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Kreo graffiti furniture, 2019. Discipline: Furniture. Role: Designer. Topic: Subverting the Norm. ITT master’s thesis building, 2003/19. 3-D rendering of architectural model. Discipline: Architecture. Topic: Subverting the Norm.
Jenny Holzer, Light projection for Off-White Men’s Collection Spring/Summer 2018 runway show (“Temperature”), 2017. Discipline: Sculpture. Role: Client. Topics: Language, Race, Social Commentary. “Sculpture” bag from Look 28, Off-White Women’s Collection, Fall/Winter 2017 (“Nothing New”), 2016. Discipline: Fashion. Topic: Readymade. Fall/Winter 2017 (“Nothing New”), 2016. Discipline: Fashion. Topic: Readymade. “Framing Grey Area” (Table) , 2016. metal and Carrara marble. Line: Discipline: Furniture. Topics: Norm, VirgilTransparency.AblohforOff-White, Rimowa Polycarbonate and metal. Discipline: Design. Topic: Transparency. Floral long dress from Look 17, Off-White Women’s Collection, Spring/Summer Woman”), 2017. Discipline: Fashion. Topic:CanvasReadymade.printedskirt from Look 31, Off-White Women’s Collection, Fall/Winter 2016 (“You’re Obviously in the Wrong Place”), 2015. Discipline: Fashion. Topics: Readymade, Tourist/Purist.DR Dress and glove (one of a pair) for Beyoncé, 2018. Discipline: Fashion. Topic: Race. “The Set,” 2016. Portable club setup. Collaborator: Ben Kelly. Discipline: Product Design. D Album art for Kanye West’s Yeezus , 2013. Acrylic, tinted film and mirror. Collaborator: Kanye West. Discipline: Album Packaging. Roles: Creative Director, Graphic Designer. Transparency.SubvertingSocialAdvertising/Branding,Topics:Commentary,theNorm,
Discipline: Product Design. Louis Vuitton kite, 2018. Discipline: Product Design. Role: Creative Director. grid, stone, wood panel, and drywall. Discipline: Transparency. Chrome grid tables, 2018. Discipline: 2018 runway show Discipline:VuittonFashion.Men’sCollection, Fall/ Fashion. Role: Creative Dialogues
Crazy check long dress from Look 36, Off-White Women’s Collection, Spring/Summer 2017 (“Business Woman”), 2016. Discipline: Fashion. “Main Label” jacket and pants from Off-White Men’s Collection, Fall/Winter (“Public Television”), 2019. Discipline: Fashion. Topic: Readymade. A “For Walking” boot from Look 24, Off-White Women’s Collection, PreFall 2018, 2017. Discipline: Fashion. Topics: Readymade, Tourist/Purist. “advertise here,” 2018. Acrylic “advertise here” (Verso) , 2018. Discipline: Painting. Topics: Advertising/ Branding, Race, Social Commentary, “A Team with No Sport,” 2012. Video 52 seconds. Discipline: Photography/Video. Commentary, Subverting the Norm. 0000mmMaterial:AAAAAAAAAAaaaaaax0000mmx 0000mm AAAAAAAAA J JIM JOE, Off-White showroom rug, 2012. Woven rug. Discipline: Product Topics: Language, Social Commentary, Transparency.
ダイアローグ ヴァージル・アブロー 平岩壮悟 訳 オフ - ホワイト設立。ルイ・ヴィトン 初の黒人デザイナー就任。ナイキや イケアとのコラボ 壁を破り、 境界を越え続けたクリエイターの 主要な 対 ダイアローグ 話 9 本を厳選収録。 日本オリジナル編集
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━ デュシャンは私の弁護士 トム・ベットリッジとの対話 ━ 消費者の反乱 正午まであと数時間という頃、私はニューヨークのホテル、イレヴン・ ハワードの 2 階に併設されているバー、ザ・ブロンドでヴァージル・アブ ローと落ち合った。人気のないラウンジで話をしているあいだ、彼の iPhone は絶え間なく点滅していた。ときおり取材を中断し、返信せ ざるを得ないときもあった。アブローは現在パリからシカゴに向かう乗 り継ぎのため 24 時間だけニューヨークに滞在している。新商品の打ち 合わせや DJ プレイ、アートフェアへの参加など、彼が言うところの「物 理的なインターネット」を満喫しながら 。私たちの周りにはショッ プ袋が所狭しと置かれていた。取材の途中で、彼のアシスタントが運 んできたのだ。 カニエ・ウェストの 参 コンシリエーレ 謀 を務め、熱狂的なファンを生み出したレー ベル Pyrex Vision[パイレックス・ヴィジョン]をつくり、絶大な人気を誇 るブランド Off-White[オフ‒ホワイト]を立ち上げてきたアブロー。彼の 足跡をたどるには、この旅行とショッピングの融合が手がかりとなる。 アブローと彼の友人たちはかつて、「 超 スーパーコンシューマー 消費者 」という類型に押し込め られていた。その時代に終止符を打ったのが、かれらが招待状もなし デュシャンは私の弁護士 012
に出かけていった 2009 年パリ・メンズ・ファッションウィークだった。 このときの遠征は、ゴヤールのスーツケースを持つカニエを中心に捉え た 1 枚のグループ写真によって永遠のものとなった。青色が鮮やかな モンクレールのベストを着たアブローは一団の右端に立っている。その 後、この写真は『サウスパーク』にパロディのネタとして使用されたが、 アブローはあの写真がファッション・ブログの嚆矢でもあったと即座に 指摘した。 それからおよそ 10 年、いまでは「インフルエンサー」がファッション・ エディターより人気を集める存在となった。アブローとその仲間たち は得意げに笑っているはずだ。彼自身はといえば、DJ 機材をモノグラ ム柄のキャリーオールに入れて持ち歩くという矛盾をいまなお楽しん でいるようだ。アブローは、この「ストリートウェア」時代の幕開けを消 費者の反乱として捉えている。つまり、カルチャーを生み出す機械の 舵取り役を購入者が担うようになったのだ。必要なのはスマートフォ ンとシルクスクリーン製版、そして段ボールいっぱいの無地 T シャツだ けである。 そばにあるスツールには、エアフォース 1 を履いた両足が乗っている。 アブローがナイキのために最近デザインしたものだ。この改造・脱構築 されたスニーカーの靴ひもには、ヘルベチカ書体の“ SHOELACE ”[靴 ひも]が 引 クォーテーションマーク 用符 付きで書かれている。ヘルベチカはアブローが手がけ る大半のものに使用されており、それは彼が建築を学んでいた時分に 魅了されたモダニズム・デザインの伝統を受け継いでいることを意味 する。引用符もまたグラフィックを多用する彼の作品にはおなじみの 013
ものだ。インタビューの最中にも、雑誌に掲載される際にはかならず“ス トリートウェア”と“マーチウェア”を引用符でくくってほしいと頼んで きたほどである。引用符は、彼がその皮肉の効いたデタッチメントの流 儀において用いる道具のひとつなのだ。 彼はマルセル・デュシャンを自身の「弁護士」であると表現し、既存 の知的財産をみずからの 参 リファレンス・システム 照体系 に取り込むための美術史的な根拠 としている。だれが最初に成し遂げたかを気にする前世代のメンタリ ティを拒絶し、インターネットのコピー&ペースト理論とそのうちに暮 らす住人たちを支持している。彼が築き上げた新しい秩序はアイロニー の砦によって守られているのだ。 現在私たちの周りにはそれ以外にも、より不吉な出来事が起こって いる。取材の前日、同じニューヨークでは、ブリーチで金髪になったカ ニエ・ウェストがトランプタワーを訪れ、次期大統領ドナルド・トランプ と面会していた。一見して超現実的なふたりのツーショットは、その実、 みずからの尻尾を飲み込むヘビの姿であった。トランプに投票したの は扇動された年配のポピュリストたちだったが、史上初のリアリティ番 組的大統領をお膳立てしたのは、あらゆるものから影響を受けた、ポス ト・エブリシングな文化的前衛だったのである。(トム・ベットリッジ) ━ トム・ベットリッジ ご自宅はどこにあるんですか。定住している場所 はあるのでしょうか? ヴァージル・アブロー サーラー・クリエイティブ・パートナーズのタズ・ デュシャンは私の弁護士 014
アーノルドに「俺は地球市民になりたい。一ヶ所に定住するなんてご めんだね」と言われたことを思い出しました。それを聞いた直後ですよ、 『サウスパーク』のネタになったあの写真が撮られたのは。私たちは抑 えきれない興奮によってパリにやってきた一介のアメリカ人にすぎま せんでした。ホテルのロビーでファッションの現状についてしゃべって いたんです。「業界人向けのものだっていうのは知ってるけど、次のコ レクションを見てみたいよな」と。当時まだブランドで着飾る一般人は いませんでした。ストリート・スタイルという概念やブロガーが一世を 風靡するのはもうすこしあとのことです。私たちには時代の先を読む 力があったのかもしれません。 というのはともかく、そうです、普段はシカゴに住んでいます。昨日 は 1 日パリにいました。ニューヨークはあと数時間で離れます。出張つ づきで、各地を転々としているんです。物理的なインターネットみたい なものですよ。 トム 以前おこなわれたリチャード・プリンスによる SF 作家 J・G・ バラードへのインタビュー(実際には偽インタビューですが)で、プリンスは 自身のことを「ブリティッシュ・エアウェイズの市民」と表現しました。 それと似たような考えかたですね。 ヴァージル アメリカに暮らす若い世代の黒人は、ニューヨークやロサ ンゼルスなどの限られた地域の外側に興味をもつようになり、積極的 に旅行しているんだと思います。ファッションに興味があるから本場 のパリに行こう、ストリート・スタイルなら東京だ、といった具合に。こ れが現代における文化的なつながりのありかたです。 015
━ 建築のあとで レム・コールハース、サミール・バンタルとの対話 ━ 2019 年 1 月 7 日 フェイクニュース、インフルエンサーの台頭、西洋文化の衰退 「な んでもあり」と「なにをやっても無効」の状態がかつてないほど混じり 合った現代において、社会で活躍できる人を育成するための理想的な 教育とはどんなものだろうか。卒業後の専門分野がどんなものであろ うとも、おそらく構造工学こそが、現代文化においてもっとも特定しづ らい現象を扱い、もっとも現実と直接的に対峙する術を教えてくれる 学問領域であろう。重力をはじめとした「永遠」という課題への恒常 的な取り組み、素材に関する深い知識、新旧の計算法。そう、 工 エンジニアリング 学 とは計算にほかならないのである。 この理想的な教育の第二レイヤーを成すのは(かつ工学へ申し分なく応 用できるのは)、建築であろう。建築とは、高度に絡み合った空想を長期 にわたり体系的に実現させることである。長らくのあいだ、これらの「空 想」はもっぱら 建 ビルディング 物 にのみ集中してきた。しかし近年、建造物の非重 要性をアリバイに、建築はこれまで縁のなかった分野に参加しはじめ ている。 ヴァージル・アブローはこのふたつの専門を組み合わせることにより、 建築のあとで 120
計算、忍耐力、方法論といった神話的ですらある素養を身につけた。 かつては孤立していた各職業の境界線が崩れ、自己組織化したソーシャ ルメディアにより声が大きくなった自称「神童」世代によって諸分野 が侵略されつつあるというこの歴史的な転換期に、彼はその三種の神 器を手に入れたのである。 ━ ヴァージル・アブロー この展覧会は 2 、3 年にわたり準備をしてきまし た。ルイ・ヴィトンからオファーが来たのは、その最中でした。 サミール・バンタル マイケル・ダーリン[“ Figures of Speech ”展のキュレー ター]が「これこそ新しい文化だ」と見抜いたのがおもしろいですね。若 者はもうゴッホ目当てで美術館に来ない。それならほかの価値を提示 しなければ、と思ったわけですよね。 ヴァージル 驚くべきは、彼がその流れが来る前から動いていたこと です。いまではどの美術館もこぞって、「カニエを呼ぼう。あなたの作 品を見せてほしい」と声をかけてきます。ここ 1 年半はずっとそんな感 じです。ですがマイケルと知り合った頃、私はまだ世間的にはほぼ無 名の存在でした。 彼は当時開催されていた「 West by Midwest 」展で、アメリカの中 西部から西海岸に移り住んだアーティストの作品を案内してくれまし た。デイヴィッド・ハモンズ、スターリング・ルビー、そしてルビーの妻で もあるメラニー・シフ。そして彼女が、かつてカート・コバーンがレコー ディングに使ったとされるミネアポリスのホテルの一室で撮影した作 品を見ながら、マイケルはこう言ったんです。「シアトル美術館にいた 121
ときはニルヴァーナの展覧会をしたよ」と。私はその図録に興味を惹 かれました。アートの視点からニルヴァーナを考えてみたかったんです。 偉ぶった芸術よりも、そういうもののほうに興味があるんです。 サミール 同感です。ヴァン・ゴッホに関する本は数百とありますから。 ヴァージル いま滞在しているホテルにも 1 冊ありました。でも 30 ペー ジに書いてある内容も、最終章でなにが語られるかも、すでに知ってま すからね。 サミール おもしろいですね。以前であればホテルにはギデオン協会の 聖書が置かれていたわけですが、いまではゴッホの本がその位置を占 めているという。 ヴァージル 私が大学から盗んだ本は見せましたっけ? ファンズワー ス邸を図面で解説した『 GA 』。それから、建築史の青い本[スピロ・コス トフ『建築全史』]。 サミール 写真で見ましたよ。マイケルは美術館が抱えている問題、 つまり若者を呼び込むことの困難を理解しながら、かれらと親和性の ある新しいテーマを探していたわけですね。興味ぶかいのは彼が LV の ディレクター就任前からあなたのポテンシャルを見抜いていたことです。 レム・コールハース 彼はどうやってきみを見つけたの? ヴァージル 社交やディナーパーティとは無縁の、ごく普通の出会いで した。美術館からメールが送られてきたんです。アシスタントは講義の 依頼だと思っていました。マイケルははじめ、私がシカゴ出身の建築 家で、イリノイ工科大学で学んだという経歴に興味をもったようです。 美術館という競争の激しいコミュニティにいた彼は、新しいことをやっ 建築のあとで 122
ている人物をつねに探していました。そして彼はこう考えたんです。「建 築から派生して、さまざまな分野にまたがる 物 ストーリー 語 を生み出している若 者が目と鼻の先にいる」と。 レム それが彼の仮説だったということですか? ヴァージル ええ、最初の仮説です。最終的な仮説は、次のようなもの でした。「新しいアンディ・ウォーホルは芸術家然としていないのでは ないか」。彼曰く、アート界には「次世代の天才はきっとスタジオ 54 で 遊び、シルクスクリーンを刷っていた頃のウォーホルのような見た目の 人物に違いない」という暗黙の了解があったそうです。 ここで強調しておきたいのは、私たち 3 人が協働した成果がいまこ こに展示されているということです。資金調達やアイデアを具現化す るために必要だった個々の職能は言うまでもありません。ですが、なに より重要なのは、「アーティスト」のためにある美術館という空間で、3 人の建築家が作品を展示していることです。「建築とはなにか?」「アー トとはなにか?」という問いに一般の人びとが触れる機会や場所は今 後も増えていくでしょう。今回の展示では、そうしたテーマも扱ってい ます。 この展示がもつ感性の根っこにあるのは、未来の建築家や未来のアー ティストは私たちが期待するような姿をしていない、という考えです。 というのも、欧米の外に目を向けるからこそ打ち破られる壁があるか らです。 レム 年表のアフリカに関する部分の詳細が省かれ、曖昧になってい るのが気になりました。 123
ヴァージル おっしゃるとおりです。そこがおもしろい点でもある。こ のイメージ(図 1 )はそこから来ています。私はこの写真に写っている 少年のような存在でした。地元で、私はアフリカ人同然だったんです。 船着場で海上輸送の仕事をしていた父は、ある日、その貨物の送り先 であるシカゴに行こうとひらめきました。意志は固く、父は私の母を 連れてシカゴに渡り、私にこのような人生を与えてくれました。ですが、 私がガーナのダイナミズムを目にしたのは、10 代後半で帰郷するよう になってからでした。通りを見下ろし、雨ざらしの貧困街を歩いてい ると、これこそが自分なんだと悟りました。 レム ガーナにはどれくらい帰ったんですか? ヴァージル 6 回です。 レム じゃあ、10 代の頃に。1 年おきにガーナへ帰っていた。 ヴァージル そのとおりです。いつもガーナのアクラにある村に。両親 の生家はいまでも残っています。ですから、ガーナに行ったのは私が「ア メリカ化」したあとなんです。90 年代、ティーンエイジャー、スケート ボード 。私は[アフリカ系アメリカ人ではなく]ただ 黒 ブラック 人 であることを アイデンティティにしたいんです。展示に人種が関係してくるのはその ためです。私の肌の色や民族性に関する認識は、両親が家のなかで話 すアフリカ言語を介してのみ形成されていました。外では英語を学び、 アメリカ人のティーンエイジャーになろうとしていたんです。旅行をす るようになったのは、建築と出会ってからでした。以降、私はどこか特 定のローカルではなく、グローバルな視点をもつようになりました。で すから、ア ブラック・アメリカン メリカの黒人 であることはアイデンティティのひとつにすぎ 建築のあとで 124
図 1_ ガーナの首都アクラの街頭風景。Photo by Ulrich Doering / Alamy Stock Photo.

ないんです。私はもともと、アーバンカルチャーやラップ音楽につなが りを見いだしていました。ですが、建築や旅行というダイナミズムを通 して視野が広がり、アメリカのティーンエイジャーとは異なる自分を発 見したんです。この視点はのちに、作品にも反映されていきます。 アート界やデザイン界の掟を知り、模範とされるような過去のアー ティストや建築家を学んでいくうちに、ある種、破壊的になる必要があ るとわかってきました。アフリカ系のアーティストがどういうものなの か、黒人のアーティストがどういうものなのかというメッセージを作品 に埋め込む必要がある、と。固 ステレオタイプ 定観念 というのはたしかにあって、それ は同世代の振る舞いにも顕著です。自分のアイデンティティを求めす ぎると、耳と目が閉じてしまうことになりかねません。ですから、つま りこの展覧会は、自分のオリジンとここにたどり着くまでの道のりを 確かめる物語の最終章なんです。今後はもっとアフリカとそのほかの 世界を線でつなぐような仕事をするつもりです。いまならそこに関わ るだけの資格があると思うんです。 レム きみはアフリカ系アメリカ人だと自認しているんでしょうか? それともアフリカン? ヴァージル アフリカンです。両親からしてそうなんですよ。10 代の頃、 アフリカで同年代の連中と遊んでいると、かれらは「アメリカの道が金 で舗装されてるってほんとうか?」と尋ねてきました。だれかが比喩で 言ったんだろうと母は語っていましたが、かれらは文字どおりに信じ ていたんです。 レム 最後にガーナに行ったのは? 建築のあとで 126
ヴァージル 2006 年です。その頃グローバル・コミュニティの人たち は いまはもういませんが 毎年クリスマスから新年にかけてア フリカに押しかけていました。そのタイミングで、私に関する話題が村 から村へと伝わり、両親や家族の耳に届くんです。おたくの息子はい まやルイ・ヴィトンのトップだとか、海 ブートレグ 賊版 というものすごい流行を生 み出しているとか、オフ‒ホワイトを経営して八面六臂の活躍をしてい る、と 。ルイ・ヴィトンやプラダ、グッチと違い、ひとりのアフリカ ンによって創設されたオフ‒ホワイトがイタリアやアメリカを拠点にし、 世界的な広がりを見せている。それはアフリカンが歌手やバスケット ボール選手以外の者になれるというメッセージになっているんです。私 はそんなデザインの世界から来たのです。 サミール そのことによって、ご両親はガーナに帰りやすくなったので しょうか。それとも帰りづらくなった? ヴァージル そこにはまた別の力関係が働いています。有名な歌手と して帰国したら大歓迎されるでしょうが、それとはまったく事情が違 いますから。若者なりのしかたでこの文化を表現しようと思ったら、 ちょっと複雑なんですよ。いまはインターネットがあって、差別の定義 も変わってきていますから。それらについて、とやかく言うことはしま せん。しかし、いまの建築家やアーティストやデザイナーはどんな姿を しているでしょうか。その人がアフリカ系だったら、どんな姿をしてい るでしょう? レム アフリカ系の建築家で何人か有名な人はいますね。デイヴィッ ド・アジャイやフランシス・ケレは知ってますか? 127