タワーマンショントリエンナーレ「都市の生活_友達の家」

Page 1

1


茶室 北川貴好の言葉 北川和夫コレクション Shuhei Naya 大洲 大作

2


三井呉服店の引札 北川和夫コレクション チラシの原型である引札は、日本ではじめて三井呉服店(三越百貨店)で作られた。 開催地のタワーマンションは、三越百貨店の跡地に建てられた。この引札には、タワー マンションの住所高麗橋の記述も書かれている。

3


Conception 1,2,3 Shuhei Naya シンセサイザーを使ったノイズ演奏。 2015

タワーマンション内の茶室を電子ノイズで埋め尽くすことにより、 人工的な環境における自然美を再考します。

4


光のシークエンス - 総武本線 大洲 大作 Lambda Print 234 x 177 mm 2014

ありふれた車窓に、うつろう光を追って、 旅へ、また日常へ。 まなざしを頼りに、眼には見えない光景 をうつし出す、近く遠い場所へ。 列車などの「車窓」にうつろい滲む、 人の営みをうつす風景に、さまざまな 「光」を求める作品《光のシークエンス》 。 今回は、展覧会テーマから「都市の生活」 をうつすものを中心に出品。

光のシークエンス - 山手線 大洲 大作 Lambda Print 235 x 175mm 2014 5


AV ROOM 北川貴好

タワーマンションドローイング01「東京のとしまアートステーション Z から大阪のタワマンの実家まで、雨の日に外に出ないでいく。 」

北川貴好 2015 映像 6


集会所 村岡亮 ボン靖二 真野 綾子

7


ヴィマナ(模型) 村岡 亮 2005 宇宙船型 DJ ブースの模型。 実作品(H250 × W200 × D200cm)完成時、國府さんは本気で浮かそうと様々な案を出し てくださいました。 今回はその模型に國府さんの代名詞のひとつであるプロペラをつけて、その意思を表しまし た。 8


オクトパスガーデン ボン靖二 2015 9


drawing 2010-2014 真野 綾子 2010 〜 2014 紙、 ア ク リ ル、 パ ス テ ル、 鉛 筆、 コンテ、墨、油 650 × 500mm ほか

10


ラウンジ mizutama 倉科直弘 ボン靖二

11


タワーズマンション 01 mizutama 業務用スーパーマーケットで安売り している缶詰はタワーマンションの 様に高く積み上げて陳列しています。 タワーマンションの 29 階からの景 色は缶詰を積み上げて陳列している 業務用スーパーマーケットのようだ。 12


はなむけの言葉 ボン靖二 2015 13


朝が来る前に 倉科直弘 写真インスタレーション 白い封筒を届けてください。切手の代わりにお気に入りの塗り絵を貼りました。 ハズレ車券も貼っておきます。 どうか海に落ちませんように

14


タワーマンション内の品格を重んじた空間に存在する音をサンプリングして再構成した品格を 重んじたパフォーマンス。 mizutama 2015

15


星 #014( フィラメント ) 村岡 亮 2014 発泡スチロール、プラスチック、木、竹ひご、アクリル塗料、ブラックライト、他 サイズ可変 作家蔵 電球が発明された時代を電力の歴史の黎明期と捉え、 フィラメントとしてエジソンが使用した竹ひごをブラックライトで発光させた。 また宇宙空間では暗黒物質で宇宙の網をつくる大規模構造を「フィラメント構造」という。

16


ゲストルーム 大洲大作 ボン靖二 真野綾子 吉原啓太

17


光のシークエンス - 石勝線 大洲 大作 Lambda Print 334 x 444 mm 2013 18


宇宙のおにぎり ボン靖二 2015 19


テレフォンナンバー 吉原啓太 インスタレーション 吉原の携帯電話の番号は 090-9882-5477。まず吉原は、この携帯電話番号に 1 を足した番号、つまり 090-9882-5478 に電話をかけた。次に、さらに 1 を足した番号、さらに 1 を足した番号とどんどん電話をか けていった。かけた電話番号によっては、電話に出ない番号、使われていない番号があった。 実際に電話 に出た人には、“ この番号はよしはらさんの番号だと聞いたのですが、よしはらさんです か ?” と尋ねた。 20


drawing 2010-2014 真野 綾子 2010 〜 2014 紙、アクリル、パステル、鉛筆、コンテ、墨、油 650 × 500mm ほか

21


低周波治療器の電気信号を音声信号に変換した ライブパフォーマンス。 吉原啓太 22


37 階 北川家

23


2014年7月5日から2015年7月5日までのスマホで撮った写真を全部見る。 北川貴好 映像+パフォーマンス 24


「未知のケガレに常に恐怖せよ」Shuhei Naya

他者や物から感じる手触り、というのは、人間を含めた生き物が本来的に持ってい る機能を働かせるために、極めて重要な役割を持っている気がします。多くの優れた 芸術作品も、手触りを感じさせる要素 ( 質感 ) を持っていて、注意深く観察すると、 視聴覚を介して、触覚が起動するのを感じることができます。

タワーマンションには草間彌生や杉本博司の作品が飾られていたり、レベル別セキュ リティカードがないとエレベーターにも乗れなかったりと、色々凄かったです。屋内

しかし、トネリコの造木は、注意深く観察すればプラスチックでしかなく、触った

ラウンジにトネリコが植えてあって、こんな伸び放題な木、屋内に植えて大丈夫か?

感触も、紛うことなき樹脂製品のそれであって、人間の知覚が持つ解像度に耐えられ

と思ったら、精密な造木だったので大変驚き、少し引きました。

るものでは決してありません。この木は、人間が対象を細かく観察することを否定し ます。そして、注意深い観察から産まれる知覚の喜びと引き換えに、生命体ではあり

木フェチな自分にとって、この人工の木というやつは、たいへん奇妙な感じがします。

えない清潔さを持っています。

植物の魅力は?と聞かれれば、私は、なによりもまずそれが生命体であること、を理 由に挙げます。

「観察するな」と「清潔であれ」 。

人間である自分とはかけ離れた、シンプルで強固な生態を持った生き物が、すぐそ

この二つのメッセージが合わさった時に発生する命令は「未知のケガレに常に恐怖

ばにしれっと存在している、というところに驚きを感じるわけで、それを精密に模し

せよ」です。そして、ケガレが他者や他の生命体といった、いわば外の世界そのもの

た造木が、心を癒すことを期待されて屋内に植えられて?いる。それはまるで、生命

から発生することから、命令はこう言い換えることができます。

体が必然的に持つ不潔さを、拒絶するかのようでした。 「世界を見ず、ただ恐れよ。 」と。 インドを旅行した知人の話によると、インドは物質的に豊かな国ではないけど、イ ンド人は頻繁に肌を触れ合わせる習慣を持っていて、それによって心が満たされるの

マンション内には、本当に夥しい数の美術作品が飾られていましたが、プラスチッ

で、先進国的な豊かさはむしろ余計なものに思えるそうです。また私自身も京都の町

クの木に自然を感じられるほど観察眼が衰えていて、生命の持つ不潔さを徹底的に排

屋に住んでいた時、暑さ寒さといった環境は最悪だったにもかかわらず、古い木造建

除するほどに、外界を恐れている、そんな状態で、芸術作品を鑑賞することは恐らく

築の持つ肌合いや雰囲気に救われて、決して悪い気分にはならなかった、という経験

不可能でしょう。飾られていた作品たちは一流の品ばかりでしたが、そのどれもが輝

があります。

きを失い、ただの資産としてそこに存在しているかのように見えました。

25


だからこそ、我々が作品を展示した時に起きた不思議な相乗効果を説明することが 出来ると思います。自分や、他の参加者が、確かに手を動かして作った作品を観るとき、 感覚の麻痺は解除され、マンション内に飾られている作品も、本来の美術作品として の機能を取り戻します。 そして、それを呼び起こした参加者の作品にも、フィードバックが返るのです。 人間が本来持っている観察眼が呼び覚まされる。 美術館を出たときにこんな経験をされた方は多いと思いますが、それをまざまざと感 じさせてくれた、という意味では、非常に面白い展示だったと思います。 2015 年 7 月 7 日 Shuhei Naya

26


「人間とケミカル」吉原啓太

発生させる、低周波マッサージ機を利用したライブ演奏パフォーマンスを行った。 1000 人以上の人間が効率的に快適に生活するための、居住する区画とその中にあ る共有レクリエーション施設。この場所を見ていると、都市に暮らす私たちの取り囲

ある日、友人でもあるアーティストの北川さんから電話がかかってきた。その電話

む空間、食料品、衣料品、光、情報などその全てが、人為的に生み出されたり調整さ

の内容は、タワーマンショントリエンナーレという企画を考えている。場所は北浜の

れた化学物質に人工甘味料を加えられたような、そういう物に取り囲まれている気が

北川さんの実家があるタワーマンションだ。トリエンナーレで展示をするアーティス

する。そこで行われたタワーマンショントリエンナーレに展示された作品、パフォー

トはいないかな?という内容だ。その後、大阪は中之島の超高層高級マンションで、

マンスからは、人間とケミカルな空間に直面する人間の距離感、関係性、など様々な

2015 年 7 月 5 日に行われたタワーマンショントリエンナーレに、出展アーティスト

視点が提示された。

として参加した。出展アーティストは、SNS 上で北川さんの呼びかけに応じたアーティ ストと、吉原に誘われたアーティストにより構成された。

つまり、ケミカルな都市空間に美を見出した大洲さん、よりそのケミカルな空間、 物へ人間らしさを投影することによりどこか希望が見える北川さん、村岡さんや真野

このタワーマンショントリエンナーレの会場になったタワーマンションは、都市型

さん、倉科くん、の展示やパフォーマンス、そのケミカルな環境に関わりながらもが

超高層高級マンションだ。内装は高級ホテルのように豪華で、内部のセキュリティー

いているように見える那谷君の演奏、そのケミカルさに諦めに近い距離感を、感じる

は細かく管理されていて、カードキーがないとエレベータに乗ることもできない。私

水玉くんやボン靖二など。

が使用を許可されたゲスト用のカードキーは、ごく限られたマンション内の共用スペー スにのみ立ち入ることのできる権限のみが与えられていた。内部には、住人が利用で

また何より、タワーマンショントリエンナーレ自体がこのケミカルな都市空間やそ

きる、茶室、AV ルーム、集会所、ラウンジ、ゲストルームがある。タワーマンション

の中に生きる人間にとって、生きた美術が可能なひとつの方法の提案だということも

トリエンナーレではこれらの部屋に加え北川家のリビングにて展示、ライブパフォー

忘れることはできない。

マンスが行われた。 2015 年 10 月 24 日 私自身は、インスタレーション展示とライブパフォーマンスを行った。一つ目は、

タワーマンショントリエンナーレ 2015 ディレクター 吉原啓太

携帯電話の電話番号が連番になっていて、無機質な番号の連番の向こう側には生きた 人間が存在することを利用したアクションの記録のインスタレーション展示を行った。 二つ目は、人間が効率的に生活するために、人工的に作られたケミカルな電気信号を

27


「都市の生活_友達の家」北川貴好

ニティーを積極的に行い共有スペースを使用する例もありますが、それも結局一部の マンション一部の人たちのための空間です。 今回はそういうコミニティーのための共用空間ではなく、僕の実家がタワーマンショ ン内でどこまで拡張し、プライベートな場としてタワーマンションで拡張できるかの

わたしは、都市の空間そのものを素材に作品を作りたいと思っています。

実験でもありました。そこで、友達の家のパーティーという設定のもと、トリエンナー

なので、街を使ったアートプロジェクト等によく参加するのですが、アートプロジェ

レのような祭典をタワーマンション内でひっそりと派手におこなうという事をおもい

クトでは低層の家や路地等を素材に作品がよく作られます。私も、最初に参加した取

つきました。

手アートプロジェクトでは、プレハブの一戸建てすべてに穴をあけるという作品でし た。一方で、実家では生まれてからずっとマンション暮らしの私は、街を使ったアー

そこで、実家の一番近所のアーティストの吉原君の友達と FB でよびかけで答えて

トプロジェクトの枠の街並みの概念とマンションの街の風景とは少し遠いものでした。

くれた友達とで出品し。FB の友達の友達までのみが見にこれるタワーマンショント

先ほど書いた家に穴を開けた作品の制作の動機は、よくある三角形と四角でできたよ

リエンナーレをおこなったのです。出品された多くの作品は、タワーマンションの何

くある記号の家のシルエットと自分の住んでいる家(マンション)のシルエットとが、

重にもわたるセキュリティーそして、洗練された共用空間、窓からの都会の風景と相

結びつかないが故に、実際に家に穴を開けてみて、家という物を再確認したいという

まって、整然さ複雑さが絡み合った視点で作品が見る事ができました。今回の作品や

ことから作品をつくったのです。一戸建ての家のシルエットは、部屋の間取りをその

パフォーマンスは、セレブリティーなものでなく、都市の中で生まれてきた表現として、

まま大きなボリュームになったもので、部屋の集合体としても捉えれた。のですが、

場所と表現が絶妙に混じりあうもので今後の作品の可能性を飛躍させる見え方がなさ

やはりマンションとなると、集合の単位が大きすぎ、そのことで外観と内観との間に

れていました。

なにか隔離したものが存在します。特にタワーマンションとなると。自分の家と、自 分のマンションとの乖離は大きいものとなります。

アートプロジェクトと展示ギャラリーでは、作品の見え方が違いどちらに作品を出 品し展開するかは作家によって大きな事です。アートプロジェクトの出発だとされる

最近実家がタワーマンションになってしまったことそして、偶然にとしまアートス

ゲント市におけるシャンブルダミ(友達の家)は、1986 年に戸建ての家に訪れる形

テーション Z で、タワーマンションをネタに都市空間を考えることを提案された事を

式でした。しかし、それは友達として家を訪れるのは実際の友達ではなく展覧会のお

踏まえ。このマンションの共用部分、 会議室、 ゲストルーム、 AV ルームなどでプライベー

客さんでした。今回のタワーマンショントリエンナーレは、タワーマンションという

トな展覧会アートプロジェクトをしたいとおもいました。マンションの住人は、廊下

曖昧な個人宅の境界線をサイトにし、FB の友達の友達という、リアルとバーチャルの

エレベータを使います。そこですれ違う人々は、同じ屋根に住んでいますが、別の家

境界が曖昧な関係においてトリエンナーレが成立するというリアルで曖昧なシャンブ

です。微妙な関係性のもとに、共用の施設が共同利用されています。マンションコミ

ルダミを成立させました。街をつかったアートプロジェクトがここ30年で進化して

28


いそうで、じつは、都市空間の変容についていけてなかったのではないかとおもいます。 今回のタワーマンショントリエンナーレをおこなうことで、住まいの空間とアートプ ロジェクトの関係性を一つ進めることができたのではとおもいます。 今年には、東京でもタワーマンショントリエンナーレを小さいですがおこなう予定で す。さらに3年後は、どこかのタワーマンションでも、タワーマンショントリエンナー レをおこないたいとおもいます。その時のタワーマンショントリエンナーレの形態が どのようになっているのか楽しみにしたいとおもいます。

2015 年 10 月 25 日 タワーマンショントリエンナーレ 2015 実行委員長 北川貴好

29


出展作家 Artist 大洲 大作 Daisaku Oozu 北川 貴好 Takayoshi Kitagawa ( タワーマンショントリエンナーレ 2015 実行委員長 北川貴好 ) 北川和夫 Kazuo Kitagawa 倉科直弘 Naohiro Kurashina Shuhei Naya ボン靖二 Yasuji Bon 真野 綾子 Ayako Mano mizutama 村岡 亮 Ryou Muraoka 吉原啓太 Keita Yoshihara( タワーマンショントリエンナーレ 2015 ディレクター )

協力 北川家の人々 梅干しちゃん

タワーマンショントリエンナーレ「都市の生活_友達の家」 会期:2015

年7月5日

主催:タワーマンショントリエンナーレ実行委員会

30


Turn static files into dynamic content formats.

Create a flipbook
Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.