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第三章 IT 企業が過疎地域で働くことが及ぼす 知的生産性への影響

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第三章)IT 企業が過疎地域で働くことが及ぼす知的生産性への影響 3.1 企業の神山での知的生産性の考え方と現状 前章で挙げた二社において、株式会社えんがわは「循環型」、株式 会社ダンクソフトは「滞在型」を主とし、「循環型」の使用形態も 合わせもつ複合型である。 これらの違いは各々の知的生産性の捉え方の違いに表れるため、こ こでは同じ項目において2社を比較する形式をとる。

3.1.1 サテライトオフィスの利用形態と知的生産性 表 1 サテライトオフィスの利用形態と知的生産性 株式会社えんがわ(循環型)

株式会社ダンクソフト(滞在型を主と した循環型)

項目❶

①マネジメントワーク

サテライト

②クリエイティブワーク

①エンジニア(クリエイティブワー ク)②営業(エンジニア出身)

オフィスを

③ルーティンワーク

KVSOC に常駐する M 氏も①。完全な

利用する人

各業務に従事する社員が S 氏の

管理者がおらず、ほぼ①の業務形態

の業務形態

意向により交代で利用する。

の社員で構成される。東京の社員は 仕事の隙間を利用して、神山に来 る。

項目❷ 知的生産性 が向上した

東京から神山へ来た社員の、上 記①と②の業務形態の生産性が 向上している。環境の変化によ る刺激を受けたことによる。

まだどの業務形態が向上したかはわ からない(M 氏は徳島市内からの転職 の為、それと比べて)。

東京から神山へ来た社員の、③ の業務形態の生産性が低下して いる。時間感覚が変化し、1日 のメールの返信数が 100 から 70

まだどの業務形態が低下したかはわ からない(M 氏は徳島市内からの転職 の為、それと比べて)。

業務形態 項目❸ 知的生産性 が低下した

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業務形態

件程度まで低下。

項目❹

①視覚認知:書類を読む →変化なし ②聴覚認知:電話対応 →変化なし ③動作制御:PC操作 →変化なし ④記憶:調査分析④記憶:調査 分析

知的生産性 が改善・低 下した項目 の詳細 ※)それぞ れ①②③ →情報処 理、 ④⑤→知識 処理、 ⑥⑦→知識 創造、に分 類される。

→やや改善

①視覚認知:書類を読む →変化なし ②聴覚認知:電話対応 →変化なし ③動作制御:PC操作 →変化なし ④記憶:調査分析 →やや減衰 ⑤計算:資料作成

⑤計算:資料作成

→改善

→変化なし

⑥収束的思考:案をまとめる

⑥収束的思考:案をまとめる →改善

→大幅に改善 ⑦拡散的思考:新しい案を出す

⑦拡散的思考:新しい案を出す

→大幅に改善

→大幅に改善

項目❺

A 東京→神山

1-2 週間

東京・徳島市内→神山

知的生産性

B 神山→東京

1 か月以上

理由:スケジュール調整の問題。来

を向上させ

理由:

られるときに各々がスケジュールを

るのに最適

A それ以上いると、東京の時間

組んでやってくる。それ以上長くい

な期間とそ

に戻すのに時間がかかる。

て、支障を来すという訳ではない。

の理由

B 一つの仕事をやり遂げ、達成

2011 年 9 月・11 月に行われた実証

感を得ることのできる期間。地

実験では、それぞれ実験滞在期間は

元雇用の神山の社員が東京での

1 週間以上で、述べ社員 28 人

仕事の段取りに慣れる為。

・20 日以上行われた。

<都会と過疎地の関係は相対的 なもの、その間に起こる変化> 知的生産性の改善と言うよりも 「変化」を求めている。当然そ れは過疎地だけではなりたたな い。自然環境が良い、快適に働 けるというのも都会との相対的 なもの。社員が日常生活のリズ

< 空間の使い方の改善>

項目❻ 知的生産性 を向上させ る、都市部 から過疎地 へと働く場

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3 日-1 週間

徳島市内のオフィスを利用していた 時もフリーアドレスではあったが、 都市のオフィスは空間が狭い為、自 然に各自の固定席が決まっていくな ど、自由に動き回ることは暗黙的に


を移すこと の変化・効 用 (インタビュ ーから抜粋)

ムから離れることで、気付くこ と、思いつくことがあり、それ らが高まることが生産性だと考 えている。そうするには環境を 変えるのが良く、五感で感じる ことやコミュニケーションのと りかたが都会とは違ったものに なる。 <オフィス内外の非日常性の演 出>例えば、田舎の風景から路 地を抜けて伝統的な日本建築に 入ると、皆が思い描いているよ うな日本建築の内部空間とは異 なり、最先端の機器が並んでい ることに五感が刺激される。ま た、このようなことは恵比寿で も考えており、オフィスの中に 非日常を演出するデザインをし ている( オフィスの真ん中にリ ビングを置くなど)。リスクと裏 腹ではあるが、社員以外の他者 が入ってくることに、寛容さを もっていることは神山も恵比寿 も同じである。

できなかった。しかし、KVSOC は空 間を広々と使え、家具や開口部の開 閉なども自由にコントロールできる ことは、とてもよい。 <リフレッシュのしやすさ> また、都市のオフィスはどうしても 1F に構えることはできず、すぐに外 にでることができないが、KVSOC で はすぐに外にでたり、外気に触れた り、自然を感じることができ、リフ レッシュしやすい環境であることも 魅力である。

3.1.2 両対象事例の「滞在型」「循環型」に着目した比較 項目❶において、株式会社えんがわ(以降E社)では、3 つの業務形態 に従事する社員が分業しているのに対し、株式会社ダンクソフト(以 降D社)ではほぼクリエイティブワークの社員で構成されている。ま た、E社では代表取締役であるS氏の意向によりその采配がなされ る場合が多いが、D社では常駐のM氏は自ら希望して滞在し、他の 社員も自らの意思でスケジュールを組んで神山にやってくるという。

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両社のサテライトオフィスの利用態勢に対する違いが見られる。

項目❷において、E社でははっきりと東京から来た社員の特にマネ ジメントワーク・クリエイティブワークに関する生産性が向上した と述べているが、D社ではまだどの業務形態が向上したかわからな いと述べている。このようにE社が明確に知的生産性が向上した業 務形態を述べることができるのは、E社が都市と過疎地、及び東京 と神山を相対的なものと捉え、その間を行き来することによる刺激 を大事にし、常に比較を行っていることが関係していると思われる。 これは循環型の特徴であるとも言える。

項目❸において、E社では東京から神山へ来た社員のルーティンワ ークの生産性低下を述べている。 これに対しD社は項目❷と同様に、まだどの業務形態が低下したか はわからないと述べている。ここでも前述した循環型利用の特徴が 表れている。

項目❹においては項目❷❸における知的生産性の変化の様子を詳細 ⑦項目について調査した。E社では④記憶:調査分析、⑥収束的思 考:案をまとめる、⑦拡散的思考:新しい案を出すの詳細項目につ いて改善が見られた。ここでも、項目❷でE社が述べたマネジメン トワーク・クリエイティブワークに関する生産性が向上しており、 ④⑥⑦は知識処理と知識創造に関する詳細項目であることがわかる。

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またその中でも知識創造に寄与する⑥・⑦の改善度が高い。 D社では⑤計算:資料作成、 ⑥収束的思考:案をまとめる、⑦拡散 的思考:新しい案を出すの詳細項目について改善が見られた。項目 ❷❸ではわからなかったが、詳細項目について伺うことで、知的生 産性向上結果に関する詳細な情報を得ることができた。各々が向上 した理由としては、⑤は「スケジュールを自分で組むことができ、 集中した時間がとれる為」、⑥・⑦は「インプットのない環境は、 クリエイティブワークが捗る為」とM氏は仰っていた。また、①視 覚認知:書類を読むに関しては変化なしと回答されたが、これはD 社がペーパーレス体制をとっているためである。一方④:記憶:調 査分析に関してはやや減衰と回答されたが、M氏が以前働いていた 市内の職場では仲間がおり、生きた情報が入りやすい為だと仰って いた。 よって項目❹では、E社・D社ともに知識処理と知識創造の詳細項 目が改善し、特に知識創造に関する詳細項目の改善度が高いとみら れる。

項目❺において、E社は明確に最適な滞在期間とその効用を述べて くれた。特にA東京→神山では1-2週間と短期滞在として環境変化 の刺激を受けることが生産性向上に効果があると述べている。これ は設計者の「他者としての振る舞い」というコンセプトにも関係し ていると考えられ、循環型のサテライトオフィス利用の特徴が顕著 に表れている。

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D社は、常駐のM氏以外は循環型としてサテライトオフィスを利用 するのではあるが、E社のような明確な理由をもった滞在期間はな く、社員が各々スケジュールを組んでやってくる。サテライトオフ ィスに明確な効用などは求めていないように見受けるが、将来的な 展望への準備段階であるということと、社員のスケジュール的自由 さが関係していると思われる。

項目❻において、E 社は知的生産性を向上させる、都市部から過疎地 へと働く場を移すことの変化・効用について<都会と過疎地の関係 は相対的なもの、その間に起こる変化>、<オフィス内外の非日常 性の演出>を挙げている。前者からは都会と過疎地どちらが良いな どと偏った考えが無く、働く場として平等に捉えていることがうか がえる。後者のオフィス内外の非日常性の演出においても、東京で もそういったオフィスデザインを心掛けていることから、過疎地で 働くことを特別視せず都市部と平等に捉え、企業の理念を拡張する ような場所となっているように思われる。この平等に捉えられた環 境間を行き来することで受ける刺激をE社は重要視している。 一方D社は同項目において、< 空間の使い方の改善>、<リフレッシ ュのしやすさ>を挙げている。E社に比べ過疎地の働き方に魅力を 見出している様子がうかがえる。これらの意見は自ら神山に来るこ とを希望したM氏一人が感じていることのみならず、循環型として 神山に来る社員の意見でもあり、長期的・短期的に見てもKVSO Cでの空間的、自然環境的働きやすさに魅力を感じているように見

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受ける。E社と比べ、オフィス内外の非日常性というよりも、リフ レッシュのしやすさなど日常のQOL向上に重きを置いている。こ こでも循環型と滞在型の違いが表れる結果となった。

3.1.3 サテライトオフィスの利用形態と知的生産性における考察 まず、項目❶からわかるのは、「両社のサテライトオフィス利用態 勢に対する違い」である。E社は「S氏による采配」、D社は「社 員自らのスケジュール調整」により利用している。 また、この利用態勢の違いは項目❷❸における知的生産性向上・ 低下した業務形態を回答される際にも表れている。循環型であるE 社ではS氏が「都市と過疎地を相対的なもの」と捉え常に比較を 行っており、明確に答えることができるのだと考えられる。 しかしながら、項目❹では両社ともに「知識処理と知識創造の詳 細項目が改善」し、「特に知識創造に関する詳細項目の改善度が高 い」という結果になっている。 一方、改善項目は同じであるものの、項目❺❻ではその理由に違 いがみられる。E社では「短期滞在による非日常的刺激」、D社で は「長期滞在による日常的QOL向上」が項目❹における知的生産 性向上をもたらしていると考えられるのである。

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図 1・2 ダンクソフトの考える新しい働き方の図式化(西田作成) これはD社において伺った新しい働き方についての図 1・2 と関係す る。彼らは神山での日常的な地域とのつながりが、将来的なビジネ ス及び新しい働き方につながると考えているのである。

図 3 D社の新しい働き 方のシステム(西田作成)

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よって両社にとって、知的生産性を向上させる理由は異なるが、 それぞれに循環型・滞在型の利点と神山で働くことの意味を見出し、 その目的にしたがって新しい働き方を模索していると言えるだろう。

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3.2 企業の神山でのコミュニケーションの現状と知的生産性 ここでは企業が現状において行っている、神山でのオフィス内外の コミュニケーションを調査し、またそれらがどのように知的生産性 と関係するのかをまとめていく。そしてそれらの将来的展望をまと めることとする。その際に、以下 ABCD のコミュニケーション分類を 基本としてインタビューを行っており、各企業の求めるコミュニケ ーション及び、知的生産性との関係を探る上で利用する。 A 社員同士のフォーマルなコミュニケーション (社員同士の会議など業務内の会話) B社員同士のインフォーマルなコミュニケーション (社員同士の業務外における会話やランチなど) C社外の人々とのフォーマルなコミュニケーション (神山の他の会社の方々及び地域の方々とのビジネスに繋がる会議) D社外の人々とのインフォーマルなコミュニケーション (神山の他の会社の方々及び地域の方々とのビジネスではない会話)

3.2.1 サテライトオフィス内外のコミュニケーションと知的生産性 表 2 サテライトオフィス内外のコミュニケーションと知的生産性 株式会社えんがわ(循環型) 株式会社ダンクソフト(滞 在型を主とした循環型) 項目❶ ・A+B(社内):C+D(社 ABCD各コミュニケーシ 外) =6:4 ョンの量的割合

・A+B(社内):C+D(社 外) =2:8

・A:B=5:5…①

・A:B=9:1…①

・C:D=5:5…②

・C:D=0:10…②

①・②より

①・②より、

A+C(フォーマル):B+D A+C(フォーマル):B+D (インフォーマル)=5:5

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(インフォーマル)=9:11


項���❷ ・情報処理 ・情報処理 知的生産性三階層における フォーマル:インフォーマ フォーマル:インフォーマ 業務が必要とするフォーマ ル=9:1

ル=10:0

ル・インフォーマルなコミ ・知識処理

・知識処理

ュニケーションの割合

フォーマル:インフォーマ フォーマル:インフォーマ ル=5:5

ル=6:4

・知識創造

・知識創造

フォーマル:インフォーマ フォーマル:インフォーマ ル=1:9

ル=4:6

項目❸ フォーマル:インフォーマ フォーマル:インフォーマ ル=5:5 知的生産性が向上した業務 ル=3:7 形態に貢献している、フォ (3.1 表の項目❷において、 (3.1 表の項目❷ではは知的 ーマル・インフォーマルな ①マネジメントワーク②ク 生産性向上した業務形態は コミュニケーションの割合 リエイティブワークの業務 わからなかったが、項目❹ 形態の知的生産性が向上し の⑤⑥⑦知識処理と知的創 ている。それらが関与する 造の分野が向上しているた のは知識処理と知識創造で め。3.2 表項目❷知識処理+ あり、また項目❹において 知識創造の割合をとる。) も④⑥⑦が向上している。 よって 3.2 表項目❷におい て知識処理+知識創造の割 合をとる。) 項目❹ 現段階での活性化順位

1 位B2 位A3 位D4 位C

1 位D2 位C3 位A4 位B

項目❺ C 社外の人とのフォーマル C 社外の人とのフォーマル なコミュニケーション 将来的に活性化したいコミ なコミュニケーション ュニケーション

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3.2.2 両対象事例の「滞在型」「循環型」に着目した比較 項目❶において、E社はA+B(社内):C+D(社外)=6:4 と回答し ている。これはE社の神山における社員は地元雇用が多く、まだC のフォーマルな社外対応に慣れていない為である。またA:B=5: 5、C:D=5:5 と回答しており、社内・社外どちらにおいてもフォ ーマルとインフォーマルなコミュニケーションの量は等しく、これ らよりA+C(フォーマル):B+D(インフォーマル)=5:5 という結 果となった。S氏によれば、一般的な企業と比べると、インフォー マルなコミュニケーション及び、社外の人とのコミュニケーション は多いと感じていると言う。 一方D社はA+B(社内):C+D(社外)=2:8 と回答している。これ は、M 氏が自ら神山での勤務を希望しており、自主的に地域と関わっ ていこうとする意志と、D社自体が社外活動を推進していることが 起因している。M氏によれば、もちろん東京及び徳島市内でも社外 活動を推進しているが、都市部ではそのような場がないことが問題 であるという。またA:B=9:1 と回答しているが、他の社員とは ビデオ会議の為Aが多く、Bは会議終了後の雑談などとして行われ ることによる。そしてC:D=0:10 という回答からは、KVSOC 内では他社とのフォーマルな会議はまだなく、Cのコミュニケーシ ョンは行われていないことがわかる。それに対しDのコミュニケー ションは急速に活性化しており、地域の方々との交流やえんがわオ フィスなどによく訪れ、ビジネス外の交流を深めていると仰ってい た。D社は先に述べたように、将来的な神山でのビジネスに対し明

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確なビジョンを持っており、これがDの活性化に貢献しているよう に思われる。フォーマルなビジネスを生むためにはインフォーマル なコミュニケーションが必要であり、その基盤づくりをしている状 況であるのだろう。また、こういった考えの根本にインタビューを 行った方々が口を揃えて仰る「我々には仕事と遊びの境界はない」 ということがそれを裏打ちしているように感じた。 これらよりA+C(フォーマル):B+D(インフォーマル)=9:11 とな り、E社同様インフォーマルなコミュニケーションがフォーマルな コミュニケーションと対等なレベルで活性化していることがわかっ た。

項目❷においては情報処理、知識処理に関しては両者で大きな違い は見られないが、知識創造でE社フォーマル:インフォーマル=1: 9、D社フォーマル:インフォーマル=4;6 という違いがみられた。 E社では知識創造に対しよりインフォーマルなコミュニケーション に期待をし、D社では両コミュニケーションを対等に評価している ことがわかる。

項目❸においてはこれまでの 3.1.1 及び 3.2.1 表内の項目から、知 的生産性向上に貢献しているコミュニケーションを考察している。 その方法は表内に記載しているが、結果としてE社はフォーマル: インフォーマル=3:7 となり、神山での知的生産貢献にはインフォ ーマルなコミュニケーションが貢献すると考えていることがわかる。

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D社ではフォーマル:インフォーマル=5:5 となり、両コミュニケ ーションが同等に貢献すると考えていることがわかった。 項目❹において、E社は現段階においてBのコミュニケーションが 一番活性化しており、次いでAと回答している。これらは社内のコ ミュニケーションが活性化していることを示しており、項目❶にお けるA+B(社内):C+D(社外)=6:4 という結果からもうなづける 順位であり、先に述べた地元雇用者が社外対応に慣れていないとい う事実はもちろんのこと、最初から地域とは繋がりがあることも関 係しているのではないかと察する。また、AよりもB、CよりもD が上位となっており、項目❶では量的には 5:5 と変わらなかったも のの、活性化順位からはフォーマルよりもインフォーマルのほうが 活性化していることがわかる。 D社は現段階においてDのコミュニケーションが一番活性化してお り、次いでCと回答している。これは社外のコミュニケーションが 活性化していることを示しており、項目❶におけるA+B(社内):C +D(社外)=2:8 という結果からもうなづける順位である。M氏によ れば、Dは急速な勢いで活性化しているいう。具体的には、近くの 農園の方や近隣のギャラリーのオーナー、向かい側に所有している 空き家を利用したゲストハウスを開設する方などとの交流である。 また、毎日のように訪れる視察者との会話も含まれる。CはD社が 社外活動を推進していることと、えんがわオフィスに頻繁に出かけ たり、他の神山の社員との交流が多いことを示している。これに関 しては「どこの社員かわからなくなる」という意見もあった。そし

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てNPO法人グリーンバレーの方々との会議などもCには含まれる。 A・Bはビデオ会議上で行われる為、現段階ではM氏一人に対する 必要最低限の会議しか行われないため少ないのだと察する。 項目❺においては両者同様にC社外の人とのフォーマルなコミュニ ケーションを将来的に活性化したいと仰っていた。これは両社とも に神山で働くことをワークライフバランスの向上や地域でのCSR にとどまらず、新しいビジネスの在り方として発展させる意思があ るということであろう。また、神山というコミュニティの性格上、 自らの利益を生むことを目的とした企業に対し拒否感を露わにせず、 受け入れているという事実も、企業の生産性をサポートしていると S氏は仰っていた。

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3.2.3 企業の神山でのコミュニケーションの現状と知的生産性における考察 項目❶❹からは現段階においてオフィス内で行われている「実質的 なコミュニケーションの量と活性度」、項目❷❸からは「知的生産 性向上におけるコミュニケーションへの貢献度」を知ることが出来 る。ここで端的にまとめれば、以下表のようになる。

表 3 企業の神山でのコミュニケーションの現状と知的生産性における考察 E社 実質

社内・社外の比較

フォーマルとインフォーマルの比較

社内>社外(※項目❶)

フォーマル=インフォーマル(※項目❶)

活性度

フォーマル<インフォーマル(※項目❹)

貢献度

フォーマル<インフォーマル(※項目❸)

フォーマル≒インフォーマル(※項目❶)

活性度

フォーマル=インフォーマル(※項目❹)

貢献度

フォーマル=インフォーマル(※項目❸)

E社 貢献度 D社 実質

社内<社外(※項目❶)

D社 貢献度

E社は実質的には社内のコミュニケーションが多く、量もフォーマ ルとインフォーマルが同量であるが、活性度・貢献度ではイン フォーマルなコミュニケーションが高く、インフォーマルなコミュ ニケーションの質が知的生産性に貢献していると考えられる。これ を 3.1.3 サテライトオフィスの利用形態と知的生産性における考察 と一緒に読み解くならば、E社では「短期滞在による非日常的刺 激」が知的生産性を向上させているといったことからもインフォー マルなコミュニケーションを重要視していることがわかる。

D社は実質的には社外のコミュニケーションが多く、量・活性度・ 貢献度ともにフォーマルとインフォーマルは同等に評価されている。 これを 3.1.3 サテライトオフィスの利用形態と知的生産性における 考察と一緒に読み解くならば、D社では「長期滞在による日常的Q OL向上」が知的生産性向上を向上させているといったことからも フォーマルとインフォーマルなコミュニケーションを公平に考えて いることがわかる。

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3.3 企業のオフィス内及び境界部のコミュニケーションと開口部使 用の様子 ここでは各企業のオフィス図面を用いて、オフィス内及び境界部の コミュニケーションと開口部使用の様子を記述する。 企業にはオフィス図面上で季節ごとに、3.2 のABCD各コミュニケ ーションがどこで・何時ごろ・どのように、行われるかを伺いなが ら筆者が記述していった。同時に開口部使用の様子を伺うことで、 他者の介入や境界部におけるコミュニケーションの変化といった二 次的作用にも着目する。

3.3.1 えんがわオフィスの場合 ①オフィス内のコミュニケーションの様子 季節を通して室内のコミュニケーションの様子に変化はない。また、 3.2 表 2 の項目❶「ABCD各コミュニケーションの量的割合」がA +C(フォーマル):B+D(インフォーマル)=5:5 となっていること からもわかるように、オフィス内全ての空間で、ABCD全てのコ ミュニケーションが行われている。 しかし、PC作業環境にあるデスク周りではビジネス上の会議が相 対的に多く、フォーマルなコミュニケーションに、キッチン近くの テーブルではランチ会などのインフォーマルなコミュニケーション に偏るなど、それぞれの空間を社員がフォーマル・インフォーマル な空間として共通認識し、時間ごとにそれらを切り替えている様子

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が伺える。 ②境界部のコミュニケーションの様子 えんがわオフィスの境界部は四方を囲む縁側で構成されている。縁 側の方角別使用頻度は北側・東側・南側の順であり、人数に合わせ て、使用頻度順に使用面積を増やしていく。 使用頻度の高い北側の縁側でのコミュニケーションを S 氏はA+C (フォーマル):B+D(インフォーマル)=5:5 であると回答された。 具体的な内容を挙げれば、朝は近所のご老人などの利用、昼(12: 00-14:00)は社員同士・神山の他の会社の社員同士のランチなど、 夜(18:00 以降)は地域で働く若者たちも交えた飲み会などが行われ るという。 こうしたコミュニケーションはオフィス内に比べ、社員の意図しな いものである場合が多く、時間に関係なくフォーマル・インフォー マルなコミュニケーションが同時多発的に起こることを示唆してい る。その内容が多様でどちらにも属さないニュートラルな空間であ ると言える。

この様な縁側でのコミュニケーションは季節によって使用する時間 帯が異なり、夏季には夕方から夜にかけて、秋季にはすべての時間 帯、冬季には朝から昼にかけて使用するという。 秋季が一番活性化しているのは、気温・日射が穏やかになり、朝昼 のコミュニケーションが活性化することが原因であると仰っていた。

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③開口部使用の様子 えんがわオフィス1階の開口部は全部で6か所存在し、①②は北側 の縁側、③④は東側の縁側に接している。⑤⑥はオフィスの正式な エントランスであり、自動開閉式扉による風除室となっている。

図 4 開口部番号(西田作成)

7月開所当初の夏季7-8月にかけては6か所全てを、秋季9-11 月では①②③④を開放して使用していた。冬季は開放する開口部は なかった。これより、7-11月にかけて解放される①②③④が東側 と北側の縁側をつなぐ通路となっていることがわかり、実際にその ように使用している旨を伺った。オフィス内と境界部及び異なるコ ミュニケーション間を社員が移動していることがわかる。

以下これらをオフィス図面に記したものを、 図 5 夏のコミュニケーション図面 図 6 秋のコミュニケーション図面 図 7 冬のコミュニケーション図面 として示しておく

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④他者の介入の様子 縁側には監視カメラはあるものの、セキュリティシステムなどは一 切なく、誰でも自由に使用することができる。オフィスの存在を知 らなかった人や、向かい側に隣接するカフェ利用者なども縁側での コミュニケーションを行うことができる。

図 8 他者の介入の様子(西田作成)

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SD レビューでの解説によれば 1)、前庭と広場の二つのオープンスペ

参考資料

ースを介して、建物群や人々につながりがもたらされ、広場では寄 井座と連動した催しが行われたり、劇場のホワイエの様な場所とな るとある。夏には町の連が阿波踊りを踊る。このような敷地周辺及 び商店街をも含んだ回遊導線が社員と他者、地域を結んだコミュニ ケーションのきっかけとなっている。それはまるでオフィス内部を 中心とした同心円状に、社員の予期しないコミュニケーションが拡 がっていく様である。それは常に靴が縁側にあり、いつでも外に出 ることが出来るようにしている様子からもわかるだろう。

図 9 縁側の靴の様子 (西田撮影)

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1)SD2013/鹿島出版会 P26-27 参照


3.3.2 KVSOCの場合 ①オフィス内のコミュニケーションの様子 M 氏のデスクは南西側に固定席としてあるが、KVSOC はフリーアドレ ス・フリーレイアウトの体制をとっている為、ネットワークが繋が る場所であればどこでも仕事ができる。特に社内のコミュニケーシ ョンはビデオ会議で行う為、基本的には固定席で行うが、ノート PC を持ち運んで移動して行うことも多い。その為、春には南側正面へ 出て日向ぼっこをしながら、夏には北側の川からよく風が通る部屋 で、冬には薪ストーブの近くでビデオ会議を行うなど、社員同士の 会議というフォーマルなコミュニケーション A をオフィス内の快適 性を求めて自由に動き回って行っていることがわかる。 社員同士のインフォーマルなコミュニケーション B はこれに付随し、 ビデオ会議の後の少しの時間の会話というかたちで行われる。 社外の人々とのフォーマルなコミュニケーション C は、未だオフィ ス内での活性度は少ないが、KVSOC は毎日のように訪れる視察者や都 市部の企業のサテライトオフィス運用実験などに使用される為、社 外の人々とのインフォーマルなコミュニケーション D はオフィス内 でも活性化している。これらは直接ビジネスに繋がる訳ではないが、 他社との関係を気付く上で将来的に重要であると考えられる。 また、南側の大きな開口部に面した部屋の大きなデスクや、応接 室のように対面して並べられたソファ席では ABCD 全てのコミュニケ ーションが活性化していることがわかる。この点に関してはえんが わオフィスにとっての縁側のような境界部と認識し、次の②におい

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て述べることとする。 ②境界部のコミュニケーションの様子 KVSOC の境界部は先ほど①で述べたように、南側の大きな引き戸を開 けたときに構成され、オフィス内外の繋がりを生む空間であると定 める。ここでは ABCD 全てのコミュニケーションが活性化し、地域の 方々や視察者などの他者の介入も存在する。 具体的な内容を挙げれば、社外の人々とのインフォーマルなコミュ ニケーション D においては、KVSOC 西側に隣接する農家の方との交 流や、徳島市内に住んでいるが向かい側に空き家を所有し、管理の 為に換気をしにきた方が挨拶をしにくるなどである。後者はこの交 流をきっかけの一つに、NPO 法人グリーンバレーと契約し、所有して いた空き家をゲストハウスに転用するということも起きている。 社外の人々とのフォーマルなコミュニケーション C においては、中 央の部屋の大きなテーブルで NPO 法人グリーンバレーの方々との会 議が行われたりする。ここで働いているグリーンバレーの方々と会 話を交わすこともある。 このようなコミュニケーションはえんがわオフィスの縁側同様に、 社員の意図しないものである場合が多く、時間に関係なくフォーマ ル・インフォーマルが同時多発的に起こることを示唆している、ニ ュートラルな空間となっていると言える。 これは春季 3-5 月が一番活性化しており、これは次の③で述べる開 口部使用の様子とも関連するので、後に述べることとする。

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③開口部使用の様子 KVSOC の開口部は中央の大きなイベントスペースを含めると多数存在 するが、今回はこれらを含めず、南側・北側の外部に接する開口部 と内部空間を仕切るものを交え、12か所に定める。①は西側のデ スクに接する腰窓、②⑤は南側ファサードに接する腰窓、③④もま た南側ファサードに接する大きな引き戸となっている。⑥⑦⑧⑩は それぞれのワークスペースを仕切る引き戸である。これらと反対側 に存在する北側の⑨は裏側出入り口となる引き戸、⑪⑫は近くの川 に接する腰窓である。イベントスペースにおいては年間を通して主 に換気のために使用される東側上部の換気窓のみ開閉され、その他 は閉め切っており、あまり使用されることはないという。このよう な理由から、今回は除外した。これらを主に以下の様に分類し、述 べていくことする。 ・M氏デスク周りの開口部①② ・オフィス内外の境界部となる開口部③④ ・南側腰窓⑤ ・ワークスペースを仕切る開口部⑥⑦⑧ ・北側開口部⑨⑩⑪⑫ KVSOCは2013年1月に開所されているため、これらの開口 部使用の様子について、四季を通してお話を伺うことができた。

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<春季3-5月> ・M氏デスク周りの開口部①② 春季3-5月は、一年の内で①②が最も使用される時期である。エア コンの風があまり好きではないというM氏。冷暖房を使用せずとも 心地いいと感じる季節には、窓を開けて自然風で気温をコントロー ルするという。この時期は季節の風に対する快適性も高く、心地よ い風を求めてポジティブなコントロールをしていると言える。 ・オフィス内外の境界部となる開口部③④ 四季を通して利用され、閉め切ることはないが、この時期が一番使 用頻度が高い。これは境界部のコミュニケーションが一日を通して 活性化していることとも関係する。 ・南側腰窓⑤ ここも①②同様春季に使用頻度が多くなる。 ・ワークスペースを仕切る開口部⑥⑦⑧ ⑥は基本的に、他社が隣のワークスペースを使用している際でも開 放している。また会議中や空調を行っており、どちらか一方のワー クスペースのみを使用している際には閉じている。年間を通してこ のような使用方法は同じであるが、春季は空調を使用しないため、 開放されていると考えられる。 ⑦⑧は春季はM氏が北側の空間を使用しないため、換気の際に開け られる程度である。NPO法人グリーンバレーのT氏によれば、イ ベントスペースは中庭のような存在であり、外部に接する開口部の ような感覚で換気を促していると考えられる。

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・北側開口部⑨⑩⑪⑫ 春季はM氏が北側の空間を使用しないため、閉じている。わざわざ 換気を促しに行くことはない。

<夏季6-8月> ・M氏デスク周りの開口部①② 夏季に①は開放せず、夕方の西日が強い為、外壁に葦簀を立て掛け、 日射のコントロールをする。南側は太陽高度が高い為、日射は入っ てこない。②は朝の出勤と同時に開放し、換気を促す。 ・オフィス内外の境界部となる開口部③④ 午前中から昼にかけて開放している。夕方は虫が入ってくる影響に より、閉じている。境界部のコミュニケーションは午前に活性化し ている為、昼は内部空間との快適性にずれが生じていると察する。 ・南側腰窓⑤ こちらも換気の為に開けられ、春季よりも使用頻度は少ない。空調 を使用する為と考えられ、自然環境の快適性をオフィス内に取り入 れるという、積極的なコントロールには結びついていない。 ・ワークスペースを仕切る開口部⑥⑦⑧ ⑥は基本的に、他社が隣のワークスペースを使用している際でも開 放している。また会議中や空調を行っており、どちらか一方のワー クスペースのみを使用している際には閉じている。 ⑦⑧は主に換気の為に開放されるが、⑦は朝の出勤時に②と連動し、 換気・通風を促す為に開放される。

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・北側開口部⑨⑩⑪⑫ ⑨は朝の出勤時に②⑦と連動し、換気・通風を促す為に開放される。 ⑩は、主に北側のワークスペースを使用する際に開放され、⑪⑫は 夏季に近隣の川からの風が心地よい為、ここでビデオ会議をする際 に開放される。夏季は快適性を求め、M氏が大きくオフィス内を動 き、多くの開口部をコントロールしていることがわかる。

<秋季9-11月> ・M氏デスク周りの開口部①② 秋季も春季同様心地よい風を取り入れるために①②を開放し、自然 風で気温をコントロールするが、夕方以降虫が入ってくる影響で閉 じている。夏季同様午前中に開放することが多い。 ・オフィス内外の境界部となる開口部③④ 夏季同様午前中から昼にかけて開放している。夕方は虫が入ってく る影響により、閉じている。境界部のコミュニケーションは午前に 活性化している為、昼は内部空間との快適性にずれが生じていると 察する。 ・南側腰窓⑤ 春季同様心地よい風を求めて開放されるが、①②③④同様虫の影響 で夕方以降は閉じている。 ・ワークスペースを仕切る開口部⑥⑦⑧ ⑥は基本的に、他社が隣のワークスペースを使用している際でも開 放している。また会議中や空調を行っており、どちらか一方のワー

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クスペースのみを使用している際には閉じている。 秋季は空調を使 用しないため、開放されていると考えられる。⑦⑧は春季同様イベ ントスペースからの換気の為に開放される。 ・北側開口部⑨⑩⑪⑫ 春季同様、M氏が北側の空間を使用しないため、閉じている。わざ わざ換気を促しに行くことはない。

<冬季12-2月> ・M氏デスク周りの開口部①② 冬季は大変冷え込む為、①②共に開放しない。また、太陽高度が低 い光が差し込み眩しい為、 ②の外部に葦簀を立て掛ける。 ・オフィス内外の境界部となる開口部③④ 基本的に寒いので閉じているが、薪ストーブによる暖房で、乾燥し た空気に湿度を取り入れるために開放することがある。開口部を開 けた瞬間の風はとても気持ちがよいとM氏は仰っていた。この換気 方法はリフレッシュにもつながっていると考えられ、積極的なコン トロールであると言えるだろう。 ・南側腰窓⑤ ①②同様冬季は大変冷え込む為、開放されない。また、前面に薪ス トーブがある為ヒートロスを避けるためであるとも考えられる。 ・ワークスペースを仕切る開口部⑥⑦⑧ ⑥は基本的に、他社が隣のワークスペースを使用している際でも開

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放している。また会議中や空調を行っており、どちらか一方のワー クスペースのみを使用している際には閉じている。冬季は薪ストー ブを使用する為、片一方を使用する際は閉じられていると考えられ る。⑦⑧は春季・秋季同様イベントスペースからの換気の為に開放 される。 ・北側開口部⑨⑩⑪⑫ 春季・秋季同様、M氏が北側の空間を使用しないため、閉じている。 わざわざ換気を促しに行くことはない。

以下これらをオフィス図面に記したものを、 図 10 春のコミュニケーション図面 図 11 夏のコミュニケーション図面 図 12 秋のコミュニケーション図面 図 13 秋のコミュニケーション図面 として示しておく

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④他者の介入の様子 KVSOC への他者の介入は、基本的には玄関を通るが、南側の引き戸を 開放している際は、そこから直接入ってくることも多々ある。境界 部のコミュニケーションが他者の視線を惹きつけることで、新たな コミュニケーションを生み出している。

図 14 他者の介入の様子(西田作成)

筆者が10月末に視察に伺った際には、向かいの空家を管理する方 が、開口部③から入って可視性の高い空間を自由に動き回り、様々 な形態のチームと話されていた。これはKVSOCで働く人々のリ フレッシュを促していると考えられる。この時点では両者の関係性 は親しいものであり、玄関から入るという他人行儀な介入をせず、 スムーズに境界部のコミュニケーションに入っていくことができて

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いるのだろう。

参考資料

2)神山バレーサテライト オフィスコンプレックス HP 2014 年 1 月 27 日現在 http://www.inkamiyama.jp/kvsoc/ 参照

図 15 地域の方のサテライトオフィスでのコミュニケーション (※2 の写真をもとに、西田作成)

このことから境界部のフォーマルとインフォーマルのコミュニケー ションが交じり合った空間は、地域との関係をスムーズにするきっ かけとなり、同時に働く人のリフレッシュを促すという相乗効果を 生み出していると考えられる。この効果は図 16・図 17 の写真からも 明らかである。

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図 16 地域の方との交流(西田撮影)

図 17 地域の方との交流 (西田撮影)

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3.4

改修行為と帰属意識

ここでは両オフィスの設計者である伊藤氏へのインタビューをも とにまとめていく。ここでの結果は少し時間を戻し、改修過程のコ ミュニケーションが引き起こしている事実を述べたい。 えんがわオフィス、KVSOCともに竣工後の社員との直接的な 改修過程の共有はないが、都市部を事例とした先行研究

3)

の「社

員」の捉え方に違いがあるとみられる。

3)序章 0.2.2 情報化初期における 図 18 えんがわオフィスの地域雇用と帰属意識(西田作成) ニューオフィス運動の課 題とコミュニケーション えんがわオフィスにおいては、S氏はとなりの敷地で地域ととも において、古川は、 に寄井座の改修WSをやっていた伊藤さんらに会い、えんがわオフ 「①オフィス空間の改善 ィスの設計を頼んでいるので最初から地域と関わっていく意識はあ は、ホワイトカラーへの企 る。また、設計者のほうが事前に地域とより深く関わっていたこと 業の帰属意識を高める 効果は確認できる」と述

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べている。


から、S氏の考えを、現地経験の長い設計者が地域とのコミュニ ケーションを考えたデザインに昇華していることがわかる。 ここでの地域とは将来の雇用の対象である人たち及びその関係者 である。よってオフィスの設計自体に地域との関わり方を考えるこ とが、雇用後の帰属意識を高めていると考えられる。また、その珍 しさと施工担当者の地域との交流への意識の高さから、施工中にお いても近所のおばあちゃんが毎日のように差し入れを持ってくるな ど、地元の企業理解が改修過程においても深まっている。 一方サテライトオフィスコンプレックスにおいては、���修過程に おいて東京芸術大学の学生が参加し、神山への愛着を深めることで、 勝手に神山の広報活動へとつながったという。 単純に社員という形ではないが、地域にとって最初は得体のしれ ない外集団であったIT企業の存在が、改修を通して地域によい意 味で伝わり、結果として働く人のオフィスへの帰属意識や意欲向上 に結び付いているのではと考えられるのである。

伊藤氏はこのようなことをセルフビルドのもつ力であり、20Cの 完成された製品をつくることに神経を使っていた時代の窮屈さと共 に、セルフビルドのもつ開放性や寛容性を述べ、改修プロセスを考 えることへの有用性はあると仰っていた。

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6第三章