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l a i c e p S ition Ed


目的地だけ決めておく。あとは適当にフラフラ。そんな旅のストーリー。 迷う、時間を失う、トラブルが発生する、進めなくなる……日常生活では出来るだけ避けたい そんなことが、時に旅を深く記憶に刻むエッセンスとなったりする。だから、旅は面白い。や められない。また行きたい。そんなことを考えさせられた、素晴らしい仲間との3デイ・トリッ プ・ストーリー。 photo and text by Katsuhisa Mikami

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初めてのメンバーで行く適当3デイズ。ただしバイクは3台ともHPN。 旅のスタートは、練馬にある篠原さんの会社だった。SSERは主催する北海道4デイズというラリーで知り合い、その後も忘 年会などで顔を合わせていた彼は、練馬で英国製のスポーツカーであるロータスを扱うショップを経営している。その彼から、 相談を受けたのだ。 「HPN*が欲しい、あるいは乗っているというような仲間のための場所を作ろうと思っている。ついては、 そのマインドを伝えるようなストーリーを作れないか?」というものだった。でも、穏やかなほほえむ目の奥には、僕と三橋淳 (パリダカドライバー)が3年前に行った、北海道〜東北のような旅に行きたいだけなんじゃないか、と、僕は感じたのだ(笑) 。

*HPN = BMWのGSシリーズをベースに、顧客の要望に合わせたオリジナル・モーターサイクルを制作するカスタムビルダー。1980年代にパリダカで活躍したBMWファ クトリーマシンを制作していたことで有名

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800〜1100ccの排気量をもつだけに、高速での移動もらく。左・三橋+HPN Rally Sport、右・篠原+HPN Baja


左、篠原祐二さん(詳細はP.37) 。今回のツーリングの発起人(大げさか) 。 右は三橋淳、本誌でもおなじみのプロクロスカントリーラリードライバー。 2013年のダカールは残念なリタリアに終わったが、2014年もチームラン ドクルーザーからダカールに出場、市販車クラス優勝を奪回する予定

2000年にBMWファクトリーマシンに試乗した経験のある三橋が「ファクトリーマシ ンに近い乗り味がする」と絶賛だったHPN Rally sport

転倒

今回使用した3台のHPNのうち、最もオフロード色の強いHPN BajaはR80G/Sのエンジン、車体をベース にツインショックで仕上げたもの。800ccとは思えないほど軽快

き針葉樹とが急傾斜の斜面を覆って

軽ワンボックスカーに追いついた。

ケくらいの速度だと思っていたのだ

いる。その斜面と斜面の間の、狭い

僕らのほうがペースが速いので抜き

が、僕は振り落とされるように左側

 意外なほど乗りやすい。関越道の

エリアには細い川と、肩を寄せ合う

たいのだが、道幅が狭く、カーブも

のガードレールに投げつけられ、ヘ

三芳パーキングで待ち合わせた僕と

ように立つ住宅が並ぶ。そして、そ

連続しているので、軽が道をゆずっ

ルメットのバイザーがガードレール

篠原さん、そして三橋の3人は、それ

の家のまわりには、よく耕されたい

てくれないと抜くことはできない。

にあたって地面に押しつけられた。

ぞれ仕様の異なるHPNに乗ってワイ

い土の色をした畑が隙間を埋め尽く

 しかたない、のんびり行こう……

 後ろから、篠原さんと三橋がやっ

ンディングを走っていた。

すように広がっている。 ところどころ、

と思い、左側の美しい山村の風景に

てきて、かなり緊迫した声で「大丈

 関越を本庄児玉ICで降り、国道462

黒く輝く、水が張られた田んぼも。

ふと視線を送った。 これがまずかった。

夫? 無理して動かないで!」 と言う。

号で西へ。ところどころダートの残

川の上には、川を跨ぐようにたくさ

 はっとしたときには、目の前で軽

 僕は足がHPNに挟まれていて、動

る御荷鉾林道(20年前は日本最長級

んの鯉のぼりがかけられているとこ

が止まりかけていた! 僕はフルブ

けずにいたのだけど、彼ら2人がよい

の林道だった)を走って佐久方面に

ろもある。美しい。

レーキングしたが、だめだ、間に合

しょ、と起こしてくれた。

向かおうというプランだった。

 東京では桜はとっくに咲き、もう

わない! 決して軽くはないHPNだ。

 体はどこも痛くなかった。

 道案内は、 僕だ。短いけれど、 ちょっ

散ってしまっていたが、このあたり

それにタイヤはオフロードタイヤ。

 軽の運転手だろうおじさんがクル

とガレていて面白い名無村林道を抜

ではまだポツポツと桜が花を咲かせ

ぎゅううっとフロントブレーキレバ

マから降りてきて、 「あんたらスピー

けて、富岡方面に向かっていた。セ

て春らしい雰囲気を盛り上げている。

ナーを握ったが、タイヤのブロック

ド速いから抜かせてあげようと思っ

ンターラインのない細いワインディ

そんな谷間を、HPNならではの高い

は舗装の上で虚しく滑っていく。

たんだけど……」とおそるおそる遠

ングからは、日本の原風景のような

乗車位置から見下ろしながら、ごく

 あと50cm、30cm、と軽のテール

くから言う。

山村の風景が広く望める。自然のま

狭いワインディングを下っていた。

ランプが近づく。だめだ、ぶつかる!

 僕らは、いやいや、僕たちが悪い

まのものだろう広葉樹と、植林らし

 おそらく地元の農家の方だろう、

と思った瞬間に、転倒した。立ちゴ

んです。大丈夫です、と言って、お

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みかぼ高原荘から富岡方面へと下る県道。セ ンターラインもなく路面には落ち葉や砂が浮 いているが、それでもHPNだと楽しい。楽し すぎてオーバーランしちゃったけど……

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行き止まりの林道に入り込み、戻る


シリンダーヘッドカバーを外して裏返す。こ れでとりあえずほとんどオイル漏れはなし

ホームセンターでエポキシとガムテープを 買って修理中

買った物。やっぱもってっといたほうがいい ね。金属用のエポキシ補修材

BMW純正のGS用車載工具。いいつくりと品 揃え。袋もいい感じ

この2人は結構ガタイがいいので、大柄な車 格のHPNがよく似合うね。悔しいわ

富岡郊外から富岡へ。美しい山並みを背後に 気持ち良く走る

名無村林道は名無村(ななむらと読む)に続 く林道。凄い名前の村だわ

御荷鉾高原荘近くからの眺め。関東にも素晴 らしい眺めの場所があるなあ

100GSのヘッドカバーは上下逆でも使えるのだ じさんにはそのまま行ってもらった。

に飛び出しそうになったのだ。ブレー

もの)も持ってきていない。

まったくの無傷だった。

俺がよそ見をしていたのが悪い。

キングしようとしたポイントの路面

 すると、篠原さんが「とりあえず

 1cmくらいあいた穴を、僕がカメ

 じつは、その前にも僕は一度道か

に砂が浮いていたのが原因だが、な

引っ繰り返しましょう」と言う。な

ラのレンズに巻いていたテープでふ

ら飛び出しそうになっていたのだ。

んとか道路の端にあった縁石にタイ

んと、この頃のBMWのヘッドカバー

さぎ、応急修理は終了。富岡の街で

僕が乗っていたHPNは、篠原さんが

ヤを当てて持ち直し、事なきを得た。

は、180度上下を回転させて取り付け

修理材を買って昼飯を食おう、とい

ラリーモンゴリアで使った大柄なモ

その10分後に転倒してしまった。

られるそうなのだ。穴が空いたのは

うことにして再スタートした。

デルなのだが、これが見た目の巨体

 価格は正確には知らないが、300万

下側だから、それを上にもってくれ

 ヘッドカバーに穴を開けてしまっ

と裏腹にじつに軽快に走る。

円は下らない高級車だ。それを転倒

ばオイルの流出量は減るはず。なる

たのも悪かったが、もっとショック

 このサイズのバイクにもなれば、

させてしまって、篠原さんには本当

ほど!

なことには(たぶん貴重なものだろ

乗っているときにハンドルが遠く、

に申し訳ない。

 篠原さんがてぎわよくヘッドカ

う)ピカピカのヘッドライトカウル

バーを反転させながら、 「いや首大丈

も傷つき、割れていた。篠原さん、

夫ですか? 凄い角度で首が曲がっ

本当すみません……。

どうしても狭く滑りやすい道では おっかなびっくりな走りになってし

破損箇所と応急処理

てましたよ」と言う。

まうものだが、このHPNにはそうし

HPNならではの目的地

た巨体感が(乗っている限りは)ない。

 三橋が「ああ、 オイルが漏れている」

 三橋も「あ、こりゃ(旅が)終わっ

ちょっと大きなオフロードバイクに

と、黒く濡れた路面の先をたどって

たなと思った」と言う。後ろから見

乗っているような感覚なのだ。

いくと、左側のヘッドカバーが凹み、

ると、それくらい痛そうな転倒だっ

 旅の目的地は、なぎさドライブウェ

 それで、飛ばし過ぎた。転倒を喫

穴が空いているのが見えた。 あちゃー。

たそうだ。どこか折れてるんじゃな

イだった。富山県、能登半島の付け

する10分くらい前に、ワインディン

3人とも、ガムテープも、もちろんデ

いかってくらい。だけど、僕はわず

根にある千里浜(ちりはま)を走れ

グの下りでコーナーを曲がりきれず

ブコン(金属補修用の粘土のような

かに指先に痛みを感じるくらいで

る自動車道だ。

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この続きはFRM Vol.46でお楽しみください。

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Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition  

FRM Vol.46に掲載した「Rootless Wanderer」の特別編です。

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