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ラムダ演算子λ Keith Allan, Natural Language Semantics, Blackwell, 2001; §7.6

存在/普遍量化子の∃・∀は,外延をもつどんな変項であれ,それを束縛する. ラムダ演算子 λ は別名ラムダ抽象化または集合演算子ともいい,チャーチ (1941) が数理論理学に導入した.λ は個体ではなく集合を操作する.その帰結として,λ は述語を束縛する.つまり,その作用域内にある下位論理式が特定する特性を有 している存在者の集合を束縛するのだ.λ は標準述語論理計算の演算子とはちが う;λ は,タイプ理論を使うモデル理論的意味論にとっての礎だ (Church

1940).

本書はタイプ理論の形式論を採用しないけれど,このセクションではタイプ理論 で定義可能な特定の関数タイプを用いる.後述するように,ラムダ演算子を使う と意味分析用のメタ言語の説明価値が向上する.ラムダ演算子によってメタ言語 は標準述語論理の言語 LP からさらに拡張されてヨリ自然言語の統語論に近似 するようになるからだ. 下記 69 の開放式は自由変項 x を含む命題関数だ;cf. 前記 18-19. 69 bald’(x) bald この 69 は 70 のラムダ表現に翻訳できる.ここにある λx はその作用域(カッ コで示してある) の内部にある変項 x を束縛している.

70 λx[bald bald’(x)] bald ただし,70 は文じゃあない.ラムダ表現 λx[bald bald’(x)] は「ハゲであるような x の bald 集合」または「ハゲであるような x であるという特性」または「x の有するハ ゲであるという特性」と読み下す.言いかえると,λx[bald bald’(x)] は抽象的集合 {x: bald bald’(x)} にひとしい.だから,70 は述語 bald’ bald bald と同じタイプの表現なんだ.も っと一般的に言うなら,こうなる:

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定 義 7.19 λxΦ は 論 理 式 Φ に 自 由 変 項 x を 含 む も の で あ り , 1 項 述 語 Pred1 の関数タイプにひとしい.したがって,それは文ではなく関数名── 存在者 (x) から真理値 (Φ) への関数 λ である(ただし特定の条件が満たされ ているものとする).

文になるには,この関数が項に適用されねばならない.でもどうやって? 下記の英文 71 を LP の 72 に翻訳するとしよう: 71 Jack is tall and bald. ⇒ 72 Tj∧Bj (簡便のため,ここでは大文字で述語名をあらわす.だから 72 の ‘B’ は ‘is bald’ の 記号化なわけだ.) 72 はジャックが背の高いモノの集合の成員であり,しかもハ

ゲであるモノの集合の成員でもあることを正確にあらわしている.しかし,72 は ジャックが両者の重複集合 ──背が高くハゲであるモノの集合 ──の成員である ことはハッキリとあらわしていない.72 の特性は,73 のように λ 表現を使うと 捉えられる. 73 λx[Tx∧Bx]



「背が高く・かつ・ハゲであるという特性」または「背 が高く・かつ・ハゲであるような個体の集合」

上記 73 は文ではなく,まだ 71 の翻訳になっていない.項を得て文となり真理 値を返そうとしているところなんだ.この必要をみたすには,74 のように,73 を 定項 j に適用してやればいい.74 は 75 に翻訳される. 74 λx[Tx∧Bx](j)

〔※定項 j に関数を適用〕

75 j ∈ {x: Tx∧Bx} 74 は文なので,真理値を返す.74 は変項 x を 定項 j に置き換えると LP の 標準的な論理式すなわち 72 に変換される. オカーレンス

定義 7.20 λ が束縛する変項のすべての 出現 について,これをラムダ変換は ラムダの作用域の直後に続くカッコに与えられた項に置き換える.そのとき 後者はラムダ演算子・その束縛変項・無用のカッコとともに削除される (76 では削除を λx[](j) と表記している).

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76

λx[Tx∧Bx](j)

→ [j/x]

λx[Tx∧Bx](j) → Tj∧Bj

置換

削除

出力

76 の ‘[j/x]’ は「変項 x を定項 j に置き換えよ」をあらわしている.73-74 を 経て 71 から 72 にいたるとき,意味分析にある重要な情報が付け加えられる; これはヨーク公の無駄足なんかじゃないんだ (「偉大なる老ヨーク公/一万の手勢 をもって/丘の頂上に行軍し/それからまた丘をくだったとさ」).

ラムダ表現の説明価値を示すさらなる証拠は,能動‐受動ペアの議論から得ら れる.能動‐受動ペアは真理関数的に同義なので,77 のように LP では同じよ うに翻訳される (cf. 4 & 8). 76 (a) Frank admires Harry ⇒ Afh

(b) Harry is admired by Frank

英語における能動文‐受動文の表層構造のちがい(談話によってもたらされるもの で,ここでは論じられない) は LP に直接翻訳すると失われてしまう.翻訳にλ 

演算子を使うと,事態は改善する.その場合,admire admire’ admire は 2 項述語 Pred2 のタ イプなので,2 つの変項はそれぞれ別箇にλ演算子により束縛される.私たちが 使う下位論理式の表記はおよそ下記のとおりだ 77 λy[λx[Axy]

「x が y に感嘆しているという特性」

78 λx[λy[Axy]

「y が x に感嘆されているという特性」

置換はヨリ広い作用域からヨリ狭い作用域へとすすむ.つまり,左から右にすす むわけだ.最左端のλ束縛変項は最左端の定項とむすびつく.77 (a)’

λyλx [Axy] (h) (f)

→ [h/y]

λx[Axy](f)

置換

77 (b)’

λxλy [Axy] (f) (h)

→ [f/x] 置換

→ [f/x]

Afh

Afh

置換

λy[Axy] (h)

→ [h/y] 置換

Afh にいたる経路のちがいは明白だ.表層主語が置換される最後の項となってい 3


る仕方に注意 (いちばん内側のλ束縛変項,ラムダの作用域に後続するいちばん外 側の定項).中間地点の下位論理式はいずれも Pred1 のタイプだが,まとめると

こうなる: 77 (a)’’

λx[Axh]

「ハリーが誰か (=x) に賞賛されているという特性」 もしくは「ハリーがその人によって賞賛されている個 体の集合」

このように λx[Axh] = {x: x admires Harry} であり,これは Pred1 タイプの表 現で次の文タイプとはちがう:λx[Axh](f) = f∈{x: x admires harry} 77 (b)’’

λy[Afy]

「フランクが誰か (=y) を賞賛しているという特性」 もしくは「フランクが賞賛している/フランクに賞賛 されている個体の集合」

これの Pred1 タイプの表現は λy[Afy] = {y: y is admired by Frank}で,文タイプ の表現は λy[Afy] = h∈{y: y is admired by Frank} だ.いかにして 2 項述語 admire’ が分解されて Pred1 タイプの表現の対になっているかに注 Pred2 の admire’ 意;これはタイプ理論に特徴的だ.分解したものをツリー 77(a)’ に示す. 㐈ٌ

77(a)’

λyλx[Axy](h)(f)

真理値

λyλx[Axy](h)⌒f

Pred1 タイプ

λyλx[Axy]⌒h λy⌒λx[Axy]

Pred2 タイプ λy λx

(f)

(h)

真理値 Pred1 タイプ

Ay⌒x A⌒y

Pred1 タイプ

λx⌒Axy

Pred2 タイプ

A

y

x

λ演算子は普遍・存在量化子とも共起できる.たとえば,80 は 81 に翻訳さ れ (ややこしいところはムシする),81 は 82 に変換される.

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80 Tom ate a sausage Angeline cooked ⇒ 81 ∃x[λy[Sy∧Czy](x) ∧ Etx] 81’ ∃x[λy[Sy∧Czy](x) ∧ Etx][1] 82 ∃x[Sy∧Czy∧Etx] 下位論理式をまとめるとこうなる: 83 Pred1 タイプ: λy[Sy∧Cay]

「アンジェリンのつくったソーセージ であるという特性」または「アンジ ェリンのつくったソーセージである ような個体の集合」

84 文タイプ:

「x にはアンジェリンのつくったソー

λy[Sy∧Cay](x)

セージであるという特性がある」ま たは「x∈{y: y はアンジェリンのつ くったソーセージである}」 存在量化子は x を束縛するから,∃x[Sx∧Cay∧Etx] は翻訳すると「アンジェ 㐈ٌ リンのつくったソーセージであり・かつ・トムがそれを食べたものであるという

特性をもつ x が少なくともひとつ存在する」となる.ここでもλ演算子がもた らす英語文の意味合成のしかたは,標準的 LP のメタ言語に可能なそれと比べて 英語の表層構造にヨリ近い. λは項変項とおなじく述語変項をも束縛できる. 定義 7.21 λPΦ は述語 (P) から真理値 (Φ) への関数 (λ) である (ただし 特定の条件が満たされているものとする).

たとえば,文 λP[∃x[Px]](B) には 85 のような構造がある.

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81’ は訳者による補足.

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85

λP[∃x[Px]](B)

真理値

λP[∃x[Px]]⌒B

λPΦ

λP⌒∃x[Px]

述語

λP

∃x⌒Px

Φ

(B) Φ

∃x

P⌒x

述語

P

x

この λP[∃x[Px]] が意味するのは「P は少なくともひとつの個体について真であ るような特性である」または「P は少なくともひとつの個体を含む集合の集合で ある」ということだ.述語 B に適用されることで 85 は∃xBx に変換される.「ジ ャックはハゲだ」は 86 と 87 のどちらからでも導出できる.示してあるように 強調点に微妙なちがいがある.

86 λPλx{Px}(B)(j)

= 「ジャックは,ハゲであるようなモノの集合の成 員である」

ツリー86

λP[λx[Px]](B)(j)



真理値

λP[λx[Px]](B)⌒j

Pred1 タイプ

λP[λx[Px]]⌒B λP⌒λx[Px]

λPΦ λP

λx⌒Px

述語 Pred1 タイプ

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(B) Φ

λx

P⌒x

述語

P

x

(j)


87 λxλP[Px](j) (B)

= 「ハゲであることは,ジャックについて述定しう る特性の集合のひとつである」

ツリー87

λP[λx[Px]](j)(B)

真理値

λP[λx[Px]](j)⌒B

λPΦ

λx[λP[Px]]⌒j λx⌒λP[Px]

述語

Pred1 タイプ λx

λP⌒Px

項 λPΦ

(j) Φ

λP

P⌒x

(B)

述語

P

x

λ 演算子は,LP に直接翻訳するのよりももっと自然言語の構造に近似するよ うに自然言語の表現の意味論を表示する手段を提供してくれる.本書では,λ 演 算子を使うのは,重複集合の成員であるかどうかを同定するためである場合が大 半だ. 㐈ٌ

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翻訳・キース・アレン「ラムダ抽象化」(ラムダ抽出)  

キース・アレン『自然言語の意味論』(2001) より,「ラムダ抽象化」(またはラムダ抽出)のセクションを訳出しました. (excerpt from Keith Allan's (2001) Natural Language Semantics)

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