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Chapter1 乗物

ひとの世のあやまちはひととひととをつなぐ 霧の中のゴムボール投げのように 互いに煩悩を返礼する 愛が手段の性と愛が目的の性 まちがえば理解しあえる 遺伝子のひとり芝居 魂の乗り物をみがけと誰に言われた 現場を知らないシンカーのように うそつきは決して汚れない ひとはひとの中にしか罪が見えない 座席のない乗り物をみがいている だから魂の在りかが見えない 乗り物は行き先も告げずに出発する 憎しみも悲しみも置き去りにして


Chapter2 暗号

人と人とが殺し合うのは素敵だと アドレナリンが、僕にメッセージを伝える 遺伝子情報が沸騰している 四月の微風、五月の瘴気 ネズミたちは知っている 気のせいか、確かに気のせいだ 心は確かに受信している 裏切るのは命 許せるのも命 くりかえしくりかえすのも やはり命 死神が教えてくれる愛もある 青い空に流れる白い雲、木の葉のみどり 樹よ、幸福に耐える術を教えてくれ


Chapter3 遺言

あらしの夜には耐える木も こんな真っ昼間に倒れる どこかでささえてくれる手を 信じてみようとするからだ 伝えなければならない これをあなたに伝えなければ にくもこころも炎のなかに 巨きな炎には戻れない リレーのバトンを手渡すように 木々がひかりを引き継ぐように 伝え了えたら倒れたっていい? にぎりしめていたちいさなこぶしのなかに にくの目には見えないてのひらの奥に いまも託されているもののことを


Chapter4 躊躇(ためらい)

仮の世に煩悩だけがしんじつ 時計の針も 石庭の悟りも当てにならない 素足で歩くきみの回廊 心も肉に変わるから 木の葉の揺らぎ、一千年の陽溜り この祝福に耐えねばならぬ 風に乗って、川向こうから聞こえてくる 子守歌には耳をふさげ たとえつま先が水に濡れていても 波と波の結び目に紅い花びら もう戦いの相手さえ思い出せないけれど 心はやわらかいままにして この世の祝福に耐えねばならぬ


Chapter5 回復

重力は魂をつなぎとめる だから地球上の生きものはみんな 万物を落ちるに任せている 夏の満月の夜の寂しさは この世に理由を持ってはいない 通信がこんなとき わずか頭にそそぐのだ 私たちが重力の檻を脱したら どんなメッセージが伝えられるのか あの悩みこの苦しみ、みんな 種族の輪廻が決めたこと 町で一番高い朝の木が 最初の輝きに満たされるとき 私たちはもう回復期にあると思う


Chapter6 炎焔

うすい桜いろした花びらの先端に やっと一滴が到達する こう書いて雨がふりだすんなら 海を燃やすのもわけないけど 火ということばで 燃えあがる目の奥にある森 何回だって燃える脳髄の灰 けしてほんとうに死んでしまわない 見つめると穴があくというのはほんと きみの視力がとてもいいなら 酸化していまこの紙は燃えている みんなみんなにせものの火 きみがいまマッチを擦って 火と書いたところを燃やしてください


Chapter7 未練

バラ科の時刻、午前四時 凍れ、凍れ、何もかも 涙の湖、暗喩の波紋 (哀しいことなぞ何もない) 怪我をしている林檎の夜明け 枯れ葉がいっぱい泳いでる (風邪をひいたら目をとじて うさぎの耳で保護されたい) 虚空に垂れる毛糸のマフラー 真冬の包帯、記憶の傷の (そのときぼくはいなかった) 北風ポタージュ、火の幼年 忘れ果てたか、占いを 夢の修辞で焚きつけろ!


Chapter8 出発

落下する青いりんごのスピードで 季節のスプリングを圧縮する 花あかりなのだ。 ほんのすこしの呼吸停止 夏の想いは蒸発しやすい 並木の道も閉じていく もううしろを見なきゃ どこが前なのかわからない つめたいパセリがパラパラ落ちる ハムやチーズをはさんで食べて まぶたの隙間で焼けてます そして季節は秋だった! きみは鍵穴写真機のカメラマン 耳の螺旋階段から身を投げる


Chapter9 眠る

ゆうぐれて空のまぶたを閉じるんは 太陽が背を向け行ってしまうんは これからおこるよくないこと 見ないで済ますためなんか 夜に眠れるなんて不思議な ふくろうの星が涙をこぼして これから森で血が流される けものが夜行性なのあたりまえ 目をつむったまま夜空は気づいている 星がきらめくのでわかる 眠ったふりが優しさなのか ゆうぐれの赤い睡眠薬にだまされ まだ生きているうちに すべては終わったんだとつぶやく


Chapter10 予感

木漏れ陽、夜明けのインク壺からこぼれる まぶたの闇に、折りたたまれているみどり 木漏れ陽、通りすぎる風の呪文 いっせいに薄目してみせる樹葉、星座をまねて 空、もう何も象徴するな おまえにも意味があるなんて不潔だ (けれど、呼びかける青いことばが 青空と生かす。老いさせる、一人のように) 今、若い窓だから よく軋む 開けばいつも小雨模様の陽のひかり 桜は心臓を嚇かすものだ 怒りは未成熟な感情だ。 裏切り者、きみであり ぼくの心… 「しょせん芸術家にすぎない だが…」


Chapter11 規則

りんごスープ 粉にしたチーズがふってくる うすぐらい湖 ときおりぺちゃんの魚がはねる ここでは釣りは禁止です いっぱい笑って火をおこす 骨くずのめだつお料理 (よく切れるナイフがいるな) まわる惑星の振動で 夜も葉っぱが落下する なんて奇妙ななぞなぞだ あかるいあいだはボール投げ みんな夜中に手をよく洗い きちんと疲れて眠る


Chapter12 ホット

なぞなぞはコーヒーに溶けきれない ミルク模様が占えない 風が酔い寝覚めの水のつめたさに 目は笑わない、想いは挫ける サイホンも憎しみを発明する あかるい喫茶店を暮れさせる うすい揮発性を増してくる スプーンはまだ口をきかない 鍵は白く融けながら降ってくる どこまでも丘が見えないので 野原が錯乱する なにが欲しかったんだろう 思い出せる夢はもう夢でなく 太陽は朝の電車のように眠たい


Chapter13 難破

みどりの太陽錆びるころ かたつむりのこども家出する いのちはとってもにがい薬だ (甘いりんごもいりようさ) 夢を呼び返しちゃいけない つめたい青空で難破した 枯れ葉が螺旋階段を降りてくる 思い出に変わり果てた身で流れ着く 組み伏せられてもきみは視ていた (それが嫌われた理由だったのに) なにを視つめていたんだろう 黄金仮面も銀の妖精も 魔法のとけたトランプカードが 朝のテーブルに散らかっている


Chapter14 なぜか

朝がきて目をさましてみて いつも小さなものがなくなっていた 窓には鍵がかかっていたから きっと内部のものの犯行だ 真っ赤な目をしてがんばってみても ふいに火を吹く彗星みたい 消えたものはきっといらないものばかり もう願い事なんかするものか ところであの頃のぼくは 波の音ばかりきこえてくる 古ぼけたラジオをいじってた 真夜中にあの海からきた なぜかなつかしい異国語の 短波放送を聴いていた


Chapter15 あした

ひまわりゼリーのくらい谷まに しろい蝸牛をとじこめた 闇のはじまる唇は ゆうやけみたい焦げている めに見えるものすさまじい はやく星空をオフにして! ことさらくらやみで捜してる 夢の落としもの手さぐりする 星の火炎びんに点火して きみは過激に童話を読む 気がつくと指さきに火傷していた 「ほとけはつねにいませども」 あけがたの海で溺れていたんだ 花の香りだけ満ちてきた!


Chapter16 鳥

まひるのみるく皿からはずかしそう 木はみどりの腕をひっぱる 指先で雪をとかせてる あの海からいのちの熱量が渡る 落下する羽と昇る夜の羽毛 速度のなかで落ち葉が呼ばれ 風のなかで枯れ枝は求めている ゆうひに色をとられた鳥たち 満ちる水辺をいっせいに 虹の滝壺へ飛びたった 寒い夜中の水道から 夢とわずかな水がしたたる いまふりかえらないことは 鳥たちへの礼儀だ


Chapter17 冬の空

ふゆの青そらはやせていて もうかなしみを食べてくれない 銀いろしてとんでったロケットが 投げかえされて燃えつきる すみきりすぎた青そらに 見てはいけない眼があらわれてる まひるの星は恐ろしい 食べちらされた火の骸骨 さびしさの核融合する太陽が香っても 夢は骨だらけでとても寒い 燃え落ちるロケットには祈れない ゆうやけの雲もはだかで 血管がすけるのではいろっぽくない せめてくらやみを着せてほしい


Chapter18 生長

唇からこぼれてしまうビスケットくずみたい 惑星は幼い軌道を離れていく 優しすぎる季節はきみのためによくない 街角を何度もまがってみたけれど 鉄腕アトムなんていない とっても熱かったよ太陽のなかは 夢みるために十万馬力だった あっちへいけ鏡のなかの青い幽霊 ゲームははじめたばかりだし 手を抜かないのが礼儀だから (きどって嘘をつきはじめている) どうせベンチで夕陽がはやい そうやって空を見つめていたって きみに帰っていけるところなんかない


Chapter19 電線

電線に三羽の雀がとまってた だあれもうたない だあれもなかない けれど一羽が落っこちた それから春の風が吹く 天気もよろしい青い空を また一羽が落ちる なぜか秋の風 いちばんおしまいの一羽が 枯葉のなかに落っこちた ちっとも落ちない青い空 だあれもなかない だあれもわらわない ただ電線が伸びているだけ


Chapter20 青空

宇宙のなかのふれやまないハンモックのよう 青空の裏を炎がうつる 過失速度で蜜に入っていく良質な夜 ぼくはその日忘れることをメモした 卵いろに渇れた切り株の根は見えない けものの皮膚が奥に黒ずんでいる それで空が明るい 暗い脳に降りて割れた時の幼根 星と星の隙間には 去っていく記憶のない砂浜が続く 耳穴に落ちた厚い手帳 ぼくは青空のように残酷な音楽を聴いている 夜になると彗星が火を吹いた すべての青い空を貫いて時が在る


Chapter21 泳ぐ

新鮮な夜のなかでは泳ぎづらい むこう岸までの距離も知らなくて いきなり泳ぎだすなんて無茶だった だれの夜なのかわかりはしない 夜のくらさに負けないように 夢に見えてくる水にだって 星のかがやきはうつらない 等しい水圧だとつぶされない つめたい水にとびこんだら とても心臓は耐えられない 夜をすこしづつ胸にかけよう とびこんだからにはぼくの夜だ 泳ぎつかれて溺死するとき 朝までの距離がきっとわかる


Chapter22 おしばい

アルコールほんのすこしたりなかった ゆうやけが燃えつきるまえ夜はきた ライトをつけろ これから延長戦で生きる ひとりになるの怖いなら ひとと会ってはいけなかった すこし話しかけてみる だれもいないことを確かめる こんな川でも埋められないなら いっそ大きく深くして ぼくは向こう岸なんかないと思い込む 寒くなったら窓をとじて 目をあいたまま堪えていよう 眠れば夢に追いつかれる


Chapter23 隙間

炎の船が高い林をかすめるとき 幼い木の実は一瞬に熟れる そしてたちまち火の雫になって堕ちる 夜のすこしまえは残酷な時間だ 死んでしまうひとの脳に属する まっくらい野原で たくさんの火がみどりの舌をだしている 鳥が卵のなかを飛んでいる ぼくはこの世にとじこめられた 銀河をすこしめくってくれ 青空にぶつかって死ぬ鳥たち いつも七月の夢の午後二時を通過して 羽毛は二十年かかって落ちてきた けれど卵は割れてないのだ


Chapter24 助走

公式時計は愛をくさらせる 心臓の赤い針はいつも苦しみを遅らせる ぼくは時のかぞえ方を知らなかった だからあの夜の虹に追いつけない ぼくたちがおはようとまたあしたを なれた夢のように投げあうなら すえた果物を食べながら 見つめ憎しみ方を覚えるだろう わざとまちがえたがる心臓は 血と青酸の結晶水だ 目のなかでしばらく天秤がじっとする 夜明けまえの妖精が夢をこばした 氷のうえを駝鳥が走っている はやく飛ばないと死んでしまう


Chapter25 くうかん

誰か窓ごしに見ている そとからあるいはなかから それから考え込むとき いつも棲家は目をとじてつくる くつがえる恒星を見つめ 木がひかる指輪をはめるころ ふりかえるふいにめくらになる こんなくらやみがいちばん優しい 北極星より寒い火が燃え急ぐ 真空なそんなひろがり ひまわりが咲きはびこり 火はくらやみのなかで澪れちる すこしは風が通ってくるのか ひとはここにいないのだが


Chapter26 初夏

惑星が初夏の軌道に入ると 木は生長しかわからなくなる 木洩れ陽の領地のために 侵すことさえ許される 巨きな心臓を弾がつらぬいていく 誰も声をたてない かわりに空が焦げて転がる 地平に眠る草草に 空の血がしみてくる たちまち荒っぽい群集だ 炎に髪をゆすいでいる木のしたを のろい柩が過ぎていく 組んだ指の蔭は涼しくて 見ている目は陰になれない


Chapter27 燃える灰

硝子細工に透明な蜜をみたし ぼくは慎み深くみせびらかす 徹夜していちばん優しい嘘をこしらえる 外気の成分は明るい沼ばかり 荒地には赤い絨緞をひろげる 夢は潮のようにいらだって 悲しそうな角度でひいていく いちめんの星と枯葉を洗って干せば 日暮には金貨ばかりが鳴いてるべきだ すさまじい秋はよい 山ほどの水死者をあたためる まだ燃えるものはみつからないか 記憶に積もった灰ばかりなら もう一回灰を燃やす


Chapter28 水たまり

小型水たまりにひたって こどもは三輪車でいったりきたり かわいた道に跡がつくから楽しい 水の跡ならくっきりしている なんにもしないでいたとき できないことなんてなかった 日が照って日が照って 水はひとりで昇ってった ほそほそのうすい雨が降って きみはことばを習ってた なんにもしないではいなかった 赤い波になってひいていく 太陽が沈むわけじゃない きみが勝手に沈む


Chapter29 欠乏

お祭りがあったので だれがよそものかよくわかった 遠いあの空のどこかで いつまでも電話のベルが鳴りやまない こころのヒューズがとびそうな つまたい風が吹いていて きっと青い火が生まれてる ひとのいない沼からきたんだ あかい模型のプロペラ機は 干潟のむこうへとんでいった あけがたのひかりをきらきらまわして 純粋ということばを 久しぶりに思いだした こんな病気ではもう死ねない


Chapter30 おしまい

ゆりの花びらを削っていくように きみの憎しみが青空の皮をはぐ 肺の血管がびりびりやぶけて 逃げおくれた小鳥たちが落ちてくる 天の果樹園で燃えつきた灰は きみのこころならまだ熱くできる 目からふきこぼれた思い出は 雪のスクリーンに映写する 慣性なら冬の領土は抜け出せまい 地球はまわる推力は きっといのちが燃料だ 眠るとき悔いあらためてやるものか ふりかかる雪にやけどして もう何もかも黙っていろ


Chapter31 この猫

そこの米屋で眠る猫 イチゴジャムさえ青ざめる 寒い夕暮にはめをさます 火花が欲しくなるときだ 風にもまれる枝のじゃがいも とてもおいしいスープだから 勇気をだしてとびおりろ ところで雪がくるころだ こたつのなかにまるくなって 幸福なめくらのこころ この猫はしじゅう漏電している 気やすく手をふれるな 夜の野原にでかけることもある


Chapter32 情熱

お い と ま し ま す ー ー ー good bye! 死 者 が 怪 訝 な 眼 を し て the death has strange eyes, 立 ち 去 る 私 を 眺 め て い る be seeing me who go away. 死 者 は そ の 生 の 最 高 潮 に 達 し た の だ が the death has reached the acme now! 私 は 渦 潮 の 端 に 後 ず さ り i have retreated from the edge of whirled acme. 消 え て い く の は 私 な の だ not the death but i have gone out! 秩 序 の 掟 に イ ヤ イ ヤ し な が ら reluctant to do order 生 き て い る 私 な ら ず も の i am going my way , outlaw! 百 万 年 銀 河 を 迷 っ て 帰 還 し て も millions years,wandering galaxy,return now. 身 を 横 た え る 石 のベ ッ ド も な い


i don`t have a stone bed to lie. ぼ う ぼ う と 草 の な び く 彼 方 に grasses flow to eternal 水 も 血 も 流 れ る も の は す べ て 消 え て ゆ き blood , water and so on too to-. こ の う す ら あ か り の く う か ん に here , in the twilight world. た ま し い を こ ら え て 立 ち 止 ま る i still stay with my solid soul


Chapter33 確かめる

とんでいる鳥がはばたくのは はばたきながら落ちていくのは 空が在ることを信じきれなくて 空に触れようとするからだ わかってしまっていけないことは わからないまま信じるべきか 流れている血を確かめたければ 傷つくほかに方法はない 燃えている火を確かめたければ とびこんで焼け死んでしまう 夜の蛾のようにするしかない はばたくことが空を生むのだ 空にぶつかって死んだ鳥は もう地上には落ちてこない


Chapter34 ニッポニア・ニッポン

新聞記事によると ニンゲンでいえば100歳を越える 最後のトキは 突然飛び上がり 檻の天井に激突し 脳挫傷で死亡 亡骸は檻のなかに落ちたが 魂は檻の天井を抜けて 大空へ羽ばたいていった


Chapter35 死のレッスン

夭逝のときはとうにすぎて 罪をかさねて生きている 咽喉は喚きたがっている 脚はぶるぶる駆けたがっている けものとして生きたか ひととして生きたか 神のように生きたか 悪魔のように生きたか すべて過剰は犯罪 ぶっ壊れたブレーキ スタンピード 懺悔って何だ 人を傷つけずに生きて来れたか 許しを乞うような卑劣があるのに

saigo no sanrinsya  
saigo no sanrinsya  
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