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美 味彩麗紀行 ソムリエ、石田通也の信州 「美「 」食「 」人」巡り vol.07

ソムリエ:石田 通也

私にはまだ抵抗があります。ある意味「拘り」と言う言葉に拘っ

1970年生まれ。フリーのシニアソムリエ。ソムリエとして数々の

ているかも知れません ( 笑 )

コンクールに入賞。 ドイツワインケナー、利き酒師、 ビアテイスター、

プラスかマイナスかと言った意味合いの事を抜きにして、私

としても活躍中。現在NHK文化センターのワイン講座講師を勤め る傍ら、お酒を通じた食文化の普及啓発活動を行っている。

食を取り巻く言葉 ∼こだわり∼

は仕事上では拘りは持たないようにしております。理由は幾つ かあり、これはどの仕事でも同じだと思うのですが、まず仕事 上少しでも高見を目指し完成度を高くして行きたいと思っている からです。一つの事に固執し拘るのでは無く、少しでも完成度

我々の普段接している「食」は数多くの文化に基づいており、

の高い良い方法があれば柔軟に受け入れ変化させて行きたい

そのスタイルも様々で、それを表現する言葉も無数にありま

からなのです。もう一つの理由としてサーヴィス業であるソムリ

す。我々ソムリエにもテイスティング用語と言う、ある種の共

エの相手は人間であり、常に変化する飲食物だからです。一つ

通のワードが御座います。そんな食を取り巻く言葉の中でちょっ

のやり方や知識に拘っていると、常に変化する味わいや、お客

と気になる言葉が一つあるのです。以前から使われてはいた

様に臨機応変に対応出来なくなってしまうからです。極端な事

のですが、ここ十数年でテレビや雑誌などのメディア関係や飲

を申し上げれば、 同じお客様でも昨日と今日では違いますし、 もっ

食業界で多様されるようになり、特に近年では日本中で当たり

と言えばさっきと今でも違う場合があります。一つのやり方に執

前の様に使われるようになった言葉‥それは「こだわり」です。

着していては、とても適切なサーヴィスなど不可能ですし、逆

お店の拘り、料理人の拘り、食材・産地への拘り、拘りのメ

にどのお客様にも全く同じ事の繰り返しではまるでロボットの様

ニュー・調理法・サーヴィス・インテリア・食器等々…ありと

です。料理もそうですが、常に変化する相手 ( 食材 ) に対し柔

あらゆる所で使用されており、拘っている事が良くて拘りが無

軟に対応出来るところが人間の優れたところです。常に一定で

い事は良くないかの様に言われており、私も「ソムリエの拘り

あるためにはこちらは常に変化し続けなくてはならないのです。

は…」と聞かれる事も度々あるのですが少しひっかかるのです。 元来「拘る」と言う言葉にはマイナスの要素が多く「( 何かに ) 囚われる・執着する」とか「融通がきかない」 「固執する」 「意

しかしこの仕事も 20 年もやっておりますと、中々新たに完 成度の高い方法や知識、技術などは見付かりません。結果、 伝統的な事、諸先輩から教わって来た事、経験上造り上げて

固地になる」などと言う意味合いを持ち、あまり良い意味では

来た事の繰り返しになります。それが「拘りですか」と聞かれ

ありませんでした。それがいつ頃からか何かに対して別格視す

るのですが特に拘っている訳では無く「それが今一番良いと思

るような意味合いで使われるようになったのです。文化庁の調

う」からやっているわけで、それ以上の方法があれば直ぐに柔

べでは高年齢層の方はこの言葉に対してあまり良い印象が無い

軟変化させて行きたいと思っています。温故知新と言う言葉が

方が多く、若年層は逆に良い意味に捉えている方が多いと言う

ありますが私は大好きで、先人が温めてきた良い方法は有り

統計がでたそうです。現在では公然と良い意味も含むかのよう

難く遣わせて頂き、更なる進化をするために努力をしていきた

に乱用されておりますが、意味を改定したと言う事実は無く、

いと思っています。しかし現実はそう甘くは無く、先人が永い

日本語は正しく使った方が良いとも思いますが、この言葉に代

年月をかけて築いてきた伝統に基づいたものは完成度が高く、

わる適切な日本語が無い事も事実なのです。 「拘り」で伝えた

そう簡単には新たな方法などはみつからないのです。だから

いニュアンスとしては「哲学」とか「信念」 「誇り」の様な意味

ゴールが無く面白いとも言えます。余談ですが、拘りが適切で

として使いたいのだとは思うのですがこれだと堅く重過ぎます。

良い意味に伺える遣われ方もあります。例えば食材などで、それ

かなり以前になりますが、ある雑誌の編集長と食にまつわる言

以上の美味しい物があっても「私は地元の食材に拘る」とか、 もっ

葉の事で議論した事があるのですが、やはり食に対する「拘り」

と良い調理法があっても「ご先祖からの技法に拘る」などです。

と言う言葉には少なからず違和感を抱いており、当たり前の様

これは留まる勇気として賞賛に値する事だと思いますし適切な拘

に乱用されている事に対して危惧されておりました。しかし新

りの遣われ方では無いでしょうか。良くも悪くも現段階では「こ

たな適切な言葉はなかなか見付からず、お互い一つの課題に

だわり持つ」 = 「信念を貫く」と言う意味合いにまでは至ってお

しておりました。言葉は常に進化するもの…「拘り」はこれか

りません。食に形容されるにはまだまだ不適切なケースが多い

ら新しい良い意味合いも包括した言葉になって行く事と思いま

ような気が致します。そんな私も仕事上一つだけ拘っている事

すが、良いか悪いかは別として現段階では適切では無いので

があります。それは「拘りを持たないようにする事」です。 18

isida  

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