Outdoor Japan TRAVELER - Issue 48 - Summer 2013

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Kitakama

“Go down the Bimbozawa gully and cut left up the river to the Kitakama couloir. Careful on the Bimbozawa; it might be frozen this early in the morning. Follow the Kitakama col up to where it forks and make sure you take the right-hand fork. The left is a death trap, people have died in there,” he warns. 「貧乏沢を䞋り、北鎌沢の巊を登る。 貧乏沢は泚意したほうがいい、早朝は凍っおいるからね。 北鎌コルで支流がふた぀に別れるから右手を行くんだ。 巊には死の眠が埅ち受けおいる。そこで倚くの人が死んでいる」 ず圌は泚意しおくれた。

は雪が混じり、鋭い金属片のように感じられた。悪倩 候のために私は登山の䞭止を宣蚀しようずしたが、山 小屋の䞻人は倧䞈倫だず蚀った。倩気図によれば、こ れからの日間は晎倩が続くずいう。だからこの悪倩 候は長くは続かない。圌にお瀌をいうず私は貧乏沢の 入り口を瀺す切り蟌みの入った暙識に向かった。この 枓谷はその名のずおりで䞊郚には這束が矀生し、そこ からは750メヌトルの断厖ずなっおいた。厖の底郚は 也燥しおいるが、その䞊郚からは硫黄の滝が噎出しお いた。急峻で滑りやすい斜面にクラむミング甚のロヌ プが垂れ䞋がっおいたが、私は自分のロヌプしか䜿わ 圌はほかの山小屋によくいる偏屈な䞻人ずは異な

なかった。その結果、川にたどり着くたでに2時間も

り、芪しげな笑顔ずリラックスした空気を醞し出しお

費やし疲劎だけでなく軜傷も負っおしたい、凍お぀く

いた。 「あなたは装備もしっかりしおいるし、䜓力も

ような氎で傷を掗い流すたでに、倪叀の痕跡のような

あるようだね。わたしは毎幎ここで北鎌に向かう人の

血染めの指王を岩肌ぞ぀けるこずになっおしたった。

幎埌、私は䞭房枩泉から急峻な森を抜けお燕山荘

装備をチェックするのだが、北鎌をハむキングかなに

北鎌のコルぞ向かう私の気持ちのように䞊空の雲

ぞず向かった。奜倩により山は週末を利甚した

かだず勘違いしおいる人が少なからずいる。出盎すよ

はすばやく移動しおいた。

登山客でにぎわっおいた。圌らは槍ヶ岳で日の出を拝

うに勧めお、その意芋に埓う人もいるがそうじゃない

氎をボトルに詰める予定の川の分岐たではそれほ

み、䞋山䞭であった。ここがアルプスの銀座ずも呌ば

人もいる。そういう人は半分も登らないうちに悲惚な

ど時間はかからなかった。だがそこから槍ヶ岳の山小

れおいるのも過蚀ではない。

状況にあうんだ、戻っおこない人もいお、あずから新

屋たで氎を補絊できるずころはない。3リットルの氎

正午には、皜線の䞊にたどり着くこずができた。倩

聞でそのこずを知るんだよ。さお今倜はどこぞ」。

を詰めたが、それでは十分ずは蚀えなかった。

候はよいが、枓谷から吹き抜ける北颚は冷たい。私は

私は、ツェルトを匵れる堎所がないかず聞いた。

小さな枓谷を右手に芋お登る。この蟺りでは家ほ

ゞャケットを重ねお、今倜の目的地である倧倩井岳の

「この谷には熊がいお、この季節は腹を空かせおい

どもある倧岩が私の行くさきを阻む。そのために私

山小屋を目指した。

るんだよ」。

はザックを䞋ろしおその倧岩を越えなければならな

槍ヶ岳の北鎌尟根偎は、そのルヌトを遞んだ者たち

子どもだたしのようなセリフのようにも聞こえた

かった。これは非垞に劎力を必芁ずした。たしおや、

が愚行を悟るたでは、い぀も雲に芆われおいるずい

が、䞻人によるず今倜はだれも小屋に泊たらないから

あの貧乏沢で䜓力を䜿い果たしたあずだったからな

う。だが私は、その日䞀瞬だけだが北鎌尟根を芋るこ

䞀泊1,000円でいいずいう。 「食事は自分で䜜っおくれ、

おさらだし、しかもザックを匕っぱり䞊げなくおはな

ずができた。それは別のルヌトずはかけ離れた光景で

わたしの分たで䜜っおくれれば歓迎だけどね」ず圌は

らない。

あった。たるで砕けた黒い歯のような陰鬱な山頂、䞭

蚀った。

目的地のコルは芖界に捉えおいるものの近づいお

指を空に向かっお突き立おたような挑戊的な岩、呚囲

最近は倖囜人の登山者が倚く、䞻人は浄化槜トむレ

くる気配はたったくない。圧倒的な岩壁は開かれ、そ

の山々はたるで萎瞮しおしたっおいるかのように芋

の䜿甚方法の説明に困っおいた。しかしやっず英語に

こに平らなスロヌプがありコルぞず続いおいる。日を

えた。北壁の厳しさが北鎌尟根には存圚した。だがそ

よる䜿甚方法がトむレに貌られたそうだ。

济びた暖かい岩はこの蟺ぎな枓谷の景色を眺める特

の凄惚なむメヌゞが私の脳裏に焌き぀くや吊や、北鎌

次の朝、䞻人ず私は日の出を拝むために牛銖の山

等垭だ。だが山の圱が長い指のように急速にこの日な

尟根はふたたび深い雲に芆われおしたった。私は螵を

頂に登った。円盀のような光が、青ざめた地平線に映

たに忍び寄り、䞀日の半分がもう過ぎおしたったこず

返し、颚の吹きすさぶ尟根を぀たい、先を急いだ。

りだしたが、すぐに灰色の雲がそれをかき消しおし

を瀺しおいた。尟根にたどり着く数メヌトル手前のず

その山小屋は倧倩井岳ず牛銖のあいだのコルに

たった。

ころでザックを担いだずき、ふず気づくず穏やかな茪

あった。私のガむドブックによれば、すばらしい槍ヶ

「あそこだ」ず䞻人は北鎌のルヌトを指し瀺した。

郭の鷲矜岳ずその北偎に氎晶岳の姿が広がった。私た

岳ず360床の眺望ずある。すでに午埌も遅くなっおい

「貧乏沢を䞋り、北鎌沢の巊を登る。貧乏沢は泚意

ちのあいだを隔おおいるものは茶色の砂で刻たれた

たので、私はこの枓谷を䞋り、䞀倜を過ごそうず決

したほうがいい、早朝は凍っおいるからね。北鎌コル

山肌の分氎嶺だけだった。

めた。

で支流がふた぀に別れるから右手を行くんだ。巊には

吹き぀ける颚はさらに冷たく、厖には氷柱があっ

するず山小屋の䞻人が姿をあらわし、私の装具やヘ

死の眠が埅ち受けおいる。そこで倚くの人が死んでい

た。積雪が蟺りに点圚し、その先にモダンアヌトのよ

ルメットそしおロヌプをちらりず芋お蚀った。 「キタ

る」ず圌は泚意しおくれた。

うにロヌプが垂れ䞋がっおいるずころがあった。私

カマ」。私は頷いた。

黒い雲が北から迫っおきた。私たちに吹き぀ける颚

はその末端を぀かみクリップし、䜕床かショックを

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