ ウミニナ科 37ウミニナ 38ホソウミニナ 39イボウミニナ オニノツノガイ科 40コゲツノブエガイ アマオブネガイ科 41イシマキガイ 42カノコガイ 43ヒメカノコガイ 44イガカノコガイ 45コハクカノコガイ属の一種 46マルアマオブネガイ 47マングローブアマガイ 48カバグチカノコガイ 49クリグチカノコガイ 50ドングリカノコガイ 51ムラクモカノコガイ 52シマカノコガイ 53カバグチカノコガイ属の一種 54ヒロクチカノコガイ 55ツバサカノコガイ 56オカイシマキガイ 57ハナガスミカノコガイ 58レモンカノコガイ カワザンショウガイ科 59クリイロカワザンショウ 60ダテカワザンショウ 61ウスイロオカチグサ 62カワザンショウガイ 63ヒメカワザンショウガイ 64サツマクリイロカワザンショウガイ 65オイランカワザンショウガイ

○ ○

○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○

3 1 4 2 1 2 1

8 7 6 5 1 1 1 2 1 1 1 1 1 2 1 1 2 1

2

3 1 1

3 2 2

9 1

2

2 1

RESEARCH ARTICLES Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

207


208

66ウスイロヘソカドガイ 67ツブカワザンショウガイ 68クロクリイロカワザンショウガイ 69ヨシダカワザンショウガイ 70ムシヤドリカワザンショウガイ 71アカオカチグサ 72Paludinella sp. オカミミガイ科 73ナガオカミミガイ 74クリイロコミミガイ 75ヘソアキコミミガイ 76チビハマシイノミガイ 77ホソハマシイノミガイ 78ヌノメハマシイノミガイ 79キヌメハマシイノミガイ 80トリコハマシイノミガイ 81カタシイノミミミガイ 82ヒゲマキシイノミミミガイ 83ヒメシイノミミミガイ 84クロヒラシイノミガイ 85ヒメヒラシイノミガイ 86ナギサノシタタリガイ 87オカミミガイ 88シイノミミミガイ 89ナラビオカミミガイ 90キヌカツギハマシイノミガイ タマキビ科 91ヒメウズラタマキビ 92マルウズラタマキビ 93ウズラタマキビガイ ユキスズメガイ科 94ミヤコドリガイ ドロアワモチ科 95Platevindex sp. 二枚貝綱 イシガイ科 96ニセマツカサガイ 97カラスガイ 98イシガイ

分類群 和名

種子島

屋久島

口永良 部島 黒島

Table 13.鹿児島県レッドリストに基づく調査地別汽水及び淡水産貝類相出現種(続き).

硫黄島

竹島

口之島

調査地

大隅半 島南部

薩摩半 島南部 与論島

○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○

鹿児島 県本土

1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

1

1 1 1

2

3 3 1

1 1 1 1 1 1 1

出現地点数

奄美 大島

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

は強であり,汽水および淡水産貝類全 22 種中 18

1 1

1 1

1 2 1

1

2

3

1 1 1

である.改修強度において最も出現種数が多いの

70

○ ○

種確認した.  考察

○ ○ 67

○ ○

○ ○ ○

貝類相 本調査地で確認された汽水および淡水産貝類 において,海産貝類を含む場合と含まない場合の 5

両方で,カワニナを最も多くの調査地で確認する ことができ,硫黄島を除く全ての調査地で確認す

11

ることができた.その理由としては,カワニナは, 日本全国に分布する広域分布種であり,生息環境

9

に適応する柔軟性をもつ「表現型可塑性」がある ことから(増田・内山,2004),広範囲に分布す ることができるため,本調査地でも分布を拡大し 6

ていくことができたと考えられる. フネアマガイを硫黄島と竹島以外の全ての調

1

査地で,海産貝類を含む場合にアマオブネガイ科 の貝類を全ての調査地で確認することができた.

0

その理由としては,フネアマガイおよびアマオブ ネガイ科の貝類は,幼生期に海中で浮遊生活を行 い,海流に乗って分布を拡大することができ,河 6

川の汚染に対して強い種を多く含み,岩盤付着性 の生態をもつ種を多く含むことから(増田・内山,

6

2004),広範囲に分布することができるため,本 調査地でも分布を拡大していくことができたと考

7

えられる. 海産貝類を含まない場合,イシマキガイを硫

12

黄島,竹島,口之島以外の全ての調査地で確認す ることができた.その理由としては,イシマキガ イはアマオブネガイ科の中でも河川の汚染に弱い が,カワニナなどの他の淡水性巻貝類よりも岩に 付 着 す る 力 が 強 い こ と に よ り( 小 原・ 冨 山, 2000),生息場所をめぐる競争に有利となり,広 いても分布を拡大していくことができたと考えら れる. 地点別確認種類数

99マツカサガイ 100ドブガイ 101カタハガイ シオサザナミ科 102ハザクラ マクガイ科 103マクガイ イタボガキ科 104オハグロガキモドキ シジミ科 105ヤエヤマヒルギシジミ 106マシジミ 107ヤマトシジミ マメシジミ科 108チビマメシジミ 109マメシジミ属の一種 マルスダレガイ科 110ハマグリ 111アサリ

範囲に分布することができるため,本調査地にお

各調査地における汽水および淡水産貝類相は, 種子島で 9 科 12 種確認しと比較的多い.これは, 種子島が多くの河口汽水域を有し,マングローブ 干潟などの特殊な生息環境をもっているためだと

209


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

Table 14.主要環境別・調査地の出現種.(a)河口・下流域. 種名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

カワニナ タケノコカワニナ イボアヤカワニナ ヒメモノアラガイ タイワンモノアラガイ コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ スクミリンゴガイ フネアマガイ フトヘナタリ カワアイ ウミニナ イシマキガイ カノコガイ ヒメカノコガイ イガカノコガイ クリイロカワザンショウ ダテカワザンショウ ウスイロオカチグサ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ ハザクラ 種数の合計

種子島

屋久島

口永良 部島

黒島

硫黄島

竹島

口之島

大隅半 島南部

薩摩半 島南部

出現 地数

○ ○ ○

8 1 1 1 1 1 4 0 7 0 0 1 5 5 4 3 1 0 1 2 2 2

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○ 8

○ ○ 11

6

7

5

6

0

1

6

種子島

屋久島

口永良 部島

黒島

硫黄島

竹島

口之島

大隅半 島南部

薩摩半 島南部

出現 地数

○ ○

7 1 0 1 0 0 1 1 4 0 0 0 4 0 0 0 1 0 1 0 0 0

(b)河上・中流域,水路. 種名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

210

カワニナ タケノコカワニナ イボアヤカワニナ ヒメモノアラガイ タイワンモノアラガイ コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ スクミリンゴガイ フネアマガイ フトヘナタリ カワアイ ウミニナ イシマキガイ カノコガイ ヒメカノコガイ イガカノコガイ クリイロカワザンショウ ダテカワザンショウ ウスイロオカチグサ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ ハザクラ 種数の合計

○ ○ ○

3

2

○ ○

5

1

3

1

0

0

6


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

(c)マングローブ干潟. 種名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

カワニナ タケノコカワニナ イボアヤカワニナ ヒメモノアラガイ タイワンモノアラガイ コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ スクミリンゴガイ フネアマガイ フトヘナタリ カワアイ ウミニナ イシマキガイ カノコガイ ヒメカノコガイ イガカノコガイ クリイロカワザンショウ ダテカワザンショウ ウスイロオカチグサ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ ハザクラ 種数の合計

種子島

屋久島

口永良 部島

黒島

硫黄島

竹島

口之島

大隅半 島南部

薩摩半 島南部

出現 地数 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0

○ ○

○ ○

4

0

0

0

0

0

0

0

種子島

屋久島

口永良 部島

黒島

硫黄島

竹島

口之島

大隅半 島南部

0

(d)湧水地. 種名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

カワニナ タケノコカワニナ イボアヤカワニナ ヒメモノアラガイ タイワンモノアラガイ コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ スクミリンゴガイ フネアマガイ フトヘナタリ カワアイ ウミニナ イシマキガイ カノコガイ ヒメカノコガイ イガカノコガイ クリイロカワザンショウ ダテカワザンショウ ウスイロオカチグサ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ ハザクラ 種数の合計

薩摩半 出現地数 島南部

3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0

0

0

1

1

0

0

2

0

0

211


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

考えられる.主要な出現種としては,カワニナと

査地点はポイント 16 とポイント 7 であり,この

イシマキガイを多くの調査地点で確認した.これ

調査地点は河口で汽水域を含むことから,多様な

らの種は,他の調査地においても主要な出現種と

生息環境を有しており,出現種数が多くなったと

なっている広域分布種である.出現種数が多い調

考えられる.

(e)水田. 種名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

種子島

カワニナ タケノコカワニナ イボアヤカワニナ ヒメモノアラガイ タイワンモノアラガイ コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ スクミリンゴガイ フネアマガイ フトヘナタリ カワアイ ウミニナ イシマキガイ カノコガイ ヒメカノコガイ イガカノコガイ クリイロカワザンショウ ダテカワザンショウ ウスイロオカチグサ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ ハザクラ 種数の合計

屋久島

口永良 部島

黒島

硫黄島

竹島

口之島

大隅半 島南部

薩摩半 島南部

出現 地数

1 0 0 2 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0

0

0

0

0

0

0

4

1

0

水田

純淡水

汽水

○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○

○ ○ ○ ○

○ ○

Table 15.生息環境と種数の関係. 種名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

カワニナ タケノコカワニナ イボアヤカワニナ ヒメモノアラガイ タイワンモノアラガイ コシタカヒメモノアラガイ サカマキガイ スクミリンゴガイ フネアマガイ フトヘナタリ カワアイ ウミニナ イシマキガイ カノコガイ ヒメカノコガイ イガカノコガイ クリイロカワザンショウ ダテカワザンショウ ウスイロオカチグサ ヒメウズラタマキビ マルウズラタマキビ ハザクラ 種数の合計

212

生息場所

水の性状

上流

中流

下流

河口

水路

湧水

○ ○ ○

○ ○

○ ○ ○

2

3

5

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 19

○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○

7

2

2

13

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 17

改修強度

○ ○ ○ ○ ○

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 18

○ ○ ○

7

9


RESEARCH ARTICLES

屋久島では 4 科 7 種確認しており,やや種数 が少ない.これは,面積が同程度の種子島に比べ

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

盤を有していると考えられ,出現種数が多くなっ たと考えられる.

て調査を行った汽水域が少なく,マングローブ干

硫黄島は,河川などの純淡水域および汽水域

潟などの特殊な生息地を有していないためだと考

が存在しないことから,汽水および淡水産貝類を

えられる.主要な出現種としては,カワニナとイ

確認することができなかった.

シマキガイを多くの調査地で確認した.これらの

竹島では 1 科 1 種確認しか確認できなかった.

種は,他の調査地においても主要な出現種となっ

これは,竹島は河川数が少なく,生息環境が限定

ている広域分布種である.出現種数が多い調査地

されているためだと考えられる.また,多くの河

点は,ポイント 21 とポイント 17 であり,この調

川において,河口が滝になっており,生息環境の

査地点は河口で汽水域を含むことから,多様な生

攪乱が頻繁に起こるため,幼生期に浮遊生活を行

息環境を有しており,出現種数が多くなったと考

う貝類にとって安定した定着基盤となっておら

えられる.

ず,付着性の生態をもつ貝類にとって安定した付

口永良部島では 3 科 6 種確認しており,種数

着基盤となっていないことと,塩分濃度の変化が

はやや多い.これは,口永良部島は第四紀の火山

普通の河口に比べて極端になり,多様な生息環境

島であるにも関わらず,他の火山島嶼に比べて,

を提供しないため,出現種数が少ないと考えられ

淡水河川や汽水域が例外的に広い.このため,口

る.出現種は,海産貝類は数種出現しているが,

永良部島の出現種が,汽水域に生息する種が多い

汽水および淡水産貝類はカワニナしか出現してい

たのであろう.口永良部島の汽水域の貝類は,幼

ない.この種は,他の調査地においても主要な出

生期に海流に乗って屋久島などの近くの島々から

現種となっている広域分布種である.竹島は,約

移入してきたためだと考えられる.主要な出現種

7300 年前(暦年補正)に広域火山灰であるアカ

としては,カワニナとフネアマガイを多くの調査

ホヤ火山灰を噴出した鬼界カルデラのカルデラ壁

地点で確認した.これらの種は,他の調査地にお

として成立した島であり(奥野,2002),このよ

いても主要な出現種となっている広域分布種であ

うな火山活動下で,竹島の生物が生きのびたとは

る.出現種数が多い調査地点はポイント 9 とポイ

考えられず,完全に絶滅したと考えられる.この

ント 11 であり,この調査地点は河口で汽水域を

ことから,竹島の汽水および淡水産貝類の移入は

含むことから,多様な生息環境を有し,改修強度

最近起こっており,淡水産貝類にいたっては,分

が強であることから,付着性の生態をもつ貝類に

散様式として,人為的な移入による分散しか考え

とって安定した付着基盤を有していると考えら

られないため,出現種が非常に少ないと考えられ

れ,出現種数が多くなったと考えられる.

る.海産貝類を含む場合に,出現種数が多い調査

黒島では 5 科 6 種確認しており,やや種数が

地点はポイント 4 であり,この調査地点は河口で

多い.これは,島に河川が多いことと,出現種と

汽水域を含むことから,多様な生息環境を有して

して汽水域に生息する種が多いことから,多くの

おり,出現種数が多くなったと考えられる.

汽水種が,幼生期に海流に乗って南方の島々から

口之島では 5 科 6 種確認しており,やや種数

移入してきたためだと考えられる.主要な出現種

が多い.これは,口之島は河川だけでなく水田や

としては,カワニナを多くの調査地点で確認した.

湧水が多く,様々な生息環境を有しているためだ

この種は,他の調査地においても主要な出現種と

と考えられる.主要な出現種としては,カワニナ

なっている広域分布種である.出現種数が多い調

を多くの調査地点で確認した.この種は,他の調

査地点は,ポイント 7 とポイント 9 であり,この

査地においても主要な出現種となっている広域分

調査地点は河口で汽水域を含むことから,多様な

布種である.また,他の調査地ではあまりみられ

生息環境を有し,改修強度が強であることから,

ないウスイロオカチグサを多くの調査地点で確認

付着性の生態をもつ貝類にとって安定した付着基

したことから,大隅諸島の汽水および淡水産貝類

213


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

相と若干異なった貝類相となっていると考えられ

ナやハザクラのように大隅諸島および口之島,与

る.出現種数が多い調査地点はポイント 9 であり,

論島では確認されなかった貝類が確認された.ハ

この調査地点は河口で汽水域を含むことから,多

ザクラは,鹿児島県本土を分布の南限としている

様な生息環境を有し,改修強度が強であることか

可能性があるが,イボアヤカワニナは,奄美大島

ら,付着性の生態をもつ貝類にとって安定した付

でも採集された記録があるため,大隅諸島にも生

着基盤を有していると考えられ,出現種数が多く

息している可能性があり,今後詳細な貝類相の調

なったと考えられる.

査が必要であろう.

大隅半島南部では 7 科 9 種確認した.冨山ほ

与論島では,淡水産貝類を 5 科 5 種確認した.

か(2003)によると鹿児島県本土全体で 26 科 67

主要な出現種としては,タイワンモノアラガイと

種確認されているが,本調査では 9 地点と調査地

サカマキガイを多くの地点で確認した.また,ア

域の面積の割に非常に少ない調査地点しか設定で

マミカワニナや,タイワンモノアラガイのような

きなかったことにより,種数が少なくなったと考

鹿児島県本土に生息せず,奄美大島に生息する南

えられる.主要な出現種としては,カワニナとイ

方系の種を確認したことから,広域分布種を除く

シマキガイを多くの調査地点で確認した.これら

と,大隅諸島の貝類相とは全く異なった貝類相で

の種は,多くの調査地において主要な出現種と

あると考えられる.また,与論島でオキナワミズ

なっている広域分布種である.出現種数が多い調

ゴマツボを確認した.本種は,過去に種子島で確

査地点はポイント 6 とポイント 8 であり,この調

認されているため,鹿児島県内では,種子島以南,

査地点は河口干潟で汽水域を含むことから,多様

与論島以北の島々にも分布している可能性が考え

な生息環境を有し,改修強度が強であることから,

られ,今後詳細な貝類相の調査が必要である.

付着性の生態をもつ貝類にとって安定した付着基 盤を有していると考えられ,出現種数が多くなっ

生息環境と種数の関係

たと考えられる.また,大隅半島南部では,コシ

生息環境と種数の関係において,生息場所で

タカヒメモノアラガイやハザクラのように大隅諸

最も出現種数が多いのは河口,水の性状で最も出

島および口之島,与論島では確認されなかった貝

現種数が多いのは汽水,河川の改修強度で最も出

類が確認されたことから,これらの貝類は鹿児島

現種数が多いのは改修強度が強という結果になっ

県本土を分布の南限としていると考えられる.

た.

薩摩半島南部では 7 科 11 種確認した.冨山ほ

生息場所としての河口は,干潟,砂浜,転石

か(2003)によると鹿児島県本土全体で 26 科 67

海岸,藻場,ヨシ原,マングローブ林などの各環

種確認されているが,本調査では 9 地点と調査地

境に応じて生物相が変化するという特徴がある.

域の面積の割に非常に少ない調査地点しか設定で

また,水の性状としての汽水は,塩分濃度に応じ

きなかったことにより,種数が少なくなったと考

て生物相が変化するという特徴と,淡水域に比べ

えられる.主要な出現種としては,カワニナとイ

て栄養塩類を多く含むという特徴がある.汽水は,

シマキガイを多くの調査地点で確認した.これら

一般的に河口で淡水と海水が混ざり合うことによ

の種は,多くの調査地において主要な出現種と

りできるので,河口と汽水は互いの特徴を共有し

なっている広域分布種である.出現種数が多い調

ている.そのため,河口と汽水は多様な種が生息

査地点はポイント 6 であり,この調査地点は河口

可能となり,出現種数が多いと考えられる.

干潟で汽水域を含むことから,多様な生息環境を

改修強度が強の河川は,本調査地の全河川中

有し,改修強度が強であることから,付着性の生

55%を占め,多くの河川が 2 面護岸以上の護岸が

態をもつ貝類にとって安定した付着基盤を有して

されている状態であり,2 面護岸に多いコンク

いると考えられ,出現種数が多くなったと考えら

リート護岸は,付着性の貝類にとって安定した付

れる.また,薩摩半島南部では,イボアヤカワニ

着基盤となる.本調査地で確認した汽水および淡

214


RESEARCH ARTICLES

水産貝類は付着性の貝類が多いことから,付着性 の貝類にとって安定した生息環境となる改修強度 強のコンクリート護岸に出現種数が多くなったと 考えられる.また,コンクリート護岸は,採集を 行う際に貝類を見つけやすいことから出現種数が 多くなった可能性も考えられる. 以上のように,今回の調査によって,大隅諸 島の淡水汽水産貝類の生息現況を明らかにするこ とができた.今後は,各産地の貝類相の類似度か らファイナ構成の類縁性を考察し,種数 - 面積関 係などのより深い生物地理学的な考察を行いた い.  謝辞 本研究を行うにあたり,調査に同行していた だいた平澤 建氏に深く感謝いたします.論文執 筆にあたり,様々な助言をして頂いた鹿児島大学 理学部鈴木英治教授,山根正氣教授および小野田 剛,喜多隆海,松本千香,Ruliyana Susanti の各氏, 鹿児島大学理工学研究科地球環境科学専攻の皆様 に深く感謝いたします.最後に,黒島における調 査の際にお世話になった片泊小学校の諸先生方,

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

 引用文献 黒田徳米,1955.屋久島の陸産貝類相 . Venus, 18 (3): 145– 147. 増田 修・早瀬善正,2000.奄美大島産陸水生貝類相.兵 庫陸水生物,51·52: 305–343. 増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑②汽水 域を含む全国の淡水貝類.240 pp.株式会社ピ – シ – ズ, 横浜. 湊 宏・楠井善久,1997.口永良部島産の淡水貝類 4 種. 九州の貝,48: 19–20. 小原淑子・冨山清升,2000.同一河川に生息するカワニナ とイシマキガイのニッチ分け.Venus, 59 (2): 135–147. 大迫暢光,1956.種子・屋久を中心とする陸産貝類相.9 pp.鹿児島大学理学部生物学教室,鹿児島. 奥野 充,2002.南九州に分布する最近 3 万年間のテフラ の年代学的研究.第四紀研究,41: 225–236. 大 嶋 和 雄,1977. 海 峡 形 成 史(VI). 地 質 ニ ュ – ス,280: 36–44. 徳田御稔,1969.生物地理学.199 pp.築地書館,東京 . 冨山清升,1983.中・北部琉球列島における陸産貝類相の 数量的解析.日本生物地理学会会報,38: 11–22. 冨山清升,1984.鹿児島県三島村の陸産貝類相と陸産貝類 の分散様式について.沖縄生物学会誌,22: 23–26. 冨山清升・行田義三・坂下康典,2003.陸産貝類・淡水汽 水産貝類.鹿児島県環境生活部環境保護科(編).鹿児 島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編.鹿児 島県レッドデ – タブック.財団法人鹿児島県環境技術 協会 , 鹿児島,pp. 297–546.

硫黄島の調査の際にお世話になった三島村役場硫 黄島出張所長徳田和良,種子島の調査の際にお世 話になった向田 勝の各氏に深く感謝いたしま す.

215


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

216

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島湾の重富干潟における底生生物相及びその生息環境の変化 1

2

上野綾子 ・佐藤正典 ・山本智子 1

3

〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学大学院水産学研究科 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科 3

〒 890–0056 鹿児島市荒田 4–50–20  鹿児島大学水産学部

 はじめに  干潟とは川から運ばれた砂泥が堆積してできた 地形で,波浪が少なく潮の満ち引きが大きい内湾 などに形成される.そこに棲むさまざまな種の動 物が,有機物の除去や生態系内の物質循環に関し て重要なはたらきを担っており,干潟のエコトー ンとしての機能を支えている(菊池,1993).し かし,1940 年代から 90 年代にかけて干拓や埋め 立てなどで日本の約 40% の干潟が消失し(環境 省自然保護局,1994),干潟生物のもつこのよう な機能の劣化が懸念される.  底生生物相が変化する要因としては,主に干潟 における富栄養化やそれに伴う貧酸素化,餌の減 少等,底質中の環境や水質に関わるものだけでな く,河川や沿岸の流れがもたらす地形や堆積環境 の変化など物理的な要因も考えられる.後者に関 する研究は多くないが,鹿児島湾奥の干潟におい

り,干潟の環境変化が著しいと考えられる.そこ で,松下(1995)および桝屋(2006)と今回の調 査(2012)との比較から,底生生物相と生息環境 の変化を明らかにすることを目的とした.  調査方法 底生生物相の調査及び統計解析 調査は鹿児島湾奥の重富干潟にて,2012 年 7 月 20 日および 21 日の大潮干潮時におこなった (Fig. 1). 山本ほか(2009)を参考にし,干潟上に海岸 線とほぼ垂直に 3 本のラインを引き,1994 年 3, 4 月,2005 年 5 月の調査ラインを再現した.底生 生物の採集地点は,2005 年の調査ステーション の位置をできるだけ再現する事とし,Line 1 では 20 m おきに,Line 2 では 25 m おきに,Line 3 で は 30 m おきに,それぞれ等間隔に設置した.各

て は,1977 年 か ら 2003 年 に か け て, 面 積 が 約 200 ha から約 60 ha に減少しており(山本・小玉, 2009),地形の変化に伴う環境変化が底生生物相 に影響を与えている事が予測されている.  調査地である鹿児島県姶良市平松の重富干潟 は,思川の河口,南北 1.5 km にわたって広がる 河口・前浜干潟が組み合わさって形成されており, 鹿児島湾内の干潟では最大のものである.しかし, 重富干潟でも周囲の海岸線の埋め立てが進んでお     Ueno, R., M. Sato and T. Yamamoto. 2014. Changes in macrobenthic fauna and environmental condition of their habitats of the Shigetomi-higata tidal flats in Kagoshima Bay. Nature of Kagoshima 40: 217–223. TY: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: yamamoto@fish.kagoshima-u.ac.jp).

Fig. 1. 調査地とライントランセクト位置.山本ほか(2009) を改変.

217


218

節足動物門甲殻綱

環形動物門多毛綱

軟体動物門腹足綱

軟体動物門二枚貝綱

アサリ ハザクラガイ ソトオリガイ ホトトギスガイ カガミガイ シオフキ ユウシオガイ テリザクラガイ イタボガキ科の 1 種(ウミニナに付着) ウミニナ アラムシロガイ ヒメカノコ トミガイ チロリ ヒナサキチロリ ニカイチロリ科の 1 種 ハナオカカギゴカイ シリス科の 1 種 コケゴカイ Leonnates 属の 1 種 シロガネゴカイ科の 1 種 タンザクゴカイ科の 1 種 Marphysa 属の 1 種 ギボシイソメ科の 1 種 ドロオニスピオ スピオ科の 1 種 ムギワラムシ ミズヒキゴカイ ツツオオフェリア Notomastus 属の 1 種 イトゴカイ科の 1 種 ( 大型種 ) 多毛綱の 1 種 ニホンイサアザミ ワレカラ下目の 1 種

和名

Table 1. 採集された底生生物の種リスト.

Ruditapes philippinarum Psammotaea minor Laternula marilina Musculista senhousia Phacosoma japonicum Mactra veneriformis Moerella rutila Moerella iridescens Osteridae sp. Batillaria multiformis Reticunassa festiba Clithon oualaniensis Polinices mammilla Glycera nicobarica Hemipodia yenourensis Goniadae sp. Sigambra hanaokai Syllidae sp. Ceratonereis erythraeensis Leonnates sp. Nephtyidae sp. Chrysopetalidae sp. Marphysa sp. Lumbrineridae sp. Pseudopolydora cf. kempi Spionidae sp. Mesochaetopterus japonicus Cirriformia tentaculata Armandia lanceolata Notomastus sp. Capitellidae sp. Polychaeta sp. Neomysis japonica Caprellidae sp.

学名

〇 〇

〇 〇

line 1 〇 〇 〇

〇 〇 〇

〇 〇

〇 〇

〇 〇

〇 〇

〇 〇

〇 〇

line 1 〇

〇 〇

〇 〇 〇

line 3 〇

〇 〇

1994 line 2 〇

〇 〇

〇 〇

〇 〇

〇 〇

line 3 〇

〇 〇 〇 〇

〇 〇 〇

2005 line 2 〇

〇 〇

〇 〇 〇 〇

line 1 〇 〇

〇 〇 〇 〇

2012 line 2 〇 〇

〇 〇 〇

line 3 〇 〇

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ステーション上に直径 17 cm の塩ビパイプ(コア) を 3 個ずつ設置し,コアを泥中 10 cm まで挿し込

み,その中の堆積物を 1 mm メッシュの篩で篩っ て残った生物を回収した. 〇

〇 〇

底生生物群集が年ごとにどのように変移して い る か を 調 べ る た め に, 非 多 次 元 尺 度 構 成 法

〇 〇

〇 〇

〇 〇 〇

(nMDS)を用いた群集解析を行った.今回の解 析には,各ラインで採集された底生生物各種の 1 2

使用し,ライン間の非類似度指数を以下の式に

〇 〇

〇 〇

平方メートルあたりの個体数(個体数/ 1m )を

〇 〇

よって計算した.また,1994 年,2005 年,2102 年でそれぞれ最干潮位が異なるため,2102 年に 設置した一番沖側のステーションより高いものの 〇

み選択した. 非類似度指数の算出方法は以下の式の通りで

ある.

上記の式では,S は非類似度指数,

Amphipoda sp. 1 Amphipoda sp. 2 Cumacea sp. Hippolytidae sp. Crangon affiniscomplex Callianassa japonica Philyra pisum Hemigrapsus penicillatus Helice japonica Paguridae sp. Diogenes nitidimanus Nemertinea sp. Edwardsiidae sp. Patinapta ooplax

1 の i 番目の個体数,

は群集

は群集 2 の i 番目の個体

数とする. 環境解析 底質環境については,ステーションごとに干 潟表面 2 cm までの泥を内径 29 mm のコアサンプ ラーで採集し,有機物含有量と粒度組成を解析し

端脚目の 1 種 1 端脚目の 1 種 2 クーマ目の 1 種 モエビ科の 1 種 エビジャコ類似種群 * ニホンスナモグリ ** マメコブシガニ ケフサイソガニ ヒメアシハラガニ ホンヤドカリ科の 1 種 テナガツノヤドカリ ヒモムシ類の 1 種 ムシモドキイソギンチャク科の 1 種 ヒモイカリナマコ

た.有機物含有量は,120℃・12 時間の乾燥後と, 電気炉で 650℃・2 時間燃焼後の重量を秤量し, 減量分を重量パーセントで示した.また粒度組成 は,採集した泥を 120℃・12 時間乾燥後,1 mm, 0.063 mm の電動篩を用いて,10 分ずつふるった. その後,0.063 mm 以下の粒子の重量割合である シルトクレイ率と 1 mm 以上粒度の割合を算出し た.ただし、1994 年のサンプルは,水中で水が 濁らなくなるまでふるい,篩に残った泥を乾燥さ せ重量を計測した.分析方法の違いが結果に影響

紐形動物門 刺胞動物門花虫綱 ナマコ綱

しないことは確認済みである(山本ほか,2009). なお,泥の採集は原則として生物の調査時に行っ たが,有機物含有量の算出に用いた 1994 年のサ ンプルについては,12 月 14 日に採集した.

219


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 2. Line 1 における生物群集の変化.縦軸は 1 m2 あたり の個体数を,横軸は基点からの距離をそれぞれ表す.また, 年によってステーション位置(m)が異なるため,棒グ ラフが表示されていない地点は,その年ステーションを 設置していないことを示す.

 結果と考察

RESEARCH ARTICLES

Fig. 3. Line 2 における生物構造の変化.縦軸は 1 m2 あたり の個体数を,横軸は基点からの距離をそれぞれ表す.また, 年によってステーション位置(m)が異なるため,棒グ ラフが表示されていない地点は,その年ステーションを 設置していないことを示す.

231.17(個体数/ m2)であったが,2005 年には

1994 年に出現した生物種数は全体で腹足類 1

433.05(個体数/ m2)と増加した.しかし,種

種,二枚貝類 6 種,甲殻類 5 種,多毛類 8 種の計

組成別にみると,二枚貝が減少し,多毛類と腹足

20 種であったが,2005 年には腹足類 3 種,二枚

類が増加していた(Fig. 5).2012 年には 108.36(個

貝類 4 種,甲殻類 9 種,多毛類 17 種,その他 2 種,

体数/ m )と大幅に減少し,平均個体数密度は

全部で 35 種に増加した.2012 年には,腹足類 4 種,

種数と同じ変動パターンを示した.特に二枚貝類

二枚貝類 5 種,甲殻類 3 種,多毛類 4 種,その他

は 1994 年から 2005 年の変化よりさらに減少して

1 種で計 17 種と再び減少した(Table 1).

いた.

2

1994 年,2005 年,2012 年の各ステーションに

1994 年 の 優 占 種 は ア サ リ(Ruditapes

おける底生生物の個体数を,Fig. 2–4 に示す.ス

philippinarum)であり,2005 年では多毛類のツツ

テーションを設置した場所は年によって異なる

オフェリア(Armandia lanceolata)であった.また,

が,縦にほぼ同じ場所で採集したデータが並ぶよ

2012 年は腹足綱ウミニナ(Batillaria multiformis)

うに配置した.ライン 1 では,2005 年に腹足類

であり,これは 2005 年では全体の約 20% であっ

が増加することで全体の個体数も増加し,その後

たのに対し 2012 年には 75% で,7 年の間に急激

2012 年にはさらに増加した.ライン 2,3 では,

に増加していた(Fig. 5).

2005 年に多毛類が増加して全体の個体数が増加 したが,2012 年には再び減少している. 1 m2 あ た り の 平 均 個 体 数 は,1994 年 に は

220

1994 年には出現していたが 2005 年には見られ なかった種として,ホトトギスガイ(Musculista senhousia)やハザクラガイ(Psammotaea minor),


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 5. 各ラインの生物相の年変化 .

Fig. 4. Line 3 における生物群集の変化.縦軸は 1 m2 あたり の個体数を,横軸は基点からの距離をそれぞれ表す.また, 年によってステーション位置(m)が異なるため,棒グ ラフが表示されていない地点は,その年ステーションを 設置していないことを示す.

カガミガイ(Phacosoma japonicum)などの二枚 貝が挙げられる.その一方で,1994 年に出現し なかったが 2005 年に出現した種として,ウミニ

Fig. 6. ラインごとの生物群集の非多次元尺度法(nMDS)の 結果.

ナ,ヒメカノコ(Clithon oualaniensis)などの腹 足類であった(Table 1).また,山本ほか(2009) によると,アサリの 1 個体あたりの重量が減少し,

6).重富干潟の底生生物群集構造は,1994 年か

多毛類に限っては大型種が減り小型種の増加して

ら 2005 年,2012 年と継続してして変化している

いる事が解っている.2005 年には出現し 2012 年

と考えられる.具体的には,1994 年から 2005 年

には出現しなかった種は,ツツオオフェリアや

にかけて種数・個体数は増加していたが,埋在性

Marphysa 属の 1 種(Marphysa sp.)ムギワラムシ

である二枚貝類の減少や多毛類の小型種の増加が

(Mesochaetopterus japonicus)など多くの多毛類で

進む一方で,表在性の腹足類ウミニナは増加して

あった.一方で,1994 年と 2005 年には出現しな

いた.また,2005 年から 2012 年にかけては種数・

かったが 2012 年に出現した種として,肉食性の

個体数も大幅に減少,特に埋在性である二枚貝,

トミガイ(Polinices mammilla)が挙げられる(Table

多毛類が多く減少し,腹足類ウミニナが優占種と

1).

なるほど増加していた(Fig. 5).

各ラインの生物群集を nMDS により解析した ところ,二次平面上では 1994 年,2005 年,2012 年, それぞれの年代ごとでプロットが分かれた(Fig.

生物群集における変移の要因として,有機物 含有量,高度,粒度の変化から考察を行った. 強熱減量から算出した有機物含有量は,Line 1

221


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Fig. 7. ラインごとの強熱減量.縦軸は強熱で減少した割合, 横軸は基点からの距離を表す.

RESEARCH ARTICLES

Fig. 9. ラインごとの 1 mm 以上の粒子率.縦軸はサンプル全 体量における直径 1 mm 以上の粒子の割合,横軸は基点 からの距離を表す.

で 2004 年から 2012 年の間に干潟上部で 2% から 10% に変化していたことを除けば,1–2% の範囲 で変動しており,大きな変化は見られなかった (Fig. 7).この事から,生物群集変化の要因として, 富栄養化や貧酸素は考えにくい. しかし,シルトクレイ率では大きな変化がみ られた(Fig. 8).Line 1 において,1994 年にほと ん ど の ス テ ー シ ョ ン で 30% 以 上 で あ っ た が, 2005 年には 10% 以下となり,2012 年にもほぼ同 じ値を示した.Line 2 では,1994 年から 2005 年 にかけて全体で 10% ほど低下していたが,2012 年には上昇している地点もみられた.Line 3 は中 部で 1994 年から 2005 年に低下していたが,2012 年にかけてはあまり変化がみられなかった. 一方で,1 mm 以上の粒子の割合については, 1994 年のデータが得られなかったため,2005 年 と 2012 年の比較を行った(Fig. 9).Line 1 にお Fig. 8. ラインごとのシルトクレイ率変化.縦軸はシルトク レイ率,横軸は基点からの距離を表す.

いては,上部から中部にかけて 10–15% ほど上昇 していた.また,Line 2 と Line 3 では 2012 年の 上部から下部にかけて変動があるものの,全体的

222


RESEARCH ARTICLES

に上昇していることが分かった.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

この場を借りて厚く御礼申し上げる.最後に,野

これらのことから,シルトクレイ率の変動と

外調査にご協力下さった 2012 年度鹿児島大学海

粒度の大型化は著しく,この環境変化が生物群集

洋センター生物多様性研究室の先輩・同輩の皆様

構造に大きな影響を及ぼしていると考えられる.

に深く感謝する.

粒度の大型化は,何らかの原因で波や河川などの 流れが変化し,細かい砂粒が流された結果とも考 えられる.流れの変化は干潟全体の地形変化もも たらしている可能性があるため,今後は,生物相 の調査を継続すると共に,リモートセンシングな ど新たな手法を応用して,干潟の地形変化を詳し く調査する必要がある.  謝辞 甲殻類の種同定にあたりご指導・ご助言下さっ た, 鈴 木 廣 志 教 授( 鹿 児 島 大 学 水 産 学 部 ), ArcGIS 解析に関してご協力頂いた鶴成悦久氏(鹿 児島大学水産学研究科),ならびに調査の際にご 協力下さった NPO 法人くすの木自然館の皆様に

 引用文献 環境省自然保護局.1994.海域生物環境調査報告書(干潟, 藻場,サンゴ礁調査).財団法人海中公園センター,東 京.291 pp. 菊池泰二.1993.干潟生態系の特性とその環境保全の意義. 日本生態学会誌,43: 223–235. 松下耕治.1995.鹿児島湾の重富海岸および喜入海岸にお ける干潟底生動物の分布.平成 6 年度鹿児島大学理学 部卒業論文.119 pp. 桝屋 藍.2006.重富海岸における干潟底生動物相の変化 (1994–2005).平成 17 年度鹿児島大学水産学部卒業論 文.11 pp. 山本智子・小玉敬興.2009.過去 60 年間における鹿児島湾 奥の海岸線の変.Nature of Kagoshima, 35: 55–57. 山本智子・桝屋 藍・松下耕治・佐藤正典.2009.鹿児島 湾の重富干潟における底生動物相の変化 — 1994 年と 2005 年の比較 —.ベントス学会,64: 32–44.

223


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

224

RESEARCH ARTICLES


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

桜島産後鰓類および二枚貝類の現況調査 若林佑樹・木村喬祐・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科

要旨 桜島は鹿児島県鹿児島市にある活火山で,

た.後鰓類よりも複数の地点でみつかる種が多

現在も活発な活動を続けている.桜島の海岸系に

かったが,1 地点からのみ出現した種もいた.

は溶岩に由来する転石海岸や扇状地由来の海岸が

 今回の調査の結果から,後鰓類および二枚貝類

みられる.過去の研究おいて稲留・山本(2005)

については以下のことが考えられる.後鰓類につ

のように,溶岩の流出年代の違いやこれによる転

いては 8 地点中 1 地点からしか出現しなかった種

石の性質の違いが貝類相にどのような影響を与え

が多くみられたが,これらの種の分布様式が狭い

ているかを調査したものがあるが,この調査では

と結論付けることは難しいと考えられた.また,

桜島北西部など未調査の箇所があった.そこで本

出現したクロシタナシウミウシのなかには今後の

研究では,桜島全体の海岸を調査し,後鰓類相お

研究により,その詳細が明らかになると考えられ

よび二枚貝類相の生息現況を明らかにすることを

る種が含まれていた.二枚貝類についてはカリガ

目的とした.

ネエガイ Barbatia (Savignyarca) virescens が全地点

 調査は桜島の海岸に 8 ヶ所の調査地点を設置し

から出現し,過去の研究と併せて考えると本種は

て行った.採取は大潮の干潮時に,見付け取りに

桜島において最も一般的な種であるといえる.

より行った.採取した後鰓類・二枚貝類は必要な 処理を行った後に同定,データ処理をし,まとめ

 はじめに

た.

 桜島は鹿児島県,錦江湾の湾奥に位置する活火

 データをまとめた結果,後鰓類は桜島の 8 つの

山である.桜島の誕生は約 1 万 3 千年,姶良カル

海岸から合計 25 種が得られた.最も多くの種が

デラの南東に出現した.溶岩の流出などを伴いな

出現したのは桜島西部,最も少なかったのは桜島

がら成長し,まず最初に桜島の原形となる北岳成

北東部,南東部の地点であった.後鰓類は同種が

層火山が形成された.次いで誕生したのが南岳成

複数の地点から出現することが少なく,複数の地

層火山であり,北岳同様に成長,形成された.そ

点から出現したのは 25 種中 3 種であった.二枚

してこの北岳,南岳の間に誕生したのが中岳であ

貝類は桜島の 8 つの海岸から合計 25 種が確認さ

り,現在ではこの 3 つがほぼ同じ高さに並ぶため,

れた.最も多くの種が出現したのは桜島北部の地

桜島の全景は台形に近い形をしている.

点で,最も少なかったのは桜島東部の地点であっ

 また,桜島の各所には異なる年代の溶岩流出に

    Wakabayashi, Y., K. Kimura, and K. Tomiyama. 2014. Present situation of distribution of Prosobranchia and Bivalvia at interdidal zone in Sakurajima, Kagoshima, Japan. Nature of Kagoshima 40: 225–236. KT: Department of Earth and Environmental Sciences, Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@ sci.kagoshima-u.ac.jp).

より形成された転石海岸がみられる.その中でも 代表的なのが桜島西部に位置する袴腰で,この場 所は過去にも貝類に関する研究が行われてきた場 所であり,行田(2007)の中においても生息する 貝の一例が紹介されている.しかし,いずれも桜 島の一部の海岸もしくは一部の種に限定したもの がほとんどである.このような中で桜島の複数の

225


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

ある.彼らは巻貝の仲間であるが,貝殻は消失す る方向へと進んでいる.このため,軟体部の形や 色は多様性に富む.体長は数 mm から数十 cm に なるものまであるが,多くは数 cm 程度である. ほぼすべての種が海産であり,南北に延びる日本 近海では熱帯・亜熱帯種,温帯種,亜寒帯種がみ られ,1000 種以上が確認されている(生物学御 研究所,1948;波部ほか,1999;伊藤,1999;平 野,2009). Fig. 1.桜島における調査地点の地図.

二枚貝類は軟体動物門二枚貝綱に属する生物 である.また,足の形から斧足類,鰓の形から弁 鰓類,頭部を欠くことから無頭類とも呼ばれる.

海岸を調査地点とし研究を行ったものに稲留・山

身体の構造は軟体部を左右から二枚の石灰質の殻

本(2005)がある.この研究は,溶岩流出の年代

が包むという造りをしている.殻の形は三角形,

の違いが貝類相に与える影響について調査したも

丸型,前後に細長いものなど様々であり,二枚の

のである.しかし,この研究においては調査地点

殻は通常左右等殻であるが,そうならないものも

にやや偏りがあり,特に桜島北東部については調

いる.巻貝とは異なり口内には歯舌および物を飲

査が行われておらず,桜島全体を網羅したもので

み込むための筋肉が存在せず,また触角や眼と

はない.

いった構造も無い.生息場所に関してもすべてが

 また,巻貝の仲間である後鰓類に関しても,桜

淡水産もしくは海産であり,陸産の種は存在しな

島に焦点を絞って行われた研究は過去にはない.

い.海産のものは満潮線付近から水深 10000 m の

後鰓類図鑑である中野(2013)においては写真の

深海まで広く分布し,日本の周辺では約 1000 種

撮影地のひとつとして錦江湾が含まれているが,

程度が知られている.

桜島というひとつの地点においてその分布状況を まとめたものはない.このため今現在,桜島にお いての後鰓類の分布状況は一切明らかになってい

調査地 本研究は桜島を調査地とし,調査は桜島周縁

ない状況である.

の海岸 8 カ所を調査地点として設定し行った(図

 そこで本研究では,桜島の複数の海岸にて調査

1).調査地点は桜島全体を調査する,という目的

を行い,そこから桜島全体の後鰓類および貝類の

からこれを満たすように設置する必要があった.

分布状況についてデータを得ることを目的とし

このため,地質の状況(鹿児島県,1972;福山・

た.

小野,1981;石川,1992)も加味しながら,おお

 材料と方法 研究対象 本研究は軟体動物の後鰓類および二枚貝類を

よそ 8 方位と同じ方向に位置する海岸を調査地点 として選んだ.以下に示す 8 地点が今回の調査地 点 で あ る.Pt. A・ 桜 島 西 部 袴 腰(31°35ʹN, 130°36ʹE),Pt. B・ 桜 島 北 部 二 俣 町(31°38ʹN,

対象として行ったものである.後鰓類とは,新分

130°39ʹE),Pt. C・ 桜 島 南 部 有 村 町(31°33ʹN,

類体系において軟体動物門腹足綱直腹足亜綱異鰓

130°40ʹE),Pt. D・ 桜 島 南 西 部 赤 水 町(31°34ʹN,

上目の内の 1 グループという位置にいる生物で,

130°37ʹN),Pt. E・ 桜 島 東 部 浦 之 前(31°36ʹN,

これにはウミウシやアメフラシの仲間が含まれ

130°43ʹE),Pt. F・ 桜 島 北 西 部 藤 野 町(31°37ʹN,

る.後鰓類という名称は,この一群が鰓を心臓よ

130°37ʹE),Pt. G・ 桜 島 北 東 部 割 石 崎(31°38ʹN,

りも身体の後方にもつことから付けられたもので

130°40ʹE),Pt. H・ 桜 島 南 東 部 牛 根 麓(31°33ʹN,

226


RESEARCH ARTICLES

130°43ʹE). また設定した地点の内,桜島の東側に位置す

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

の科に属する種の数,N は得られた種数の合計を それぞれ示す.

るものに関しては流出した溶岩により生じた地形 のため,8 方位からややずれた位置に設定するこ ととなった(Pt. E, G, H).特に桜島南東部の調査

類似度は野村 ・ シンプソン指数を用いて計算

地点(Pt. H)についてはやむを得ず桜島に最も

した.式中の a および b は異なる 2 地点にそれぞ

近い海岸を選んだものであり,厳密には桜島では

れ出現した科の数を示し,c は比較する 2 地点に

ない.

共通して出現した科の数を示す.また,これによ り算出した値をもとに Mountford 法を用いてデン

調査手法

ドログラムを作成した.

本研究では野外で採取したサンプルを実験室 で処理し,データを得た.手順は以下の通りであ る.まず,野外での採集の手順からみていく.野 外においての採取は 2013 年 4 月から 12 月の間に 実施した.採取は大潮の日の最干の前後 1 時間を 目安に,各地点の潮間帯の上部から下部までを範 囲とし,採取方法は見付け取りにて行った.次に 採取したサンプルの実験室内での処理についてみ ていく.実験室内での処理は後鰓類と二枚貝類と で異なる方法をとった.後鰓類については,まず 生体の撮影を行い,匍匐中の生体全長を測定した. この後に各個体ともエタノールで固定した.軟体 の 一 部 を 切 除 し た も の を DNA 解 析 用 と し て 100% エタノールで固定し,残りを 50% エタノー ルで解剖用として固定した.またサンプルの同定 を,生体あるいは生体写真をもとに中野(2009, 2011),小野(2004),加藤(2009)を参照し行っ た.二枚貝類については,まずサンプルを同定可 能な程度に水道水で洗浄した後,乾燥処理を行っ た.この作業が完了した後に各サンプルの同定を 行った.同定は基本的に奥谷(2000),行田(2007), 今原(2011)をもとに行ったが,同定が困難なも のに関しては行田(2000, 2007)の著者である行 田義三先生にご意見を頂いて行った. データの処理 サンプルを同定し得られたデータについては まず,種名リストという形でまとめた.次にこの データをもとに各地点の多様度,類似度を求めた. 多様度の計算には Simpson の多様度指数を用いた (木元,1975).式中の S は科の数,ni は第 i 番目

 結果 桜島の 8 つの海岸から得られた種の一覧 後鰓類および二枚貝類について桜島の 8 地点 から得られた個体を種ごとに Tables 1–2 に示し た.また,後鰓類に関しては撮影した生体写真を 図版として掲載した.まず,後鰓類についてみて いく.後鰓類は桜島の 8 つの海岸から頭楯亜目 4 種,無楯亜目 2 種,嚢舌亜目 2 種,側鰓亜目1種, 裸鰓亜目 15 種の合計 24 種が出現した.このうち, 裸鰓亜目の 1 種については同定に用いた資料の中 に該当すると思われる種が見当たらなかったた め,Table 1 には不明種として記載したが,以後 のデータ処理からは外した.また,クロシタナシ ウミウシ(Dendrodoris fumata)に関しては複数 の色彩タイプが発見された.これらのタイプは別 種として独立させることもあるが,中野(2013) ではこれらを同一種としてまとめているため,こ こでもひとつの種として扱うこととする. 地点ごとに出現した種数をみてみると,最も 多くの種が出現した地点は Pt. A で, 嚢舌亜目 1 種, 裸鰓亜目(不明種を含む)8 種の合計 9 種が確認 された.これに対し最も出現した種が少なかった 地点は Pt. G, H の 2 地点で,いずれも頭楯亜目 1 種がみつかったのみであった.種ごとに出現した 地点数をみた場合,複数地点で確認されたのはキ ヌハダモドキ(Gymnodoris citrina),アマクサア メフラシ(Aplysia juliana),クロシタナシウミウ シ(Dendrodoris fumata) の 3 種 で あ っ た. キ ヌ

227


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

ハダモドキ,クロシタナシウミウシは 3 地点(そ

みつかった.

れぞれ Pt. C, D, F,Pt. B, E, F),アマクサアメフ

次に二枚貝類についてみていく.二枚貝類は

ラシについては 2 地点(それぞれ Pt. B, D)から

桜島の 8 つの海岸からフネガイ目 4 種,イガイ目

Table 1.桜島 8 地点から採取した後鰓類の一覧.+はその地点で出現した種を,-はその地点で出現しなかった種を表す. Pt.A Pt.B Pt.C Pt.D Pt.E Pt.F Pt.G Pt.H 後鰓目 頭楯亜目 ナツメガイ上科 ナツメガイ科 タイワンナツメ (Bulla ampulla) ブドウガイ上科 ブドウガイ科 ブドウガイ (Haminoea japonica) ミドリガイ科 ミドリガイ (Smaragdinella calyculata) キセワタ上科 カノコキセワタガイ科 アカボシツバメガイ (Chelidonura fulvipunctata) 無楯亜目 アメフラシ上科 アメフラシ科 アマクサアメフラシ (Aplysia juliana) フレリトゲアメフラシ (Aplysia leachii leachii) 嚢舌亜目 チドリミドリガイ上科 チドリミドリガイ科 コノハミドリガイ (Elysia ornata) ヒラミルミドリガイ (Elysia trisinuata) 側鰓亜目 カメノコフシエラガイ上科 カメノコフシエラガイ科 ウミフクロウ (Pleurobranchaea maculata)   裸鰓亜目 裸鰓亜目の一種(不明種) ドーリス上科 顕鰓ウミウシ類 キヌハダウミウシ科 キヌハダモドキ (Gymnodoris citrina) キヌハダウミウシ (Gymnodoris inornata) 隠鰓ウミウシ類 ツヅレウミウシ科 ツヅレウミウシ (Tayuva lilacina) ヤマトウミウシ (Homoiodoris japonica) ゴマフビロードウミウシ (Jorunna parva) クモガタウミウシ (Platydoris ellioti) イロウミウシ科 シロウミウシ (Chromodoris pallescens) アオウミウシ (Hypselodoris festiva) 孔口ウミウシ類 クロシタナシウミウシ科 ミヤコウミウシ (Dendrodoris denisoni) クロシタナシウミウシ (Dendrodoris fumata) ミノウミウシ上科 ヨツスジミノウミウシ科 フタスジミノウミウシ (Facelina bilineata) セトミノウミウシ (Setoeolis inconspicua)fp. オオミノウミウシ科 Baeolidia 属の一種(Baeolidia sp.) イロミノウミウシ (Spurilla neapolitana) 地点合計

228

出現 出現率 地点数

出現 順位

1

13%

4

1

13%

4

1

13%

4

1

13%

4

- -

+ +

- -

+ -

- -

- -

- -

- -

2 1

25% 13%

3 4

+ -

- -

- -

- -

- +

- -

- -

- -

1 1

13% 13%

4 4

1

13%

4

1

- -

- -

+ -

+ -

- +

+ -

- -

- -

3 1

38% 13%

1 4

+ - + +

- + - -

- - - -

- - - -

- - - -

- - - -

- - - -

- - - -

1 1 1 1

13% 13% 13% 13%

4 4 4 4

+ +

- -

- -

- -

- -

- -

- -

- -

1 1

13% 13%

4 4

- -

+ +

- -

- -

- +

- +

- -

- -

1 3

13% 38%

4 1

- -

+ -

- +

- -

- -

- -

- -

- -

1 1

13% 13%

4 4

+ + 9

- - 6

- - 3

- - 3

- - 4

- - 2

- - 1

- - 1

1 1

13% 13%

4 4


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Table 2.桜島 8 地点から採取した二枚貝類の一覧.+はその地点で出現した種を,-はその地点で出現しなかった種を表す. Pt. A Pt. B Pt. C Pt. D Pt. E Pt. F Pt. G Pt. H 出現地点数 二枚貝綱 翼形亜綱 フネガイ目 フネガイ上科 フネガイ科 コベルトフネガイ (Arca boucardi) エガイ (Barbatia (Abarbatia) lima) カリガネエガイ (Barbatia (Savignyarca) virescens) ミミエガイ (Arcopsis symmetrica) イガイ目 イガイ上科  イガイ科 ムラサキイガイ (Mytilus galloprovincialis) クジャクガイ (Septifer bilocularis) シロインコ (Septifer excisus) ヒバリガイモドキ (Hormomya mutabilis) ヒナタマエガイ (Musculus nanus) タマエガイ (Musculus (Modiolarca) cupreus) ウグイスガイ目 ウグイスガイ上科 シュモクガイ科 シュモクガイ (Malleus (Malleus) albus) カキ目 イタヤガイ亜目 イタヤガイ上科 イタヤガイ科 ナデシコガイ (Chlamys (Laevichlamys) irregularis) ウミギク科 チリボタン (Spondylus cruentus) カキ亜目 カキ上科 イタボガキ科 マガキ (Crassostrea gigas) ケガキ (Saccostrea kegaki) 異歯亜綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ上科 チリハギガイ科 チリハギガイ (Lasaea undulata) トマヤガイ上科 トマヤガイ科 トマヤガイ (Cardita leana) キクザルガイ上科 キクザルガイ科 キクザル (Chama japonica) モシオガイ上科 モシオガイ科 スダレモシオ (Nipponocrassatella nana) バカガイ上科 チドリマスオ科 クチバガイ (Coecella chinensis) ニッコウガイ上科 アサジガイ科   アサジガイ (Semele zebuensis) シオサザナミ科 ワスレイソシジミ (Nuttalia obscurata) マルスダレガイ上科 マルスダレガイ科 ケマンガイ (Gafrarium divaricatum) アサリ (Ruditapes philippinarum) ヒメアサリ (Ruditapes variegatus) 地点合計

- + + +

+ + + +

+ + + -

+ - + +

+ - + -

- - + +

+ + + +

- - + -

5 4 8 5

+ + + + - -

- + - + - +

- + - + - +

+ + - - + -

+ - - - - -

+ + - + + +

- + - - - +

+ - - + - -

5 6 1 5 2 4

1

1

3

- -

- -

- +

- +

- +

- -

- -

+ +

1 4

2

5

6

1

4

1

2

- - + 11

- - + 15

- - - 8

- - + 11

- - - 6

- - - 12

+ - + 11

- + - 8

1 1 4

229


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

6 種,ウグイスガイ目 1 種,カキ目 4 種,マルス

virescens)で,全調査地点で確認された.これに

ダレガイ目 10 種の合計 25 種を発見した.ただし,

対し,1 地点のみで確認できたのが 8 種おり,シ

貝殻の欠けや幼貝など同定が不可能と判断したも

ロインコ(Septifer excisus),シュモクガイ(Malleus

のに関しては不明種としてこの結果から除外し

(Malleus) albus),ナデシコガイ(Chlamys (Laevi-

た.

chlamys) irregularis),マガキ(Crassostrea gigas),

地点ごとの出現種数では,最も多くの種が出

スダレモシオ(Nipponocrassatella nana),アサジ

現したのが Pt. B でフネガイ目 4 種,イガイ目 3 種,

ガイ(Semele zebuensis),ケマンガイ(Gafrarium

ウグイスガイ目 1 種,カキ目 1 種,マルスダレガ

divaricatum), ア サ リ(Ruditapes philippinarum)

イ目 6 種の合計 15 種であった.逆に最も少なかっ

であった.

た地点は Pt. E で,フネガイ目 2 種,イガイ目 1 種, 多様度の計算結果

カキ目 1 種,マルスダレガイ目 2 種の合計 6 種で あった.

次に Simpson の多様度指数を用いて計算した

種ごとの出現地点数をみた場合,最も多く出

後鰓類・二枚貝類ごとの各地点の多様度を Tables

現したのはカリガネエガイ(Barbatia (Savignyarca)

3–4 に示した.後鰓類では,最も高い多様度を示

Table 3.桜島 8 地点における後鰓類の多様度.数字は該当する科がその地点で何種出現したかを表す. ナツメガイ科 ブドウガイ科 ミドリガイ科 カノコキセワタガイ科 アメフラシ科 チドリミドリガイ科 カメノコフシエラガイ科 キヌハダウミウシ科 ツヅレウミウシ科 イロウミウシ科 クロシタナシウミウシ科 ヨツスジミノウミウシ科 オオミノウミウシ科 合計

Simpson's 多様性指数

Pt. A 0 0 0 0 0 1 0 0 3 2 0 0 2

Pt. B 0 0 0 0 2 0 0 0 1 0 2 1 0

Pt. C 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0

Pt. D 1 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0

Pt. E 0 0 0 0 0 1 1 1 0 0 1 0 0

Pt. F 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0

Pt. G 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

Pt. H 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

8

6

3

3

4

2

1

1

3.556

3.600

3.000

3.000

4.000

2.000

1.000

1.000

Pt. G 4 2 0 0 1 0 0 1 1 0 0 0 0 2

Pt. H 1 2 0 0 0 2 1 0 0 0 1 0 0 1

Table 4.桜島 8 地点における二枚貝類の多様度.数字は該当する科がその地点で何種出現したかを表す. フネガイ科 イガイ科 シュモクガイ科 イタヤガイ科 ウミギク科 イタボガキ科 チリハギガイ科 トマヤガイ科 キクザルガイ科 モシオガイ科 チドリマスオ科 アサジガイ科 シオサザナミ科 マルスダレガイ科

230

Pt. A 3 4 0 1 0 0 0 1 1 0 0 0 0 1

Pt. B 4 3 1 0 1 0 0 1 1 1 1 1 0 1

Pt. C 3 3 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0

Pt. D 3 3 0 0 0 1 0 1 1 0 1 0 0 1

Pt. E 2 1 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 1 0

Pt. F 2 5 0 0 1 0 1 1 1 0 0 0 1 0

合計

11

15

8

11

6

12

11

8

Simpson's 多様度指数

4.172

6.818

3.200

5.261

4.500

4.235

4.481

5.333


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

したのは桜島東部の Pt. E であった.この地点で は 4 科(チドリミドリガイ科,カメノコフシエラ ガイ科,キヌハダウミウシ科,クロシタナシウミ ウシ科)の後鰓類が各科とも 1 種ずつの合計 4 種 が出現し,多様度は 4.0 を示した.合計の種数で は Pt. A が 8 種と最も多かったものの,科レベル でみた場合出現したのは 4 科(チドリミドリガイ 科,ツヅレウミウシ科,イロウミウシ科,オオミ ノウミウシ科)であったため,Pt. E よりも多様 度は低くなった.逆に最も多様度が低くなったの は,多様度 1.0 を示した Pt. G, H の 2 地点で,い ずれも 1 科 (Pt. G はブドウガイ科,Pt. H はミド

Fig. 2A.後鰓類相から求めた 8 地点の類似度を示すデンド ログラム.縦軸は類似度を示し,図中のアルファベルッ トは各地点に対応する.

リガイ科 ),1 種の後鰓類が出現した. 二枚貝類では,Pt. B が多様度 6.8 を示し最も 高かった.この地点では合計 10 科の二枚貝類(フ ネガイ科,イガイ科,シュモクガイ科,ウミギク 科,トマヤガイ科,キクザルガイ科,モシオガイ 科,チドリマスオ科,アサジガイ科,マルスダレ ガイ科)が出現した.このうちフネガイ科,イガ イ科についてはそれぞれ 4 種,3 種が出現したが, これ以外の 8 科についてはそれぞれ 1 種ずつしか 確認されなかった.これに対し,最も多様度が低 かったのは Pt. C の多様度 3.2 であった.この地 点では合計 4 科(フネガイ科,イガイ科,イタボ ガキ科,キクザルガイ科)が出現した.フネガイ 科,イガイ科については複数種が確認されたが,

Fig. 2B.二枚貝類相のから求めた各地点間の類似度を示す デンドログラム.縦軸は類似度を示し,図中のアルファ ベットは各地点と対応する.

イタボガキ科,キクザルガイ科は 1 種ずつであっ た.

グラムを作成した場合,類似度 0.4 を基準に大き

また,後鰓類・二枚貝類を比較した場合,多

く 3 つのクラスターに分けることができた.それ

様度が最高・最低となる地点が異なるということ

ぞれ Pt. B, C, D, E, F,Pt. A,Pt. G, H が形成する

が分かった.後鰓類では Pt. E で最高となったと

クラスターである.この結果では,桜島の西側の

ころが,二枚貝類では Pt. B で最高値を示した.

地点(Pt. B, C, D, F)間で類似度 0.500 と相対的

逆に後鰓類では Pt. G ,H で多様度が最低となるの

に最も高い類似性を有することが示されたが,同

に対して,二枚貝類では Pt. C で最低となった.

じ西部でも唯一 Pt. A はこの 4 地点と比べ類似度 は 0.083 と大きな差があることが分かった.逆に

デンドログラムを用いた地点間の類似度について

桜島東部の Pt. E が Pt. B, C, D, F と類似度 0.479

野 村・ シ ン プ ソ ン 指 数 で 類 似 度 を 求 め,

とより近い類似性を示した.また,Pt. G, H に関

Mountford 法を用いて作成したデンドログラムを

しては他地点との類似度は 0 で,類似性はみられ

参照しながら各地点が互いにどの程度類似してい

なかった.

るのかをみていく.各地点間の後鰓類相の類似度

二枚貝類相の類似度は Fig. 2B に示した.得ら

を Fig. 2A に示した.後鰓類相を用いてデンドロ

れた二枚貝類のデータを元にデンドログラムを作

231


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

成したところ,類似度 0.5 を基準にして 5 つのク

いて不可能である.このため,桜島というあるひ

ラスターに分けることができた.Pt. D, E, H,Pt. C,

とつの地点における後鰓類相のより正確な分布を

Pt. B, G,Pt. A,Pt. F の 5 つである.Pt. D, E, H は

得る場合にはさらに調査を重ねる必要があり,今

位置する場所は互いにやや距離が離れているもの

後のさらなる結果が必要である.

の,8 つの海岸の中では 0.667 と最も高い類似度 を示した.これに次いで高い類似度を示したのは

二枚貝類

Pt. B, G で類似度 0.545 であった.残りの 3 地点

今回の調査の結果,桜島の 8 ヶ所の海岸から

に関しては他地点との類似度が相対的に低く,そ

合計 25 種の二枚貝類が出現した.また,複数の

れぞれ独立したクラスターに含まれる結果となっ

地点にわたって出現が確認された種がいくつかい

た.

た が, そ の 中 で も カ リ ガ ネ エ ガ イ(Barbatia

 考察 後鰓類 今回の調査の結果,桜島の 8 つの海岸から合

(Savignyarca) virescens)が最も多く地点から出現 した.今回の調査では,カリガネエガイを含むフ ネガイ科の二枚貝は 4 種が出現した.この内,カ リガネエガイを除く 3 種[コベルトフネガイ(Arca

計 24 種の後鰓類が出現した.これらの内,複数

boucardi), エ ガ イ(Barbatia (Abarbatia) lima),

の調査地点から出現した種は 3 種[アマクサアメ

ミミエガイ(Arcopsis symmetrica)]はいずれも複

フ ラ シ(Aplysia juliana), キ ヌ ハ ダ モ ド キ

数の地点から出現したものの,その地点数は 4 地

(Gymnodoris citrina), ク ロ シ タ ナ シ ウ ミ ウ シ

点もしくは 5 地点と全地点の内の半数程度にとど

(Dendrodoris fumata)]のみで,残りの 21 種に関

まったが,唯一カリガネエガイは全地点から出現

しては各種ともひとつの地点からしか出現しな

した.このことから,カリガネエガイは桜島にお

かった.この結果から桜島に生息する後鰓類は,

いて最も一般的な二枚貝であると考えられる.こ

多くの種が狭い分布様式を示すという特徴をもっ

れは過去に桜島を調査地として行われた研究の結

ているようにみえる.しかし,この結果のみでこ

果によっても支持されるものである.稲留・山本

のように結論付けるのは難しいと考えられる.こ

(2005)では桜島 6 地点の海岸を調査地点として

れは今回の野外採取だけではその地点に生息する

貝類の調査を行ったが,この時の調査でもカリガ

後鰓類を網羅できていない可能性があるためであ

ネエガイはすべての地点から出現したと報告して

る.今回の調査では,複数回調査を行った地点は

いる.しかし,この調査が行われた地点は桜島の

8 地点中 2 地点のみで残りの 6 地点では一度しか

東部に偏っており,桜島全体の分布を網羅したも

採取を行わなかった.複数回の採取を行った Pt.

のであるとは言えなかったが,今回の調査では空

A–B ではそれぞれ 9 種と 6 種の後鰓類が出現し

白となっていた桜島北西方向(Pt. B, F が該当)

たが,調査回ごとに出現した後鰓類には違いが

および南東方向(Pt. D が該当)においてもその

あった.最終的に複数の調査で出現したのは Pt.

分布状況を調査してデータを得た.その結果,カ

A–B 両方とも 1 種のみで,残りの 8 種,5 種に関

リガネエガイが生息することが明らかとなった.

しては 1 度の調査で確認できたのみであった.こ

このことから桜島全体でみた場合に,カリガネエ

のことから,他の 6 地点においても調査を重ねる

ガイは最も一般的な種として生息しているという

ことにより新たな種を確認できる可能性がある.

ことがいえる.

また,今現在桜島を調査地として後鰓類の分布を

今回の調査で Pt. E–F から採取したクロシタナ

調査した研究は過去になく,潮間帯限定であるも

シウミウシ(Dendrodoris fumata)の個体は,そ

のの,本研究は初めて桜島産後鰓類について調査

の体色がやや透明な黒色に背面が赤色線で細く縁

を行った.そのため,過去のデータと比較・総合

取られていた.また,背面上には不透明で体色よ

したより精度の高い結果を出すことは現段階にお

りも濃い黒色の斑紋を有していた (図版 Pt. E の D,

232


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図版 Pt. F の B).中野(2013)によれば,クロシ

いる.Pt. E においてはこの 2 種がこの地点にお

タナシウミウシには複数のタイプが存在すること

ける食物連鎖あるいは食物網の中に組み込まれて

が確認されている.そのタイプのひとつは体色が

いることは間違いない.ウミフクロウに関しては

黒色で背面が黄色線や暗赤色線で縁取られる,と

その雑食性から,Pt. E に生息する多種の底生生

いうものである.また,このタイプは浅所,日光

物との間につながりをもつことが考えられる.逆

の差し込む場所にみられる.今回 Pt. E–F から採

にキヌハダウミウシは専門的な食性を示すことか

取した個体は体色,背面の縁取り,生息場所とい

らウミフクロウに比べると餌とする種数は限られ

う点ではこのタイプと一致している.だが,クロ

るが,後鰓類間でのつながりを示す種であること

シタナシウミウシの中の別のタイプには斑紋をも

から先に示したクロシタナシウミウシと関係して

つタイプが存在する.このタイプは背面が赤褐色

いる可能性が考えられる.すなわち,Pt. E に生

や黄白色で,褐色や暗色の斑紋を有している.ま

息する生物を包括的に調査することにより,この

た生息場所は先のタイプとは対照的に光の差し込

地点における後鰓類およびその他の底生生物に

まない場所にいることが多い.体色や生息場所に

よって作られる食物連鎖もしくは食物網の繋がり

ついては Pt. E–F から得られた個体とは一致しな

を明らかにすることができると考えられ,またこ

いものの,斑紋をもつという点ではこのタイプと

の地点において後鰓類がどのような地位を占めて

一致している.今後,この Pt. E–F から出現した

いるのかを明らかにすることができるものと考え

クロシタナシウミウシに焦点を当てた研究が行わ

られる.

れれば,この個体がどういった位置を占めるのか が明らかになると考えられる.また,中野(2013)

 謝辞

によればクロシタナシウミウシという種について

本研究を行うにあたり,調査の手法について

は,先に紹介した複数のタイプを同種として扱う

多いに参考にさせて頂きました森 敬介さん(国

のか,あるいは別種として独立させるのかという

立水俣病総合研究センター),貝類の同定を行う

点でいまだに結論が出ていない状態である.Pt.

過程において貴重なご意見を頂きました行田義三

E–F で確認されたクロシタナシウミウシが,新種

さん(鹿児島市),過去の桜島産貝類の研究につ

であるという可能性を除けば,本種の中にあるタ

いての論文をご提供くださった山本智子先生(鹿

イプの扱いを決定する材料となることも考えられ

児島大学水産学部)に深く感謝申し上げます.野

る.

外調査などにおいて様々なご意見,アドバイスを

Pt. E には先に示したクロシタナシウミウシの 他 に も, ウ ミ フ ク ロ ウ(Pleurobranchaea maculata) や キ ヌ ハ ダ ウ ミ ウ シ(Gymnodoris inornata)といった肉食性の後鰓類が出現した.

頂きました鹿児島大学理学部生態学研究室の先 輩,同輩の皆さまに感謝を申し上げます.  引用文献

ウミフクロウは今回の調査で唯一出現した側鰓亜

福山博之・小野晃司,1981.桜島火山地質図.地質調査所.

目の後鰓類で,様々な底生生物を餌とする雑食性

波部忠重・奥谷喬司・西脇三郎,1999.軟体動物学概説(上 巻).株式会社サイエンティスト社,東京.87 pp.

である.餌とする底生生物としては他種の後鰓類 の他,ゴカイ,ヨコエビ,クモヒトデ,二枚貝, ヒドロ中,死んだイカや魚などが挙げられる.こ れに対しキヌハダウミウシその食性が専門的であ り,後鰓類の中でも他種の裸鰓類および嚢舌類を 餌とする後鰓類専門食である.捕食の例としては クロシタナシウミウシ,シロウミウシ,キャラメ ルウミウシ,ダイダイウミウシなどが報告されて

平野義明,2009.ウミウシ学-海の宝石、その謎を探る. 東海大学出版,秦野.222 pp. 今原幸光,2011.写真でわかる磯の生き物図鑑.トンボ出版, 大阪.271 pp. 稲留陽尉・山本智子,2005.桜島転石海岸の潮間帯にお け る 貝 類 群 集 と 転 石 の 特 性 の 関 連.Venus, 64 (3–4): 177–190. 石川秀雄,1992.桜島-噴火と災害の歴史-.共立出版株 式会社,東京.211 pp. 伊藤年一,1999.学研生物図鑑 貝 II〔二枚貝・陸貝・イカ・ タコ〕.株式会社学習研究社,東京.

233


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 鹿児島県,1972.地形分類図 鹿児島.鹿児島県. 加藤昌一,2009.ネイチャーウォッチングガイドブック  ウミウシ 生きている海の妖精 特徴がひと目でわか る各種ウミウシの図解付き.誠文堂新光社,東京.272 pp. 木元新作,1975.生態学研究法講座 14 動物群集研究法 I― 多様性と種類構成 ―.共立出版株式会社,東京. 192 pp.

RESEARCH ARTICLES 中野理枝,2011.高知県大月町西泊海域から記録された後 鰓類.Kuroshio Biosphore, 7: 1–35. 中野理枝,2013.ベータ版日本のウミウシ version 2.0. 1126 pp. 奥谷喬司,2000.日本近海産貝類図鑑.東海大学出版,東京. 1173 pp. 小野篤司,2004.沖縄のウミウシ-沖縄本島から八重山諸 島まで-.株式会社ラトルズ,東京.304 pp.

木元新作・武田博清,1989.群集生態学入門.共立出版株 式会社,東京.198 pp. 中野理枝,2009.本州のウミウシ-北海道から奄美大島ま で-.株式会社ラトルズ,東京.304 pp.

図版(Pt. A).A:コノハミドリガイ Elysia ornata, 20 mm;B:裸鰓亜目の一種(不明種),40 mm;C:ツヅレウミウシ Tayuva lilacina,55 mm;D:ゴマフビロードウミウシ Jorunna parva,20 mm;E:クモガタウミウシ Platydoris ellioti,体長未測定; F:シロウミウシ Chromodoris pallescens,体長未測定;G:アオウミウシ Hypselodoris festiva,15 mm;H:Baeolidia 属の一種 Baeolidia sp.,12 mm;I:イロミノウミウシ Spurilla neapolitana,15 mm.

234


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図版(Pt. B).A:アマクサアメフラシ Aplysia juliana,100 mm;B:フレリトゲアメフラシ Aplysia leachii leachii,80 mm;C: ヤマトウミウシ Homoiodoris japonica,50 mm;D:ミヤコウミウシ Dendrodoris denisoni,40 mm;E:クロシタナシウミウシ Dendrodoris fumata,52 mm;F:フタスジミノウミウシ Facelina bilineata,12 mm.

図版(Pt. C).A:アカボシツバメガイ Chelidonura fulvipunctata,12 mm;B:キヌハダモドキ Gymnodoris citrina,16 mm;C:セ トミノウミウシ Setoeolis inconspicua,25 mm.

図版(Pt. D).A:アマクサアメフラシ Aplysia juliana,50 mm;B:キヌハダモドキ Gymnodoris citrina,13 mm.

235


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図版(Pt. E).A:ヒラミルミドリガイ Elysia trisinuata,25 mm;B:ウミフクロウ Pleurobranchaea maculata,47 mm;C:キヌ ハダウミウシ Gymnodoris inornata,40 mm;D:クロシタナシウミウシ Dendrodoris fumata,45 mm.

図版(Pt. F).A:キヌハダモドキ Gymnodoris citrina,17 mm;B:クロシタナシウミウシ Dendrodoris fumata,48 mm.

236


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

桜島火山灰中の重金属元素 (銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)濃度 坂元隼雄 〒 891–0132 鹿児島市七ッ島 1–1–10 (一財)鹿児島県環境技術協会

える影響が懸念され,化学的な研究が行われるよ

 はじめに  火山活動によって環境に放出される火山噴出物 は,それぞれの火山において,その質,量が異な ることが知られている.一般に火山活動は,短期 間に終息するので自然災害として取り扱われる ケースが多い.しかし,火山活動が長期間に渡っ て継続すると深刻な環境問題を引き起こすことが 考えられる(鎌田,1975).  昭和 30 年(1955)10 月に活動を開始した桜島 火山南岳(図 1)は,一時,終息するかにみえたが, 昭和 47 年(1972)9 月から勢いを噴き返し,活 発な火山活動を継続し,現在に至っている.  桜島火山南岳の活動から約 60 年間に放出され 8

た火山噴出物の総量は,2×10 トン(2 億トン) のオーダーを超えたと推定される(鎌田,1975; 鎌田・坂元,1975a–b).同火山から放出された噴 出物(噴石,火山灰,火山ガスなど)は,私達の 生活にも様々な影響を及ぼしている.同火山の活 動による降下火山灰(以後は火山灰と略記する) による農・水産業,観光業などの被った被害は甚 大である.特に南東の風が卓越する春から夏にか けては,火口から約 10 km 離れた鹿児島市の市民

うになった(石川,1973;鎌田・太田,1977;島 田・福重ほか,1979;鎌田・坂元,1979, 1980; 鎌 田 ほ か,1980; 竹 下 ほ か,1980a–b, 1981, 1985;石川ほか,1981;団野ほか,1981;鹿児島 県,1981;斉藤・及川,1982).  本研究は,桜島火山南岳から放出された火山灰 中に含まれる重金属元素(銅,亜鉛,カドミウム および鉛)濃度を測定する.また,同火山灰を純 水(水道水を銅製の蒸留器で蒸留して得られた蒸 留水を硬質ガラス製の蒸留器で再蒸留した水)に 一定時間浸せきし,溶出した水溶性の重金属元素 (銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)濃度を調べ, 水環境への重金属元素の影響を推定する.  研究概要 昭和 30 年(1955)10 月に始まった桜島火山南 岳の火山活動は約 60 年(一部休止期間はある) にも渡って活発な火山活動を継続している.火山 活動によって放出される火山噴出物には,溶岩, 火山弾,火山ガス,火山灰等がある.溶岩・火山 弾の影響は,物理的な面が大きい.火山ガスは,

生活にも火山灰は多大の影響を与えている.  桜島火山については地質学的並びに岩石学的な 研究(山口,1975)は,以前から行われていた. 同火山の活動が長期化し,火山噴出物が環境に与     Sakamoto, H. 2014. Concentration of heavy metal elements (copper, zinc, cadmium and lead) in volcanic ashes discharged from the Sakurajima Volcano. Nature of Kagoshima 40: 237–246. The Foundation of Kagoshima Environmental Research and Service, 1–1–10 Nanatsujima, Kagoshima 891–0132, Japan (e-mail: sakamfh@yahoo.co.jp).

図 1.約 60 年間も活発な火山活動を続ける桜島火山南岳.

237


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

ハロゲン化水素(HF, HCl 等),二酸化硫黄(SO2),

把握し,統計的な手法を用いて火山灰の放出量を

硫 化 水 素(H2S) 等 が 含 ま れ て い る( 小 沢,

求める.さらに,採取地点を補う臨時の採取地点

1965).これらの火山ガス中には,植物や人体に

で 火 山 灰 量 を 測 定 す る( 坂 元・ 鎌 田,1974,

有害なフッ化水素,二酸化硫黄や,水銀などの重

1975a;鎌田・坂元,1975b).

金属元素が含まれている(Sakamoto et al., 2003).

火山灰の重金属元素濃度を測定し,それらの

しかし,放出される高さが約 1,000 m の山頂火口

平均値(幾何平均値)と降灰量から重金属元素の

であり,風などにより大気中に拡散されるので,

放出量を推定する(坂元・鎌田,1974;鎌田・坂

その作用は局所的である.

元,1975b).

一方,火山灰は,その季節に卓越する風向,風

桜島火山南岳は断続的な爆発を繰り返してい

速などの気象状況により広範囲に降下し,堆積す

る.このような火山では,火口内に入って調査し,

る.火山灰は粒径が細かく,火山ガス成分(HF,

火山ガスなどを採取することは多大の危険を伴う

HCl, SO2 等)を付着して放出され,付着火山ガス

ので不可能である.入手できる火山灰に付着して

成分が離脱または水に溶け環境に種々の影響を及

来る火山ガス付着成分を分析することによって火

ぼす(有川,1958;坂元,1977, 1983, 1994;小牧・

山活動に関する情報を得る試みが行われた(小坂・

竹 下,1978; 今 吉・ 前 田,1985; 鎌 田 ほ か,

小 沢,1975a–b; 松 本・ 坂 元,1976; 平 林,

1984).火山灰は,水に不溶性のケイ酸塩部分に

1981; 小 坂 ほ か,1977, 1982; 平 林,1982;

水溶性の火山ガス成分が付着(吸着)している.

Hirabayashi et al., 1982).

水圏を通じて環境に影響を及ぼすのは後者であ

また,著者らは,薩摩硫黄島火山の硫黄岳火

る.ケイ酸塩部分も絶対に不溶性というのではな

口の火山ガスから重金属元素が放出されているこ

く,一般の岩石と同様に風化を受けて徐々に種々

と を 報 告 し た( 坂 元・ 小 沢,1974; 坂 元 ほ か,

の成分を放つが,その速度は,極めて遅いと考え

1974;坂元・鎌田,1976;鎌田ほか,1985).桜

られる.

島火山南岳から放出される火山ガス中の重金属元

桜島火山灰の研究に当たり,研究室には鹿児

素が火山灰に付着して放出されるかを知る.さら

島第七髙等学校の(故)久保田温郎教授が採取し

に,火山灰火山ガス付着重金属元素を含めた研究

た大正 3 年(1914)の桜島大噴火の際の火山灰,

は,火山活動を予測する手掛かりとなる可能性が

鹿児島大学農学部の宇田川畏三教授,同大学理学

ある.

部の鎌田政明教授などが採取した 1945–1950 年の 火山灰が保存されていた.これらの火山灰と昭和 30 年(1955)に始まった桜島火山南岳の活動に より放出された火山灰を採取し,使用する. 本研究では,火山灰中の重金属元素を総重金

 研究の方法 1.火山灰の大きさ 火山活動によって放出される火山噴出物の中 で,直径が 0.2 mm 以下のものを火山灰と呼び,

属元素と水溶性の重金属元素とに分けて分析を行

それよりも大きいものを火山砂とか火山礫として

う.また,桜島火山から放出時期を異にした火山

区別される.本研究で用いた試料は,ほとんどは

灰を採取・分析し,その濃度(含有量)を求める.

直径が 0.2 mm 以下のものであり,一部火山砂(直

しかし,それにも増して把握が困難な問題は火山

径 0.2–4 mm)はメノウ乳鉢ですりつぶして分析

灰の放出量である.火山灰の粒度分布は,常に一

する.

様ではなく,地上の一定点に降下する火山灰を把 握しても,気象条件などによって左右されるので, 火山灰の放出量に結びつけることは困難である.

2.火山灰の採取 火山灰は,どんなにガラス戸を締め切っても,

そこで,桜島を中心とした火山灰の採取地点(定

室内に火山灰が進入して来ることは日常良く経験

点)と気象条件,火山活動の状況などを総合的に

することである.このような火山灰の試料を採取

238


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

酸または希塩酸等で溶解して分析試料溶液とする 方法である(寺島,1971).また,試料をフタ付 き密封テフロン容器の中に入れてフッ化水素酸な どを加え,ステンレス製保護容器の中に入れて加 熱し,加圧下で揮発性元素を逃がさず短時間に試 料を分解するボンブ法が用いられている(Bernas, 1968).この方法はボンブ法とも言われ揮発性重 金属元素の分析には,最も推奨される前処理法で ある.しかし,分解装置が高価なことなどから, ごく限られた施設でしか用いられていない.溶融 解法は,元素によっては用いられるが,多量の試 料の試料を用いる微量重金属元素の分析には不向 図 2.桜島火山灰の採取地点.1:城山,2:荒田,3:郡元,4: 田上,5:武,6:玉里,7:小山田,8:油須木,9:東俣, 10:吉田,11:袴腰,12:赤水,13:有村,14:牛根, 15:黒神,16:北岳 4 号林道,17:春田山,18:白浜, 19:西道.

きである. 著者は,塩酸+フッ化水素酸,硝酸+フッ化 水素酸の組み合わせで火山灰試料 1.00 g を正確に 量り取って用いる.この際,難溶性のフッ化物が 生成するので,これを完全に溶かすには白金ルツ ボ等に移し,過塩素酸を加えて蒸発乾固が必要で ある.

し,放出量に結び付けることは困難な仕事である.

本研究では,火山灰試料 1.00 g を白金ルツボ

そこで,桜島火山南岳を中心として,できるだけ

に正確に量り取り,過塩素酸+フッ化水素酸を加

広く火山灰の採取地点を選ぶ.図 2 は桜島火山灰

えて約 300℃のサンドバス上で蒸発乾固する.さ

の採取地点を示す.この中には火山灰が降ってく

らに,白金ルツボをサンドバスから降ろし,冷却

る地点(爆発の高さ,気象状況などから判断)を

してから硝酸(1:1)で十分に浸せきした後,純

予測して自動車で移動し,採取したものも含まれ

水を用いてビーカーに内容物を移し,容量を約

る.

500 ml とする.その後,クエン酸二アンモニウ

火山灰採取容器は,市販のプラスチック製の

ム溶液を加えて鉄,アルミニウムなどをマスキン

ケース(40 cm X 70 cm X 20 cm)を使用し,火山

グし,フェノールフタレイン溶液を滴下し,アン

灰が降り止むとポリエチレンの袋に入れて持ち帰

モニア水(1:1)で pH 8–8.5 に調整する.この

り,ポリスチロールの容器に入れて保存し,分析

水溶液を分液ロートに移し,ジチゾンークロロホ

に用いる.特に,微量重金属元素を分析する際に

ルム溶液を加え,振とう・抽出を繰り返し,クロ

は,周辺環境からの重金属汚染には十分な注意を

ロホルム相を小型ビーカーに集める.クロロホル

払う.また,分析に用いた試料は,雨に濡れてい

ム相に硝酸と過塩素酸を加え,サンドバス上でク

ないものを用いる.

ロロホルムを蒸発,ジチゾンを分解し,蒸発乾固 する.その後,サンドバスから下ろし,冷やして

3.火山灰の重金属元素の分析

から 0.1 N 過塩素酸溶液で溶かし,原子吸光光度

3–1.火山灰の総重金属元素の分析

法により銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛濃度を測

ケイ酸(SiO2)を多量に含む岩石試料などの前

定する(坂元,1975).また,表 1 の分析結果は

処理法は,湿式酸分解法と溶融解法が広く用いら

火山灰を 110℃で 2 時間乾燥した時の水分減少量

れている.湿式酸分解法は,岩石試料をフッ化水

を求め,110℃乾燥重量当たりに換算してある.

素酸などと混合し,加熱,蒸発乾固した後,希硝

239


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

表 1.桜島火山灰の重金属元素(銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)等の分析結果. 整理 番号

総重金属元素濃度 採取地点等

年月日

水溶性重金属元素濃度

Cu

Zn

mg/kg

mg/kg

Jan. 14. 1914 Aug. 20. 1945 Apr. 19. 1946 May. 06. 1946 Jul. 25. 1950 Aug. 09. 1950 Oct. 15. 1955 Oct. 1955 Jun. 19. 1958 Oct. 30. 1958 Apr. 08. 1973 Aug. 13. 1973 Aug. 18. 1973 Aug. 31. 1973 Aug. 31. 1973 Feb. 01. 1974 Mar. 09. 1974 May. 05. 1974 May. 10. 1974 May. 13. 1974 Jun. 15. 1974 Jun. 15. 1974 Jun. 16. 1974 Jun. 16. 1974 Jun. 16. 1974 Jun. 26. 1974 Jul. 02. 1974 Jul. 03. 1974 Jul. 04. 1974 Jul. 04. 1974 Jul. 05. 1974 Jul. 05. 1974 Jul. 05. 1974 Jul. 05. 1974 Jul. 05. 1974 Jul. 31. 1974 Aug. 18. 1974 Oct. 25. 1974 Dec. 16. 1974 Dec. 22. 1974 Dec. 27. 1974 Dec. 31. 1974 Mar. 01. 1975 Mar. 02. 1975 Mar. 07. 1975 Mar. 07. 1975 Mar. 08. 1975 Mar. 08. 1975 Apr. 07. 1975

12.5 21.2 15.5 14.5 6.4 9.8 13.9 7.0 12.6 15.1 15.0 11.7 11.5 12.4 11.0 28.8 22.2 17.2 28.3 18.0 13.5 13.3 13.3 12.9 14.3 13.5 13.7 13.4 13.7 13.1 12.4 12.9 11.8 12.6 12.9 14.2 11.7 13.7 12.7 17.7 14.9 20.9 15.5 15.1 15.2 13.3 13.7 14.7 12.5

83.0 76.3 87.6 83.5 129.0 99.3 73.5 76.3 83.7 83.5 70.0 68.8 64.8 73.1 66.6 90.5 84.9 80.6 92.3 82.2 76.9 71.9 77.5 75.5 85.7 61.9 68.1 63.7 70.1 69.0 58.1 62.7 36.7 57.2 66.9 61.3 65.3 32.0 66.3 72.7 75.4 83.4 75.3 69.6 157.0 80.3 90.7 79.4 73.0

0.26 0.09 0.15 0.24 0.21 0.14 0.23 0.20 0.08 0.14 0.23 0.25 0.27 0.27 0.12 0.11 0.10 0.16 0.20 0.17 0.10 0.11 0.13 0.18 0.10 0.19 0.17 0.15 0.16 0.09 0.17 0.14 0.13 0.09 0.11 0.14 0.33 0.27 0.21 0.19 0.13 0.09 0.15 0.12 0.12 0.09 0.09 0.11 0.09

14.8 10.5 12.3 16.9 13.1 18.3 12.0 13.8 10.2 10.4 9.8 15.4 6.6 14.0 12.7 17.1 12.2 18.1 24.6 15.2 11.5 11.5 12.0 11.5 11.8 9.2 9.9 4.7 9.9 9.4 7.0 6.4 4.2 7.9 8.5 5.9 12.2 5.1 9.8 8.4 8.6 6.6 9.7 9.4 18.2 10.1 9.7 10.5 10.4

5.9 5.2 5.7 5.9 4.3 4.4 4.1 4.1 5.8 5.5 4.8 5.7 5.1 5.5 5.2 6.3 5.9 5.9 6.4 6.3 5.6 5.0 5.7 5.0 5.1 5.0 4.9 4.9 5.2 5.4 5.6 5.8 5.3 5.6 5.3 5.4 5.3 5.0 5.4

0.41 0.20 0.53 0.25 1.11 0.81 2.45 1.00 0.10 0.27 3.50 0.09 0.98 0.14 0.05 0.25 0.16 0.11 0.32 0.12 0.07 0.20 0.02 0.14 0.77 1.40 2.99 4.20 3.37 1.32 1.19 0.40 1.79 0.39 1.85 2.25 0.47 2.54 1.42

5.4 5.7 5.8 4.7 5.4 5.8 5.7 5.5 5.2

50 西道(桜島)

Apr. 26. 1975

14.3

144.0

0.11

10.4

51 田上(鹿児島市)

May. 25. 1975

16.7

95.0

0.11

9.0

52 西道(桜島)

Jun. 12. 1975

14.9

70.6

0.10

53 西道(桜島)

Jun. 13. 1975

13.7

70.4

54 西道(桜島)

Aug. 09. 1975

13.0

55 西道(桜島) 56 西道(桜島)

Aug. 10. 1975 Sept. 21. 1975

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49

第七高校庭(城山) 鹿児島大学(荒田) 牛根(垂水市) 鹿児島大学(荒田) 鹿児島大学(荒田) 鹿児島大学(荒田) 有村(桜島) 冨永(鹿児島市) 赤水(桜島) 白浜(桜島) 田上(鹿児島市) 田上(鹿児島市) 白浜~松浦(桜島) 白浜(桜島) 白浜(桜島) 鹿児島大学(郡元) 鹿児島大学(郡元) 鹿児島大学(郡元) 鹿児島大学(郡元) 鹿児島大学(郡元) 西道(桜島) 京都大観測所(春田山) 小山田(鹿児島市) 西道(桜島) 西道(桜島) 西道(桜島) 西道(桜島) 京都大観測所(春田山) 小山田(鹿児島市) 京都大観測所(春田山) 西道(桜島) 小山田(鹿児島市) 東俣(鹿児島市) 油須木(鹿児島市) 東俣(鹿児島市) 西道(桜島) 北岳4合林道(桜島) 鹿児島大学(郡元) 京都大観測所(春田山) 西道(桜島) 京都大観測所(春田山) 京都大観測所(春田山) 京都大観測所(春田山) 黒神(桜島) 有村(市桜島壮) 有村(市桜島壮) 有村(市桜島壮) 西道(桜島) 西道(桜島)

*1, *2:110℃,6 時間乾燥重量ベース.

240

Cd

*1

Cu

Zn

Cd

mg/kg

mg/kg

mg/kg

mg/kg

1.25 1.15 0.80 59.60 54.60 99.60 11.50 4.30 0.30 0.37 3.56 0.80 3.83 4.36 0.10 0.52 2.40 2.76 0.70 2.50 0.54 1.38 1.13 1.77 0.66 1.74 1.98 4.29 1.35 0.33 0.83 1.94 0.69 0.26 0.77 0.55 1.92 4.10 1.58

0.100 0.010 0.020 0.080 0.080 0.140 0.190 0.050 0.010 0.010 0.055 0.060 0.090 0.050 0.010 0.010 0.010 0.020 0.010 0.020 0.010 0.020 0.010 0.040 0.010 0.038 0.035 0.047 0.027 0.017 0.022 0.012 0.045 0.012 0.020 0.028 0.078 0.195 0.068

<0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10

0.22 0.09 1.40 3.95 2.29 0.19 0.17 0.86 0.85

0.18 0.05 0.99 3.98 2.98 0.39 0.24 1.43 1.88

0.007 0.005 0.063 0.045 0.045 0.012 0.007 0.049 0.025

<0.10 <0.10 <0.10 <0.10 0.25 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10

5.5

2.30

1.82

0.032

<0.10

5.6

0.68

1.26

0.030

<0.10

8.6

4.9

3.85

1.79

0.030

<0.10

0.09

8.0

4.9

2.32

1.93

0.033

<0.10

67.6

0.10

9.8

4.6

2.62

2.12

0.050

<0.10

13.8

62.7

0.10

8.3

4.8

3.47

1.22

0.042

<0.10

15.0

88.3

0.11

10.8

5.0

4.95

1.14

0.043

<0.10

mg/kg

Pb

pH

*2

mg/kg

Pb


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

3–2.火山灰の水溶性重金属元素の分析

 結果と考察

環境中に放出された火山灰で,すぐに影響を 及ぼす成分は水溶性重金属元素である.火山灰中 にはフッ化水素,塩化水素,二酸化硫黄等の水に 溶けて酸性を示す火山ガス成分が付着しており, 水に溶けるとかなり低い pH を示すものがある(表 1, 2 を参照). 火山灰 5.00 g を正確に量り取り,共栓付の三 角フラスコに入れ,純水 500 ml を加えて 20 ± 2℃ の恒温室で2日間浸せきした後,0.45 μm のミリ ポアフィルターを用いて吸引ロ過をする.そのロ 液を pH 調整後,ジチゾンークロロホルム溶液を 用いて重金属元素を抽出し,3–1 に示した手順で 水溶性の重金属元素の濃度(含有量)を求める(坂 元,1975). また,分析結果は降下火山灰を 110℃で 2 時間 乾燥した時の水分減少量を求め,110℃乾燥重量 当たりに換算してある.

1.火山灰の総重金属元素濃度 大正 3 年(1914)1 月 14 日の桜島火山大爆発 時の火山灰,昭和 20 年(1945)– 昭和 25 年(1950) の火山灰が保存されている.これらの火山灰で量 的にあるものと,昭和 48 年(1973)4 月以降に 著者らが採取した試料を合わせた 56 個の火山灰 について総重金属元素濃度の分析を行った.その 分析結果は表 1 に示す. 火山灰中の総銅濃度の濃度範囲は 6.4–28.8 mg/ kg,算術平均値(XA)は 14.4 mg/kg,幾何平均値 (XG)は 14.0 mg/kg と,その濃度範囲は広いが, 平均値の差は小さい.火山灰中の総亜鉛濃度の濃 度 範 囲 は 32.0–157 mg/kg, 算 術 平 均 値(XA) は 77.4 mg/kg,幾何平均値(XG)は 75.1 mg/kg と, その濃度範囲は広いが,平均値の差は小さい.火 山灰中の総カドミウム濃度の濃度範囲は 0.08–

表 2.桜島火山灰の水溶性重金属元素(銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)等の分析結果.            整理 採取地点等 番号 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83

郡元(鹿児島大学) 袴腰(桜島) 郡元(鹿児島大学) 玉里(鹿児島市) 郡元(鹿児島大学) 玉里(鹿児島市) 玉里(鹿児島市) 郡元(鹿児島大学) 玉里(鹿児島市) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 武(鹿児島市) 春田山(桜島) 吉田(鹿児島市) 吉田(鹿児島市) 武(鹿児島市) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学) 郡元(鹿児島大学)

      年月日 Mar. 28. 1988 May. 24. 1988 May. 26. 1988 May. 27. 1988 Jun. 15. 1988 Jun. 20. 1988 Jun. 22. 1988 Aug. 01. 1988 Aug. 06. 1988 Sept. 03. 1988 Jul. 17. 1994 Jul. 18. 1994 Aug. 17. 1994 Aug. 19. 1994 Aug. 20. 1994 Aug. 30. 1994 Aug. 31. 1994 Nov. 12. 1994 May. 18. 1995 Aug. 24. 1995 Aug. 25. 1995 Oct. 27. 1995 Oct. 28. 1995 Jun. 09. 1999 Jun. 10. 1999 Aug. 04. 1999 Oct. 25. 1999

pH 4.80 4.30 4.61 4.50 4.79 4.35 4.40 5.25 4.24 4.45 5.32 5.22 4.47 4.88 5.49 5.81 5.83 5.86 5.14 4.46 4.62 5.64 4.73 4.96 4.50 4.85 5.10

水溶性重金属濃度

*

Cu

Zn

Cd

Pb

mg/kg

mg/kg

mg/kg

mg/kg

1.10 3.62 2.99 4.43 0.74 4.69 3.20 0.22 1.72 0.15 1.14 1.02 3.06 2.61 0.59 0.10 0.12 0.51 1.55 3.41 2.88 0.23 2.38 0.56 0.85 3.18 0.27

4.50 2.25 0.40 2.35 0.35 2.15 3.00 1.10 4.35 4.60 8.35 22.90 9.50 5.50 4.30 3.40 3.25 8.30 7.15 3.05 3.75 12.50 3.10 3.75 2.85 3.15 2.20

0.07 0.04 0.02 0.01 0.01 0.03 0.06 0.04 0.02 0.12 0.10 0.11 0.12 0.16 0.10 0.02 0.04 0.10 0.15 0.15 0.09 0.08 0.13 0.12 0.15 0.05 0.04

<0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 <0.10 0.15 0.17 0.17 0.12 0.06 0.12 0.10 0.30 0.60 0.50 0.66 0.50 0.08 0.32 0.22 1.04 0.54

*:110℃,6 時間乾燥重量ベース.間乾燥重量ベース.

241


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 3–1.桜島火山灰の総銅濃度と試料数.XA:算術平均値, XG:幾何平均値,n:試料数.

図 3–3.桜島火山灰の総カドミウム濃度と試料数.XA:算 術平均値,XG:幾何平均値,n:試料数.

図 3–2.桜島火山灰の総亜鉛濃度と試料数.XA:算術平均値, XG:幾何平均値,n:試料数.

図 3–4.桜島火山灰の総鉛濃度と試料数.XA:算術平均値, XG:幾何平均値,n:試料数.

0.27 mg/kg,算術平均値(XA)は 0.152 mg/kg,幾

分布は図 4–1 ~ 4–4 に示す.

何平均値(XG)は 0.141mg/kg である.総カドミ

桜島火山灰中の水溶性銅の濃度範囲は 0.02–

ウムの濃度範囲は狭い範囲にある.火山灰中の総

4.95 mg/kg と広く,算術平均値(XA)は 1.43 mg/

鉛濃度の濃度範囲は 4.2–24.6 mg/kg,算術平均値

kg,幾何平均値(XG)は 0.74 mg/kg,水溶性亜鉛

(XA) は 10.9 mg/kg, 幾 何 平 均 値(XG) は 10.3

の濃度範囲は 0.05–99.6 mg/kg,算術平均値(XA)

mg/kg と,濃度範囲は広いが,その平均値の差は

は 5.34 mg/kg,幾何平均値(XG)は 1.92 mg/kg,

小さい.

水溶性カドミウムの濃度範囲は 0.005–0.195 mg/

桜島火山灰中の銅,亜鉛,カドミウムおよび

kg と狭い範囲にあり,算術平均値(XA)は 0.054

鉛の総濃度は(表 1)放出された時期による濃度

mg/kg,幾何平均値(XG)は 0.036mg/kg である.

差は特定の試料を除いて少ない.桜島火山灰(56

水溶性鉛の濃度範囲は <0.010–1.04 mg/kg 極めて

個)の総重金属元素濃度の頻度分布は図 3–1 ~

広く,算術平均値(XA)は 0.33 mg/kg,幾何平均

3–4 に示す.これらのグラフは,桜島火山灰中の

値(XG)は 0.24 mg/kg である.これらの重金属

重金属元素(銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)の

元素の中で鉛は純水中への溶出は極めて少ない.

総濃度は正規分布に近いことを示している.

また,分析に用いた純水の pH は 5.5 ~ 5.6 で ある.純水に火山灰(5.00 g/500 ml)を浸せきし

2.火山灰の水溶性重金属元素濃度 桜 島 火 山 灰(82 個 ) を 純 水 に 浸 せ き(5.00 g/500 ml,20 ± 2℃の恒温室で 2 日間)した時の

た時の溶出液の pH の範囲は 4.1–6.4 で算術平均 値(XA)は 5.19,幾何平均値(XG)は 5.16 であ り両者の値にはほとんど差がない.

重金属元素(銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)の

さらに,火山灰溶出液の pH と試料数との関係

溶出結果を表 1, 2 に示す.また,水溶性重金属元

は図 5 に示す.特に,溶出した重金属元素濃度と

素(銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛)濃度の頻度

pH の関係を見ると,pH が 5 以下を示すものに銅

242


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 4–1.桜島火山灰の水溶性銅濃度と試料数.XA:算術平 均値,XG:幾何平均値,n:試料数.

図 4–3.桜島火山灰の水溶性カドミウム濃度と試料数.XA: 算術平均値,XG:幾何平均値,n:試料数.

図 4–2.桜島火山灰の水溶性亜鉛濃度と試料数.XA:算術 平均値,XG:幾何平均値,n:試料数.

図 4–4.桜島火山灰の水溶性鉛濃度と試料数.XA:算術平 均値,XG:幾何平均値,n:試料数.

0.81–4.95 mg/kg,亜鉛 1.14–99.6 mg/kg,カドミウ

るものがある.火山灰は,その火山を構成する既

ム 0.030–0.195 mg/kg の重金属元素が溶出してい

存の岩石が爆発の際に機械的に破砕されたもの

る.しかし,鉛は浸せき後のロ液の pH が 4.1–5.0

と,マグマに直接由来するもの,岩石が火山ガス

の範囲にあっても 0.10 mg/kg 以下の溶出という

によって長年に渡って変質を受けたものがある.

結果を得たものがある.このことは鉛イオンと共

 また,火山灰は火山ガス中の揮発重金属元素な

存する硫酸イオン[火山ガス(SO2)由来]が鉛

どが付着した混合物である.爆発の規模などによ

と難溶性の塩を形成し,0.45μm のミリポアフィ

り火山灰の粒子の口径にはかなりの幅がある.粒

ルターを通過できない粒子となっていることが考

子の口径の大小,比重の大小,風速などによって

えられる.

分別が起こり,各種重金属元素濃度に差異が生じ

桜島火山南岳から放出された火山噴出物(火

ると考えられる.

山灰)の総重金属元素濃度は,放出された時期に

また,火山活動または活動を長期間停止し最

よって変動が認められるものがある.また,同一

初に放出された火山灰中には,その後に続いて放

時期に放出された火山灰の中にも重金属元素濃度

出された火山灰中の水銀濃度は著しく異なる例が

にかなりの変動が認められるものが存在する. 

浅間山などの火山灰に見出されている(小坂ほか,

また,水溶性重金属元素の溶出濃度範囲は,亜鉛

1973;松本・坂元,1976).

ではかなり広いことが分かった.このことは,火

桜島の大正噴火で流出した溶岩(2 個)を粉砕

山灰の重金属元素濃度が一定の組成でないことを

し,メノウ乳鉢ですりつぶし,火山灰と同一条件

表している.

で純水に浸せきした.その溶出重金属元素は,銅

火山灰の生成過程は極めて複雑で,同一火山

0.02–0.03 mg/kg,亜鉛 0.26–0.27 mg/kg,カドミウ

から放出されたものでも時期,粒子の口径の大小

ム 0.01 mg/kg 以下,鉛 0.10 mg/kg 以下であった.

や火山ガスとの接触時間などにより組成を異にす

火山灰中の水溶性重金属元素は,溶岩(既流出)

243


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH ARTICLES

図 5.桜島火山灰の溶出液の pH と試料数.XA:算術平均値, XG:幾何平均値,n:試料数.

図 6.桜島火山灰が年間 1,000 万トン放出された時の重金属 元素の水圏への溶出量.

とは異なっている.

桜島火山南岳から放出された火山灰の水圏への影

火山灰から銅,亜鉛,カドミウムおよび鉛な

どの重金属元素が水圏にどの程度溶出するかを算

桜島火山南岳火口から火山灰,噴石や火山ガ

定するには,各時期の周辺環境からの汚染を受け

スなどが放出されている.火山灰の放出量につい

ていない,濡れていない火山灰を広く集めて分析

て鎌田は 1955–1975 までの約 20 年間に 1×10 ト

し,火山灰放出量を交えた統計的な取扱いが必要

ンが放出された推定している(鎌田,1975;鎌田・

である,

坂 元,1975b). ま た, 江 藤 は 鹿 児 島 県 が 県 内

8

また,桜島火山南岳火口から放出された火山

55 ヶ所に設置した降灰観測点での測定結果を用

灰は,一般の岩石と同様に風化を受け,徐々に種々

いて,1978 年 6 月以降の降灰量を推定している(江

の重金属元素を水圏に放出する.火山灰の一定期

藤,1981). そ の 結 果 は,1978 年 6 月 か ら 1981

間内の水溶性重金属元素の溶出量の結果から,水

年 3 月までの算定降灰量は約 2,500 万トンと報告

圏への寄与に関する基礎資料が得られる.

している.

3.火山灰放出量と火口からの距離

1955 年以来, 換算すると 882 万トンとなる.仮に,

江藤による火山灰の総放出量は,1 年当たりに 桜島火山の活動によって放出された火山灰量

1 年間に降灰量が 1,000 万トン放出されたとすれ

を正確に把握することは困難な仕事であることは

ば火山灰から水圏に溶出する銅,亜鉛,カドミウ

前述した.火山灰の放出量については,吉留道哉

ムおよび鉛の量は 82 個の火山灰水溶性重金属元

や村山広道が採取地点を桜島内に 7 地点,大隈半

素の分析結果(幾何平均値)より計算できる.そ

島に 5 地点を置き,降灰量を測定している(吉留,

の結果は,図 6 に示す(幾何平均値を用いた理由

1974;鹿児島工業高等学校化学愛好会,1975;村

は,自然界における元素の濃度分布は対数正規分

山・鎌田,1975).

布であると言われている).桜島火山灰から 1 年

 また,鎌田,江藤,村山は,桜島火山南岳

間に銅が 7.4 トン,亜鉛が 19.2 トン,カドミウム

の火口を中心として同心円を描き,その周辺の単

が 0.36 トンおよび鉛 2.4 トンが水圏に溶出するこ

位面積に降下した火山灰量と距離の関係を調べ,

とになる.

火山灰放出量が距離に関して指数関数的に減少す

また,1955–2001 年までの 46 年間に桜島火山

ること見出し,このことを利用し,火山灰放出量

南岳は約 7,500 回の爆発を繰り返している.これ

を報告している(鎌田・坂元,1975a–b;村山・

は 1 年当たりに換算すると約 160 回爆発したこと

鎌田,1975).これらの火山灰放出量をもとにし

になる.そこで,1 回当たりの爆発から放出され

て水圏への重金属元素の溶出量を算定する.

た火山灰量から水圏に溶出する各種重金属元素量 に換算すると,銅 46.3 kg,亜鉛 120 kg,カドミ

244


RESEARCH ARTICLES

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ウムが 2.3 kg および鉛が 15 kg 溶出したことにな

うに際しては鹿児島県育英財団のご援助をいただ

る.

いた.厚くお礼申し上げる.

著者らは,霧島火山地域から,同地域を貫流 して北部鹿児島湾に流入する河川,同地域の温泉 水中の重金属元素濃度並びに負荷量を算定する試 みをした.その結果は,重金属元素濃度の約 2% が温泉水由来とした(鎌田・坂元,1973;坂元・ 鎌田,1975b).温泉水由来のものの他に供給源は, 降水中に含まれるもの,広義の火山噴出物(過去 に噴出した溶岩等からの溶出,変質物からの溶出 等),現在活動している桜島火山南岳から放出さ れた火山灰に由来するものなどが考えられる.  あとがき 桜島火山南岳のような活発な火山活動を継続 している火山では,火口内に入って,火山ガス・ 火山灰などの火山噴出物を直接採取することは危 険を伴う.このような火山では,安全に入手でき る試料の一つである火山灰に付着してくる成分 (揮発性重金属元素)に注目した研究を行った. その結果,過去・現在の桜島火山の活動によって 放出された火山灰中の重金属元素(銅,亜鉛,カ ドミウムおよび鉛)について知見を得ることがで きた. 桜島の火山活動が長期化すれば,これらの重 金属元素が水圏に入り生態系に何らかの影響を及 ぼすことが考えられる.1914 年 1 月(大正の大 噴火)から 100 年を迎えた今,今後予想される桜 島火山の大噴火に向けた火山災害への備えが求め られる.  謝辞  本研究を行うに当たり,火山灰の採取にご協力 いただいた鹿児島郡西桜島町の酒匂鉄子様,鹿児 島市小山田町の甲斐久子様,垂水の迫田淳一様, 京都大学桜島観測所の諸氏をはじめ多くに方々に 深謝する.また,鹿児島大学理学部化学科の中村 清人・竹下祐一郎・小松紀枝・小山田誠一郎学士, 同学部地球環境科学科の岡山かおり修士には,火 山灰の採取,分析等で多大なご協力を得た.ここ に記して,お礼を申し上げる.また,本研究を行

 引用文献 有川貞清.1958.桜島火山活動に関する中毒学的研究,鹿 児島大学医学雑誌,10, 1556–1564. Bernas, B. 1968. A new method for decomposition and comprehensive analysis of silicates by atomic spectrometry. Analytical Chemistry, 40, 1682–1686. 江藤庸夫.1981.桜島火山から放出された降下火山灰量に ついて , 鹿児島県地震火山調査研究協議会,23–29. 団野晧文・鎌田政明・西山安夫・坂元隼雄.1981.桜島火 40 山灰中の K の分析.Radioisotopes, 30, 599–601. 平林順一.1981.桜島における火山ガスの成分変化と火山 活動.京都大学防災研究所年報,(24), 11–20. 平林順一.1982.桜島火山の地球化学.火山,第 2 集,27, 293–309. Hirabayashi, J., Ossaka, J. and Ozawa, T. 1982. Relationship between volcanic activity and chemical composition of volcanic gases — A case study on the Sakurajima Volcano. Geochemical Journal, 16, 11–21. 石川秀雄.1973.桜島の火山灰と微量成分.鹿児島地理学 会紀要 , 21, 33–34. 石川秀雄・江頭庸夫・田中良和・植木貞人.1981.桜島火山, 自然災害特別研究成果,153–179. 今吉盛男・前田 滋・竹下寿雄.1985.桜島の降灰調査(II), 2降灰量と SO4 他 2, 3 の降下成分について.大気汚染学 会誌,20, 128–138. 鹿児島県.1981.桜島火山灰の化学分析と降下火山灰量, 鹿児島県地震火山調査研究協議会,1–29. 鹿児島県立鹿児島工業高等学校化学愛好会.1975.桜島火 山噴出物について(第 1 報),1–18. 鎌田政明.1975.火山活動と地球環境.火山,第 2 集,20, 特別号,355–362. 鎌田政明・太田一也.1977.第 2 回桜島火山の集中観測報 告書,98–104. 鎌田政明・太田一也・松尾紃道.1980.第 3 回桜島火山の 集中総合観測報告書,91–97. 鎌田政明・坂元隼雄.1973.霧島火山地域から河川を経由 して流下する火山噴出物の量(続)同火山地域の温泉 水の亜鉛,銅,鉛,カドミウム等の含有量.日本温泉 科学会講演要旨,温泉科学,24, 102. 鎌田政明・坂元隼雄.1974.火山活動による環境への物質 の放出(続)火山灰の放出にともなう重金属の放出量, 日本化学会九州・中国四国支部講演予稿集,41. 鎌田政明・坂元隼雄.1975a.最近 20 年間の桜島火山周辺 への火山灰の放出量(演旨).火山,第 2 集,20, 122. 鎌田政明・坂元隼雄.1975b.1914 年桜島火山活動時の火山 灰の放出量と鹿児島市に降下した火山灰の化学組成. 日本化学会地球化学討論会講演要旨集,35. 鎌田政明・坂元隼雄.1979.火山活動にともなう水銀の放 出を利用する火山活動の予知.文部省科学研究費特定 研究,第 16 回自然災害科学総合シンポジウム講演論文 集,621–622. 鎌田政明・坂元隼雄.1980.桜島における大気中の水銀含 有量の連続観測とそれによって火山活動の消長を把握 しようとするこころみ.第 3 回桜島火山の集中総合観 測報告書,98–104.

245


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 鎌田政明・坂元隼雄・坂元隆巳・大西富雄.1984.桜島火 山活動と化学的情報,桜島地域学術調査協議会調査研 究報告,27–34. 鎌 田 政 明・ 小 沢 竹 二 郎・ 村 上 悠 紀 雄・ 吉 田  稔( 編 ). 1985.地熱流体の化学 ― 環境科学の視点から.東京大 学出版会,1–11. 小牧髙志・竹下寿雄.1978.鹿児島市の大気汚染(その 5), 鹿児島大学工学部研究報告,81–88. 松本幡郎・坂元隼雄.1976.1974–1975 年阿蘇火山噴出物に ついて,日本火山学会 1976 年度秋季大会講演要旨,火 山,第 2 集,21, 205. 村山広道・鎌田政明.1975.桜島火山の火山灰の化学的性 状に関する研究(1)(演旨).火山,第 2 集,20, 179. 小坂丈予・平林順一・小沢竹二郎・君島克憲.1977.桜島 火山噴出ガス成分の連続測定と活動状況の推定 ― 特に 湿式法による測定結果 ―.第 2 回桜島火山の集中総合 観測,68–80. 小坂丈予・平林順一・小沢竹二郎.1982.噴気ガス成分に よる桜島火山の活動状況の推定(4).第 4 回桜島火山 の集中綜合観測,69–76. 小坂丈予・小沢竹二郎.1975a.1975 年 2 ~ 3 月桜島火山の 綜 合 調 査,6, 火 山 ガ ス( 演 旨 ). 火 山, 第 2 集,20, 129. 小坂丈予・小沢竹二郎.1975b.桜島火山噴出ガスの成分の 観測と活動状況,桜島火山の綜合調査報告,62. 小坂丈予・小沢竹二郎・大平洋子・富田 毅・坂元隼雄. 1973.浅間山 1973 年活動における噴出物と噴火様式(そ の 1)(演旨).火山,第 2 集,18, 108. 小沢竹二郎.1965.火山ガス.火山,第 2 集,10, 10 周年特 集号,221–232. 斉藤浩子・及川紀久雄・坂元隼雄・鎌田政明.1982.イオ ンクロマトグラフィーによる火山灰可溶性成分の迅速 分析.地球化学,16, 43–47. 坂元隼雄.1975.桜島火山における降下火山灰の微量金属 成分(銅,亜鉛,カドミウム,鉛,水銀)の化学的研究. 鹿児島県育英財団報告書,1–66. 坂元隼雄.1977.降下火山灰の付着微量成分を利用する火 山発散物全体像の把握の研究.鹿児島県育英財団報告 書,1–53. 坂元隼雄.1983.桜島降下火山灰中の微量成分の化学的研究. 鹿児島県育英財団報告書,1–77. 坂元隼雄.1994.桜島火山南岳から放出された降下火山灰 の水溶性成分の地球化学的研究.鹿児島科学研究所研 究報告,(5), 11–20. 坂元隼雄.2008.水銀汚染と地球環境 ― 火山起源の水銀 ―. 地球環境,13, 237–244.

246

RESEARCH ARTICLES Sakamoto, H., Fujita, S., Tomiyasu, T. and Anazawa, K. 2003. Mercury concentrations in fumarolic gas condensates and mercury chemical forms in fumarolic gases. Bull. Volcanol. Soc. Japan, 48, 27–33. 坂元隼雄・鎌田政明.1974.火山活動による環境への物質 の放出-火山灰の微量金属成分.第 11 回化学関連支部 合同九州大会講演予稿集,26. 坂元隼雄・鎌田政明.1975a.火山発散物中の重金属元素の 分布(演旨).火山,第 2 集,20, 188–189. 坂元隼雄・鎌田政明.1975b.錦江湾(鹿児島湾)に流入す る河川経由の物質移動量(その 2),霧島火山地域から 河川を経由して流下する火山噴出物 ― とくに温泉水由 来の重金属の量.鹿児島大学理学部紀要,8, 99–109. 坂元隼雄・鎌田政明.1976.火山発散物中の重金属の分析法. 第 37 回分析化学討論会講演要旨,195. 坂元隼雄・小沢竹二郎.1974.薩摩硫黄島の火山ガスの重 金属含有量(演旨).火山,第 2 集,19, 48. 坂元隼雄・小沢竹二郎・鎌田政明.1974.薩摩硫黄島の火 山ガス中の微量成分(その 2)親銅元素 (Cu, Zn, Cd, Pb) の含有量.日本化学会地球化学討論会講演要旨,176. 島田欣二・福重安雄・重信 学.1980.桜島降灰の性質. 鹿児島大学工学部研究報告,22, 133–138. 竹下寿雄・前田 滋・永田実秋.1980a.桜島その他の火山 灰に含まれる二三の微量成分について.大気汚染学会 誌,15, 298–305. 竹下寿雄・前田 滋・下原孝彰.1979.鹿児島市および桜 島の大気汚染(降灰)調査(第 1 報).鹿児島大学工学 部研究報告,21, 137–159. 竹下寿雄・前田 滋・西牟田幸治・今吉盛男.1980b.鹿児 島市および桜島の大気汚染(降灰)調査(第 2 報).鹿 児島大学工学部研究報告,22, 139–155. 竹下寿雄・前田 滋・今吉盛男・早水裕之.1981.鹿児島 市および桜島の大気汚染(降灰)調査(第 3 報).鹿児 島大学工学部研究報告,23, 133–151. 竹下寿雄・前田 滋・今吉盛男.1985.鹿児島市および桜 島の大気汚染(降灰)調査(第 7 報).鹿児島大学工学 部研究報告,27, 159–176. 寺島 滋.1971.ケイ酸塩中微量成分の原子吸光分析.分 析化学,20, 321–326. 山口鎌次.1975.桜島火山の研究(鹿児島湾周縁地域及び 桜島火山の地質学並びに岩石学的研究).日本地学教育 学会,128 pp. 吉留道哉.1974.桜島噴火による降灰について(考察).技 術通信,149–167.


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島の陸生ヘビ類の分布と生態 1

1

鮫島正道 ・中村正二 ・中村麻理子 1

2

〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館 

 はじめに  生態系の中で動物は被食者と捕食者の関係でつ ながり,食物連鎖や食物網をつくっている.ヘビ 類はその中で,二次もしくは三次消費者として重 要な位置を占めている.また環境の変化に敏感に 反応するため,その生息状況は環境の自然度をは かる目安になっており,生態調査では重要な指標 生物である.そのこともあり環境影響評価のため の生態系調査には,欠かせない分類群の一つであ る.  ヘビ類は種別にみて生息密度に大きな違いがあ り,生態学的に未知の部分が多い.また調査時に 遭遇する機会が少なく偶然性が強いため,詳細な 情報が得にくく,定量的な調査が困難な分類群と いえる.現在のところ便宜上やや多い,普通,や や少ない,極小という表現が一般的である.  陸生の日本産爬虫類相は日本列島と琉球列島 (南西諸島)で大きく変わる.琉球列島と日本列 島の 2 つの地域の生物の分布境界は,奄美大島と 九州の間のトカラ列島(悪石島と宝島・子宝島の 間)にあり,渡瀬線という名称で知られている. 区系生物地理学では,この渡瀬線から北側の日本 列島を旧北区,これより南の琉球列島側を東洋区 としている.旧北区と東洋区にまたがる鹿児島県     Sameshima, M., S. Nakamura and M. Nakamura. 2014. Review of distribution and ecology of terrestrial snakes in kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 40: 247–256. MN: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (email: naka_tatsu@ po3.synapse.ne.jp).

は,両区のヘビ相をもつため,国内最多の種(4 科 10 属 16 種 2 亜種)が生息する地域といわれて いる.また鹿児島県は南北 600 km,東西 300 km と広範囲で島嶼が多いのも特徴といえる.  国内のヘビ類を含む爬虫類相については,中村・ 上野(1976),疋田(1989),環境庁(1993)が詳 しく,鹿児島県内のヘビ相については,鮫島(1983, 1985, 1986, 1989, 1991, 1994, 1995, 1996, 1997, 1998, 1999)がある.  鹿児島県内のヘビ相を把握し,これらの種の地 域絶滅の要因を究明し対処することは,生物多様 性の保全に貢献することにつながる.  今回は鹿児島県内に生息するヘビの仲間で,海 に棲むウミヘビ類を除いた陸生のヘビ類を対象と した.  材料と方法 陸生小動物の生態調査は,両生類,爬虫類,哺 乳類を一括りにして,両・爬・哺調査として環境 調査の対象にする慣例がある.本論文でのヘビ類 に関する記録のほとんどは両・爬・哺調査時のも のである. 調査方法は見つけ取り法である.目視だけに よる種名の決定は誤同定の要因となるため,捕獲 し詳細に検索することが義務付けられている.調 査では調査地をくまなく歩き,発見したら必ず捕 獲し,種の同定や特徴を確認した後に放逐した. ヘビ類は種によって生息密度に差があり,そ の発見には偶然性も強いため,本報告のデータは 第一著者の調査活動期間である昭和 44 年(1969 年)から平成 25 年(2013 年)までの 44 年間の

247


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

 R. braminus (Daudin, 1803) メクラヘビ Colubridae へビ科 本科は現生のヘビの総種数 のほぼ 2/3 を含む大きい科である.鹿児島県内に は 6 属 11 種が分布する. Achalinus タカチホヘビ属 本属は東アジア地域 に分布している.ヘビ類の中では日本本土と琉球 列島に共通する数少ない属の 1 つといえる.  Achalinus spinalis Peters, 1869 タカチホヘビ 図 1.南西諸島と薩南諸島の位置.

 A. Werneri van Denburgh, 1912 アマミタカチホヘビ Elaphe ヘビ属 本属は分類学的に混乱しており, 将来いくつかの属または亜属に細分される可能性

集積である.また著者らが未調査の島嶼や地域は

がある.

文献調査により補足した.報告したヘビ類の種名,

Elaphe quadrivirgata (Boie, 1826) シマヘビ

学名および分類体系は「日本産野生生物目録」 (環

E. conspicillata (Boie, 1826) ジムグリ

境庁,1993)に準拠した.鹿児島県内の島嶼の位 置関係については図 1 に示した.  結果 鹿児島県内には 4 科 10 属 16 種 2 亜種のヘビ

E. climacophora (Boie, 1826) アオダイショウ Opheodrys アオヘビ属 本属は分類学的に混乱し ている.日本産のアオヘビ類はアオヘビ属の 1 属 にまとめられている. Opheodrys semicarinatus (Hallowell, 1860) リュウ

類が生息する.鹿児島県内におけるヘビ類の分布

キュウアオヘビ

概況を表 1 に示す.ここでは既存の文献記録も反

Dinodon マダラヘビ属 本属は 10 種近くが知ら

映されるように配慮した.筆者らが確認した種は

れ,日本,中国,インドシナの北部,ヒマラヤ東

●印,文献記録は白抜きの○印,生息の可能性は

部などに分布する.

あるが確かな記録がない種は?印にした.かつて

Dinodon semicarinatus (Cope, 1860) アカマタ

生息していても何らかの原因で激減,絶滅した種

D. orientalis (Hilgendorf, 1880) シロマダラ

や,古い文献資料の一部には信憑性に欠けるもの

Natrix ユウダ属 本属は東南アジアを中心に広域

があるため,これからの作業で改善を進めたい.

に分布し,北は朝鮮,樺太にまで分布域が広がる.

鹿児島県内に生息するヘビ類について,観察 事例などを加え分布,形態,生態について表 2 に 示し,生態写真を図 2 に示した.

Natrix vibakari vibakari (Boie, 1826) ヒバカリ N. pryeri pryeri (Boulenger, 1887) ガラスヒバァ Rhabdophis ヤマカガシ属 本属は日本,朝鮮半 島,シベリア東南部,中国,フィリッピン,イン

鹿児島県内に生息するヘビ類の分類について,

ドシナ,マレーシア,ヒマラヤ東南部などに分布

科・属・種・亜種の分類階級別に以下に整理した.

し,10 種ほどが知られている.日本には次の 1 種が分布する.

Typhlopidae メクラヘビ科 本科は全世界の熱帯

Rhabdophis tigrinus tigrinus (Boie, 1826) ヤマカガシ

地方に広く分布する.日本では琉球列島全域と鹿 児島県本土の南部地域の無霜地帯に 1 属 1 種が分

Elapidae コブラ科 本科はアジアの熱帯地方と

布する.

オーストラリアに多くの種が生息するが,アフリ

Ramphotyphlops メクラヘビ属 この仲間は熱帯

カや南北アメリカなどにも広く分布し,コブラの

域を中心に,汎世界的に分布する.

ような毒蛇を含む.日本には 1 属 2 亜種が分布し

248


タカチホヘビ

ジムグリ

アオダイショウ

竹島 硫黄 島 甑島 長島 ?

黒島

種子 島

大隅諸島

屋久 島

口永 良部 島

●:筆者らが確認した種;○:文献記録;?:生息の可能性はあるが確かな記録がない種.

トカラハブ

ハブ

ハブ

ヒメハブ

マムシ

ハイ

ヒャン

ヒャン

ヤマカガシ

ヒバカリ

ガラスヒバァ

シロマダラ

アカマタ

リュウキュウアオヘビ

シマヘビ

アマミタカチホヘビ

メクラヘビ

鹿児 島県 本土

本土属島

鹿児島県本土

表 1.鹿児島県における陸生ヘビ類の分布概要.

口之 島

中之 島 ○

臥蛇 島 ○

諏訪 之島 ○

平島

悪石 島

南西諸島 トカラ列島

宝島 ・ 小宝 島

横当 島

喜界 島

奄美 大島

奄美群島

加計 呂麻 島

与路 島

請島

奄美大島属島

徳之 島

沖永 良部 島

与論 島

RESEARCH REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

249


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

ている.

ガラスヒバァは普通のヘビ型,細長型,そしてメ

Calliophis ワモンベニヘビ属 本属は台湾,フィ

クラヘビ,ヒャン,ハイは頸のくびれのない蛇で

リピン,中国南部,東南アジアなどに分布する.

ある.

コブラと同じ神経毒をもつ.奄美大島にはヒャン,

 尾の形態 メクラヘビ,ヒャン,ハイは,尾が

徳之島と沖縄諸島にはハイが分布しており,それ

短く,その先端は円錐状(ボールペンの先のよう

ぞれ亜種として扱われている.

な形)に尖る.これらの種は尾部先端をスルスル

Calliophis japonicas japonicas Günther, 1868 ヒャン

と土の中へ潜り込ませ,体を後方へ推し進め,土

C. j. boettgeri Fritze, 1894 ハイ

の中に潜り込むのに大変有利な形態と能力をも ち,ミミズを餌としている.尾部の形態は食性と

Viperidae クサリヘビ科 本科はオーストラリア

行動によく適応している.

を除く全世界に広く分布する.

 幼体と成体の模様の違い シマヘビ,アオダイ

Agkistrodon マムシ属 本属は 10 種ほどが知られ

ショウ,ジムグリは成長に伴い体の模様が著しく

ており,インドから東南アジアにかけての地域が

変化する.シマヘビやアオダイショウの幼蛇の体

分布の中心である.その他にはヨーロッパ東部か

には,はしご状の斑紋が並ぶ.これはマムシの模

ら日本まで分布しているマムシ,北アメリカから

様に擬態していると思われる.またジムグリの幼

中央アメリカにかけて分布しているアメリカマム

蛇は鮮やかな色彩の模様をもち,これはわざと目

シがある.

立つことで身を守る警告色といえる.

Agkistrodon blomhoffii (Boie, 1826) マムシ

 体色の個体変異 ヘビ類には体色の個体変異が

Trimeresurus ハブ属 本属は東南アジアを中心に

みられるため,外形や色彩による目視だけの同定

分布し,北は琉球列島の小宝島まで広がっている.

は当てにはならない.黒化型の変異がでる種はシ

また琉球列島の地史と深い関わりのある動物とし

マヘビが最も多く,次いでトカラハブ,稀ではあ

て,地質学の分野でもよく引用される.

るがハブやヤマカガシでみられる.成体の模様や

Trimeresurus okinavensis Boulenger, 1892 ヒメハブ

色彩の変異が多いのはシマヘビである.

T. flavoviridis flavoviridis (Hallowell, 1860) ハブ

 食性と生息環境の関係 ヤマカガシ,ガラスヒ

T. f. tokarensis Nagai, 1928 トカラハブ

バア,ヒバカリ,ヒメハブおよびマムシは,湿地

 考察

や水辺を好む.いずれの種もカエルを捕食する. シマヘビ,ジムグリおよびシロマダラなどは,や

 生息分布の特異性 分布特性によって現在の鹿

や乾燥した環境を好み,ネズミもしくはトカゲな

児島産のヘビ類は次の 4 グループに区分される.

どを食する.当然のことであるが食性と生息環境

①タカチホヘビ,ヤマカガシ,マムシおよびヒメ

は密接に関係する.

ハブは,日本列島と中国大陸でなんらかの系統的

 樹上性と地上性 奄美大島産のハブは地上でみ

な関連をもつ種(大陸にも同亜種が分布するもの,

られることが多いが,徳之島産のハブは樹上が多

別亜種が大陸に分布するもの,姉妹種が大陸に分

い.その理由としては,奄美大島は地上を這う餌

布するもの)である.②シマヘビ,ジムグリ,ア

生物が豊富であるが,徳之島はやや乾燥気味で地

オダイショウ,ヒバカリおよびシロマダラは,日

上を這う餌生物が少なく,樹上の小鳥類が主な餌

本列島(旧北区系)の固有種.③リュウキュウア

であるからと思われる.またトカラ列島の宝島に

オヘビ,アカマタ,ガラスヒバァ,ヒャン,ハイ,

生息するトカラハブは,鳥類の渡りの時期(春の

ハブ,トカラハブおよびアマミタカチホヘビは,

渡り・秋の渡り)に樹上に登る傾向がある.

奄美群島(東洋区系)の固有種.④メクラヘビは

 夜行性と昼行性 動物の習性を現す用語に昼行

汎世界的分布を示す種である.

性と夜行性がある.一般的にシマヘビ,アオダイ

 蛇の体型 ヒメハブやマムシは体型が太短型,

ショウ,ジムグリ,リュウキュウアオヘビおよび

250


固有種.奄美大島・徳之島・ 全長は 20–55cm で,スマートな体形をしている. 陰湿な森林の中などを好んですみ,朽木や腐植物質 徳之島の確認例では,湿地の周縁 沖縄島・渡嘉敷島だけに分 体色は,灰色がかった黒で,腹面は黄色になってい などの下でみつかる.地面に潜っていることが多く,部の堆積した落ち葉の下で確認し 布. る.著者らの幼蛇の観察では白灰色がかった黄色で,ミミズを食べているようである. た. 尾下板・肛板ははしご状.

日本列島固有種.北海道, 全長は 80–180cm で,シマヘビの名のように,地色 本州,四国,九州とその周 の淡褐色に黒褐色の 4 本の筋が走る.体色の変異は 辺の島々に分布する. 広く,全身真っ黒な個体もある.幼蛇の体色は,親 とかなり異なり,背中側の地色は灰色ないし赤みが かった茶色.

日本列島固有種.北海道, 本州,四国,九州と周辺の 島々に分布する.対馬にも 分布する.

日本列島固有種.北海道, 本州,四国,九州と周辺の 島々に分布する.対馬にも 分布する.

シマヘビ

ジムグリ

アオダイショウ

日本列島産では最大の蛇で,全長 100–200cm.全身 の地色はオリーブ色で,暗褐色の不明瞭な 4 本の縞 がある.幼蛇は成体と体色が異なり,はしご状の斑 紋が並んでいるため,マムシやシロマダラと間違え られる.

全長 80–120cm で,背面は淡褐色で,小さな黒い点 が散在し,腹面はクリーム色の地に黒い斑紋がチェ ック状に並ぶ.幼蛇の背面は,鮮やかなオレンジ色 ないし赤褐色の地に,黒褐色の斑点や横帯が並び, 頭には逆Ⅴ字型の模様.

鹿児島県本土・屋久島の調査では 農耕地・河川敷・原野で稀にみら れるが,シマヘビ・アオダイショ ウと比較して,多い蛇ではない.

鹿児島県内の農耕地・河川敷・原 野での確認が最も多い種である. 全身真っ黒な個体はカラス蛇とよ ばれる.

主にネズミなどの哺乳類と鳥類を捕食する.このた 鹿児島県本土では,人間の生活域 め,人家にも棲みついている.人間の一番身近にい での確認である.生息数は,近年 る蛇で,木にもよく登る.5–6 月が交尾期で,7–8 は減少傾向にあり,調査では,ほ 月に 4–17 個の卵を産む.幼蛇は約 2 ヵ月で孵化する.とんどみられなくなった. 孵化したばかりの幼蛇は全長 40cm 程度である.

人家のそばには出没せず,草地や笹原,畑,山地に 生息.食性は鼠食いで,ジムグリの名のように,鼠 の巣穴に潜りこんで,ハタネズミやヒミズ・モグラ などの小型哺乳類を捕食している.5–6 月が交尾期 で,7–8 月に 2–8 個の卵を産む.幼蛇は 47–55 日で 孵化する.

食性は幅が広く,主にカエル類とトカゲ類を食べる が,鳥類や哺乳類も捕食する.7–8 月に 4–15 個を 産卵する.子蛇は 40–50 日で孵化する.アオダイシ ョウやジムグリと比較し,攻撃性の強い種である.

メクラヘビは雌だけで単為生殖が できることも手伝って,土中に紛 れ込んで分布を広げることができ る.別名,植木鉢蛇とも呼ばれる. 土つきの植木等で分散する.

アマミタカチホヘビ

地面に潜っていることが多く,体の構造は地中生活 に適応し,自力で土の中を動き回る.尾の先をスル スルと土の中へ潜り込ませ,体を後方へ推し進める のに大変有利な体形と能力を持っている.地表に出 し観察すると,蛇の移動方法,いわゆる蛇行をし, 舌をペロペロと出す.

本州,四国,九州に分布し,小さな蛇で,全長 25–46cm,全身は紫がかった褐色 夜行性で,主に森林の林床や石の下などでみつかる.鹿児島県本土の確認事例は,①渓 中国の東南部に分布してい で背の中央に褐色の筋が走っている.鱗はビーズ状 車に引かれた個体がみつかることもある.地面によ 流沿いの堆積した落ち葉の下.② る. で,光沢がある.尾部の腹面の尾下板・肛板ははし く潜り,主にミミズなどを食べている. 林道沿いの土砂崩れ現場の砂礫の ご状. 下であった.

体色は黒色から濃褐色.大きさ・形・体の色はミミ ズそっくりである.体長 20cm 足らずの世界最小の 蛇.体全体が極めて細く,首のくびれがない.一般 の蛇と異なり,頭骨をなすそれぞれの骨がしっかり 結合して箱状になっている.

タカチホヘビ

備考

琉球列島全域に分布してい るが,鹿児島県本土南部地 域の海岸線沿いの無霜地帯 では普通にみられる.

生態

メクラヘビ

形態

分布

種(亜種)

表 2.鹿児島県内に生息する陸生ヘビ類について.

RESEARCH REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

251


252

分布

本州,四国,九州と周辺の 島々に分布する.大陸では 沿海州,朝鮮半島,中国東 南部のタイリクヤマカガ シ,台湾のタイワンヤマカ ガシの亜種がある.

ヤマカガシ

ヒャン ヒャン

固有亜種.奄美大島とその 全長は 30–60cm 前後の小型で美しい蛇である.背 属島 ( 加計呂麻島・与路島・ 面はオレンジ色,腹面は黄白色,背面中央に一本の 請島 ) に分布.コブラ科の 細い縦条があり,さらに数個の幅広い黒色黄帯があ 毒蛇であり,毒性は中枢神 る.尾は短く,尾端は円錐状 ( ボールペンの先のよ 経毒である. うな形 ) に尖る.小型で美しい蛇だが,土地の人は この蛇を恐れている.

全長は 60–160cm で,背面は,褐色の地色に黒斑が 入り交じり,頸には大きな黒斑と黄色い帯がある. 若い個体では,この模様ははっきりしている.年齢 を重ねた成体では,模様は不明瞭になり,全体的に 褐色になる.また,この模様にも変異があって,赤 斑の出ないものなどがある.

全長 75–110cm 前後の中型の蛇.背面はやや緑がか った黒褐色に黄色の細い横帯がある.尾長指数 (31) で尾がかなり長い.尾が長いせいか,捕獲したとき 尾が切れている個体が多い.

固有種.奄美・沖縄諸島に 分布.亜種として宮古島に はミヤコヒバア,八重山諸 島にはヤエヤマヒバアが生 息する.

ガラスヒバァ

ヒバカリ

観察例として,盛夏の早朝,畦で 休息する個体.夜間の雨の中を移 動する屋久島の個体.古い倉庫の 敷板の下で分散した状態で,数個 体同時に確認した. 日本列島固有亜種.本州, 全長は 40–50cm で,おとなしい蛇である.背面は 田んぼや池などの水辺で,よくみられる.食性は, 亜種として長崎県の男女群島から 四国,九州と周辺の島々に 褐色で,腹面は黄褐色,頭部はやや黒ずみがかって カエルやオタマジャクシ,魚,ミミズなど食べる. ダンジョヒバカリ,朝鮮半島,沿 分布する. いて,頸の両側に黄色い斑紋がある.タカチホヘビ 7–8 月に 2–10 個の卵を産む. 海州にタイリクヒバカリという亜 と間違われる. 種が知られている.

捕獲すると,尾の先端を押し付ける行動をとる.土 地の人はこの行動を,尾の先の毒針で刺すと恐れて いる.しかし,その機能はない.地中に潜っていく 行動は,メクラヘビに似て,尾の先をスルスルと土 の中へ潜り込ませ姿を隠す.文献では夜行性で昼間 は全く活動しないとある.食性は小型のトカゲ類や ミミズ等である.

頸の皮膚の下には,頸腺という毒腺があり,皮膚が 破れると毒液が出てくる.また,上顎の奥にナイフ 状の大きな牙があり毒液が傷口に入るようになって いる.頸の毒は,敵から身を守るため,牙の毒は, 餌を動けなくするのに役立っているとされている. 食性は,カエル食い,魚も食べる.交尾は春よりも 秋に多くみられ,初夏に 8–30 個の卵を産む.

極稀な蛇である.著者の観察例で は真昼に活動する個体をみている (13 時,龍郷町の集落地の草地,晴 天 ).これまでの 4 回の確認例から 生態は,山地から平地まで生息し, 昼でも夜でも活動する.

鹿児島県本土では,田んぼや池, 川などの水辺で最も普通にみられ る蛇である. 自宅の犬小屋での 行動で,犬に追いつめられ頸の部 分を広げて,頭を下げる独特の威 嚇姿勢を観察した.

森林から集落付近まで,どこでも普通にみられる. ガラス ( カラス ) のように黒いヘ 特に湿地や田の畦など水のある場所を好むようであ ビ ( ヒバア ) という意味の方言に る.昼でも夜でも活動する.水面を上手に泳ぐ蛇で ちなんだ名前である.生息地は, ある.食性はカエル類でヌマガエル・リュウキュウ 鹿児島県本土のヤマカガシの生息 カジカガエルなどであり,オタマジャクシも食べる.環境に似る.

食性は,主に爬虫類食で,トカゲ・カナヘビなどの トカゲ類と小型のヘビ類を食べる.夏に 2–9 個の卵 を産む.生態は夜行性で昼間は全く活動しない蛇で ある.

固有種.本州・四国・九州 体長は 30–70cm 前後の小型の蛇.背面は淡灰褐色 に分布している. または灰褐色.胴に 40 個内外,尾に 15–20 個ぐら いの黒褐色の横帯がある.体色・模様から,アオダ イショウの幼蛇が本種とよく間違われる.

著者の観察事例では,宝島産の本 種は,成体のほとんどが 60cm 前 後であり,奄美本島・その他の島々 との比較では矮性傾向がみられる.

備考

シロマダラ

森林や草地にもいるが,特に水辺の草むらに多い. 昼間普通にみられる蛇の一つで,森林や草地にもい るが,とくに水辺の草むらに多い.食性はミミズを 食べる.宝島で道路に散在する落ち葉の堆積物に潜 り込んでは数分で出てきて,次の堆積物に潜り込ん でいく行動を観察した.

生態

固有種.奄美諸島・沖縄諸 体長は 80–200cm 前後の大型の蛇.背面は赤褐色で ごく普通にみられる.夜行性で,地上で活動する. 本種の特徴の一つに独特の体臭が 島に分布する. 大きな黒斑の列を備え,腹面は黄白色で赤と黒の大 食性は幅が広く,カエル類・トカゲ類・魚類・小鳥 あり,強烈な腐敗臭を放つ.夜間 きな文様が目立つ美しい蛇. 類・ネズミ類などを食べる.性質は粗く地元ではマ 調査で確認される最も多い種であ ッタブと呼ばれ,ハブを食うヘビとして知られる. る.

体長は 60–90cm.背面は灰色かつた黄褐色で,尾方 に向かって色調が暗くなり,2 条または 4 条の暗色 縦条をそなえている個体が多い.体色には変異が多 く,緑がかった個体から全体に黒っぽいものまであ る.

形態

アカマタ

リュウキュウアオヘビ 固有種.宝島・奄美諸島か ら沖縄諸島,久米島まで, ほとんど各島に分布してい る.

種(亜種)

表 2.続き.鹿児島県内に生息する陸生ヘビ類について.

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH REPORTS


生態は山地・平地・海岸線の岩場にも姿を現す.食 性は,幼蛇時はトカゲ類などを餌とし,成蛇になる と哺乳類や鳥類などの温血動物を好んで食べる.そ の他いろいろな脊椎動物を食べる.夜行性.著者の 観察では,奄美大島では地上を這う個体を,徳之島 では樹上での確認例が多いようである.

固有亜種.小宝島と宝島だ 体長は 60–115cm で,ハブに比べやや小型である. 捕獲した場所は,いずれも沢沿いや湧水池であり, けに分布. 体色は,白色 ( 淡桃色 ) の地に黒い文様を備えたも 餌となるリュウキュウカジカガエルの生息域と重な のと,体全体が黒化したものとの二型がある.白と る.地域の人の話では,春と秋の渡り鳥の季節は地 黒の出現率は九対一の割合で白色系のほうが多い. 上よりも,樹上のハブが多く,渡り鳥の小鳥を捕食 するためである.また,その年の気温にもよるが 12 月から 3 月まで冬眠する.

固有亜種.奄美大島とその 全長 100–220cm 前後,ハブ属でも最大級で攻撃性 属島・徳之島・沖縄諸島. が高い.体色は変異が多く,土地の人は体色によっ 毒性は血液毒である. て金ハブ・銀ハブと呼んでいる.徳之島には黒いハ ブもいる.一般的に,背面が黄褐色で,暗褐色の不 規則な独特の斑紋がある.頭は大きく長い三角形を している.

分布,形態および生態の内容には,中村・上野(1976),疋田(1989)の情報を含む.

トカラハブ

ハブ ハブ

固有種.奄美大島とその属 全長 30–80cm で,体型は,小さくてずんぐりして 生態は,山地森林の湿った場所や水辺に多く,特に 奄美大島・徳之島では普通にみか 島・徳之島・沖縄諸島. いる.体色は赤褐色・灰褐色・暗褐色と変異があり,渓流沿いでみかける.食性は,小型の哺乳類・鳥類・ ける蛇であり,ハブより多い.台湾, 普通は体の背面が黄褐色または灰褐色で,暗褐色の 爬虫類・両生類と幅広い.ハブ毒ほど強くないが注 南中国の近縁種は,高山地帯に分 大きな斑紋があり,腹面は暗褐色の斑点が散在する.意が必要.攻撃性も弱いこともあり,沖縄ではニー 布している.動物地理学的にも興 頭は三角形で口先は平たく突出. ブヤー ( 寝ぼけ者 ) ともよばれている.山地から平 味深い種類である. 地にかけて生息する.

著者らの二時間の調査 (1998 年・ 盛夏・夜間 ) で白色型だけ 4 頭捕 獲した.このことから島内の生息 状況は白色が多く,絶対数も多い ことが推察される.

著者の観察では,秋,徳之島で 13 時頃,2 m大のハブが,大木を上 手に上り,枝伝いに水平に泳ぐよ うな動きで 5 m移動し,枯れ枝に 体重がかかった瞬間,枝が折れ, 枝もろとも落下してきた.ハブは 頭上も注意.

山地の草むらや林の中,谷間などでみられる.水辺 鹿児島県本土・屋久島では普通に を好むようである.食性の幅は広く,カエル・トカゲ・ みかけ,特に,種子島は生息密度 鳥・ネズミなどを食べる.鼻孔と眼の間には,赤外 が高い.鹿児島県内では谷津田 ( 線を感じるピット器官という凹みがあり,餌の体温 迫田 ) 環境や杉林などの人工林に を感じる.日本列島産蛇類で,唯一胎生で 2–13 頭 多い. の子供を産む.

ヒメハブ

全長 40–50cm,雌の方がやや大きくなる.太短い 蛇で,尾も短く,顎が張り出している.背面は,淡 褐色の地に黒褐色の銭形の模様が特徴的で,模様や 色彩には変異がある.幼蛇では尾の先端が黄色であ るが,成長するとこの色は失われる.

北海道,本州,四国,九州 と周辺の島々に分布する. 大陸の沿海州,朝鮮半島と 中国南部には別亜種のタン ビマムシがいる.

マムシ

文献では夜行性で昼間は全く活動しないとあるが, 極稀な蛇である.著者の観察例 3 著者の観察例では真昼に活動する個体をみている 例とも晴天の昼間であるが,夜間, ( ①夏,15 時,晴天,徳之島井ノ川岳稜線・②秋, 森林内には調査に入らないので確 10 時,曇天,徳之島三京林道・③秋,徳之島町の 認例がないのであり,夜間,活発 集落地の草地,晴天 ).これまでの 3 回の確認例か に活動しているかもしれない. ら生態は,山地から平地まで生息し,昼でも夜でも 活動する.食性は小型のトカゲ類やミミズ等である.

固有亜種.徳之島・沖縄諸 全長は 30–55cm 前後の小型で美しい蛇である.背 島に分布.ハイとヒャンは 面はオレンジ色,腹面は黄白色.3–5 本の黒い縦条 分類学的には同一種とさ があり,さらに,その縦条を中断する細い横帯があ れ,亜種として分けている.る.尾は短く,尾端は錐状 ( ボールペンの先のよう ヒャンと同じで,美しい蛇 な形 ) に尖る.小型で美しい蛇だが,毒性は中枢神 である. 経毒であり,土地の人はこの蛇を恐れている.

ハイ

RESEARCH REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

253


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

図 2.鹿児島県のヘビ類.A:メクラヘビ,1992 年 10 月 1 日,宝島;B:タカチホヘビ,2007 年 8 月 25 日,さつま町;C:ア マミタカチホヘビ,2012 年 12 月1日,徳之島;D:シマヘビ,2007 年 7 月 9 日,薩摩川内市;E:ジムグリ,2002 年 9 月 10 日,屋久島;F:アオダイショウ,2007 年 8 月 9 日,伊佐市;G:リュウキュウアオヘビ,2007 年 8 月 29 日,奄美大島;H: アカマタ,2007 年 6 月 11 日,奄美大島;I:シロマダラ,1995 年 4 月 10 日,旧山川町.

254


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 2.続き.鹿児島県のヘビ類.J:ヒバカリ,1995 年 6 月 1 日,南九州市;K:ガラスヒバア,2007 年 8 月 28 日,奄美大島;L: ヤマカガシ,2006 年 8 月 24 日,種子島;M:ヒャン,1986 年 9 月 1 日,奄美大島;N:ハイ,1985 年 9 月 3 日,徳之島;O: マムシ,2007 年 8 月 2 日,姶良市;P:ヒメハブ,2012 年 1 月 19 日,徳之島).Q:ハブ:1992 年 7 月 20 日,奄美大島;R: トカラハブ,1998 年 7 月 30 日,宝島.

255


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ヤマカガシは昼行性が強く,シロマダラ,アカマ タ,ハブ,ヒメハブおよびマムシは夜行性が強い と考えられている.しかし習性は多様であり,昼 行性と夜行性をはっきり区別することは困難であ るため,一般的な傾向として捉えるべきである. 著者らはシマヘビやリュウキュウアオヘビが昼間 に,アカマタが夜間に寝ているところを観察して おり,一般的な習性とは真逆な事例もあった. 睡眠中のヘビの共通点としては,①地上より 20–30 cm の高さの小灌木または落枝の上,②眼 (瞼はないため)は開いたまま,体全体が脱力状態, ③目覚めは視覚や聴覚からではなく,触覚からの 刺激であった.  人為的な移入種によるヘビ相の攪乱と地域絶滅 コ イタチはかつて奄美群島への地域外移入種(鼠害 対策)として導入された.喜界島,沖永良部島, 与論島などのヘビ類の激減はコイタチが原因であ ると考えられている.奄美大島では外来生物マン グース(ハブ害対策)によって生態系の攪乱が起 こり,現在大きな環境問題を起こしている.  毒蛇 ヤマカガシ,ヒャン,ハイ,マムシ,ヒ メハブ,ハブおよびトカラハブは毒蛇である.種 により毒成分の違いはあるが,いずれの種も取扱 いに十分な注意が必要である.  引用文献 疋田 努.1989.日本の両生爬虫類相 — 分布のなりたち, pp. 3–13.大阪市立自然史博物館(編),日本の両生類 と爬虫類.大阪市立自然史博物館,大阪. 環境庁.1993.日本産野生生物目録 — 本邦産野生動植物の 種の現状.自然環境研究センター,東京.80 pp. 中村健児・上野俊一.1976.原色日本両生爬虫類図鑑.保育社, 大阪.214pp.

256

RESEARCH REPORTS 鮫島正道.1983.沖永良部の動物,pp. 115–135.鹿児島短 期大学付属南日本文化研究所(編),南日本文化第 16 号. 鹿児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿児島. 鮫島正道.1985.徳之島の動物,pp. 115–143.鹿児島短期 大学付属南日本文化研究所(編),南日本文化第 17 号. 鹿児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿児島. 鮫島正道.1986.奄美大島の動物,pp. 89–120.鹿児島短期 大学付属南日本文化研究所(編),南日本文化第 18 号. 鹿児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿児島. 鮫島正道.1989.加計呂麻島・与路島の動物,pp. 83–97. 鹿児島短期大学付属南日本文化研究所(編),南日本文 化第 21 号.鹿児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿 児島. 鮫島正道.1991.与論島の動物,pp. 71–84.鹿児島短期大 学付属南日本文化研究所(編),南日本文化 24 号.鹿 児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿児島. 鮫島正道.1994.脊椎動物,pp. 136–137.鹿児島県立博物 館(編),鹿児島の自然調査事業報告書 I— 南薩の自然. 鹿児島県立博物館,鹿児島. 鮫島正道.1994.湯湾岳の動物,pp. 59–65.鹿児島短期大 学付属南日本文化研究所(編),南日本文化第 27 号. 鹿児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿児島. 鮫島正道.1995.喜界島の動物,pp. 83–95.鹿児島短期大 学付属南日本文化研究所(編),南日本文化 28 号.鹿 児島短期大学付属南日本文化研究所,鹿児島. 鮫島正道.1995.下甑島の両生類・爬虫類相,川内川の両生類・ 爬虫類相,pp. 153–158.鹿児島県立博物館(編),鹿児 島の自然調査事業報告書 II— 北薩の自然.鹿児島県立 博物館,鹿児島. 鮫島正道.1995.東洋のガラパゴス — 奄美の自然と生きも のたち.南日本新聞社,鹿児島.177 pp. 鮫島正道.1996.奄美の両生類・爬虫類,pp. 68–79.鹿児 島県立博物館(編),鹿児島の自然調査事業報告書 III— 奄美の自然.鹿児島県立博物館,鹿児島. 鮫島正道.1997.大隅の両生類・爬虫類相,pp. 60–63.鹿 児島県立博物館(編),鹿児島の自然調査事業報告書 IV— 大隅の自然.鹿児島県立博物館,鹿児島. 鮫島正道.1998.熊毛の両生類・爬虫類相,pp. 78–83.鹿 児島県立博物館(編),鹿児島の自然調査事業報告書 IV— 熊毛の自然.鹿児島県立博物館,鹿児島. 鮫島正道.1999.鹿児島の動物.春苑堂出版,鹿児島.229 pp.


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

スナガニ Ocypode stimpsoni Ortmann の警戒距離と警戒解除時間 黒江修一 〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部

 はじめに

 材料と方法

スナガニ Ocypode stimpsoni Ortmann は,外洋に

調査は 2013 年 8 月と 9 月の大潮の日を選び実

面した砂浜の高潮線上部に深さ 20–30 cm の巣穴

施した.調査地は,鹿児島県薩摩半島の西部に位

を掘って生活する(三宅,1983).眼柄が太く,

置する折口海岸(阿久根市)である(図 2).干

発達した眼と脚をもつので,ヒトやシギ・チドリ

潮になると折口海岸には,広大な干潟が現れ,ス

などの天敵が近づくと慌てて巣穴に隠れ,動く物

ナガニ個体群の活動を随所で観察することができ

体が遠ざかるまで巣穴の中にじっと潜む.安心す

る.ここを調査地に選んだ理由は,隣接する脇本

ると,やがて巣穴から姿を現し活動を再開する(図

海水浴場のような賑わいもなく,また潮干狩りに

1).スナガニ科の仲間でも警戒心が特に強いと

訪れる人の姿もほとんどないことから,自然状態

いわれるスナガニは,一体どれくらいの距離まで ヒトが近づくと警戒して巣穴に戻るのか,また, 警戒心を解いたスナガニが活動を再開するまでに どれくらいの時間を要するのか併せて調べてみ た.今回の調査で,スナガニ個体群の警戒行動に ついてその一部を明らかにすることができたので 報告する. なお,「警戒距離」は,「動く物体(筆者)を 発見したスナガニが警戒して巣穴に戻る行動を起 こした地点と,そのときの動く物体までの直線距 離」とした.また,「警戒解除時間」は,「活動し

図 1.巣穴に片脚をかけて周囲の様子をうかがうスナガニ.

ていたスナガニが,動く物体を発見し慌てて巣穴 に戻る行動を始めた時刻から,一定時間巣穴に身 を潜めた後,動く物体の気配がなくなったことを 察して,巣穴から出て周囲の様子を伺いながら, 再び採餌等の活動を始める時刻までの経過時間」 とした.

    Kuroe, S. 2014. Early warning system of Ocypode stimpsoni Ortmann in Kagoshima Prefecture, Japan. Nature of Kagoshima 40: 257–259. Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: kuroe@ fish.kagoshima-u.ac.jp).

図 2.調査地(折口海岸)の位置.

257


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

個 30 体 数 25

100

100

98.7

100 積 90 算 割 80 合 70 %

90

68.8

20

60

15

50 40

37.5

10

30 20

16.3

5

5.1 0 0-5

図 3.警戒距離の調査(スナガニが巣穴に戻る行動を始めた 地点とそのときの観察位置にそれぞれ角材を立てて目印 とし,2 箇所間の直線距離を巻尺で測定した).

1.3

0

10 0

5-10 10-15 15-20 20-25 25-30 30-35 35-40 40-45 45-50 警戒距離(m)

図 5.スナガニの警戒距離.活動している個体にヒトがどれ ぐらいの距離まで近づくと,巣穴へ完全に隠れるかを 5 m 間隔で示す(5–10 は,5 m 以上 10 m 未満の意味).

印として角材を立てた後は,スナガニの警戒心を 解くため巣穴から急いで後退し,巣穴から約 50 m 離れた地点で,双眼鏡および望遠鏡を使用して スナガニの行動を観察し記録した(図 4).  調査結果 スナガニの警戒距離 筆者が,活動しているスナガニに近づいてい 図 4.観察方法(スナガニの警戒心を解くため観察には望遠 鏡を用いた).

くと,警戒心が最も強いと思われる個体は,スナ ガニとの直線距離が 41 m 80 cm の距離で巣穴に 戻る行動を取り始めた.30 m の距離に近づくと, それまで活動していたスナガニの 16.3% の個体

に近いスナガニの行動が観察できるのではないか

が,20 m の距離に近づくと 68.8% の個体が巣穴

と考えたからである.なお,観察する個体は,干

に戻り始め,10 m の距離に近づくと 98.7% の個

潟で盛んに活動している成体のみを調査の対象と

体が巣穴に戻り始めた.8 m 30 cm まで接近する

した.調査日の現地の天候はいずれの日も晴れで

と,全ての個体が巣穴の奥深くに身を潜めた(図

あった.

5).個体群の中で,観察したスナガニ 80 個体の

警戒距離は,筆者がスナガニに極力振動が伝 わらないようゆっくりした速度で直線的に近づい

うち,最も近づくことができた個体と筆者との距 離は 8 m 30 cm,次いで 11 m 10 cm であった.

たとき,スナガニが警戒して巣穴に戻る行動を始 めた地点とそのときの筆者の観察位置にそれぞれ 角材を立てて目印とし,2 箇所間の直線距離を巻

スナガニの警戒解除時間 観察したスナガニ 75 個体のうち,72.0% の個

尺で測定した(図 3) .また,警戒解除時間は,

体が 5 分以内に警戒行動を解除して採餌を始め

活動中のスナガニが巣穴に戻り始めた時刻から,

た.最も早く活動を再開した個体は,警戒行動を

再び巣穴から地上に現れて活動を再開する時刻ま

とり始めた時刻から 1 分 5 秒後に,次いで 1 分

での経過時間をストップウォッチで測定した.1

16 秒後に巣穴から出て採餌を始めた.一方,1 分

個体の警戒距離と警戒解除時間の観察・記録には

以内に巣穴から出て活動する個体は観察できな

約 20 分を要した. なお,スナガニが巣穴に戻り始めた地点に目

258

かった.警戒行動後 10 分経過すると 92.0% の個 体が干潟での活動を再開した.しかし,8.0% の


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

個 20 体 数 18

90.7

90.7 92.0

100

82.7

16 14 61.3

12

72.0

74.7

4

20.0

2

警戒解除 時間72.0% A群

B群

10

0 0-1

D群

C群

( )

6

0

20

40

警戒距離68.8%

10

30

50 41.3

8

12

警 戒 8 解 除 6 時 間 4 分

60

10

2

100 積 算 90 割 合 80 % 70

0 1-2

2-3

3-4

4-5 5-6 6-7 警戒解除時間(分)

7-8

8-9

9-10

10-

0 0

10

20 30 警戒距離(m)

40

50

図 6.スナガニの警戒解除時間.スナガニが巣穴に戻り始 めた時刻から,再び活動を再開する時刻までの経過時間 を 1 分間隔で示す(1–2 は,1 分以上 2 分未満の意味).

図 7.スナガニ各個体の警戒距離と警戒解除時間.警戒距 離と警戒解除時間の間には相関関係はみられない.

個体は 10 分以上経過しても巣穴から出てこな

ことが分かった.反面,8 m 30 cm まで近づくこ

かった.炎天下の調査であったため,こうした個

とができる個体もおり,折口海岸のスナガニ個体

体の 10 分経過後の観察は打ち切った(図 6).

群における各個体間の警戒距離には最大 33.5 m もの個体差があることが分かった.

スナガニ各個体の警戒距離と警戒解除時間

また,1 分 5 秒経過すると活動を再開する警戒

警戒距離と警戒解除時間を同じ個体でそれぞ

解除時間が比較的短い個体がいる反面,警戒行動

れ調べた結果を示す(図 7).警戒距離と警戒解

を解除するには 10 分以上を要する個体がいるな

除時間の間には相関関係はみられなかった.警戒

ど,その時間には 8 分 55 秒以上の個体差がある

距離の長短は 68.8% の個体が巣穴に戻り始める

ことも判明した .

20.0 m の距離を基準に,また,警戒解除時間の長

さらに,同じ個体で警戒距離と警戒解除時間

短を,72.0% の個体が警戒行動を解除する 5 分

を調べた結果,その長短に相関はみられなかった.

00 秒を基準にすると,スナガニ個体群の中には,

すなわち,警戒距離の長いスナガニ個体が警戒解

警戒距離と警戒解除時間の双方が短い個体(A

除時間も長いとは限らないことが判明した.ただ

群),警戒距離は長いが警戒解除時間が短い個体

し,こうした行動の差異が遺伝的に組み込まれて

(B 群),警戒距離は短いが警戒解除時間が長い個

いるのかどうか,個体群密度の違いによる警戒行

体(C 群),警戒距離と警戒解除時間の双方が長

動に差があるのかどうか,環境条件(日照時間,

い個体(D 群)の 4 つの行動パターンがみられた.

温度,湿度)の影響があるのかどうか等は,今後

 考察 遠方で動く物体を識別するスナガニの視力が どの程度発達しているのか,今回の調査で明らか になった.スナガニに 41 m 80 cm の距離に近づ

の研究課題の一つである.  引用文献 三宅貞祥.1983.原色日本大型甲殻類図鑑 II.保育社,東京. 161 pp.

いた時点で,警戒心の強い個体は巣穴に待避する

259


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

260

RESEARCH REPORTS


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

霧島山系から得られたカワラムシヒキ(ロクロウヒラズムシヒキ) (ハエ目:ムシヒキアブ科) 1

河野太祐 ・金井賢一 1

2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部生物多様性学講座 2

〒 892–0853 鹿児島市城山町 1–1 鹿児島県立博物館

 はじめに カワラムシヒキ(またはロクロウヒラズムシ ヒキ)Lasiopogon rokuroi Hradský, 1981 はわが国 では本州の群馬県,栃木県,四国の徳島県におい て採集されている(別府,2007;Hradský, 1981; 中山,2012)ほか,近年韓国にからも記録されて いる(Young, 2007). 九州においては,宮崎県大淀川における採集 記録がインターネット上の「河川環境データベー ス 」(http://mizukoku.nilim.go.jp/ksnkankyo/) に 記 載されている.筆者らのうち金井も,宮崎県霧島 山系において本種を採集したので,正式な紙媒体 における報告も兼ねて,以下のように報告する. なお,今回取り扱った標本はすべて鹿児島県立博 物館に保管される.

Fig. 1. Lasiopogon rokuroi Hradský female, lateral view.

 採集記録 カワラムシヒキ(ロクロウヒラズムシヒキ) Lasiopogon rokuroi Hradský, 1981 (Figs. 1–2) 1♂1♀:[KYUSYU; JAPAN] Miyazaki-ken Takaharacho Ôhatasawa( 宮 崎 県 高 原 町 大 幡 沢 ),1 Apr. 2013,金井賢一採集  大幡沢(Fig. 3)には 10 時頃到着し,川沿いに     Kawano, T. and K. Kanai. 2014. A record of Lasiopogon rokuroi Hradský (Diptera: Asilidae) from the Kirishima mountain range, Kyushu, Japan. Nature of Kagoshima 40: 261–262. TK: c/o Prof. Seiki Yamane, Department of Earth and Environmental Sciences, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: pseudoidatenankafu@gmail.com).

Fig. 2. Lasiopogon rokuroi Hradský male, lateral view.

261


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

 謝辞  本稿をまとめるにあたり,Charles L. Young 博 士(Wonkwang University, Iksan City)には文献の 入手に関してお世話になり,祝 輝男氏(福岡市) には本種の宮崎県大淀川の記録をご教示いただい た.この場を借りて御礼申し上げる.  引用文献

Fig. 3. Habitat of Lasiopogon rokuroi Hradský. Ohatasawa, Takahara-cho, Miyazaki Pref., Japan, 1 Apr. 2013 (photo by K. Kanai).

別府隆守,2007.四国から初めて記録されたカワラムシヒキ. はなあぶ,21: 53. Hradský, M., 1981. Drei neue ostpalaärktische Lasiopogon-Alten (Diptera, Asilidae, Stichopogonini). Travaux du Museum d’Histoire Naturelle ‘Grigore Antipa’, 23: 177–182. 中山恒友,2012.栃木県下において 48 年ぶりに発見された カワラムシヒキの記録.はなあぶ,33: 73.

シジミチョウ科のスギタニルリシジミを求めてい たところ,本種の交尾個体を目撃・採集した.採 集された個体は日の当たる岩の上で交尾してい た.

262

Yong, C. L., 2007. Robber flies of South Korea IV. Species of the subfamily Stichopogoninae Hardy, 1930 (Diptera: Asilidae). Zootaxa, 1521: 43–58.


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

鹿児島に生息する毒蜘蛛コマチグモ類の観察 — 身近な生きものに強い幼児教育者養成 — 1

1

1

1

1

鮫島正道 ・西 涼香 ・前田亜梨沙 ・萩原朋美 ・井出元志織 ・中村麻理子 1

2

〒 899–4396 霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学鹿児島県野生生物研究会本部 2

〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館

 はじめに  幼児教育の専門分野に領域「環境」がある.幼 稚園教育要領ならびに保育所保育指針によれば, 子どもたちが自然に触れることの重要性につい て,三つの視点が述べられている.それらは, 「① 自然環境で元気に遊び,心も体も健康に.②自然 への興味・関心が広がり,豊かな感性がはぐくま れる.そして,③動植物との触れ合いによって, 生命の尊さに気付く」である.  幼児教育養成校の当学園(第一幼児教育短期大 学)での自然教育・環境指導法では,自然を理解 でき,積極的に幼児を野外に導き出す教育者養成 を心掛けている.また保育者の認識している世界 が狭ければ,幼児は開かれた世界を認識すること は困難である.そのためにも,自然に強い保育者 養成を目標にしている.  幼児教育分野で,子どもを屋外に導き出すリス クとして有害生物の存在がある.幼児期は,身近 な生きものに対し強い興味をもつ時期である.九 州南部地方の子どもの自然遊びのなかに乙益 (1996)の「草花遊び・虫遊び」についての記載 がある.その中でクモ類を対象とした遊びとして, コガネグモの喧嘩,ジグモの袋取り,オニグモ網 のセミとり,ハエトリグモの観察などが各世代を     Sameshima, M., R. Nishi, A. Maeda, T. Hagiwara, S. Idemoto and M. Nakamura. 2014. Observation of a poisonous spiders, Chiracanthium japonicum, in Kagoshima, Japan, for training preschool educators who familiarize themselves with living creatures close to them. Nature of Kagoshima 40: 263–268. MN: The Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (email: naka_tatsu@ po3.synapse.ne.jp).

通して楽しい虫遊びとして紹介されている.第一 著者の育った地域(南九州市川辺町)でも同様で ある.  志村(2005)の「危険・有害生物図鑑」ならび に日本自然保護協会(1982)の「野外における危 険な生物」によれば,日本に生息する蜘蛛類によ る咬傷で注意したい種類としてコマチグモ類,オ ニグモ,アシダカグモなどが挙げられている.そ の 中 で も カ バ キ コ マ チ グ モ Chiracanthium japonicum が最強毒とされている.カバキコマチ グモは,雌の体長が約 12 mm,雄は 8–10 mm で, 背甲が橙色ないし黄褐色,口器が黒色,脚が黄色 で末端は黒,腹部が雌では丸味があり緑黄色,雄 では細く黄色,雄の牙が長いなどの特徴を有する. また,雌は夏季にススキなどイネ科の植物を巻い て産室を造り,その後子グモの餌となって死ぬこ とが知られている.産卵巣は粽(ちまき)状に巻 いた形状をしていて興味をそそることから,事故 実例は,いわゆる「巻いているススキやササの葉」 を開こうとして咬まれるケースが多いといわれ る.  本校の卒業研究「自然遊び研究」の体験学習会 の一環として調査・観察会を行った.今回の現地 確認調査は,ごく普通の環境で身近な生き物であ りながらあまり知られていないクモ類,特に国内 で最も強毒といわれるフクログモ科コマチグモ属 のカバキコマチグモを対象にした.カバキコマチ グモの鹿児島県内での生息状況を確認するため に,「巻いた葉で造られたクモの巣」を指標に定 めて,それを探す調査とした.

263


264

 

Leptotrombidium scutellare

Leptotrombidium pallidum

フトゲツツガムシ

タテツツガムシ

Leptotrombidium fuji

フジツツガムシ

ツツガムシ

Eutrombicula wichimanni

ナンヨウツツガムシ

ツツガムシ

Demodex folliculorum

ニキビダニ

Cheyletus malaccensis

ニキビダニ

クワガタツメダニ

ツメダニ

Ixodes ovatus

ヤマトマダニ Pyemotes tritici

Ixodes nipponensis

タネガタマダニ

シラミダニ

Haemaphysalis longicornis

フタトゲチマダニ

シラミダニ

Haemaphysalis flava

キチマダニ

ダニ (ケダニ)

Amblyomma testudinarium

タカサゴキララマダニ

マダニ

Ornithonyssus sylviarum

トリサシダニ

ダニ (マダニ)

Ornithonyssus bacoti

イエダニ

Dermanyssus hirundinis

スズメサシダニ

オオサシダニ

Dermanyssus gallinae

ワクモ

クモ ダニ ワクモ (トゲダニ)

県内各地

県内各地

県内各地

南西諸島

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

生息分布

種名

綱 目(亜目)科名

学名

生態

分類

表 1.鹿児島県内に生息,分布する節足動物門蜘蛛綱の有害生物.

△ 寄生する

△ 吸液する

△ 吸血する

○ 吸血する 病原媒介

○ 吸血する 病原媒介

△ 吸血する 病原媒介

△ 吸血する 病原媒介

△ 吸血する 病原媒介

△ 吸血する 病原媒介

△ 吸血する

△ 吸血する

△ 吸血する

幼児 との 被害の容態 接点

主として野ネズミに寄生.他にトリ,イヌ,ネ コに寄生するが,ヒトにも好んで吸着する.

野ネズミに寄生するが,ヒトにも好んで吸着す る.活動期は秋 – 春である.

△ 吸血する 病原媒介

△ 吸血する 病原媒介

各地の山林に生息し , 野ネズミに寄生する.活 △ 吸液する 動期は秋 – 春.ヒトにも寄生し皮膚炎を生じる.

通常はイヌ,ネコ,トリ,トカゲなどに寄生する. △ 吸液する 活動期は夏で,盛んにヒトを刺す.

終生ヒトにのみ寄生するダニ.ヒトの毛包に寄 生するため毛包虫とか毛嚢虫ともいう.

コナダニ類などの体液を吸う.家屋内では畳等 に発生し,刺咬によりヒトの体液を吸う.

貯蔵穀物,わら,牧草を食べる昆虫類に寄生. 寄生する昆虫がいなくなるとヒトを刺す.

成虫はヒトを含む中型・大型哺乳類などに寄生 する.寄生部位は頭部や頚部に多い.

夏を中心に活動し放牧牛に多数寄生.都市近郊 で犬に寄生,植木との間で生活する.ツツガム シ病媒介最多. 成虫はウマ,ウシ,シカ,タヌキ,ウサギ等の中・ 大型動物に寄生する.特にヒトに多い.

中型哺乳類・鳥類などきわめて多種類の動物に 寄生する.ヒトへの寄生は少ない.

成虫はイノシシ,ウマ,シカに寄生.ヒトにも 寄生し,特に下半身の部位に見られる.

野鳥や家禽に寄生する.野鳥の巣に多い.瓦の 隙間,換気扇,屋根裏,軒下に移動する.

本来クマネズミなどに寄生して吸血する.夏は ネズミの巣に発生し,部屋中に移動分散.

人家やその周辺に巣をつくるスズメに寄生し, 家屋内に侵入し刺咬,吸血.

飼い鳥および人家の軒下や天井裏に巣を作る野 鳥に寄生.ヒトにも寄生して吸血する.

生息環境ならびに習性

流行地に 病院へ 行くな

流行地に 病院へ 行くな

流行地に 応急 行くな 手当

流行地に 応急 行くな 手当

追い払う 病院へ

追い払う 応急 手当

追い払う 病院へ

追い払う 病院へ

追い払う 病院へ

追い払う 病院へ

追い払う 病院へ

追い払う 病院へ

追い払う 応急 手当

追い払う 応急 手当

追い払う 応急 手当

追い払う 応急 手当

予防と 対処法 対策

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014 RESEARCH REPORTS


ヤケヒョウヒダニ

Sarcoptes scabiei

Otodectes cynotis

アマミサソリモドキ

アシダカグモ

ヤマトコマチグモ

カバキコマチグモ

オニグモ

Typopeltis stimpsonii

Heteropoda venatotia

Chiracanthium lascivum

Chiracanthium japonicum

Araneus ventricosus

奄美諸島

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

県内各地

Dermatophagoides pteronyssinus 県内各地

ネコショウセンコウヒゼンダニ Notoedres cati

ヒゼンダニ

内容には日本自然保護協会(1982)と志村(2005)の情報を含む.

サソリモドキ サソリモドキ

アシダカグモ

フクログモ

クモ コガネグモ (真正蜘蛛)

ヒゼンダニ

キュウセンダニ イヌミミヒゼンダニ

ダニ チリダニ (コナダニ)

△ 咬む ( 有毒 ) ○ 咬む ( 有毒 )

ススキ原などに多く生息する.成熟期の夏にな ると雌はススキ等の葉を巻いた巣に産卵. 家屋内に生息.夜間に家屋内を徘徊してゴキブ リなどを捕食する.不用意に掴むと咬む.

主に山地の落ち葉や倒木,石の下に潜んでいる. ○ 有毒体液 小型の土壌動物を食べている. に触れる

△ 咬む ( 有毒 )

○ 咬む ( 有毒 )

円形の網を張るので目立つ,掴むと咬む. ススキ原などに多く生息する.成熟期の夏にな ると雌はススキ等の葉を巻いた巣に産卵.

人家周辺 – 山地間で生息する.軒下等に大きな

追い払う 病院へ

ヒトや哺乳類の皮膚内に穿孔し,疥癬を起こす. △ 寄生する 皮膚接触により感染し,保育園でも発生した例 がある. ネコに寄生し耳から顔面,頭部全体へと広がる. △ 寄生する ヒトへも寄生し,紅色丘疹を生じる.

触るな

触るな

触るな

触るな

触るな

応急 手当

応急 手当

病院へ

病院へ

応急手 当

追い払う 病院へ

追い払う 病院へ

△ 寄生する

イヌの外耳道に寄生し,炎症を起こす.ネコや ヒトも被害にあい,皮疹を起こすこともある.

寝具や畳,カーペット等の室内塵の中に生息し, △ アレルギー 追い払う 病院へ ヒトや動物の脱落した皮膚片を食べる.

RESEARCH REPORTS Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 1.カバキコマチグモの生息場所の位置図.

   研究方法

た葉で造られたクモの巣」を指標とする目視調査 現地調査は,確認が簡単で特徴のある「巻い

である.調査項目は,確認年月日,巣材の植物種

および生息環境とした.調査地は,1990–2013 年

までの間に第一著者が鹿児島県内で確認してきた

場所と、今回学生の現地研修を兼ねた観察地(川

内川曾木の滝周辺域)である.調査地を図 1 に示

す.

 結果

全国レベルで知られている節足動物門蜘蛛綱

の有害生物のなかで,鹿児島県内に生息すると思

われる蜘蛛綱の仲間を鮫島(2007)から抜粋し,

表 1 に示した.本論文の最大の目的は幼児との接

点である.幼児の活動範囲,被害の容態,予防と

対策そして対処法等についての著者らの考えを表

1 に示した.

生息場所は日本自然保護協会(1982)によると,

国内では北海道,本州,四国および九州に棲み,

平地や山地のススキ原などに多いとある.著者ら

による鹿児島県内での生息地の発見は,生態系調

査時に稀に見つかるだけで,偶然性が強く,やた

らと見つかるものでもないようである.また,コ

マチグモ類だけに絞った生息分布調査はしていな

い.

265


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

1990–2011 年までの間に第一著者がカバキコマ チグモの生息を確認した場所は,①桜島,②万ノ

RESEARCH REPORTS

見られる使用済み産室には,死亡した雌親(図 2G)や子グモの脱皮殻などが観察される.

瀬川河口付近,③川内川本川栗野橋周辺,④南九 州市川辺町塘之池公園,⑤川内川曾木の滝周辺の 5 か所であった(図 1;表 2).

巣材として利用する植物 巣材として利用される植物は,イネ科植物の

本学学生による川内川曾木の滝周辺における

ススキ,チガヤ,ヨシ,ツルヨシ,オギおよびメ

今回の調査では,フクログモ科のカバキコマチグ

ダケであった(図 2E–F).これらの植物は群落を

モ(図 2A)が多数確認された.また,同時に似

形成しており,クモの習性とイネ科植物の生育環

たような巣の中には比率的少ないが,他のクモ類

境との関連性が強いものと思われる.

も含まれていた(図 2B–D).このことから,「巻 いた葉で造られたクモの巣」の外観のみを指標と してカバキコマチグモの正確な分布調査をするこ とには問題があることが明らかになった.  考察

「巻いた葉でつくられたクモの巣」を指標とすること の是非 産室を開いて確認したところ,内部に生息す る生物の 90%以上がカバキコマチグモであった が,残りは他の種のクモ類であった.カバキコマ チグモ以外のクモ類で,産室を作る種もあるとい

鹿児島県内における生息分布の状況と個体群内の

うことである.イネ科植物群落地には産室が不完

個体の分布

全な状態で放棄されていることも多々あり,他種

鹿児島県内でカバキコマチグモの生息が確認 された場所は,図 1 に示したが,あくまでも非意

が放棄巣を改修してヤドカリ的な使用をしている 可能性も考えられる.

図的に偶然発見されたものである.生物の個体群

調査過程で巣の中を確認することは巣を壊す

の中での個体の分布は,摂食,繁殖および捕食な

ことにもなるため,調査目的を明確にしたうえで,

どにより一様ではない.個体分布の基本形には①

必要最小限に留めたい.

均一分布,②ランダム分布,③集中分布があり, カバキコマチグモの場合は集中分布に属する.本 種の生息地とその地域の地勢や植物群落との間に

生息地の変遷 生息地の変遷は,生息環境の自然の遷移によ

は微妙な関連性があるものと思える.

るものと,人為的改変による生息地の消失がある.

カバキコマチグモの生息環境と生態

1990–2013 年にわたる断続的な観察ではあるが,

カバキコマチグモは,イネ科植物が群落をな

①桜島,②万ノ瀬川河口付近,③川内川本川栗野

し開放的な平原になった草地で,強い太陽光がそ

橋周辺域の生息地では,カバキコマチグモは植物

そぐ環境に生息する(図 2H–I).

遷移による環境変化のために消失,④南九州市川

鹿児島において産室が見つかる時期は,夏か

辺町塘ノ池公園の生息地は工事のため消失したと

ら秋であるが,最盛期は 7 月である.イネ科植物

考えられる.⑤川内川曾木の滝周辺域は,発見さ

の生長時期と関係があると思われる.また初秋に

れた 2007 年から 2013 年現在まで観察されている.

表 2.カバキコマチグモの生息場所と観察結果. 場所 ①桜島

期間 出現月 環境 1990– 消失 6–7 桜島町藤野標高 200m 付近,開けたメダケ群落地 加世田市吹上浜海浜公園,砂丘松林に隣接する開けた 1998– 消失 6–8 ②万ノ瀬川河口付近 草地 2001– 消失 7 ③川内川本川栗野橋付近 栗野町,川内川栗野橋付近,開けた河川敷内草地 川辺町勝目塘之池公園内,池の移水帯.開けたツルヨ ④南九州市川辺町塘之池公園 2009–2011 6–8 シ,ヨシ群落 2007–2013 6–8 ⑤川内川曽木の滝周辺 大口市曽木の滝公園,曾木大橋付近左岸,河川敷草原

266

使用植物 メダケ ススキ,チガヤ ススキ,チガヤ・オギ ツルヨシ,ヨシ ススキ,チガヤ,オギ


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

図 2.A)カバキコマチグモ.B)産室を造るクモの仲間 (1).C)産室を造るクモの仲間 (2).D)産室を造るクモの仲間 (3).E) ツルヨシの産室.F)チガヤの産室.G)産室の中で子グモの餌となって死んだ雌親.H)産室の観察.I)生息場所(曽木の滝周辺).

267


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

川内川曾木の滝周辺域は,一級河川の川内川の河

身近な生きものに強い幼児教育者養成をめざして

川敷内および周辺域であり,粗放的であるが人の

自然や身近な生きものに対しての知識や理解

手で管理され植物遷移が進まない環境である.

が少なければ,必然的に,幼児を導く保育者の認 識している世界が狭くなる.その結果,幼児は開

幼児教育と咬傷事故

かれた世界を認識することが困難になる.この問

カバキコマチグモによる咬傷事故は,現在の

題を解決すべく,幼児教育養成校の当学園 ( 第一

ところ幼児教育分野では報告されていない.カバ

幼児教育短期大学 ) での自然教育・環境指導法で

キコマチグモの生息数が少ないこと,幼児の活動

は「自然に強い保育者養成」を心掛けている.

の時期と場所などの接点が少ないことなどが要因 であろう.しかし,成書などではカバキコマチグ モが危険・有毒として紹介されていることもあり, 幼児教育者や保育士などは,実際の生態を知らな いまま,有毒・有害・危険などという言葉のみを 強く印象に残し,間違った先入観の基に,幼児の 戸外活動を減少させることが危惧される.

 引用文献 日本自然保護協会.1982.野外における危険な生物.思索社, 東京.294 pp. 乙益正隆.1996.草花遊び・虫遊び.八坂書房,208 pp. 鮫島正道.2007.鹿児島における有害生物と幼児教育,pp 55-58.第一幼児教育短期大学(編),第一幼児教育短 期大学紀要.鹿児島. 志村 隆.2005.危険・有毒生物.学習研究社,東京.240 pp.

268


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

マルバハギとサツマハギの中間型 丸野勝敏 〒 891–0113 鹿児島市東谷山 1–51–8

 はじめに サツマハギ Lespedeza satsumensisi Nakai は磯間 山で採集された標本をもとに,新種として記載さ れた.その後,Hatusima (1967) は笠沙町野間岳か らナンゴクチョウセンヤマハギ L. formosa (Vog.) Kochne var. australis Hatusima を記載し,サツマハ ギを磯間山の固有種とした.大橋(1999)はナン ゴクチョウセンヤマハギをミヤギノハギの変種, サツマハギをニシキノハギの変種とした.秋山・ 大場(1983a)はナンゴクチョウセンヤマハギと サツマハギを同種とした. 筆者は,秋山・大場の説をもとにサツマハギ の観察を続けてきた.2005 年 9 月,野間岳の 2 種 が 隣 接 し て い る 生 育 地 で, マ ル バ ハ ギ L. cyrtobotrya Miq. とサツマハギの中間型が存在す ることに気づき,2007 年 10 月に磯間山山頂岩場 でも採集した.さらに,2013 年 9 月に南さつま 市大浦町亀ヶ丘でマルバハギとサツマハギの中間 型を採集した.これまで,2 種間の中間型の報告 はないので,南さつま市大浦町亀ヶ丘の中間型の 観察結果を報告する.

ことが多く,測れなかった.果実の大きさは成熟・ 乾燥の度合いによって変化が大きかったので測定 しなかったが,外形の観察は新しい果実で行った. 花序の長さは葉との相対的な長さにとどめた.  結果 マルバハギとサツマハギの区別  秋山(1995)は,マルバハギの花は 10 mm 前後, 花序は花序軸がほとんど伸長せず,密に花が着き, ふつう葉より短い,顎は長さ 4–6 mm で,裂片の 先は鋭尖形,翼弁は竜骨弁より明らかに長く,容 易に識別されるとした.  指宿市山川町長崎鼻産のサツマハギの各花弁, 顎片,果実の長さについて,秋山・大場(1983b) は, 竜 骨 弁 の 長 さ は 11–12 mm, 旗 弁 の 長 さ は 9.5–11.5 mm,翼弁の長さは 9–11.5 mm,顎の長さ は 4–5 mm,果実は楕円形で長さ 10 mm,軟毛が あるとした. 生育地の環境  亀ヶ丘(386 m)は,薩摩半島産西部にあり, 凝灰角礫岩からなる奇峰・奇岩,草地が点在する

 材料と方法  1 個の花,花弁を取り除いた顎およびスケール をスキャナ-で同時に取り込み,写真上の竜骨弁・ 翼弁・顎の基部から先端までの長さをノギスで測 定した.マルバハギの翼弁は竜骨弁を覆っている     Maruno, K. 2014. An intermediate form of Lespedeza satsumensisi and L. cyrtobotrya. Nature of Kagoshima 40: 269–271. 1–51–8 Higashi-taniyama, Kagoshima 891–0113, Japan (e-mail: bhh000368641@sat.bbiq.jp).

図 1.マルバハギの各花弁の名称.

269


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

RESEARCH REPORTS

絶景の地である.サツマハギは 350 m 以上の崖上,

 亀ヶ丘の中間型は高さ 1 m ほどあり,茎に開出

崖壁.林道沿いに,マルバハギは 320 m 以下の林

毛が密生し,葉の表面に短毛が多く,一見すると

道沿いに生育し,崖上に生えることはない.中間

サツマハギである.花序は葉より短く,マルバハ

型は 360 m の林道沿いで 1 個体見られ,マルバハ

ギの花序よりまばらに花が着いている.竜骨弁を

ギの生育地上方,直線距離で 50 m ほど離れてい

測定すると長さは 10.4 mm である.マルバハギ

る.

の翼弁は竜骨弁より長いが,翼弁と竜骨弁を同じ 長さと仮定し,翼弁の長さを 1 とすると中間型は

中間型の形質

0.9,サツマハギは 0.74 であり,サツマハギより

図 2.花序.A:マルバハギ;B:雑種;C:ナンゴクチョウセンヤマハギ.バーは 10 mm.

図 3.1 個の花.A:マルバハギ;B:中間型;C:サツマハギ.バーは 10 mm.

図 4.顎.A:マルバハギ;B:中間型;C:サツマハギ.バ-は 10 mm.

図 5.果実.A:マルバハギ;B:中間型;C:サツマハギ.バ-は 10 mm.

270


RESEARCH REPORTS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

長い.顎はサツマハギに外形は似ているが,先が

た.ツクシハギとビッチュヤマハギの間に生じる

針のように尖る顎裂片がみられ,顎長は 5.8 mm

雑種は,稔性がほとんど低下せずに次世代を生じ,

ほどである.果実の外形はマルバハギの果実に似

個体群の中に存続していくと考えられる.これら

ているが,中部から先へ緩やかな角度で曲がり,

の個体は両親種との戻し交雑および雑種個体間で

サツマハギの曲がり方に近い.果実はよく稔り,

の交雑をおこなっていると推測される」と記して

種子も充実しているように見えるが,粘性はまだ

いる.

調べていない.

 まとめ

開花期

 花序が短く,翼弁と旗弁の長さが同じくらいあ

 薩摩半島南部での開花期はマルバハギが 9 月中

り,サツマハギより開花期が早いことなどから中

旬から 10 月中旬,サツマハギは 10 月である.亀ヶ

間型と考える.今後,花器官の形態を詳細に観察

丘周辺では 9 月 29 日にマルバハギは開花してい

するとともに,花粉の形態,稔性などを調査し,

たが,サツマハギは蕾で開花した個体はみられな

雑種かどうか判断したい.

かった.中間型は 5 分咲きくらいであり,10 月 9 日には果実が着いていた.崖上のサツマハギは開 花が始まっていた. 雑種  ハギ属植物は種間雑種が知られ,磯間山から 亀ヶ丘の岩場には中間型がよくみられる.キハギ L.buergeri Miq. とサツマハギの花器官,葉序に特 徴があり,中間型は分かり易い.この中間型は両 種間の雑種(秋山・大場,1983b)とされ,シロ ヤマハギ L. kagoshimensis Hatusima と同種とされ ている.秋山(1995)は,「オクタマハギ(雑種)

 引用文献 秋山 忍.1995.ツクシハギ,pp. 85–95.大場秀章・西野 嘉章(編),動く大地とその生物.東京大学出版会,東京. 秋山 忍・大場秀章.1983a.サツマハギとナンゴクチョウ センヤマハギ.植物研究雑誌,58: 135–145. 秋山 忍・大場秀章.1983b.ハギ属ヤマハギ節の雑種につ いて –3– キハギとサツマハギの雑種.植物研究雑誌, 58: 248–252. Hatusima, S. 1967. Lespedeza: Sects. Macrolespedeza and Heterolespedeza from Japan, Corea and Formosa. Memoirs of the Faculty of Kagoshima University, 6: 1–17. pp. 204–205.佐竹義輔・太井次三郎・ 大橋広好.1999.マメ科, 北村四郎・亘理瞬次・富成忠夫(編),日本の野生植物, 草本.平凡社,東京.

の花粉の稔性は両親種より低下していると考え

271


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

272

RESEARCH REPORTS


ESSAYS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

「鹿児島県昆虫・貝・植物・岩石展」の過去・現状と課題 1

福田晴夫 ・中峯敦子 1 2

2

〒 890–0024 鹿児島市明和 4–5–32

〒 899–5115 霧島市隼人町東郷 1395–1 霧島市立日当山小学校

 はじめに これはおそらく全国的に見てもユニークな展 示会ではなかろうか.内容は小中学生,高校生た ちが作った標本コンクールである.最初に「昆虫・ 貝展」として戦前に始まり,大戦中と戦後 10 年 の中断はあったものの,昭和 30 年に復活,その 後あの “ 虫を殺して標本にすることは悪いこと だ ” という風潮の時代も乗り越えて,貝,植物, 岩石が順次加わり,本年度は記念すべき 60 回(通 算 66 回)になるはずである.ところが,自然の 多様性が重視され,自然との共生が強く言われる 時代に,なんとその継続が危ぶまれる事態になっ ているという. 筆者(福田)は大学生時代にこの復活に関わり, その後もいくらかのお手伝いをしたが,近年は眺 めて応援している状況にある.しかし 60 年余り も続くと,その変遷史を体験的に知る人はいなく なった.したがってこの事業の存亡が話題になる 今,現役の当事者としての筆者(中峯)と共に, 昆虫を中心に経過や私見を述べ,このユニークな 事業がよりよい方向に進むことを期待したい.  始まりの頃 — 戦前,戦中 鹿児島昆虫同好会初代会長の故竹村芳夫さん が,昆虫展について次のように記述している(竹 村,1962). 昭和 10 年鹿児島へ天皇行幸の際, 竹製の昆虫 玩具一箱をお買い上げになったことがきっかけとな り, 理科教育振興のために昭和 11 年から鹿児島朝 日新聞社主催の 「昆虫と貝類」 展覧会が毎年開催 されることになった. これは約 5 年 (?) ほど続い たが, 初回は時あたかも鹿商アマチュア倶楽部創立

の年であり, 張り切って出品した倶楽部員が上位全 部を独占するという圧倒的なレベルの差を見せつけ た. その後も上位の殆どが商業のメンバーで, 他校 はとても追いつけなかった. 私は中学を卒業してい たので, 第2回に参考出品という形で, コガネムシ 標本 4 箱を出して, 感謝状を貰った. この展覧会も 戦争と共にいつのまにか置き去られてしまった. さらに越山正三先生(元鶴丸高校生物教諭)が, 鹿商出身の坂上勝己氏の追悼文集「蝶来」に「昆 虫展受賞」と題して記された一文がある(坂上, 1980: 43–45: 抄録). 昭和 11 年, 山形屋において第一回の昆虫展が 開かれ, その後 6 回も続いた. 鹿児島高農の有名 な昆虫学者岡島銀次先生勇退のあとに来られた新 進気鋭の渋谷正健教授が, この昆虫展の審査に当 たられた. 鹿児島商業学校の生徒達が昆虫, 貝類 の作品で賞をほぼ独占していた. ちなみに,鹿商は今の鹿児島商業高校の前身 校である.ここで昆虫採集熱が盛り上がるきっか けになったのは,同校の生徒で,後に台北帝大付 属農林専門部に入り,戦後九大からアメリカに渡 り,昆虫形態学,進化発生生物学の世界的権威と なられた松田隆一博士(1920–1986)らであった という.博士の業績については日本昆虫学会会誌 に鈴木(2012)の総説がある.この鹿商アマチュ ア倶楽部からは戦後に鹿児島昆虫同好会の会長, 会員として活躍した方々を多数輩出している.し かし,彼らの貴重な標本は昭和 20 年の鹿児島市 の空襲で焼失した.  戦後の復活 昭 和 30 年(1955 年 )10 月 18–19 日, 鹿 児 島 大学農学部で日本昆虫学会第 15 回大会が開かれ

273


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ESSAYS

たのを契機として昆虫展が復活した.その運動の 主力となったのは鹿商出身の青年実業家,坂上勝 己氏(1924–1987 年;銘菓文旦堂の三男,映画館「新 世界」の経営主)であった.福田は当時農学部害 虫学専攻の 4 年生で,昆虫同好会の事務局の仕事 をしていたので,あの頃はとても珍しかった坂上 さんの自家用車に同乗して,新聞社やお役所を回 り,なんと知事室にまで出かけていって,今も続 く県知事賞の了解を取り付けたのだった. かくて「鹿児島県第 1 回昆虫展覧会」(図 1–3)

図 1.第 1 回昆虫展の様子.会場は山形屋.

は鹿児島昆虫同好会主催で,1955 年 10 月の昆虫 学会と時期を合わせて山形屋デパートで開催され た.応募は 350 点(箱)で,一週間の開催期間中, 連日満員の盛況であった(坂元,1956).参考出 品として展示した福田の標本の中から,日本未記 録種タッパンルリシジミが,九大の白水隆先生に よって発見されたのもこの時である.  その後の経過,発展 以後,これは毎年開催され,福田も同定会や

図 2.第 1 回昆虫展の様子.会場は山形屋.

審査会に何回か関わった.たしか小中学校の部, 高校の部のほか,一時は一般の部もあったと記憶 する.昆虫の部の審査委員長は昆虫同好会会長の 竹村芳夫氏や坂元久米雄氏が務められた.ここに 年代順に 60 回分の日時,展示会場,出品点数, 入選者,特筆すべき標本の記録などをまとめたい ところであるが,残念ながら記録も記憶も乏しい. 過去の関係者から話を聞き,南日本新聞の記事を 参考にして,年表が完成することを期待したい. 主催者,後援者としては鹿児島県小中高等学校理

図 3.第 1 回昆虫展の様子.会場は山形屋.

科教育研究協議会,県立博物館,教育委員会など が入れ替わりながら主役となり,南日本新聞社と 山形屋も深く関わり,各同好会もサポートしてき

市吉野中と全県にわたり,好ましいばらつきがみ

た.会場は山形屋デパートが定番で,入選作品は

られる.

県立博物館で一時預かって展示したこともある. 昆虫標本の出品点数(個人,団体の数)は,平

 この展示会の大きな成果

成 9 年( 第 43 回 )63 点,10 年 84 点,11 年 93

この標本展の成果は,昆虫についての貴重な

点などの記録が残る.県知事賞受賞者(1 人)の

情報が得られることと,多くの県民が自然に目を

所属校は,平成 10 年から順に記すと,奄美大島

向けるきっかけとなり,自然愛好者,研究者を育

住用小,市来農芸高校,垂水市牛根中,奄美大島

てたことにある.

手花部小,鹿屋市花岡中,垂水市牛根中,鹿児島

274

出品された貴重,希少な虫たち — アイノミド


ESSAYS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

クロマダラソテツシジミ,クロボシセセリなどの 発生状況のデータともなる.このような標本展か らの “ 新発見 ” は大きな楽しみで,その記録の多 くは同好会誌 Satsuma に収録されているが,近年 は会期が短くてデータが拾い難く,残念な思いを している. 出品・入賞した人々のその後 — 学校に宿題と して提出した人,県の展示会に出せた人,そして 受賞した人,とにもかくにも昆虫を採集し標本に するという体験をした人たちが,その後どうなっ たか.もちろん大部分は不明であるが,今もあの 頃を懐かしむ人たちが少なくない.彼らの中には 昆虫学者への道を歩んだ人たち(敬称略) ,鹿大 農学部教授の櫛下町鉦敏,鹿児島女子短大学長の 幾留秀一,農業害虫の分野で活躍した田中 章, 現役の松比良邦彦,昆虫学でなくても理系に進ん だ人たち,東大大学院獣医学准教授の大野耕一, 図 4.昭和 33 年の展示会に出品されたアイノミドリシジミ.

鹿大農学部生物環境学科助教の平 瑞樹,教育界 に入って活躍した人たち,肥後昌幸(垂水市教育 長),成見和総(鹿大付属小・純心女子大など), 加治屋啓子(高校家庭科教諭),さらに医師,会

リシジミ(シジミチョウ科)の「1958 年 8 月,

社経営者など実に多彩で,あちこちから「私を忘

エビノ,湯田のり子」なるラベルのついた 1♂ の

れていませんか」という声が聞こえそうである.

標本が 1958 年の昆虫展に出た(福田,1959).こ

彼らのほとんどは今も昆虫同好会の一員として

れは本人にも確認し,栗野牧場からえびのに至る

残っている.

途中で採集されたことが明らかである.しかし,

注目すべきは,小学生時代に昆虫採集を体験

その後は入念な探索にも拘わらず発見できないこ

した少年少女たちが,現在パパ・ママになって,

とから,本県のレッドリスト(2003 年)では「情

子どもたちと一緒に採集を再開し,近くの人たち

報不足」にランクした.そして今は絶滅危惧 IA

を巻き込んで小さなグループを作って楽しんでい

類に上げることも検討中である.

ることだ.彼らも昆虫同好会に入り,きちんと原

1957 年第 2 回の展示標本の中には,志布志中 学の学生だった成見和総君のハッチョウトンボ (戦後県下初記録),ミズイロオナガシジミ,ミヤ マカラスアゲハ,ミカドアゲハなどの貴重な記録 が含まれていた(福田,1957).

稿を書き貴重な記録を残している.  現在の状況 現在の様子は、http://www5.synapse.ne.jp/kenrika にて公開されている.まず,夏休み前に「第○回

希少種だけでなく,これらの標本からは,本

 鹿児島県昆虫・貝・植物・岩石展開催要項」(4

県を特徴づける南方からの飛来種(迷蝶,迷トン

頁)が,各教育事務所長,各教育長,小・中・高

ボなど)のその年の概況も知ることができるし,

校長宛に配布される。その概要は以下の通り.

近年では南方からの侵入害虫のヤシオオオサゾウ ムシ,キオビエダシャク,キョウチクトウスズメ,

275


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

開催要項 1.趣旨 四季折々の豊かな自然に親しみながら,子ど もたちが観察,採集した昆虫,貝,植物,岩石の 標本を展示して,児童・生徒および一般県民に,

ESSAYS

11.採集,標本の作製法 学年レベルを考慮して,各分野ごとに略記し てある. 12.作品の出品例 搬入するときの注意書きがある.

郷土鹿児島の「豊かな自然」についての理解と興

13.名前を調べる会(名づけ会)

味関心を深めさせるとともに,自然愛護思想の高

山形屋で 8 月 18–19 日にある.

揚を図る. 2.主催 鹿児島県小中高等学校理科教育研究協議会. 3.後援 鹿児島県教育委員会,南日本新聞社,山形屋, 鹿児島県市町村教育委員会連絡協議会,鹿児島昆

14.付記 お知らせ,第○回「理科に関する研究記録」も 他に募集している. 15.連絡先 鹿児島市立○○小学校○○先生(電話,ファ クス番号).

虫同好会,鹿児島貝類同好会,鹿児島植物同好会, 鹿児島県地学会. 4.期間 平成○年 9 月 7 日(金)–9 月 9 日(日)(最終

前段階としての学習会など — 事前指導が大事 だということで,採集会 → 標本づくりの会 → 同 定会が各地で開催されるようになり,近年では鹿

日は午後 4 時まで).

児島市,垂水市,鹿屋市,薩摩川内市,指宿市,

5.会場

霧島市などでこれら一連の会が続いている.かつ

山形屋文化ホール(2 号館 6 階). 6.出品対象 小・中・高の児童・生徒の作品とする. 7.出品(要約) 個人と団体の部がある.標本は県内産で,初

ては,市町村によっては予選的な展示会をもった こともあったらしいが,近年は作品搬入が夏休み 直後となり,これはみられなくなった. 応募状況 — 平成 19 年(2007 年)以降の応募 状況(表 1)をみると,総数が減少傾向にあり,

出品のものに限る.保護者の協力も認めるが程度

部門別では昆虫は減少,貝は昨年が減少,植物も

問題。出品点数,標本箱などがていねいに説明し

漸減傾向,岩石が 2009 年から増加している.

てある. 8.審査の観点及び審査日(要約)

この原因は,採集や標本作成が易しいとかい う単純なものから,「生きものを殺す」ことへ抵

標本の仕上がり具合,ラベルの正確さ,種名

抗感とか,身近な自然の多様性の乏しさ,それら

の正確さ,配列の工夫,出品した標本のリストな

への関心の低さなど,現在の人の生き様に関わる

ど.9 月 6 日に審査し,結果は南日本新聞に掲載 される. 9.表彰 知事賞,県教育委員会賞,鹿児島市長賞,鹿

表 1.近年の出品作品の応募状況(数字は個人および団体 の数).

児島市議会議長賞,南日本新聞社賞,山形屋賞(以

昆虫

植物

岩石

合計

上が特別賞),さらに特選,入選,参加賞.表彰

2007

第 53 回

81

68

355

52

556

式 9 月 9 日(日)午後 2 時,山形屋.

2008

第 54 回

75

77

327

38

517

2009

第 55 回

88

72

284

115

559

2010

第 56 回

68

79

225

134

506

2011

第 57 回

54

78

230

137

499

2012

第 58 回

48

74

198

144

464

2013

第 59 回

45

59

209

128

441

10.搬入,引き渡し 個人単位で行う.搬入は山下小学校へ 9 月 1 日(土)–2 日(日).

276


ESSAYS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ものまでいろいろありそうだ.もちろん学校の姿 勢も大きな要因であろう.出品者は多くが小学生 であり,中学校では,夏休みの課題として標本づ くりを課している鹿大教育学部附属中が多数を占 めている.高校生の出品は,毎年 1–2 点あるかな いかである.  標本コンクールとしての課題 主催者と後援者 — 運営のほとんどを県小・中 学校理協が負っている.とくに小学校理協が企画 し,講師招聘,会場担当者との交渉,参加者対応 (出品問い合わせ、クレーム対応等)を,全くの ボランティアで行っている.近年は高校生の出品 がほとんどみられないこともあって,運営に関わ る高校教員は少ない. 児童,生徒の関心 — 主役となる少年少女そし て青年たちの自然との関わりは,以前に比べて, 場としての生物多様性の低下,時間的には野外で の遊びの減少で,激減している. 教師たちの採集体験不足と標本の価値認識 — 小中高校の理科教員も標本や自然に対する関心が 低い訳ではないが,フィールド体験とくに採集体 験は欠如,不足しており,採集の楽しみや苦労, 標本の価値等の認識にはばらつきが大きい. 名付け会講師 — 各分野とも高齢化し,今後部

図 5.昨年(2013 年)の展示会の記事 2013 年 9 月 11 日, 南日本新聞.

門によっては不在が危ぶまれる.理科教員に同定 のできる人,そのように努力しようという人が希 少になっている. 出品者の減少傾向 — 表 1 に示したように,近

あまりにも短く,観覧者は僅かになってしまう. 標本とその記録 — ほとんどは希少種ではなく

年は応募者,参加者が減少傾向にあり,地域,学

とも,身近な自然の貴重な証拠・記録であるが,

校の偏りが目立つ.

展示会後にその標本は活用されず,記録も残され

審査員の苦労 — 音楽会や書き初め大会のよう に応募者の力を直接評価できず,どうしても教師, 保護者らの指導,協力が付いてくるから,評価し

ないものが多い.  今後への提言

て等級(各賞)を決め難い。特別賞にランク付け

これを存続し発展させる方策をみんなで検討

ができてしまって,最高位の知事賞を狙う競争意

したい.さしずめ次のようなことはどうだろうか.

識もみられる.そのため保護者や教師の手が入り

主催者 — 県理協と県立博物館の共催のような

過ぎて,“ 子供らしい作品 ” の評価に苦慮し,すっ

形を作れないものか.県博でも一時期は入賞作品

きりしないものが残りやすい.

を展示し,移動博物館でも活用していた.現在も

展示の日数と会場 — 現在展示日数は 3 日で, 会場は山形屋 2 号館 6 階山形屋文化ホールである.

標本づくり講習会,名づけ会もやっているから, 審査や展示場にも関わってよい.両者がよく連携

277


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ESSAYS

をとり,場合によっては昆虫,貝,植物同好会,

るからである.同じ種をたくさん並べて変異に気

地学会とも話しあって進めてほしい.

付くのもよいことだ.出品者の感動と発見力も評

後援者 — 県や市,新聞社,山形屋の後援はあ

価の対象にしたい.標本箱は展示のしやすさから

りがたいので,緊密な連携をとりながら進める.

一定の規格は必要だろうが,全体がそのサイズの

とくに県や市町村の「生物多様性関係の施策」と

倍数で収まれば,自作の大きな箱も歓迎してよい.

の関わりを強化したい.他にスポンサーや民間団

永久保存用の箱はその次の段階だろう.

体などの協力者を探す努力も期待される. 方法・内容 — 事務をもっと簡略化できないか.

種名調べ(同定)— 身近な虫,草,貝のどれ をとってみても,種名調べは困難を極める.この

要項の注意事項,参考事項も丁寧過ぎる記述はな

ことを体験して欲しい.これは名付け会の講師で

いか.基本的には,多くの県民に標本づくりに挑

も似たようなものである(体験からの所感).だ

戦してもらい,その作品を募集して展示,表彰す

からと言って図鑑を開く作業を省略してはいけな

るだけのことなんだけど,それに最低限必要なこ

い.悪戦苦闘して同定作業をやらせることに意義

とは何だろう.

がある.その結果「○○の一種」というラベルが

採集品 — 昆虫に関して、今制限している「そ

ついてもよい.一方,こんなものにまでちゃんと

の年に県内で採集したもの」という部門の他に,

種名がついているのか!という驚きの効果も大き

「居住する市町村内で採集したもの.年数制限な し」なる新部門を設けたらどうか.これにより,

いから,同定会は必要だ. 同定できる人の育成 — これはどの分野でも緊

身近な自然に目を向け,その多様性あるいは貧困

急な対策が必要で,大学や県立博物館などでいく

さに気付く人が増えるだろう.お金と時間をかけ

らかの方策が実行に移されている.幸い今は多く

て遠征しなくてもよいし,目立つ種の採集に偏る

の図鑑,手引書が出ているから,普通種のほとん

こともない.何年もかけてじっくり身近な生物の

どはそれほど苦労しなくても同定できるはずだ

標本を蓄積できる.

が,いざ手をつけるとすぐにお手上げになる.単

表彰 — 現在は特別賞(知事賞,県教育委員会

に種名を知っているだけの “ 物知り ” の育成は,

賞,鹿児島市長賞,鹿児島市議会議長賞,南日本

“ 芳しくないコレクター ” の育成になりやすい.

新聞社賞,山形屋賞),特選,入選,参加賞があり,

昆虫同好会では “ 郷土の虫の記録を残す ” ことを

前述のような選考の悩みがある.保護者らとの

モットーに,“ 原稿の書ける人 ” の育成に努めて

“ 共同作品 ” は必ずしも悪いことではないので,

いる.同定できる人が減少した原因はいろいろあ

程度問題として常識的に判断してもらうしか手は

ろうが,責任をたらい回しにせず,筆者らは高校

ないが,上記の「身近なもの部門」を入れること,

生物部の再建に期待をかけたい.

さらに年齢による区分を加えて,小学校低学年,

出品者・参加者の増加対策 — 昨今,自然への

高学年,中学校,高校の部の 4 部門に分けて選考

関心が減ったとは言っても,小学生時代の前半に

する.上記の賞をそれぞれに配分し,知事賞だけ

は,ほとんどの子供が身近な生きものに強い関心

を独立させて全部門から選ばれた 1 作品とする,

を示す.この時の大人たち,とくに母親や教師の

などのいろんな案を検討したい.新聞社や山形屋

自然観と子どもたちへ接し方が問題である.これ

のほか,民間のスポンサーを募って新しい賞を設

は PTA も加えて十分に検討したい.(鹿大付属小

ける方法もあろう.

学校のモデルがある).県や市町村の生物多様性

標本づくり — 現行のいわば正統派,科学的に

戦略もこれを支援するものである.

しっかりした標本づくりも体験して欲しいが,こ

教師たちの体験と意識 — 上からの研修会,手

の型を破って,羽が汚損した虫,欠けて色あせた

引書作成もさることながら,児童生徒をフィール

貝,花のない幼植物などの標本もおおいに評価し

ドに出し,さまざまな質問を浴びせて,教師の自

たい.どれもが生きものの生き様をよく示してい

覚を促すことも大事だと思う.これは校内研修の

278


ESSAYS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

問題でもあり,校内の観察池,畑,飼育舎,植木,

の連携必要).このような希望者を増やす努力も

雑草といった場の活用の問題でもある.花壇コン

大事なことだと思う.

クール以上に大事なことではなかろうか.

昆虫採集の利点・特殊性 — “ 蛾田引水 ” なが

分野の自由化と拡大 — 上記以外の素材で,ダ

ら(蛾類愛好者の使う文句),ひと言.それは命

ンゴムシ,クモ,ムカデ,エビ,カニ,小魚など

の教育に重要な “ 殺す ” という行為を容易に体験

は液浸標本やはく製標本が主体となり,子どもた

できることである.これは “ かわいそう教育 ” と

ちが取り組み難い.しかし,道は空けておいて良

表裏一体をなすもので,本誌の読者には説明不要

いだろう.予想もつかなかった秀作が出てくるか

かと思う.

もしれない. 出品標本 — 苦心の作品も多くは何年か後には ゴミ処理場行きになるのだろうか.これは多くの 芸術作品も同じことで,人が造ったものの末路で あるが,それはそれでよい.その作成過程と当分

最後に,貝,植物,岩石など他の分野の方々 の意見も聞けたら有り難いし,県立博物館や県関 係当局の積極的な協力も期待したい.  謝辞

の間の保存期間に,標本は十分に価値を発揮して

本稿を草するにあたり,かつての出品・受賞

いるであろうから.惜しむらくは希少種標本,貴

者およびその関係者(敬称略)の成見和総,肥後

重な記録となる標本の運命である.博物館か,郷

昌幸,大坪博文,田中 洋,田中 章,平 瑞樹,

土資料館か,学校の資料室かで,活用できる道が

そして講習会で指導経験豊富な福田輝彦,現在の

あるはずだ.その道筋も検討しょう.

審査委員長の川床正治の諸氏,さらに県小学校理

記録帳の活用 — 標本と一緒に種名と採集デー タの一覧表が添付されている.同定などに多少の 問題はあるものの,希少種,迷蝶の記録のほか, その居住地の虫たちの存在記録が埋もれるのは惜 しい.全県はもちろん,各学校,市町村の生物目 録作成の基本的データとして活用できるよう保存 を図りたい.優秀な作品は印刷物にして残してお くべきで.そのような印刷費の支出,捻出方法も 考えておかなければならない. 会期・会場 — 会期を延長し,県民の多くが観

科教育研究協議会から多くの有益な示唆をいただ いた.ここに改めて深甚の謝意を表したい.  引用文献 福田晴夫,1957.第 2 回鹿児島県昆虫展に出品された蝶類 の記録.Satsuma 6 (1): 13–14. 福田晴夫,1959.霧島山産蝶類目録.Satsuma 8 (1) : 23–42. 坂元久米雄,1956.第一回昆虫展に思う.Satsuma 5 (1): 28. 坂上凱子,1980.蝶来 — 坂上勝己追悼集 —.個人出版物, 136 pp.

覧できる会場を捜すことが必要だろう.山形屋を

鈴木邦雄,2012.進化発生生物学の隆盛と松田隆一博士 (1920–1986)の “ 汎環境主義 ”.昆虫ニューシリーズ, 15 (3): 133–150.

含めて,県立博物館,県民交流センター 4 階,そ

竹村芳夫,1962.「一昔前の虫屋さんたちのこと」.Satsuma

の他の会場を広く検討して欲しい.標本が傷まな いような移動方法がとれたら,移送費負担で県内

10 (4): 119–125.

Nature of Kagoshima 40: 273–279

各地で開催希望者を募る方法もある(運送業者と

279


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

280

ESSAYS


ESSAYS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

インタープリテーションとしての「文学の力」 ― 小説「屋久島物語」でお伝えしたいこと ― 柳田一郎(筆名:柳瀬良行) 〒 890–0034 鹿児島市田上 5–16–34

 自己紹介 1954 年 鹿児島県日置郡日吉町(当時)生まれ 1977 年 熊本大学法文学部法学科卒業,鹿児 島県庁入庁 ※平成 12 年 4 月 –15 年 3 月(財)屋久島環境 文化財団勤務 2014 年 鹿児島県退職 所属団体:霧島錦江湾国立公園・鹿児島地区 パークボランティア,NPO 法人くすの木自然館・ 専務理事(非常勤),NPO 法人桜島ミュージアム・ 理事,日本環境教育学会会員,日本自然保護協会 会員,日本野鳥の会会員  「屋久島物語」執筆のきっかけ 私 は, 平 成 12 年(2000 年 )4 月 1 日 か ら 15 年 3 月 31 日までの 3 年間,鹿児島県庁から,上 屋久町宮之浦の屋久島環境文化村センターに本部 を置く,財団法人屋久島環境文化財団に総務企画 課長として派遣されました.同財団は,平成 5 年 3 月に鹿児島県および上屋久町・屋久町からの出 資により設立された,屋久島環境文化村構想を推 進するための財団法人です. 屋久島環境文化村構想は,平成 2 年 6 月に作 られた「鹿児島県総合基本計画」の中でも,特に 重要と考えられた県の施策のひとつです.屋久島 の豊かな自然とその自然の中で作り上げられた自 然と人との関わり「環境文化」をもとに,「環境 学習」を通じて自然と人間の共生を実現しようと 考えられた屋久島の地域づくりのための施策で す.既に 4 分の 1 世紀を過ぎた施策ですが,歴代

小説を発刊した平成 25 年は,この財団設立 20 年目の年であり,屋久島が世界自然遺産に指定さ れてから同じく 20 年目という年でした. この物語は,この 2 つの出来事を記念して創 作した小説(フィクション)です.フィクション ではありますが,3 年間を一緒に過ごしてくだ さった財団職員の皆様,アテンダント(自然解説 員)をはじめとしたセンター職員の皆様,宮之浦 区青年団とおた踊り保存会の皆様,上屋久町・屋 久町両役場の皆様,そして宮之浦区長ほかの住民 の皆様との出会いをもとに創作したものです.  「屋久島物語 第 1 部キビタキ 第 2 部月の神」 平 成 25 年 12 月 1 日 第 1 刷 を 発 行, 税 別 600 円 の 文 庫 本(ISBN 図 書 コ ー ド 978-4-7765-37649)となり,アマゾンなどのインターネット書店 のほか全国 50 書店で販売されました.県内では, 鹿児島県庁内書店,ブックスミスミ・オプシア店, 屋久島環境文化村センター,文学サロン「月の舟」, くすのき自然館・重富干潟小さな博物館で,販売 されています. 発行元の日本文学館のホームページでは,以 下のように紹介されています.「ページをめくれ ばそこから,雨を含んだしっとりとした空気と塗 り込められたような濃い緑が迫ってくる.大自然 と共存するからこそ輝く,生活を守らんがための 大人の男の矜持,年月に負けない娘の愛の粘り強 さ,豊かな自然がはぐくんだ歴史への共感を込め て描いた小説」http://www.nihonbungakukan.co.jp/ modules/myalbum/photo.php?lid=5846&wmode=1.

の知事はもとより,現在の伊藤祐一郎知事のもと でも,大切な施策として充実が図られています.

281


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

 インタープリテーションとしての「文学」 法学部出身の私は,自然環境についてわかり やすくお伝えする技術や工夫「インタープリテー

ESSAYS

プロジェクト」による自主映画「砂の道の向こう」 の 同 名 原 作 小 説 を 発 表 し た 時, 確 信 し ま し た (「2010 自然愛護 36 号」にも発表済み).この映 画は,指宿市内や鹿児島市などでの上映会,地域 でのミニ上映会,ユーチューブなど動画サイトへ のアップにより,3 千人を超える人々に見ていた だきました.また,新聞各紙や日本野鳥の会や日 本自然保護協会などでは,機関紙の記事にも取り 上げていただきました.結果として,映画鑑賞者 や小説の購読者は,国外にまでいらっしゃいまし た. この映画の原作を第 1 部として書き直し,第 2 部,第 3 部を書き増した小説集が,一昨年 9 月に 同じく日本文学館から発行した文庫本「知林ヶ島 物語~砂の道の向こう」です.霧島錦江湾国立公 園の自然とその地に隠れた歴史であった指宿海軍 航空隊の水上飛行機による特別攻撃隊の物語で す. その後,この物語は,今年度の指宿市の案内 板や指宿市立考古博物館による同市内の戦跡再発 見と映像や音声による記録事業にまでつながりま した.まさに「文学の力」です. (参考)「知林ヶ島物語」日本文学館の HP  http://www.nihonbungakukan.co.jp/modules/ myalbum/photo.php?lid=5347

ション」を研究しています.このため,これまで 本誌はもとより,日本環境教育学会や日本環境法 政策学会などで関連の発表を行ってきました.そ して現在,多くの人々に同時に同じ内容をお伝え する工夫のひとつとして,「文学の力」を活用し たいと思うようになりました.なぜなら,過去, いくつもの自然観察行事の現場で,記録の手段と しての写真・動画や写生のほかに,俳句,川柳, 和歌などの文芸活動を見たり聞いたりしてきたか らです. また,文学には既に「ネイチャー・ライティ ング」という分野があり,「沈黙の春」や「複合 汚染」のように,圧倒的広範囲の人々に長期間に 渡るメッセージを届け続けることもできます.こ のことは,平成 21 年,市民グループ「指宿ムービー

282

映画:指宿ムービープロジェクト HP http:// www.synapse.ne.jp/drums/.  お伝えしたいこと (1)屋久島に代表される自然の保護 — 野鳥を はじめとする動物や植物の生態,山への畏敬を「緑 の薀蓄」として伝える. (2)山だけではない島の魅力の紹介 — 門まわ り,檀那墓,先島丸など,里の歴史と文化を伝え る. (3)鹿児島県施策「屋久島環境文化村構想」の 紹介 — 島を作り上げる力となる鹿児島県の施策, 公務員の生活,財団の有り様を伝える. (4)島の暮らしと単身赴任 — 島の厳しい現実 とそれを克服する人々の力,離島救急,消防団, 青年団の存在,転勤族や単身赴任者の土地とのか


ESSAYS

かわりを伝える. (5)屋久島研究の落とし穴 — 自然と人の生活 との乖離を見ないまま理想を貫く人々のおかしや すい間違いを伝える. (6)男の矜持 — 家族を愛するがゆえの忍耐, 本当の大人の男の世界を伝える. (7)自殺防止 — 誰にも生まれた意味があり,

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

第 2 部 月の神「奥様のある人を好きになるとは, こういうことかもしれないと思った」 屋久島に通い続ける女性研究者,彼女の辛い 過去と苦しい恋の物語,過去を忘れるため,彼女 は学問の道に入り屋久島を研究する.そして男と 出会い,恋に落ちる. キーワード:太鼓岩,母,椋鳩十,日本野鳥

生きるべき理由がある.その理由を振り返ること

の会,バードウォッチング,修士論文,日本環境

を伝える.

教育学会,鹿児島県総合基本計画,環境学習,漁

 あらすじとキーワード 第 1 部 キビタキ「こんな時こそ,遣らずの雨降 ればいいのに」

師塾,流星,月の光,けもの道,縁(えにし), 山岳救助隊,木漏れ日.  参考 連載小説「さきしままる」

屋久島の森が育てた慎ましくも清冽な恋の物

第 7 回銀華文学賞・奨励賞受賞作品「さきし

語,娘は幼い頃から慕い続けた人に出会い恋に落

ままる」を新聞連載用に書き直し,昨年 4 月から

ちた.男には愛する家族と大人の男の矜持があっ

5 月にかけて,鹿児島建設新聞に 15 回連載しま

た.娘の一途な思いは,新しい物語を生み,やが

した.

て伝説となる. キーワード:屋久島環境文化村構想,離島救急,

屋久島の人が亡くなった時,死者の世界へ行 くために乗る船「先島丸」伝説をもとに,屋久島

白谷雲水峡,バードウォッチング,門まわり,初

の森の生き物たちや魑魅魍魎の世界を,山岳遭難

鏡,青年団,ウミガメ,虫,消防団,檀那墓,唐

防止の気持ちも込めて書いた物語です.同新聞社

船淵,水軍,軍船,雪祭り,月待ち,月の神,涙,

のホームページでお楽しみいただけます.

林道,リュウキュウサンショウクイ,キビタキ.

鹿 児 島 建 設 新 聞 HP http://www.kc-news.co.jp/ rensai/sakishima-index.html. Nature of Kagoshima 40: 281–283

283


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

284

ESSAYS


CORRECTIONS

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Nature of Kagoshima, vol. 39, p. 131, fig. 6 の訂正 金田竜祐・中島貴幸・片野田裕亮・冨山清升 〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専

 Nature of Kagoshima, vol. 39 に掲載された論文 『鹿児島県喜入干潟における海産巻貝ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869)(腹足綱ウミ ニナ科)の貝殻内部成長線分析』(pp. 127–135) の論文の中の p. 131 に掲載された Fig. 6 に不具合 があったので,訂正する.印刷のコントラストの 関係で,灰色と黒の部分の区別がつかず,グラフ がまったく読めない状態であった.オンラインの PDF 版では区別がつくが,印刷冊子体では判別 できず,コピーしてもまったくグラフが読み取れ ない状態であった.下記に塗り分けをはっきりさ

訂正 Fig. 6.喜入干潟におけるウミニナの滑層内部成長線本 数(奇数本か偶数本か)の個体数の月別の季節変化.黒 は滑層内部成長線本数が偶数本であった個体の数.灰色 は滑層内部成長線本数が奇数本であった個体の数.11 月 はデータなし.

せた図を掲載する.この図は論文の中でも核心的 な重要な結果を示す図であるため,ここに訂正す るとともに,訂正図から導き出される結果と考察

明らかになった.滑層内部成長線が 1 年に 2 層で

を改めて示す.

きることから,各月の個体数を, 滑層内部成長

 結果

線が奇数個体のものと,偶数個体のものにわけて 表した.グラフから 3 月から 10 月までは奇数個

滑層内部成長線数の季節変化

体が優占し,1–2 月,12 月では偶数個体が優先す

 喜入干潟におけるウミニナの滑層内部成長線の

るという結果が得られた.

季節変化を訂正 Fig. 6 に示す.1 年を通しての各 月の内部成長線の形成パターンを観察・比較する ことで内部成長線の形成時期と形成要因を調査し

 考察 滑層内部成長線と滑層以外の内部成長線について

た.サイズ頻度分布の季節変化と,貝殻内部成長

巻貝では成熟に達すると殻口付近が肥厚し,そ

線の形成パターン分析とを比較した結果,滑層内

れ以上の成長を停止するものが多い.スイショウ

部成長線は明確な層が年間 2 層形成されることが

ガイ科の大型種でも外唇が肥厚することが報告さ

    Kaneda, R., T. Nakashima, Y. Katanoda and K. Tomiyama. 2014. Correction of figure 6 (page 131) in article published in Nature of Kagoshima, vol. 39. Nature of Kagoshima. Nature of Kagoshima 40: 285–286. KT: Graduate School of Science and Engineering (Science), Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: tomiyama@sci. kagoshima-u.ac.jp).

れている.ウミニナも同様の殻成長パターンとり, 成貝が滑層を形成し,滑層は徐々に肥厚する.そ の結果,滑層内部成長線と滑層以外の内部成長線 に変異が現れたのではないかと考えられる.また 貝類の殻を形成する外套膜の形態は種によって異 なり,生活様式に適応した形態となる.さらに外 套膜の外套膜縁や縁膜は外套膜の中心部に比べ,

285


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

CORRECTIONS

殻形成の分泌活動と密接に関連して,分泌旺盛な

境に対する抵抗力が成貝に比べ低いということが

季節によく発達する.滑層が軟体部の縁部周辺に

考えられる.このことから幼貝の個体は,成貝で

形成されるということも,滑層内部成長線と滑層

は活動可能な不適環境に耐えられず,成長停滞で

以外の内部成長線に変異が現れた要因なのではな

はなく成長停止を引き起こし,滑層以外の内部成

いかと考えられる.

長線が 2 つの層状という形成パターンをとらない ということが考えられる.

喜入干潟のウミニナにおける貝殻内部成長線形成 パターンについて 滑層以外の内部成長線形成と滑層内部成長線

滑層内部成長線数の季節変化について 滑層内部成長線数の季節変化 (訂正 Fig. 6) から,

形成に差異があること,喜入干潟のウミニナにお

滑層内部成長線は冬期に偶数層を形成し,春から

ける幼貝と成貝の殻形態の違い,一般的な巻貝の

秋にかけて奇数層を形成することが明らかになっ

殻形成パターン,喜入干潟におけるウミニナの貝

た.この 2 種類の成長線として,冬期の偶数層の

殻内部成長線数と殻サイズの関連から,喜入干潟

成長線は冬輪と呼ばれるもので,冬の低温期が原

のウミニナにおける貝殻内部成長線形成パターン

因と考えられる.過去の成長線研究でイガイ科の

を考察した.滑層を形成していない幼貝は殻全体

固 着 性 二 枚 貝 で あ る ク ジ ャ ク ガ イ Septifer

に 1 年で 1 本の内部成長線を形成し,幼貝は 2 年

bilocularis では冬輪は観察されず,夏季の高温に

もしくは稀に 3 年で成貝となり滑層形成を始め

よる成長停滞が考えられることが観察されてい

る.滑層を形成し始めた成熟した成貝は,1 年で

る.これはクジャクガイの生息帯が潮間帯の下部

色が濃い層と色が薄い層の 2 層の内部成長線を滑

にあたり,砂泥質の干潟に比べ海面下にある時間

層に形成する.このような内部成長線形成のパ

が長くなることから,冬期の低温にさらされる時

ターンは,滑層を形成していない幼貝では性成熟

間が短くなるからであると考えられる.ウミニナ

が起こっておらず,外的因子(海水温度)の成長

の生息する干潟上部は干潮時には完全に海面上に

停滞のみで 1 年に 1 本の滑層以外の内部成長線を

あたり,冬期は海水の保温効果が得られず,低温

形成し,滑層を形成し始めた成貝が生殖活動を行

となる.また春~秋の奇数層の成長線は生殖細胞

うことで,外的因子(海水温度)と内的因子(生

に使用するエネルギーの備蓄などが原因と考えら

殖活動)の 2 つの成長停滞ディスターバンスによ

れる.このような外的因子と内的因子のディス

る 1 年に 2 層の滑層内部成長線を形成するという

ターバンスが,喜入干潟におけるウミニナの 2 種

ことが考えられる.もしくは、内部成長線の形成

の滑層内部成長線の形成には影響していると考え

には外的因子(海水温度)のみが影響するが、幼

られる.

貝のサイズが小さいことから、外的因子の不適環

286


PHOTOGRAPHY

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

▲ コウノトリの飛翔 撮影場所:南さつま市大浦 撮影日 :2013 年 10 月 26 日 撮影者 :中島俊郎 撮影場所:南九州市川辺万之瀬川中流域  「足環 0022」は例年通り長く滞在していたが,「足環 0072」 撮影日 :2013 年 12 月 12 日 はひと月も経たず移動し,11 月 19 日愛媛県大洲市,11 月 23 撮影者 :中島俊郎 日京都府宇治市,その後滋賀県東近江市を転々.代わりに「足  前年の湧水町の 4 羽の親子に続き,今季もオオハクチョウが 環 0062」が南さつまに 11 月 29 日やってきたが,これも長く滞 やって来た.3 羽とも羽の色が真っ白ではなく幼鳥である.最 在はしなくて 12 月 10 日にはいちき串木野市に移動.それ以前 初は 3 羽一緒に行動していたが,その後,2 羽だけになった. も和歌山県や京都府で確認されていたようだ.

▲ オオハクチョウの幼鳥 3 羽

▲ クロツラヘラサギの飛翔 撮影場所:南さつま市加世田万之瀬川河口 撮影日 :2014 年 4 月 5 日 撮影者 :中島俊郎  ほとんどの時間は,ネグラ近くや移動した場所で,羽の中にクチバシを入れて寝ている(眠りこけている個体は少なく,周り の様子を見ている場合が多い).動きのあるシャッターチャンスは食事移動などで飛ぶ時である.

▲ コウノトリ 2 羽 撮影場所:南さつま市大浦 撮影日 :2013 年 10 月 26 日 撮影者 :中島俊郎  2 羽の内,1 羽「足環 0022」は 4 年連続で,鹿児島県南さつま市に越冬しに来ている.今季は「足環 0072」と一緒に来た.コ ウノトリの郷の資料によると,この 2 羽は 10 月 23 日東広島市でみられ,同日倉敷市でも確認されたようである.その前 10 月 9 日には兵庫県たつの市,南さつま市には 10 月 29 日に飛来した.干拓の別々の場所に居た時もあるが,タイミングよくソバ畑 で一緒に撮ることができた.

287


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

PHOTOGRAPHY

▲ ミカゲサワガニ Geothelphusa exigua のメス 撮影場所:鹿児島県肝属郡錦江町田代麓 稲尾岳登山道付近 撮影日 :2013 年 4 月 5 日 撮影者 :藤田宏之  一般的にサワガニは赤茶系の色彩と,鹿児島県では青・水色 系が見られますが,白っぽい薄茶の個体でした. ◀夏羽のクロツラヘラサギ 撮影場所:南さつま市万之瀬川河口 撮影日 :2014 年 4 月 5 日 撮影者 :中島俊郎  越冬に来るクロツラヘラサギは,北帰行が近くなると,夏羽 (繁殖羽)に変わる.首回りは黄色くなり,飾り羽が伸び,風 になびくようになる.鹿児島県では冬場に確実にみられる鳥だ が,世界では数が少なく,絶滅危惧 IA 類に分類されている.

▲ ニホンアナグマ 撮影場所:平川動物公園 撮影日 :2013 年 7 月 24 日 撮影者 :落合晋作  私が勤める平川動物公園は,周囲を山に囲まれた自然豊かな場所に立地しています.展示動物以外にも,園内を我もの顔で歩 く野生動物に出会う機会が多いのも特徴です.イノシシやタヌキ,ノウサギなど運が良ければ出会うことができます.中でも一 番の出現頻度を誇るのがニホンアナグマです.春から秋にかけては行動が活発で,朝と夕方は見かける機会が多いです.比較的 人慣れしているのか,索餌中には近くで観察してもそれほど気にせず,子連れで歩く姿も見受けられます.写真は園内のごみ箱 でジュースの飲み残しを失敬していた時のものです.夜間は蓋をして厳重に保管しているのですが,日中から堂々と食事中のこ の個体には少し呆れてしまいました.しかし同時に,動物公園の立地の良さや鹿児島県の自然豊かな環境が誇らしく思えた瞬間 でもありました.来園された際には,世界中の動物たち以外にも園内の自然豊かな環境にも注目していただければ幸いです.

288


INFORMATION

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

Nature of Kagoshima 40: 289–292

鹿児島県昆虫同好会 2013 年は本会にとって大きな出来事が二つあ りました.一つ目は会誌 SATSUMA が 150 号を 迎えたことです.二つ目は,会長・副会長の引き 継ぎがありました.2004 年から 10 年間勤められ

左は正常なカバマダラ,右は矮小個体.

た福田晴夫会長・田中洋副会長が顧問に就任され, 二町一成新会長および福田輝彦・熊谷信晴両副会 長へとバトンタッチがなされました.新しい執行 部の元,これからも鹿昆は地域の昆虫記録を積み 重ねながら,鹿児島の不思議と驚きを解明し続け ていきます. 以下,鹿昆の 2013 年を振り返りながらまとめ ます.

(3)クロボシセセリ,鹿児島市北部でも確認 2006 年に指宿市で県本土としては初めて確認 され,2010 年に鹿児島市谷山地区に侵入したク ロボシセセリは,その後分布を拡大する様子がな かったが,2013 年 9 月 14 日に鹿児島市唐湊で白 尾裕子氏によって撮影され,11 月上旬には伊敷 台で山下秋厚氏によって採集された.

1.鹿昆 10 大ニュース 鹿児島の虫の状況を概観するために例年まと めている 10 大ニュースは,以下の通りでした. (1)ギンヤンマの大量飛来 2013 年 9 月 4 日,未明に鹿児島市を通過した 台風 17 号により,南方から大量のギンヤンマが 飛来した.この現象は鹿昆 ML を通して多数の情 報が集約され,大量に飛来した地域と,みられな かった地域とをある程度把握できた.身近な記録 を集積することをモットーとする鹿昆の活躍がみ られた出来事であった.これは鹿昆大会,昆虫学 会九州支部長崎大会で発表され,SATSUMA 151 号にまとめる. (2)カバマダラの 3 年ぶり本土発生と矮小化個体 2010 年の発生以後,鹿児島県本土でみられな かったカバマダラだが,2013 年は県本土で再び 発生が確認された.最初の飛来は 6 月 22 日に薩 摩川内市久見崎であり,その後県内多地域で発生

上は成虫,下はヤシの葉を巻いた巣を作る幼虫.

が確認された.また秋頃には,前翅長が 30 mm に至らない小さなカバマダラが鹿児島市内各所で みられるようになった.これについては会員によ る SATSUMA への投稿が必要である.ミニカバ マダラのみられなかった記録もあわせて投稿して 欲しい.

(4)ウスイロオナガシジミ絶滅か,ウラギンスジ ヒョウモン激減 湧水町栗野岳に生息するウスイロオナガシジ ミは,2010 年 7 月 9 日に 1 頭目撃されたのを最 後に,発見できない状況である.今年も 7 月 5 日

289


Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

INFORMATION

から 7 月 21 日にかけて 8 回調査されたが発見で

により奄美大島固有種であるアマミキンモンフタ

きなかった.最後の本種の標本はいつ誰が採集し

オタマムシ,フェリエベニボシカミキリ,ヨツオ

たものか,眠っている記録の報告が待たれる.

ビハレギカミキリ,アマミミヤマクワガタは種単

ウラギンスジヒョウモンはレッドリストの改 訂に伴う県内での調査などを含めて,2013 年は みつからなかった. (5)ホリイコシジミ,与論島・沖永良部で初記録 ホリイコシジミについては鹿児島県において,

位で採集ができなくなった. (10)夏は「少雨酷暑」だった! 2013 年の夏は例年になく雨が少なく、また酷 暑という異常な夏だった.鹿児島市では 8 月 4–5 日に雨が振って以来,23 日までの 14 日間のうち

2007 年 9 月 4 日指宿市開聞町川尻における迷蝶

少量の夕立はあったものの雨日はなく,高温日が

記録しかなかったが,2013 年秋,与論町と沖永

続いた.

良部島にて記録された. (6)奄美大島で新種の蛾:ユワンオオエダシャク が発見される 2013 年 3 月 15 日奄美大島湯湾岳で鮫島真一氏 によって採集されたエダシャクの一種は,8 月 31 日発行の蛾類通信(日本蛾類学会)で新種として

SATSUMA 151 号に正確な記録を残すべく,虫 の発生異常など,いろいろな夏の記録を会員の皆 さんに投稿してもらいたい. (補 1)国分高校サイエンス部による黒島産ミヤ マクワガタの研究 国分高校サイエンス部は 2012 年より黒島に産

発表され,和名はユワンオオエダシャクとなった.

するミヤマクワガタが分布の南限かつ離島域にあ

本種に近縁なものは台湾の高地にいるらしく,本

るということで,亜種に分化していないか,多く

種は南西諸島の中でも標高の高い湯湾岳に取り残

の標本を用いて計測して検討してきた.その結果,

されて種分化したことが示唆された.鮫島氏はこ

多少の変異がみられるものの,鹿児島県本土や他

の一連の研究を鹿昆大会で発表し,鹿昆大賞を受

産地と見分けることができないという結論を得

賞された.

た.県高等学校生徒理科研究発表大会や,高校生

(7)トガリアメンボの県本土初記録 2012 年に大原賢二氏が出水,長島,薩摩川内市, 串木野,えびの市などで調査したがみつからな

科学技術チャレンジ(JSEC3013),鹿昆大会など 様々な大会で発表している. (補 2)霧島山系の調査が再開された

かったトガリアメンボが,2013 年金井賢一と中

鹿児島県立博物館では 2013 年より国立公園特

峯浩司氏により,昨年はみつかっていなかった鹿

別保護区での採集許可を得て,調査を開催した.

児島県内の複数地点で発見された.

これにより 2006 年から 2008 年まで同館が行った

(8)鹿児島県新記録,シタベニセスジスズメが志 布志で発生

調査と比較することが将来的に可能である.この 間に新燃岳の噴火があり,降灰によりどのような

沖縄本島以南でしか記録のなかったスズメガ

影響があったのか明らかにするなどの目標が立っ

の仲間シタベニセスジスズメ幼虫が,2013 年 8

ている.なお,本調査には鹿昆の会員にも協力し

月 24 日志布志市の林悦子氏宅において確認され

て頂いている.

た.サトイモの葉を摂食している 7 頭の幼虫が採 集されたもので,新聞発表や鹿昆例会で追加記録 を呼びかけたが,他産地の情報は得られなかった. (9)奄美大島希少野生動植物の保護条例,10 種 が指定された 世界自然遺産登録を見据えて,奄美大島の全 市町村が 2013 年 10 月 1 日施行の本条例で昆虫 10 種を含む動植物について指定を行った.これ

290

2.大会 2013 年 11 月 23 日に,鹿児島市武田上公民館 にて大会を行いました.参加者数 64 人,昨年体 調を崩されていた新川勉氏も参加され,晴れて鹿 昆誕生時の三羽ガラスが勢揃いしたた会となり, 大盛況でした. 講演は全 9 題,国分高校サイエンス部昆虫班


INFORMATION

Nature of Kagoshima Vol. 40, Mar. 2014

ング病の虫媒伝染様式(井上広光氏:農研機構・ 果樹研究所)」と「進化生態学から見た不妊虫放 飼法(栗和田隆氏:鹿大教育学部) 」でした.九 州大学や九州沖縄農業研究センターなど,昆虫研 究のプロの方達と話題交換することで,普段とは 集合写真.

異なる質の交流ができました. 4.会誌・連絡誌発行

による黒島産ミヤマクワガタの研究や,新川勉氏

会 誌 SATSUMA は 年 2 回 発 行 し,11 月 に は

によるチョウの受精に関する問題提起,特別講演

150 号を送り出すことができました.この記念号

として鹿児島大学理工学研究科教授:山根正氣氏

では鹿昆の謹呈会員や研究者の会員などに原稿を

による「モンゴルの自然と昆虫」などがあり,多

依頼し,鹿昆への提言をお寄せ頂いたり,「鹿児

彩な話題と発表者に盛会でした.

島県の蝶類の分布ノート」,「種子島で発見された タマバエのゴール」など総説的な内容も掲載され

3.例会 月例会は 8 回行われました.例年と異なるも のが 2 つありましたので紹介します. 3 月 3 日は鹿児島県立博物館を会場に,「ガの 交尾器:取り出し教室~これは同じ種類なの?~」 (講師:福田輝彦氏)を行いました.通常夜に行

たりするなど,利用価値の高いものとなりました. 報告・