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shishi No.12

by

Walk

An n a

Mats u ok a


Foreword はじめに


木蓮の花が咲き始めると、長い冬の終わりが近づいてきているのだな と思える。 木蓮はとても古い種の植物なんだそうだ。 白亜紀にはもう花を咲か していたという。 恐竜と木蓮の組み合わせは想像するだに美しい。

ニュージーランドはおよそ8000万年前にゴンドワナ大陸から離れ 長く孤立していたために、植物の種が北半球で見る物たちと結構違う。 特に沢山生えている植物は巨大なシダ植物で、非常にジュラシック パークっぽい。 東京の住宅地の街角では、ばったりドラえもんと出 会えそうな感じがすると同じで感覚で、ニュージーランドの森の角で はギガントラプトルが飛び出てきそうでワクワクする。 開拓民が持ち込んだ北半球の植物はニュージーランドの植物よりも進 化している種が多いため、明らかに原生の植物と質感が違う。 例え ばシダとバラが並んで生えているところを見ると、それはオオカミと チワワが一緒にいるような感じで、見ていてなかなか落ち着かない。 そんな中、持ち込まれた種であっても木蓮はおおらかな形状から ニュージーランドのシダ植物達と似合う。 木蓮が太古から形状を変 えずにいた植物なのだと初めて聞いたとき、「ああ、だからか」と納 得した事を今でも覚えている。恐竜に似合うか否かが、ニュージーラ ンドに似合うかどうかの基準なのだろう。


Bush

Walk

森歩き

例えばニュージーランドで一番大きな都市のオーク ランドでも中心部から15分位歩くと、こういう人 一人分位の隙間が道ばたの植物の間に空いている。 よく見ていると、そこに人々が吸い込まれていく。 そういうところが散歩の狙い目だ。 大抵そういう 入り口の奥には、外からは想像がつかないような広 さの森が広がっている。


小さな入り口をくぐると、中に獣道がある。  ニュージーランドには人間が来るまでほ乳類が生息 していなかった。 動物は鳥しかいなかったそうだ。  なのでこの場合の獣は人間である。 地元の人達 が探索用の細い道を森の中に踏みしめたのだ。 名前がついている獣道も多くて、この道は「恋人達 の散歩道」と称されている。 随分とビースティー な恋人達だなと、冒険心がわき上がる。


歩いていくと随分と大きな植物達に出会う。この木 はあまりにも大きくてカメラに収まらなかった。  上の写真はこの木の根っこの部分。 この時点で私 よりずーっと背が高い。


これはこの木の上の部分。 一体何年かけてこれだ け育ったんだろうか。 


川が流れていないエリアの植物はカサカサツンツン している。 触るとチクチク痛い物も多い。 お互 いにある程度距離を取って生えている。


足下に小さな川が流れているエリアの植物は葉っぱ の形がまるっこくて、そしてお互いにくっつき合っ て、みっしりと生えている。 葉っぱも触るとすべ すべしている物が多いし、柔らかい。 そして背が 高い植物が多く葉っぱが空を覆い、植物のドームを 作っている。 私はこういう森が好きだ。 瑞々し くて、暗くて、ひやっとしていて、そして常に植物 が伸びていっている実感がある。 シダ植物にはコ ルたちが沢山いる。 上に向かってどんどんと開か れていく。


コルとはニュージーランドの先住民の言語、

コルが開ききると、空を覆う巨大なシダの

マオリ語で渦巻状になっているシダの新芽を

葉っぱになる。

指す。 森歩きをしていると様々なステージ のコルを見つける事ができる。 このコルは

コルはマオリの文化で「新生」 「成長」 「力」 「平

まだ産まれたばかりで、シダの根元に隠れて

和」の象徴なのだそうだ。 最も愛されてい

いる。 この時期のコルは毛むくじゃらだ。

る形状の一つでもある。 なのでマオリの美 術や装飾にかなりの率でコルは出てくる。 

もうちょっと大きくなると、立ち上がり始め る。 ゆっくりと渦巻きがほどかれていき、

コルの形はあまりにも神秘的で、希望に溢れ

大きなシダの葉っぱになる。 シダはフラク

て力強く、ちょっと世界の成り立ちすら感じ

タル状の植物で、コルの中にも、小さなコル

てしまう。

が、その小さなコルの中にもまた小さなコル が入っている。 その全てがゆっくりとほど

日本のバンドの toe が東日本大震災へのチャ

かれていく姿は非常に美しい。

リ テ ィ ー 用 音 源 と し て 発 売 し た Ordinary days のジャケットにコルが写っているのを

一つのコルが開ききる頃には、また根元に新

見たとき、少し私の目頭が熱くなった。 展

しいコルが育ち始めている。 すごいことだ。

開を祈るとき、この形が心にうかぶ。


森に入ったときと同じ要領で、小さな出口を見つけて出る。 向かいにはオー クランドの街が見える。 整頓された公園の先にビル郡が並ぶ。

このコントラストはちょっと面白いよね。 Fin


Afterword おまけ


Glass

House

温室

そういえばこれまでの写真をざっと見て分かったと思うけど、ニュージーランド の森には花が少ない。 大抵が常緑樹で、四季を問わず常に茂り繁殖している。 それはそれで見事なものだけど、時には北半球の花が恋しい。 そんなときは街の公園の中にあるガラスハウスに行く。 中には地球上の様々な 場所から集められた花達が並べられている。 「遠くまで来たねぇー」と花と自 分に言葉をかける。 そして花を眺めながら、コルとはまたちょっと違う生命の 息吹を感じる。 「この蜜とかを集めて混ぜて呪文をかけたら魔法のシロップに なるとかって発想もわからなくもない」と思わせられる。


Afternoon

tea

アフターヌーンティー

散歩をした後は、アフターヌーンティーをするに限る。 カフェやピクニック が出来る公園が街の中に多い国なので、場所には困らない。 

カフェも森と同じで小さな細い出入り口の 場合が多い。 天気のいい日は外に座って いる人達も多い。 このカフェは森から車 で五分位の所にある。


週末の散歩の後のお茶の時間は、出来 るだけ暖かみがあって、ごちゃごちゃ していて、甘い物が美味しくて、そし て来ている人達の年齢層が広いカフェ が良い。 大きなダイニングテーブル に新聞や本が沢山置いてあるようなお 店が好ましい。


おじいちゃんおばあちゃん夫婦や、子 供連れの若い夫婦、つんつんしたお姉 ちゃん達や自意識過剰でもじもじして いる女の子、彼女の話しに飽きている 彼氏や、ただひたすら新聞を読み続け る青年。 そういう人達が集まってい るカフェは都心のリビングルームのよ うで、週末的に正しいと思う。


狭いカフェなんだけど、いろんな所に 鏡が置かれていて狭さは感じない。

森を歩いた後の甘い物は美味しい。  痺れんばかりに深く香ばしいコーヒー に甘酸っぱいレモンケーキ。 この瞬 間のために、週末に森行って獣のよう に駆けずり回るのかもしれない。

おまけも、Fin


松岡杏奈 工業デザイナー /shishi のデザイナー。 鎌倉出身。 ニュージーランドのオークランド在住。 いつでも海辺に住んでいます。 多摩美術大学を中退後、ニュージーランドの大学に留学。 その後地元の企業にインハウスデザイナーとして勤務。 東京でたまたま会った坪野君と、元々の友達だったしおねと shishi を始める。

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ししのデザイナーによる、オークランドの散歩日記。

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