Asia Research News 2022: ELSI Japanese Version

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ELSI | TOKYO INSTITUTE OF TECHNOLOGY

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ELSI大学院コースで生命誕生の謎を探求

Credit: Tokyo Tech

地球生命研究所(ELSI) は、生命と惑星の起源と 進化を探求する新しい総合大学院コースを開設した。

「過去10年間で、ELSIはよく整備され、 成熟した研究所に成長しました」 とバ イオテクノロジー学教授で、本コース のスーパーバイザーである松浦友亮 は言う。 「私たちはトップレベルの科 学研究を行うにあたって理想的な環 境と、 グローバル規模の研究者ネット ワークを作り上げました。今こそ、 こう したリソースを使用して、地球生命科 学の分野における次世代のリーダー を育成するときです。 これはELSIにと っても新しく、わくわくする挑戦です。」

地球はどのように形成され、 そこで生 命はどのように誕生したのか?他の 惑星で生命が誕生するために必要 な条件とは何か? 東京工業大学地 球生命研究所(ELSI) は、 これらの根 本的な疑問に挑戦する新しい大学院 コースを開始する。 修士号と博士号 を統合した5年間コースは、同学地球 惑星科学部と生命理工学部と共同で 2022年から開設される予定だ。本コ ースの学生は、ELSI所属でELSIの教 員の指導の下で学ぶ。

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バイオテクノロジー学教授で本コースのスーパーバイザーである松浦友亮教授。

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学生は、自分のスーパーバイザーや ELSI内外の研究者と話し合うことに より、自分の研究トピックを選択する。 大学院コースは5年間のため、幅広 い科学的知識と専門的知識の両方 を習得しつつ、非常にやりがいのあ るプロジェクトにも挑戦する。

「ELSIは、地球上の生命起源と地球 外生命の研究に特化したカリキュラ ムを提供する世界でも数少ない研 究所の1つです。」 そう語るのは電気 化学の教授で大学院コース教員の 中村龍平。 「ELSIでは、学術界で急 速に認知されつつある宇宙生物学と いう新しい分野を研究するためのユ ニークな環境を提供しています。」

電気化学の教授で大学院コース教員の中村龍平教授。

2022

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大学院コースでは、すべての学生にと って地球上の生命起源と他の惑星で の生命の可能性に関する生物学、化 学、惑星科学の基礎を学ぶことが必 須となる。 それに加えて、他の学部が 行う授業を受講して、東京工業大学の 地球生命科学部のコースを含む、様

ン」のコースを受講して、実践的なス キルを身に付け、実際に得た知識を 社会で応用する方法を学ぶことも可 能だ。

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さらに、大学院プログラムの一環とし て 「産業界とのコラボレーション」 と 「グ ローバルサイエンスコミュニケーショ

幅広く、 そしてより専門的に

地球生命科学の未来のリーダー育成 ELSIは、2012年設立の独立した研 究所。惑星と生命の起源及び進化の 研究を通して、天体物理学から地質 学、化学、生物学に至るまで、世界を リードする科学者を何百人も集め、 自 然科学の中でも最も困難な課題に挑 戦することを使命としている。大学院 コースの開設は、 そのELSIで初めて 学生を受け入れるという同所にとっ て重要な新たなステップとなる。

々な分野の基礎知識と高度な知識を 習得することも可能である。ELSIと東 京工業大学は相互的なパートナーシ ップを組んでいるため、同学の学生が ELSIでクラスを受講することもできる。


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利用可能な資金 新しい視点から科学的な質問に ついて考える能力は、現在地球が 直面している最も複雑な課題に 取り組むために必要不可欠です。

•ELSIは、全額出資の学生フェロー シップを毎年最大10名に供与しま す。 学生は、奨学金と授業料の免 除を受けることができます。

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アーリーキャリアディスカッション

ポスターセッションに参加

と業界での力強いネットワークを構築 しなければならない。

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新しい観点を見出し、多様性を促すブレークアウトセッション

ユニークな 「異分野融合」方式

ELSIは、従来の大学階層システムを 回避するため、 オープンでフラットな 研究環境を採用した。 つまり、学生は 経験豊富な教員から指導を受けるこ とができる一方で、 自身の研究を探 求するため、ハイレベルな独立性と自 このコースは、 自然科学を既に学ん 律性が求められるということでもある。 でおり、地球起源と生命科学に関す る根本的な科学の疑問をより深く探 やる気の溢れる学生が対象 求しようとする意欲的な学生を対象と している。国際的かつ異分野融合の 本コースを志望する学生は、 ELSIの 観点から難しい科学の挑戦に立ち向 教授に直接連絡をして、 どんな研究に かうための野望を持つ学生の応募を 関心があるかを話し合わなければな 募っている。

申し込み方法 •興味のある学生は、ELSIの教授に メールで連絡してください: https://graduate.elsi.jp/ •志願者は、東京工業大学の国際大 学院プログラムの申請書を作成し、 入学部門に提出する必要がありま す。翌年4月スタートのコースの提 出期限は10月です。 •志願者は入学試験を受け、面接を 受ける必要があります。 Credit: N. Escanlar, ELSI

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「新しい視点から科学的な質問につ いて考える能力は、気候変動、人口増 加に合わせた十分な食料、水、 エネル ギーの生産や将来のパンデミック予 防など、現在地球が直面している最も 複雑な課題に取り組むために必要不 可欠です。」 と中村教授が言う。 「異な る分野のアプローチを組み合わせる

らない。 教授と学生に共通するトピッ クを見つけることが重要なため、 志望 者は自身のスーパーバイザーになる であろう研究者の研究トピックについ て事前調査をすることが必要だ。 研究 トピックに決めるにあたり、 複数のスー パーバイザーに相談するのもいい。

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ELSIは、異分野融合の促進を念頭に 置いて設計された研究所である。各 研究室は同じ建物内にあり、様々な分 野の研究者が共同研究を行いやすく する一方で、新しいアイデアや創造的 な問題解決策に繋がるように、気軽な ディカッションや偶然の出会いが起こ りやすい設計が施されている。

ことで、ELSIの研究者は主要な科学 「東京の下町を拠点とするELSIでは、 学生は街を探索するなど日本生活を 的課題に立ち向かう新しい方法を見 体験する機会がありつつ、 本当の意 出だしています。」 味で国際的な職場環境の利点を堪 能することができます」 と松浦教授 真の国際的な環境 は言う。 ELSIには、世界中の教員や学生から 成り立つ多種多様なコミュニティが存 世界をリードする教員 在する。学生のほぼ半数が日本人以 ELSI大学院コースは、宇宙生物学か 外で、 コースはすべて英語で行われ らバイオテクノロジー、 電気化学まで、 る。留学生は、 ビザの申請や住居手続 多様な分野の主要な研究者である8 きなど、 日本での日常生活に必要な サポートを受けることができる。 さらに 人の教員により監修が行われる。学生 は、 こうした教員や様々なグループの ELSIでは日本語を習える授業も行わ ト ップレベルの研究者と親密に研究 れている。 このユニークなサポート体 を行うことになる。 そこでは、分野間の 制により、ELSIの学生は新しい国で 共同研究や、理論的及び実験活動の 安心して過ごすことができ、世界中の さらに、 友人や同僚との親密なネットワークを 両方を行うことが奨励される。 将来のキャリアを助長するため、 学問 作ることに集中できる。

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•博士課程の学生は、日本学術振 興会(JSPS)、科学技術振興機構 (JST)、産業界などから追加の奨学 金を申請することができます。

シンポジウムを聴く

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graduate.elsi.jp


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施設の敷地内で芸術家を受け入れて おり、科学者と芸術家が異なるお互い の考え方に対して心を開く機会を設け ることを目的としている。

日本の研究アウトリーチを舞台の主役へ 所のシンポジウムを高く評価している。 そこで、第9回シンポジウム2021と第 10回シンポジウム2022では、 プログ ラムの一部をアウトリーチと科学コミ ュニケーションに特化した。同シンポ ジウムで完全に科学に専念していな いトピックを組み込んだのはこれらが 初めてだ。 ヒーナティガラ率いるチームは、通常

ヒーナティガラはELSI内および日本 における科学コミュニケーションの伝 統的要素のいくつかを保持しつつ、新 しい試みを取り込むことでそうした発 信を行う。

「日本の大学が検討すべきことは、 カ リキュラムに正式な科学コミュニケー ションプログラムを導入すること。高 度なスキルを持ったアウトリーチ力 を生み出すために必要なことです」 と、 ヒーナティガラは言う。 彼によると、現在ほとんどの日本の 機関では、 アウトリーチは事務スタッ フによって行われており、科学や科 学コミュニケーションに情熱を持っ ていても、 そうしたスタッフが専門の トレーニングを受けていることはまず ない。 たとえ献身的なスタッフが、 ス キルアップのために科学コミュニケ ーションのワークショップに参加した くても、所属機関の承認を得るのが 難しいのが常だという。 これは研究 機関側が、事務スタッフを研究者ス タッフのようにトレーニングや会議に 派遣することに従来より慣れていな いためだ。

は対象年齢が上であるELSI公開講 座に、学校の生徒の参加を促す広報 「研究機関は、 スタッフが地元で利用 キャンペーンも行っている。 こうした 可能なトレーニングに参加することを 活動が、科学リテラシーを向上させ、 奨励すべきです。」 次世代の科学者をインスパイアする ためには大切であると、 ヒーナティガ このギャップに対処するため、ELSIの ラは言う。 ELSIのパブリックエンゲー アウトリーチ部は、同所内や日本の他 ジメント活動のいくつかは、 こうした の地域で科学者やアウトリーチのスタ 理由でこれまでよりもはるかに若い ッフを対象とした科学コミュニケーシ 層を受け入れている。1月に開催され ョンの養成セッションを設けている。 たELSIの一般講演会2022 は、 「 地球深部からはるかな宇宙まで」 とい 近年、ELSI自体の科学コミュニケーシ うタイトルのもと、地球深部専門家で ョンのアプローチも非常に革新的な ある廣瀬敬と惑星大気科学者の関根 ものになってきている。同所の科学ア 康人による講演を行った。 ートプログラムでは、毎年3〜6か月間、

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パディ・ファラジによる 「生命の起源」 をテーマにしたコンセプチュアルアート。

に基づいた研究を芸術的観点から見 こうした努力は実績に繋がってい ると、 その研究にまつわる色彩、匂いや る。2020年には、ELSIの研究活動につ 他の感性的要素について考えることか いて日本国内外のメディアが取りあ ら始まることを学ぶ機会になったという。 げた記事は、460本以上にも上った。 最終的にこのコラボは、地球とその生 命がどのように形成され、進化したか を探求する 「生命の起源」 をテーマに したコンセプチュアルアートとして実 を結んだ。 ELSIのアウトリーチ部署では、同所で 行われている研究に関するプレスリ リース発行も手掛けている。 これは決 して容易なタスクではない。ELSIの研

将来は、 アジアのすべての科学機関 がアウトリーチとコミュニケーション 戦略を立てられるようになることが 望ましい。

ELSIのアウトリーチ部署では、同部 「多くの大学はそれぞれのビジョンや の業務をエビデンスに基づいて評価 ミッションを掲げていますが、 コミュ することを重点的に行っている。 ヒー ニケーションとアウトリーチ、 そしてそ ナティガラのチームは、複数のデータ れらをどのように成功させるかに触 収集と分析手法を組み込んだ「ELSI れることは少ない。 それがまさに欠け 科学アウトリーチ評価フレームワー ている要素であり、取り組むべき課題 ク」 を設計。 アウトリーチのスタッフ、 です。」 研究者や政策立案者が、科学アウト リーチ活動の影響を測定して、理解す ることを助長するために作ったものだ。

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年に一度開催される日本サイコムフォーラムの参加者

2022

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そのいい例が毎年恒例のELSI科学シ ンポジウムだ。全国の研究機関は同

ELSIは、科学アウトリーチの重要性 に対して絶対的な確信を得ている。 そ れは、新しく開設される生命の起源を テーマにした5年間の統合大学院プ ログラムで、 グローバル科学コミュニ ケーションコースを設置するほどに 及ぶ。

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ディレクターであるシリーナ・ヒーナテ ィガラは、 日本の科学機関内のアウト リーチプログラムを標準化し、科学コ ミュニケーションがそれにふさわしい 認知と信頼を得られるために発信を 続ける。

ヒーナティガラは日本、 さらにアジア で、科学者やアウトリーチのスタッフ 向けに豊富なトレーニングを含む正 式な科学コミュニケーション教育が 増えることを願う。

Credit: ELSI

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コミュニケーション・ディレクターであるシリーナ・ヒーナティガラ。

究は、異文化交流に基づいているた め、生物学、化学や天文学などの幅広 い分野の研究者が携わっている。同 時に、生命の起源は社会的に関心の 高い分野だ。

2021年にこのプログラム参加した日 本を拠点とするイラン人アーティスト 「すべての領域をバランスよく網羅し 「研究機関が、研究に関する事務作 のパディ・ファラジは、科学者と共同 つつ、当所の学問がメディアによって 業とアウトリーチでは全く異なるスキ 作業を行うことで宇宙に対する独自の 誇大に取り上げられないように調整 ルが必要であることにまず気付くこ 視点が芽生えたと話す。同時に、一緒 するのは、 アウトリーチにとって難問」 とが大事です。」 に作業をした研究者にとっては、事実 と、 ヒーナティガラは言う。

東京工業大学地球生命研究所(ELSI) は、 エビデンスに基づくアウトリーチを展開することで、 科学コミュニケーション専門トレーニングの大切さを積極的に発信している。 日本の高等教育 機関と研究機関での研究アウトリーチ活性化の先駆けとなることを目指す。 世界的COVID-19パンデミックと気 候変動に対する社会と政府の反応は、 科学者と研究機関の情報伝達力の 向上がいかに求められているかを浮 き彫りにした。研究は国民の出資によ って国民のために行われているが、研 究が理解されず科学者への信頼がな いと、人々は科学に対して懐疑の兆候 を示す傾向にある。 日本の地球生命 研究所(ELSI)のコミュニケーション・

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ELSIこれまでの10年:地球、生命 と新しい日本の研究所のあり方

大事なことは、やっぱりELSIに 人が集まってきてくれることです。 人の流れと国際的な頭脳循環の 中にELSIがちゃんと位置づけら れているということですね。

伝統的な日本の大学のカルチャーの殻を破り、 フラットで国際的な研究所として注目を集める東京工業大学 地球生命研究所(ELSI) 。今年で10年目を迎えたELSIの魅力や運営のコツについて廣瀬敬前所長が語った。

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ELSIのテーマである 「地球と生命 の起源」 の成り立ちについて教え てください。

ELSIの魅力的なところはどこで すか?

それから私たちは 「もともと全く生命 がいなかった地球にどのようにして 生物が生まれたのか」 というところに 興味があります。例えば、いまは地球 には二酸化炭素は0.04気圧しかない のですが、 もともとは100気圧くらい あったはずなんですね。 その状態か ら生命を出発させなきゃいけなかっ た。二酸化炭素を主体とする大気は とても酸化的ですが、われわれ生命

非常に国際的で開放的でフラットな ところです。 伝統的な大学のシステム ってやっぱり教授が偉いんですね。 教 授、 准教授、 助教がいて学生がいると いうようなピラミッドシステムになって います。 日本だけでなく世界でもそう です。 ELSIは全くそんなところじゃな い。 例えば、 うちのチームの研究分野 に一番近いポスドクが研究テーマの 全然違う先生と共同研究したりしてい ます。 そういうのを私は 「フラット」 と言 っています。 普通は、 教授の言う通り にポスドクが動いてくれるみたいにな っていて、 逆にポスドクからすればあ る特定の先生に言われた通りにやら なければならない。 ELSIではそういう 必要が全くない。 要するにポスドクが 自由だってことなんです。 そういうとこ ろはELSIの大きな魅力だと思います。

現在の0.04気圧の二酸化炭素に 比べて、地球初期は100気圧くら いあったはずなんです。

これまでにELSIでどのような発見 がありましたか?

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ELSIは2022年に10周年で転機 を迎えました。 これからのELSIに コメントをお願いします。

そのうち人も増え てきて、いろんな ELSIへのWPI*からの大きな支援と 人を海外から短 いうのは2021年度で終わりで、 それ 期や長期で呼んで、 に合わせて私も所長交代することに 人の流れがどん なっています。 次の所長の関根さん どん活発化してい は非常に若くて考え方がし っかりして 廣瀬敬前所長、ELSIの仲間たちと。 くと、今度はELSI いる人です。いままでは、地球と生命 えばその教員の子どもが熱を出した が国際的に知られるようになってきて、 の起源に関わりがあればいいという 時にELSIのスタッフが子どもを一緒 そうすると人も呼びやすかったですし、 感じで割とバーッと手を広げていた に医者に連れて行くなどの生活のケ 共同研究ももっと自然な形でうまくで のだけど、ELSIの第二期はフォーカ アや日常的なサポートを行っています。きていったと思います。 スをより明確にやろうとしているので、 ぜひ次のELSIの発展をご覧ください。

この10年間でELSIが最も成長し たところについてお願いします。

まず母体となったのが地球惑星科学 の研究者たちだったので、 そこに生 命の起源に興味がある人たちを呼ん で、いままで共同研究したことがなか った地球と生命の科学者に、 ある意 味半強制的に共同研究を始めてもら ったっていうのが初期のELSIです。 Credit: Creative Commons

国際的にも魅力的な研究所であ り続けるために大事にしているこ とは何ですか?

*世界トップレベル研究拠点プログラム 大事なことは、 やっぱりELSIに人が (World Premier International Re集まってきてくれることです。人の流 search Center Initiative: WPI) は れの中にELSIがちゃんと位置づけら 文部科学省の事業。 ELSIは日本全国 れているということですね。国際的な 14ヵ所あるWPI拠点の一つだ。 頭脳循環みたいなものがあって、例 えばフランスでドクター終わった人が、

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ポスドク先としてヨーロッパやアメリ カに注目しているかもしれないけど その中にELSIという選択肢がちゃん とあるということ。 あとは、いろんな機 会を作ってELSI中心に共同研究提案 っていうのをどんどんしていって、 こ ちらからいろんな人を集めるっていう ことですよね。簡単に言うと国際的な 研究者コミュニティの中で常に一つ のハブとしての役割を持ち続けるっ ていうことです。

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はずっと還元的な有機物でできてい ELSIの国際色が豊かな秘訣はな ます。当時の炭素は二酸化炭素がメ んですか? インだったはずなので、 それをどのよ 地球の起源に関しては、地球形成時 うに我々の体みたいな還元的な炭素 日本は国際化が遅れていると常に言 にマグマオーシャンの中で起こったこ にしていくかというのがすごく大きな われています。 そういった場合に各大 問題でした。 との理解が進みました。いまの地球 学が頑張っていることは留学生の確 の表層は基本的に岩石ですが、岩石 保ですが、 それには限界があります。 が全部溶けた状態で地球全体がマグ 私たちが見つけたすごく大きな成果と とにかく一番大事なことは、優秀な外 しては、地球上の熱水が噴き出してい マで覆われていた時期があったとさ 国人の先生を日本に連れてくること そ れています。地球は、 マグマオーシャ るところには電気の流れがあって、 だと考えています。WPI拠点の中でも ン状態を経て、大気+海、 マントル(岩 の電気の流れを使うとそれまで大気 それを本当に一番うまくできたのは 中にたくさんあった二酸化炭素が一 石)、 コア (金属) の3つに分かれまし ELSIだと思います。 さらにそれがさらに た。地球のみならず金星、証拠はまだ 酸化炭素になり、 還元されて生命の材料であるアミノ酸 なぜそれがうまくいったかというと、 ないけど火星などいろんな惑星の 「 出発点」 になっているマグマオーシャ などを作っていくことが分かりました。 基本的に私らは、外国人のリクルート

は外国人にしてもらっています。例え 多くの場合、 日本の組織はかなり縦 ば私が「日本いいところだからぜひ 割りになっています。例えば地球惑 おいで」 と外国人にいくら言ってもあ 星科学科と生物学科があった場合、 まり効果はないけど、ELSIにいるアメ その二つの学科は同じ建物にあるか リカ人がアメリカ人に声をかけるとも もしれないけど、 そこで共同研究をす のすごく効果があります。 もちろん、 そ ることなんて普通はあり得ない。いま うして日本に来てくれた外国人がハッ まで話したこともない人たちと、 なん ピーでなくてはしょうがないので、例 とか共同研究を始めるというのが最 初に私たちに突き 付けられた大きな チャレンジでした。 最初の数年間は 手探りの状態でや っていました。 Credit: N. Escanlar, ELSI

ELSIは、東京工業大学の地球惑星 科学科が母体になっています。新し い研究所を立ち上げるということだ ったので、多くの研究者が一緒に研 究できる大きなテーマは何かと考え ました。みんなで考えて出てきた答え が、地球の起源だったんですよね。地 球という惑星の誕生と、 マグマオーシ ャンや地球のコア (中心核) が出来 た一連のイベントは同時期に起きて いて、 まずその部分に焦点を絞ろうと いう話になりました。おそらく地球が 出来てそんなに時間が立たないうち に生命が誕生しただろうと我々は思 っているので、地球の成り立ちから地 球の初期進化、 そして生命の誕生ま でをターゲットにしようというのが成 り立ちです。

ンの役割をよりはっきりさせることが できたということですね。

廣瀬敬教授


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40億年前の火星の想像図

ELSI次期所長について

関根康人は、地球化学者、教授、 そして地球生命研究所(ELSI) の 次期所長(2022年4月任期開始)。 惑星や衛星に生命を生み出し、 そ してそれを支える環境要因を化 学的視点から理解することによっ て 「なぜ地球は居住可能な惑星 なのか」 や「太陽系では地球以外 に生命は存在するのか?」 などの 質問の解明に繋がる研究を行う。 関根ラボの研究対象は、地球、火 星、土星の衛星であるエンケラド ゥスとタイタン、木星の衛星エウロ パなど。2018年ELSI入所。

進化の幕開け: ELSIが挑む地球外生命の探求 東京工業大学地球生命研究所(ELSI) は今年、転機を迎える。10年前の設立当初からのテーマで あった 「地球と生命の起源」 から踏み出し、地球外生命の可能性まで研究対象を広げていく。 次期 所長の関根康人教授にこれからのELSIが目指すところを聞いた。

これまでとこれからの10年間の ELSIについて教えてください。 これまでの10年間でELSIは、分野融 合によって生命の起源を地球の形成 と進化の帰結の一つとして理解する という土台「ELSIモデル」 を作りまし た。 ELSIモデルは、生命の起源を単なる 化学反応として理解するのではなく、 太陽系の形成から現在の生命圏や 人間圏ができるまでの、一連の地球 生命間の相互作用の一つの帰結とし て理解するためのものです。

Credit: N. Escanlar, ELSI

応できるのか、地球外でも生命は発 生することができるのかを理解した いと思っています。

から 「Universal Biology」 にも移して いきます。 「Universal Biology」 の概 念の創成することを大目標として、地 球以外にも生命を宿す惑星の可能 地球外の生命の可能性を考える上 性を明らかにしていきます。生命の普 では、JAXAやNASA、 ESAとも有機 遍性を追求すれば、おのずと地球を 的な協力関係を作る必要があります。 飛び出して宇宙における生命を考え これにも次の10年では力を入れま る必要があります。 す。ELSIが予測した、地球外生命が

関根先生自身は、研究者としてど んな研究を行っていますか? 私自身は、地球を含めた太陽系天体 が持つ、大気や海洋の起源・進化に ついて興味を持って研究しています。 特に、化学的な側面から、天体の大 気や海洋の化学組成が、 どのように 進化し、 どのような要因でそれが決 定されてきたのか、理解したいと思っ て研究しています。研究手法は、室内 実験、探査データの解析、数値モデル、 野外フィールド調査など、 多岐にわた ります。

モンゴルの凍った湖での現地調査。

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なぜELSIで研究をしようと思った のですか? 私がELSIに来たのは、2018年6月で す。3年半くらいが経ちました。ELSI

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い分野です。ELSIは、世界中の誰も が思うような、皆さんの 「夢や好奇心 を集めるランドマーク」 になっていき たいと思っています。一部の億万長 者だけが支援する特別な研究所でも なく、 また逆に、国家が国策により多 大な資金を投入するような研究所で もなく、人類が普遍的に持つ好奇心 を満たし、夢をかなえることで、皆さ んに支えられて持続する研究所を目 指したいと思っています。 これができ 次の10年間で、 ELSIはどのような るのは世界でも限られた環境だけだ 研究所を目指していきたいですか? と思います。 そして、 日本はそのうち の一つの場所だと思っています。 ELSIが標榜する 「生命の起源」 や「地 球外生命」 は、一般からも関心が高

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で研究しようと思ったのは、生命科学 や複雑系科学といった分野との密接 な共同研究ができると思ったからで 具体的には、合成生物学で地球の生 す。私のこれまでの研究歴では、化 命あるいは地球外の生命を含めた 学に着目した研究を行ってきました 異なる生命の形を、機能を持つ分子 が、10年ほどが経ち、地球外生命に たちからデザインして作っていきます。 本腰を入れて研究するためには、 そ 地球の生命の起源だけでなく、 まだ ろそろ生命科学の方向へ軸を移す時 見ぬ異なる生命の形を理解するには 期が来ていると感じたからです。 こうしたアプローチが必要です。

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太陽系の起源から現在までの間には、 地球が今の姿になる上で重要な分 岐点がいくつかありました。 この分岐 点で異なる方向に進んでいたら、地 球は今のような星ではなく、生命も誕 タイタン、 エンケラドゥスと土星付近を巡回する土星探知機「カッシーニ」 の様子。 生していなかった、 あるいはまったく 別の形の生命が誕生していたかもし 火星などで見つかるようなことがあ 地球外生命は、 その惑星・衛星の環 れない、 そのような分岐点と地球・生 境に適応した生命であるはずです。 命が誕生するための選択を表したの るのではないかと期待しています。 惑星や衛星の環境で出現し、適応し、 が、ELSIモデルです。 現在、ELSI全体のテーマは 「地球 進化しうる生命とはどのようなものか、 これからの10年では、ELSIモデルに と生命の起源」 ですが、 このテーマ 合成生物学という生命を部品から作 基づき、 これを発展させ、地球だけで も変化していくということでしょうか。っていく学問領域をELSIに新たに加 えて、 「ありうる地球外生命のカタチ」 なく太陽系の他の惑星や衛星、太陽 これは ELSIはテーマを 「地球と生命の起源」 を探求しようと思っています。 系外の惑星にこのELSIモデルが適

海外でも行われていない、斬新な実 験的試みです。