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DPC時代の医薬品管理と 病院薬剤師の役割 産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室 教授 松田晋哉先生  日本版診断群分類(DPC:Diagnosis Procedure Combination)による包括評価がスタートし丸 3 年が経 過した。対象病院は当初の特定機能病院等 82 病院から 2006 年度診療報酬改定では 360 病院まで大幅に拡大 し、わが国の一般病床全体の約 2 割をDPC対象病床が占めるに至っている。病院の機能分化が進む中、いまやD PCは急性期病院にとっての条件のひとつとなりつつあると言えよう。一方で、DPCデータの公開も進んでいる。 DPCは医療の質を評価しうるわが国初めての共通の指標であり、患者が病院を選ぶうえでの判断材料となり、ま た、医療機関にとっては医療の質や病院経営改善のためのツールとなる。こうした状況において、薬剤師の果たす べき役割は何か。DPCの開発に携わった産業医科大学教授松田晋哉先生に、DPCが病院マネジメントに与え る影響と、病院薬剤師に求められる役割について伺った。

DPCは「病院マネジメント改革」をもたらす  DPCの拡大による病院経営への影響が各方面で論議を 呼び、効率化の観点からジェネリック医薬品の採用なども 話題に登っている。しかし、DPCの本質理解のためにま ず押さえておくべきことは、DPCは単なる支払いを対象 としたプロジェクトではなく、医療における臨床と経営両 面の質的改善が目的であるということである。  DPCという共通の指標を使うことによって、同じ単位 で医療施設間の比較すなわちベンチマーキングが可能にな ったことが最大のポイントである。DPCをどう活用するか、 これが今後の医療の質向上の鍵を握ると同時に、医療機関 の競争力を左右するといっても過言ではないだろう。  DPC対象病院拡大の一方で、DPCデータの公開も始ま っている。厚生労働省のホームページでは、DPC対象 360 病院について、実名で詳細データが公開されている※。  ここでは医療機関別にMDC別・疾患別・主な診療行為別・ 手術難易度別・診断群分類別などの件数を一覧することが できる。例えばA病院は 2005 年4カ月で「MDC 01」い わゆる神経系疾患の患者を何件診療し、その内手術した患 者が何件ということが、また、肺の悪性腫瘍の手術はどの 産業医科大学 医学部 公衆衛生学教室 教授



病院が実績が多いかという情報を患者が知ることができる

松田 晋哉先生

のである。

1985 年産業医科大学医学部卒業、1992 年フランス国立公衆衛生学校卒業。 産業医科大学公衆衛生学講師、助教授を経て 1999 年 3 月より現職。専門 領域は公衆衛生学(保健医療システム、医療経済、国際保健、産業保健) 。 著書に「DPC と病院マネジメント」「基礎から読み解く DPC 正しい理解 と実践のために」など多数。

者による医療機関の選択である。少なくとも急性期病院に

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 医療制度改革のポイントは、患者中心の医療すなわち患 関しては、DPCにより患者が病院を選択する際の参考資 料が、体系的に公開される仕組みができたということである。 ※ http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/04/s0427-3.html


資料1 診断群分類コード(version3※)の構成

10 0010 3 x 01 1 1 0 0 主要診断群 分類コード

重症度等 0.なし 1.あり

入院種別 手術・処置等1

年齢・体重・JCS条件 年齢が条件の場合  1 A歳未満  0 A歳以上 出生時体重  1 1,000g未満  2 1,500g未満  3 2,500g未満  4 2,500g以上 Japan Coma Scale  1 30以上  0 30未満

0,1,2

手術等サブ分類

副傷病名 0,1,2

手術・処置等2

01等 別添定義テーブルの手術番号 0,1,2 99  手術なし 98  手術あり 97  その他手術あり 96  関連手術あり X:該当する項目がない場合使用 ※:Version1は国立病院等10施設で最初に採用されたもの。   Version2は平成13年度調査で用いられたもの。

資料2 診療報酬の算定方法 診療報酬 = 包括評価部分 + 出来高部分 ●包括評価の範囲

・ ホスピタルフィー的要素  入院基本料、検査(内視鏡等の技術料を除く)、画像診断(選択的動脈造影  カテーテル手技を除く)、投薬、注射  1000 点未満の処置料、手術・麻酔の部で算定する薬剤・特定保険医療材料以外  の薬剤・材料料 等  手術前医学管理料及び手術後医学管理料については包括評価の対象となった

●出来高評価の範囲 ・ドクターフィー的要素  手術料、麻酔料、1000点以上の処置料、心臓カテーテル法による検査、内視鏡  検査、診断穿刺・検体採取、病理診断、病理学的検査診断、選択的動脈造影  カテーテル手技、指導管理料、リハビリテーション、精神科専門療法 等  画像診断管理加算は包括評価の対象外となった ・手術・麻酔の部で算定する薬剤・特定保険医療材料 2006年度診療報酬改定で包括範囲の見直しが行われた

データに基づく評価方法の確立が先決

約8割をカバーしている。このデータを用いれば、全国デ ータと比較した自施設のレジメンの評価やエビデンスに基

 一方、医療提供側にとっては、データが公開されること

づく化学療法の再検討が可能になる。このように比較検討

により、患者への説明責任がこれまで以上に重要性を増す。

による標準化や改善への取り組み、自施設の位置づけ把

同時に、病院経営改善と医療の質向上のための指標として

握と方向性決定への意思決定支援がDPC本来の役割である。

DPCデータの分析と活用が求められる。

 一部では、経営の効率化や収入増加のためのテクニック

 DPC対象病院が提出する様式1(診療録情報) 、EFフ

のひとつとして、病院の調整係数 を上げるために今年は

ァイル(点数表による出来高情報)などのDPCデータは、

高い薬を使い、来年からジェネリックに変えればいいとい

患者別の主傷病名 (ICD-10) や手術術式などの診療情報、レ

う話も聞こえてくる。しかし、これは明らかに誤った行為

セプトとの整合性を持つ診療行為明細情報など非常に細か

である。今はコスト削減をどうするかというようなテクニ

いデータ集計単位を持つ。

ックに走るのではなく、「いい医療をきちんとやる」こと

 例えば、DPCでは使用薬剤の組み合わせをデータから

が大前提であり、そのためにもデータに基づいた評価を徹

見ることができる。主要ながん 30 種類について、2003 年

底することが最重要課題といえる。

の化学療法レジメン使用状況を見てみると、肺がんの例で は全国で 263 のレジメンがあり、そのうち 32 のレジメンで

資料3 包括評価が医薬品使用に及ぼす影響

※調整係数:医療機関の前年実績を担保するため、医療機関ごとに設定。 2010 年までで急性期としての機能を評価した「機能評価係数」に一本化さ れる方向。

手術関連薬剤 使用量↑

外科センター化

急性期病院の 機能強化

オンコロジー センター化

CP による 標準化 臨床研究↑

がん関連薬剤 使用量↑

検査センター化 コスト意識↑

採用薬剤の 削減 治療の標準化

急性期病院の 機能強化

費用効果性の 検討

後発品利用↑

救急関連薬剤 使用量↑

採用薬剤の 標準化

救急部門強化 入外比率↑

包括 評価

専門外来化による 紹介患者↑ 外来での 長期処方↑

情報透明化 質への関心↑

説明責任

診療 ガイドライン

特定部門における 急性期施設の外来薬剤 市場の支配力↑

医薬品使用の安全管理の重要性↑ 妥当性の検証

医薬品が医療の質に 与える影響に関する 情報の必要性

リスク マネジメント

医療の質とコスト からみた 医薬品D・Bの 必要性

EBM 推進

産学(官)連携による 透明性及び質の高い 臨床研究体制の確立

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DPC拡大と医薬品使用への影響  DPCによる医薬品使用への波及効果を図にまとめた(前 頁資料 3) 。DPCは急性期病院の機能分化・機能強化を促 進し、外科センター化、オンコロジーセンター化、検査セ ンター化などが進む。外科センター化は手術関連薬剤の使 用量増加に、オンコロジーセンター化はがん関連薬剤使用 量増加に結びつく。専門分化により治療の標準化が進むと 同時に、使用薬剤の標準化、薬剤の費用効果性の検討が必 要となる。その結果、採用薬剤の絞り込みと削減が確実に 進む。実は現在、多くの病院で取り組まれているのは、ジ ェネリック採用よりも採用薬剤削減の方なのである。   採用薬剤の削減、ジェネリックへの転換など医薬品の適 正使用に取り組み、経済的な効果を上げている病院には一 つの条件があることに気付く。それは薬剤部門がしっかり していることである。薬剤部門が医薬品の選択に関しエビ デンスを持ち、しっかりした議論の場を設定している病院 では効果を上げているが、逆に、各診療科の医師の意見が 非常に強く、エビデンスや明確な根拠なしに薬剤使用が決 定してしまう病院では、なかなか採用薬剤の削減やジェネ リックの使用は進まないのが現状である。  ジェネリック使用がどの程度経済的に効果があるのか、 どの程度まで拡大するのか、そしてそれが医療の質にどの ような影響を与えるのかということは大きなポイントとなる。 また、ジェネリックの使用が拡大する一方で、在院日数の 短縮、副作用の低減、合併症の予防などを期待できる優れ た先発薬であれば、今後も継続的に処方されるだろう。  DPC導入病院における医薬品使用に関する 2 0 0 4 年度 の調査結果(資料 4)によると、内服薬においては半数以上 の病院で何らかの見直しが行われている。最も多い見直し

策は「内服薬の数の絞り込み」であり「中止可能な薬の中止」 を合わせると約 32%に登る。 「後発品を導入」したのは約1 割、 「処方日数を短縮」したのが約6%である。注射薬に関 しても同様に絞り込みと中止の比率が高い。 

医薬品適正使用のキーパーソンは誰か  採用薬剤の変更については、ほとんどの病院が院内に採 用検討委員会を設置しており、薬剤師、各科診療科医師、 事務スタッフが議論を重ね、そこで決定している。ある病 院では、術中・術後の抗生物質の使用が医師によりばらば らであったが、DPCにより使用薬剤の種類や使用回数が データで示されたことにより、適正使用量などを委員会で 決定し、院内の標準化が図られたとの例がある。現在、こ うした取り組みが全国の病院で進められているのである。  ジェネリック使用拡大の条件は、安定供給、情報収集・ 提供体制、品質保証、先発品と同等の治療効果である。では、 その判断を誰がするのか。日本の医学教育で一番欠けてい るのが臨床薬理学の教育である。新人の医師は先輩医師が 使っている薬をそのまま真似してブランド名で覚えていく というのがほとんどで、薬剤の適正使用推進は難しい状況 である。その意味からも、今後、院内での医薬品採用や適 正使用のキーパーソンとして、病院薬剤師の役割は非常に 大きい。特に研修医を対象とした処方支援は、病院薬剤師 の大きな仕事になってくるだろう。

DPC時代の病院薬剤師の役割

 DPC時代の病院薬剤師の役割として、今後は調剤業務 に加えて「プラスアルファ」の機能が要求される。中でも副 作用回避(プレアボイド)は非常に重要となる。 DPCでは術後の合併症などで確率的に起こ 資料4 DPC導入病院における り得るものは副傷病として評価しているが、 医薬品使用内容の変化(内服薬) 薬の服用による副作用は基本的に評価されない。 平成 16 年度調査 40 44 0(0.0%) 副作用は病院にとって経済的にマイナスであ (1.2%) (2.9%) 23(1.6%) 100% 19(1.3%) 13(3.8%) 3(0.9%) 171 内服その他 71 65(4.5%) 4(1.2%) (5.1%) る以上に、患者にとって療養の質が損なわれ (4.6%) 9(2.7%) 27(1.9%) 3(0.9%) 外来長期処方化 90% 363 155 57(4.0%) (10.9%) (10.1%) ることになる。 内服後発品 110 (7.7%) 194 72(4.7%) 80%  アメリカの例では、薬剤師が医師とともに回 (5.8%) 処方日数短縮 129 (8.4%) 診するICUでは薬物有害事象が少ないとの 542 70% (16.2%) 中止可能薬中止 130 (8.5%) データが出ている(Leape LL,et al:JAMA 60% 282(3) 267-270,1999)。このような積極的な役 内服数絞込み 539 (16.2%) 50% 割を担う薬剤師のいる病院と、そうでない病 306 (90.5%) 院では、明らかに差が出てくるだろう。 40% 内服変化無し 1132 930  感染制御についても同様である。院内感染 30% (79.0%) (60.7%) 1488 対策はDPCの包括評価の中で非常に大事に (44,6%) 20% なってくる。消毒薬・抗菌薬の適正使用や医 10% 療スタッフへの情報提供など、感染制御の面 で薬剤師が果たすべき役割は大きい。また、 0% DPC 病院 DPC 試行的適用病院 DPC 調査協力病院 DPC 新規調査協力病院 栄養サポートチーム (Nutrition Support Team:

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DPC時代の医薬品管理と病院薬剤師の役割

資料5 DPC導入病院における

資料6 DPCに基づいた臨床経済的分析例

後発品採用の経時的変化 DPC病院(品目数)

DPC病院(金額)

DPC試行的適用病院(品目数)

DPC試行的適用病院(金額)

DPC調査協力病院(品目数)

DPC調査協力病院(金額)

100.0

在院日数の分布

在院日数の分布 A病院

B病院

B病院

医療費の分布

6.0%

90.0 5.0%

80.0

医療費の構造分布

70.0

医療費の構造分布

4.0%

60.0

金 額 ︵ 割 2.0% 合 ︶

品 50.0 目 数 40.0

3.0%

30.0 20.0

1.0%

10.0 0.0

医療費の分布

A病院

14 年 7ー 9 月 14 年 10ー 12 月 15 年 1ー 3 月 15 年 4ー 6 月 15 年 7ー 9 月 15 年 10ー 12 月 16 年 1ー 3 月 16 年 4ー 6 月

0.0%

NST ) における薬剤師の役割も重視している。栄養管理 はすべての治療法の基盤であり、栄養不良ではいかなる治 療も無効となる。NSTにより患者の栄養状態が良くなり、 感染症や褥瘡が少なくなること、カテーテル���血症の発生 率減少などで平均在院日数が短縮するなど、さまざまな面 から病院経営的にもNST導入の経済効果があることが報 告されている。  手術や薬物治療といった医療のコアの部分の議論も大切 だが、患者にとっての療養の質という部分を、医療を提供 する側は中心に置いて考えるべきである。そして、こうし たコメディカルが積極的に関与すべきプラスアルファの部 分において、これから薬剤師が果たすべき役割は非常に大 きいということをぜひ認識していただきたい。

求められる薬剤経済学的分析  DPC時代の薬剤師にとって薬剤経済学的分析への取り 組みは不可欠である。例えば 2 種類の薬剤のうち一方は高 価であるが、その薬剤の使用が在院日数の短縮化につなが れば、経済的効果からその薬剤を選択するべきとの判断が できる。あるいは在院日数に差がない場合はコストの低い 薬剤に変更可能であるなど(資料 6) 、こうした分析データ を日常業務の中で作れるかどうか、これは病院薬剤師に課 せられた一つの機能である。新規薬剤使用による手術、処置、 基本診療料、在院日数などへの影響など、データに基づく 分析を薬剤師が中心になって行えるかどうかが今後の大き なポイントである。  日本はアメリカに次いで2番目の医薬品消費国ながら、 これまで日本発の大規模市販後臨床研究はほとんど報告さ れていない。その理由は多施設のデータを集める仕組みが なかったからである。ところがDPCによって、少なくと も 2006 年度はDPC対象病院とDPC準備病院を合わせた 735 の施設から同じ枠組みでデータが出される。例えば肺

医療材料

医療材料

検査

検査

画像診断

画像診断 薬剤

薬剤

A病院

B病院

画期的有効性のある医薬品の使用により、 検査費用や医療材料の費用が抑制されて いることが推測できる。この場合、高額の 医薬品使用は費用効果的であると判断される

A病院

B病院

A病院と比較すると、 B病院では医薬品の使い方で 改善すべき点があることが推測できる。 また、このような分析枠組みを設定することで、 ブランド薬とジェネリックとの比較が可能になる。 →Evidenceに基づいて医薬品の選択を行う体制の確立

がんの化学療法の症例について、薬の種類、使用量、初発 か再発か、病理データまで、すべての情報が入ったデータ が提出される。このDPCデータから大規模臨床研究がで きる時代が来たということである。こうした臨床研究に病 院薬剤師が積極的に関わっていただきたい。それを通して 薬剤師としてより臨床に基づく薬剤の評価を行うことが可 能になると期待している。

専門性発揮と付加価値の創造  医療に参画するものとして、自分たちの顧客が誰なのか を意識することが必要である。それは患者であり、あるい は医師であることもある。薬剤師を取り巻くさまざまな顧 客が薬剤師に何を期待しているのか、顧客に対しどのよう な付加価値がつけられるのか、病院全体のサービスに対し て薬剤部としてどのような付加価値がつけられるのか、広 い視点で医療に取り組む時期にきている。  ひとつの例として在庫管理があげられる。病院の在庫管 理コストに占める比率で最も大きいのは薬剤である。それ を管理する部門として薬剤部は、経営的改善のためのさま ざまな提言ができるはずである。そうした「プラスアルファ」 を生み出すことを薬剤師の業務の一環として取り組んでほ しい。薬剤相談など患者に対する直接サービスもこれから ますます重要になるだろう。  DPCにおいて薬剤の適正使用は薬剤師の中心的な仕事 になり、それを通して医療の質に対する貢献が求められる。 処方支援、プレアボイド、NST、いずれも薬剤師が医療 の質に対して貢献できる部分であり、今後、外部に向けて その効果や必要性をアピールすることも重要である。さらに、 医薬品選択の臨床経済学的な評価や院内物流を含めたコス ト管理など、経営面における貢献は今後の薬剤師の課題と なろう。専門性発揮と付加価値の創造、それこそがDPC 時代の病院薬剤師に求められる役割なのである。

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